3.11以後の日本

混迷する日本のゆくえを多面的に考える

生活保護の矛盾ー受給者208万人時代における不正受給

2012-05-27 09:32:55 | 現代社会論
芸能人の生活保護の不正受給をめぐって、にわかに生活保護制度が脚光を浴びている。


高額な収入が息子にありながら、母親が生活保護を受給しつづけていたという週刊誌の記事に社会が反応した。

そもそも生活保護の受給者が208万人を超え、それは昭和27年の水準であることはすでにこのブログでも述べた。
見えない貧困の姿、潜在化する貧困は把握しがたい。
生活保護を知らず、餓死してしまうものもいる。
また、請求してもきびしく跳ね除けられるような窓口対応に辟易し、死んでも生活保護なんかもらうものか、もう二度と福祉事務所の敷居はまたぐまいと決心するひともいるだろう。

反対にだまっていればわからない、もらわなきゃそんそん、というような不届きなやからもいるのだろう。

必要なところにとどかない生活保護、補足率10%程度ともいわれている。
矛盾に満ちた制度、生活保護制度。

今回の芸能人の不正受給の問題で、この制度に光があたることは大変良いと思う。
もしかしたら、社会保障と税の一体改革で生活保護にどうしてもメスをいれなければと考えている政府の回し者が、女性セブンに芸能人の記事を書かせたのかと勘ぐりたくなるようなグッドタイミングである。

福祉事務所は地域ごとに窓口対応が異なり、全国一律といいながらけっこう違いがある。
また、暴力団勢力などが強いところでは、不正がまかり通ることもある。窓口の職員だって命が惜しいので、自分のお金ではないし、支給してしまってもだれも困らないしと思うこともありそうだ。
ちょっとまえにさいたま市だったか、警察官が常駐する福祉事務所が窓口があったが、けっこう良い手かとも思う。

ずいぶん前に、福祉事務所のワーカーと話す機会があった。そのとき、窓口の職員は次のように話した。

いつも怖い体験をしていますよ。窓口に日本刀なんかちらつかせて生活保護だせと脅される。危ないから警察に電話するんですが、警察だってこわいからすぐにこないんですよ。目の前が警察署なんですがね。警察だってこわいんでしょうね。刺されてもしょうがないとおもって対応するしかないんです。

福祉事務所のワーカーは本当に気の毒である。沢山のケースを担当しなければならず、年に1-2回訪問調査することになっているが、丹念に調査する時間も労力もかけられない。
公務員削減の煽りは、結局こういうところにでる。
だから、収入のある息子が実はいるとか、実は、生活費を支援してくれる恋人がいるとか、そういうことがあってもわからない。地域住民の「タレコミ」がいちばんかもしれない。

扶養義務者との関係も何十年も音信不通だったら扶養義務を課すことはないのだが、音信不通ということにして実は送金あり、扶養能力があるにもかかわらずほっかむり、ということも今回の芸能人のケースをみれば明らかで、この扶養義務者との関係はとても見えにくい。
逆に、いるのにいないといっているような嘘がいえるから不正受給が可能で、そういうことが言えない人は、ひとり静かに都会の片隅で孤独死するのだろう。


アメリカで、生活保護への締め付けが厳しくなったときに、福祉事務所のワーカーが母子家庭に突然、夜明けにベッドルームを突撃訪問して、そこに男がいたら、その日から生保打ち切りというような、かなりプラバシーをおかすような調査が行われていたということを聞いたことがある。そこまでするかどうかわからないが、とにかく、生活保護は生活費という生存に関わる問題であるので市民の関心も高いので、慎重かつ公平に対応しなければならない。
とてもデリケートなのである。


支給額の問題もある。
生活保護額は憲法25条生存権保障にもとづいて、支給額が決定されている。最低生活費にかんする研究はイギリスをはじめとして我が国にも膨大にあるが、けっして科学的根拠に基づかない額ではない。
しかし、高齢者の国民年金とのギャップを考えるとこの支給額も再検討せざるを得ないだろう。


この問題をとりあげている「掲示板」をちょっと覗いてみると、「近くに住む女が、生活保護をもらっているくせに、実は男がいて、一日中ゲームして遊んでいる。なんとかならないのか」「生活保護もらってその日に競馬で全部すった奴がいるが、どうなんだ」というような、ものすごい生活保護受給者へのきびしい投書が並んでいて驚く。

右肩上がりの経済成長期だと自分たちの生活が比較的安定していて、明日に希望が持てるので、そういう時には人々は生保に対してもけっこうゆるい。不景気になり、将来の生活の見通しが立たない、となると人々は「努力しないで」生活費を支給されている生活保護受給者へのまなざしはきびしくなる。ましてや収入があるのにそれを隠して受給していたなんてことになるとこれは許し難い、はげしいバッシングとなる。


おわらい芸人の生保不正受給で、似たようなケースの世帯は震え上がっているだろう。辞退、返還、告訴などを繰り返し報道することで、フリーライダーを抑制する意図がないわけではないだろうし、ある程度、功を奏するだろう。

性善説にたつ福祉制度、でも、それは、右肩上がりの経済成長の時代なら成り立ったのだろうが、今はそれは通用しないのではないか。
生保の適正化、不正受給をまず厳しくとりしまる必要があるだろう。それは犯罪であることを国民に知らせるためには良い機会である。

私個人は生保は生存権保障の切り札だとおもっているし、この制度をよりよく成熟したものにしたほうがよいと思っているので、けっして単純に選別主義をとなえるわけではない。しかし、あまりの最近の一般市民のモラルの逸脱はひどく、一回はうみをだしたほうがいいと考えるのである。国民年金料の未納率の高さもひどい。これもフリーライダーの予備軍、否、そのものであるので、今から厳しく納入をさせる政策を取る方がよい。将来、大量の生活保護層を生み出さないためにも、今、それをしなければ日本の未来はないだろう。

年金、生活保護、ここにメスを深く入れない限り税との一体改革はありえない。




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