東京演劇アンサンブルの伊藤克さんには、拙作『沖縄ミルクプラントの最后』最近の上演にも、出ていただいている。
東京演劇アンサンブル 2017年の公演で、演出は松下重人。劇作家としては、別な劇団で上演していただけるのはありがたい。
二十年を超える御縁の沖縄の得がたい友・宮城康博は、じつは若き日、この劇団に在籍していたことがあって、この公演にはものすごいタイムラグを経て、方言指導で、来てくださった。いま彼は議員になってしまったので、もうああいう時間は持ちにくいだろう。というか、よく引き受けて下さった。本当に信じがたい僥倖である。
そして、伊藤克さんの存在感、重厚さは、この上演を、根底から高めて下さった。沖縄ミルクプラントの「冷凍庫の番人」役。夢幻能の人物のようであり、リアルな生活者でもある。人間なのか亡霊なのか、超越した何かが必要な役だったのである。本当に凄まじい説得力があった。
沖縄のキャンプ・キンザーにあった実在の〈沖縄ミルクプラント〉が閉鎖されてもう四半世紀だが、ここのことを念入りに取材したのは、当時、写真家の石川真生さんと私を含めて、ごく僅かな人たちだったと思う。私は当事者の皆さんにインタビューをさせていただき、大叔父にあたる元沖縄全軍労書記長だった瀬長和夫から膨大な資料を得て、ほんとうに、おそらく、その時にそうしなければ出来ない仕事を、させていただいた。
『沖縄ミルクプラントの最后』を燐光群で初演してからもう二十年を超えた。その初演はそれほど多くの人に観ていただけなかったにもかかわらず、高評をいただいた。その年の読売演劇大賞の作品賞で、次点だった。戯曲は〈ハヤカワ演劇文庫〉で出版されているので、読んでいただける。(http://rinkogun.com/Yoji_Sakate/entori/2010/4/8_Umino.html)
ここ数日間、再演版の伊藤克さんを思い起こすにつけ、私は出会いに恵まれているのだということを忘れてはならないのだと、自戒している。
あの役と伊藤さんが出会ったということ、宮城康博と伊藤さんの再会も含めて、奇跡のような巡り合わせである。
その時の気分に流されて、自分は一人ぼっちだなどと、孤独に溺れてはいけないのだ。