サ カ タ の ブ ロ グ 

やぁ、みんな。サカタだよ。

単四アルカリ電池

2020年04月29日 | サカタだよ

スタジオなどで撮影があると、お客さんやスタッフの飲み物や食べ物を用意しておくのが

編集者の主な仕事です。人数分のエヴィアンとか、おにぎり、サンドウィッチ、おせんに

キャラメル……世の移り変わりと共に姿を消していく、列車の車内販売と編集者はどこか

似ています。どちらが先にいなくなるでしょうか。そんなことを思いながら、取材に使う

レコーダーの電池が切れるといけないので、ついでに買っておきます。

食べ物や飲み物と一緒に単四アルカリ乾電池を2本、買い物カゴに入れてレジに向かうと、

なんだか電池まで食べ物か飲み物のような気がしてきます。お客さんやスタッフが水とか

おにぎり、サンドウィッチ……などを適宜、補給しながらじゃないと活動できないように、

編集担当のぼくも電池がないと活動できない。切れたら交換しなきゃ。

電池で動いてることが人にバレると都合がよくないので、レジ袋からポケットに移します。

これで元気がなくなったり、やる気がなくなっても電池交換がすぐできます。よかったら、

お水いかがですか? なんて人にすすめながら、内心ぼくは大丈夫。いざとなったら電池

いつでも交換できますから、なんて心の中でつぶやきます。食べ物や飲み物に興味がなく

ドラッグを隠し持ってる業界人の気持ちが少しわかります。

いつものように、やる気がなくなってきました。どうやら電池切れです。元気のない声で、

トイレ……と言い残して個室にこもり、震える手で乾電池のパッケージを破り捨てようと

して床に落とし、慌てて拾います。いつのまにか汗びっしょりです。単四アルカリ電池は

身体のどこに入れるんだっけ? おなか? せなか? 人間そっくりに作られたボディの

継ぎ目を探すうち、5分、10分と時間が過ぎていきます。

早く戻らないと、早く戻らないとトイレにこもって注射を打っていると誤解されてしまう。

それだけならば、まだいいけれど、このまま電池が切れて活動停止の状態で発見されたら、

人間の皮をかぶった人工物であることがバレてしまう。そうなる前に単四アルカリ乾電池

セットする場所を見つけなきゃと、レジ前で腹や胸や尻をまさぐっていたら、店員さんが

お会計2,015円になります! と明るく告げるので、そうだった。撮影これからだったって

思い出し、現実に戻ってスタジオに向かう……だいたい毎度こんな感じです。

 

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要請自粛

2020年04月25日 | サカタだよ

ペストで封鎖される都市に、兆候としてネズミの死体が増えるのと同じことだったかもしせません。

初めのうち、それが深刻な事態につながると予測する人は多くありませんでした。眉をひそめる人、

好奇の目で見る人……そもそも「自粛」を「要請」するという言語破壊は2月末に始まりましたが、

矛盾しているだけに3月20日、21日、22日の三連休には「瀬戸際の2週間も過ぎたみたいだから」

と花盛りの桜を見物に出歩く人がふえ、東京2020オリンピック・パラリンピックの今年7月開催が

24日(火)に泡と消えた途端ペストのような首相や都知事の「要請」が急速に強まりました。

それでも3月末の時点では土日だけでした。ところが3月29日(土)に志村けんがコロナで死んだ

ことが週明けにわかると、ペストのような「要請」がますます強まり、ネズミの死体のような紙が

そこらじゅうに転がり始めたのです。

とはいえ4月7日(火)に緊急事態宣言が7都府県に出されるまでは、営業を見合わせる飲食店の

ほうがむしろ少数派で、営業時間を短縮したり臨時休業したりテイクアウトのみの営業にする店に

珍しさを感じて、ネズミの死体の数を数えるようにスマホで写真を撮り歩いたものです。

休日に行くところがないから展望台にでも上がって時間つぶそうと思ったら、とうの昔に臨時休業

していて大層つまらない思いをしたり……

短縮営業のカレーショップの前を通りかかったら、マスクをしながら接客するとは何ごとだ! と

以前どやされたことのある(っぽい)店長が、今度はマスクしないで接客するとは何ごとだ! と

どやされたらしく、真逆のメッセージを自動ドアに貼りつけていました。アホノマスクが全世帯に

466億円かけて送りつけられることが決まるずっと前のことです。

三密(=集・近・閉、習近平と覚える)を避けるために居酒屋などへ行くべからずという「要請」

が出ましたが、行ってみるとお客さんがいないので感染リスクは同じ時間帯に通勤電車で帰るより

明らかに低かったことを覚えています。

それでも飲食店での打ち合わせを控えるようにと、会社から指示が出たもんだから、しかたなく

4月3日(金)には美人トレーナーさん、美人ライターさんと社員食堂で打ち合わせをしました。

その日のうちに会社から別の指示が出て、社外の人がマガジンハウスに入館できなくなったので、

もう社員食堂にお客さんを案内することもできなくなりました。

追い打ちをかけるように4月7日(火)に緊急事態宣言が出されて、5月6日までデパートも

飲食店も軒並み臨時休業に入ります。ペストの猛威で状況が逆転し、営業するところのほうが

少数派になりました。しかし主要なデパートの社長らは西村コロナ担当相から呼びつけられて、

「勝手なことをしてくれた」と叱りつけられたそうです。おかしな話です。

コンビニのイートインスペースも緊急事態宣言が出たら閉鎖されてしまいました。そのあと雑誌で

コンビニのイートインを特集してるのを見かけましたが、まったく使い物にならない内容でした。

そういえばお店取材のページなんかも役に立ちませんね。

なぜか通勤は制限されることがなく、効果があるのかないのかよくわからない窓開けを奨励する

ポスターなんかが駅に貼られました。しばらくして、効果がないと思ったのでしょうか。通勤客

を7割から8割減らせと後出しの号令がかかるようになりましたが、具体的な方策なり補償なり

示されるわけではなく、ほぼパワハラでした。

撮影の前におにぎりやパンを買いに行くことが多かった店も、臨時休業に入ってしまったので不便

でしかたありません。

パッタリお客さんが来なくなった酒場では、夜のお弁当を400円で販売しはじめたようです。ん?

400円? それはあまりにも安いのではないだろうか。生き残るための苦肉の策に違いありません。

そうこうするうちに社内で新型コロナウイルス感染者が出て、4月10日(金)から職場に出入りが

できなくなりました。少なくとも保健所がきて消毒するまでは自宅作業ということになりました。

消毒を待ちながらリモートワークせざるをえません。

つぶれる店も当然、出てきます。そんな張り紙を見て回るのが最近の趣味なんですが、この店は

コロナでつぶれたかと思いきや、隣の店の火事のせいで営業を続けることができなくなったとか。

火事ではコロナ休業の補償が出ないのかもしれず、気の毒でなりません。

2月末に移転して3月末に営業を再開する予定だった昭和歌謡酒場は一体どうなったんだろうかと

気にしていましたが、このどさくさでオープンすることができないようです。コロナで店を閉めた

わけじゃないので例の補償が得られないかもしれず、心配です。

職場の消毒はどうなったんだろう? と連絡を待ち遠しく思いながら家でコロナビールを飲んで

待機していると、保健所のほうもコロナ騒ぎで忙しいせいか手が回らず、消毒しなくても大丈夫

とか言い出したようです。そんなことで大丈夫なんだろうか。最低限、伝票を処理したり発送の

手配をしたり、なにをあれしたり出勤しないとできない作業だけ編集部で行い、非常事態宣言が

解けるまで原則リモートワークを続ける所存です。しかし、解けるんだろうか?

会社の近くの酒場も閑古鳥が鳴いて、昼にカレーを出すようになりました。夜に営業できない

店が昼にカレーやる例が最近にわかに増えました。あと、おでん。過当競争です。

なるべく編集部には立ち寄らないようにしてるけど、取材があればどこへでも出かけて行きます。

先日こんな、意味があるとは思えない立て看板を見かけました。日本中、冷静じゃなくなっていて

そこらじゅうネズミの死体だらけのようです。ペストはどんな「要請」をしてくるか、5月6日の

先が思いやられます。

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施設使用料?

2020年04月22日 | サカタだよ

日本いつのまにか日本じゃなくなってる? そう感じる頻度がこの2020年ぐんと増えました。

大きな変化はおそらく1970年ごろ、伝統との断絶という形でこの国じゅうを襲いましたけど、

それから50年たった2020年すべてが金目になるという非常事態があたりまえの顔しはじめて、

こんなの日本じゃない……と、つぶやきたくなります。

卑近なところで最近、アスリートの練習を撮影してインタビューする連載でとある一流選手の

アポを取ったら、マネージメント事務所がその選手の所属チームの練習場で撮影できるように

するから、1時間2万円の施設使用料をチームに払えるかと尋ねてきました。これは前代未聞

です。所属チームの練習場で所属選手が練習するところを撮影して施設使用料を求められる?

なにそれ……。

ボッタクリかなと思いました。タレントが歌を出すときレコード会社でプロモーション活動の

一環として取材を受けて、会議室なり応接室なりの施設使用料をレコード会社に1時間2万円

払えるかと尋ねてくるようなものです。たとえが却ってわかりにくい? タレントと選手では

そもそも立場が違いますが、選手の練習場で撮影するのに金品を求められたことは編集者生活

25年いちどもありません。

「先に提示してあるギャラとは別に、その施設使用料あんたが懐に収めるつもりか?」なんて、

ストレートに聞けるわけないので婉曲に「領収証をいただけるようなら当日現金払いしますが、

もし後日でよければ請求書をお送りください」といってみた。どっちでも構わないんだけれど、

払った証拠を残さないと安倍晋三後援会主催の「桜を見る会」前夜祭のように個々人が施設側と

直に契約したとか、契約じゃなくて合意だとか、領収証も名簿もないと嘘つかれたら嫌だから。

そのあと「何時間ぐらい練習すればいいですか?」と尋ねてきた。

それは順序がアベコベで選手の練習が2時間なら2時間、3時間なら3時間、やらせではなく

見届けないとインタビューする意味がない。しかし演出で練習してみせる選手がいないわけじゃ

ないから、施設使用料を1時間ごとに2万円とるなら競技練習のいいところだけ1時間ほど撮影

するのが現実的かもしれないと答えると、驚いたことに練習30分インタビュー30分と刻んできた。

インタビューの時間も施設使用料に加算するとは一体どこまで金目なんだろう。

疑心暗鬼になりかけたところで、当日とっ払いか後日の請求か返答があり、施設側から後日請求

ということに一応なりました。こういうとき、昭和から平成バブル崩壊後しばらくの間であれば

「後日請求としましたが杓子定規なウチの社員がおかしな理屈をこねまして申し訳ありません。

チーム所属選手の取材ですから施設使用料は結構です」ってなることも珍しくないと思いますが、

今回どうかなー? 本当に請求が来ちゃうかなー? このブログ書いてるのは2月6日(木)で

更新は4月22日(水)の予定だから2か月あまり猶予があるわけです。請求が来たかどうかは、

この下にグリーンの文字で書いておきますね。

 

2月22日現在、まだ施設使用料の請求は来ていません。ギャラの請求はすぐ来ました。

マネージメントと施設は経理が別らしいから、まだ油断できません。(来たら払うけど)

 

3月22日現在、まだ請求は来ていません。このまま年度末(3月末)を迎えたなら、

ひょっとして施設使用料の請求は行われないのかも・・・??

 

4月22日現在、まだ請求は来ない。年度も改まったし、新型コロナウイルスの感染拡大で

それどころじゃない空気だし、こりゃもうないかな?

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些細なこと

2020年04月15日 | サカタだよ

取材や撮影であっちこっち行くのが好きなんですね。毎日のように編集部にいくのが億劫なのは

どこか他のところへ出かけて些細なことに感興をおぼえたい。ただそれだけなのかもしれません。

その場かぎりで忘れてしまうようなこと。ある日スタジオにいくと20年以上ずっと変わらなかった

コーヒーのカップが三角錐の白いプラスチックから紙コップに変わっていました。たぶんコストが

いくらか安いんでしょうね。それとも環境に配慮したのか……しかし紙パルプだって無尽蔵にある

わけじゃないから、森林破壊のことを想像するとプラスチックより環境に悪いかもしれません……

プラスチックそのまんま海に流したりしなければ。

取材や撮影に出向いたところで些細なことや、余計なことを気にしていると生きている実感がわく。

決まりきったことをしてると飽きるんですね。取手と牛久の間の佐貫という駅からバスで20分ほど

のところにある流通経済大学まで、生まれて初めていったとき、佐貫駅前に横断幕が張られていて、

「祝・龍ヶ崎市駅に駅名改称」みたいなことが記されていました。初めて降り立った土地の名前が

もうすぐ変わってしまう……まだ、ちゃんと覚えてないのに今度くるとき違う駅名に変わっている

と思うと、どんどん地上から居場所がなくなるような切なさを感じます。取材や撮影をしながらも

そのことがずっと頭にあると、聞いた話がなぜか記憶によく残るから不思議です。

深川スポーツセンターというところに生まれて初めていったとき、門前仲町から5分かそこら歩いて

ライターさん・カメラマンさんと現地集合し、仕事を終えるとカメラマンさんは門前仲町のほうへ。

ぼくとライターさんは月島まで歩いて有楽町線で編集部に戻ることにしました。月島の駅の前には、

たかさごという有名な肉屋さんがあり、ローストビーフや焼き豚などがおいしいと評判です。数年前

ロケで通りかかったときは行列ができていたし、ロケ中で買えなかったけど今は編集部に戻るだけ。

「買っちゃう?」

「買っちゃいましょうか!」

素通りしかけた店に戻り、ぼくはローストビーフの薄切りを何枚か、ライターさんは焼き豚を十数枚、

晩酌のおともに買いました。最寄り駅から編集部に向かう途中、行列のできるラーメン屋さんがあり、

いくらおいしくても並んでまで入りたくないと見解が一致。しばらくして、

「焼き豚のほうが絶対おいしいと思いますよ」

と、行列のできるラーメンより自分たちの買った肉のほうがおいしい的なフォローをぼくが入れると、

ライターさんはギョッとした顔で

「どうして?」

と聞きます。なんだろうこのリアクション……食べられないラーメンより食べられる肉のほうがいい

と見解が一致するかと思ったのに、ラーメンのほうがいいのかな? と考えてたら、ライターさんが

「だから焼き豚も買ったほうがいいんじゃない? って聞いたのに」

「ああっ、そうじゃなくてラーメンより肉がいいっていったんです」

「何だ、ローストビーフより焼き豚がいいっていったのかと思った」

「それだと急に『焼き豚をよこせ!』と迫るみたいで怖いですよね」

「オレの焼き豚を差し出さなきゃいけないかと思うと恐怖だね……」

「ぼくはローストビーフのほうがいいから焼き豚に手は出しません」

その夜ビール飲みながら食べたローストビーフは素敵においしくて、「焼き豚のほうが絶対おいしい

と思いますよ」と歩きながら突如いいだした編集者に焼き豚を狙われていると感じたライターさんの

胸中を想像すると、こういう些細なサスペンスが面白いんだよなあと、ビールが進みました。

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ビールのおつまみ

2020年04月08日 | サカタだよ

そりゃドイツのもんですからソーセージやじゃがいもは合うに決まってるんですが、

ワイン飲む人が食事とのマリアージュ(結婚)という表現を使うような相乗効果が、

ソーセージやじゃがいもとビールの間に生まれてるわけじゃないですよね。そこで、

ドイツ人が何をつまみにビール飲むのか「ビール純粋令」のお膝元であるミュンヘン

のビアホールでビール飲みながら盗み見すると、意外なことにビール1杯ジョッキで

頼んでおつまみなしで1時間も2時間もかけて飲んでる人々がいるんですよ。それを

見て思いました。ビールはおつまみなしで飲むのが純粋令なのでは? と。

 

ビールに枝豆っていうけど本当にビールに枝豆が合うか首をかしげるといったのは、

漫画家でエッセイストの東海林さだおさんです。枝豆がビールに負けているという

論旨で、負けないおつまみとして東海林さんが太鼓判をおしたものは串カツでした。

それも豚肉だけじゃなく必ずタマネギがはさまってるやつ。タマネギで休みながら

トンカツ部分を食べるからビールがおいしいんだと力説していました。

 

30年ちょっと前にそのエッセイを読んだときは「なるほど」と思いましたが、時代が

昭和から平成へ、平成から令和へと移り変わるにつれて、あれ? なんかちがうかも!

との思いを強くしました。枝豆がビールに負けてるとしたら、串カツはビールに勝ち

すぎてビールが敗北感を味わってるのではないか。マリアージュ(結婚)というより

ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)に近いのではないかと。実際、串カツ

を食べるとビールが進みますが、ドリンクの瞬間カツのインパクトが強すぎてビール

の味などわかりゃしません。炭酸水に等しい。

 

ビールが勝っても、おつまみが勝ってもいけないのです。マリアージュ(結婚)という

からには、夫婦和合が条件です。熟年夫婦のベッドインのように濃厚なマリアージュを

彷彿とさせるおつまみはピータンです。ピータンはビールとよく絡み合いますよ。多少、

発酵臭が漂うのも業の深い情事みたいでやめられません。ビールに合うおつまみの双璧

の一方はピータンで決まりです。西の横綱はピータン関。

 

東の横綱はざるそば関ですね。こちらはあっさりと香り高く、ビールの香りと相まって

爽やかに喉を通ります。絡み合うでも打ち消し合うでもなく、ほのかな相乗効果を生み

新婚さんいらっしゃい。昼下がりビールとざるそばがあれば仕事なんかなくてもいいと

本気で思う今日この頃です。できることなら私はロココの時代のフランスに生を享けて

王妃マリー・アントワネットのように「仕事がなければビールとざるそばを召し上がれ

ばいいじゃない?」と笑いたかった。それができなくて残念です。

 

関連記事:   わたしはマリー

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本当になかった

2020年04月01日 | サカタだよ

バスで山道を走ってると車窓から巨大なラブホが見える……あれは何という愛の城だろう? あの中でどれほど愛が営まれてることだろう? と想像したのは、ぼくの思い過ごしで、そんな愛はなかった。ハウステンボスだった。

 

夜道をふらふら歩いてると煌々とライトアップされたラブホが見える……あれは何という愛の城だろう? あの中でどれほど愛が営まれてることだろう? と想像したのは、ぼくの思い過ごしで、やっぱり愛はなかった。本物のカトリック教会だった。

 

人生の戦いに疲れた魂にとって、港は魅力ある滞在場所だと19世紀の詩人がいったから、魂にリズムと美への嗜好をもたらしてくれるという……帆を複雑に絡ませてそびえる船の形や、それに波が押し寄せて生じる調和ある揺れを眺め渡そうとしてみても、21世紀の港にそれらのものはなかった。
 
 
 
ぼくが初めて飛行機に乗ったときはタバコを機内で吸うことができて、離着陸時だけ我慢すれば灰皿を使い放題だった……いまはシートベルト着用のサインが消えましても禁煙サインが消えないので灰皿がトマソン状態だし、国内便は辛抱できてもヨーロッパ便などニコチン不足で非常にイライラする恐れがあるとはいえ、思えば喫煙する習慣なかった。
 
 
 
真ん中の釈迦を挟んで、向かって左から天上道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道にいる地蔵らしいですが……さて、六道輪廻があれば来世わしは何道かのう? と自問自答しようとしても、たぶんそんな輪廻ないから自答できなかった。

 

よしんば楽器ケースの中に隠れようともプライベートジェットをチャーターする資産がなければ貨物便で運ばれるしか手立てはないか……とプランを立てかけたけど逃亡の必要なかった。

 

こんな時代どこにも出口などないことは承知していても臆面もなく出口を指し示されると何かありそうに思えるのは危険な罠かもしれないと、用心したって何もなかった。

 

ネットが発達した社会では信頼できる情報が企業でも国家でもなく少数の個人から発信されるのみで詭弁と嘘が拡散するありさまを見るとテレパシー能力を多くの人とシェアしてもフェイクが横行するだけだから、こんなテレパシーなかったことにしておこう。

 

東京スカイツリーは展望台まで高速で上がるエレベーターに窓がなくて高度の表示だけ見せられるのがトリックの始まりで、あれは上ではなく下へ移動しながら気圧を下げる装置で錯覚を起こさせ、展望台からの眺めはすべて録画映像が時刻に応じて映されてることを名探偵サカタは1秒で見抜いたけど、ぼくが探偵であることは秘密なので一般のお客さんに真実を告げることはなかった。

 

おもしろいことを考えたり作ったりするのは組織じゃなくて結局のところ個人だと思うから組織のしばりが比較的ゆるそうな環境ばかり選んできたのに思いがけずキツイ目に遭う期間もそりゃ年単位でありました……人生の修行とみなし辛抱したけど残りわずかになってみれば何がいまさら修行だよとしか感じないから、反骨精神むきだしの余生をはげしく生きようと考えるころには、とっくにそんな勢いなかった。(おとなしく無難にやりすごす根性すっかり染みついた)

 

 

パンがなければ麺を食べればいいじゃない! と前世においてロココ時代のおフランスに生まれたわたくしの魂は……現代の日本にどうも合わなくて生きづらいと感じておりましたのですけれど、もうお気づきの紳士淑女もいらっしゃる通り、そんな魂なかった。

 

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