ボヴァリー夫人は私だ……と私も密かに思っているので、心が弱ったときや笑いがほしいときKindleで読み返すことが
よくあります。今年の夏に白馬へ単身赴任(4日間)したとき、夜することがなくて『ボヴァリー夫人』を読んだら、
ルドルフと不倫しそうになってるエマが夫のシャルルに乗馬なんかルドルフとしたら変に思われるし乗馬服がないしと
理由をつけて間男の誘いを断ろうとしたのに、夫が乗馬服を「こさえればいいよ」といったばかりに不倫まっしぐらに
なる箇所があり、やっぱり私だ……と密かに感動しました。こういう読書感想文をもしも書いたら評価が低いことは、
偏差値74の黒い脳味噌が熟知していて当時は差し控えたものです。が、読書の愉しみは人にいえないところにあるので
なるべく自由に共感したい。そう思う28歳の初冬です。少しサバ読みました。
さて、自由に共感できる本を探して書店をうろつきがち(会社に行きたくない気分のときは特にそう)なわたくし
ことボヴァリー夫人の読書傾向は、1)仕事の資料を読む。2)読みたい本を読む。3)著者や版元からの贈呈本
を読む。以上の3本柱に分けられて、1)から順に優先順位が高いので、なかなかプライベートで本を読む贅沢が
許されません。それでもお正月くらい好きな本を読もうと買って読んだのが、『革命とサブカル』です。なんだか
対照的な2つを並べたタイトルみたいですが、読んでみると革命とサブカルは同じ方向を向いて共に歩んでいる!
とガンダムの主力アニメーターが訴えかけているようで、思わずインタビューをしにご自宅まで押しかけてしまい
ました。あーあ、趣味で読んだのに仕事になっちゃった……。
その点、故人の本は安心なところがあります。油断禁物ですが、松本清張の『古代史私注』を古書店で安く手に
入れてゆっくり読むのは仕事を離れた至福の時間でした。読書記録をつけているMM(メディアマーカー)という
ウェブのサービスが今年1月に終了したので、同じようなDM(読書メーター)というサービスに乗り換えました。
それでブログのタイトルが今回「MMからDMへ」という、わかりにくいものになっております。誰得の種明かし。
毎年、師走になると1年で読んだ本をふりかえり、10冊ぐらい印象深い本のことをメモしておきたくなるんです。
そういえば今年、4月までは平成だったんですよね。
平成史評論家、後藤武士さんの『すごい平成史』を読んで、平成10年ごろ流行った「てくてくエンジェル」をつい
買ってしまいました。すぐ逃げられました。進歩してません(持ち主が)。書名は「後藤武士の」と呼び捨てなのに
先ほど「さん」づけしたのは、面識があると何となくそうしてしまいますね。クロワッサンにいるとき、お茶の時間
というコーナーで平成について語っていただき、その縁で本屋さんで新刊を見かけると必ず読んでしまいます。趣味
のつもりだったけど、よく考えると微妙に仕事が絡んでます。なかなか仕事から自由になれません。
寅さん50周年で50作目が公開になりますけど、主役の車寅次郎を演じた渥美清の「唯一の自伝」はさすがに趣味で
楽しめると思うじゃありませんか。ところが、寅さん風の語り口調でモノローグがつづくのを読んでいるうちに、
これは渥美清がこういう話し方なのか、記者がそれっぽくリライトしてるのか、考え始めてしまいました。自分が
萩本欽一さんにインタビューして一人称の記事を作ったときのことを思い出し、もし自分だったらこの本まとめる
とき一体どうするかな? と完全に仕事の目線で熟読してしまいました。
前橋で成人した詩人のプライバシーをあばく研究書というか、告発文というか、群馬の本屋さんで見かけて読んだ
『詩人・萩原朔太郎の横恋慕』はけっこう香ばしい内容でした。作品を思い出したら、たしかに夫のある婦人とか
よく出てくるし、本当なんだろうなと。詩人や作家はテキストがすべてで生活を詮索しても得るものがないという
スタンスの文芸批評が前の世紀に盛んになり、そんなもんかなと思ったこともありますが、生活は生活で知ったら
解釈が変わることって実際ありますよ。
Mー1グランプリ2018で審査員に加わったナイツの塙が漫才論を語る新書です。前の晩にビジネスホテルのVODで
そのときのMー1の動画を最初から最後まで視聴して、通りかかった本屋さんにあったので読みました。そんなふう
に出会って読む本は面白いですね。審査員としてのコメントの真意がわかりました。漫才の状況もちょっとわかった
ような気がします。なんでオードリーがテレビ受けして、なんでジャルジャルがずっと王者になれないのかも。
白馬に単身赴任(4日間)したとき、1日ぽっかり空いたので「夏の青春18きっぷ」を用もないのに買ってしまい、
ずっと使わないまま期限が切れそうになって8月の終わりに「阿呆列車」ごっこをしたとき、越後中里という無人駅で
1時間以上ぼーっと列車を待つしかなくなり、待合室で読んだのが独立数学者の『数学する身体』です。高2の担任
の数学教師が多くの生徒を罵倒してたのは、せいぜい19世紀のレベルの数学をかさに着て髪を振り乱していたのかと
あっけにとられました。身体感覚の話がよく出てくるので「感覚的身体論」のページでインタビューしようかなって
ずいぶん考えたのですが、よくまとまった自伝でことさら補足をお聞きするのも何なので敬遠中です。趣味の読書が
仕事にならず、よかったのかもしれません。
アンアンにいるとき三浦しをんさんの連載を担当していたので、その後も本が出るとなんとなく読んでしまいます。
もう20年近くになるので、エッセイに加齢の話がよく出てくることに人知れず感慨を抱いたりする、そんな読者って
気持ち悪いと思いますから特に働きかけも何もしませんが、趣味のつもりでこうやって読書してることで何かのとき
またお仕事する機会がないともいいきれないのが、編集者のはしくれです。そういうことをいうと、趣味の読書など
成り立たなくなるので深く考えないようにしています。
昔、『噂の真相』で「無資本主義商品論」というコラムを連載していた書き手が、その後アル中になったりウェブに
軸足を移したり、紆余曲折あって五十路をわたり、ほぼ還暦になって出した同級生との対談本です。おじさんたちが
たわいない話してるのを読むとふしぎに癒されますね。あー、よく考えたらクロワッサンにいるとき、インタビュー
で1時間ぐらい話をしたことがあるから、これも趣味の読書のつもりが薄く仕事がらみといえなくもない。なんだか、
純粋に読書を楽しむ能力が二十歳をピークに下がり続けてる気がします。まいっか。
人間がいなくなっても回り続ける地球と、そこに住む生物のことを考えると、無とか空とか、そういう境地に達しそう。
科学って迷妄を強めることもあれば、悟りに近づく道にもなりうると『もうすぐいなくなります 絶滅の生物学』を通読
して感じました。そういう目的の本ではないと思いますが、なあに構うもんですか。さて、今年はこれぐらいに致しとう
ございます……。
関連図書: さよならMM
ふりかえると『ロケットマン』がいちばんだった気がします、今年みた映画の中では……師走になると
毎年どんな映画みたっけと記録をふりかえり、10本か12本かそれくらい愚にもつかない感想をブログに
書き散らかしてますが、あれをまた今年もやってしまいそうです。
『ギルティ』面白かったなあ。電話の声だけで事件の真相を追う低予算なデンマーク映画ですが、二転
三転して後味悪く終わるところが何ともいえないヨーロッパの闇みたいでした。期待せずに時間つぶし
で鑑賞する映画って、どうして面白いんでしょうね。ものすごく宣伝費をかけた超大作にがっかりする
ことがあまりに多いので、どこかローカルな映画につい惹かれてしまう2019年でした。
映画関係の友人が「誰がみるんだ?」と小バカにしてる横で「じつは俺すごく興味ある」と思っていた
けど黙ってやり過ごし、初日に足を運びました。昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』と同じように誰も
みないだろうから自分ぐらいせめて初日に……と、こっそり鑑賞したら、意外にヒットするパターン。
ありのままの埼玉が描かれていて感動しました。
アメコミのヒーローものが『アヴェンジャーズ』を筆頭にわんさか公開されて食傷気味だったあのころ、
でもこれは何だか独特で面白そうだぞと思って映画館に行って正解でした。でも続編は厳しそうだなあ。
子役がみんな大きくなっちゃうから。心のきれいな主人公がシャザム!になるのは、まあお約束として、
そのまわりにいる友達がみんなシャザム!になるのは、ちょっとどうなの?といった突っ込みどころも
含めて楽しい作品です。
SNSに上げると呪われる……ビデオテープから進化したようで何も進化してない(もちろん、いい意味)
ホラーです。よくできたホラーって笑っちゃいますよね。試写でみた『貞子』も大爆笑で、早く誰かに
話したいと思ったんですがネタバレしたら呪われると思って黙ってました。主題歌がとても印象に残り、
女王蜂のCDを手に入るかぎり買い、ライブに行こうとしたらチケットが取れず、いまのところ「聖戦」
をカラオケで歌う程度です。
『貞子』でひどい目にあう池田エライザが『賭ケグルイ』では人をひどい目にあわせています。テレビ
の『賭ケグルイ』で浜辺美波の蛇喰夢子が強烈だったので、映画もさぞかしと期待して出かけたら案外
おとなしく、福原遥の歩火樹絵里の狂いっぷりのほうが見せ場だったような。
としまえんが舞台のローカルなホラーをとしまえんの映画館で鑑賞しました。『賭ケグルイ』で皇伊月
を演じる松田るか、全然印象が違ってひどい殺され方をしてました。グラビアアイドルの浅川梨奈は、
見終わってから「あれがそうだったのか」と消去法で気づくぐらい。としまえんの魅力は全開でした。
土日はクレヨンしんちゃんの上映になってしまうことが多く、この映画みた人たぶん稀だと思いますが
楽しめました。
魔夜峰央原作の『翔んで埼玉』がヒットしたから『劇場版パタリロ!』がお蔵入りせずに公開された
んじゃないかと勘繰りながら映画館に行きました。マンガは圧倒的に『パタリロ!』が代表作なのに
映画となると逆転するから何がヒットするか、マーケティングではわからないものです。パタリロに
似てるか似てないかといったら似てないのに面白いからスゴイ。
『X-MEN:ダークフェニックス』は試写でみて、映画館でも鑑賞しました。全部で3回かな? パンフの
向こう側の客席にチャールズ・エグゼビアが座ってますね。襲ってきた連中は結局なんだったんだという、
大きな穴だけ気にしなければミュータントの見せ場が多くてよかったです。バットマンがだんだんダメな
話になっていくのと対照的に『X-MEN』だんだんよくなってますね、これまでは。
『DANCE WITH ME』も試写でみて、同じ時期にみた8月・9月の公開作の中でいちばんよかったので、
映画館でも鑑賞しようと思っていたのですが、うっかりしている間に公開終了していました。思ったより
ヒットしなかったみたいですね。三吉彩花がイヤそうに踊るのがツボなので、もしかしたらDVDを買って
しまうかもしれません。(まだブルーレイじゃなくてDVDとかいってる)
首相官邸が東京の全テレビ局に圧力をかけてテレビCMを流すことを禁じたという(地方の局では流れた)
『新聞記者』はお客さんの気迫が他と違いました。こういう映画もっとあってもいいのにと思いながら、
雰囲気に流れる演出を物足りなく感じるところも大でした。まわりが真剣だからそう思えちゃったのかも
しれません。この内容なら圧力かけなくてもいいのに……
それで『ロケットマン』ですが、エルトン・ジョンどんぴしゃ世代でもないのに『ボヘミアン・ラプソディ』
より感動しました。風体が似てるし、口パクじゃなくて歌ってるし、話がエグイし。とくに大ファンという
わけでもないのに共感するところが多くて、これはサントラを買いました。
すごく期待していた『ジョーカー』ですが、面白いか面白くないかでいえば面白いけど、拍子抜けしたのも
確かです。バットマンとその周辺はリブートがうまくいってないので『バットマン・ビギンズ』からこっち、
これだ!というのがありません。ディテールに凝りすぎではないかと。そういいつつ全部みてます。今年は
こんなところでしょうか。フランスのおたくが実写にした『シティーハンター』は秀逸でした。
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この亀なでると宝くじが当たるというから、なでまわして楽しみにしてたけど宝くじ買ってなかった……
買い物しようと町まで出かけたがサイフを忘れて愉快なサザエさん的な、あると思ったらなかった的な
あのシリーズをまたまたお届けします。さすがにお魚くわえたドラ猫おっかけて裸足でかけてく陽気さ
はありませんが。ルールル、ルルッルー♪
世話係にジャクージの用意させないと、と思ったけどそんな世話係いませんでした。
ひねもす畳の目を数えて暇つぶしてたら坐して気を練る達人と勘違いされて門人が集まり、困ってじっと動かずにいると銘々勝手に稽古しはじめたから放っておけば互いに切磋琢磨して道を極める者あり、たまげて言葉もなく頷いてたら「先生はさらなる高みにおられる」と持ち上げられて後に引けなくなっただけの話で、この道に高みも低みもないのじゃ。
とうもろこし畑でつかまえて、と『ライ麦畑でつかまえて』を真似て駆け出したけど生い茂りすぎて畑に入れないし『ライ麦畑でつかまえて』は確か、つかまえる側の話だった。
ぼくには鉄塔の上に住む従兄弟がいるのですが、訪ねようとすると決まってどの鉄塔かわからなくなるのは、もしかして従兄弟があれらの鉄塔を移り住んでいるから見つけられないだけかもしれないと自分にいいわけをしているわけで、そうですね……見つけなければ従兄弟がいると永遠に思い続けることができるけど、そんな従兄弟いないんです。
お好み焼きにかける細いマヨネーズ曲線と削り節のゆらぎを見つめていると美しい数式が書けそうで切なさのあまり合掌に及んでしまうけれど、そんな数式まだ見つかりそうで見つからないまま馬齢を重ねて涙を垂れた。
真夏に白馬へ出張したとき炎天下を散歩すると「路上スキー禁止」の看板が別荘地の斜面に何枚も掲げられていて、真冬どっさり積雪したらそりゃ路上スキーするだろうな……百年前ならゲレンデないから路上スキー当たり前だったろうしと想像することで涼を得ようとしましたが、少しも涼しくなりませんでした。
フランス積みの煉瓦の壁にガラス張りの窓と木の鎧戸……わたしが女工だったころ最新の建築だった工場は日曜日が休みで週6勤務は平均7時間45分、住み込みで衣食住が完全補助だから月給(1等査定で4〜5万円)は全部お小遣い……実家に送金できるし、機械を動かす蒸気機関の余ったお湯で入浴は毎日できちゃうし最高だったけど、わたしが女工だったことは現在・過去・未来なかった。
兼業農家の自分は今年も稲刈りの時期がきたら編集の仕事を適当に受け流して田んぼ仕事やらにゃ〜と思ったけんども、そんな田んぼなかったわ。
赤トンボ先輩はバブル経験したんですか? と、話し相手がいない淋しまぎれに問いかけても先輩は何も答えなかったし、たぶんこれも先輩じゃなかった。
ぼくのあのパラグライダー、どこいったんでしょうね……と口をついて出たけど、そんなパラグライダーなかった。
文章を書くときは職場にいても家にいても出先でも服を脱いで泉に身をひたし水を汲み上げるように言葉を紡ぐのですが……本当は自分でもわかってるんです、そんな泉がないことは。
休日に配偶者の実家から赤いスーツで17時始まりの撮影に出かけて料理家さんの自宅兼スタジオ付近の入り組んだ住宅地で道に迷い、早めに出たのに遅刻するかもとスマホを取り出し電話しようと試みながら、こんな撮影なかったから目覚めてしまえば解決するだろうと思って起きたら休日ではなく平日だった。
うなぎ、うなぎ、価格が高騰して滅多に食べらんないけど柔らかくて表面かりっと焼けて淡白かつ濃厚で、この香ばしく甘辛いタレがまた食欲そそってお重の隅に残るごはん粒もどかしいんすよね……なんつって、こんなうな重なかった。
祖母が亡くなる前の夏休みこんな顔してぼくを見ながら猫みたいな声で何か話してたから、話の内容すっかり忘れたけどもしかしてあのときの祖母? お盆じゃないのに帰ってきた? と聞いてみたら喉をゴロゴロ鳴らし始めたので、たぶん祖母じゃなかった。
I am the sea……と、つぶやいたところでThe Whoのあの曲を知ってる人がいるとも思えなくて結局つぶやかなかった。
どちらかというと思弁的なタイプのぼくなんか成り行きで編集の仕事してるおかげで否が応でも行動するし人の話を聞く機会に恵まれるので働いてきてよかったんじゃないか、さもなくば穴にこもったり山にこもったり部屋にこもったり……どう転んでも引きこもり生活まっしぐらだったんじゃないかと想像するにつけ、そんな暮らしもあり得たのではと喪失感を覚えるけど、実際問題そんな人生ありはしなかった。
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