春夏秋は天気よくてヒマだと山歩きすることが多い。冬は寒いし、積雪する場所もあるから山歩きは控えていた。春先は低山を歩き、暑い夏は涼しい高山を歩き、秋になるとまた低山を歩いて、冬はじっとしている。ここ数年そんなパターンを繰り返してたら、冬が退屈なので最近スノーハイクをかじった。スノーシューを履いて、割と安全なところ(谷など)をぺたぺた歩き回る他愛ない山遊びだ。

思えば高い山の夏は短く、梅雨入り前は残雪でスキーを楽しむ人がいるくらいだから歩き回るには不向きで、梅雨明けからせいぜい3か月が歩行可能なシーズンだが、人によってはお盆前までに時期を区切り、以降は寂しいから行かない派閥さえ存在するようだ。その流儀だと高山のベストシーズンは1か月たらず……夏場はもう気がはやり居ても立ってもいられないに違いない。昨年それに近い心境になり、北海道なら梅雨がないからと6月に大雪山へ行ったら少々まだ残雪があった。

だいたい溶けてるんだけど、ちょっと凍ってる。視界が悪いと怖い。チェーンアイゼン(靴にチェーンとゴムで装着するスパイクのようなもの)ぐらい持ってくればよかったと思った。結局なくて済んだ。しかし、6月はちょっと早かったかもしれない。

おととし、雪解けが早いと聞いたので5月の終わりに千畳敷カールを歩きに出かけたら、2612m以上あるせいか雪がこのようにしっかり積もって固まっていた。一応チェーンアイゼンを持参していたから、生まれて初めて装着して鉢を上がっていった。チェーンじゃなくて、れっきとしたアイゼン用意すればよかったかも? と思ったが、どうにかこうにか上まで踏み歩くことはできた。トーン、トーン……のどかな音を立てて、人の頭ぐらいの石ころ、というか岩石が跳ね落ちてきたりして、あんなもの直撃したら死ぬ(骨折か出血で済む?)からヘルメット装着すべきだが、あいにく所持してなかった。雪の玉が落ちてくることもあり、雪崩の前兆だったら嫌だなーと思った。

乗越浄土まで登ってしまえば、夏なら木曽駒ケ岳まで楽々いける尾根歩きなのだが、落石と雪崩の恐怖がストレスとなり、視界も足場も悪いから、夏にまた来ようと思って素直にカールをじりじり下った。ピッケルで舵を取りながら雪上を座位で滑り降りる男がいて、滑落してるようにも見えるが、あれは歩行の労を省いた天然のすべり台テクニックらしかった。服が傷みそうだし、ピッケルなど持ち合わせないから真似するのは差し控えた。

そんなこんなで雪のある時期はぜったい山へなど近寄るまい。そう思っていたんだけど、いざ冬になると退屈なので昨年の暮れ、スノーシュー体験会に参加してみた。谷川岳の一ノ倉沢で雪の降る中をぺたぺた、転びながら歩く。転ぶと雪が柔らかいから手をついても膝をついても立てない。トレッキングポール(ストック)2本を束ねて水平に雪に置くと、どうにかその支えで起き上がれる。手ぶらだったら凍死していた。危ないところだった。

面白くなってきたので、1月にまたスノーシュー体験会に参加した。こんどは上高地。このへんは春夏秋すごい人出だけど、冬は車両が釜トンネルの手前までしか通行できないからスノーシューなどを装着して歩いてくるしかない。人がいなくてしーんと静まり返っている。ホテルも売店もトイレも冬季閉鎖されている。ウェストンが穂高とか登った頃は冬でも温泉宿を起点にできたはずだが、いまは野営するしかない。氷点下で野営なんかしたくないから通いで平坦な谷をぺたぺた歩く。もう転ばない。

野うさぎの足あとが、あっちにも、こっちにもある。今年は雪が多いから、スノーハイク始めるにはいいタイミングだったようだ。そういえば昨年は雪がない、雪がないと嘆く声が聞こえた。おととしも雪が少なかったかもしれないが、スキーは数年に1回やるかどうか程度だし、スノボ未経験なので雪の多い少ないに興味なかった。スキー場には海外の観光客が殺到していると聞くから、近寄るまいと思っていたが、いまのところスノーハイクなら静かに自然を堪能できる。

うわさには聞いたことがある、冬になると先のほうが赤く色づく化粧やなぎ。実物を目の当たりにするのは(赤くなるのを見るのは)初めてだ。どうして赤くなるんだろう。化粧してる意識はないんだろうし、葉っぱに老廃物がたまる紅葉とも違うんだろう(紅葉と違って落ちないから)……考えてもわからないから、そのうち理由は考えるのをやめた。こうして冬もときどき山にくると、春夏秋冬、ブランクなしで自然を楽しめる。2月、3月、4月もスノーハイクすることに決めた。

谷川岳のときは降雪していたが、上高地は晴天だったので太陽の光が暖かく、斜面をころころ雪の玉が転がるのを何度も見かけた。あれって雪崩の前兆だから見かけたら離れたほうがいいと聞く。やだなあ雪崩……雪に埋まると、中から大声で助けを読んでも外にいる人に聞こえないらしい。笛を吹いても聞こえない。じゃあ助けを呼びようがない。外で人が話す声は雪の中の人に聞こえるという。「こりゃ助からない」とか、つぶやこうもんなら、中の人はしっかり聞いてるかもしれない。

2月の初めに長野へ行き、個人でスノーシューとストックをレンタルして、そこらへんの安全そうなところをぺたぺた歩いてみた。わざわざ札幌からスノーハイクに来てるおじさんが、まんじゅうをくれた。札幌だったら羊蹄山とか近くでいくらでもスノーハイクできるのでは? と尋ねたら、冬眠しないクマが出るから危険なのだそうだ。それでわざわざ本州まできて、クマが寝てるすきに雪の上を歩こうというわけか。北海道も大変だ。

個人でスノーハイクする場合、雪のない時期に歩いたことある場所でないと怖いし、エスケープが簡単なところでないと危ないから、とりあえずアクセスしやすいスキー場を起点にしてスノーシューをレンタルする。念のためチェーンのアイゼンをリュックに忍ばせておく。たいして嵩張らないし、500gぐらいのものだから。

リュックに忍ばせたチェーンアイゼンが功を奏することもある。坪庭を歩こうと思ったらスノーモービルでならしてあるのか人が踏み固めたのか、トレッキングシーズで歩き回ることも容易だった。たいくつだから忍び道具のチェーンアイゼンを取り出して装着し、登山道に入って北横岳に登頂した。坪庭から、片道1時間かからない。夏も冬もビギナーにちょうどいい。

1日で天気が大きく変わる。

2月の下旬に戦場ヶ原のスノーハイク体験会に参加した。戦場ヶ原というけれど、こんな山の上でわざわざ人が戦うもんかと思ったら人間同士の戦場ではなく、かつて神と神がぶつかり合った戦場ヶ原だそうな。まんが日本昔ばなしのようじゃったー。

戦場ヶ原で戦ったのは栃木にある男体山の神と、群馬にある赤城山の神で、なんでまたこんな作物も採れないような標高1400mの湿原を? 言い伝えによれば中禅寺湖を取り合ったそうな。男体山の神はヘビの大群を引き連れ、赤城山の神はムカデの大群を引き連れて血みどろの戦いを繰り広げたので、今でも赤沼は血の色をしておるそうな……。

スノーシューばかりも何なので、3月初めに縞枯山荘を訪ねてテレマークスキーの講習を受け、素泊まりして翌日ガイドさんについてテレマークスキーをした。アルペンスキー(滑走)、クロスカントリースキー(歩行)、スキージャンプ(飛翔)の原型になったというテレマークスキーは、ゲレンデスキーと違って踵を固定しない。その点はスノーシュー同様だが、滑走もする(ジャンプもできるんだろうけど、そこまでしない)ので、テレマークは身体の使い方が独特。

3月の中旬に千畳敷カールと霧ヶ峰でスノーハイクした。千畳敷は吹雪でホワイトアウトしており、宿の周辺をほんの少しペタペタ歩いて、もうやめておいた。カールは雪崩が起きやすい。とくに3月ともなると、溶けた雪が凍った上に新雪が降り積もり、新しく積もった雪が雪崩を起こすそうだ。巻き込まれたら見つかりにくい。探す人も雪崩の危険を冒すことになる。ということでビーコンを装着。


霧ヶ峰はなだらかで雪崩など起きにくいようだけど、せっかくなのでビーコンを一応オンにして身体に巻き付ける。荷物に入れたのでは、荷物が身体から離れたときに荷物だけ見つかって身体が雪の下ということになるようだ。ビーコンだって電池が切れたら見つからない。そうなったらおしまいだと思いながら、青空が一瞬だけ見えた曇りの霧ヶ峰をスノーシューで歩く。1月、2月に比べると雪が重く感じる。



4月は尾瀬の残雪でスノーハイクしようと思い、ツアーに申し込んでいたのだが催行中止になった。わざわざ雪の上を歩かなくても低い山を歩くのが楽しい季節だから、今シーズンの雪歩きは終了。また山に雪が降り積もるまで、春夏秋は普通にハイキングするだろう。

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