スタジオなどで撮影があると、お客さんやスタッフの飲み物や食べ物を用意しておくのが
編集者の主な仕事です。人数分のエヴィアンとか、おにぎり、サンドウィッチ、おせんに
キャラメル……世の移り変わりと共に姿を消していく、列車の車内販売と編集者はどこか
似ています。どちらが先にいなくなるでしょうか。そんなことを思いながら、取材に使う
レコーダーの電池が切れるといけないので、ついでに買っておきます。
食べ物や飲み物と一緒に単四アルカリ乾電池を2本、買い物カゴに入れてレジに向かうと、
なんだか電池まで食べ物か飲み物のような気がしてきます。お客さんやスタッフが水とか
おにぎり、サンドウィッチ……などを適宜、補給しながらじゃないと活動できないように、
編集担当のぼくも電池がないと活動できない。切れたら交換しなきゃ。
電池で動いてることが人にバレると都合がよくないので、レジ袋からポケットに移します。
これで元気がなくなったり、やる気がなくなっても電池交換がすぐできます。よかったら、
お水いかがですか? なんて人にすすめながら、内心ぼくは大丈夫。いざとなったら電池
いつでも交換できますから、なんて心の中でつぶやきます。食べ物や飲み物に興味がなく
ドラッグを隠し持ってる業界人の気持ちが少しわかります。
いつものように、やる気がなくなってきました。どうやら電池切れです。元気のない声で、
トイレ……と言い残して個室にこもり、震える手で乾電池のパッケージを破り捨てようと
して床に落とし、慌てて拾います。いつのまにか汗びっしょりです。単四アルカリ電池は
身体のどこに入れるんだっけ? おなか? せなか? 人間そっくりに作られたボディの
継ぎ目を探すうち、5分、10分と時間が過ぎていきます。
早く戻らないと、早く戻らないとトイレにこもって注射を打っていると誤解されてしまう。
それだけならば、まだいいけれど、このまま電池が切れて活動停止の状態で発見されたら、
人間の皮をかぶった人工物であることがバレてしまう。そうなる前に単四アルカリ乾電池
セットする場所を見つけなきゃと、レジ前で腹や胸や尻をまさぐっていたら、店員さんが
お会計2,015円になります! と明るく告げるので、そうだった。撮影これからだったって
思い出し、現実に戻ってスタジオに向かう……だいたい毎度こんな感じです。