大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:076『町長はあとまわし!』

2023-04-23 06:52:35 | 時かける少女

RE・

76『町長はあとまわし!』テル 

 

 

 

 戦隊物の女戦士のようになっていたタングリスだけがまともだった。

 
 ヒルデはドレスのスカートがズタボロで、なんだか腰蓑のようにバランバランになっている。

 ケイトは肩紐とブラのストラップが切れたので、弓を持った手で押さえている。

 ロキは何もしなかったはずなのに、シャツのボタンが三つもとれて、右袖が肩の所で千切れかけている。頭の上でポチがせわしなく回っているところをみると、興奮したポチを押さえ込もうとして、逃げ惑う人たちにもみくちゃにされたようだ。

 わたしは、ドレスの右袖がとれただけで比較的マシ……と思ったら、タングリスが後ろを指さす。

 え?

 後ろに手を回す……なんと、ドレスの後ろがきれいさっぱり無くなっていた(#^_^#)。

「これをどうぞ」「すみません(#^_^#)」

 無事だった女性がケープを掛けてくれたので、なんとか体裁を整えることができた。

 

「せ、石化した人たちをもどさなければ……」

 

 町長婦人は呟くのだけど、ショックで行動に移すことができずに石段に腰を下ろして俯いている。

 ゼイオン司祭……目で追ってみると、断末魔のメデューサに睨まれたのだろう、鬼の形相のまま石化している。

「手持ちの金の針で直そう」

「足りるかな……」

「足りなかったら、そのとき考えよう」

 タングリスの一言で、我々もやっと動き出す。

「……申し訳ありません、クリーチャーなど町の中では見たこともないもので……みなさんには、お世話になります」

 俯いたままの町長夫人が深々と頭を下げ、彼女の額はほとんど石段に接している。

「出来る限りの事はいたします」

「ありがとうございます……町のみなさんも手を貸して、石化した人たちを横たえて。倒れて壊れたら大変だから」

 ようやく顔を上げた夫人は人に支えられ、やっと指示を出した。

「わかりました」

 間近の町長さんに手を伸ばすと、夫人が遮った。

「町長は最後でかまいません。石化は若い人ほど進行が早いのです、長引くと金の針でも元に戻りませんから」

「わかりました、治療は若い人からだ!」

 タングリスが指示を出して作業が始まる。

 そして、117人目の石化を解いたところで金の針が無くなってしまった。

「どうしよう、まだ町長さんと司祭さんが……」

 

 わたしなら……大丈夫だ……

 

 絞り出すような声に振り返ると、ゼイオン司祭が、そこだけ解けた口で喋っている。

「これでも一級白魔導士だからね、ゆっくりだがオートリペアで回復する……町長は……この三日以内に解いてやらないと戻らなくなる」

「どうしよう……」

「ペギーに連絡してみよう……」

 スマホを出してペギーを呼び出す。

「あ……圏外だ」

「ここは、バラの力で魔よけをしている、スマホの電波は、ちょっと入りにくいんだ」

「あんまり喋ると、口の周りにヒビが入るわよ」

「すまんが、連れて行って治してやって……あ、ヒビが……」

 パリンと音がして司祭の口にひびが入った。

 
 我々は着替えを澄ますと、四号の砲塔に町長を括りつけて町を出発した……。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 119『浦島太郎の言い訳・1』

2023-04-22 15:10:16 | ノベル2

ら 信長転生記

119『浦島太郎の言い訳・1信長 

 

 

 トンビに見守られながら鬼ヶ島への道を進むと、いつの間にか海辺に出てきた。

 

 砂浜の背後は崖になっていて、見上げると見覚えのある巨木の上半分が見える。

 巨木は、あの桃の木だ。

 なんだ、ここは村長(むらおさ)の屋敷の裏だったのか。

 よく見ると、崖の上辺は石垣になっていて容易には登れない仕組みになっている。

 石垣に上にはダビット(救命ボートやラッタルの上げ下げに使われる小さなクレーン)があって、船の舷梯のような階段が吊り上げられている。そういうダビットが見ただけで五六個はあって、日ごろは、ここから出入りしている様子だ。

 この階段を上げてしまえば、容易に村には入り込めない。

 我々がここにたどり着くまでは桶狭間を小型にしたような谷があって、うかつに通れば、谷の上から攻撃されて全滅させられる仕掛けになっていた。そこを易々と通ってきた鬼どももなかなかのものだ。あるいは、鬼どもが村の者さえ気づかぬ間道を見つけたか。いずれにしても油断がならない。

『誰かいるわよ』

 あっちゃんが呟いて、再び海岸に目を戻すと、砂浜に引き上げられた小船の陰に人の脚が見える。

『土左衛門かのう?』

『土左衛門なら祀ってあげて、住吉神社が建てられるぅ♪』

「水死体を祀るのか?」

『そうよ、戎とか住吉とかいうのは、流れ着いた土左衛門たちを祀った神社なのよ』

「変な趣味だな」

『神道の常識!』

「であるか……ん?……まだ生きておるぞ」

 漁師の若者のようだが、呼吸に合わせて花提灯が出たり入ったりしている。

 そして、傍らには漆塗りに螺鈿を施した立派な箱が転がっている。

 怪しい奴だ、どこかで盗みを働いて、浜に着いたとたんに疲れと安心で寝てしまったというところか?

 これは場合によっては成敗してやらねばならん。

 俺は、事の大小にかかわらず悪事、曲事には容赦がない。門番の最中に通行人の女をからかった足軽や、俺の留守中に勝手に遊びに行った女どもは、みんな成敗してやったぞ!

『あ、いきなり切ったりしてはならんぞ』

『いま、あんたが持ってる刃物は、このわたしだけなんだから。させないわよ』

「分かっておる、生前の俺とはちがう。とりあえず、起こして事情を聞く。おい、起きろ!」

 ゲシ!

 一発で決まった。

「ウッ、なにすんだ……あ……ああ……乙姫!?」

「乙姫?」

「あ、ごめん、乙姫、これは違うんだ……(;゚Д゚)」

 目が泳いでいる、嘘バレバレ。

 しかし、俺を乙姫と見間違って……こいつ、浦島太郎か?

 平手の爺からいろんなお伽話を聞いたが、浦島太郎の話を聞いた時は腹が立った。

 こいつの話は、徹頭徹尾の現実逃避だ! ろくすっぽ漁にも行かずに竜宮城で無駄な時間を過ごして、それにも飽きて戻ってきたら、村は知らない奴ばかりとか言い訳して、玉手箱をネタにもう一つ言い訳して年寄りのふり。結局一生引きこもった大うつけ者だ!

 こんな奴、生かしておいてはためにならん!

『ちょっと待って!』

 シャキーーーン

 あっちゃんの一言で、周囲の時間が停まった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

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RE・かの世界この世界:075『広場の激闘』

2023-04-22 06:15:22 | 時かける少女

RE・

75『広場の激闘』テル 

 

 

 目を見てはならん!

 
 わたしたちと同時に気づいたゼイオン司祭が叫んだ。

「この中にメデューサが紛れ込んでおる!」

 声を出したのが間違いだし、順序も逆だ。

 声に出せば互いに顔を見かわしてしまう。

 瞬くうちに、十数人が驚愕の表情のまま石化してしまった!

 キャーーー! ウワアーー!

 パニックになった。

 しかし、石化した人たちの中央にいる少女がメデューサだと見当は付いた。

 見当が付いたとたんに、メデューサは逃げ惑う人々に混じってしまう。

「逃げろ! 広場から出るんだ!」「しゃがんで目をつぶれ!」

 相反する指示が下される!

 タングリスは歴戦の経験から、司祭は言い伝えられてきたメデューサ対処法からの、とっさの指示を叫んだのだ。

 広場は混乱するばかり、阿鼻叫喚の中を1/3ほどの人々は広場から逃れ、次の1/3ほどは目をつぶってしゃがみ込み、残りの1/3ほどは次々と石化していった。

 メデューサは祭りの衣装を着ているので、同じ年ごろの少女たちと見分けがつかない。あとで分かったことだが、タングリスはメデューサが剪定し損ねた悪いバラと融合したものだと判断していた。

 バラと融合したものなら、植物性のクリーチャーだ。そう遠くには移動できないと考え、町の人々を広場から逃がしてしまえば、被害も抑えられるし、残った一人がメデューサだと判断もできるとふんだのだ。

「そいつがメデューサだ!」

 石化した人たちに混じって静止していたメデューサだったが、折からの風にそよいだ髪で分かってしまった。石化した人間の髪はそよぎはしない。

「どうやって戦うの? こんなナリで、武器も持ってないよ!」

 戦闘も始まらないのにケイトが弱音を吐く。ロキは、そのケイトの陰に隠れて、ポチと共に震えている。

「自分が戦うさまを念じろ!」

 そう言いながらタングリスは戦闘モードに移行して、いつもの戦闘服に得物の鞭を構えた姿に変わった。

「三人とも、タングリスに倣うんだ!」

 そう叫んで、戦いの姿をイメージした。

 ポンと弾けるような感じがして、手にソードの感覚が湧き出してきた。

 視界の端にケイトとヒルデが見える。二人の変身は中途半端で、二人とも弓やソードは持っているが、まとっているのは丈が短くなった降誕祭のドレス、目にはメデューサ除けのサンバイザー、見た目には魔法少女戦隊になった!

 こちらの意気に反応してメデューサも力を貯める。

 シャアアアアア!

 瞳は蛇のように細くなって金色に輝き、髪はウネウネと逆立って、無数の蛇のようにゾワゾワと蠢きだした。

「かかれ!」

 タングリスの号令でメデューサを取り巻くように旋回する!

 グルングルン グルングルン グルングルン グルングルン

 二周目で最初の一撃を食らわせる。

 ピシュ!

 我々も続く!

 ズビャ! ズビュン! バシ!

 三撃立て続けに食らわせるが、メデューサは身軽に躱して、ヒットしたのは、わたしの一撃だけだ。わたしの技量が長けているからではない、やはり、連携した攻撃が大事なのだ。

 ウオーーーー!

 渾身の気迫を込めてソードを振りかぶる。

 振りかぶった手は戦闘服の袖をまとってはいなかった。わたしの変身も不十分なようだ。

 キエーー!

 構わずに喰らわす斬撃!

 ビリ

 服のどこかが裂けた! 構ってはいられない、ヒルデとケイトにアタックを促し、タングリスに連携の目配せをする。

 攻撃は五回に一回ほどしかヒットしないが、メデューサを確実に弱らせていく!

 セイ! トアーーー! ウオーーー! ズビャ! ズビュン! バシ!

 時にメデューサは躱したモーメントを利用して追いかけてくるが、広場の外縁に近くなると、見えないゴム紐に引き戻されるように広場中央に戻ってしまう。やはりバラとの融合体なので、根を張った広場からは出られないのだ!

 タングリスの判断は正しかった!

 十数回アタックして、ようやく、こちらの呼吸も合ってきた。

―― 一斉……! ――

 思念の半分だけ聞いて、四人が同時にアタック!

 ケイトの矢が胸を貫き、わたしの剣とヒルデのツインテールが胴を払い、タングリスの鞭が頭に炸裂した。

 ドゲシ! バシ! ブシュ!

 グエ!

 一瞬空中で静止したようになったかと思うと、次の瞬間、分子結合を失ったようになってメデューサは飛散し果てていった。

 ジャキジャキジャキーーン!

 ☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~

 ステータスが音を立てて上昇した。

 

☆ ステータス

 HP:8000 MP:4000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・100 マップ:6 金の針:20 所持金:1000ギル(リポ払い残高39000ギル)
 装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・402『王宮某重大事件・1・詩の災難』

2023-04-21 15:41:45 | ノベル

・402

『王宮某重大事件・1・詩の災難』詩(ことは)   

 

 

 ヤマセンブルグには『妖精飛び出し注意』の道路標識がある。

 大阪の幹線道路からちょっと生活道路に入り込んだところに『子どもの飛び出しに注意』の標識がよく出ている。

 そんな感じ。

 地元の人たちが子どもを妖精に例えて安全運転を喚起するために私的に設置したものでは無くて、ちゃんと警察が大まじめで建てた公的な標識。教習所の筆記試験の標識問題のところにちゃんと出ている。

 それに気づいたのは、去年。頼子さんやさくらといっしょエディンバラとヤマセンブルグを訪れたとき。宮殿に向かう車の中で発見して、ディズニーランドでミッキーマウスに出会った時みたいに興奮してしまった。

 女王陛下(頼子さんのお祖母ちゃん)が、その時のわたしの目の色をご覧になって「そんなに興味があるのなら、もっと面白い話があるわよ」と、滞在中、いろんな資料を見せて、お話してくださった。

 そして、それが縁で、わたしはヤマセンブルグに留学している。

 中学からずっと吹奏楽をやってきて、一時は、これで身を立てようと思っていたけど、自分の力に限界を感じて大和川の流れに自分の吹部人生は流してきた。

 それからは、義務的に大学に通うだけで、大げさに言えば生ける屍。さくらや留美ちゃんが生き生きと高校生活を送っているのが、正直羨ましかった。

 

「ヨーロッパは、国同士が親類みたいなもので神話や物語を共有している。ううん、宗教だって、みんな兄妹、親類の関係。それぞれの聖典にお互いのことが載っていて、ユダヤ教キリスト教、イスラム教にさえ被っていることが多くある。同じ文化を持っているからこそ、その、東洋から見ればわずかな違いに目くじらを立てていがみ合ってしまうところがあるのね。日本では、こういうのをなんとか言うわね……」

「近親憎悪ですか?」

「そうそう、キンシンゾウオ。待ってね……(電子辞書をお引きになる)Hatred for close relatives is bigger than ordinary person.……ちょっと長いわね。まあ、息子や孫のヨリコがわたしに楯突くようなものね」

「アハハ( ´艸`)、失礼しました陛下」

「いいのよ、笑って済ますのがキンシンゾウオの一番の解決法。ベスねえさんも、その笑いの感覚で乗り切ってこられたんだから。はてさて、息子の方にそれだけの度量があるのかしらねえ?」

「戴冠式には、陛下おん自ら?」

「ええ、親類の喜び事だし、ベスねえさんとの約束でもあるし、わたしが足を運ばなければならないでしょう。コトハも付いて来てね」

「はい、承知しています」

「バッキンガム宮殿にしろ、ウェストミンスター寺院にしろ、妖精や魔法に関わることが、それも部外秘のものがいっぱいあるから、またとない勉強になるわ」

「ありがとうございます」

「そうそう、その下調べのために見ておく資料が……そうそう、第二図書室の方だったわ。ぜひヨリコに見せてあげたいものが。こっちよ……」

 陛下は階段を八段上ったところで思いつかれ、九段目に足を掛けたまま振り返られ……そしてバランスを崩してしまわれた。

「あらあああああ!」

「陛下っ!!」

 ドッシン ガラガラガッシャーーーーン!!

 六段目にいたわたしは、全身で陛下をお支え申し上げたけれど、抗しきれず、そのまま二階の廊下まで転げ落ちてしまった。

 わたしが下敷きになったので、陛下は筋を違えるだけで済んだ。

「陛下、大丈夫ですか!?」

 陛下をお起こししてさしあげなければ……え……足が動かない。

 でも、陛下を……陛下を……

 ウッ!!

 もう一度体を起こそうとすると、背中に激痛が走って、そのまま気を失ってしまった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・020『春たけなわの身体測定』

2023-04-21 11:34:29 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

020『春たけなわの身体測定』   

 

 

 女子の身体測定は午前10時30分から。

 

 ずいぶんゆっくりみたいだけど、10時までは男子がやっている。

 男女で時間を分けるというのは合理的だよ。

 中学までは、種目っていうのか、メニューを工夫することで男女が被らないようにしていた。被らないと言っても、学校の中に居るというのは同じなので、時どきふざけた男子が覗きとか問題を起こして叱られていた。測定が終わったら普通の授業だったしね。

 それが、女子の開始時間の10時30分になると、男子は検査場になる校舎や体育館には立ち入り禁止。まあ、たいていの男子は10時で帰ってしまう。そう、測定が終わったら、もうその日は学校お終いなのさ。

 でもね、令和の高校はフッてきたから分からないけど、同じなら令和の方がいい。だってさ、女子も昼までには終わって帰れるんだもんね。遊ぶとなると令和の方が数的にも質的にも断然多い。

 

 うわあ、男くさ~い(^▲^;)

 

 ほんの30分前まで、男子の時間だった体育館のフロアーは男のニオイでいっぱい。

 でも、口に出して「くっせー!」とか言う子はいない。「あはは、すごいですねえ」とロコが鼻にしわを寄せるくらいのものだった。

 メニューは、身長、体重、胸囲、座高、聴力、視力の六つ。聴力は渡り廊下、視力は他の項目が全部終わって、教室で担任がやってくれる。

 最初に学年全体の説明があって、その後、クラスごとに指定された検査にまとまって移動。そのあとは、空いてるところを見て周っていく。

「保健委員は?」

 最初の身長コーナー。担当の先生が記録係りの保健委員を呼ぶ。

「はい!」

 元気よく手を上げて、記録者席に向かったのは保健委員の吉本さん。

 お喋りじゃないけど、喋る時はハキハキしていて、ヘアバンドで堂々とオデコ出してることと合わせて好印象。

「じゃ、吉田さん最初ね」

 保健委員は最初に済ませて記録に専念するみたい。

「155!」

 先生が叫んで、吉本さんは自分で記録。そして、あとは出席番号順に進んでいく。

 あ、ちなみに服装はジャージ。ロコの話だと、去年までは女子もパンツ一丁にされたとか。

 保健室の先生が主張して、女子はジャージでよくなった。ジャージは上下で400グラムあるんだそうで、その分をあらかじめ引いてあるのかどうかは分からない。

 

 あ……

 

 体重計は、なんちゅうか、まるっきりハカリ。

 目の高さに時計みたいなのが付いてて、乗っかるとガチャンと音がして針が遠慮なく体重の目盛りを差す!

 で、目盛りが両面にある! 体重丸出しアナログ丸出しのハカリ!

「50・1!」

 そんな大声で言わなくても……で、人生で初めて50キロを超えてしまった(-_-;)。

 

 座高なんて保育所以来計ったことない。「昔は計ってたよ」とお祖母ちゃんの言う通り。

「座高のトップは称号があるんだよ」

 移動しながら吉本さん。「え、なになに?」と周囲の人たちが聞く。

「ざこういち!」

 アハハハ( ´艸`)

――ちょっと、そこ!――

 おこられてしまった(^_^;) けど、楽しくなってきた。

 

 胸囲を済ませて、渡り廊下の聴力。担当はグラマーの妹尾先生。

 グラマーと言っても男の先生。

 昭和の英語はリーダーとグラマーに分かれてる。リーダーはうちの担任で、英文を読んでは訳していく。

 グラマーは、SVとかSVOとか五文型とかややこしい文法をやる。どっちも好きじゃない。

 ヘッドホンの片耳だけみたいなのを耳に当てて、ピーって音が聞こえたところで手を挙げる。

 両耳が終わると、先生は小さく……たぶん「異常なし」って言ってる。体重の先生もこれくらいのデリカシーがあればと思ったよ。

 渡り廊下は両側がガラス張りで、とても明るい。

 古い校舎だけど、設計した人は採光をよく考えていると思う。昭和28年にできたらしい、まだ戦後って言っていい時期で、日本中貧乏だったんだけど、いい仕事している。

 聴力検査だから、みんな静かにしている。静かにしていると眠くなる。

 窓の下は中庭になっていてロダンの『考える人』のブロンズがある。考える人は考えるふりをして寝てるんじゃないかと思うくらい春たけなわの上天気。顔を上げて流れる雲を見ていたら「次!」と怒られた(^_^;)。

 

 教室に戻って、まずは制服に着替える。

 よくできた制服だけど、ベストとスカートを連結させるのが、ちょっとだけ面倒。

 着替え終わってジャージを袋に詰める。自分のジャージだけど生暖かいのが、ちょっと気持ち悪い。

 みんな着替え終わって視力検査。

 黒板横の窓側掲示板に視力検査表が貼ってあって、5メートル離れたとところから片目ずつ。

「手で押さえつけるとボケるからな、出来るだけ、目隠しを使えよ」

 目隠ししゃもじを奨励して検査開始。

「両眼とも2・0」

 先生が宣言すると、みんなから小さく歓声が起こる。

 視力だけは、いつもクラスで一番。でも、良すぎるのは老眼になるのも早いって言うからね。

「羨ましいです……」

 そう呟いたロコは、両眼0・4。

 眼鏡をしないのはこだわりなんだ。コンタクトレンズは、この時代ではまだ無いのかもしれない。

 

 あんまりいいお天気なので、廊下に出てスマホで検索。

 

「この時期、宮之森で景色の良いところ教えて」

 と、小声で音声入力。

『宮之森城址の八重桜が見頃です!』

 スマホも音声で返してきた。うっかり音声オフにするのを忘れてた!

「誰かと喋ってました?」

 ロコが出てきて、怪訝な顔。

「あ、ああ、独り言! あ、ねえ、城跡の八重桜観に行かない!?」

「あ、いいですねえ!」

 

 で、けっきょく女子五人でお花見に行くことになってしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 妹尾先生:グラマー
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

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RE・かの世界この世界:074『タングリスと以心伝心の目配せ』

2023-04-21 06:41:10 | 時かける少女

RE・

74『タングリスと以心伝心の目配せ』テル 

 

 

 乾杯の後は宴になった。

 いつの間にか広場のあちこちにテーブルが出され、そのテーブルを中心に人々が思い思いに集まってビールを飲んだり、山ほど用意された料理に手を伸ばして盛り上がっている。二十人ほどの楽隊がポルカのような軽快な音楽を奏で、町の人たちが二人一組で手を取り合ってステップを踏みはじめた。

 誰が指揮をしているわけでもないのに、ステップの輪は広場の噴水ステージを二重に取り巻く大きな輪に育ち、文字通りのフェスティバルになった。

「オイラたちも入っていいかなあ」

 ロキが目を輝かせながらも、しおらしくタングリスに聞く。

「ああ、いいとも。ここから見ていてやる」

「よし、行くぞ!」

「こら、引っ張んなあ!」

 ロキはケイトの手を取って踊りの輪の中に入っていく。

―― 見物だけとはつまらない ――

 うわーー!

 歓声があがったかと思うと、タングリスもブリュンヒルデも町長や町の若者に手を引かれていってしまった。

 臆したわけではないが、わたしは山車の陰に回ると、クルクルと踊っている人やビールの泡を飛ばしている酔っぱらいたちをかいくぐって、迎賓館のポーチに移った。宴もたけなわなのだろうが、一人ぐらいは覚めた頭で控えていないと、いざという時に対応できないと思ったからだ。

 タングリスも分かっているようで、踊りの輪の中で揉みくちゃになりながらも―― あとで代わる―― と以心伝心の目配せ。

 男たちは民族衣装のボレロに似た上着を脱ぎ、肘まで袖をまくり、それでも羽毛の付いた帽子だけは脱がずに。若い女たちのスカートには仕掛けがあって、膝下や、あるいは膝上10センチくらいのところから取り外せるようになっていて、元気に楽しく踊っている。

 冴子が得意にしていた日本の神話や昔話に似たものがあった、天岩戸の前で、岩戸に身を隠した天照を誘い出そうとやったお祭り騒ぎ。盆踊りの原型になったと言われる歌垣とかね。

 え、えと、冴子って……誰を思い出したんだ?

「いやあ、クリーチャー相手の戦闘の方が楽かもしれんなあ(;'∀')」

 十分もすると、ジョッキを二つ持ってタングリスがやってきた。ドレスは股下5センチほどになって、フリフリの袖も肩口から無くなっている。

「暑くて外したら、子どもたちが持って行ってしまった」

「あはは、戦隊物の女戦闘員みたいだ」

「あはは、お互いにな」

 気づくと、いつのまにか自分でもスカートを短くしていた。

「みんなタフだ。気は抜けないが、ま、一杯ひっかけてからでもいいだろう」

「そうだな、我々も、ようやくチームになりかけてきたな」

 縁の下の力持ち同士、小さく乾杯。特に言葉を交わすこともないが、これからの旅への覚悟と労いを交わすことができた。

「さ、交代するよ!」

 ポーチの陰から出ると、相変わらず盛り上がっている踊りの輪。だが、さすがに疲れたのか充電しているのか、柱にもたれかかったり、テーブルに突っ伏している者がチラホラ。

「大丈夫かい?」

 そんな一人の肩に手を置いて……驚いた。

 

 石化している《゚Д゚》!?

 

―― メドューサが入り込んでいる(⊙ꇴ⊙)! ――

―― 声を立てるな、パニックになる(`エ´*) ――

 

 タングリスが二度目の目配せをした。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・157『邂逅する者たち・5・王春華』

2023-04-20 10:47:41 | 小説4

・157

『邂逅する者たち・5・王春華』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 


 最初に目に着いたのは大きな漢明国旗と、漢明陸軍の連隊旗だ。


 景色的にも風水的にもいい場所を選んでいる……と思ったら。旗竿は鳥居の縦の柱に括り付けられている。

 そうか、あそこは氷室神社だ。

 すでに、本殿拝殿ともに破却されているが、鳥居はカンパニーのシゲ老人が鉱山技師の技術で建てた堅固なものだ。

 堅固な上に無駄のない神明造で、二本の縦柱は垂直に立てられているから、竿を括り付けるだけで立派な掲揚台になる。

 しかし、宗教施設を掲揚台にするのは無法で下品だという感覚は無いらしい。日本人以外にこれをやったら、たとえ戦争に勝っても信用はえられない。

 

 視力を等倍から三倍、十倍、二十倍と切り替えて敵基地になりつつある空港と、その周辺を観察する。

 

 露出した坑道や巨人輸送機の残骸、砲撃の穴などに少人数が屯しているが固定した基地施設を構築する様子は無い。

 弾薬や物資は露出させることなく坑道や穴の中に隠している様子だ。沖には健康な艦船が五隻見える。中型の輸送船とクルーザー。侵攻部隊としては規模が小さい、島の反撃で半分ほどの規模になっているのだろうが、上陸部隊のバックアップには十分だ。

 劉宏大統領は侵攻部隊を反乱軍扱いしているが、それは表面的なものに過ぎない。

 その証拠に、この反乱軍に対して鎮圧の部隊を出していない。時を見計らっているんだ。侵攻軍の配色が決定的になれば、そこに鎮圧部隊を投入して一気に『反乱』を鎮める。

 反乱軍に勝ち目があると判断すれば、鎮圧軍は手のひらを返したように増援軍となって、一気に島の占領にかかる。

 事実上の占領を果たしてしまえば、日本政府の腰が引けている現状では、国際世論は腕組みして中立の旗を掲げるしかないだろう。旗の掲揚台以外は行き届いた戦略だ。

 そう、まずは旗だ。

 アサルトライフルのスコープの中央に軍旗の掲揚索を捉える。

 フッ フッ

 パルスライフルなので、ほとんど無音。軍旗と国旗がハラハラと落ちていく。

 次に、岩に背中を預けて尻餅姿勢、両手両足の先を敵の四カ所のターゲットに向ける。

 まるで弘法大師だ。

 弘法大師空海は、両手両足に筆を持ち、さらに一筆を口に咥えると壁に向かって、瞬時に五行詩を書いて唐の皇帝を驚かせたという。

 わたしは筆ではない。手首足首を寛げて砲口を露出させると、同時に四つの目標に対してパルス弾を発射。

 ズビズビズビズビーーン

 立て続けに、もう一斉射。

 ズビズビズビズビーーン

 直後に横に飛ぶ。敵の陣地八カ所から爆炎が上がるのを横目に見ながら崖を駆け下りる。

 体にはたすき掛けに弾帯をかけている。腹帯と合わせ弾帯には合計で46発の手榴弾。機械化兵用で一発で155ミリ榴弾同等の威力がある。威力の分重量は一発2キロと重い、側車に詰めるだけ積んできたが、重さはともかく(JQの積載能力は1000キロ)、運動能力を削がれる。早々に使い切らなくてはならない。

 ズドーーン ズドーン ズドーーン ズドーーン ズドーン ズドーーン ズドーーン ズドーン 

 時速百キロで駆けながら、手当たり次第に手榴弾を投げ込む。

 敵は混乱した。

 最初にパルス弾を二斉射したところに迫撃砲や機関銃を撃ち込んでいる。六発手榴弾を投げ込んだところで、敵はゲリラ部隊の奇襲と思い、デタラメに銃撃を加えてくる。

 こちらも手榴弾を半分使ったところで銃撃を加える。アサルトをオートにして単発、あるいは連射。

 ダン ダン ダダダダ ダダダダ ダン ダダダダ ダン ダダダダ ダダダダ

 地上すれすれを遮蔽物を利用しながら、あるいは部分的に地下坑道を走って。時おり、残りの手榴弾を投げる。

 ズドーーン ズドーン ズドーーン

 坑道を抜ける途中で小隊規模の弾薬集積所を見つけて破壊。

 ズッドーーーン!

 ダダダダ ダダダダ ダン ダダダダ

 一部では同士討ちさえ始まっている。

 西海岸のメグミがパルス半導体を回収する間だけ敵を引き付けておけばいい。

 あ?

 いつの間にか、鳥居の掲揚台に国旗と軍旗が戻っている。

 旗などアナログそのものだが、味方の健在とくじけぬ闘志を示すのには効果的だ。

 日露戦争では203高地に日章旗が揚がったのをきっかけにロシア軍の抵抗は目に見えて落ちた。硫黄島では摺鉢山の星条旗は日本軍によって二度引き下ろされ米軍によって三度揚げられている。フランス革命ではトリコロールの旗の元に自由の女神の伝説が生まれた。

 ダダ ダダ

 ただちに旗を撃ち落とす。

 ダダダダダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダダダダ

 敵も盛大に反撃してくる。射点を掴ませないように一二秒で移動、瞬間最大速度が200キロを超える。

 敵が三度目に旗を挙げようとした時は、護衛も含め五人の敵兵を撃ち倒した。

 しばらくは旗を挙げようとは思わないだろう。

 

 チュイーン!

 

 たった今まで居た岩陰に火花が散る。

 振り返ると、一番会いたくない敵の姿。

 王春華!

 ザシッ

 岩を蹴って走る、その速さの為に風景が流れるが、春華の姿はブレもしない。

 わたしと同じタイミング、同じ速度で追随しているんだ。

 以下は、双方走りながらの応酬になる。

「越萌マリのお出ましとはね、さすがは総理秘書」

「情報が古いわね、そんなものとっくに辞めたわ」

「この攻撃、越萌マリ一人の所業ね」

「そう? 背後にレンジャーの一個小隊がいるかもよ」

「それはない。最初の八発のパルス弾は貴女が撃ったのよ」

「そうかしら」

「手首足首に血のリングが付いている。手足にパルス砲を仕込んでいる」

「生体組織のリペアは時間がかかるからね」

 さすがに見透かされている。

「弘法大師を気取ったのかもしれないけど、弘法大師が順宗皇帝から賜ったのは『五筆和尚』の称号だったはずよ」

 あ!?

 反射的に飛び退る。

 ゴオオオオオオオオオオオオ!

 大きく開いた口から王春華が吐き出したものは稲妻のような、おそらくはパルスラ波!

 まともに喰らったらJQの義体でももたないだろう。

 しかし、体内にどんなジェネレーターがあるのか分からないけど、これだけのパルスラ波を使えば数秒は動けなくなる。

 まあ、これが潮時。メグミも十分に半導体を回収できただろう。

 

 王春華が動き出したのは、彼女から100メートルも遠ざかったところ。

 1.5秒、予想よりも早い。

 

 丘の上で振り返ると、掲揚台には、まだ国旗・軍旗ともに復活はしていなかった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

 

 

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RE・かの世界この世界:073『プリンツェシン・ローゼンの御業』

2023-04-19 06:41:38 | 時かける少女

RE・

73『プリンツェシン・ローゼンの御業』テル 

 

 

 フラワーポッドは祭りの参加者がよく見えるように、式台の上に円形に並べられている。丸い広場の奥には野球場のスコアボードのようなプロジェクターがあって、祭りの様子を映し出している。

 プリンツェシン・ローゼン役のヒルデは悠然と剪定鋏を構えてポッドの周りを周り始めた。

 わたしたちには見えないが、ヒルデには司祭が示したバラが黒く見えているのだ。

 チョキン

 ヒルデが歩くとドラムロールが鳴って、一つ剪定するごとに音楽隊の小さなシンバルが鳴らされ、広場の空気はいやましに高まっていく。

 おお!

 選定されたバラは、そういう仕掛けなのか悪しきものの性なのか、切られて空中に浮いたとたんにムクムクと大きく膨らみ、クルクル旋回しながら五メートルほど空中に舞い上がる。

 それに呼応して、街中の花壇やフラワーポッドの中からも、いくつものバラの花が太りながら舞い上がっていく。

「さあ、悪しきバラもローゼンシュタットのバラ! 最後に一花咲かせてやろう!」

 司祭がロッドを振ると空中の花たちは、一斉に満開になってクルクル回り始めた。

 そして、旋回の遠心力によって陽気に花弁に分離する。分離した花弁は一瞬輝いて消滅し、消滅と同時にシンバルたちがジャジャーンと慣らされ、祭りは一気に盛り上がる。

 シリンダーとかのクリーチャーを見慣れているので、花が命あるもののごとく飛翔しようが飛散しようが驚くものじゃないのだが、儀式の雰囲気もあって、我々もファンタジーなときめきを覚える。

「なかなか、いい祭りだな」

 タングリスが、いつものぶっきらぼうさで呟く。しかし、いまのタングリスは花の女神と見紛うばかりのピンクのドレスだ。髪も相応しくドレスアップし、同性のわたしが見てもドッキリするほどに美しい。そのギャップが面白く、クスリと笑ってしまう。

「テルだってきれいだよ」

 横で、ケイトがニヤニヤ。そのケイトもラノベのヒロインが務まりそうなくらいにイカシテいる。

「おまえだって(*´ω`*)」

 ロキに言われてアタフタ。

 肩にとまったポチが面白そうに丸い体を揺すっている。

 
 オーーーーーーーー!

 
 見物人のどよめきが上がる。

 なんと、剪定するたびに、残りのバラが色と輝きを増してムクムクと大きくなるのだ。それも、ポッドのバラだけでなく広場から見渡せるバラの全てが身を震わせながら肥えていく!

 そして、ヒルデが最後の一輪を選定した時には、ブルンと音がして町中の幾万幾百万のバラがキャベツほどの大きさになった!

「これがプリンツェシン・ローゼンの御業なのです!」

「「「「「「「「「ウオーーーーーーーー!」」」」」」」」」

 司祭が宣言し、広場中の人たちが感嘆の歓声を上げた。

「ありがとうございます、ブリュンヒルデ殿下並びにおつきの皆さん! こんなにうまくいった降誕祭は初めてです、このローゼシュタットにもみなさんにも神のご加護があることでしょう!」

「さあ、今年もローゼンシュタッテンの儀めでたく成就! 町中祝して呑み明かそう!」

 ミュンツァー町長が宣言すると、広場を取り巻く家々、辻々から大小さまざまなワゴンが繰り出される。ワゴンの上には満たしたビールジョッキが並べられていて、人々が声を上げて飛びつき、町長の音頭で一斉の乾杯になった!

 われわれも、厳しい旅の前途を忘れ、しばしの酒宴に興じたのだった。

「あ、おまえらはノンアルコールな」

 ケイトとロキが持ったジョッキをジンジャーエールに替えてやる。球体のポチは割れ目でストローを加え、チューチューとジンジャエールを吸う。炭酸でも平気なのかと感心すると、小さな体はすぐに炭酸で溢れてゲプーー!

 ロキとケイトが「「アハハハ」」と笑うと、ポチは面白がって何度もゲップ。それをカメラがとらえて会場のプロジェクターに流すので広場に笑い声が満ちた(^_^;)。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 荒れ地の万屋ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・401『早川のお婆ちゃん 一年の宿泊学習』

2023-04-18 09:40:38 | ノベル

・401

『早川のお婆ちゃん 一年の宿泊学習』さくら   

 

 

 ヘルメットを被って一週間。

 

 初日は自転車を降りて戸惑った。

「どないしょ?」

 自転車を降りると、とたんにヘルメットは邪魔。

 ヘルメット被って電車に乗るわけにもいかへん。

「持って行こうか?」

 持っていけんこともないけど、満員電車では気が引けるし、きっと迷惑。校門入るとこで生指の先生に呼び止められそうやし。

 

 さくらちゃ~ん! 留美ちゃ~ん!

 

 お店の方から声がかかったんでビックリ!

 瑞穂さんが亡くなってからずっと閉めてたはずのハンゼイが開いてる。

 で、開けたドアから、檀家の早川のお婆ちゃんがオイデオイデしてる。

「あ、おはようございます!」

「お婆ちゃん、そのかっこう!?」

 早川のお婆ちゃんは、瑞穂さんが着てたんと同じコスで、あっぱれ喫茶店の超ベテランフロア係り!

「若いころ、ミナミの喫茶店で働いてたさかいなあ」

 あとは言わんと、ニッコリ笑って手を出す。反射的にヘルメットを渡す。

「入り口入ったとこに掛けとくさかい」

「ありがとう!」「ありがとうございます!」

 檀家さんとはありがたいもんです。

 それにしても、檀家のお婆ちゃんらは元気です(^_^;)。

「早川のお婆ちゃん、10歳くらい若く見えたね」

「アッカンベ48やし!」

「あはは、そうだね」

「ま、気ぃつけていっといでや」

「「いってきまーす」」

 早川のお婆ちゃんはAKBは知らんかったけど『会いたかった』とかは知ってた。BGM的に耳に入ってたんやろね。

 そんで、ハンゼイのマスターの苦境を知って、昔取った杵柄で話つけてんわ。

 

 それから一週間。

 新学年も半月たって、すっかり日常モードで校門の見える角を曲がった。

 

「「え?」」

 二人そろって驚いた。

 校門からバスが次々に出ていく。

「一年生の子たちだよ」

「遠足?」

「いや、宿泊学習だ」

 気が付くと、横をソニーが歩いてる。

「おはよう、ソニー」

「ああ、おはよう。さくらたちは無かったんだろ宿泊学習?」

「行きたかったあ!」

「あはは、コ▢ナだったからね」

「宿泊学習て、どこに行きやるんやろ?」

「神鍋という話だぞ」

「え、神鍋言うたらスキー場やんか!」

「いまは四月だぞ」

「あ、せやった(^_^;)」

「留美ちゃん、クラスには慣れたか?」

「え、あ……うん」

「園田先生は気は効かないが面倒見のいい先生だ。日ごろからコミニケーションを忘れないことだな」

 あいかわらずの軍人口調やけど、人のことよう見てる。

「じゃあ、今日は日直だから先に行く」

「「うん」」

 スタスタと先に行くソニーを見てると、なにかせんとあかんような気になってきた。

「よし、散策部でどっかいこか!」

「そうだね、四月になって、まだどこにも行ってないもんね」

 

 校門を潜ると、ちょうど最後のクラスのバスが出ていくとこ。

 窓から見える一年生たちは楽しそうな子やら不安そうな子、早くも寝てる子。

 元気そうな中にも緊張感があって、一年前の自分らの姿と重なった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

  

 

 

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RE・かの世界この世界:072『ローゼンシュタッテンの儀』

2023-04-18 06:08:29 | 時かける少女

RE・

72『ローゼンシュタッテンの儀』テル 

 

 

 いつまでこのナリでいなければならないのだ……(-_-;)

 まったく……(-_-;)

 
 わたしとタングリスの思いは同じだ。

 夕べは試着と言うことで、ほんの十分ほどで解放されたが、今朝はプリンツェシン・ローゼンの降誕祭本番。

 顔を洗うと、すぐに昨夜のフランス人形のようなナリにされてしまった。

 ロキとケイトはハローウィンの仮装のように喜んでいる。ヒルデは日ごろのナイトメア設定とは違う赤バラのドレスに戸惑いはあるが、まんざらでもない様子で、朝食のベーコンエッグにナイフを入れている。

「食べておかないと夕方までもたぬぞ」

「食べてからの着替えにしてほしかった」

「こうコルセットを締め上げられては……レンジャーの訓練の方が百倍もましです……」

 タングリスの判断でパンは残すことにして、ベーコンエッグとサラダ、バナナ一本をなんとか胃袋に収めて本番に臨む。

 
 パパパパーン! パパパパーン! パパパパーン!!

 
 出迎えの時の三倍ほどの花火が上がって、パレードが始まった。

 そう広くもないローゼシュタットの町だが、時速二キロほどのバラの山車に乗せられ、にこやかに手を振っていると、けっこうな時間に感じられる。

 町の人たちは、わたしたちの衣装ほどではないが、色とりどりのバラをイメージした衣装で沿道に並び立ち、山車が目の前を通ると、そのまま山車の後ろに付いてパレードに加わった。

 人々が喜んでいるというのは一種のエネルギーで麻酔効果があるのだろう、パレードが広場に戻ってくるころには平気になってきた。

 
「それでは、本年のプリンツェシン・ローゼン、ブリュンヒルデ殿下によるローゼンシュタッテンの儀を執り行いまーす!」

 
 ミュンツァー町長が良く通る声で宣言すると、町の子どもたちによって五つのフラワーポッドが持ち込まれた。

「バラの花には、弱きもの悪しきものが一定の割合で咲いてしまいます。見かけは、どのように美しく華やかであろうと、シュタッテン、つまりは剪定いたしませんと、全体としては祝福の力が弱まります。そのシュタッテンを姫にお願いいたします」

 ゼイオン司祭が恭しく金の剪定ばさみを差し出した。

「あ、でも、どの花を切ってよいやら、わたしには分からぬが」

「鋏を構えていただければ分かります。むろん、司祭にして一級魔導士たるわたしには見えてはおりますが、聖人、あるいは王家の地を引く方が剪定しなければ効果がありません。さ、鋏を……」

「分かった……お、司祭の言う通りだ、黒く見える花が現れる……ん?」

「いかがなされました?」

「一株抜けているような……」

 町長が役人に、こっそりと聞いている。

「神聖花壇より運ぶ途中で取り落とし、埋め戻した時に抜けたようです。が、一株の事、どうぞ今見えているものをシュタッテンなさってください」

「分かった」

 
 ヒルデは、最初の一株を手に取ると、チョキンと音を立ててバラを選定し始めたのだった。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 荒れ地の万屋ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・019『暫定学級委員選挙』

2023-04-17 13:21:36 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

019『暫定学級委員選挙』   

 

 

 オリエンテーションのあくる日、学級委員選挙。

 

 まだ顔もろくに分からない者同士、どうするんだろうと思った。

「学年の始めはクラス全部で動くことや配布物、提出物が多いので、四役だけ決める」

 先生はあっさり言うけど、大丈夫かなあ。

 委員長  副委員長  保健委員  体育委員

 黒板に書かれたのは忙しそうな役職四つ。

「連休明けに本選挙をやるから、とりあえずの暫定だ。だれか立候補する者はいないか?」

 暫定と言っても、こういうのは、そのままになって、半年だか一年だかやらされる。

 こういうのは先生が指名した方がいいよ。先生は調査書とかの資料で情報握ってる。だから調べれば適任者とか経験者とか分かると思うんだけど。下手に選挙なんてやったら、こじれないかなあ、とにかく、みんな分からないんだし。

 なにより、グズグズ伸びて時間かかるのやだし。みんな俯いてるし。

 

「はい」

 

 え、手が上がった!

「おう、高峰やってくれるか?」

「あくまで暫定ということで、委員長やります」

「うん、よし」

 先生は、黒板の『委員長』と書かれた下に高峰と力強く書いた。強すぎてポキっとチョークが折れて、少し笑いが起こる。

「では、副委員長」

「先生、いいですか……」

 高峰君が続いて手を上げる。

「なんだ?」

「辻本さん、いっしょにやらないか?」

――え?――あ?――という空気になる。

「ええと……」

 瞬間ためらって、つぎにシャンと立って宣言した。

「はい、副委員長でよければ本選挙まで引き受けます」

 立つと高身長が際立って――ああ、あの子――と、並んだ時に首一つ飛びぬけてたショートヘアを思い出す。

「では、副委員長、辻本」

 先生も嬉しそうに黒板に書いた。今度は折れなかった。

 フン

 微かだったけど、鼻で笑った気配。

 みんなも感じて、チラリと見る……十円男の加藤高明だ。腕組みして斜め上を向いてる。

 感じわる~

「加藤、保健委員とかどうだ?」

「ごめん被ります」

 静かだけど、きっぱり言った。それも、時代劇の偏屈役人みたいに。

 いっしゅん教室が凍り付きそうになったんだけど、先生はポーカーフェイスで進めて無事に四役が決まった。

 その後は、書類を書いたり、オリエンテーションで不足していたことなどを先生がていねいに説明。鐘の鳴る二分前ぐらいに終わった。

 廊下に出ると、お隣りの四組は花園先生が「だれか、やる人いませんかあ!」と声を張り上げている。

 ちょっと昼休みに食い込みそうだけど、雰囲気のいいクラスだからなんとかなるでしょ。

「メグさ~ん、学食ですか?」

「あ、うん。ロコも?」

「はい、いっしょに行きましょう!」

 軽やかに階段を駆け下りて食堂を目指す。

「メグさん、あれ」

 ロコが出てきたばかりの校舎を指さす。

「あ」

 廊下の窓際で先生と加藤高明が話してる。

 二人とも腕組んでるけど、加藤高明は組んだ腕を窓枠に載せて半身を外に出して、先生には背中を見せている。

「指導してるんですね」

「うん、あの態度じゃねえ」

 それ以上は言わないで学食へ。

 

 学食は高床式じゃないんだけど床が地面より子供の背丈ほど高くなっていて、天井もフロアー部分は吹き抜けで、南北が総ガラス張りという爽やかさ。

「なにキョロキョロしてるんですか?」

「あはは、雰囲気いいなあって(^_^;)」

「厨房の上は同窓会館になってて、その関係で、よそよりもいい設備になってるらしいですよ」

「へえ、そうなんだ」

 相変わらずロコちゃんは情報通だ。

「で……なにか探してます?」

「あ、うん、券売機どこかなあ?」

「そんなもんありませんよ、あっちの返却口の横で売って……あ、直接でもいいみたいですよ」

 上級生が直接お金を渡してる。融通利かせてるんだ。

「え……安い!」

 思わず叫んでしまう。

「そうですかぁ、高くは無いけど普通だと思いますよ」

 だって、安い。

 ランチ100円  カレーライス70円  麺類30円~60円  お握り30円

「安くても美味しいよ(^▽^)/ ご注文は?」

 厨房のオバチャンが笑顔で応えてくれる。ロコはカレーとかけうどん、わたしはランチ。

 窓際に席をとると、南側なので、柔らかい陽がさして雰囲気いい。

「……なんだろ、このフライは?」

 大きなカツが載ってるだけの理由でランチにしたんだけど、間近で見ると、ちょっと怪し気。

「クジラのカツですよ。ほら」

 ロコが示してくれたメニューには一週間分のランチメニューが書いてあって、確かに『クジラのカツ』と書いてある。

「え、クジラなんだ!」

「大丈夫ですよ、臭みは抜いてあるし、しっかり味付けしてあるし」

 いや、そうじゃなくて、令和でこれだけ大きなクジラ、学食では食べられない。むろん値段的にね。

「……う、堅いけど……美味しい!」

「トンカツだったら、ランチにしたんですけどね」

 やっぱ、昭和は違う。

 クジラと格闘しながら予定表のプリントを広げる……明日は身体測定だ。

 ちょっと言葉が変。普通は発育測定だよね。

 お祖母ちゃんが言ってた「昭和の身体検査はパンツ一丁にされるよぉ(^_^;)」って。

 まさか、それは無いよねぇ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
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RE・かの世界この世界:071『ローゼンシュタット・4』

2023-04-17 07:13:09 | 時かける少女

RE・

71『ローゼンシュタット・4』テル 

 

 

 月は人を化かすという。

 漱石は「月が綺麗ですね」と愛を告白させ、受けた女性に「もう死んでもいいわ」と物騒な応えをさせている。中島敦は『山月記』でこじらせ男を虎に変え、伊達政宗も兜の前立てを月にしたばかりでなく「曇りなき心の月を先だてて 浮世の闇を照らしてぞ行く」と辞世の句まで月を頼りにした。月の女神アルテミスは自分の沐浴を垣間見た男を鹿に変えて猟犬に嚙み殺させた……そもそも、このヴァルハラを目指す旅も、月の光がヒルデの戒めを解いたから……。

 なんだか、無駄に月のアレコレを思い出してしまう。

 タングリスが迎賓館に戻ってからも月を見上げていたせいだ。

 
「く、来るなああああ!」

 
 庭とホールを隔てるドアに手を掛けると、タングリスの慌てた声がした。

「どうした!?」

 緊急事態だ!

 腰の剣に手を伸ばすというデフォルトの行動をとりかけたが、戦車乗りのコスに剣は付いていない。

 代わりにモーゼルを引き抜くと傍らの窓の隅っこから中を覗いた。

 着飾った町の幹部たちが見えた……ような気がした。

 同じところから覗いていては気取られるので、ほんのコンマ二秒ほどだ。

 場所を変えて二度三度……人数は八名か……ミュンツァー町長、ゼイオン司祭、他にレセプションで紹介された町の幹部たちが四名。それに、こちらに背を向けているスタイルのいいドレス姿の二人の女性。

 たった今、声がしたタングリスは?

 うかつに見てしまったので、ゼイオン司祭と目があってしまった!

 ゼイオン司祭が組んだままの手をひらりとそよがせた。

 

 カシャリ……掛け金が外れて窓が全開になった!

 

「どうぞ、テル殿もお入りになって」

 司祭にニッコリ言われ、オズオズと窓枠を跨ぐ……そう広くもないホールなので、背を向けた女性の直ぐ横に立ってしまう。

「み、見るな……」

 と言われてしまうと見てしまう。

 数秒かかった。横に立っているのは、髪も整え、美しくドレスアップした……

 

「タ、タングリス!?」

 

 あははははは(((^-^)))

 ホールが明るい笑い声に満ちた。

 タングリスが女の子なのは、ムヘンの流刑地で出会った時から分かっていたが、いつも軍服姿だったので意識しなかった。

 なかなか、どうして……同性のわたしから見ても、震えがきそうな美少女なのだ。

「タングリス、こんなに可愛かったのか……」

「み、見るなと言っているだろうが(#`O´#)!」

「いやあ、明日の降臨祭にはドレスアップしていただかなくてはなりませんので、ちょっと試着していただいておるのです」

 ミュンツァー町長が嬉しそうに言う。

「似合ってるよ……ほんとはまんざらでもないんだろ。こうやって自分で着たんだし」

 そう、自分から進んで着なければ、こんなバッチリな着こなしにはならない。

「ち、ちが……呼ばれて、ホールに入ったら、瞬間で、こうなったんだ!」

「え?」

 ゼイオン司祭がニヤニヤ笑っている。どうやら、白魔法で有無を言わせず着替えさせられたようだ。

「テル! わたしのことも見ろ!」

 初めて気づいた!

 タングリスの隣の赤いドレスは、自慢げに鼻の穴を膨らませてさえいなけてば、そして大口さえ開いていなければタングリスの倍ほどもキュートなヒルデであった。

「すごいぞ、二人ともバラの妖精だ!」

「それが気に入らぬ。我は真正のナイトメア、漆黒の堕天使の衣こそ相応しいのだぞ!」

 そう言うと、ここのところ小康状態であった中二病を全開。体を斜に構えて顔を半分隠すポーズをとる、まるで五更瑠璃か小鳥遊六花!

 
「やっと、捕まえてきたあ!」

 
 騒がしく入ってきたのは、わが相棒のケイト。ケイトに腕を掴まれてジタバタしているのはロキだ。

 二人とも、立派に王子・王女の出で立ちで、空中をプカプカ浮いているポチまでもがドレスアップしている。

「さあ、あとは慣れていただくだけです! さあ、次は……」

 一同の目が集まる。

「え、え? わたし!?」

 
 わたしについては省略……。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・51『魔石の感触』

2023-04-16 17:09:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

51『魔石の感触』 

 

 

 事故や病気で手足を失うことがある。

 失ってしばらくは、失くした方の手や足が痒くなって、掻こうと手を伸ばして――ああ、無いんだ――ということがあるらしい。

 

 それに似ている、失くした魔石。

 

 七日ぶりに学校へ行く電車の中、もう二回も感じている。胸の谷間に魔石がぶら下がってる感じ。

 その都度手を当ててみる。

 むろん失くした魔石があるわけもなく、胸をさすって俯いておく。

 アイドルグループの子に、緊張すると胸をさするクセの子がいたっけ。

 胸をさする仕草と、ヘタレ眉が可愛くて、物真似タレントが決め技みたいにやってウケていた。

 わたしがやったって可愛くない。物真似タレントみたいにウケることもない。

 

 よし、もうやらないでおこうと決心する。

 

 今朝は運よく座れた。前にいっぱい人も立ってるし、目立つことは止めておこう。

 仕事中や任務中は、こんなに内省的になることはない。

 まあやの付き人、時どき代役として充実してる。業界の人たちは、可愛いとかブスとかで対応を変えることはない。

 この業界、可愛い子なんて掃いて捨てるほどいるし、ブスでも活躍してる人がいっぱいいる。

 だけど、制服着てJKというリアルに戻ると、元に戻ってしまう。

 たいていの高校のたいていのクラスに一人はいるジミ子。

 わたしの場合は、その上に二つ名まで付いて、ブス ジミ子。

 

 ちょっと自虐すぎ……

 

 スマホを出してまぎらわせる。

 ニュースをスクロールしていて手が停まる。

 

―― 諏訪湖で局地的異常気象 ――

 

 深夜の諏訪湖に突然竜巻が荒れ狂う。竜巻は、諏訪湖の中央部で発生、稲光を伴い、十数分荒れ狂った後に消滅。気象庁は、単純な竜巻であるとしているが、あまりに均整のとれた形と不動のまま消滅したことから、地元では冬場に起こる御神渡り同様に神の意思を示すものと噂されている。

 説明と、あちこちの防犯カメラやスマホで撮られた映像がいっぱい出ている。

 

 神の御意思なんかじゃない。

 

 猿飛佐助が草原の国の幻術とコラボして埋蔵金をテレポさせている証拠の映像。

 でも、十数分で消滅している。消滅前の数秒を繰り返して見る。

 欲目かもしれないけど、何かに邪魔されてたち切れているように見える。

 社長はみんなで阻止した的なことを言っていた。埋蔵金のいくらかは転送を阻止できたって。

 どれくらい阻止できたかは言ってくれなかったけど、あの洞窟での言葉は気休めではない……と信じたい。

 

 あ?

 

 また胸に魔石の感触。

 思わず胸に手をやって……え、魔石ある( ゚Д゚)!?

 抑えた手にピンポン玉を半分に切ったような手応え。制服の上から握ってみる。

 え、ええ!?

 マジックみたいに手応えが消えて、思わずセーラーの胸当てを引っ張って覗いてしまう。

 とたんに前からの視線を感じる。

 見上げると、オッサン二人と大学生風の顔。揃って――え、残念!――と表情が裏返る。

 そんな、ラッキースケベが地獄になったみたいな顔すんな!

 

 これは、学校行ってもろくなことないと俯きながら改札を出ると、同じ制服が横に並ぶ。

 

 ちょうどロータリーを周って目の前にバンが停まって窓ガラスに二人の顔が映る。

 え、ドッペルゲンガー!?

 すると、隣のわたしが口を開く。

「しばらく大阪に行け、学校は儂たちが交代で通っておく」

 わたしの声が社長の言い回し。

 やり過ごしたバンのドアが開いて嫁持ちさんの顔が覗いて、わたしは当たり前のように乗り込んだ。

 

 あとに続いて猫が乗ってきたのは、わたしも社長も嫁持ちさんも気づかなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
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RE・かの世界この世界:070『ローゼンシュタット・3』

2023-04-16 07:19:17 | 時かける少女

RE・

70『ローゼンシュタット・3』テル 

 

 

 プリンツェシン・ローゼンの降誕祭にやってきたのは偶然だ。

 ノルデン鉄橋が装甲列車の爆発で通行不能となり、ムヘンの首邑ムヘンブルグとムヘン最大の港湾都市ノルデンハーフェンを結ぶ街道はグスタフで途切れ、街道上の宿場は足止めを食らった隊商や旅人で一杯になってしまった。

 やむなく街道を逸れた町か村で泊らざるを得なくなり、広げた地図で、たまたま見つけたのがローゼンシュタットだったのだ。

 見つけたのが、気まぐれ姫のブリュンヒルデなのだから、深慮遠謀などあるはずもない。

 それが、ローゼンシュタットの司祭で老魔導士でもあるゼイオン・タングステンの予言通りで、横断幕やら迎賓館まで用意しての歓待ぶりだ。

 

「なにか隠していることはないのか?」

 

 歓迎レセプションが終わった後、迎賓館の庭にタングリスを連れ出して聞いてみた。

「無いと思うが」

「オーディンに会いに行くのは、オーディンとブリュンヒルデの間に確執……話し合わなければならないことがあるからなんだよな?」

「さすがはテル、的を絞った質問だな」

「なんなんだ、その確執とは?」

「それは……意見が合わぬからなのだ」

「なにについての意見だ?」

「言えぬ」

「なあ、これから長い旅になりそうだ。できるだけ、信頼関係をもって旅をしたいじゃないか、思わないか?」

「思うよ。思うし、あんたのこともケイトのことも仲間だと思っている。わたしも姫も」

「だったら……」

「ここで、あんたに分かりやすく説明することはできるんだが、それでは一面しか説明したことにしかならないんだ。そういう浅い理解は有害でさえある」

「しかし……」

「たとえばだ……」

 すると、戦車兵用の手袋を外して、ちょうど目の前のバラの花に止まった蝶々に手を伸ばす。見かけの割に男勝りのタングリスだが、こういう仕草は意外に女性的だ。

「蝶々の説明をしたいのに、目の前にいるのは毛虫だったとしろ。説明を受けているテルは蝶々を見たこともないとしろ。毛虫の説明をしても蝶々のイメージは分からないだろう、毛虫の説明をいくらしても本質である蝶々からは離れていくばかりだ。もし、蝶々の姿が見たいなら、もう少し我々に付き合ってくれ」

「蝶々ねぇ……そんなふうにはぐらかすあんたは、可愛くないよ」

「フフ、これでもトール元帥の副官を務める軍人だからな」

「もう一つ聞いていいか?」

「答えられることならな」

 蝶々を離してやると、タングリスはわたしに向き直った。

「グスタフからこっち、クリーチャーには出くわさないんだが?」

「じつはな…………クリーチャーと共生しようという奴らが居るんだ」

「クリーチャーと!?」

「ああ、テル、あんたらがこの世界に来て出会ったクリーチャーはほんの一部だ。説明は難しいが、この世界にはいろんなクリーチャーが居る。そのクリーチャーと対決するんじゃなくて共生しようと言うんだ」

「クリーチャーとか(;'∀')?」

「他にも事情はあるんだが、そいつらが、力で我々を……オーディンの秩序を破壊しようとしている。その戦いがあるんだ」

 
 タングリス殿ーーーーぉ!

 
 迎賓館の方で呼ばわる声がして、ヒョイと肩をすくめて、タングリスは大股で行ってしまった。

 
 すぐに戻るのも億劫だ。

 ふと見上げた夜空には恐ろしいほどクリアーな月が浮かんでいる。

 マジマジ月を見るのはムヘンの流刑地でヒルデの戒めを解いてやって以来……あのころはブリと縮めて呼んでいた。

 ほんの四五歳にしか見えない我がまま幼女には相応しかった。

 それが、いつの間にかヒルデに変わっている。少し毒を感じさせる愛称……いつの間にか変わってしまった。

 フフ

 思わず笑ってしまった。蝶々に重ね合わせるには、まだまだガサツな少女だ。

 さて、どんな変わり方をするのか……え、なんだか楽しみにしていないか?

 そもそも、わたしの旅は……と、自分のことを考えようと思うと、月は雲間に隠れてしまった。

 

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・018『オリエンテーション』

2023-04-15 13:08:55 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

018『オリエンテーション』   

 

 

 和式にビックリしたあくる日は対面式から始まった。

 対面式っていうのは、新入生が二三年生に初めて会って、まあ、挨拶する儀式。

 

 教室で担任の藤田先生から対面式を含む一日の説明を聞いて体育館へ。

 と、その前に本館前でクラスごとに並ぶ。

 体育館には、すでに二三年生が離任式を終えて待機しているので、その列の中に速やかに整然と入っていくためらしい。離任式っていうのは、この春で退職したり転勤した先生が生徒にお別れを言う儀式。新入生には関係ない。

 

 わ(*o*)!

 

 フロアに踏み込んでビックリ。

 モーゼの出エジプト記で海が割れるみたいにフロアが開いている。

 二三年が脇に寄って、その真ん中に一年生が入っていく。

 両側からメッチャ視線を感じる。いや、視線以上、もう圧だね。

 それに狭い!

 一学年8クラスで400人近く、その三倍だから……1200人くらい入ってるんクソ狭い。

―― まるでガクトシュツジンだなあ ――

 男子の中から呟きが漏れる。ガクトシュツジンってなんだ? 格付けクイズのチャンピオン?

 上級生からの視線、大半は男子の二三年から。

 

『新入生代表挨拶』

 

 マイクの声で「ハイ」と声が上がって賢そうな男子がステージに上がり、紙に書かれた『挨拶の言葉』を読み上げる。

 なんか、まさに読み上げる。国語の時間に当てられて教科書読んでる感じ。

 ロコの話では、入試で最高得点をとった者がやらされるんだって。

 そう言えば、今朝はロコの顔見てない。チラリと横を見ると三人向こうにロコの横顔。なんか眠そうに視線を落としてる。

 あっという間に終わって、生徒会長が歓迎の言葉。

「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます」

 さすがは生徒会長、紙もメモも読まないでマイクに向かうんだけど、これも印象に残らない。

 話がヘタってだけじゃなく、そもそも、ギューギュー詰めなんで集中力がもちません。

 

 ガラガラガラ シャーー シャーー

 

 なんかガラガラヘビでも出たのかって音がしたと思ったら、先生がギャラリーに上がって窓とカーテンを開けている。

 とたんに頭のモヤモヤが消える……酸欠だったわけ?

 

『対面式は、これで終わります。二三年は教室に戻って二限から授業、一年は引き続きオリエンテーションをやります』

 

 ホォーーーーーーーー(o´д`o)

 

 明らかに――解放されたあ――的なため息、ため息も二学年分まとまると、ちょっと迫力。

 二三年は出ていったし、窓も開いて爽やかな風も吹きこんでくるんだけど、やっぱり眠い。

「ちょっと、みんなでノビしようか!」

 藤田先生がマイクを通さない地声で提案。

 この切り替えは上手いよ。

 地声が新鮮だし、ノビは効くと思う。

「ウ~~~~~~~~~~~~~~ン」

 背伸びするようにノビをすると、わたしたち生徒もフロアに座ったままノビをする。

 前に立ってる先生たちも「ウ~~~~~~~~~~~~~~ン」とノビをする。

 

 あ( ゚Д゚)!

 

 仕事の都合なんだろう、ジャージを着ていた四組担任の花園先生がつま先立ちで精いっぱいノビ。

 で、ジャージの上が上がっておへそが覗いてしまう。

 先生も気づいて、すぐにジャージの上を引き下ろす。もう、顔が真っ赤。

 なんか、そのアタフタが面白くて、四組の生徒たちから笑いが漏れる。

 ああ、四組はいいクラスになるだろうなあ。

 うちの藤田先生はセサミストリートの眉毛でポーカーフェイス。

 こういう時の反射は鈍いみたい。

 

 それから、いろんな先生が『新入生心得』を基にあれこれレクチャーしてくれる。

 だけど、ちっとも頭に入らない。

 せっかくノビですっきりした脳みそが緩んでくる。

「実際行ってみないと……」

 女子の呟きで目が覚める。

 心得の校内案内図を示しながら担当の先生が説明の真っ最中。

 ああ、確かに習うより慣れだよね。

 フワァ~~

 前で男子がノビしてる。あの頭は留年坊主の加藤だ。

 あいつは、二年目だもんね、学校施設なんて自分ちみたいに知ってるよね。

 

 で、やっとオリエンテーションも終わって上履きを履いて外に。

 

 教室に戻るとロコちゃんが頬杖付いて、ちょっとタソガレている。

 そう言えば、今日は、まだ「おはようも」も言っていない。オリエンテーションじゃ俯いてたし。

「どうかした、ロコちゃん?」

「ああ、メグさん、どうしよー!」

「え、なにかアクシデント?」

「アクシデントもアクシデント! マンモス級のアクシデントですよ!」

「え、なになに(^_^;)?」

「ビートルズが分裂したんですよ!」

「あ、え?」

 ビートルズという単語に、すぐにはピンとこない土曜の4月11日だった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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