大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・264『クマの姿をした魔物がほくそ笑む』

2022-03-21 13:15:15 | 小説

魔法少女マヂカ・264

『クマの姿をした魔物がほくそ笑む語り手:マヂカ  

 

 

 バサリ バサリ

 

 黒犬が尻尾を振った。

 なんだか、闇の神主が幣(ぬさ)を振るうよう様に似ていて、暗黒の力が増幅されるような気配がする。

「うわあ、なに、これえ(;'∀')……」

 ノンコが気づいて、霧子もJS西郷もあたりを見回す。

 被服廠跡の縁に沿って、黒い影が次々に現れる。

「……十三人居る」

 素早く人数を数えると、足もとの瓦礫から鉄骨を拾って構える霧子。

 ブン!

「霧子、すごいやんか!?」

「負けられないと思ったら、力が湧いてきたわ」

 ちょっとおかしい、鉄骨は、どう見ても百キロ以上はあろうかと思われるH鋼だぞ。

「そうだ、いいぞ、忌地の力が霧子に収れんされてきたんだ。まだまだ強くなるぞ……」

 クマの姿をした魔物がほくそ笑む。

「霧子、その鉄骨を離せ!」

「こいつら、片づけてやる!」

「よせ!」

「クマの姿を盗んだお前! お前から退治してやる!」

 ブンブン!

 孫悟空の如意棒のように鉄骨が振るわれると、十三人の影たちはフルフルと戦ぎ、クマに向けられた力はほとんど消えている。

「影たちが衝撃を吸収してる!」

「アハハハハ」

「ワンワン!」

 クマの影と黒犬が嘲弄するように、霧子に近寄っては離れていく。

「そこを動くな!」

 ブン! ブン!

「アハハハハ」

「くそ、今のは届いたはずなのに!」

「霧子!」

「霧子さん!」

 ノンコとJS西郷がハラハラしながら霧子に声を掛ける。

 影たちは、霧子が鉄骨を振るう度に柳のようにそよぐのだが、そのたびに闇が深まるような、影が強くなるような気がする。

「トリャーーーーーー!」

 ブン! ブブン! ブブブン!

 連続の打撃も届かない。

「霧子、よせ! そいつら、霧子が攻撃するたびに強くなってる! 霧子の力を吸い取っているんだ!」

「え?」

 タタラを踏んで、攻撃の手を緩めた霧子の前にクマの姿の怪人が降りてくる。

「そうだよ、このステッキも影たちも霧子の憎しみを糧にして力を付けていくのさ……この影たちは、長門の救護隊たちが救った者たち。そう、全て、お前たちが良かれと思ってやったことの力が形になり大きくなっていった者たちなのだよ」

「そ、そんな」

「今日は、もう十分にお前たちの力をいただいた。それでは、この次は虎ノ門で……ん、なんだ!?」

 怪人が気配を感じるのと、そいつが現れるのは同時だった。

「させるかああああああ!」

 そいつは、今の今まで怪人が立っていた地面から跳び出てくると、日暮里高校の制服で見慣れない刀を振りかぶった。

 辛くも一撃は躱した怪人だが、そいつの素早い第二撃は躱せなかった。

 ドシュ!

 浅手ではあるけど、怪人の肩口からは数千のポリゴンじみたカケラが舞い散った。

「お前たち、わたしを護れ!」

 サワサワサワ……

「邪魔だ!」

 スパスパスパスパスパスパパパパパパパパパパパ!

 横ざまに構えた太刀で影たちを薙いでいく。

 太刀が触れる度に影たちは両断され、ポリゴンめいた欠片をほとばせるが、直ぐに形を取り戻して、怪人の周囲を固める。

「ああ、せっかく貯めた力が……もういい、ここまでだ。お前たち、戻るぞ!」

「待てええええ!」

 ズバ!

 敵わぬまでも振り下ろした一撃が、最後に怪人を庇った影を両断した。

 その影は、前の十倍ほどの欠片を煌めかせると、元に戻ることも無く消えて行ってしまった。

 怪人も黒犬も、残り十二体の影も、その隙に消えて行ってしまっていた。

 

 ハーハーハー……

 

 刀を握ったまま膝を落としたそいつは、激しく肩を上下させて、しばらくは声も出せない様子だ。

「おまえ、詰子……」

「「「ツンコ!?」」」

「真智香のお知り合い?」

「ああ……妹……だ」

「「「妹!?」」」

 

 わたしも、よく分からない、令和の日暮里にいるはずの詰子が、なぜ大正十二年に……

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

  

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せやさかい・286『ガッシャーン!』

2022-03-21 10:13:29 | ノベル

・286

『ガッシャーン!』   

 

 

 春眠暁を覚えず…………ネボスケの言い訳。

 

 こないだまでの冬の名残はどこへやら、おとついからは、ほんまに春めいて来て起きるのが遅なってきた。

 薄目を開けると、隣のベッドで留美ちゃんもまだ寝てる。

 お互いさまですなあ、御同輩……

 そう思て、お布団を被りなおす幸せ……。

 

 ガッシャーン!

 

 突然の音に、うちも留美ちゃんも飛び起きる!

「本堂の方だわ!」

 留美ちゃんは、すぐにスイッチが切り替わって、半纏を羽織って本堂へダッシュ。

 うちも、ワンテンポ遅れて本堂へ向かう。

 

 うちらの部屋は、母屋である庫裏と本堂の間の中二階みたいなとこにあるから、本堂の音やら気配はけっこう聞こえる。

 本堂の外陣に出ると、テイ兄ちゃんが東京タワーに押しつぶされたモスラみたいになっとる。

「大丈夫ですか!?」

「朝から、騒々しいなあ」

 留美ちゃんと二人、気遣いの違いあり過ぎの言葉をかける。

「えーと……えーと……」

 気遣いの言葉を掛けたものの、テイ兄ちゃんの上に覆いかぶさってる東京タワー的な残骸は、どこから手ぇつけてええか分からへん。

「すまん、まずは、電源抜いて、ケーブルやらコードをどけてくれるか」

「はい!」

「難儀やなあ」

 とにかく、ケーブルを抜いてまとめる。

 まとめながら、この残骸はなんやったんかいなあと考える。

「ここのところ使ってなかったですもんね」

「うん、やっぱり、多少のリスクはあっても、ヂカにお参りしてほしいう檀家さん多かったさかいなあ……」

 ケーブルを始末していくと、ノソノソ自分で這い出して来るテイ兄ちゃん。

 アホなうちでも、ようやっと思い出す。

 この残骸は、デジタル檀家周りのシステムや。

 

 無駄にスキルのあるテイ兄ちゃんは、知り合いのあちこちから譲ってもらった機器で本堂の隅に設備を構築した。

 檀家さんの家には、これまた中古のパソコンやらモニターを置いてバーチャル月参りをやってた。

 頼子さんとこからも3Dホログラムのセットとかが届いて、うちらもバーチャルお茶会とかやってた。

「蔓延防止も、今日で解除やしなあ、潮時や思たんや」

「そうだ、そうですよね!」

「さっさと片づけてお茶にしよか!」

「まずは顔洗て朝ごはんやろ」

「もう、騒々しい音させて起こしてくれたんは、どなたさんですか?」

 あらかた片付いたところで詩(ことは)ちゃんがおっぱん(仏さんのごはん)を供えにやってくる。

「もう、朝からなにやってんのぉ?」

 やっぱり、この騒動は庫裏の方には聞こえてなかったみたい。

「ねえ、朝ごはん食べたら、あたしたちも片づけしようか?」

「ああ、それいいかも。わたしもやろうかなあ」

 ということで、朝ごはんの後は、女三人でそれぞれの部屋の片づけをすることになる。

 

 部屋に戻って見ると、留美ちゃんの机の上には参考書やお勉強道具、読みかけやら、これから読む本が積んである。

 うちの机は、ツケッパのパソコンとポテチの袋……やっぱり、心がけが違う。

 パリポリ

 袋に残ってたポテチの残りを食べて、袋を丸めて、ポイ。

 カサ、カサカサ……コロン

 うまいこと入らんと口を開きながら袋は転がってしまう。

「あ、いま掃除機かけたとこなのにぃ(;'∀')」

 留美ちゃんに怒られる。

 まあええわ。留美ちゃんも、うちには遠慮せんようになったいうことやさかい。

 で、片づけたら、留美ちゃんは堺市指定のゴミ袋にほどよく一杯。

 うちは、ローソンのレジ袋に一杯。

 うう……断捨離の精神は、留美ちゃんの方が上手(うわて)です。

 

 でもね「中学の制服はしばらく置いとこうや」と提案した、うちの気持ちは正解やったと思うんです。

 人生十五年のうちの三年間、今月いっぱいぐらいは偲んでみてもええと思うんです。

 

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明神男坂のぼりたい・106〔バンジージャンプ〕

2022-03-21 06:54:33 | 小説6

106〔バンジージャンプ〕 

  


 AKR47の母体はユニオシ興行。

 日本で一番人使いが荒い。

 当たるとなると、半日の休みもくれない。これでは、先日の仲間美紀みたいな子も出てくる(リスカだったけど、命に別状は無し。だけど、休んでる間に、ゴーストライター付きで手記を書かされている。ほんとに無駄のない会社)

 あたたちは、まだまだ売り出し中なので、オファーのあった仕事はなんでもやる……やらされる……やらせていただく。

 今日は、わざわざ新幹線とバスを乗り継いで、バンジージャンプのメッカ愛知鷹尾ハイランドにまできている。

 あたしたちはAKBみたいに自分の番組持てるところまでいってないので、ヒルバラ(お昼のバラエティー)に10分のコーナーをもらってて、メンバーが、とっかえひっかえ、いろんなことをやらされる。

 

 水を張った洗面器に顔を突っ込んでどこまで耐えられるか競走 

 渋谷の交差点で交通量調査の要領でイケメン通過調査競走

 浅草で人形焼きの早食い競争

 東京タワーの階段早登り競争

 逆立ち10メートル競走

 温水プールバタ足50メートル競争

 とげぬき地蔵でくぎ抜き競争

 

 で、10回目記念に、六期生対抗バンジージャンプというのをやらされた。

 いえ、やらせていただきました(-_-;)。

 

「ええー、どうしても明日香がやりたいというので(だれも言ってません!)この愛知鷹尾ハイランドのバンジージャンプにやってきました。ここはジャンプしながら願い事を叫ぶと叶うそうです。デビューからたった2カ月、どんな願いがあるのでしょうか(決まってるじゃん、ゆっくり寝かせて!)でも、ここの願い事は、ジャンプするまでは口にできません。しゃべってしまうと効果が無いそうです。で、明日香にはカメラ付きの……」

 スポン

 ヘルメットを被せられた。

 顔の前には自撮り、メットの上には、あたしの視線とシンクロさせたチビカメラが付いている。

 ホントはメンバー二人が飛ぶはずで、ジャンケンに負けたカヨちゃんも飛ぶはずだったんだけど、リハでちびってしまうぐらいの緊張の末に過呼吸になって、急きょチームリーダーのあたしが二人分の内容=おもろさを出して飛ぶことになった。


「なんで、明日香が選ばれたか分かる?」

 MCのタムリが聞いてくる(なぜか大阪弁のテロップ『おまえやんけ、やれ言うたん!』)

「え、あ、センターだから?」

「いや、明日香だけが、自分の部屋3階にあるから」

「ええ、マンションの五階とかに住んでるのもいますよ」

「戸建てで、三階は明日香一人だから。で、準備は万端?」

「うん、トイレも二回もいってきたし……たぶん大丈夫」

「よし、絶対成功する御呪いしてあげる……」

 そう言って、タムリはあたしのすぐ横に寄ってきた……と思たら、突き飛ばされた!

 

 ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 そう叫んだとこまでは覚えてる。

 そのあと、あたしはモニターの中からも、みんなの視界からも一瞬で消えてしまった……

 

 

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銀河太平記・099『追う』

2022-03-20 12:07:39 | 小説4

・099

『追う』加藤 恵   

 

 

 国道というのは文字通り国の道で、管理する義務と権限は国にある。

 厳密には国交省の管轄で、西ノ島では、ついこないだ乗り出してきた西ノ島管理事務所が担っている。

 その所長の及川が、島の主要道路を国道に指定すると同時に制御盤を設置したのだ。

 

 車検と登録のない車両が国道に乗り入れると、制御盤から発せられるパルス信号によって、強制的にエンジンが停められてしまう。

 島は、事実上の自治区のような状態だったので、国の法律や規制は免除されてきたのだ。

 法の網をかぶせ、規制を布くということは、逆に言えば、国が保護して責任を負うということになるので、日本政府はずっと西ノ島を化外の地として放置してきた。

 しかし、希少資源であるパルスガ鉱が発見されるに及んで、政府は、がぜん色気を出してきた。

 多少のリスクはあるが、西ノ島の鉱山資源を手中に収めれば、エネルギー政策的にも海外に依存せずに済むし、国際社会での地位も発言権も大きくなる。

「国は、我々を潰す気なんだ!」

 社長と並んで温厚な主席も語気を強くする。

 カンパニーゲート前に集まった者たちの視線は、自然とヒムロ社長に向いていく。

「仕方がない、わたしが話を付けに行きます」

「じゃあ、わたしも付いて行こう、同志氷室」

「俺たちも!」

「みんなは待っていてください。大勢で行けば角が立ちます。こういう場合は、おからか鉋屑みたいに頼り無げな者の方が適任です」

「あたしならいいだろ、食堂のオバチャンなんだから」

「及川さんは、お岩さんの前歴も知っているはずです。あの人にはギャラクシー興銀の元やり手支店長と映っていますよ」

「じゃ、せめてお弁当持ってって……ほら、さっき作りかけた宴会飯のアレンジだけど」

「これはいい、場が和みますね」

「でもよ、社長」

「なんですか、シゲさん?」

「奴は、饗応に当るとか言って、食わねえんじゃねえか?」

「じゃ、実費でお分けしましょう。お岩さん、いくらになるかなあ?」

「……んまあ、390円?」

「じゃ……」

 社長はメモ帳の切れはしに¥390と書いてパッケージに貼った……。

 

 社長が、レジ袋をぶら下げてゲート前を出発したころ、及川は西の国道を公用パルス車で逃げていた。

「く、くそ! 何だって言うんだ、あのインディアンはああああああ!」

 なんと、ナバホ村の村長が馬に乗って管理事務所を襲ってきたのだ。

「インディアン、不正を憎む! 不正を許さない!」

 そう叫んで、弓を構え、たった一騎で日本政府の上級職公務員を追い回しているのだ。

 ナバホ村の村民たちは、いっしょに付いていくと言ってきかなかったが、類が村全体に及ぶのを避けるために「付いて来たら殺す!」と言って同行を許さない。

「くそ、あの馬はロ馬(ロボット馬)じゃないなのかあ(;'∀')!? 23世紀だぞ! リアルホースなんてありえないだろ!」

 上級職用ハンベを操作して、国道用制御盤よりも強力な衛星パルスを食らわせたが、村長にも馬にも通用しない。

「くそ、警察呼ぶぞ! ここの管轄は……東京都……警視庁?」

 西ノ島は東京都の管轄だが、東京の南海上2000キロの位置。

 海保にしろ水上警察にしろ、通報して到着するのに、いくら上級職公務員の通報とは言え三時間はかかるだろう。

「くそ、くそ、三時間も待ってられるかあ」

 ピシュ!

「ゲ!!」

 少しでも送受信の効率を上げようとドアウィンドウから出した左手のハンベに矢が掠って、砕け散ってしまった。

 アナログの武器を向けられては、成すすべがない上級職公務員!

 パカラパカラパカラ…………

 蹄の音が加速してくる!

「ヒエーー!!」

 ドンガラガッシャーン!

 エマージェンシ―モードに切り替えられていなかった公用車は、国道を外れて岩場に侵入してしまい、あっという間に、先日の地震でできたクレバスに転落してしまった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・105〔フレキシブル〕

2022-03-20 08:36:47 | 小説6

105〔フレキシブル〕 

                   

 


「美紀はいけるかもしれんなあ……」

 仲間美紀を見舞った帰り、車の中で笠松プロディユーサーが呟き、クララさんが頷いた。

 いける? なんだろう?


 事務所に帰ると、見舞いに行ったメンバーに市川ディレクターと夏木先生も加わって小会議になった。


「美紀は、どこか吹っ切れた顔をしていた。リストカットに失敗はしたけど、自分の中の何かが吹っ切れた顔になってた。どう思う?」

「わたしは、美紀ちゃん自身分かってないと思いました」

「いちおう安心はしたんだと思います。自分は死ねないという見定めがついたのか、また続けようかという気持ちかは分かりませんけど……」

 クララさんは断定的に言う。あたしは、そこまで言い切る自信は無くて語尾が濁る。

「これは、持っていきようだと思うんだ。こちらの押方次第で、美紀はどちらにでも変わる。どうだろ市川さん?」

「もう一つ勝負に出ますか」

「うん、アイドルグループで、リスカやったのは美紀が最初です。だから、それを乗り越えて続投するのも初めてになります。賭けてみる値打ちはあるかもしれませんね」

「あたしも、それがいいと思います。ここまできた六期生です。他の子たちには、まだまだ伸びしろがあります。美紀を引退させたらイメージダウンだし、みんなのモチベーションにもかなりの影響が出ます」

「そうだよな、ここまで製作費つぎ込んだ……いや、そういうことじゃなくても……」

 笠松さんは、なにやら考えながら顎をなでた。うちは、美紀ちゃんのことより、制作面やマネジメントの方に重心のある話に、ちょっと違和感があった。で、思い切って発言した。


「大事なのは、美紀ちゃんの心だと思うんです。まだ15歳です。美紀ちゃんの心に傷が残らないように考えるのが第一だと思います」

「ちょっと、俺の腕見てくれる?」

 笠松Pは左腕を水平に伸ばして見せた。

 え?

 市川Dは――ああ、それかあ――という顔をしてるけど、わたしとクララさんは、ちょっと驚いた。

 市川Dの左腕は10度ちかく逆方向に曲がってる。

 女の子で、時々逆方向に曲がる子がいるけど、体の柔らかさの証明みたいなもので、まあ、せいぜい5度くらいのもの。それが、五十前の男の人の腕が逆への字に曲がってるのは、ちょっと引いてしまう。

「小一の時に骨折してさ、病院も遠かったりで、途中で治療をやめたんだ。すると、こんな骨の付き方になっちまって」

「おまえ、それで体操部断念したんだったな」

「ああ、その腕じゃ、いずれ大きな怪我をするって先生に言われてなあ。日常生活に支障は無かったけど、人生の選択肢は狭まってしまった」

「美紀もいっしょだって言いたいのか?」

「ああ、医者は普通に日常生活できれば治ったってことになるんだろうけど、美紀の心の大事なところは曲がったままになると思うんだ。美紀は才能のある子だ、それが、ここで妥協したら、人前で自分を表現するのが苦手な子になってしまうと思う」

 人前で自己表現……学校の先生……だんご屋のアルバイト……巫女さんだって笑顔が大事だし……

「まあ、笠松は、そのおかげでこの業界に入ったんだけどな」

「うん、今度のことが、美紀の傷にならずに、将来の道を狭めることにならないように考えてやるべきだと思うんだ。それに、持っていきようによっては、美紀の心も救って、AKRをジャンプさせることもできると思うんだ」

「手記を出そう!」

「手記……そんなの書けるほど、美紀ちゃんは回復してません」

「アシスタントを付けるよ。桃井ってゴーストライターが使えると思います。大阪の奴ですが、明日にでも呼びます」

「よし、その線でいってみよう。明日、夏木さん、美紀のところに行ってくれないかな。全員じゃ多いから選抜から何人か引き連れて」

「了解しました」

 あっという間に話はまとまってしまった。市川ディレクターは、さっそく桃井さんに電話。夏木先生はメンバーに話しにいった。

 

 明日か明後日かと思ったら、その日の午後には桃井さんがやってきて、早くも全てが動き出した。

 

「桃井君、これがチームリーダーの明日香、こっちが座長の嬉野クララ。美紀が君に慣れるまで、どちらかをつかせるから、よろしく頼むよ」

「おまかせください。美紀ちゃんの心を癒して、ほんでから、同世代の同じような悩みを抱えてる子たちの心に訴えかけるような手記をものにします。お二人さんとも、どうぞよろしゅう」

 宣言して上げた顔は、どこかで見たことがある……あとでクララさんに言ったら「それなら、ビリケンさんだよ」と言われ、スマホで検索したらなるほどだった。大阪では有名な福の神で、足の裏をさするとご利益があるらしいけど、さすがに「足の裏触らせてください!」とは言う気にはなりません(^_^;)。

 桃井さんは、東京駅から直行して、あたしたちと話している。手許のタブレットには美紀に関する資料がノート一冊分ぐらい入ってた。びっくりしたことには、美紀が今まで住んでた三軒の家の外観、間取り、近所の地図と写真まで入っている。

「いつの間に揃えたんですか!?」

「新幹線には三時間近う乗ってますねんで、無駄にグリーンは乗ってません」

「え、グリーンで来たのか!?」

「はい、領収書」

 渋い顔をして領収書を経理に回す笠松P

「え、弁当代も入ってんのか、それも二つ!」

「文章書くのは頭使いまんねん。頭のエナジーは食いもんでっさかいなあ」

「アハハハハ、さすがは、一流のゴーストライターだな」

 市川Dがノドチンコむき出しで笑う。

「もう、ゴーストライターって言わんとってくださいよ、シンパシーライターです。相手の心に同化して、本人が言葉にならへん思いを文字に起こす仕事です。今度の仲間美紀さんの場合はカウンセラーでもあるつもりでっさかいね」

「ハハ、そうやってギャラ上げようって腹かあ……」

「堪忍してくださいよ、このお二人が変に思うやないですか。確かにぼくは世間でいうゴーストライターです。今のところ、そういうカテゴライズしかないからね。それから、ぼくは、これによって収入も得ている。せやけど考えてねぇ、世の中100%の善意もないけど、100%のビジネスもない。ぼくは、そのバランスはちゃんと取っているつもりだっせ」

 桃井さんは怪しげな圧があったけど、話しているうちに引き込まれていく。美紀やみんなとの二か月半を、いろいろと話した。桃井さんはヘラヘラと聞いてるみたいだったけど、マジになったり笑ったり、美紀のリスカに気づいて助けたくだりは、気づいたら手を握られていて、話終わったら昔からの知り合いのオイチャンみたいになってしまってた。

―― 明日香の世界も、たいがいだな ――

 家に帰ったら、さつきが、苦笑いしながら言う。どうやら、あたしは「乗せられてる」状況かもしれない。

 だけど、これで美紀が立ち直り、メンバーもうまくいったら、それが一番いい。

 あたしも、この業界のフレキシブルに慣らされてきたのかもしれない……。

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鳴かぬなら 信長転生記 64『茶姫の手の平に載る』

2022-03-19 11:19:45 | ノベル2

ら 信長転生記

64『茶姫の手の平に載る』信長  

 

 

 転生は扶桑の専売特許ではないのよ。

 

 あやうく茶を噴き出すところだった。

 秘書官の備忘録の用件がすんで、椅子に腰かけるやいなや、カマされた。

「職丹衣(しょく にい)、君は織田信長の生まれ変わり。で、そちらは信長の妹、市の生まれ変わりの……こちらでは、職市(しょく しい)よね?」

「なぜ、知っている?」

 今朝出会った時から、かなりのところまで知られていると思っていたが、まさか転生したことまで知っていたとは思わなかった。

「スパイを送り込んでいるのは、そちらばかりではない……とは思わないかしら?」

「であるか」

「でも、職丹衣とは、うまくつけたわね」

「そうか」

「ええ、シイが君を呼ぶときは『にいちゃん』で済むわよね。シイ……市は、良くも悪くも兄妹愛が抜けないみたい」

「そんなことはない!」

「市、おまえは黙ってろ」

「なにさ!」

「アハハハハ」

「「なにがおかしい!?」」

「いや、失礼。報告にあった市という子は、針の先のように鋭く気難しいというものだったのでね。いや、見た目通りの女の子なので、ちょっと嬉しくなったわ」

 たしかに、三国志に来てから、少々幼さを感じさせる市だが、そこまで茶姫は見抜いている……だけではなく、茶姫は『幼い』とは言わずに『見た目通り』と、市の神経を傷つけない言葉を選んでいる。ちょっと油断がならない。

「おまえも、誰かの転生なのか?」

「うん……というか、いいえでもある」

「なんだ、それは?」

「転生の自覚はあるけで、あなたたちのように、誰の転生なのかは分からない」

「ほお……」

「あら、にいちゃんは、なにか感心するところがあるようね」

「にいちゃんと呼ぶのは止せ」

「じゃあ、にいさん?」

「ただの『にい』でよい」

「天下の織田信長を?」

「ここでは、ただの職丹衣だ」

「だからにいさん」

「う」

「アハハハハ(≧∇≦*)」

「笑うなシイ!」

「困ったわね、おにいさん」

「コラ(;`O´)o」

「じゃあ、少佐」

「少佐?」

「ええ、決めたわ。近衛少佐職丹衣と同じく近衛少尉の職市」

「え、わたし三階級も下の少尉なの!?」

「厳密には特任少佐と少尉。まあ、参謀と話相手の中間みたいな。実質無任所だから動きやすいと思うわ」

「御伽衆のようなものね? うん、わたしは、それでいいよ」

「しかし、なぜ、そこまで好意的なのだ?」

「それを含めてスパイしてくれるといいわ。条件は一つだけ」

「なんだ」

 瞬間、茶姫の瞳が真剣な光を宿すので身構えてしまう。

「なにを調べてくれてもいいけど、破壊活動だけはしないで。ものを壊したり、人を殺したり……」

「もう、殺してしまったぞ」

「夕べの事は、人命救助のための正当防衛でしょ」

「そうだ」

 そうか、とりあえずは、俺たちを近衛として取り込むことで曹素への牽制にはなる。

 そう理解して、取りあえずは茶姫の手の平に載ることにしたぞ。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍

 

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明神男坂のぼりたい・104〔仲間美紀の波紋〕

2022-03-19 07:04:32 | 小説6

104〔仲間美紀の波紋〕 

     

 


 カメラのランプが赤に変わると、座長の嬉野クララさんが静かに語り始めた。

「AKR47座長の嬉野クララです。今日は、みなさんにご心配、ご迷惑をおかけしたことを、まずお詫びいたします。ファンの皆さんのお引き立てと応援でAKR47はここまでくることができました。そして6期生は特にみなさんのご支援のおかげで『VACATION!』、空前のヒットをさせていただきました。わたしたち1期生をはじめメンバー、スタッフは大変喜んでおりました。しかし、みなさんの応援、ご支援に、まだ十分なお応えをする前に、大変な事故を起こしてしまいました。6期生の仲間美紀が、過労から自傷事故を入院先の病院でおこしてしまいました。幸い発見が早く、大事には至りませんでした。SNSや新聞、テレビを通じてご承知のこととは存じますが、仲間美紀の異変に気づき、いち早くその救助をしたのは、6期生チームリーダーの鈴木明日香でした。わたしたちは6期生はもとより、まだまだ未熟ではありますが、前を向く気持ちと、ファンのみなさんの気持ちを第一に、頭を打ちながらではありますが日本を代表するアイドルグループとして精進していく所存です。仲間美紀は、しばらくの間休養させます。このような大事を起こしてしまいましたが、AKR47は一日も無駄にせず、みなさんのお気持ちご支援に沿えるよう努力いたします。ご心配、ご迷惑をおかけしたことを、いま一度深くお詫びいたします」

 クララさんが頭を下げて、カメラはあたしに向けられた。

「わたしは、AKR47のメンバーになって二月あまり。チームリーダーになって一か月ちょっとにしかなりません。しかし、どの世界でもリーダーは、その立場になった時から十分に注意を払い、チームを引っ張っていく責任があります。仲間美紀の事故は、たまたまわたしが一番早く気が付き、対処できましたが、仲間をはじめメンバーの統率やケアに気が回らなかったのは、わたしの責任です。今後は、こういうことの無いように、いっそうの努力に努めます。これからも、AKR47、なにとぞよろしくお願いします」

 カメラがロングになり、あたしとクララさんのバストアップになり、二人そろって深々と頭を下げ、カメラのランプが消えた。

 ああ、なんとかお詫びのご挨拶は言えた……と、思ったらADさんが『自分の名前』と書かれたカンペをしまうところ。

 そうだ、あたしってば、所属も名前も言ってなかった(;'∀')。

「だいじょうぶよ、テロップで出てるから」

「あ、でも、すみませんでした!」

「それは、わたしじゃなくて、ADさんと、笠松さんに。ほれ」

 肩を叩かれて、ADさんと、スタジオの隅に立っている笠松Pにお詫びする。ADさんは恐縮して、逆に頭を下げられ、笠松Pには子供みたいに頭を撫でられた。

 で、クララさんへの挨拶が中途半端なのを思い出し、取って返して再び頭を下げる。

「ありがとうございました、クララさん! 6期のミスにつきあわせてしまって!」

「座長は、あたしよ。こうするのが当たり前。だけど美紀ちゃん、大したことなくって、ほんとによかったね。動画に撮られてなかったら、こんな大騒ぎにならずに済んだんだろうけど。ま、これで一区切り。前向いていこ、前向いて。ね!」

「はい!」

 録画したものは、すぐにSNSに流されていた。これで、少しは収まるだろ。

 だけど、ウソが一つあった。


 美紀は……休養じゃなくて引退。


 だけど、それは伏せた。カッターナイフで手首切って自殺しかけ、そのことで引退いうことになったら『VACATION!』そのものができなくなってしまう。プロモも二回撮った。オリコンチャートも順調。ここで止めるわけにはいかないんだ。

 あたしとクララさん、そして笠松プロディューサーで、仲間美紀の病院に向かった。ダブスタかますために……。

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せやさかい・285『「恋するマネキン」を観る』

2022-03-18 13:33:16 | ノベル

・285

『「恋するマネキン」を観る』   

 

 

 灰燼に帰した新首都は見る影もなく、うたた荒涼たる瓦礫の上を気の早い北風が吹きすさぶばかり。

 ガサリ ガサガサ ガサガサ……

 元は何のパーツか分からない砕けが瓦礫の山から転がり落ちたのは、長引いた内戦に気力も体力も失った者には風のいたずらに見えたかもしれない。

 ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン

 転がり落ちる途中で、砕けに火花が散って、砕けは微細な破片になって転がり、瓦礫の山を半分も下らないうちにさらに微細な埃のようになってしまい、北風に吹きさらわれてしまった。

 チ

 ネキンは、もう何百回目になるか分からない舌打ちをすると、やっと、銃身の焼けたパルスレーザを下ろした。

「ネキン殿、まだまだ先は長い、熱くなってはもたな……」

 副長の忠告は尻切れトンボになった、この三日、ネキンの手綱を締めっぱなし。さすがに疲れたか……

 振り返ると、副長の頭には野球ボールほどの風穴が空いている。

 ドサ

 ネキンの身じろぎが伝わったのか、副長はネキンの驚愕と同時に倒れて、デブリの埃を舞いあげた。

 ピシュン ピシュン  ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン  ピシュン ピシュン

 パルスレーザーを乱射しながら跳躍。

 着地したネキンの鼻先には赤いパルスレーザーのポインターが当たっている。

「動いたら撃つ!」

 意外の至近距離にマネキ。パルス狙撃銃のトリガーは半分まで絞られている。ネキンの腕でも切り抜けられる確率は二割も無い。

「マネキ、右脚を失ったのか?」

「そうよ、だから、ここにおびき寄せるまでは手が出せなかった……ネキンをおびき寄せるのに五人も命を落とした。その五人のためにも、ここで仕留める!」

「さっさと撃てばいいのに、副長を仕留めた腕なら造作もないだろ」

「ダメ、副長は、自分が死んだという自覚もないままに逝ってしまった。ネキンには自覚して逝ってもらう」

 ピシュン

「ウッ」

 マネキは、瞬間で照準を変えて、ネキンの右脚を吹き飛ばした。

「あんたにも、同じ痛みを味わってもらわなきゃね」

「くそ……」

「次は仕留める……」

 シュビーーン

 パルスレーザーよりも重い銃声がしたかと思うと、二人の銃のバレルが消し飛んだ。

「「!?」」

「そこまでです!」

 声のする方を向くと、瓦礫の傾斜から一メートルほど浮いてブロンドの美少女が実体化している。

「「ノルンの女神……」」

「他の時空に手間取っているうちに、ここまでこじれてしまったのね……」

「あんたは、任せると言ったんじゃないのか」

「言いました。とても仲良しの二人だったし、あなたたちに任せれば、この時空世界はうまくいくと思いました。だから、マネキにはソドム。ネキンにはゴモラの国を任せたのです。対立するのではなく競い合い励まし合って、それぞれの国を発展させてくれるだろうと……二人とも、お互いの夢を尊重し、尊敬していましたね。人の心は移ろうもの、夕べ白であったものが、今朝には黒になるのが世の習いとはいえ、マネキとネキンならば、その習いを覆し、この地上にヴァルハラの如き美しく堅固な国を作るであろうと思いました」

「作ったよ、ここにあったよ! 新生ソドムが!」

「わたしも、新生ゴモラを栄えさせた!」

「「でも!」」

「お黙りなさい!」

「二人は、夢の実現、二つの国の弥栄のため、二人の関係を兄妹にしてくれと言いました」

「「え?」」

「兄妹ならば、齢(よわい)を重ねても、尊重し合いながら、冷静に見ながら国造りに励めるだろうと」

「他人同士だった?」

「なんてこと!?」

「道理で似てないわけよね」

「合わないわけだ!」

「お黙りなさい!」

「「…………」」

「あなたたちは、将来を約束した恋人同士でした」

「「えええ!?」」

「しばらくは、二人の未来も棚上げにして、ソドムとゴモラの国と人々に尽くそうと、わたしに頼んだのですよ『二つの国を平和で豊かな国にするため、わたしたちを兄妹にしてください』と」

「「…………」」

「いま一度、あなたたちを……」

「「無理です!」」

「他人同士に戻します、そして、担当する国も入れ替えます。いま一度やりなおしなさい」

 そう言うと、ノルンは両手でハートの形を作り、それを分けるような仕草をする……すると、二人は白く光り出し、瞬くうちに無数のポリゴンのように分解し、それまでとは逆の国の空に流れて消えてしまった。

 それぞれの空を一瞥すると、ノルンは、静かな足どりで瓦礫の街を歩み始める。

 ノルンが歩いた跡には、一叢ずつ草花が萌えはじめ、エンドロールがテーマ曲と共に流れ始めた。

 

  恋するマネキン 第一期 完

 

テイ兄ちゃん:「……で、どれが頼子さんやったんや?」

 テイ兄ちゃんが間抜けなことを言う。

さくら:「出てるやろが……」

留美:「エンドロールに……」

詩(ことは):「あ、ノルンだったんだ……」

おっちゃん:「いやあ、声もベッピンさんや……」

おばちゃん:「緊急事態も、いよいよ解除ねえ」

ダミア:「ニャーー(また会いたいなあ)」

 

 夕べは人気深夜アニメ『恋するマネキン』の最終回。

 如来寺では家族みんながリビングに集まって80インチのテレビで鑑賞しました。

 主役のマネキとネキンは人気声優の百武真鈴さんで、じつは真理愛学院に通う生徒会役員の現役女子高生。

 その百武さんが、卒業式の送辞を頼子さんに頼んだんやけど、ガードのソフィーが「その代わりにヨリッチ(頼子さんの学校での愛称)を『恋するマネキン』に出してください」と粘って実現した夢の交換条件。

 ちなみに、エンドロールの名前は正式なもんでした。

 ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン

 むろん横文字で……ちなみに、これはお祖母さまの女王陛下の注文やったんやそうです。

 

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明神男坂のぼりたい・103〔The Summer Vacation・10〕

2022-03-18 06:39:16 | 小説6

103〔The Summer Vacation・10〕 

           

 

 結局、仲間美紀は辞める決心をしてしまった。

「……でも、あたしを引き留めてくれるのは、明日香さん自身のためなんでしょ?」

「……そだよ、あたしのため。やっと軌道に乗りかけた6期、このまま仲間を失ったら、みんなへの影響が強すぎる。あたしの使命は一人も欠かさずに、きちんとメジャーに、AKRの看板にすることだからね」

 ちょっと一面的すぎるけども、こういうドライな言い方の方が、決心してしまった美紀にはいいと思った。

 ついさっきまで、六期生一番のイイコで通してきた美紀は、いわばきれいごとに押しつぶされてしまったんだ。そんな子にきれいごと的な説得や慰めをしても、なにも入らないと思った。

 別に、計算して言葉にしたわけじゃないんだけど、息を吸って吐いたら、こういう言葉になった。

「それで、いいと思うよ……」

 ガバ!

 美紀は、精一杯の笑顔を作ったかと思うと、ベッドの蒲団を頭からかぶって泣き出した。

 ガバ!

「も、もうほっといて!」

「美紀!」

 あたしは、ベッドの布団ごと美姫を抱きしめた。

 ウワーーーン!

 抱きしめると、たった今のドライな決心も一瞬で崩れてしまって、ただただ、いっしょに泣くことしかできなかった。

 

「あの子は精神的にまいってる。とにかく辞めさせるのが一番。治療はそれからです」

 

 お医者さんの意見で、笠松プロディユーサーも、市川ディレクターも納得した。

 気が付くと嗚咽してるのは、わたし一人。美紀は、枕に顔を埋めたまま寝てしまった。

「あ……」

 入ってきたお医者さんは、なにか注射の用意をしていたけど、コクっと頷いて、そのまま出て行った。

 取りあえず、眠らせることがいちばんだったんだろうね。

 でも、ドラマじゃないんだから、これで目覚めて丸く収まるようなことはない。

 取りあえず、ホッとして、駆けつけてきた美紀のお母さんと交代した。

 

 あたしは後悔した。

 6期は、もうみんな家族だ! 姉妹だ! そして、あたしが一番のお姉ちゃん! そう思ってた。だけどなんにも分かってなかった。危ないのは和田亜紀と芦原るみだとばっかり思てた。リーダーなのに、あたしはなんにも見えてなかった。

「まあ、一人二人抜けるのは織り込みずみだから、気にすんな明日香」

 市川ディレクターはビジネスライクに、一言でしまい。下手に慰められるよりは、気が楽だった。

 夜はステージが終わった後、ローカル局のトーク番組があった。

「美紀のことには触れないように。こっちのディレクターにも話してあるから」

 市川Dに言われた通り、あたしもパーソナリティーも美紀のことは無かったみたいに、プロモロケの話やら、アホな話で盛り上がった。

 

 家に帰ったら、日付が変わっていた。

 メールのチェックもしないで、ざっとシャワー浴びて、そのまま寝てしまった。

 

 あくる日はスタジオ入りには時間があるので、美紀の病院へ行った。面会時間じゃなかったけど、ナースステーションに寄ったら「もう落ち着いてるからどうぞ」て言われて病室へ。


 ところが、部屋に入ったら美紀の姿が無かった。

―― 明日香、トイレに行け! ――

 さつきが心の中で叫んだ。

 トイレに行くと、個室二つが閉まっていた。

 一つはノックしたらすぐにノックが返ってきた。もう一つをノック……反応が無い。


―― ここだ! ――


 さつきの声に体が反応した。ヒョイとジャンプして、個室の上に手を掛けると、自分でも信じられないぐらいの身の軽さで個室の中へ。

 美紀は手首を切ってぐったりしてたけど、あたしの姿を見ると暴れだした。

 血まみれになりながら緊急ボタンを押して、美紀のみぞおちに当て身を食らわせた。

 当身を食らわせるなんて、やったことなかったけど、これはさつきのしわざだろうね。

 切って間が無かったので、美紀は助かった。

 このことは、秘密にすることになったけど、血まみれのうちと美紀をスマホで撮ったドアホがいて、あっという間に動画サイトに投稿され、手におえないことになってしまった……。

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やくもあやかし物語・129『御息所のひろ~い館』

2022-03-17 13:20:25 | ライトノベルセレクト

やく物語・129

『御息所のひろ~い館』 

 

 

 わたしの家は一丁目にある。

 

 一丁目を西に突き当たると左に道が曲がって二丁目。

 曲がったところからは坂道で、100メートルほど下って折り返して、さらに100メートルほどの下り坂。

 下りきって西に折れて、二丁目を通った先の三丁目に学校がある。

 学校から帰って来る時は、遠目に坂の上の一丁目が見える。

 その坂の上の一丁目は比較的大きな家が多くて、我が家は、その中でも一回り大きい。

 漠然と二百坪くらいかと思っていたら「う~ん……四百坪くらいかなあ」と、お爺ちゃんはこともなげに言う。

「敷坪四百、建坪二百ってとこかなあ……」

「よんひゃくに、にひゃく!?」

「古いだけさ」

 そう言うと、そのまま膝の上の新聞を広げて自分の世界に潜っていくお爺ちゃん。

 新聞ばかり読んでると情弱のバカになってしまうと思うんだけど、まあ、新聞読んでるときとお風呂に入ってるときが一番リラックスできると言うんだから仕方がない。

 子どものころ、お母さんが教えてくれた。

「一坪って言うのは畳二枚分。だから、六畳は三坪。覚えやすいでしょ」

「うん……じゃあ、百坪は?」

 百と言うのは、大きくてお目出度い数字って感じがする。子どもの基準って、テストの点みたく百点でしょ。

 だから、百坪って聞いてみたのよ。

「うん、プールの水面くらいかなあ」

「おおー!」

 ほとんどカナヅチだったわたしにとって、学校のプールの水面は湘南海岸から見渡す太平洋と変わりが無かったから、とてつもない広さに感じた。

 それが四つ分と言うのだから、ほんとうにぶっ飛んだ広さ。

 

 その我が家が小さく見えるくらいだから、よっぽどのよっぽどよ。

 

「おお、よう参ったのう」

 御息所が門の前で、エッヘン顔して立っている。

「すごいねえ……!」

 建物の周囲は京都御所みたいな塀が取り巻いているんだけど、両端は絵巻物の雲みたいなのに隠れていて見渡すこともできない。

「チカコはいっしょではないのか?」

「どうせ寝殿造りでしょって」

「チカコめぇ……」

「あははは(^_^;)」

 どうも、チカコと御息所は、仲がいいのか悪いのか。

 今日はね、御息所がメイデン勲章のおまけにもらった館を見せたいというので来てみたわけなの。

 アキバのメイド王がくれたものだから、VRとかのバーチャルじゃないかと思ったんだけどね。

 それがどうして、京都御所も真っ青ってぐらいに立派な寝殿造り。

 むろん、電車や車で来たわけじゃないのよ。

 メイデン勲章の真ん中を見つめながら――御息所の館――と念ずると、ここに来れるわけ。

「まあ、ゆるりと過ごすがよいぞ」

 御息所が鷹揚に指し示すと、メイドさんや執事さんがズラリと現れて、館の中に招いてくれる。

「最初は平安風俗でないのが、ちと不満であったが、いやはや、やくもの家の生活が慣れたせいであろうな。なかなかのものであると満足いたしたぞ」

 なるほど、階(きざはし)を上がると、廊下には緋色の絨毯が敷かれていて、わたしの歩く前をお掃除ロボットが恭しく埃を払ってくれる。照明だってLEDの間接照明だったりする。

「この渡殿(わたどの)を過ぎると寝殿じゃ。ここからの庭の眺めは格別じゃぞ」

「おお!」

 右近の橘左近の……なんだったけ?

 とにかく、国語便覧とかで見た寝殿造りの姿が、何倍かの規模で広がってる。

 白砂の庭の向こうは……池?

「池のはずなのじゃが果てが見えん。ひょっとしたら海なのかもしれんなあ……ほれ、あの渡殿の先が釣殿になっておるじゃろ。あそこから釣竿をさせば、クジラが釣れそうじゃ」

 おほほほほ

 控えているメイドさんたちが手の甲を口にもってきて上品に笑う。

 メイドさんというのは、主人やお客さんの前では喜怒哀楽を見せないものかと思っていたけど、これも御息所の趣味なんだろうねえ。

「さあ、ここが、わらわの常の間である寝殿じゃ。今日は風もなく良い日よりじゃ、エアカーテンはオフにしてよいぞ」

「はい、ご主人さま」

「ご主人ではない。わらわのことは御息所と呼べと申したであろう」

「しつれいいたしました、御息所さま」

 少し頬を染めて一礼すると、担当のメイドさんはポケットからリモコンを取り出してエアカーテンのスイッチを切った。

「こだわるんだね(^_^;)」

「ここの主は東宮さま。ここは、その東宮さまの休憩所。一息つかれる憩いの場所なのじゃ、それゆえ、わらわの名乗りは『御息所』なのじゃぞえ」

「そうなんだ……そんなところに、わたしが呼ばれてよかったのかなあ?」

「目的を持った場所というのは、使ってみないと善し悪しが分からぬものじゃによって……むろん、やくもへの感謝もあるしのう。さ、そちらのカウチでくつろぐがよいぞ」

「うん、ありがとう」

「本来ならば、三日はかけて歓迎の宴を開きたいところじゃが、晩御飯は家族と食べるのがやくものコンセプト。軽く天ソバなどを作らせておるゆえ、しばらく待て」

「あ、おかまいなく(^_^;)」

「いや、構うぞ、そうじゃそうじゃ、とりあえずはお茶にしよう……」

 担当のメイドに命じようと御息所が、わたしは恐縮して振り向くと、そこに立っていたのは将門さんちのアカ・アオメイドだった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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明神男坂のぼりたい・102〔The Summer Vacation・9〕

2022-03-17 06:52:53 | 小説6

102〔The Summer Vacation・9〕 

                      

 

 時差ボケしてる間もなかった。

 ハワイのロケから帰ってくると、そのまま毎朝テレビの『ヒルバラ』に出演。選抜6人が前で、あとの6期生は後ろの雛壇。

 当然トークは選抜に集中。

 AKRに入って2か月ちょっとだけど、差が付いたなあ……とは、まだ思わなかった。

 口先女では自信のあたしだけど、8分の間に、MCの質問受けて、プロモの話を面白おかしく話して、22人の子みんなに話振るのはできない相談。

 だいいち進行台本がある。いちど出してもらった関西のテレビは、「ここで突っ込む」とか「ここボケる」ぐらいのラフで、あとは成り行き任せいうとこがあって、ほとんど自分のペースでやらせてもらえた。

 初のメインゲストの『ヒルバラ』は東京の番組、台本から外れることはNG。タイミングになると、必ずADのカンペで指示され、否応なく台本通りに進行させられる。

「もっと面白~くできたのになあ」

 カヨちゃんが楽屋に戻りながらささやきながら、小さくファイティングポーズ。一瞬みんなで真似すると、すれ違う局の人や出演者がクスリと笑う。

 そーだよ、こういう自然なノリだよ……と思っても収録は終わってしまってる。

 楽屋に戻ったら局弁食べながらメールのチェック。ゆかり、美枝、麻友を始めあたしがAKRに入ってからメル友になった子たちに「ただいま。時差ボケの間もなくお仕事。またお話しするね!」と一斉送信。 ファン向けのSNSには「疲れた~」「ガンバ!」なんちゅう短いコメントと写メを付けて、あたりまえだけど一斉送信。

「さあ、あと10分でユニオシのスタジオに戻って夜のステージの準備。いつまで食べてんのよ。チャッチャとやってよチャッチャと!」

 チームリーダーのあたしは、いつのまにか市川ディレクターや、夏木先生の言い方、考え方が移って同じように言うようになった。みんなんも認めてくれてるし、チームもまとまってきたんで、これでいいと思ってた。

 バスでスタジオに戻るわずかの間に3人もバスに酔う子がでてきた。

「ちょっと、席代わってあげて! 舛添さん酔い止め!」

 女同士の気安さで、3人のサマーブラウスやらカットソーの裾から手を入れてブラを緩めてあげる。薬飲ませて、気を逸らせるために喋りまくり。3人もなんとかリバースすることもなくスタジオに着いた。

 でもね、バスの中で酔いが伝染。10人近い子らがグロッキー。

「ちょっと休ませた方がいいよ」

 カヨちゃんの一言で決心。

「三十分ひっくり返ってなさい。しんどい子は、薬もらって少しでも寝とくといい」

「よし、明日香。その間に打ち合わせだ」

 市川ディレクター、舛添チーフADと夏木先生ら大人3人に囲まれて、ハワイでのことを中心に反省会と今後の見通しについて話し合う。

「一番落ち込んでるのは誰だ?」

 市川ディレクターの質問は単刀直入だった。

「和田亜紀と芦原るみです」

「じゃ、カヨといっしょに支えてやってくれ。6期生はスタートが早かった。まだ気持ちがアイドルモードになり切れてないと思う。なんとか取りこぼさずに、VACATIONを乗り切って欲しい」

「分かりました」

 短時間だったけど、有意義だと思った。短い会話の中で、現状の確認と展望、これからの見通し。そして、なによりもこれから6期生全員を引っ張っていかなきゃという責任感と期待が市川さんらと共有できた。

 みんなの様子を控室に見に行って、カヨちゃんたちと相談して、休憩時間をさらに30分延ばした。

「じゃあ、6期。ハワイで一回り大きくなったところを見せるぞ!」

「「「「「「オオ!」」」」」」

 控室で円陣組んで、テンションを上げた。

 休憩時間を30分余計に取った分、レッスンの時間は減ったけど密度は高かった。この時まではいけると思ってた。

 六期は、まだまだ前座だけど、AKR始まって以来の成長株だと言われてる。

 負けられへん!

 30分間、VACATION!、TEACHERS PETなんかのオールディーズのあと21C東京音頭。間を、あたしとカヨちゃんのベシャリで繋いでいく。

 なんとか、アンコール一回やって、失敗もせずに終われた(^_^;)。

 で、楽屋で、仲間美紀が倒れた。全然ノーマークの子だった。

 口数は多くないけど、明るく愛想のいい子で、今まで不平を言うことも疲れた様子を見せることも無く頑張ってきた子だ。

 酸素吸入しても治らないので救急車を呼んだ。

―― あたしは、何を見てたんだろ ――

 ピーポーピーポー ピーポーピーポー

 やっと芽生え始めたリーダーの自信が、遠ざかる救急車のサイレンとともに消えていく……。

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魔法少女マヂカ・263『被服廠跡に追い詰める』

2022-03-16 11:19:20 | 小説

魔法少女マヂカ・263

『被服廠跡に追い詰める語り手:マヂカ  

 

 

 ゾワ

 

 そこに踏み込んだとたん、全身に鳥肌が立った!

 銀座の街並みから裏通り、震災復興は、まだ緒に就いたばかりで、一筋入った裏通りは瓦礫の街だ。

 道路こそ人や車が通れるようになっているが、泥棒犬を追いかけて走り抜ける街は瓦礫の山という以外の個性が無い。

 何町の何丁目か見当もつかず、踏み込んだそこは陸軍被服廠跡の空き地だ。

 言うまでも無い、震災直後四万人近い被災者が、四方から吹き寄せた火災風によって、一瞬のうちに焼き殺された地獄の広場だ。

 先月、形ばかりの慰霊祭が行われてはいるが、まだまだ犠牲者の魂は和魂(にぎたま)に昇華されてはおらず、悪しき鬼が踏み入れば、たちまちのうちに鬼の足元に吸い寄せられ、巨大な闇の力に収れんされてしまう。

「まずい、いったん出るぞ!」

 叫んだが、間に合わない。

「あ、あかん、出口がみんな塞がってしもてる!」

 見習いとは言え、魔法少女のノンコが素早く出口を叩くが、鬼の力で塞がれてしまっている。

「かくなる上は……!」

「霧子、ここは生身の人間の力が通用するところじゃない!」

「でも、ムザムザとやられるわけにはいかないわ。これでも、慶長伏見地震の折には太閤殿下の元に一番で駆けつけた高坂道隆の十七代目! 大連大武闘会で優勝を勝ち取った高坂霧子よ!」

「ノンコ! JS西郷! 霧子の傍を離れるな!」

「「合点!」」

 霧子を真ん中に、前後をわたし、後ろをノンコ・JS西郷の二人で固め、広場の中央でステッキを咥えたまま、こちらに牙をむく黒犬にガンを飛ばす。

 ガルルル……

 黒犬は、前脚を伏せ、いつでも跳躍して飛びかかって来る体勢だ。

 もし、ここにブリンダが居れば、どちらかが黒犬の相手をしているうちにステッキを取り返すという戦法もとれるが、正規の魔法少女は、このわたし一人だけだ。この禍々しい悪気の渦の中では、なにが飛び出してくるか分からない。うかつに踏み込むのはためらわれる。

「気を付けて……まるで悪気の大渦だ。周囲から。なにが飛び出してくるかわからんからな」

「西郷さんにSOS出してみる!」

 奥の手なのか、JS西郷は、一休さんのように両手をグウにして頭をグリグリし始めた。

 また上野大仏の首でも呼ぶつもりなのだろうか……あいつは、横浜の戦いで限界が来ているはずだぞ? 西郷さんは実力行使はしない、日光街道でもそうだったし、この大正時代に来てからもそうだった。

 西郷さんは、いつでも、精神的な後ろ盾。それ以上でもそれ以下でもない。

 ガルルルル

 黒犬は下ろしたステッキを足もとに置いて、右脚で押さえている。

 ガチの攻撃姿勢だ。

 振り返って三人を見る。

 ガチガチの守備姿勢だ(-_-;)。

「マヂカ、あっち、あっち見てぇ!」

 ノンコがノドチンコむき出しにして、黒犬の向こう側の旋風の壁を指さす。

「あれは……」

 旋風の壁が人の形に膨らんできている……誰か、旋風の向こう側から、こちらに入ってこようと身じろぎしているようだ。

 ズボ

 壁をぶち破って、飛び出してきたのは鎖だ。

 シュキーン

 鎖は秒速で伸びて、黒犬の首輪に連結された!

 グワン! ワンワン! ワンワン! ガルルルル……

 鎖に繋がれた黒犬は、後脚で立ち、胸を反らせて前脚を足掻かせる。

「みなさん、今のうちに!」

 鎖のもとを握った人間が旋風の、それこそ風穴から犬に引っ張られるようにして現れた。

「「「「クマさん!?」」」」

 必死の力で鎖を引っ張っているのは、トキワ荘で怪人にかどわかされた、我らがメイドのクマさんだ!

「ク、クマは犬よりも強いのです! でも、いつまでも持ちません、どうぞ……今のうちにぃ!」

 クマさんは、ギュっと目をつぶり歯を食いしばるようにして渾身の力で鎖を引っ張っている。

 鎖を握った手からは、血が滲んで、ポタポタと落ち始めている。

「でも、クマさんは!?」

「わたしなら大丈夫です、お早く……」

「う、うん……でも、ステッキが」

「そんなことを言ってる場合ではありません……まずは、逃げてください! ウウ、手が……」

 ゴーーー

 クマさんの頑張りと反比例するかのように旋風が強まり、風穴が小さくなっていく。

「お早く(≧▽≦)!」

「うん、分かった……」

 いや、待て。

「クマさん、力を入れ過ぎては、かえって持たない。肩の力を抜いて、みんなが抜ける間、堪えてくれ!」

「は、はひ……」

 肩の力を抜いた瞬間、クマさんの目が開いた。

 開いたクマさんの目には白目が無い……半開きになった口の中も闇夜のように真っ暗だ。

「おまえ、クマさんの身に乗り移った化け物だな……」

「「「「そんな……」」」」

「フフフ……もうちょっとだったのにな……さすがは、大年増の魔法少女だ。クロ、猿芝居……いや、犬芝居はここまでだ」

「だから、最初から力づくでやっときゃよかったのにさ」

 犬が口をきいた……それも二本足で立って。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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明神男坂のぼりたい・101〔The Summer Vacation・8〕

2022-03-16 06:29:26 | 小説6

101〔The Summer Vacation・8〕 

         


 ハワイロケは忙しかった。

 ワイキキビーチからダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター、ハナウマ湾、カラカウア通り、モアナルア・ガーデン、クアロア牧場、記念艦ミズーリ、と二日間かけて、撮影許可が下りるとこでは全部撮った。

 親会社のユニオシ興行のやることに無駄はありません。

 あたしたちはリカちゃん人形みたく行く先々で着替えて、水着からアロハの短パン。支給された私服(?)なんかに着替え、3台のカメラで、延べ40時間分ほどの撮影。


 なんせ、曲が1950年代のアメリカンポップスの代表『VACATION!』

 あ、そうそう。帰ってから曲のタイトル『VACATION』にビックリマーク『!』が付くようになるんだって。

 マイナーチェンジ? 

 とにかく、微妙な変化を付けて差別化を図り、オタクの心をくすぐって、売り上げを伸ばそうってユニオシの魂胆。


 年寄りから若者まで、アメリカ人も日本の観光客もノリノリでノーギャラのエキストラに付き合ってくれる。むろん、あたしたちが可愛くって、イケてるからなんだけど(≧∇≦)市川ディレクターと夏木インストラクターのやることはインスピレーションに溢れてて、ミズーリの前では、どこで調達してきたのか、水兵さんのセーラー服を着て『碇上げて』を即興の振り付けでやらされました。

 夜は、泊まってるホテルの要請で急きょミニライブ。これで宿泊代が三割引き。ほんとにうちのプロダクションは……!

 そんなふうな過密スケジュールで、さすがに線が切れかかったあたしたちに、なんと半日の自由時間。メンバー22人は4、5人ずつのグループに分かれて、ちょっとの間VACATION。ただ、ビデオカメラを持たされて、とにかく撮りまくることが条件。


 これはアイデアだったよ(^▽^)。


 プロのカメラマンじゃなくて、素人のあたしたちが、好き勝手に撮るんだから、いろんなビデオが撮れます。あとは編集するだけで、経費も手間もかかりません。

 ほとんどの子は、いわゆる名所を回ったけど、あたしは、ちょっと勇気出してアリゾナ記念館に行った。

 アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして沈めた戦艦アリゾナの上にある。いわゆる日本の『スネークアタック』と呼ばれる、アメリカ人には忘れられない歴史記念物。日本人観光客は、あんまり行きません。

 あえて、ここを選んだのは、アメリカ人の生の反応が知りたかったから。

 入館は無料。

 沈んだままのアリゾナの真上を交差するように浮桟橋みたいな仕掛けで記念館がある。56メートルの「潰れた牛乳パック」と言われる白い箱みたいな記念館。

「中央部はたしかにたるんでいるが、両端はしっかりと持ち上がっており、これは最初の敗北と最終的な勝利を表している。大きなテーマは平静であり、人々の心の最も奥にある悲しみの表現は、その人それぞれに感じ取るものでありデザインでは省略した」んだそうです。

 亡くなった乗組員の銘板と、英文の説明文があった。

 さぞかし日本の悪口が書いてあるんだろうと単語を拾うようにして読んでたら、いかついアメリカ人のオッチャンが寄ってきた。一瞬ビビったけど、オッチャンはにこやかに握手を求めてきた。

「AKR47のメンバーだね」

 きれいな日本語。聞くとアメリカ海軍の退役軍人さん。で、あたしたちが読みあぐねてた文章を、ていねいに日本語に訳してくれた。

「アメリカ人には悲劇だけども、これは君たちのひいおじいさんたちが、どんなに勇敢に高い技術で戦ったかを書いてある。あの開戦は当時の情報技術では、悲劇的な行き違いだったけど、アメリカ人も日本人も死力を尽くした。そのことが書いてある。ここから何を読み取るかは、それぞれの人の心の問題だ」

 なんか、アメリカに一本取られたような気がした。

 そのあと、オッチャンは当たり前のアメリカ人に戻って、いっしょに記念撮影。Tシャツにサインしてあげたらムッチャ喜んでくれた。

―― なかなか粋なオッサンだ ―― 

 さつきの声がした……ような気がした。

 さつきは、明神さま(親父の将門さん)から海外に出る許可がおりなかった。

 だんご屋が忙しいというのが理由だったけど、カヨちゃんの後ろには出雲阿国が付いて来ている気配。

 きっと大人の事情てか、神さまの事情。

 まあ、お土産買って帰って、お話いっぱいしてやろう。

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明神男坂のぼりたい・100〔The Summer Vacation・7〕

2022-03-15 07:03:31 | 小説6

100〔The Summer Vacation・7〕 

                   
  

 角を曲がってジャンク通りに出るとえらいことになっていた!

 ジャンク通りのオッチャン、オバチャン、オネーチャン、オタクにメイドさんたちが100人近く集まっての大歓迎。

『歓迎AKR47 鈴木明日香さん!』『ジャンク通りアイドル白石佳代子!』なんかのノボリやボードが生い茂った夏草みたいにそよいでる。わたしを見つけて「キャー!」とか「ワー!」とか声が上がると、ほとんど百姓一揆!?

 人波の中にカヨちゃんと目が合って、一瞬で予定変更、百姓一揆のみなさんを引き連れ、十分にジャンク通りのロケーションを撮りながらAKRのスタジオへ。途中百姓一揆のみなさんは、自分の店の前に来くると、カメラを強引に店の方にパンさせる。自分たちも口々にお店のPR。だけど100人余りが、てんでに好き勝手に言うから、全体としてのガヤの勢いしか伝わらないんですけどね(^_^;)。

 カヨちゃんが、ジャンク通り期待のアイドルだということがよ~く分かった。

「東京音頭に手を加えます!」

 スタジオに着いて、レッスンの準備ができると、夏木先生が宣言した。

「ディープなファンの方々からご指摘を受けました。東京音頭は昭和七年にできたんだけど、以来、基本形は守られつつ、いろんなパターンがあるのね。ヤクルトスワローズの応援歌になってたりビビットなものなんかあったりするのよ。基本的なリズムだけ踏まえておけば、あとはやったもん勝ちの自由です。その自由と要所要所での統一感を出すレッスンをやります。テンポは基本の1・5倍でしたが、ラストは2倍にして、一気に盛り上げます。曲もニューミュージック風にアレンジしました。明日香は曲の練習ね。一時間で仕上げて、いっくぞー!」

「「「「オーーー!」」」」

 AKRはいつもこの調子。その時その時のお客さんの反応や、テレビの数字などで、イケルと思えるところはどんどん変えて、イマイチなとこはあっさり切られる。

 あたしはニューバージョンになった曲と歌詞を覚える。アレンジしたとは言え、基本は東京音頭なので、体を動かさないと曲も歌詞も勢いが出ない。この一時間のレッスンはきつかった。もう途中で取材カメラが回っていることさえ忘れてしまう。

 OKが出ると、あたしはTシャツの裾を大きくパカパカ……しすぎてブラがカメラに映ってしまった。ラッシュで気が付いて「ここカット」ってディレクターは言っていたけど。あてにはなりません(-_-;)。

「すげーなあ!」

 テレビのディレクターが思わず言うくらい、あたしたちの休憩時間はすさまじい。

「はい、休憩!」

 その声がかかったとたん、あたしらの女の子らしさはスイッチ切ったみたいに無くなってしまう。スポーツドリンクをオッサンみたいにがぶ飲みする子。バスタオルでTシャツまくり上げ汗を拭きまくる子。シャワー室へ駈け込んで、ダイレクトに体を冷やす子。二台のカメラは、そんな子らを追い掛け回して大忙し。

「もう、明日香を映してくださいよ。これ『AKR47 佐藤明日香の24時間』いうタイトルなんでしょ!?」

「あ、そうだった!」

 思い出したディレクターが、急きょあたしにインタビュー。

「車で言うとF1耐久レースですね。何百キロいうスピードで走りまくって、ピットインしてるのが今ですよ。体は一つだけど、エモーションは何人前もあるんです。一遍には出しません。F1が休憩のたんびに、ドライバーが入れ替わるように、新しいエモーション注入。え……教えられたこと……ちがいますね。この二か月間で、あたしたち自身で自然に会得した心と体のローテーションですね。キザに言うと青春の完全燃焼のさせ方ですか!?」

 我ながらうまいこと言葉が出てくる。そう言ってみんなを見ると、バテかけてるメンバーの姿が、いかにも美少女戦士束の間の休息に見えてくるぞ。

 午後からは、東京音頭がバージョンアップした分、バランスをとるためにVACATIONも手直し。
 ヘゲヘゲになったとこで、市川ディレクターから嬉しい知らせ。

「ユニオシから予算が付いたんで、週末は三日かけて、プロモの撮り直し。ハワイで!」

 一瞬間があって、みんなから歓声があがった……!

 キャーーーーー(≧∇≦)!!

 ワンコかニャンコみたくピョンピョン喜ぶ!

 その中に、さつきと出雲阿国が見えたような気がした。

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銀河太平記・098『みんなで頭を捻る』

2022-03-14 16:20:47 | 小説4

・098

『みんなで頭を捻る』加藤 恵   

 

 

 朝から、お金の流れをどうするか、社長の事務所で頭を捻っている。

 及川からパチパチ達による銀行業務はならないと言われ、その対策に頭を悩ませているのよ。

 大勢集まってもエキサイトするだけなので、社長の他はフートンの主席、わたしとお岩さん、ナバホ村の村長はヘソを曲げているので兵二が代理で来てくれている。

 パルスガ鉱の採掘も見込まれ、世界的どころか、月や火星との取引も視野に入って来るので、世界的金融システムの中で決済できなければ、取引そのものができない。

 そのためには、島独自の銀行を持つ以外にないのだ。

「採掘の状況を世界に発信し続けるしかないよ。食堂といっしょさ、美味い食い物をたくさん用意しておけば、匂いにつられて、買い手は集まって来る。そのうち、腹減らして集まった方から喰うための知恵を出してくるさ。イラつく奴がいたら、正直に『大家の日本政府が堅物でねえ、こっちも困ってる』って言ってやりゃいい」

 お岩さんの明るく明確な食堂のオバチャン的プランで決まりかけてはいるんだけど、いつごろになったら、そういう状況になるかの見通しが無い。

 なんせ、海賊か山賊に毛の生えたみたいな西ノ島だから、長期戦になれば体力が持たない。

 いつもなら、楽天的に「それでいきましょう」と笑顔を向けてくる社長も天井を向いたままだ。

「社長、なにかないかね」

「すまない、天井の扇風機見てたら、ちょっと目が回って……」

 主席のツッコミ、社長のボケ……いつもなら、これで和やかになるんだけど。

 さすがに、顔を上げた者も、そのまま俯いた

 分かってる。落盤事故が響いてるんだ。

 救助や復旧や犠牲者への補償でカンパニーはいっぱいいっぱい。村もフートンも均等に負担してくれて、島全体、後がない状況なんだ。

 何年も腹ペコ食堂の理屈でやっていくわけにはいかない。

 お岩さんは、その昔はギャラクシー興業銀行のムーン支店長をやっていた。業界ぐるみの不正を暴いた代償に職を追われてからわ、ひたすら食堂のおばちゃんを通しているけど、腹ペコ食堂解決法の裏には、昔取った杵柄的計算が緻密に為されているはずだけど、それは言わない。

 言っても難しいということもあるだろうけど、やっぱり、綱渡り的危うさがあるからだろう。

 サラサラサラ

 あ、お岩さんが、すごいスピードでメモしてる!

 みんなの注目が、お岩さんの手に集まる!

「よし、社長、キッチン借りるよ。なにか食って切り替えようよ。メグも手伝って!」

「あ、はい!」

「お岩さん、そのメモは……?」

「よく聞いてくれた主席! 男たちは食材取ってきて、持ってくるものは書いてあるからね」

「あ……アハハ」

 アハハハハハ

 やっと解れてきた(^_^;)

 男たちが立ち上がって、出口に向かうと、主席が手を掛ける前にドアが開いた。

 バタン!

 

 社長! なんとかしてくれ!

 

 シゲさんが怒鳴り込んできた。

「血圧上がるよ」

「血圧なんか構っちゃいられねえ、島中の道路が閉鎖されっちまったぜ!」

「え、どういうことですか?」

「国道だよ! 及川の奴が、島の主要道路を、みんな国道に指定しちまいやがった!」

「ああ、昨日の折衝で、そんなこと言ってたよね」

「制御盤設置しやがったみてえで、車検と登録ナンバーのねえ車両は動かせねえ!」

「「「「「制御盤!?」」」」」

 ダダダダ

 食材も料理もすっ飛んでしまって、みんなゲート前の道路に走った!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
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