大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)056・初めて聞くミリーの英語

2024-06-09 06:40:31 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
056・初めて聞くミリーの英語                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 ラーソンばっかりやねえ。


 忘れ物を取りに来たミリーに言われる。

「え?」

 一瞬何のことか分からない。

「冷やし中華」

「あ、ああ……」

 そう言われて、食っている冷やし中華がラーソンのだと気づく。

「いろいろ食べ比べたんやけど、酸味・喉ごし・麺の触感で、ラーソンのが一番やなあ」

「へー、けっこうこだわりがあるんやぁ」

 本当はこだわりなんかじゃない、ラーソンの冷やし中華は460円で、他のコンビニより20円安い。

 しょっちゅう食べているので20円の差は大きい。

「あたしはシャーペン」

 そう言うと、テーブルの菓子箱から一本のシャーペンを取り出すミリー。

 忘れ物はシャーペンのようだ。

 菓子箱は千歳が中身入りで持ってきたクッキーの空き箱で、空になってからは共用の筆箱になっている。

 しかし、数十本は入ってるシャーペンやらボールペンの中から、迷わずに見つけられるもんだ。

「グリップの形が独特でね、握り具合が全然ちゃうんよ。沢山あっても微妙な違いは直ぐに分かるし、ほら」

 目の前に、ズイっとシャーペンが刺し出される(差し出すの間違いじゃない)。

 中学の頃から、この調子なんで、いまさら驚かない。下手に驚くと、さらに間合いを詰められてチキンレースになってしまう。

「ほー、グリップがちょっとくびれてるんや」

「これが生産中止でね、手持ちは三本しか残ってない。失くしたら確実に成績落ちてしまうし。分かってたらまとめ買いしたのにね~」

 そう言うと、大事そうに自分のペンケースに仕舞うミリー。

「シャーペン収納よーし!」

「指さし確認かい(^_^;)」

「車掌さんとかやってるでしょ、こうやっとくと忘れへん」


 そう言うと、ミリーは窓から見える部室棟のあちこちを指さし始めた。


「……やっぱ、工事停まってるぅ、チェックポイントが全然変化してないし」

「そうなんか?」

 確かに作業員の数は減っているけど、毎日人が動いているのはボンヤリしていても分かる。

 人が動いていれば作業しているもんだと思うんだけど、ミリーのように気合い入れて観察していると違うのかもしれない。

「あの窓枠、昨日は外しかけてたのに、また戻ってる」

「そうなんか?」

 やっぱりひいひい祖父ちゃんの設計とあって思い入れが違うようだ。

「気になるなあ……」

 工事現場の方を向いて腕組みし始めた。

「ちょっと調べてみよか……」

 スマホを出して検索してみる。

 最初に『空堀高校部室棟・マシュー・オーエン』と打ち込む。出てくるのは解体修理が決まったときの内容と変わらない。

 次に『作業中止』を足してみる……やっぱ変わらない。

「うちもやってみたけど、特には出てこーへんし」

「うん……せやなあ……」


「よし!」


 そう言うと、ミリーは気合いを入れてタコ部屋を出て行った。
 
 直ぐに工事現場でミリーの声がした。

 今まで聞いたことのないミリーだ。

 ミリーが英語で現場監督らしいオッサンに話しかけている。

――そういや、あいつはアメリカ人やってんなあ――

 知り合ってこのかた、ミリーの英語を聞くのは初めてだ。青い目の金髪だけど、俺たちの中ではとっくに気のいい友だちにカテゴライズされている。俺たちの友だちってのは例外なく英語は喋れない。だから、とっても新鮮な感じがする。

 映画で外人がよくやる「わっかりませーーん」のポーズをカマシて戻って来た。

「一大事やあーーーーー( ‘ᾥ’ ) !」

 ミリーの眉間には見たこともない縦ジワが刻まれていた。

「工事は無期限停止やってえ!!」

「え、どういうこっちゃ!?」

 日本語が分からないフリして訊ねて、現場監督と府の役人らしい人とのやり取りの中で分かってしまったようだ。

 夏休みを目前にして、なんだか得体のしれないものが動き始めているような気がしてきた。
 
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)




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