泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
渡り廊下の開放感が好き。
解放感と言っても、グラウンドみたく持て余すような開放感じゃない。
あたしは、ちょっとばかし広場恐怖症。
グラウンドみたいなだだっ広い空間は落ち着かない。
逆に、廊下とか教室とかもだめ。
考えてみて、教室とか廊下で一人佇んでいたら、ひどく目立ってしまう――あいつ何してんだろう?――と思われたり「ちょ、じゃま」とか言われそう。
その点、渡り廊下はちがう。
校舎と校舎を繋いでいるので、幅がふつうの廊下の倍ほどある。
両側はガラス張りになっていて、程よく明るい。
東側は中庭に、西側はピロティーに面している。
面しているけど高さがあるので、外側からの視線は気にならない。
だから休み時間や昼休みには、外を見ながらボーっとしている。
ほかにもそんなのが居て、とても自然にボーっとしていられるので、学校の中では二番目にくつろげる。
一番は……まだナイショ。
なんで渡り廊下を語ったかというと、渡り廊下の窓から中庭を見ているオメガ先輩に声を掛けたから。
廊下だったら素通りしている、すれ違っても目配せで挨拶するのが精いっぱい。渡り廊下というのは、そう言う点、コミュニケーションのハードルを下げてくれる。
思うんだよね、神楽坂高校六十八年の歴史、この渡り廊下で、どれだけの友情やら、初々しい恋の花が咲いたことか。
あ、えと、オメガ先輩に恋心とかというんじゃないのよ、ないんだから。
ぶきっちょなあたしが、気楽に声を掛けられた状況を説明したかったんです!
「先輩、なに見てんですか?」
先輩は、いつものω口を倍くらいのωにして振り返った。
「あそこ見てみろよ、静かにな……」
先輩が小さく指さした先は中庭の藤棚、ノリスケ先輩が居た。それも、誰かといっしょに居る気配。
「だれがいっしょなんですか?」
「こっちきてみ」
二つ手前の窓に移動。
あ……( ´艸`)
藤棚に隠れて胸から下しか分からなかったけど、女の子の姿が見えた。
上履きの初々しい学年色は一年生だ。
「どーよ」
先輩がふってくる。
なんだか微笑ましい。一年女子と語らっているノリスケ先輩も、こうやって渡り廊下から見ているあたしたちも微笑ましい。
「図書室の本を拾ってやったのがきっかけらしいぞ(*^▽^*)」
「へー、そうなんだ。なんだかジブリのアニメみたい(#^.^#)」
「昨日なんだけどさ、ジュース買いに行くのにジャンケンしてさ、あいつが負けて、自販機に行く途中で見つけたんだ。世の中なにがキッカケになるか分からねえなあ」
「そうですね」
言いながら思った。
ジャンケンに負けたのがオメガ先輩だったら、こんな風に微笑んでいられただろうか……。
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート