大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・218『箕作巡査のお手柄』

2021-06-19 10:20:51 | 小説

魔法少女マヂカ・218

『箕作巡査のお手柄』語り手:マヂカ     

 

 

 明治神宮の参拝客を狙ったかっぱらいだった。

 

 箕作健人巡査は遅れて飛び出したのにもかかわらず、原宿駅前まで犯人を追いかけて逮捕した。

 なんでロシアの軍人に追いかけられるんだ!?

 犯人は、恐怖と驚きで日ごろのかっぱらいプロの力が発揮できなかったと悔しがった。

 追いかけている途中で箕作巡査の制帽は吹っ飛んでしまい、七三分けにしたブロンドの髪が風になびき、巡査の詰襟や、サーベルのカチャカチャなる音は、犯人でなくとも外国の将校のように見える。

 犯人が『ロシアの軍人』と思ったのには理由がある。

 犯人は、日露戦争の帰還兵で、旅順の203高地や奉天の戦いを経験している。

 何度もロシア兵に追いかけまわされ、命の取り合いをやって、本人の勇敢さというよりは運の良さで生き延びて帰還した。

 ロシア兵の恐ろしさは身に染みている。

 だから「窃盗の容疑で緊急逮捕する!」と箕作巡査に言われた時には、さらに混乱した。

 間近に迫った箕作のナリが警察官であると理解はできたが、その顔は戦線で見かけたドイツ系ロシア人そのものだ。

 日露戦争に勝ったというのは夢で、日本はロシアに占領され、ロシア人が警察官になって、俺を掴まえようとしている!

 そう、思い込んだ。

 スダヴァーアーツヤ!

 思わず、ロシア語で「降伏する!」と叫んでしまったというのは、あくる日の新聞に載った笑い話だ。

 

「なにか叫んでおりましたが、ロシア語だったとは思いませんでした」

 

 あくる朝、新任請願巡査の箕作が手柄を立てたというので、高坂家の当主である霧子の父が褒めたたえた時の箕作の感想だ。

 高坂家の門前には、お手柄巡査の姿を見ようと、神宮参拝のついでに寄って来る野次馬や新聞記者が詰めかけている。

「箕作巡査は、報告の為に本署に帰っております。午後には戻ってまいりますので時間を限って皆様には面接いたします。仔細は門前に張り出しておきますので、熟読されますように!」

 田中執事長がメガホンで説明して、やっとわたしたちは学校に行くことができた。

 学校でも、箕作巡査のことをあれこれ聞かれたけど、それは割愛。

 

 帰宅すると、田中執事長が「ブリンダ様がお越しです」とリネン室を指さした。

 

 リネン室は、シーツや洗濯物を回収したり洗濯し終わったものにアイロンをかける部屋だ。仮にもお客さんを(ブリンダは英国大使令嬢なのだ)お通しするような部屋ではない。

 部屋のドアは開いていて、英語の会話が聞こえてくる。

 ブリンダと箕作巡査だ。

「あら、お帰りなさい(o^―^o)」

 ブリンダが日本語で挨拶すると、箕作巡査は目を丸くしている。

「日本語ができるんですか!?」

「あら、できないとは言ってないわよ。英語で話しかけてきたのは箕作さんの方よ」

 ブリンダも人が悪い。

「で、なにしてるの?」

 霧子が面白そうに尋ねる。

「三時半から記者会見」

「そんな大げさなものではありません」

「ううん、新聞記者がやってきて取材をするのだから立派な記者会見よ。だからね、上着ぐらいはアイロンをかけて差し上げようと思って」

 なるほど、カマトトぶってはいるが、一理ある……というか、記者発表の前にいろいろ聞けるのは美味しい。

「上着だけじゃダメよ、おズボンもアイロンしてあげませんと」

 霧子も調子に乗る。

「あ、それは結構であります(#^_^#)!」

「いいえ、高坂家の対面に関わります!」

「むいちゃえ!」

 ノンコが挑みかかって、箕作巡査の運命は決まった。

 

 女子学習院の生徒と米国大使令嬢の微笑ましいおふざけではあるのだけれど、気になることがあった。

 箕作巡査の話では、盗んだものではない犯人の持ち物に、気になるものがあった。

 雑誌『改造』と『資本論』が入っていたのだ。

 もちろん、大正デモクラシーと言われる、戦前でもリベラルな時代、特に違法なものではない。

 ないのだが。

 どちらも、手垢がついて、あちこち線が引かれたり付箋がつけられていたり。

 すごく勉強した形跡が見られることが気になった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・3」

2021-06-19 06:59:46 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・3』 

 

 

 スーザンの代役で、地区予選は無事に最優秀。我が校としては十五年ぶりの地区優勝だった。

 ささやかに、祝勝会をカラオケでやった。

 女の子ばっかのクラブなので、唄う曲は、KポップやAKB48の曲になり、ボクはタンバリンを叩いたり、ソフトドリンクのオーダー係に徹した。

 スーザンは、この三ヶ月足らずで、新しい日本語によく慣れた。立派な「ら」抜きの言葉になったし、自分のことをときどき「ボク」と言ったりする。もっとも「ボク」の半分は、いまどき一人称に「ボク」を使うボクへの当てこすりではあるけど。スーザンの美意識では、男の一人称は「オレ」または「自分」であった。

 しかし、スーザンの歌のレパートリーも大したものだ。AKB48の曲なんか、ほとんど覚えてしまっていた。

 中央大会でも、出来は上々だった。

 最優秀の枠は三つあるので、地方大会への出場は間違いない!

 演ったほうも、観ていた観客もそう思っていた。部長のキョンキョンなどは顧問に念を押していた。

「地方大会は日曜にしてくださいね。土曜は、わたし法事があるんで!」

「ああ、法事は大事だよね」

 スーザンが白雪姫の衣装のまま、神妙に言ったので、みんな笑ってしまった。しかし、その笑顔は講評会で凍り付いてしまった。

「芝居の作りが、なんだか悪い意味で高校生離れしてるんですよね。高校生としての思考回路じゃないというか、作品に血が通っていないというか……あ、そうそう。白雪姫をやった、ええと……主水鈴さん(洒落でつけたスーザンの芸名)役としてコミュニケーションはとれていたけど、作りすぎてますね、白雪姫はブロンドじゃないし、外人らしくメイクのしすぎ。動きも無理に外人らしくしすぎて、ボクも時々アメリカには行くけど、いまどきアメリカにもあんな子はいませんね。それに……」

 審査員のこの言葉にスーザンは切れてしまった。

「わたしはアメリカ人です! それも、いまどきの現役バリバリの高校生よ! チャキチャキのシアトルの女子高生よ!」

「まあ、そうムキにならずに」

「ここでムキにならなきゃ、どこでムキになるのよ! それだけのゴタク並べて、アメリカ人の前でヘラヘラしないでほしいわよね!」

「あのね、キミ……」

 そのあと、スーザンは舞台に上がり、審査員に噛みつかんばかりに英語でまくしたてた。アメリカに時々行っている審査員は、一言も返せなかった。史上で一番怖い白雪姫だただろう。


「そんなこともあったわね」

 渡り廊下から降りてきたスーザンがしみじみと言った。

「止めんの大変だったんだから」

「ごめんね」

「もういいよ」

 ボクは、傷の残っている右手を、そっとポケットに突っこんだ。でも、スーザンは目ざとく、それを見つけて、ボクの右手を引っぱり出した。

「傷になっちゃったね」

「ハハ、男の勲章だよ」

「傷にキスしてみようか。カエルだって王子さまにもどれたんだし。ボクがやったら、傷も治って、キミはいい男になれるかもよ」

「その、ボクってのはよせよ。日本語の一人称として間違ってる」

「ボクは、ボク少女。いいじゃん。この半年で見つけた新しい日本だよ。キミも含めてね」

「よく、そういう劇的な台詞が言えるよ。他の奴が聞いたら誤解するぜ」

「だって、ボクはアメリカ人なのよ。普通にこういう表現はするわよ。ただ日本語だってことだけじゃん……あ!」

 スーザンが有らぬ方角を指差した。驚いてその方角を見ているうちに手の甲にキスされてしまった。

「あ、あのなあ……」

「リップクリームしか付けてないから」

「そういうことじゃなくて」

「……じゃなくて?」
 
 気の早いウグイスが鳴いた。少し間が抜けた感じになった。

「シアトルには、いつ帰んの?」

「明日の飛行機」

「早いんだな……」

「見送りになんか来なくっていいからね……ここでの半年は、ちゃんと単位として認められるから。秋までは遊んで暮らせる。もちろん、大学いくまではバイトはやらなきゃならないけどね」

 アメリカの学校は夏に終わって、秋に始まるんだ。

「ねえ、GIVE ME FIVE!(ギブ ミー ファイブ!)OK?」

 ボクは勘違いした。卒業に当たって、女の子が男の子の制服の何番目かのボタンをもらう習慣と。で、ボクたちの学校の制服は、第五ボタンまである。なんか違うなあという気持ちはあったけど、ボクは返事した。

「いいよ」

「じゃ、ワン、ツー、スリーで!」

 で、ボクたちは数を数えた。そして……。

「えい!」

 ブチっという音と、ブチュって音が同時にした。

 ボクは、てっきり第五ボタンだと思って、ボタンを引きちぎった。スーザンは、なぜか右手を挙げてジャンプし、勢い余って、ボクの方に倒れかかってきた。危ないと思ってボクは彼女を受け止めた。でも勢いは止められず、ボクとスーザンの顔はくっついてしまった。クチビルという一点で……。

「キミね、GIVE ME FIVEってのはハイタッチのことなのよ! ああ、こんなシュチュエーションでファーストキスだなんて。もう、サイテー!」

 それから、一年。ボクもスーザンも、お互いの国で大学生になった。

 で、ボクはシアトル行きの飛行機の中にいる。手には彼女からの手紙と写真。写真は少し大人びた彼女のバストアップ。胸にはボクの第五ボタンがついている。スーザンはヘブンのロックを、同じ名前の母校の生活とともにパスしたみたいだった。

 シアトルについたら、スーズって呼べそうな気がする。しかしボクの心って、窓から見える雲のよう。青空の中の雲はヘブン(天国)を連想させるが、実際はそんなもんじゃない。

 前の四列目の座席で乗客が呟いた。

「あれって、積乱雲。外目にはきれいだけど、中は嵐みたいで、飛行機も飛べないんだぜ」

 同席の女性が軽くおののいた。

 ボクの心は、もっとおののいている……。

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コッペリア・28『狐の嫁入り』

2021-06-19 06:48:56 | 小説6

・28

『狐の嫁入り』 





 藤棚のベンチは幾百の藤の花に濾過された日光に包まれて、程よく二人の少女の世界を包み込んでくれる。 


「やって失敗した後悔より、やらずに諦めた後悔の方が大きいっていうよ」

「でも、もうやって失敗したあとなんだよ」

「一回の失敗では完全な失敗とは言えないわよ」

「そっかなあ……」

「そうだよ、咲月ちゃんは、現に二回目の二年生をやってるじゃない!」

「それは……」

「別だって言いたいんだろうけど、あたしから見ればいっしょだよ」

「どういうこと?」

「っていうか……中途半端」

「中途半端?」

「落第までして学校続けようっていうのは、負けたくないっていう気持ちからでしょ。でも、それだけじゃ誰も評価しないし、咲月ちゃんだって、我慢してるだけじゃない。でしょ?」

「………………」

 咲月は応えずにうつむいてしまう。

 次の言葉をためらっていると、藤の花が落ちた……と思ったらひらりと舞い上がる。

 チョウチョだった。

 いつの間にか一匹のチョウチョが藤棚に入っていたのだ。そのチョウチョを目の端に入れながら考えた。

「今は我慢するときだと思うの。少し雨宿りしたら、新しい晴れ間も見えてくるんじゃなかな……って」

「え、雨?」

「あ、例え話(^_^;)」

「……降ったんだよ。藤の花に雨粒が」

「え……あ、ほんとだ。キラキラしてる……気が付かなかった」

「ずっと晴れてたよね」

「日照雨(そばえ)」

「そばえ?」

「えと……狐の嫁入り的な」

「……狐のお嫁さん通ったのかなあ?」

「かもね」

「見たかった」

「どこかで雨宿りしてるかも」

「……卒業まで雨降りだったら、ずっと雨宿りだよ」

「少々の雨だったら、飛び出してみたほうがいいんじゃないかな」

「……どうだろ」

「あれ?」

「え?」

「あそこ……紫陽花の下の方」

「あ」

 紫陽花の花の下を縫うようにして小さな花嫁行列が進んで行く。花嫁も行列の人たちもみんなキツネのお面を被って、お囃子のようなリズムに合わせて進んで、バラの花壇の方に消えて行った。

「ほんとうに見えちゃった……」

「AKPのオーディションて、春と秋にあるんだよね」

 栞は無遠慮に、咲月の顔を覗き込んで言った。

「うん、春と秋……」

「もう一回やってみようよ。このままじゃ、みんな咲月ちゃんのこと、意地を張った負け犬としか見ないよ。言い方悪いけど落ちるとこまで落ちたんだ。もっかいやって失敗しても同じ。リトライしたらチャンスはある……買わない宝くじは、絶対に当たらないから」

「……わたしの合格率って宝くじ並?」

「狐の嫁入りが見えたんだ、きっといいことあるよ」

 もう栞の顔は、咲月の鼻先まで近づいていた。

「分かった分かった。それ以上近づいたらキスされそうだ!」

「あ、ああ、ごめん咲月ちゃん」

「その代り、条件が一個」

「なに、まさか、あたしにいっしょに受けろっていうんじゃないでしょうね?」

「それはないよ。栞ちゃんの目的は、もっと別なところにありそうだから」

「じゃ……?」

「わたしのこと、ちゃん付けで呼ばないでくれる。わたしも栞って呼ぶから」

「あ、なんだ。あたし、ちゃん付けで呼んでたんだ。オーシ、咲月まかしとけ!」


 いつの間にかチョウチョは二匹になっていて、また降り出した日照雨の、藤棚から外へ飛び立っていった……。

 

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