大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・052『マス漢大使館前・1』

2021-06-24 13:25:27 | 小説4

・052

『マス漢大使館前・1』扶桑道隆   

 

 

 上様、速報です!

 

 兵二が小姓用ハンベを示すのと、情報局のエマージェンシーアラームが鳴るのが同時だった。

 火星カボチャを剪定する手を停めると、目の前にインタフェイスが現れてネット速報と情報局の緊急報告の両方が現れた。

―― マス漢大使館で爆発事件! 初代マス漢大統領像の首が吹き飛ぶ! 天狗党の報復か!? ―― ネット速報

―― マス漢大使館にて爆発事案発生 玄関付近に若干の被害 調査中 ―― 情報局

 ネット速報は、焼け焦げた大使館の壁を背景に、首が吹っ飛んだ大統領像が3D映像で出ているが、情報局のそれは、報告分だけで、むろん映像は添付されていない。

 将軍への報告は正確でなければならないのは分かるが、そっけなさすぎる。

「見舞いに行く、馬を出せ。北町奉行にも通報」

「承知!」

 兵二が駆けだそうとすると、温室の外に気配。

「上様、同行します」

 近習頭の胡蝶が自分の馬に乗りながらわたしの盛(さかり)を曳いている。

「参る!」

 将軍の乗り物はパルス車かパルスバイクに決まっているが、現場が城にほど近いマン漢大使館。

 駐車場に回ることを考えれば、この方が早い。

 

 現場に着くと人だかりを北町奉行所の警官たちが規制の真っ最中だ。

 兵二の連絡が届いていたのだろう、北町奉行の遠山が目ざとく敬礼をしている。

「現時点で分かっていることを教えてくれ」

「は、現時点では、被害……」

 要領よく一分足らずで報告してくれる。

 内容は、情報局の報告がネット速報のレベルになった程度のものだが、現場で将軍が報告を受けている姿を晒すことが重要なのだ。

「あ、上様だ」「こんなに早く」「馬で来られたんだ」とささやく声がチラホラ聞こえる。

 遠山奉行に大使館関係者や通行人など、周辺に被害が及んでいないことを重ねて確認。

「上様、爆発前後の映像を入手しました」

 胡蝶がハンベを見せる。

 あえて3Dホログラムにせずに、無音の2D画像にしてある。

 十秒余りの映像。

 ノイズが走った直後にバリアーが起動して、爆発の衝撃が、あらかた上空に逃げているのが分かる。

 バリアーが無ければ、もっと被害が出ていただろう。

「中を見よう」

「上様」

「なに、見舞いに行くだけだ」

 大使館の事故とはいえ、将軍が自ら出張ることは異例だ。

 試してみる価値はある。

 門まで行って、呼び鈴を押す。

『はい、マス漢国大使館受付ですが、ただいま閉鎖中でご対応できません』

「征夷大将軍の扶桑です。大使閣下にお見舞い申し上げたいのですが」

『せ、せ、征夷大将軍!?』

 大使館のあちこちの監視カメラが指向する気配がする。

 馬に乗ってきたので、パルス波の監視機能にはひっかからないんだろう。あるいは、混乱のあまり正常な判断ができないのかもしれない。

『申し訳ありません、大使館は大変混乱しておりますので、入館していただくことができません。大使はじめ、大使館員は無事でございます。後刻改めてご挨拶いたします。ご厚情ありがとうございます』

「承知しました、お困りのことがありましたら、なんなりとお申し付けください。それでは大使閣下によろしくお伝えください」

『ありがとうございました』

 

 まあいい、これでいろいろ伝わるだろう。

 こういうことは、とりあえずの行動をとることが重要なのだからな。

 踵を返して盛の方に向かうと、胡蝶の視線が動く。

 ん?

 振り返ると、大使館の屋根の上に大きなホログラム映像が浮かびだしていた。

「上様、あれは!?」

「あれは……」

 それは、先日、研修を兼ねて修学旅行の話を聞こうと、城中に呼んだ緒方未来……の偽者だ。

 呼んだ当初から偽者と分かっていたが、思うところがあって騙されたままでいたが、本物の緒方未来が帰って来ると分かって、姿をくらました。

「ヌケヌケと……」

「言うな、騙されてやれと言ったのはわたしだ」

「はい、それは……」

 天狗党の変装テクニックは非常に高度で、生体情報があれば、細胞レベルで擬態する。

 変装前に本人に接触していれば、本人の基本的な個性や記憶までコピーできる。

 見破れたのは、空賊のマーク船長からの秘密電だ。

 地球の周回軌道で未来たちを回収して火星に帰還中だと言う。

 マーク船長の秘密電が正しいと判断したのには理由があるが、それは、今は触れない。

 胡蝶は反対したが、わたしは偽者であることを承知で騙されてやろうと思った。

 害意を感じることがなかったし、どうも、わたしに関心を持っているような気がしたから。

 いや、私自身、将軍の身でありながら、ハラハラドキドキするのが好きだったせいかもしれない。

 

 ホログラムが右手でなにか掴んで回すような仕草をする。

 

 どこかで見た事がある仕草……ああ、大学の古典文化の講座で見た、パチンコを打つ仕草に似ている。

『どうかしら、これで後ろの人にも見えるわよね?』

 パチンコを打つ仕草を三回ほどすると、ホログラムの身長は四メートルほどになって、朝礼でマイクの感度を確認する放送部員のようなことを言った……。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『61式・2』

2021-06-24 06:30:22 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・2』    


 親の姉を伯母さん、妹を叔母さんという。

 わたしには両方がいる。今は伯母さんの方のお店に向かっている。

 啓子伯母さん。

 喫茶ヒトマルを経営して45歳にして悠々自適。

 なんたってお金を持っている。ハンパじゃない。3億円もあった。

 この伯母は39歳で宝くじを当てて、それまでのおツボネOLを辞めて店を開いた。

 3億のわりにはこぢんまりした、でも、敷地だけは90坪と広い。

 ワケはあとで言います。

 角を曲がると、三年前にできたばかりの街の警察署がある。その横がヒトマル。あの……ヒノマルじゃなくて、ヒトマルですから。

 なんでヒトマルかと言うと、2010年に開業したので、下二桁をとってヒトマル。

 なんだか、名前の付け方が自衛隊っぽい。それもそのはず、伯母さんのお父さん。つまりわたしのお祖父ちゃんは元自衛隊員。生まれた子ども三人がみんな女の子だったので、ガックリ……と思っていたら英子叔母ちゃんが「自衛隊に入る!」と言ったので大喜び……したと思ったら音楽隊。

「まあ、あそこなら定年は将官並の60歳。まあ良しとするか」

 素直なようなひねくれているようなお祖父ちゃんではある。

 カランカラン(^^♪

「こんちは!」

 ドアのカウベルと同時に挨拶したら店内は誰もいない……と、思ったらカウンターからバイトのチイちゃんが顔を出した。

「いらっ……あ、ママさんだったら、お祖父ちゃんとお庭ですよ」

「どうも、ありがとう」

 お礼を言って庭に回る。

 庭といっても駐車場を兼ねた空き地。周囲に申し訳程度に草花が植えてあるだけ。60坪はあるから、悠々四台は車を停められるんだけど、伯母さんのボックスカーを除けば軽自動車が、なんとか三台。

 なぜかというと庭の真ん中に61式戦車があるから。

 正確に言うと戦車の実物大のレプリカ。

 映画会社が作ったのを、撮影後売りに出され、啓子叔母ちゃんは、お祖父ちゃんの誕生日に買っちゃった。

「細部が違う」

 お祖父ちゃんは、そう言って、ヒマさえあればネットオークションで買った部品に付け替え、今では本職が見てもパッと目には区別がつかない。

「おう、栞。どうだ、ペリスコープを本物にしたぞ!」

 ドライバーズハッチを開けて、お祖父ちゃんが顔を出した。

「なるほど……本物(だから、どうだってのよ)」

 ペリスコープは、ドライバーが外を見るための潜望鏡みたいなもの。レプリカは、ただのガラス張りで、外からドライバーの顔が見えてしまう。でも、そんなの、ほとんど分からない。

「掘り出し物だったのよ。こいつのモデルになったM47のペリスコープがアメリカのコレクターが売りに出しててさ、15万で落札した!」

 伯母ちゃんが、砲塔のハッチから出てきて、お祖父ちゃん並の笑顔で言った。

「今日は、うちの61式の話なのよ」

 ようやく話が本題に入りかけた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コッペリア・33『文芸部事始め……なんだけど』

2021-06-24 06:17:03 | 小説6

・33

『文芸部事始め……なんだけど』  

 



 栞は福原先生と約束……させられた通り文芸部の部活を一人で始めた。


 文芸部の特権は、図書室の閉架図書も自由に閲覧できることだ。

 初版本や、学術図書、高価な全集などが並んでいる。

 とりあえず手ごろな夏目漱石全集を取り出し、閲覧室の机にドッカと積んで読みだした。

 以前、颯太が教科書を与えて数十分で一二年の教科書を読破したことがあった。

 そんなに早く読んでは、みんなから怪しまられる。そこで栞は、少し熟読してみることにした。

 まず、漱石入門と言っていい『坊ちゃん』からである。

 

 三ページも読むと、明治時代の松山の世界に飛び込んでしまった。

 まるで3Dの映画を観るように、生き生きと町や学校の情景が浮かんでくる。

 文芸部の見本のような生徒になった……成りすぎた。

 読んだイメージが実体化してしまうのである。

 赤シャツの教頭や、野太鼓、山嵐、うらなり、などが職員室を出入りし。赤シャツは、教頭先生に「そこは僕の席だから空けなさい」と言い、野太鼓は居並ぶ先生にお愛想を振り、山嵐は廊下やグラウンドで態度の悪い生徒を見つけては叱っている。

 十数分後には、松山の旧制中学の生徒で学校が溢れかえり、あちこちで騒ぎが起こった。

「ここの女生徒は、スカートが短いぞななもし!」

 と言って女生徒を追い掛け回し、女生徒が図書館に逃げ込んできたことで、栞はやっと気づいて本を閉じた。

 坊ちゃんの登場人物たちは、一瞬で姿を消した。

「どうして、こうなっちゃうかなあ!」

 栞は、我ながら嫌気がさして、美術室の颯太のところに駆け込んだ。

「栞自身、人形が人間になっちまったもんだから、そのくらいのことはおこるかもな……」

「なんとかしてよ。これじゃ、一冊も読めないよ!」

「そうだな……」

 颯太は、三つの絵を並べた。

「いいか、これがクロッキー。デッサンのもっと簡単な奴、二三分で描き上げる。その隣がデッサン。基本的には鉛筆だけで色彩はない……で、これが本格的な油絵だ」

 かつて生徒が描いたサンプルのようだが、サンプルに残してあっただけあって、どれも高校生とは思えないような出来である。

「どういう意味?」

「クロッキーとデッサンと油絵じゃ、対象に対して入り方が違う。栞は物事に対して、このコントロールが効かないんだ。何事も深く入り込んでしまう。この三つの絵のようにコントロールが効くようになればいいさ」

「気楽に言ってくれるわね。こんな風にあたしを作ったのはフウ兄ちゃんなんだからね」

「それは、何かがオレの腕を使って造らせたんだ」

 颯太の言い方は、どこか意識的に無責任だった。

 そして、ようやく騒動も収まった放課後に思い出した。

「なんで、坊ちゃんとマドンナは現れなかったんだろう……?」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする