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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:172『アメノヌホコ』

2021-02-22 09:10:58 | 小説5

かの世界この世界:172

アメノヌホコ語り手:テル(光子)    

 

 

 ヒルデと二人で手を繋いだ。

 手を繋いでいないと、上下も判然としないカオスの中をグルグル回って、いつ離れ離れになるか分からないのだ。

 重力が無いので、髪が大変なことになっている。

 ホワホワとタンポポの綿毛のように広がってしまっている。

「ウ……口の中に入った……」

 ヒルデの方に顔を向けようとしたら、慣性の法則で顔の前に残った髪が口の中に入ってしまう。

 プペ ペッ ペッ

「ジッとしてろ」

 ヒルデがわたしを手繰り寄せ、手際よく髪をまとめてくれる。ヒルデは、いつの間にやったのか軽やかなポニーテールにまとめてしまっている。さすがはヴァルキリアの姫騎士だ。

「ありがとう」

「礼なんかいい、とりあえず、ここを抜けなければな。それを考えろ……ここは、どこなんだ?」

「ここが神話の世界なら……」

 思い出そうとするが、出てこない……日本神話の初めはイザナギ・イザナミだったはず……その前というと……?

 アニメなどに出てくるのは、アマテラスとか高天原とかイザナギは黄泉の国でラスボスのような化け物になり果てて……そうだ、最初はイザナギ・イザナミの二人で島とか神さまとかを産むんだ。

「思い出したか?」

「男神と女神がいるはずなんだけど……」

 こんな重力もないカオスの中では、国生みどころか、ヒルデと二人並んでいることもできない。

「あれはなんだ?」

 わたしが、あれこれ考えているうちにもヒルデは首を巡らし目を見張っていたんだ。カオスの中に何かを発見した。

 カオスの鈍色が凝り固まって、いくつかの澱(おり)のようになったものが浮かんできた。

 しばらくすると、澱のようなものはボンヤリと人の形をして来たんだけど、霧の中の提灯のように滲むばかりで、頼りない。

「傍に寄ってみよう」

「だめ、行かない方がいい」

「そうなのか?」

 確証はないんだけども、神話の始まりはイザナギ・イザナミだ。それ以前のものに関わってしまったら、永遠のカオスの中に閉じ込められてしまいそうな気がする。

 首を巡らすと、澱のようなものは七つあって、目を離さないようにしていると、澱の中に文字が浮かび始めた。

 クニノトコタチ、トヨクモノ、ウヒヂニ、スヒヂニ、ツノグヒ、イクグヒ、オホトノヂ、オホトノベ、オモダル、アヤカシコネ、

「なにか意味があるのか?」

 ヒルデは北欧神話の神なので、意味を考えてしまう。

 ヒルデが彷徨し始めたのも、父であり主神であるオーディンとの関りに疑問を持ったからなのだ。

 疑問を持ったヒルデはトール元帥に預けられ、長くムヘンの地に幽閉されていた。

 わたしたちと出会わなければ、まだ、ムヘンの荒れ地を彷徨っていただろう。

 わたしたちも、転移させられていたムヘンから逃れることは出来なかった。

「見ていれば流れるか消えていくと思う、始まりは男神と女神の二人の神だ……」

「しかし、名前があると意味を考えてしまう……アヤカシコネとかは、妖(あやかし)に関係する神なのではないか……」

 そう考えながら、ヒルデの空いた手はエクスカリバーの柄に手がかかっている。

「ヒルデ」

「あ、すまん。未知のものには、すぐに警戒の心が湧いてきてしまってな」

 ヒルデの手が柄から離れると、七つの澱はゆっくりと背後のカオスの中に流れていき、代わりに現れた二つの澱は、すぐに人の形になった。男女二柱の神だ。

 現れた!

「これが、目的の神たちか?」

「イザナギ・イザナミだ、間違いない」

「眠っているのか?」

「目覚めると思う。これから、二人で国やら神を産むはずだ……」

 数十分も見つめていただろうか、二柱の神は目覚める様子もない……なぜだ?

 なにか足りない……。

 おぼろげな記憶が不足のシグナルを挙げているのだけど、それが何かなのかは、もどかしくも浮かび上がってこない。

 二柱の神は……神は……なにかをかき回していた……その雫が島に……そうだ、かき回す棒のようなものがあったはずだ!

 首を巡らせると、反対側に、今まさに混沌の中に沈みそうになっている矛を発見した。

 アメノヌホコ!

「あれだな!」

 察したヒルデは、わたしよりも早く突進していった!

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

  

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らいと古典・12『第三十二段 者の陰よりしばし見ゐたるに……』

2021-02-22 06:32:58 | 自己紹介

わたしの徒然草・12

『第三十二段 者の陰よりしばし見ゐたるに……』 

 

 この三十二段は、分かりにくい段です。

 九月二十日の夜に、「あるひと」に誘われて、ぶらっと月見に出た。ふと思いついて「そのひと」の家の庭に忍び込んだ。庭は、いささか荒れ果ててはいたが、焚き物の香りなどしてなんとも、「もののあわれを感じた」 
「あるひとは」は、途中で帰られたが、わたし(兼好のオッサン)は、しばらく覗き見を続けた。
すると、しばらくして「そのひと」は妻戸(ドア)を開けて、月を見始めたではないか!
「ああ、カワユイ!」
 わたしは、いろんな言い訳を書きながら、ひたすらそう切なく思った。
 そして「そのひと」は、程なく亡くなってしまった……

 なんとも歯切れが悪い。要は、好きな女性の庭に忍び込んで、その女性の姿を見ただけで、ため息ついて帰ってきちまった!
 兼好のオッサンは当時四十過ぎ。しかも一応坊主のナリをしていて、都のサロンでは、そこそこに名前も通っていました。正直には書けなかったのでしょう。
「あるひと」の供をして……ということになっていて「あるひと」が「そのひと」のところに行きたいと言ったから、兼好のオッチャンは付いていったことになっています。
 でも「あるひと」はテキトーに帰ってしまい、兼好のオッチャンは「あわれを感じて」覗き見を続けたことになっている。
 ほんとうは兼好のオッチャン一人でいったのではないだろうか、そして「そのひと」というのは前段で、手紙のやりとりをした女性ではないだろうか?

 要は、中年男のハカナイ恋物語の問わず語りであります。

 今時の恋とはどんなカタチなのであろうか?
 現職であったころは、夏休み前に生徒に、よくこんなことを言っていました。
「恋はたくさんしてこい。そやけど飛躍はすんなよ。特に女子「簡単に身体許したらあかんぞ」
 毎年十月頃に、「妊娠してもた」という数件の相談が、保健室の養護教諭の元にもたらされるからです。

 新年度の初めにその手の講習会は開きます。しかし、どうやったら避妊ができるか、どうやって病気がうつされるかという話が主体で、基本的には高校生にもなれば性交渉はもつものだ。いや、「やっても、いいのよ。だけど、こういう点には気をつけてね」というもので、ごていねいにコンドームの付け方の実習までやらせている。
 自然、一部、あるいは潜在的に高校生にもなってHの経験もない子は「おくれてる~」という空気ができあがる。
 どこか間違ってるよなあ……と、思いながら講習会では「静かに聞け!」と、鎮め役をやってきました。今時の学校が変質してきたことの、ほんのささやかなお話であります。

 わたしは晩婚で、所帯をもったのは四十の「敬老の日」であります。この日なら忘れないだろうと思って婚姻届を出したのですが、いつからだったか土日と被らないように、年によって日を変えてしまうように法改正されたので日にちは忘れてしまいました。
 歳をとったら「敬老の日」に、夫婦二人でお祝いができるようにという目論見ははずれてしまいました。

 四十の結婚だったので、わたしも、カミサンも、それぞれにいろんな体験があったのですが、夫婦間の礼儀として、そういう話題には触れないことにしています。
 しかし、物書きとは因果なもので、オモシロイことは書かずにはいられない。

 わたしは、今のカミサンを含めて四回婚約している。そのうちの一回のお話であります。
 まだ携帯電話がなかった時代で、その彼女とは、電話と手紙のやりとりが主体でありました。
 二人共に忙しい身なので、二人で会えるのは月に一度か二度、どうかすると三月開くこともありました。
 文章を書くのはいっこうに苦にならないので、週に一回は手紙を送っていました。
 あるとき、気づくと五ヶ月も会っていないことに気づいて……というよりは、わたしが焦れてしまって、電話をかけました。その間二十通ほどの手紙を送っています。

 彼女の返答は、こうでした。

「なんで、五ヶ月もほったらかしといたんよ!」

 物書きの悲しさは、洞察力であります。彼女のこの一言で全てが分かりました。

 彼女には、新しいオトコ……彼氏ができた。そしてわたしの二十通の手紙は彼女の手には渡っていない。手紙は、おそらくご両親の手により、その都度シマツされたのだろう。
「分かった」そう一言言って電話を切りました。
 ほんとうに相手を愛しているのなら、相手が一番幸せになる道を選択してやるのが「男の道」であろうと、寅さんのように思っていました。
 

 それで、最後に決別の手紙を書きました。

「お幸せに。君が立ち寄りそうなところには行きません。キミもボクが立ち寄りそうなところには来ないでほしい」という意味の手紙でありました。

 今思うと、言わずもがなの事を書いてしまったのですが、その時はケジメだと思っていました。

 ところが、行くところ、行くところで彼氏と二人連れの彼女に出くわしてしまう。一度など、彼方からにこやかに目礼されたこともあります。最悪だったのは、わたしの劇団の公演にアベックで来たときです。オトコはそうと知らずに、わたしにこう聞いてきました。
「おい、トイレはどこにあんねん?」
「はい、廊下に出ていただきまして、右にお進みいただきましたところにございます」
 にこやかに、そう案内しました。
 最前列の席に彼女のあどけない後ろ姿が見えました。まるで、サスペンションライトに際だつような幸せそうな背中でした。

 オッサンの恋というのは辛いものですなあ、タワリシチ兼好!


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真凡プレジデント・1《いくつかの理由》

2021-02-22 06:09:47 | 小説3

プレジデント・1

《いくつかの理由》    

 

 

 第一の理由は二年生になったこと。

 

 二年と言うのは、もう高校生活が半分過ぎたのと同じ。

 だって、三年の一学期には進路は確定してしまうんだよ。

 そうでしょ、三年生はクラスそのものが進路別だし、一学期の終わりには就職にしろ進学にしろ行先が決定する。

 おまえなら……だいたいこんなとこだな。

 担任が、そう言って見せる資料には五つ六つの候補が上がるんだろうけど、みんな似たり寄ったり。

 なにも、卒業後の進路だけで一生が決まるわけじゃない。

 だけど、わたしって冒険するタイプじゃないからね、たぶん結婚するまで(するとしてね)の人生が決まってしまうと思うよ。

 

 第二の理由はお姉ちゃん。

 

 お姉ちゃんは三月で仕事を辞め、マンションも引き払って家に戻って来た。

 お姉ちゃんはいわゆる女子アナで、同年代の女性の中では勝ち組だと思っていた。

 妹のわたしが言うのもなんだけど、ルックスはいいし勉強はできるし(なんたって東京大学を出てる)人当たりはいいしスポーツは万能だし、他にもいろいろアドバンテージなんだ。

 そのお姉ちゃんが、一か月余りでひどく劣化した。

 ジャージ姿で一日を過ごし、連休からこっちは、ほとんど外にも出なくなった。

 もう東大出身勝ち組女子の面影もない。

 正直、こうはなりたくないという女子の見本のようになってしまった。

 

 わたしはお姉ちゃんのように美人でもなく勉強もできないしスポーツも苦手、人付き合いも最小限度で済ますというかできない。

 子どものころから存在感のないことおびただしく「あ、いたんだ」とか「忘れてた」とか言われることがしばしば。

 たまにお姉ちゃんと歩いていると、視線がお姉ちゃんだけに集まる……のはまだいいんだよ。

「えと、そちらは?」と人が聞いて「妹です」とお姉ちゃんが応える。で、たいていの人が「え!?」と言う顔になる。

「似てませんね」というようなデリカシーのない人はめったに居ないが、みんな、とんでもなく意外そうな顔になる。

 だから、もう三年くらい姉妹並んで歩くなんてことはしたことが無い。

 

 三つ目の理由は、藤田先生が困っていたから。

 

 藤田先生は来年で定年のオジイチャンなんだけど、仕事っぷりは誠実。

 不器用なところに親近感。藤田先生から誠実を抜いてしまったら……たぶん抜け殻。

 その藤田先生が困り切った顔で中庭のベンチに座っていた。手にはなにやら書類……後ろからチラ見。

――ああ、生徒会選挙の時期か――

 藤田先生は生徒会の顧問の一人で、立候補者の発掘をしているようなのだ。

 書類は目ぼしい生徒のリストで、十何人プリントされた名前にはことごとく二重線が引かれている。

 つまりは、声をかけたけどことごとく断られてしまったということらしい。

「お、まひろか……」

 一言あって、気弱な微笑みを浮かべると、先生は再び書類に熱中し始めた。

「……ども」

 わたしも、そっけない返事して、その場を離れた。

 その時は、自分が立候補するなんて毛ほども思わなかった。むろん、藤田先生も論外というか、気にもかけていなかった。

 

 でもね、五時間目が始まる前に〔生徒会長〕を電子辞書で調べてみたんだ。

 

 the president of the student council ……と出てきた。

 

 council(カウンシル)が生徒会、presidentが会長ということなんだ。

 

 プレジデント!

 この英訳の言葉で、わたしは決心。

 これが四つ目の、でも、一番大きな理由。

 

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