『虚無に消える』
宇宙戦艦はツクヨミという艦だった。
十億年前の地球言語を解読するには戦艦の艦内に残されていた遺物や資料では不十分で、ツクヨミという艦名も音が分かるだけで意味は不明だ。記紀神話に出てくる天照の弟と同じ発音だが、十億年の昔とあっては記紀神話など、ついこないだの事で、関連性はありえないだろう。
「艦長、ツクヨミの動力はカワチと同じイテマエ機関です! 信じられません!」
いち早く乗り込み調査の終わった機関長が興奮気味に報告した。
「十億年前は河内はおろか日本列島も無い時代だぞ」
「ところが、丸っきりそうなんですから、むろん仕組みは違いますが、動力源にイテマエの残滓が確認できました。持ちかえった資料の解析を急ぎます!」
それだけを言うと、機関室へ取って返す機関長だ。
「自分は空っぽだとか言っていたが、なかなか、好奇心は大したもののようだ」
――内部に生命反応はありません――
艦内調査を継続中の美樹から二度目の報告が入る。
「そりゃ、十億年前の艦だから生きてるものなんていないでしょう、それより……」
千早が――なにを当たり前なことを――というように先をせかす。
――そういう意味じゃなくて、そもそも人が乗っていた形跡が無いんです――
「無人艦なのかい?」
――いいえ、人が居住できるように造られています……しかし、相当期間人が居なかったように感じられます……なに?」
同行させた隊員と話しているようで報告が中断する。
「艦長、艦内の被害状況をまとめました」
井上補給長が被害状況を報告する。
「艦首五メートル程度が圧潰、揚錨機故障、第一電気室中破、総電力量不足のため転送室使用できません。負傷148名、回復不能者14名……」
「15名です、たった今テルミ一士が逝きました」
美花衛生長が付け加えた。
「……ご苦労です、負傷者の手当てに専念してください」
――艦長、至急調査班を転送回収してください!ツクヨミの艦内に虚無が拡散しつつあります!――
「転送室が使用不能だ、ダンジリで逃げてくれ! 後進微速! ツクヨミから離れろ!」
「圧潰が広がります!」
「かまわん、急げ!」
――艦長……!――
美樹が叫んでいるが構っている暇はない、虚無が発生しているツクヨミに接触しているとカワチまで侵されてしまう。
ギ ギギギーーー
嫌な軋み音を立てて、カワチはツクヨミから離れていく、艦首の圧潰部が寝食を受けて消えつつあった。
「後進いっぱーい、つづけてワープ!」
「動力不足で危険です!艦がもちません!」
「かまわん、いけ!」
「緊急ワープ、総員衝撃にそなえよ!」
ズギューーーーン
ワープ特有の振動音をさせながらカワチはワープした。
出力が70%しか出せないため、カワチは木星軌道と土星軌道の中間までのワープしか出来なかった。
「ワープ完了、ツクヨミは虚無に飲み込まれました」
たった今まで留まっていた木星軌道上に小さなブラックホールが滲んで消えていく。
「調査班は回収できたか?」
「ダンジリ一機のみ回収できました」
――申し訳ありません、隊員三名は間に合いませんでした……――
モニターから憔悴した美樹の声がした。
宇宙戦艦はツクヨミという艦だった。
十億年前の地球言語を解読するには戦艦の艦内に残されていた遺物や資料では不十分で、ツクヨミという艦名も音が分かるだけで意味は不明だ。記紀神話に出てくる天照の弟と同じ発音だが、十億年の昔とあっては記紀神話など、ついこないだの事で、関連性はありえないだろう。
「艦長、ツクヨミの動力はカワチと同じイテマエ機関です! 信じられません!」
いち早く乗り込み調査の終わった機関長が興奮気味に報告した。
「十億年前は河内はおろか日本列島も無い時代だぞ」
「ところが、丸っきりそうなんですから、むろん仕組みは違いますが、動力源にイテマエの残滓が確認できました。持ちかえった資料の解析を急ぎます!」
それだけを言うと、機関室へ取って返す機関長だ。
「自分は空っぽだとか言っていたが、なかなか、好奇心は大したもののようだ」
――内部に生命反応はありません――
艦内調査を継続中の美樹から二度目の報告が入る。
「そりゃ、十億年前の艦だから生きてるものなんていないでしょう、それより……」
千早が――なにを当たり前なことを――というように先をせかす。
――そういう意味じゃなくて、そもそも人が乗っていた形跡が無いんです――
「無人艦なのかい?」
――いいえ、人が居住できるように造られています……しかし、相当期間人が居なかったように感じられます……なに?」
同行させた隊員と話しているようで報告が中断する。
「艦長、艦内の被害状況をまとめました」
井上補給長が被害状況を報告する。
「艦首五メートル程度が圧潰、揚錨機故障、第一電気室中破、総電力量不足のため転送室使用できません。負傷148名、回復不能者14名……」
「15名です、たった今テルミ一士が逝きました」
美花衛生長が付け加えた。
「……ご苦労です、負傷者の手当てに専念してください」
――艦長、至急調査班を転送回収してください!ツクヨミの艦内に虚無が拡散しつつあります!――
「転送室が使用不能だ、ダンジリで逃げてくれ! 後進微速! ツクヨミから離れろ!」
「圧潰が広がります!」
「かまわん、急げ!」
――艦長……!――
美樹が叫んでいるが構っている暇はない、虚無が発生しているツクヨミに接触しているとカワチまで侵されてしまう。
ギ ギギギーーー
嫌な軋み音を立てて、カワチはツクヨミから離れていく、艦首の圧潰部が寝食を受けて消えつつあった。
「後進いっぱーい、つづけてワープ!」
「動力不足で危険です!艦がもちません!」
「かまわん、いけ!」
「緊急ワープ、総員衝撃にそなえよ!」
ズギューーーーン
ワープ特有の振動音をさせながらカワチはワープした。
出力が70%しか出せないため、カワチは木星軌道と土星軌道の中間までのワープしか出来なかった。
「ワープ完了、ツクヨミは虚無に飲み込まれました」
たった今まで留まっていた木星軌道上に小さなブラックホールが滲んで消えていく。
「調査班は回収できたか?」
「ダンジリ一機のみ回収できました」
――申し訳ありません、隊員三名は間に合いませんでした……――
モニターから憔悴した美樹の声がした。