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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・025『虚無に消える』

2019-05-08 06:29:25 | ノベル2
時空戦艦カワチ・025 
『虚無に消える』



 宇宙戦艦はツクヨミという艦だった。

 十億年前の地球言語を解読するには戦艦の艦内に残されていた遺物や資料では不十分で、ツクヨミという艦名も音が分かるだけで意味は不明だ。記紀神話に出てくる天照の弟と同じ発音だが、十億年の昔とあっては記紀神話など、ついこないだの事で、関連性はありえないだろう。

「艦長、ツクヨミの動力はカワチと同じイテマエ機関です! 信じられません!」

 いち早く乗り込み調査の終わった機関長が興奮気味に報告した。
「十億年前は河内はおろか日本列島も無い時代だぞ」
「ところが、丸っきりそうなんですから、むろん仕組みは違いますが、動力源にイテマエの残滓が確認できました。持ちかえった資料の解析を急ぎます!」
 それだけを言うと、機関室へ取って返す機関長だ。
「自分は空っぽだとか言っていたが、なかなか、好奇心は大したもののようだ」
――内部に生命反応はありません――
 艦内調査を継続中の美樹から二度目の報告が入る。
「そりゃ、十億年前の艦だから生きてるものなんていないでしょう、それより……」
 千早が――なにを当たり前なことを――というように先をせかす。
――そういう意味じゃなくて、そもそも人が乗っていた形跡が無いんです――
「無人艦なのかい?」
――いいえ、人が居住できるように造られています……しかし、相当期間人が居なかったように感じられます……なに?」
 同行させた隊員と話しているようで報告が中断する。
「艦長、艦内の被害状況をまとめました」
 井上補給長が被害状況を報告する。
「艦首五メートル程度が圧潰、揚錨機故障、第一電気室中破、総電力量不足のため転送室使用できません。負傷148名、回復不能者14名……」
「15名です、たった今テルミ一士が逝きました」
 美花衛生長が付け加えた。
「……ご苦労です、負傷者の手当てに専念してください」
――艦長、至急調査班を転送回収してください!ツクヨミの艦内に虚無が拡散しつつあります!――
「転送室が使用不能だ、ダンジリで逃げてくれ! 後進微速! ツクヨミから離れろ!」
「圧潰が広がります!」
「かまわん、急げ!」
――艦長……!――
 美樹が叫んでいるが構っている暇はない、虚無が発生しているツクヨミに接触しているとカワチまで侵されてしまう。

 ギ ギギギーーー

 嫌な軋み音を立てて、カワチはツクヨミから離れていく、艦首の圧潰部が寝食を受けて消えつつあった。
「後進いっぱーい、つづけてワープ!」
「動力不足で危険です!艦がもちません!」
「かまわん、いけ!」
「緊急ワープ、総員衝撃にそなえよ!」

 ズギューーーーン

 ワープ特有の振動音をさせながらカワチはワープした。
 出力が70%しか出せないため、カワチは木星軌道と土星軌道の中間までのワープしか出来なかった。
「ワープ完了、ツクヨミは虚無に飲み込まれました」
 たった今まで留まっていた木星軌道上に小さなブラックホールが滲んで消えていく。
「調査班は回収できたか?」
「ダンジリ一機のみ回収できました」

――申し訳ありません、隊員三名は間に合いませんでした……――

 モニターから憔悴した美樹の声がした。
 
 
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高校ライトノベル・新 時かける少女・2〈美奈子との惜別〉

2019-05-08 06:20:49 | 時かける少女
新 かける少女・2  〈美奈子との惜別〉
 
 
 
「愛ちゃん……愛ちゃん……」

 その声が近づいてきて目が覚めた。
 バカな話だけど、一瞬、ここは誰? わたしは、どこ? になってしまった。
 
「ハハ、ホッペに畳の跡が付いてるよ!」
「え、ほんと!?」

 荷物はほとんど片づけたので、ベランダのガラス戸に顔を映してみた。
 
「やだ、あたしトラックの助手席に乗るのに……これじゃ、運転手さんから丸見えだ」
「まあ、お婆さんじゃないんだから、十分もすれば消えるわよ」
「そっかなあ……」
 
 あたしは、ホッペを揉んでみた。
 
「大丈夫だって」
「だよね……」
「寂しくなるね……」

 縁側に腰掛けながら美奈子が肩を落とす。

「主語が不明ね。あたしが? 美奈子が?」
「両方よ、日本語の機微が分からないんだから」
「でも、せめてお互いにぐらい言ってよ」
「……これ、お別れのしるし。さよならじゃないからね」
「そうだよ。お互い親が、こんな仕事だから、どこ行くかわかんないもん。また、どこかであえるっしょ」
「ハハ、北海道弁が混じってる」
「ハハ、一番長かったからね……お、お守りだ」
「かさばらないものって、それで心のこもったもの。で、これになった」
「お、護国神社……遠かったんじゃない?」
「朝の一番に自転車で行ってきた。運動兼ねてね。事情言ったら宮司さんが特別なのくれた。重いよ」

 手のひらに載せられたそれは、予想の三倍ぐらい重かった。

「なんだろ、これ、普通のお守りの三倍は重いよ」
「ばか、開けて見るんじゃないわよ」
「ヘヘ、好奇心だけは旺盛だから」

 そのとき、玄関でお母さんの声がした。

「愛、そろそろ出るよ……あ、美奈子ちゃん、見送りにきてくれたの?」
「ええ、この官舎で、東京からいっしょなのは愛ちゃんだけでしたから」
「そうね、今度の移動がなかったら、中学高校といっしょに卒業できたかもしれないわね」
「それを言っちゃあいけません、小林連隊長夫人」
「そうよね、そういうの承知でいっしょになったんだもんね」

「奥さん、そろそろ……」

 玄関から、運送屋さんが顔をのぞかせる。
 
「はい、いま行きまーす!」

 玄関に回ると、大きな4トントラックと、お母さんのパッソが親子のように並んでいる。
 
「じゃ、お母さんたち、ご近所にご挨拶してから出るから」
「うん、じゃ、お先」
「ごめんね、お姉ちゃん。トラックに乗せて」
 
 進が、済まなさそうに言った。
 
 進は人見知りってか、そういう年頃なので、見知らぬ運送屋のオニイサンとたちといっしょにトラックに乗るのを嫌がっていた。
 
「いいよ、姉ちゃん、大きい自動車好きだから」
「今のトラックは快適ですから、大丈夫ですよ」

 そして、あたしは、4トンの助手席に収まった。

 自衛隊の幹部の家族は全国を回らされる。
 
 うちのお父さんは一佐になって、すぐに連隊長になった。
 陸上自衛隊、南西方面遊撃特化連隊……分かり易く言うと、日本版海兵隊。
 
 本土での訓練が終わり、石垣島に駐屯する。ただし、安全の確保と危機の分散のため、家族は沖縄本島の官舎に入ることになっている。長崎から一泊二日の小旅行だ。

 トラックが動き出し、お母さんやみんなが車の振動に合わせて小さくなっていく。美奈子ちゃんが追いかけて手を振っている。
 
 涙が出てきた……そして、美奈子ちゃんから、なにかを引き継いだような気がした。

「さっきまで、畳の上で寝てたでしょ?」
 
 真ん中の席に座った助手の女の人がバックミラーごしに言った。
 
「え……まだ残ってます?」
 
 サイドミラーに映したホッペは、ほんのり赤いだけだ、畳の目まではついていない。
 
「シチュエーション考えたら、畳の上。だって、テーブルもベッドもないんだから。でしょ?」

 なかなか洞察力のある人だ。横を向くと人なつっこい笑顔が返ってきた……。


 
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