大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・65『お隣の中野さん・2』

2018-11-22 06:06:13 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・65 
『お隣の中野さん・2』 
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り。さあ、今度は、お隣の中野のオッサンだ。


「中野のオジサン、自己嫌悪なんて簡単なところに逃げ込まないでね」

 正直、中野は自己嫌悪というような麗しげなものではなく、ただパニックに落ち込んでいるだけだった。しかし、七十歳にもなろうかという元高校教師に自己分析をさせ、正しい十年余りの余生(日本人の平均寿命から割り出した)を、心静かに送ってもらうには、自己嫌悪のうちに閉じこもっているだけでは、なんの進歩ももたらさない。

 なんと、友子は七十歳の元教師を、ソクラテスのように論破し、中野の精神を救済させようとしている!

「中野のオジサンは、昭和42年から、ずっと独身で、教師と党員であることに生き甲斐をもって生きてきたのよね」
「その命題の置き方は間違えている。わたしがずっと独身であったことと、教師、党員であったことを並列に並べれば、誤謬に満ちた結論しか導き出せない」
「もう、ムツカシイこというんだから。ガチガチの教師で、コチコチの党員だったから、女性に巡り会う機会が無かったのよ。あ、話は最後まで聞いてね。オジサンは、そうでありながら、求めている女性像は、まるで違った……ここに不幸があった」
「……どういうことかね?」
「オジサンは、自分と同じ、教師であり、党員である女性には魅力感じなかったのよ」
「それは、意味が違う。彼女たちは、同志であり、そういう対象なんかではない!」
「じゃ、簡単な実験」
 友子はタブレットを出した。
「今から、ここに八人づつ女性の写真が出てきます。時間は二秒間。ただ見てくれるだけでいいから」
「見るだけで、いいのか?」
「うん、いくよ」

 友子は、八人づつ、延べ1600人の若い女性の写真を見せる。それは、過去に中野が出会った、同僚、後輩、そして生徒。通勤途中で電車の中で、チラ見したのから、無意識な憧れを持った女性などから選ばれた人たちであった。友子は、二秒間の間に、中野がどの女性を見、瞳孔の開き具合から血圧、心拍数まで計って結論を出す。

「じゃ、今から、一つのグループを一人0・2秒ずつ見てもらいます……」
 中野の瞳孔は小さくなり、心拍数、血圧も低くなっていった。簡単にいうと興味が無いのだ。
「じゃ、次のグループ行きますね……」
 中野の瞳孔は大きくなり、心拍数、血圧も高くなった。要するに、好みの女性達であった。
「なんだか、懐かしいような顔もあったような気がするが」
「オジサンが、興味を持たなかったのは、同業の党員、またはそういう傾向を持った女性。興味を持ったのは、そういう思想的な傾向とは真逆な女性達。で、魅力を感じた女性の平均値を出すと……これ」

 それは、オカッパに近いボサボサ髪、今で言うとボブに分類される女学生の姿であった。試しにほんの0・1秒水着姿にしたが、中野には変化が無かった。

「オジサン、やっぱりダテに七十年生きてないね。反応がとても複雑だわ。憧れと、反感が両方ある」
「そうかい、自分じゃ意識してないけど」
 友子は、その平均値を数値化して、自分のCPUのデータと照合してみた。
 なんと、一番の近似値は、友子自身だった。

 でも不思議だった。普段、隣から感じる中野の視線は、顔、胸、お尻で、関心の順は逆で、単純なスケベエジジイだと思っていたが、さっきの水着姿には反応していない。

『おまえは、また資本論なんか読んで。こんなもんで世界なんか理解できないわよ。弟が時代遅れのマルクスボーイだなんて、姉ちゃんやだからね!』

 瞬間、中野のお姉さんの姿が、言葉といっしょに浮かび上がった。

――そうか、女性の理想像は、お姉さんなんだ……十七で亡くなってる。これが意識下にあったんだ。ちょっと、あたしにも似てるなあ――

 甘いと思われるかもしれないが、友子は、その日のことは何も、誰にも言わなかった。それどころかフェイスブックから、中野と共通の友人が一人いる59歳の女性にフレンド依頼を中野宛てに出させた。自然で無理のないタイプの女性だった。

 心拍数などを計っていて、友子には分かってしまった。中野の寿命は、あと二三年。友子でも手の施しようがない心臓と、血管の障害がある。若い頃の教師時代の無節操が祟っている。中野は彼なりに、いい教師を勤め上げた気で居る。
 
 資本論をバイブルに、タイプの女性と晩年に仲良くなって生涯を閉じてもいいんじゃないかと思う友子であった。

コメント
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