トモコパラドクス・48
『友子のマッタリ渇望症・3』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。
気が付くと、父でもあり弟でもある一郎がニヤニヤ笑いながら写真を見いた。
夏休みの初日と日曜が重なったので、この妙な親子三人は、まず身の回りの整理から始めた。両親の一郎と春奈は、新発売のルージュの販売が軌道に乗ったので、友子はマッタリの一環として、オカタヅケという人間的な行為にいそしんでいるのである。
ただ、友子は義体なので、身の回りは最高に機能的で、その点ではオカタヅケの必要など無かった。
で、年頃の女の子らしく、適度に散らかして(人間的には飾り付けるという)いるのだが、これが、なかなか難しい。
「なによ、気持ちわるいわねえ」
「友子もみてごらんよ」
「あ……!」
その写真を見たとたん、記憶が膨大な情報として蘇ってきた。
「これ、ディズニーランドが出来た年の連休だ!」
「そうだよ、このグズって、お袋にあやされてるのがおれで、全然構わずにビッグサンダーマウンテンの方見てるのが友子だ」
「ハハ、なんか今と関係逆過ぎるから笑えるね」
「母」の春奈が、笑った。
「懐かしい、ちょっと借りていい?」
友子は、部屋のベッドにひっくり返って、写真を見るというか、解析してしまう。
軽い気持ちで見ても、数億の情報が頭の中で演算されていく。
「ああ、だめ。もっと軽い気持ちで!」
友子は、気合いを入れてお気楽になった。
「このときのわたしって、ビッグサンダーマウンテンのことしか考えてないよ。一郎の泣き声も聞こえてこない。いいよなあ……こういうワガママな無神経は」
数秒後、頭の中で、かすかなアラームが鳴り、ガバと身を起こした。
「これ……滝川さんに似てる」
義体である友子に「気がする」は、あり得ない。写真を見れば、その人物から、すくなくとも数万の情報を得ることができるが、滝川らしきものからは、らしいという以外なにも分からなかった。
「ああ、これがいけないんだ。マッタリマッタリ!」
再びバタリと仰向けに寝転がると、ベッドのスプリングが「プツン」と、音がして折れてしまった。
「いかん、十万馬力なんだ、わたしは……ちょっと、散歩してくる!」
友子は、自分のCPUの中に「無意味」というカテゴリーを作ろうとしていた。昨日食堂で、アイスクリームとラーメンの汁を被ってしまったのは、機能不全によるバグである。人間的なマッタリとは似て非なるものである。友子はバグりかけたPCの持ち主のように必死であった。
外に出ると、数兆の情報が飛び込んでくる。人間にとっては、体にも頭にも良い刺激なのだろうが、友子にとっては、ただCPUの負荷を掛けるだけに過ぎなかった。友子は、この負荷を取捨選択し、「無意味」をカテゴライズしようと、いわば逆療法に出たわけである。
「え、あんなとこに喫茶店が……?」
再会という名前の喫茶店だった。友子のGPS機能は「確認不能」のシグナルを発していたが、しばらくすると、確認に変わった。
もう、この土地に大正時代からありました。というような面構えをした店で、友子が入ると、レトロなドアベルの音がした……。