大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・51『友子の夏休み 軽井沢・2』

2018-11-08 06:44:06 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・51
『友子の夏休み 軽井沢・2』
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休み。王さんの別荘にくることになった。


 五百坪はあろうかという敷地に、一同はおったまげた!

「少し、中心部からは離れているけど、この方が落ち着けるでしょ」
 タクシーの支払いをカードで済ませた梨花は、言い訳のように言った。
「でも凄いよ梨花さん。うちんとこなんか町内会ごとおさまっちゃう。ゲフ!」
 コーラを半分ほど飲んで、麻衣はゲップと感嘆詞をいっしょに吐き出した。
「お庭はきれいにしてあるのね!」
「ねえ!」
 マンション住まいの妙子が残念と感心をいっぺんにし、紀香がうまく合わせた。
「広いだけじゃないわ、趣味がいいし、手入れが行き届いている。わたし、庭のお手入れ覚悟して、軍手もってきちゃった」
 同じ軽井沢に別荘を持っている純子が、残念なような嬉しいような様子で軍手を振り回した。
「それは正解よ。今朝は庭師の人に入ってもらったけど、明日からは、わたしたち。芝刈りだけでも大変。ほら、庭の隅に練習用に刈らないままのが残してある」
 なるほど、四十坪ほどの芝が伸び放題に残してある。
「あと、水やり。四カ所に水道があるから、明日からがんばりましょう。それから、あそこに積んである丸太は一日十束ずつ、冬用の薪割り。よろしくね」
 梨花が、お気軽そうではあるが、済まなさそうに言った。

 建物は、お金はかかっているが、質素な作りになっていた。

「うわー、外から見るより広いね。ゲフ!」
 麻衣が、残りのコーラを飲みきって感動した。
「うちより、ステキ……」
 純子がため息、
「でも、よーく見て」
 梨花が視線を低くしたので、みんなもそれに習った。
「オー、ホッコリだーらけ!」
 分かっていながら紀香が、おどけるように言う。
「まあ、自助努力の教育よ。がんばりましょ!」
 義体の能力を封印して、友子が宣言した。
「じゃ、とりあえず部屋に行きましょ。わたしたちが使えるのは二階のゲストルーム」
「ヤッホー!」
「六人の大部屋のほうだけどね」
「いいじゃん、修学旅行みたいで!」

 ゲストルームだけは、掃除が行き届いていた。で、それぞれのベッドの上には、掃除用のツナギ帽子、マスクなどが、揃っていた。
 部屋だけ掃除して、廊下は、ちゃんとホコリが積もっていた。梨花の両親の気合いの入れ方がよく分かる。

 家具に掛けられたカバーを取ると、いっそうホコリが舞い立ったが、そこは若さ、キャーキャー言いながら、お掃除にかかった。
 あらかた終わったところで、梨花が遅い昼ご飯を作りに厨房に入った。
「手伝おうか?」
「いいわよ、一人の方が、能率いいの」
「なんだか、あたしたち、お料理ヘタクソのオジャマ虫みたいじゃん。梨花」
 妙子の言葉が、友だち言葉になっている。みんなで労働したことで、仲間意識が芽生え始めたのだろう。
「じゃ、食器並べたり、見学してくれればいいわ」

 ジュワー!

 野菜を炒める盛大な音、見事なフライ返し。みんな、ひたすら、フクロウのように「ホー、ホー!」であった。

「三把刀(サンバーダオ)の華僑って聞いてはいたけど、梨花ちゃんもたいしたもんね」
 紀香が、先輩面で言う。もっとも昼ご飯の天津飯と唐揚げを最初に平らげたからではあるが。
「なんですか、その三把刀(サンバーダオ)ってのは?」
 友子が、分かっていながら、後輩の顔で聞く。
「仕立て屋、調理、理容、この三つの技術があると、華僑の人たちは世界中どこでも食べていけるって、たくましさと覚悟を同時に表現した言葉。でしょ、梨花ちゃん?」
「ええ、わたしなんか、まだまだですけど」
 奥ゆかしく恥じらう梨花は、清楚な中にタクマシサを感じさせ、友子には好感であった。

「ね、あの油絵の男の人って、孫文さん?」

「あ、それは、わたしの大叔父のお父さんなの」

 友子は、たいがいのものからはその情報を読み取ることが出来たが、この絵を描いた人は気迫以外は、みんな消し去っている。人間にこんな事ができるのかと感心した。

 そして、この先、この絵が呼び込んだとしか思えない事件……それは、この旅行の、まだ先に起こることであった……。

コメント
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