トモコパラドクス・72
『連休 ハルといっしょに』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……この連休は、ハルといっしょだ。
一郎は、ペットホテルに預ければいいじゃないかと言った。
でも、ハルは家に来て、やっと一週間。そして、まだ生後五十日の赤ちゃんである。とても二日も手放して、旅行なんかできない。
ということで、この三連休は、ハナと二人で家で過ごすことにした。
躾なきゃいけないことが、いっぱいあるし、なにより、ハナの主人は自分であると思わせなければならない。
ハナは、賢い子で、トイレは三回ほど失敗したあと、すぐに覚えた。大きい方は散歩の途中にと、散歩に連れだし、ものの百メートルも走らせるともよおしてきたようで、道路の真ん中でうずくまった。直ぐに道路の端に連れて行き、ウンチ袋を手に待ちかまえた。
「よし、健康なウンチだ!」
友子は、袋の口をカタ結びにすると、イイコイイコをしてやった。公園の側まで来ると、ハナはキョロキョロし始めた。ひょっとして滝川さんのコーヒーショップが現れたのかと見回したが、単なるハナの願望のようだ。午後に、もう一度お散歩に連れて行こうと思った。
うちに帰ると、嫌がるハナをシャンプーしてやった。お湯の温度に気をつけ、犬用のシャンプーで軽く一回。すぐにタオルでくるんで、リビングへ。ドライヤーの弱で、乾かしてやる。
さあ、これから躾と思ったら、ハナは、気持ちよさそうに眠ってしまった。あまり気持ちよさそうでカワイイので、そのまま抱え込んで、友子も横になった。
小さな温もりが、とても愛おしかった。
あたしのことを、人間だと思ってくれている。そして、なんのクッタクもなくその身を預けている。やっぱりハナを飼って正解だったと感じた。こんなに無条件で友子を信じ受け入れてくれる存在は、他にはいない。
友子は、自分もお昼寝モードにして、少しまどろんだ。
昼からは、本格的な躾に入った。
散歩から帰った後、ミルクを飲ませてあったので、室内トイレに連れて行き、おしっこを促す。
「ハナ、おしっこ!」
まるで、スイッチが入ったみたいに、おしっこをした。終わるとブルっと身震いして、後足で砂をかけるようにした。本人もうまく出来たのがうれしいのかドヤ顔になる。なかなかの奴である。
次ぎに、狭い庭に出てボール遊び。投げてやると、教えもしないのに口でくわえて持ってくる。賢い奴と思ったが、単に遊んで欲しいだけなんだと理解した。
その次の、お座りが、なかなかできない。
「お座り!」
と、言っても、うろうろしたり、まとわりついたり。
掴まえてきて、無理にお座りの姿勢をさせるが、効き目がない。
あまり真剣に「お座り」を念じ続けたので両隣の中野さんと森さんが庭でお座りをしていた……。
昼過ぎに、もう一度お散歩に行った。なんとなく滝川さんに会えるような気がしたから。
今度はあたり。
公園の角に『乃木坂』の看板で出ていた。
ハナとポチは、店の庭でじゃれあっている。滝川が、コーヒーを一口飲んで切り出した。
「こないだの、渋谷事件。娘さんの名前はミズホだった」
「ええ、あたしの中ではミズホクライシスのファイルにカテゴライズしてあります」
「以前、未来にリープしたときは、栞だった……」
友子のCPUはバグりそうになった。
「そ、そうです……なんで、いままで気づかなかったんだろう」
「理由は、二つ考えられる。トモちゃんの未来がパラレルか……娘が二人いるか」
「わたし……どちらも真実。どういうことなんだろうか?」
「今は、あんまり深く考えない方がいい。そのうち分かる時がくる。それより、ハナちゃんにお座りをさせしょう」
滝川が、ポチを呼ぶと、ハナもノコノコ付いてきた。
「こうやるんだよ……」
滝川は、一発でハナをお座りさせた。
「こんな、簡単なやり方が……!」
友子は、いろんな問題の糸口が、瞬間見えたような気がした。