大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・新 時かける少女・12〈柏木薫〉

2014-03-17 10:58:15 | 時かける少女
新 時かける少女・12
〈柏木薫〉



 わたしは、助けてはいけない女の子を溺死寸前に助け、代わりに命を失った。そのために記憶を失い、時空を彷徨って、いろんな人生を生きなければならなくなってしまった。

 自分は大正十三年四月四日の生まれである。

 柏木という華族の三男として生を受けた。名を薫という。日本古典文学の半可通であった父が、源氏物語にこと寄せて付けた名である。母が三宮の出身であることに引っかけたようであるが、源氏に出てくる薫は父の源氏とは縁が薄い。そこまでは知らなかった……あるいは、後妻である母への複雑な思いや、配慮があったのかもしれない。
 しかし、昭和の御代にあっては、この男とも女ともつかない名前に、自分自身は苦労した。学習院の初等科に入学したとき、あてがわれた席は笠松潤子の後ろ。すなわち担任が、名前を見ただけでの誤解であった。あとは推して知るべしの混乱が、この二十二年の生涯に幾たびかあった。

 一度だけ、自己確認のために記す。

 自分は、身体は男子なれど、心は女であった。もとより、それは隠しおおせてきたが、苦しいものであった。意識的に銃剣道に打ち込み、毛ほどにも女の心を持っていることは、悟られなかった。また、男仲間の中にいることは、自分の密かな喜びでもあった。海軍航空隊の士官となったのも、その延長線の上にあるのかもしれない。しかし、この乖離を解消するために、明日、自分は人生を終わる。むろん、この悪化する戦況において、日本人が日本人であることを後世に残し、再建される日本の心。そのささやかな柱石になれればという心があることも事実である。
 この世に完全などは存在しない。自分の心も、かくのごとくの混乱である。しかし、無理な心の整理などはしない。混乱、不純のまま自分は自裁する。

 一気に書き上げ、一読。納得した。エンカンに入れ燃やしてしまうと迷いも未練も無くなった。混乱、矛盾こそが、自分のありようなのだ。そう確認できただけでいい。

「下瀬さん。あなたの炸薬を試してみますよ」
 そう言うと、下瀬少佐は驚いた顔をした。
「柏木さん……しかし、終戦の詔勅から、もう十日にもなりますよ」
「だからこそ、米軍にも隙がある。今夜にも決行します。明日になれば、残存機のペラはみんな外されて飛べなくなってしまいますからね。整備は、間島整備長に頼んでおきました」

 下瀬少佐が作った炸薬はピカほどの力はないが、並の炸薬の十数倍の威力がある。二十五番(二百五十キロ爆弾)に詰めれば、大和の主砲弾並の力がある。当たり所によれば、一発で戦艦を沈めることもできる。

 機体はグラマンに外形が似ている雷電を使う。

「では、行ってきます」
「あくまで、柏木少佐が機体を強奪したということにしますので」
 整備長が、ニッコリ笑った。自分は、こういう男らしい笑みに弱い。思わず抱きしめたが、整備長は、男の感が極まった行為と受け止め、ハッシと抱きかえしてきた。
「では、行ってらっしゃい。残った者は殴り方用意……始め」

 男達が殴り合って居る間に、自分は発進した。これで、自分が機体を強奪した言い訳にはなるだろう。

 いったん箱根の山の間を抜けて、相模湾に出て、米軍機の巡航速度で巡幸高度をとった。そしてあらかじめ調べておいた、米軍機のコードで無線連絡し、遭難機を装った。子どもの頃アメリカで暮らしていた英語が役に立った。ヨークタウンから着艦許可が出た。

 近づいて、シメタと思った。三百メートルほどのところに、ミズーリとおぼしき戦艦が停泊している。
「ラダー故障、着艦をやり直す」
 そう電信を打つと、左にコースをそらせ、そのままミズーリのど真ん中に突っこんだ。

 一瞬目の前が真っ赤になって、意識が途絶えた。

 刹那、兄のひ孫の想念が飛び込んできた。

――ミズーリ爆沈、乗員全員死亡。ヨークタウン中破、死者、負傷者多数――

 ミズーリにはマッカーサーが乗っており、ヨークタウンでは、ジョージ・ブッシュという若いパイロットが巻き添えをくって死んでいた。

 自分の、いや、わたしの時空を超えた漂流は、まだまだ続きそうだった……。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『ROBOCOP /アナと雪の女王』

2014-03-17 07:26:51 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『ROBOCOP /アナと雪の女王』



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


ROBOCOP

これだけ映画のSFXが進化して 様々なSF作品がリブート(再起動…リメイクとは意味が異なる)される中 「まだやらんのかい!」とイライラしながらまっていたのが、まさしくこれでした。

 まず、映像から言うと若干の不満はあるものの、この先シリーズ化されるとして(アメリカでは今一の成績、今後 世界でどれだけ稼ぐかにかかっていますが)その前提で考えると ギリギリ合格点を付けて良い出来上がりになっています。         
 当然の事ながら87年のヴァーホーベン版の どこか漫画チックな画面とは一線を画し、まさに“生きたロボコップ(?)”が暴れまわっています。
 監督のジョゼ・パジーリャ(ブラジル人/主にドキュメンタリー監督「バス174」/ドラマ「エリート・スクワッド」)は87年版とは違うロボコップを作ったが、前作へのリスペクトは全編に溢れている。
 細かい描写はこれから見る人の邪魔になるので割愛しますが、設定に穴が少々……幾つか有りますが、主にロボコップの生体部分維持(前作では ワザと無視してあった)へのこだわりと、そうした場合のメンテナンス費用 及び ラストシーン以降 誰が負担するのか……話がドキュメントタッチに進行する為、かえって気になってしまいます。
 前作ではオムニ社副社長が悪党で、ラスト 社長が副社長に馘首宣言する事に拠ってロボコップの禁忌コードが外れ、会社としてはプロジェクト続行となる。
 今作ではロボットプロジェクトはオムニの一部で、更に本社が存在する(いきなりラストでアナウンスされる)らしく、まぁ その辺は続編に出てくるんでありましょう。
 さて、87年版は 結構政治的な作品でした。アメリカがオイルショック以降 構造不況に陥る中、レーガノミクスが打ち出した新自由主義経済は「公共から民営化」の波を作り出し始めていました。
こういう状況下、「もし、警察までが民営化されたら?」という設定で作られたのが前作でした。 ヴァーホーベンのアメリカに遠慮の無い語り口と、過剰過ぎる残酷描写は そのディストピアを描き出し、これは まさに現在の世界の先取りでした。
 今作ではブラジル人監督(ヴァーホーベンはオランダ人)が現在のアメリカが既にディストピアの入り口に在るとして製作しています。
 アメリカは兵士の死に耐えられずイラクから撤兵しましたが、これがロボット兵士なら? 映画では2018年にいたるも駐留を続けている事になっています。国内には警察にすらロボットの導入を禁ずる法律が存在するのに……政治経済の微妙な違いを映画は見事に吸収して作られています。
 内容に少し触れますが、前作のロボコップは“人間としてのマーフィー”のアイデンティティを奪われた存在として登場、彼がいかにして人間に再生していくかが重要なテーマでした。 今作でのマーフィーは人間としての記憶を持ったままサイボーグ化され、それでは都合が悪くなり感情を奪われる。それをどう取り戻すのか、家族との関わりを絡ませながら描いて行く。  どうしてもストーリーに触れますなぁ。正直、小理屈こねないと半端に感じる部分があるので どうしてもそっちに行っちまいます。これはねじ伏せて続編以降をまちましょう。
 SFアクションとしては基準を満たしています。


アナと雪の女王

 現在までに作られたCGファンタジーの極北です。身体ごと鷲掴みにされるような物語をクリエイトできる能力は悪魔的ですらあります。これでも褒め言葉なんですよ、もう絶賛する言葉がありませんわ。
「また ディズニーが童話をねじ曲げた」だの「キリスト教の臭いがキツい」だの「アメリカの論理」だのと……散々ハリウッド映画に噛みついてきた私が言います。この作品にそんなイチャモンつける奴は絶対許さん! のめり込みすぎですかねぇ~ なんせ、まるっきり始めのシーンから 余りの美しさ、あまりの躍動感に思わずウルッときちゃいました。エルサが氷の宮殿で歌う“Let It Go”なんて震えました。吹き替えを見ないで良かったと今日ほど思ったことはありませんわ。エルサの吹き替えは松たか子で……最近松たか子を見直したばかりですが、この歌で同等以上の感動を伝えられるとは思えない(ちなみにアナは神田沙也加)
「真実の愛」が魔法を破るというキモ以外はアンデルセン童話とは何の繋がりもありません。100%ディズニーオリジナルの物語。 ピクサーCGとは一味違う、本来のディズニーアニメの歴史線上にある まことに素晴らしい作品です。これは見るというより体験する以外にありません。どうか映画館に足を運んで下さい。
 老婆心ながら、小さい子供連れでなければ 是非とも字幕版をご覧になって下さい。絶対に!!


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