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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

2024-03-31 10:45:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』 




 あ、ひいお爺ちゃんだ。


 そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。

 愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。

 目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。

「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」

『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』

 交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。
 御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけどね。

「さあ、入るよ」

 少彦名さんが歩き出すと、デラシネがわたしの後ろに隠れた。

「ケルベロスみたいなのが居る!」

「え?」

 見ると、玄関の両脇に強そうな狛犬が居る。

「ああ、うちに居た狛犬だ。口を開けてるのが太郎、閉じている方が次郎。僕のお客さんだ、挨拶しろ」

 少彦名さんが言うと、二匹の狛犬は怖い顔のままペコリと頭を下げた。

「あ、おっかない……」

 デラシネはわたしの後ろにくっついたまま博物館の中に入った。

「展示物にも面白いのがあるんだがね、今日は時間がない、食堂の方に行くぞ」

 そう言って、正面の階段は登らずに階段の下へ。

『そうだ、地下には食堂があったんです。社会見学に来た時いい匂いがしてました!』

「交換手さん、食べたことあるの?」

『いえ、社会見学でしたから匂いだけでしたけどね(^_^;)、見学が終わってから、近くの公園でお弁当食べました』

「じゃあ、百年ぶりに実物を食べられるわけだな」

『百年も経っていません、九十年ですョ!』

 アハハハハ((´∀`*))

 いつも冷静な交換手さんがムキになるのでおかしい。

「オトヨさん、連れて来たよ~」

 少彦名さんが呼ばわると奥の方から「ハイヨ~」と明るい声がして割烹着に三角巾の女の人が出てきた。

「いらっしゃい、ひい、ふう、みい……少彦名入れて四名様だね」

「ああ、樺太ランチ四つで頼むよ」

「樺太ランチ四つ!」

 厨房の方にオーダーを通すオトヨさん。

 感じは高級レストランなんだけど、ノリは大衆食堂の雰囲気だよ。

「乱暴な感じだけど、美人だなぁ、オトヨさん」

 デラシネはオトヨさんの方に感心している。

『ひょっとして、豊受神(とようけのかみ)さまでいらっしゃいます?』

「ああ、そうだよ」

「トヨウケノカミ?」

『食べ物の神さまです、天照大御神の孫娘でいらっしゃいますから、おきれいなのは当然です』

「少彦名といいオトヨさんといい、なんだか雰囲気がいいなあ……」

「神さまの有りようなんて、いろいろなんだ。異国の女神よ」

 あ、なんか少彦名さんの目が優しい、というか、言葉遣いまで。

「女神って……(-_-;)」

「俯かれるな、貴女がひとかどの女神、それも女王級のお方だというのは分かっております。先日、三方さんからも回覧板が回ってきました」

「三方さんから?」

「ははは、もてなしというほどのことは出来ませんが、まあ、ゆっくりされよ」

「は、はい」

「と、畏まった言葉遣いはここまでにして、ランチができたようだ」


「はい、おまちぃ! 樺太ランチ四つぅ!」


「「『うわあ(^▽^)!』」」

 あっという間にお誕生会のような雰囲気になって、おいしく樺太ランチをいただく。

 シャケのちゃんちゃん焼きをメインに、エビやらカニやらイクラやら、一見カチコチのロシアパンも中はモチモチ。

 みんなで美味しくいただいて、いよいよメインの樺太観光になったよ!

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
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やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

2024-03-25 11:40:18 | カントリーロード
くもやかし物語 2
038『廃墟と少彦名』 




 あ……


 御息所が戸惑いの声をあげて視界が開けた。

 いつもだったら『ええっ!?』とか『ギョエー!?』とか品のない声を上げる御息所なんだけど『あ……』と上品な声。

 そう、今の御息所は交換手さんのスピーカーというかインタフェイスを兼ねているからね。今の上品な『あ……』は交換手さんの声なんだ。

 わたしもデラシネも「え?」と思ったよ。

 1941って番号を回したから、とうぜん1941年に飛んだんだと思ったよ。


 着いたところは、なんか、大きな工場の廃墟だ。

 昔は五階建てぐらいだったんだろうけど、所どころ床が抜けていて、最上階の屋根まで見通せる。壁もいたるところ抜けたり欠けたり、床はボロボロのコンクリートで、機械が据え付けてあったんだろう、土台が剥き出し。瓦礫やら草やらコケやらカビみたいなのも生えていて、ゾンビ映画とかのロケにはいいけど、思念だけとは言え地球の裏側からわざわざ見に来るものじゃないよ。

『す、すみません、なにか手違いのようです(;'∀')』

 めずらしく交換手さんが狼狽えている。


「申しわけない、交換手」


 声がして振り返ると、壁の崩れたところにミノムシみたいなのが立っている。

『あ、少彦名さん!』

 ミノムシはすくなひこなというらしい。

『少彦名と言えば、大国主の国造りスタッフ。それがどうして? ちょっと体つきも大きすぎるし! あんた、ほんとうに少彦名!?』

 御息所が自分の声で責め立てる。

「ああ、あんたは、ただのスピーカーじゃないみたいだなぁ」

『六条御息所よ、本来は東宮妃だからね、感謝しなさいよ』
『あとは、わたしがやりますから(^_^;)』
『そう、じゃあ、よろしくね。わたしはもう出てこないから!』
『はい、すみみません』

「説明してよ、わけ分からんからぁ!」

「まあまあ(^_^;)」

 デラシネが切れかかって、なだめるわたし。

『少彦名さんは樺太神社の神さまだったんです。樺太神社はもうありませんけど、日本にはまだ樺太に住んでおられた方もいらっしゃいますし、訪れる日本の方々もいるので、現地の案内人として残っておられるんです』

「本来は親指ほどの背丈しかないんだけどな、樺太は草深い、見失われては困るんで、このサイズで出てくるんだ」

 元のサイズだったら御息所とも仲良くなれたかもしれないかなぁ。

「で、ここはいったい何なの? こんなもの見せるために、ここまで連れてきたの!?」

「まあ、話を聞こうよデラシネ」

「すまんなあ、今のロシアは、ちょっとごたついていてなあ。いつものように昔へ飛ぶことができないんだ。あ、ここは真岡にあった製糸工場の跡でなぁ、コンタクトしやすいんで、こっちに来てもらったんだ」

『ええと、昔の真岡や樺太を偲ぶところはないんでしょうか?』

「希望通りのところは無理だろうが、あんたの頼みだ。ちょっと考えてみよう」

『すみません、お手数をかけます』

「なあに、わざわざヤマセンブルグから来たんだ、歓迎はするよ」

 グゥ~~~~

「お、なんだ腹が減ってるのか?」

「あ、お昼食べる前にこっちにきたからかなぁ、思念体でもお腹が空くんだね(#^_^#)」

「そうか、二人とも思念体なんだ。それならもてなしようもあるというもんだ」

「え、なんか食べさせてくれるのかぁ!?」

「え、デラシネってリアルにご飯食べるの?」

 いつもは食堂で食べるフリだけしている。

「うん、じつは、どっちでも……というか、思念体ならリアルには食べられないだろう?」

「まかせておけ、これでも元は樺太の一の宮、それくらいは造作もない。行くぞ!」

 少彦名がクルっと回って風が起こったかと思うと、辺りが真っ白になったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名

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やくもあやかし物語2・037『番号を回したら樺太だった』

2024-03-20 11:17:09 | カントリーロード
くもやかし物語 2
037『番号を回したら樺太だった』 




『この番号を回してください……』


 交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。

 ジーコ ジーコ……

「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」

「え、どうしてぇ?」

 魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。

「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」

『だからして、わらわが付いておるのじゃ』

「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」

 もう一度、いちからかけ直し。

「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」

 47230のぉ……14226っと……

 ツー カシャカシャ ツー カシャカシャ ツーカシャ カシャカシャ……

 メチャクチャ長い接続音(^_^;)

 ポシャ

 接続完了の音がして、これで話し中だったらどうしようかと思ったけど、電話をかけているわけじゃない。

 理屈は分からないけど、これは樺太の真岡に行くための番号なんだ。

「あ、もしもし……」

 習慣で電話の呼びかけをしてしまう(^_^;)

 
 ドゴゴォォォォォォォン


 すごい音がしたと思ったら、はるか目の下で氷がひしめきぶつかり合っている。

「これが全部氷なのか……すごい……白い猛獣たちがひしめき合っているようだ!」

「たしかにねぇ……」

 流氷とか氷山とか、動画や映画とかでは見たけど、リアルで見るのは初めて。コタツでミカンの皮を剥きながら見ているのと違って、周り中ひんやりしてるし、足もとからは流氷で鋭くなった冷気が無数の矢になった感じでピシピシ打ち上げられてくる。

「でも、デラシネ、ヤマセンの湖だって氷が張るんじゃないの?」

「これに比べれば栗鼠か兎の感じだ、ここのは虎かライオン、伝説のサーベルタイガーとかマンモス。それ以上だ、こんな凶暴な氷は始めて見た」

 バッキーーン!

「「ウワ!」」

 ひときわ大きな氷が弾けて、大小の破片が噴き上がる。

 デラシネと二人、思わず身をかわした。

「さすが、戦前の樺太、迫力がちがうなあ」

『『いえ、これは今の樺太ですよ』』

 御息所が交換手さんの声で言う。

『ちょっと、人をスピーカー代わりにしないでくれる!』

『『すみません、樺太までは声が届きませんので』』

『ああ、そう』

「戦前の真岡に来るんじゃなかったの?」

『回線の都合です。ほら、左の方に島が見えますでしょ』

「え、ああ」

 氷に見惚れてるうちに陸地に近づいてきたみたいで、島の所どころに日本風ではない街や建物が見える。
 みんな敷地が広くて、建物はゆったりと建っている。鉄筋アパートみたいなのもあるけど、戸建てのは壁は白かアイボリー、屋根はオレンジに近い赤色が多い。所どころに玉ねぎ坊主みたいな屋根が見えるのはロシア式の教会なんだろうね。

『『あれは真岡の南の方の町です。これから戦前の樺太に飛びます。インタフェイスのダイヤルを回してください。番号は……』』

 また五桁が二つだったらどうしようかと思ったけど、今度は1941。

 これは、ひょっとしたら西暦のことかもしれないねえ。

 ジー コロコロ ジーー コロコロコロ……

 ダイヤルを回すと視界の真ん中に読み込み中そっくりのグルグルが現れる。

 交換手さんの電話って、ひょっとしたらネットなのかなあと思った。


 
☆彡主な登場人物 
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  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
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やくもあやかし物語2・036『交換手さんの提案』

2024-03-16 14:37:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
036『交換手さんの提案』 




 デラシネは言葉にしようと、息を吸っては吐き出した。

 ハーーー

 思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、何度目かには顔を洗うような仕草のまま伏せてしまった。

 お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。

 自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。
 だいいち、お母さんと血のつながりは無いしね。でも、それを忘れて血のつながりがあるように正当化してるのは、ちょっと嬉しかったけどね。
 
 意味は違うけど、いまのデラシネは、そんな感じ。

 ただ、デラシネはお母さんと違って、ほんとうに能力持ってるから、ほんとうに暴れそう……というか、もう何回も暴れてるし(^_^;)。

 プルルル プルルル

 黒電話が控え目な音で鳴った。

「あ、ちょっとごめんね」

 デラシネにゴメンして受話器を取る。デラシネは邪魔されたというよりは助かった的に息を吐いた。

「もしもし」

『交換手です、お話の最中にすみません』

「あ、いいよ。デラシネも気にしてないし。で、なにかな?」

『こないだ言ったでしょ、真岡。よかったらデラシネさんと二人で行ってみます?』

「真岡! ああ……でも、学校あるし」

『大丈夫です、昔の真岡だし、イマジネーションの中だから時間はたちません』

「あ、そうか。日本であちこち行ってたのと同じなんだ」

『はい、そうです。お供は……』

「交換手さんは?」

『あはは、わたしは電話からは出られませんし(^_^;)』

「あ、そうなんだ」

 日本にいる時から分かってたけどね、いちおう言ってみただけ。

『お供は、いつもの通りポケットの君に……』

 ゴソゴソ

 モゴモゴしたかと思うと、御息所が目をこすりながら顔を出した。

『なにか言ったぁ?』

『御息所さん、やくもさんがデラシネさんといっしょに真岡の見物に行くんですけど、お願いできます?』

『真岡って……あんたの故郷の、樺太の真岡か?』

『はい、そろそろ流氷が動き出す時期でシャケとかも美味しいですよ』

『う~~寒そうでいやだ』

「ヤマセンブルグだって寒いじゃない」

『ここは、寒い時は部屋に居られるし、たいていは寮と教室のどっちかだし』

「あ、それなら、これを貸してやる」

 デラシネが手袋を出した。ポワポワした綿毛のような感じで気持ちよさそうだ。

『わたしの手は、こんなに大きくない!』

「手に嵌めるんじゃなくて……エイ!」

『な、なにをする!?』

 デラシネは御息所の首根っこを掴むと、あっという間に手袋を着せてしまった。

 中指と薬指のところに脚を、親指と小指のところに手を突っ込ませると、お母さんが持っていたモンチッチみたいになった!

『一本余ってるんだけど』

 なるほど、人差し指のところが余ってブラブラしてる。

『それは、お土産を入れる袋というかポケットにすればいいでしょ』

『かっこ悪い……けど暖か~い』

「よしよし」

 御息所が納得したところで、真岡に飛び立つことになったよ。



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やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

2024-03-13 14:26:30 | カントリーロード
くもやかし物語 2
035『デラシネに向き合う・2』 




「なあ、これってハイジのおかげなんだろ!?」

 ポコン!

「イッテエなあもう」

「今度言ったら、殺す」

「わ、分かってるけどよぉ」

 これでもう五回目くらい。


 学校の庭で詩(ことは)さんが歩く練習をしている。介添えは王女さま、時どきソフィー先生。二人とも日本にいたころからのお友だち。

 先週、ハイジと男子が木登りしてて、調子に乗ったハイジがお猿みたいに落っこちた。

 その瞬間を、この窓から見ていた詩さんは、ビックリした拍子に自分の脚で立ち上がったんだ。

 その時、庭の端っこで見ていたデラシネが疾風みたいに飛んできてハイジを受け止めた。

 でも、デラシネはわたし以外には見えないから、みんな、ハイジは魔法かなんかで助かったと思っている。

 それと、詩さんが自分の脚で立ち上がったことと合わせて、王宮や学校では『セントヤマセン以来の奇跡』と噂が立っている。


 こないだ三方さんが聖真理愛学院の修学旅行に紛れてやってきた。仁徳天皇の御勅使だそうで、あれこれやっていった。
 最後はヤマセン湖のほとりでデラシネに付き添ってくれて、わたしの胸にもラブ注入みたいにしてくれて、それが影響してるんだと思う。

 今のところ、デラシネの姿はわたしにしか見えない。

 森で大暴れしていたころは、ハイジやネルにも見えていたんだけどね。年末の決戦で負けてからは、わたし以外には見えないようになった。


 一時間近く歩行練習をして、詩さんは、王女さまに付き添われて王宮に帰って行った。


 そして、それまで庭の隅っこで見ていたデラシネも姿を消した。

「さあ、そろそろ宿題やらなきゃだなぁ!」

 ネルがピンと耳を立てて力こぶを作る。

「あはは、そういや、そんなもんがあったな(^_^;)」

「ハイジ、どうせやってないんだろ」

「どうしてわかった!?」

「分かるわあ!」

「そ、そうか。じゃ、見せてくれよ」

「いっしょにやってやるから、自習室行くぞ」

「おう、やくもはやったのかぁ?」

「あと、ちょっとだけ。あとで自習室行く」

「おう、じゃあ、宿題は手を付けないで待っててやるからな」

「それは、やらなきゃダメだろがぁ」

 ポコン

「あ、また叩いたぁ!」

「うるさい、いくぞ……」

「待てったらぁ……」

 ふたりのにぎやかな声が廊下に消えてバルコニーの方に目をやると――もういいか?――という顔でデラシネが浮かび上がってきた。

 ベッドに腰掛けて、隣をポンポンと叩くと、少しだけ安心したような顔をして、わたしの横に腰掛けた。


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やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

2024-03-08 10:01:45 | カントリーロード
くもやかし物語 2
034『デラシネに向き合う・1』 




 詩(ことは)さんは大事を取って王立病院に検査入院したよ。

 ハイジ!?

 ハイジが木から落ちてみんなが悲鳴を上げて、わたしの部屋に来ていた詩さんは、王女さまといっしょに窓の外を見た。
 その時、詩さんは窓辺に手を突いてだったけど、自分の脚で立ったんだ。

 それは『アルプスの少女ハイジ』でクララが立ち上がった時みたいに衝撃的だった。

 すぐに、木から落ちた猿、いや、ハイジと一緒に王室医師のフレデリック先生が診て下さったんだけど「奇跡です!」と喜んでいたんだけど、念のための検査。

「ハイジも検査かぁ(^▽^)/」

 喜んで手を挙げたハイジは頭をコツンとやられておしまい。


 ――ありがとう、デラシネ――


 心の中でお礼を言うと、デラシネは顔を真っ赤にして行ってしまった。

 よかった、通じてはいるんだ。


 わたしの足首は週明けには治って、今日からはネルやハイジといっしょに授業を受ける。

 あ、そうそう。ハイジは元々は別の部屋なんだけど、毎朝うちの部屋のドアをノックして誘いに来る。

ハイジ:「オッス、行こうぜ!」

ネル:「いいのかハイジ、おまえのルームメイトはオリビアだろが」

ハイジ:「いいんだいいんだ、オリビアは良家のお嬢さんってやつでさ、おたがい合わないの知ってからな。ネルも、意外とこまけえんだな」

ネル:「いちおう聞いただけさ、おまえらがいいんなら、こっちはいいんだがなあ!」

ハイジ:「こら、人の頭グリグリすんじゃねえ! フレデリックのオヤジにやられたとこ、後になってコブになってんだからな」

ネル:「見せろ、それって一種の遅延魔法だろ!」

ハイジ:「こらぁ、触んなあ(>〇<)」

やくも:「もう、廊下で騒がないでよね」

ハイジ:「ネルがグリグリすっからぁ」

ネル:「グリグリしやすいところに頭があるからなあ(^_^;)」

ハイジ:「やくもぉ、おまえが真ん中に来てくれ」

やくも:「え、まあいいけど」

 並び変わってダイニングに下りると、ロージーに笑われる。

ロージー:「プ、あんたたち、食堂のドリンクサイズの見本みたいね」

ベラ:「ロージー、悪いわよ」

 たしなめてるベラも目が笑ってるし。

ハイジ:「アハハ、たしかに、こんな感じだなあ(* ´艸`)」

 たしかに、カウンターに置かれた制服と同じ色の紙コップはS・M・Lで、似ている。こたえんやつだ。

 わたし的には、朝に出くわすロージーとベラのコンビはチョコとマスタードが一度に口に入ったみたいでかなわないんだけど、思っていても言わない。

 朝食をチョイスしてテーブルに着くと気配。

 隅っこの席で、デラシネが朝食を食べるふりをしている。

 学校の制服を着て完全に溶け込んでるんだけど、エルフのネルでさえ気づいていない。やっぱりデラシネが見えるのはわたし一人のようだよ。

 やっぱり、いっしょに居たいんだ。

 ハイジも助けてもらったことだし……これは、あらためてやくもから声をかけなきゃいけないと思ったよ。



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やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

2024-03-02 11:22:51 | カントリーロード
くもやかし物語 2
033『階段で怪我をした』 





 もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。

 グニュ

 みごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')

 
 で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。


 月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。

 森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。

 昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。

 ああ、外に出たいなあ……

 出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。


 プルルルル


 黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。

「もしもし」

『あ、交換手です。退屈しているようなので、ちょっと話しかけてみました』

「あ、どうもありがとう(^_^;)」

『もう少し暖かくなったら、故郷の真岡とかご紹介しますよ』

「え、真岡って、樺太の?」

『はい、真岡の春は遅いですけど、流氷がバリバリ流れ始めて、ちょっと男性的で素敵ですよ』

「わあ、そうなんだ。流氷なんて見たことないしぃ……でも、どうやって行くの? 日本も樺太も地球の裏側だよ」

『大丈夫ですよ、やくもの胸にはタマノオが巡り始めてますから、ソウルだけでなら行けるようになりますよ』

「そうなんだ!」

『それに……あ、御来客です』

 トントン

「あ、はいどうぞ」

「「失礼しますねぇ……」」

 え、二人?

 なんと、王女さまが詩(ことは)さんの車いすを押して入ってきた!

詩:「階段から落ちたって聞いて」

王女:「だいじょうぶ?」

やくも:「だいじょうぶです! わ、わざわざお越しいただいて!」

詩:「わたしも階段から落ちたから、ちょっと心配で」

 そうだった、詩さんは階段でよろめいた女王陛下を助けようとして転げ落ちたんだ(せやさかい402『王宮某重大事件・1・詩の災難』)。

やくも:「グネっただけですから、腫れがひいたら大丈夫ってお医者さんも言ってましたし」

詩:「そう、それは良かったぁ」

王女:「わたしも、学校の総裁だからね、ちょっと気になって」

やくも:「ああ、ボーっとしてたからです。急に春めいてきましたしぃ」

王女:「うん、それならいいんだけど、施設面で不具合があったら遠慮なく言ってちょうだい。ここのところ、行事やら福の湯のことに気を取られていて、校舎や寄宿舎の事に気が回らなかったかもしれないから」

やくも:「だいじょうぶですだいじょうぶです。それに、ほら、出窓からみんなの様子見てるの楽しいです。さっきから、ずっと見てるんですよ」

王女:「わ、ほんとう……よかったぁ、少し心配だったけど、みんな仲良くやっているわねえ」

 ちょっとだけ王女さまの視線が気になった。

 みんなから少し離れたところでデラシネがポツンと立っている。どうやったらみんなの中に入れるか困っている転校生みたい。

 自信が無いせいか、そういう魔法をかけているのかかかっているのか、他の子には見えていない。王女さまにも見えてはいないみたい。

王女:「あ、ハイジが木登りしてる」

やくも:「あはは、おサルさんみたい(^_^;)」

王女:「男の子たちも」

やくも:「男はヘタみたいです」

王女:「元気そうでなにより……コットンも見てみる?」

詩:「いえ、わたしは」

王女:「わたしが支える。大丈夫よ」

やくも:「出窓のところに体重をあずければ……」

詩:「あ、すみません」

 詩さんを出窓に座らせようとした時に異変が起こった。

 後から上ってきた男子をからかって、ハイジがより高いところに上った。

 そして、サルみたいに隣の木にジャンプ!

 ジャンプした先の木の枝がポッキリ折れた!

 キャ!

 ハイジは掴まった枝もろとも地面に落ちて、わたしの怪我どころじゃないと目をつぶって……そして、目を開くと、ハイジは地上五十センチのところで宙に浮いている……ように見えているはず。

 デラシネが、お姫様ダッコでハイジを受け止めていた!


 そして、もうひとつ。


 詩さんが自分の脚で立っていた( ゚Д゚)!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
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やくもあやかし物語2・032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』

2024-02-24 15:08:17 | カントリーロード
くもやかし物語 2
032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』 




 その木の別名を思い出して、ハイジが転ぶのを連想してしまった。


「え、なんだぁ?」

 ハイジが睨みつけてきて、ネルがクスクス笑う。

「なんだよ、ネルにまで笑われちゃあ立つ瀬がねえぞ」

「これはね、ヒメシャラっていうんだよ」

「ヒメシャラぁ?」

 その記念樹は、聖真理愛学院の人たちが植えてった記念樹。

 物事は正確にというカーナボン卿の意見でStewartia monadelpha という学名が最初に書いてあり、その下に姫沙羅・赤栴檀と漢字で書いてある。

 横文字はラテン語だし、漢字は日本人のわたしでも『姫』の一字以外は苦しい。

 水やりをご一緒した王女さまが「サルスベリと呼ばれることもあるのよ」と教えて下さった。

 で、今朝は三人で水やりしていて、王女さまが言った「 サルスベリ」を思い出してしまったんだよ。

 桜を植えようという意見もあったらしいんだけど、これから開花期を迎える桜は、花を咲かせるのに力を使ってしまう。そして、土に馴染めなくて、大して花も咲かせられず、ストレスばかり溜まって枯らす恐れがあるというので、ヒメシャラに決められたそうだよ。夏には、小さな花をいっぱい咲かせるそうで、ちょっと楽しみ。

 さて、当番の風呂掃除。

 福の湯の方は、別の班なんで、あたしらは露天風呂。

 露天風呂の方は入浴で入るのは人気だけども、掃除の方は不人気。

「これってよぉ、最後に使った奴が掃除するのがいいんじゃね?」

 ハイジがプータレる。

「それやると、みんな自分は最後じゃないとか言って、掃除しなくなると思うぞ」

 ブラシをかけながら、ネルが答える。

「そうだよね、入浴のついでだと、掃除してる間に湯冷めしちゃうなあ」

「ええ、掃除してから、もっかい浸かればいいじゃん」

「う~ん……そういう発想はなかったなあ……けど、それじゃあ、掃除したことにならないような気がする」

「そうなのかぁ、ネルはどう思うよ?」

 端っこまでモップかけて、振り返りながらハイジ。それとすれ違いながらネルが答える。

「う~ん……正直、よく分からないけどさ。今はやくもの言う通りやってればいいと思うよ」

「そうなのかぁ」

「たとえば……ハイジ、そっち持てよ」

「おう」

 すのこ大を二人で持ち上げ、わたしがモップでガシガシ。

「たとえば、風呂入るついでに、みんなの下着とか洗濯機にかけたとする」

「おお」

「早風呂のハイジは、さっさと上がって服を着る」

「おお、ハイジは何をやっても早えからな」

「で、パンツ穿こうと思ったら、忘れてきた」

「アハハ、たまにやるなあ(^_^;)」

「そしたら、他のやつが新品の着替えのパンツを脱衣籠に用意してるんで、ちょっと拝借」

「ええぇ!?」

「ちゃんと、きれいに前も後ろも拭いてからな。それで、急いで部屋に戻って、自分のパンツに履き替えて、風呂に戻って借りた新品パンツを返しておく」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 思わず三人いっしょに笑ってしまう。

 でも、掃除の手は止まらないで、もう一枚のすのこにとりかかる。

「そういう時はよぉ、パンツ穿かないで部屋に帰るぞ。返しに戻るのめんどくせえ」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))ワハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))キャハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 バカなことを言いながらも、ちゃんと掃除は進んでいく。

 ちょっと前は、飽き性で、遊んでばかりいたハイジ。考え事をすると他のことは御留守になりがちだったネル。

 意識してないだろうけど、みんな変わりつつある。

 そして、三人のバカな掃除を脱衣場の屋根から見ているデラシネも噴き出しそうになって( ´艸`)手で口を押えてる。

 デラシネは、みんなからは姿が見えないようにして、それでも、悪さはしなくなって、こんな風に観察するようになった。

 つまり、わたしにだけは見えてるんだけどね。

 それは、もうしばらく、やくもとデラシネの秘密だよ。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
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やくもあやかし物語2・031『勅使三方・2』

2024-02-19 10:48:21 | カントリーロード
くもやかし物語 2
031『勅使三方・2』 


 
『ヤマセンの山にも湖もいまだ冬景色の中とは申せ、森の下草にはフキノトウが芽吹き始め、人知れず春の訪れを感じさせる早春の良き日に勅使さまの訪ないをいただき、このティターニア喜びに耐えません。ヤマセンの森王の妃として、謹んでご挨拶申し上げます』


 皇居を訪れた外国の王族が天皇陛下にするように、片膝ついて挨拶した。


「三方さんて、あんなに偉いの!?」

『勅使だからね、天皇と同じ礼式でなきゃダメなのよ。それに、今上さまのではなく、仁徳天皇の御勅使だからね、気合いも入るわよ』

「御息所、あなた、元々は東宮妃だったんだから、勅使とかやったことあるんじゃないの?」

『ないわよ。娘は伊勢の斎宮とかやりに行って付いて行ったことはあるけど。勅使やる人って、位はそんなに高くないのよ。三方さんだって、ただのメイド長だし』

「でも、雛壇の中ではいちばん偉いとか言ってなかった?」

『それは内々でのこと、公の位は高くないのよ』

「そうなんだ」


 そのあと、オーベロンが葉っぱの渦のままご挨拶。いつもは葉っぱをベロンベロンと渦巻かせて、それこそ枯れ葉が燃えるみたいにワシャワシャと喋るんだけど、時どき葉っぱを戦がせるくらいに大人しくしゃべっている。

 それでは後ほどという感じで、三方さんはこっちに戻ってきた。

 ティターニアさんの後だから、ちょっと緊張したけど、ちょっと会釈しただけで、車いすの詩(ことは)さんの方へ進んで行ったよ。


『お久しぶりです詩さん』

「え?」

 どうやら、詩さんには初めて見えたみたいで、ちょっとビックリしている。

『わたくし、詩さんのお雛様の一段下で三人官女を務めておりました三方でございます。真ん中で、三方を捧げ持っておりました』

 三方さんは、三方を捧げ持つ仕草をして、ひょいと顔を上げると、いっしゅん眉無しの鉄漿の顔になった。

「え、あ、ああ……思い出したぁ。歌叔母さんのには三方居なかったから、かけもちしてもらってたのよねぇ」

『はい、いかにも。去年のひな祭りが終わってからは、ごりょうさんの大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)、すなわち仁徳天皇の女官を拝命いたしております』

「そうだったの、よかったわぁ。わたしはこっちに来ちゃったし、さくらも留美ちゃんも、声優とか役者の仕事で、お雛様どころか学校も欠席がちだって言ってたから……」

『はい、しかし、魚心あれば水心。それに、歌さんの三方さんも、わたしより先にお仕えして活躍されています。大鷦鷯天皇が勅使をお遣しになるのは、昭和天皇が、まだ東宮の時代、英国をご訪問されて以来。この道をつけて下さったのは、いつにかかって、詩さん。あなたと、こなたの小泉やくもさんのおかげなんですよ』


 え、そうなの!?

『あ、あれはリップサービスよ、調子に乗らないでね』

「う、うん。でも、なんか嬉しい(^_^;) あ、なにか渡してる……」

『ただのお土産よ、下されものって有難そうだけど、実際は専売公社のタバコだったり、木村屋のアンパンだったり、大したものじゃないわよ』

「あ、でも……」

 それは、仄かに光る石のようなもので、詩さんが「まあぁ」と胸に抱くと、不思議なことに消えてしまった。


 そのあと、森の入り口に行った三方さんは、再び姿を現したティターニアさんにエスコートされて森の中に姿を消した。


 この修学旅行では、もっといろんなことがあったんだけど。ぜんぶ書くとすごい量に成っちゃうんで、折に触れて少しずつお話できたらと思う。


 でもね、もういっこだけ。

 昼食会も終わって、わたしたちのB班は船に乗って、ヤマセン湖の周遊。

 船が桟橋を離れて、森に向かうA班や王宮に向かうC班に手を振っていると、桟橋の近くのベンチに腰掛けてる三方さんに気付く。
 三方さんの横にはデラシネが座っていて、なにか二人で話している。

 100メートル競走のゴールとスタート地点ぐらいの距離があったけど、様子は分かった。

 なんだか、運動会の日に怪我とか病気で参加できない子に付き添ってる先生みたいだったよ。


 
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やくもあやかし物語2・030『勅使三方・1』

2024-02-14 15:06:14 | カントリーロード
くもやかし物語 2
030『勅使三方・1』 




 たった半日の滞在だし、聖真理愛学院の修学旅行は300人の大所帯だし、まとまった行事は合同の昼食会だけ。

 300人はABCの三班に分かれて、宮殿の見学、湖の遊覧、森と周辺の散策の三チームに分かれてる。

 聴講生の詩(ことは)さん、衛兵士官のソフィー先生、それと畏れ多いことにヨリコ王女さまは日本語と英語の両方がいけるので、通訳としてそれぞれの班についている。わたしも頼まれたんだけど、もともとコミュ障だし、こっちの生徒だし、未成年だし、詩さんのサポートということで勘弁してもらったよ(^_^;)。

 いまは、校舎前の芝生広場で全体の説明、班分けは、あらかじめ言われていて、それぞれの班の前に並んで紹介があって、付き添いの先生が諸注意の真っ最中で、取りあえずは通訳、わたしは助手だけど、ヒマ。

 わたしたちはB班。

 ええと、いろいろ面白いこととかあったんだけどね、例の三方さんのことについて触れとくね。

『三方って、雛人形の三人官女の真ん中よ』

 胸ポケットに場所を移して御息所が説明してくれる。

「さんにんかんじょ?」

『ほら、お内裏様の下の段に三人並んでる』

 ああ、お祖母ちゃんがいっかい飾って見せてくれたっけ。

『あの真ん中の三方を捧げてる』

「あ、あの鏡餅の台みたいなの……」

 思い出した、お雛さんの段飾りの中で、ちょっと怖い印象だったよ。

 なんでだろ?

『あいつ、雛壇の中で、いちばんエライのよ』

「え、お内裏さまよりも?」

『うん、あいつ、男雛も女雛人もオムツの頃から世話してるから、もう怖いものなしって女。今風に言うとメイド長ね』

「オツボネサマなんだ(^_^;) オールドミスなんだろうね」

『旦那持ちよ』

「そうなの?」

『うん、眉毛剃ってるし鉄漿(おはぐろ)してるし』

 ああ……そうだった、眉毛無いし少し開いた口の中真っ黒だったし、だから怖かったんだ。

「あ、でもでも、あの三方さん眉毛もあったし、歯も黒くなかったよ」

『時代だからでしょ、あんな眉無しの鉄漿で外国に行ったら、みんな気絶しちゃうわよ』

 御息所と話してるうちに、諸注意とか終わって、いよいよ出発。

 うちのB班は森と周辺の散策から。

 うちの生徒たちは、所どころでプラカード持って人間案内板やったり、昼食会の準備に駆り出されたり。一応スマホに通訳アプリ入れてるから、最低の会話は出来るようになってる。

「あれ、森の住人たちも入り口で並んでるよ」

 見物に並んでるという感じじゃなくて、お出迎えという感じで、ティターニアさん、ドレスにティアラ。他の妖精たちも、おめかししてティターニアさんの後ろに並んでる。

 なんでだろ、森の住人は普通の人間には見えないのに。

 と、思ったら、三方さんが地上10センチくらいのとこをスーっと滑るように移動してティターニアさん達の方に行ったよ。

――パンパカパーーン♪――

 ファンファーレが鳴って、ちょっとビックリしたんだけど、それは妖精のパックが吹いたもので、人間には聞こえていないようだ。

 ティターニアさんが進み出ると、まるで王さまか皇帝陛下にするように、小さく腰をかがめてから三方さんに握手したよ!

 興味津々のわたしは、通訳助手の役割も忘れて聞き耳をたててしまったよ!


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やくもあやかし物語2・029『修学旅行+αがやってきた』

2024-02-10 10:03:43 | カントリーロード
くもやかし物語 2
029『修学旅行+αがやってきた』 



 日本から修学旅行の御一行様がやってきた!


 ほんとうは去年の秋の予定だったんだけど、いろんな事情で年が明けたこの時期になった。

 やってきたのは大阪にある聖真理愛(せいマリア)学院高校。

 うちの学校にとっても、王室にとっても特別な学校なんだ。

 なんと言ってもヨリコ王女がご卒業になった学校。そんで、王宮衛兵でもあり魔法学の先生でもあるソフィア・ヒギンズ先生と聴講生の詩(ことは)さんの母校でもある。

 それにそれに売り出し中の高校生声優酒井さくらさんと、女優の榊原留美さんの二人も入ってるんだよ。

 二人は中学からヨリコ王女といっしょで、部活も中学では文芸部、高校では散策部といっしょだった。お家は堺市内のお寺で、詩さんも、そのお寺の娘さん。さくらさんとは従姉妹同士の関係なんだそうよ。

 たった一日の滞在なんだけど、素敵なことや面白いことがいっぱいあった。

 でも、それは、ちょっと置いておくね。

 いっぺんに書いたらお腹いっぱいになりそうだし、これだけは先に言っといた方がいいことがあるからなのよ。


 それはね……


 学校の敷地にバスが8台も入って来て、うちは全生徒で出迎えたんだけど、聖真理愛の半分ほどで……そのことも置いといて、ビックリしたんだよ。

 なんと、最後のバスから雛人形が下りてきた!

『あいつ、わたしほどじゃないけど、くらいが高い』

 御息所がポケットから首だけ出して不足そうに言う。

 もう、いつもの1/12サイズだから、もとのツンツンに戻ってる。

『え……勅使だってぇ!?』

 そいつは、巫女服みたいなの上にゴージャスな衣をまとって、御息所の声が聞こえたのか、地上10センチくらいのとこを滑るようにしてやってきた!

『そなたですね、小泉やくもという妖使いは?』

「あ、はい。妖使いかどうかは分かりませんが、小泉やくもという者は、学校で、わたしひとりです」

『うむ、妾は大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと) にお仕えする官女にて、八方と申します。見知りおきください』

「オオササギノスメラミコト?」

『ヒ!』

 ポケットの声に八方さんは視線をポケットに向けた。

『これはこれは、桐壺帝の先の東宮妃ではありませんか……いわゆる六条御息所さま』

 半分イヤミじゃないかと思う感じで腰をかがめる八方さん。

『頭が高いわよ、やくも、こいつ、いや、このお方は第十六代の仁徳天皇の御勅使であらせられるのよ!』

 ギョ!?

 わたしを含め、周囲5キロ四方くらいの妖精や妖たちがいっせいに息をのんだよ!


 
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やくもあやかし物語2・028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』

2024-02-03 17:58:01 | カントリーロード
くもやかし物語 2
028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』 




 福はぁうちぃ~(^▽^)/(^〇^)/(^皿^)/(^▽^)/(^◇^)/ バラバラバラバラ!

 鬼はぁそと~(^〇^)/(^▭^)/(^〇^)/(^▽^)/(^〇^)/  バラバラバラバラ!


 吹き抜けになった階段ホールから始まった!

 寮生、先生、非番の衛士、食堂のオバチャン、一緒になって豆をまく!

 豆は変換魔法のソミア先生が魔法で作ってくれたビーンズバレル!


「ヒントはね、映画館のポップコーンよぉ(^▽^)」


 きっかけは変換魔法の授業だった。

「映画館のスナックの定番と言えばポップコーンよね?」

 ああ、そうですね……という感じでみんなが頷いた。

 国際色豊かな学校なので、なにか質問されて、全員が頷くことは少ない。

 それが、みんな頷くと言うのだから、映画館のポップコーンというものの普遍性や偉大さが分かる。

 ちなみに、わたしは映画館は苦手で、学校の芸術鑑賞で一回行った以外は、新聞屋さんがくれたチケットでお母さんと行ったのがあるきり。

 そんなわたしでもポップコーンだと思うんだから、大したものなんだ。

「ポップコーン食いてえ(^▢^;)!」

 ひとりよだれを垂らすハイジを無視して先生は質問した。

「では、なんでポップコーンなんだろ?」

 先生の問いかけにはいろんな答えがあって面白かったんだけど、話が横っちょに行きそうなんで省略。

「映画を観てるとね、興奮した観客が物を投げるのよ! 手近なものを投げるから、売店で買ったドリンクとかスナックを投げる! ビンとか缶とか投げたら危ないよね。キャンディーやチョコでも当ると痛いよね。ホットドッグとか投げたらバッチイよね。そこで、映画館のマネージャーが考えたのがポップコーン!」

 ああそうか! みんなピンときた!

「そう、ポップコーンなら遠くに飛ばないし、当たっても痛くないし、それで20世紀に入ったころには映画館の必須アイテムになったわけなのよ」

 なるほどぉ……みんな感心したんだけど、もう半年も授業を受けているから遠慮なく質問が出る。

「でも、あとの掃除大変じゃないですかぁ、ポップコーンのバレルの底って、カスやら塩とかぁ、キャラメル味とかチョコ味とか、けっこうくっつくんじゃないですかぁ」

 ロージーが手を挙げる。

「そう、いい質問ね。実は先生も修業時代に映画館でバイトしていてね、その問題には頭を悩ませて、それでいい手を思いついたわけよ!」

 そう言うと、先生は教卓からポップコーンのバレルを取り出して、「エイ!」と掛け声をかけてみんなにぶちまけた!

 キャ! ウワ! アチャア!

 いきなりだったので、みんなビックリ。ハイジだけは大口開けて、ぶちまけられたポップコーンの二割は食べたけどね(^_^;)。

「……あれ、先生、このポップコーン、口の中で消えてしまうぞぉ!?」

「そう、これには変換魔法がかかっていてね、投げるとかぶち当たるとかのショックが加わると窒素や酸素やらの分子に変わるというか変換されるのよ」

「ああ、なんか余計にお腹減ったぁ」

「アハハ、肝心の食欲を満たさないということでNGになったんだけどねぇ」

 変換魔法のなんたるかを教える、いい授業だった。


「そうだ!」


 その昼休みにハンター・ヤングが閃いた。

「なあ、ヤクモ、ソミア先生の魔法があったら豆まきができるんじゃないか!?」

 ハンターは日本のアニメが好きで、アニメでやっていた豆まきをやってみたくて仕方がなかった。

 同室のメイソン・ヒルといっしょに学校に掛け合ったんだけど「あとの掃除が大変だぞ」というソフィー先生の意見で却下。

 ソフィー先生は日本への留学経験もあって豆まきのなんたるかを(後の掃除が大変)知っていたんだね。

 そこで、ソミア先生のアイデアを元に売りこんだら「他文化を理解するいい機会」ということでOKが出た。

 それで、先月の末から、みんなで変換魔法の実習を兼ねて『消える豆』を大量生産。

「やるからには、本格的にやりましょう!」

 という王女さまの発案で、わたしが巫女に扮してバレル100個分の『消える豆』に御祈祷をした。

 かけまくも~畏き大神に額づき、かしこみかしこみ申さく~

 バサリバサリと幣を振って御祈祷。

 むろん巫女の資格も修業もしてないからカッコだけなんだけど。

「なんか、空気が浄められた感じがするぞぉ……」

 ネルが耳と鼻をひくつかせる。


 で、めでたく節分の午後。


 ホールを手始めに学校中で「福はぁうちぃ~」「鬼はぁそと~」をやっているわけ。

 なんせ、投げたら数秒後には消えるという豆まき専用なので遠慮がない。

 寮や校舎内はあっという間に撒き終わって、一部は校舎の外に出て撒きだした。

「みんな見ろ!」

 ソフィー先生が指差した校舎の屋根から、寮の軒端から、ニョロニョロと濁った人玉のようなものが逃げていく。

「トトロに似たのがあった!」

 ハンターが手を広げて振り返って、半分くらいの子が「ああ……」という顔をする。

「そうだ、ススワタリが家から逃げ出すのが、こんな感じ!」

 オリビア・トンプソンが手を叩いて、やっとわたしも思い出した。

「すごいぞ、ほんとうに厄払いの効果があるのかもしれないぞ」

 ソフィー先生まで褒めてくれて、犬のボビーも「賛成!」という感じで尻尾を振る。

「他の所でも撒いてみよう!」

 誰かが言いだして、全校生徒があちこちに散って「福はぁうちぃ~」「鬼はぁそと~」の声が広い敷地に木霊した。

「見て、森からも上がってる!」

 ネルが最初に発見した。

「ええ、なんだあ?」

 ハイジが横っちょに来る頃には、森の、おそらくは学校に面している側だけだと思うんだけど、いろんな人玉みたいなのが逃げ出していく。

「みんなぁ、森はやめた方がいい。妖精たちのテリトリーだよ!」

 言った時には遅かった。

 わたしの横にティターニアが立っているし(;'∀')

「あ、申しわけありません、日本の行事で、あ、その……ほんの遊びなんです。すぐに止めさせますから!」

「ううん、いいのよ。森の浄化には常々気を付けているんだけどね、気づかないうちにはびこっていたのね……大したことない者ばかりだけど、数が多い。オーベロンに記録させている。森の向こう側はわたしたちでやってみるわ」

「は、はい」

「中には、森の浄化に役立っていると思っていたのも混じっている……見かけによらない者もいるようね」

「すみません、変な効き方したかもです」

「いや、こっちが認識を改めるべきだったのかもしれない、フフフ、オーベロンの奴、なんだか楽しそうだ」

 遠目で見るオーベロンは木々の戦ぎに紛れてしまうけど、わたしが見ても、雪の降り始めに元気づいた子供のようだ。

「では、またね」

 そう言うと笑顔を残してティターニアは消えて行った。

 よかったぁ、トラブルにならなくてぇ。


 ホッとして向きなおると、少し離れた小高い芝の上にデラシネがオーベロンみたいに機嫌よく体を揺らしていた。

 
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やくもあやかし物語2・027『御息所のおりいった話・2』

2024-01-29 10:17:37 | カントリーロード
くもやかし物語 2
027『御息所のおりいった話・2』 




 じつは……


 と、少し顔を上げて本題に入る御息所。

 顔を上げると小じわもほうれい線も目立たなくなる。

「去年、二丁目断層がやってきたことがあったでしょ?」

「え、あ、わたしに化けて来た」

「はい、ほんとうはまっくろくろすけなんですけどね」

 二丁目断層というのは、家と学校の間の坂道。一丁目の家から三丁目の学校に行く間に坂道があって、昔々に、断層がズレて坂道になった。
 その断層じしんが妖で、ふだんはまっくろくろすけ。

 その二丁目断層が、わたしに化けて会いに来たことがある(やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』)。

「チカコの話とかしに来たんだよね」

 そうだ、あれから色んなところに行って、みんな収まるところに収まって、気が付いたらうちの妖たちはわたしの部屋から卒業していったんだよ。チカコももとの親子(ちかこ)、すなわち和宮内親王になって家茂さんと再会してうちを出て行ったんだ。

「あれは、全部やくも、あなたの力があったからできたことなんですよ」

「え、そうなの?」

 いろいろ走り回っていろんな目に遭ったけど、じぶんがやったって自覚はない。なんというか、災難に巻き込まれた感じだったしね。

「やくもの胸には大きなタマが宿っているんです、ソウルとも言います」

 ソウル……デラシネもそんなこと言ってたなぁ。

「ところが、そのタマを実際の力にするためのタマノオが未熟」

「み、みじゅくぅ(;'∀')」

「ところが、やくもの家族は、タマは弱くて小さいんだけども、タマノオは十分以上に持っているんです。まあ、言ってみればデバイスやバッテリーが無いのにケーブルだけがいっぱいあるみたいな」

 ああ、ケーブルって、本体がダメになっても捨てられないよね。

「方や、やくものタマにはタマノオが無い。それで、密かに家族のタマノオをやくもの胸に移植したのです」

「え、ええ!?」

「静かに、ルームメイトが起きてしまいます」

「あ、あ、ごめん(^△^;)」

「だからこそ、チカコもみんなも有るべきところに収まったんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「そこで、こんどはデラシネを助けてやって欲しいのです」

「デラシネを……」

「デラシネは森の王の血筋なのです」

「森の王?」

 森の王といえばティターニア、いやオーベロン?

「本来ならばあの子の家系が王の血筋なのですが、さまざまな経緯があって、本来は傍系であったティターニアの家系が王位を継いでいるのです」

「それって……」

 日本での思い出がよみがえる。

 いろんなイザコザに巻き込まれたけど、たとえ妖でも、やっつけたりぶちのめしたりというのは、ちょっとコリゴリなんだよ。

「ぶちのめす的なことでは解決しないと思いますよ」

「え、じゃあ、どうすれば……」

「軽々とは言えません……というか、分かりません」

「そんなぁ」

「ちょっと失礼します……」

「ムグ!?」

 御息所の手が胸の中に入ってきた!

 痛みとかは無いんだけども、ゲームのバグみたい気持ちが悪い。

「よいしょっと……よし、学校関係者にデラシネのことは見えないようにしておきましたから。やくもの周囲一キロ以内では気づかれません。必要なら森の住人からも見えなくできますが、トラブルのもとになりそう……まあ、慣れれば、やくもが自分で操作してくださいな」

「ええ、わたし任せなのぉ!?」

「大事なことは、デラシネに根を下ろす場所を見つけてやることでしょうねえ……あ、そろそろルームメイトがお目覚めになりそう」

 え?

 チラッとネルのベッドに目をやると、ネルはまだ静かに寝息を立てている。

 ハッと思って向きなおったら、もう御息所の姿は無かったよ。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 
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やくもあやかし物語2・026『御息所のおりいった話・1』

2024-01-22 14:53:00 | カントリーロード
くもやかし物語 2
026『御息所のおりいった話・1』 




 ちょっと……ちょっと……ちょっと……ちょっと……ちょっと起きて……


 聞き慣れた声がくりかえしわたしを呼んで、十回ほど呼ばれたところで――あれ?――と思って目が覚めた。

 覚めたと言ってもほんのちょっぴり、まだ半分以上は寝てるんだけどね。

 例えばさ、朝、ラジオかテレビの音がする。いつもお母さんとか、家の人間が点けてるラジオかテレビだったら、気にせずに二度寝とかするでしょ?

 あの番組だったらまだ遅刻する時間じゃない、お母さんがフライングして、半分嫌がらせで点けたとかね。

 ところがさ、そのラジオだかテレビだとかの音がすこし変だとする。

 同じアナウンサーだかタレントだかの声、同じテーマ曲。でも、音の圧が違う。
 いつもと同じところから聞こえてるんだけど、いつもは……そう、たとえば外したヘッドホンから漏れてくるぐらいの音だったのが、イッチョマエのスピーカーから聞こえてるとかだったら――あれ?――とか思って、うっすら目を開ける。そんな感じ。

 なにぃ~~~~

 うっすら目を開けると、じんわりと驚いた。

 だって、声はいつもの御息所だけど、ベッドに腰掛けて、こちらを見ているのは、いつもの1/12サイズじゃなくて等身大。で、ちょっと大人びてる。

『六条御息所ですよ』

 え?

『やくものところに間借りしている六条御息所ですよ』

 え……うそ?

 御息所は俊徳丸が退治した鬼の腕を机の引き出しにしまっておいたら、いつのまにか変身していた。フィギュアみたいな1/12サイズの小憎たらしい女の子だよ。こんな等身大の大人の女の人じゃない。
 
 でも、まとってるオーラは馴染んだ御息所。

『これがリアル六条御息所なのです』

 ウ、言葉も大人だし。

『大事な話なので、折り目正しく現れたのです』

「そ、そうなんだ」

 見た感じアラサー……でも、光源氏って若かったよね、たしか19歳ぐらいの設定だったと思うよ。

『七歳年上ですからね』

 七歳上……なら、こんなもんか。

「そか……で、なんの用事ぃ?」

 眠い目をこすって、上半身だけ起きる。

『じつは、デラシネのことで言っておかなければならないことがあるんです』

 グッと寄せてきた顔は、さすがに光源氏に愛された才色兼備の年上美人。めちゃくちゃきれいで、ミテクレとかは17歳でかなぐり捨てたというか諦めたわたしだけど、息が詰まるんじゃないかと思ったほど。

 でもね、50センチぐらいに寄って来るとね、うっすらと目尻に小じわ。光の加減もあるのかもしれないけどボンヤリとほうれい線。

 ほんとうにリアル御息所?

「ちょっと待って」

『ん?』

 枕もとのスマホを取って、パパっと検索。

 すると、六条御息所の年齢には原作の『源氏物語』の中でも矛盾があるとかで二つの説がある。7歳年上説と17歳年上説。

 50センチに迫った御息所は後者の方だ。

 いっしゅんムッとしたようだけど、となりでネルが寝ているのを確認して、ちょっと深刻な話をし始めたよ……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 
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やくもあやかし物語2・025『お風呂に現れたデラシネ』

2024-01-16 09:55:07 | カントリーロード
くもやかし物語 2
025『お風呂に現れたデラシネ』 




 え、ボディーソープだ!


 頭を三回ガシガシやって気が付いた。

 まだ馴染み切っていないボディーソープを拭ってお湯で流して、シャワーをジャブジャブ。
 子どものころ――ま、いいや――と思って、そのままシャンプーして髪がバサバサのガシガシになったことがある。
 だから、もったいないけど流してやり直し。

 両横にはネルもハイジもいるんだから言ってくれればいいのに……と思うのはわたしの我がまま。人が掴んだのがシャンプーかボディーソープかいちいち見てないよね。

 やっと洗ってシャワーで流すと……え、誰も居ない。

 振り返ると浴槽にも洗い場にも人の姿が無い。

 え……?

 ネルとハイジの他にも五六人は居たはずなのに。

 耳を澄ますと、隣の男風呂の方にも脱衣場の方にも人の気配がない。

 日本ではさんざんあやかし達に出会ったので、その経験から騒いだりはしない。こういう時にうろたえると、事態はややこしくなるばかりだからね。

 ザップーーン

 しばらくすると大きい方の湯船に水柱が上がってデラシネが上がってきた!

「チ、なんで落ち着いてんだぁ!」

「いったい、どこから?」

 福の湯は四方に結界が張られて、あやかしは入って来れないはずだ。

 それに、人が居なくなってるし。

「あたしを完全に封じることなんかできないのよ」

「それにしては時間がかかったわね。福の湯が開業してから一週間も経ってるわよ」

「こっちにも都合があるんだよ」

「で、なんの用?」

 いずれは現れると思っていた、会いたいわけじゃなかったから、少し邪険にしてさっさと済ませるにかぎる。サッと立ち上がって浴槽に浸かる。

「いさぎいいな」

「いやなことはサッサと済ませる主義なの」

「お、おう」

 横に並んでやると、微妙にたじろぐデラシネ。

「さっさと言いなさいよ、長風呂は嫌いなんだから」

 体格は、わたしの方が微妙に大きい。こういう時は居丈高に出て、先にマウントをとる。
 
 すると敵は半分お湯に隠れたわたしの胸を見る。

 ジィィィィィィ(¬_¬)  

 いっしゅんたじろいだけど顔には出さない。わたしの方が微妙に大きいのを知っているからだ。

「おまえ、胸を手術したな」

「え、そんなのしてないよ」

 胸を隠したくなる衝動をなんとか堪える。

「オッパイじゃない、中身の方だ」

「え?」

「ソウルコードが移植されてる」

「それがどうしたの」

 ソウルコードって、言葉の意味さえ分からないけど、ここで「なにそれ?」なんて聞いたらマウントをとられてしまう。

「ヤクモ、お前のソウルは規格外だ。だから、それを繋ぎとめておくコードは並のものではもたないんだと思う。だから、ここ一年くらい前に丈夫なコードに入れ替えられている……日本語では、たしか『タマノオ』だ……おまえが強いのは、これが原因……ほんとに記憶にないのかぁ……大手術だったはずだぞ」

「知らないわよ」

「まあいい、実は仲直りして頼みごとがあったんだけどな。その傷を見てしまった、出直すよ」

 そう言うと、デラシネはゆっくりお湯に浸かって姿をくらました。


 脱衣場に上がると、ハイジやネルたちがスゥエットやパジャマで、髪を乾かしたりコーヒー牛乳を飲んだり寛いでいる。

「長湯だったなヤクモ」

「え、ああ、シャンプーとボディーソープ間違えちゃって」

「え、そんなのどっちでもよくね?」

「みんな、ハイジみたいな野生児とは違うんだよ」

「なんだってぇ!」

 髪を触ってみると、頭頂部のとこだけ少しパサついている。

 タオルで拭くふりをして胸を見ると、やっぱり傷跡なんかは無かった。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
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