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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・132『二年目の体育祭』

2024-10-09 15:53:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
132『二年目の体育祭』   




 ちょっと面白くない。

 なにが?

 運動会よ運動会。

「体育祭と言いなさい体育祭と」

 佳奈子が真面目な立ち姿で注意する。

 見上げる佳奈子はけっこう色っぽい。

 学年対抗リレーを走り終えてクラス席に戻ってきたばかり。アンカーで200を走り終え、一等こそは一年生にかっさらわれたけど、その一年との差をコンマ8秒にまで縮めたのは、さすがに女バレのキャプテンだ。

 200を全力疾走してきたので、お肌ははち切れそうにツヤツヤして頬は健康な朱に染まり、瞳の奥は――惜しくも二着!――の灯を収めきれずに潤んでいる。退場門から戻ってくるまでにウォータークーラーでガブガブ水分補給、ざっと拭っただけの唇はプクプク潤って、心臓はニュートラルに戻り切らずに首筋の血管をピクピクさせている。

「なんかねえ、不完全燃焼!」

 目の前のブルマは不完全燃焼のオケツを収めきれずにフニフニさせてけしからん景色。令和の時代にはほとんどの学校でご禁制品扱いしているのがよく分かる。

「やっぱり、文化祭と一週間違いじゃ、文化祭の方に力が入っちゃいますよぉ」

 午後からの出番のないロコは、さっさとジャージの下を履いて気持ちの上では体育祭を終えている。

『プルグラム15番、着せ替えリレーに出場される先生方とサポート伴走者に当っている生徒のみなさんは入場門にお集まりください。くりかえします……』

「あ~あ~行って来るかぁ」「荷物頼むわね」

 これも、ノリの悪い声で入場門に向かう真知子とたみ子。

「でも、着せ替えリレーを最後に持ってきたのは正解ですね。面白いからダレずに閉会式にいけますよ。生徒会も考えましたねえ(^▽^)」

「アハハ、まあねぇ」

 わたしは好きじゃない。

 男の先生をトラックの真ん中に立たせる。海パンとTシャツで。

 スタート地点から走り出した女子がトラックを一周して、それぞれのチームの先生のところに取りつく。先生たちの足元には黒い袋が置いてあって、到着した女子は袋から女ものの衣装を取り出して先生に着せて、着せ終わったら手に手を取ってトラックを一周走ってゴールするという恒例のプログラム。

 衣装は女子の制服やら看護婦やらミニスカポリスやら、女性アイドル風のやらいろいろ。パンツ以外の下着とかも入っていて、もし令和でやったら、ちょっと問題ありという代物。

 まあ、1971年だし、ノープロブレムで、みんなワハハハワハハハと笑って、大晦日みたいに一年の憂さを晴らす。

『ええと……杉野先生が事情によって参加されませんので、2年3組の加藤君が代わりに参加します。加藤君、頑張ってください~』

 放送部のウグイス嬢が気楽に変更をアナウンス。

 ウワァアアア(^▽^)!!

 
 中略


 例年の如く、おぞましくも大爆笑の『着せ替えリレー』を終え、運動会、いえ体育祭はめでたく幕を下ろした。

 そうそう、杉野先生に代わって出場した加藤高明、10円男は意外に用意されたセーラー服が似合って好評。

 順位が一年と同点になって、なんとか二年生の面目を保った運動会、いや体育祭だった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・131『今日は文化祭!』

2024-10-05 17:04:45 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
131『今日は文化祭!』   




 だらし内閣とはうまく言ったもんだ。

 組閣の記念写真を見ていたお祖母ちゃんが一人ごちる。

 大臣たちを従えて下段の真ん中にいる新総理……ちょっとねえ。

 モーニングのズボンはずっちゃって、逆に式服用の襟高シャツはずり上がってメタボっぽいお腹が覗いて、なんだか顔もだらしない。


 登校前だったんで、お祖母ちゃんの溜息には付き合わないで家を出る。


 なんたって、今日は文化祭の本番なんだ!


 保健室を通路代わりに使い、支度用にその隣の教室二つを借りている。本当は準備用の教室は一つしか使えないんだけど、クラス24人の女子が花嫁衣裳を着るのには狭い。メイクや結髪も同時にやると、どうしても教室二つは要るんだ。

 判断したのはわたし。やっぱり結婚式場でバイトをやってるのが役に立つ。


「え、それって!?」


 廊下で着替えてる男子を見に行ったたみ子が声を上げた。

 たみ子は、あちこちチェックしてから最後に着替えるんだ。いちおう取り組みの責任者だしね。

「え、なになに?」

 ドアから顔だけ出して、わたしも驚いた。他の女子も寄って来る。

 介添え役で出る男子のコスがマチマチだ。

 総理大臣と同じ燕尾服もあれば、紋付袴のもあるし、宝塚の男役みたいな白やらシルバーのタキシードみたいなのもある。べつに新総理みたくだらしないというわけじゃない。サポートに来てくれている式場スタッフのおかげで馬子にも衣裳。

 でもね。

 男どもは分かってないけど、燕尾服以外は全部花婿のコスだ!

 ウワア! キャー!

「ええと、なんかまずいのか?」

 委員長の高峰君がビシッと決めた羽織袴で首をかしげる。10円男の加藤高明も羽織袴で収まってやがる。

 式場も貸衣装屋さんも、地元高校の文化祭だし、赤口でヒマな日だし、面白そうだし、ノリノリでやってくれてる。

 こっちのイメージでは、男子は花嫁を花婿に引き渡す男親、あるいは仲人のおっさんという設定だった。

「いやあ、だってみんな若いんだもん、花婿になっちゃうわよ(^^♪」

 コーディネーターのMさんが笑顔でVサイン。

「じゃあ、あとは辻本さんとグッチだね」

 いよいよ自分の番だよ!


「え、なんでですか!?」


 いざ支度にとりかかると、ただ一人和服の花嫁衣裳にしてたたみ子のサイズが合わない。

「ああ、あたしノッポだからなあ(^_^;)」

 で、数とサイズに余裕のあるウェディングに変更した。

 そして、その花嫁衣裳がわたしに回ってきた!

 本格的にやると、カツラや化粧で大変なんだけど、そこは文化祭のイベントなんで略式。

 いちおう白塗りにして紅をさす。カツラは着けないで、髪をバレッタでまとめる。

 アハ( ´艸`)

 なんだか、フランスのパントマイムの人みたいで笑ってしまう。

 そして、髪をバレッタでまとめて、角隠しに綿帽子を着けると


 なんということでしょう! 驚異のビフォーアフター!


 うわああああ((((((( ゚Д゚)))))))!


 みんなもわたしもビックリ! 三国一の花嫁の姿が家庭科から借りて来た姿見に映っていた!

『ただいまより、2年3組全員によります取り組み【ウェディングパラダイス】を本館南の斜面にて行います』


 放送部のアナウンスが入っていよいよ本番!


 タ~ンタ~カタンタンタンタン♪

 タイアップした吹部がウェディングマーチを奏で、2年3組のみんなは保健室から伸びたバージンロードをカップルで進んで行く。

 ピカ! ピカピカ!

 演劇部の牧内さんが、あちこちに仕込んだスポットライトを後輩部員といっしょに操作してくれる。

 カシャ カシャカシャカシャ!

 あちこちで写真のシャッターが切られる。直美さんは『報道』の腕章とかつけて、堂々と真ん前から撮ってるし、うわさを聞き付けたのか、日ごろは顔を見せない校長先生やらPTAの会長やらもカメラもってしゃがんでるし(#^_^#)。

 かわいい! きれい! お嫁さんだぁ! 日本一! 世界一!

 いろんな声やら溜息やら(^_^;)

 うわああああ(# ゚Д゚#)!

 ひときわ大きな歓声というかため息が漏れる……て、みんなの視線がみんなわたしのほうに来てるんですけど(# ゚Д゚#)!

 お似合いねえ(n*´ω`*n)! お似合いだわあ(#^〇^#)! すてきだわぁ(#^◇^#)!

 PTAのおばさんたちがちょっとちがう歓声やら感想やら……お、おい、10円男! 顔赤くするんじゃねえよ!

 なんだか、自然の流れで、わたしと10円男がセンターに来てしまって主役みたいになってきた。

 あ、ええと……(;'∀')

 綿帽子の中で焦っていると、グラウンドの方から人が上がって来る気配。

 気配は、子どものように一段一段刻むように上がって来る……これは、神主や巫女さんが拝殿とかの階(きざはし)を上がる時の所作……と思ったら、スセリヒメの御神楽さん!

 いつもの巫女服の上に羽衣みたいなのを羽織って幣とかも持ってるし。

「かけまくも かしこき大神のお前にかしこみかしこみ申さくぅ……」

 結婚式で神主さんがあげる祝詞みたいなのを唱え始める……式場じゃ、このあと固めの杯……と思ったら、幣を持ち替えたスセリヒメは三方に載せた盃をささげる!

 え、まあイベントなんだからと盃を手にする。すると、今度は水引の付いた銚子でお神酒を注いでくれる。

 勢いというか流れのままに……これって三々九度なんですけど。

 溜息やらシャッターやら拍手やらが沸き起こると、これも式場でお馴染みのアレが聞こえてくる。

 高砂やぁ~この浦舟に帆を上げてぇ~月もろともに出で潮のぉ~

 高砂がフェードダウンしてくると、たまにキリスト教式でやる時の牧師さんが現われて「それでは、滞りなく式もお開きとなりますので、ブーケトスの儀を執り行います。新婦のみなさん、ブーケをお持ちになって後ろをむいてくださ~い(^▽^)」

 いつの間にか、女子は全員ブーケを持っていた。

「それでは、ワン……ツー……スリー!」

 エイ! トー! ヤー! ソレ!

 好き好きに掛け声と共に24個のブーケが宙を飛び、グラウンドの半分を埋め尽くした生徒やらお客さんやらが歓声を上げながらブーケを取り合う。

 吹部が仕込んだのか、チャペルの鐘が鳴り響いて、学校は文字通りのウェディングになった!



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・130『新総裁と文化祭の進行台本』

2024-09-29 12:03:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
130『新総裁と文化祭の進行台本』   




 ああ、今度もかぁ……


 おとつい学校から帰るとお祖母ちゃんが居眠りしていた。

 魔法少女だって風邪をひく、ましてお祖母ちゃんはとっくに現役を引退して、その後も再任用やら嘱託で余計に勤めて、やっと現場から離れた。

 でも、やっぱり時どき――応(こたえ)さんじゃなきゃ務まらない!――と言われて、しぶしぶ臨時の仕事に出かけていく。

 どうも、政府がボンクラだと仕事が増えるらしい。

 ナンチャラ眼鏡の総理大臣が辞めるんで、お祖母ちゃんは総裁選挙を楽しみにしていたらしい。

 お祖母ちゃんは、長年の勘で日本初の女性総理になると予想していたんだ。Tさんが総理になると、初の女性総理というだけじゃなくて、魔法少女の仕事が減るらしい。

 あ、そうそう。お祖母ちゃんは開票を見ているうちにうつらうつらして寝てしまったんだ。一回目の投票でTさんがトップになったんで、ちょっと気が緩んだんだね。

 で、わたしが玄関を開ける音で目が覚めて。ちょうどSNSでは株式やら円相場のニュースをやっていたんだ。

 モニター代わのテレビでは、総裁選の結果を受けて円高になったことやら日経平均が2000円も下がったことを報じていた。

 高校生のわたしには、よう分からんけど、この円高と株安はネット民からゲルと呼ばれているIさんが、決選投票のどんでん返しで総裁に選ばれたかららしい。

 まあ、お祖母ちゃんも年だ。思い込みが強くなってるんだろうね。

「なんか、大変だねぇ……」

 気の無い返事をして二階に上がった。

 文化祭の進行台本を書かなきゃいけないんだ。

 なんせ、クラスの女子24人がウェディングドレス着て、それをショーに仕立てるんだ。工夫が居る。

 体育館のステージも考えたんだけど、全員が並ぶのは、ちょっとキツイ。

「照明も音響も貧弱だからねぇ」

 演劇部の牧内さんも舞台は勧めない。「登場は、それこそ新郎新婦入場!」って感じで、ゆっくりやってもサマになるけど、大勢の花嫁が退場するのが大変で、次の取り組みに影響が出る。

「それに、ウェディングドレスってインパクト強いから、写真撮ったり人が集まったりで大変だと思うわ……」

「ああ、そうか……」

 いっしょに相談に行った真知子やたみ子も――さもありなん――と腕を組む。

「フォークの集いやクリスマスでも大変でしたよねぇ」

 アイデアマンのロコも、すぐにはプランは浮かばない。でも、フォークの集いやクリスマスをやったことは、みんなの自信にもなっている。大変だとは思っても音を上げることはない!

「そうだ!」

 やっぱり牧内さんが声を上げた。

「校舎エリアからグラウンドになるところに段差があるじゃない!」

「「「「「あ……ああ!」」」」」

「そうだ、あそこがいいわよ!」

 校舎エリアからグラウンド下りるところは階段とスロープになっている。球技大会の時なんかには、あそこが自然な観客席になってみんなで観ていた。体力測定の時は踏み台昇降とかもやってたしね。

「そうですよ! すぐ後ろの校舎には保健室がありますから、あそこを通らせてもらって、いったんグラウンドに下りて、バージンロードを歩いて階段上って、境目のところに並ぶんですよ! そうだ、ブラバンに頼んでウェディングマーチとかやってもらうのもいいですねえ! あ、そうなると、新婦の父親役がいりますよ!」

「そうね、新婦が一人で歩いちゃさまにならないかも!」

「でもでも、ファッションショーのノリなら、大勢ウェディングドレスが並ぶわけですからぁ」

「希望者だけとか?」

「父親役が入るんなら、新郎とかもいるんじゃない!?」

「ええ、新郎!」「キャー」「ウワァ!」「照れるぅ!」

 いやはや賑やかになるばかりで、話がまとまらず。けっきょく、場所だけ決定して、当日の進行はわたしが台本を書くことになったわけ!

 
『めぐり、わたしこれから仕事に行くからぁ!』


「ええ、そんなの聞いてないよぉ!」

『緊急の任務よ! 晩ご飯は自分で調達してちょうだいね!』

 お祖母ちゃんの思い込みはソッコー現実になってきた。


 久々にコンビニに行ってお弁当やらお菓子やらを買う。


「袋、どうなさいますかぁ?」

 しまった、エコバッグ忘れた。

「すみません、袋下さい」

 5円の中で間に合うかと思ったら入りきらなくて10円の大になる。

 ああ、これも総裁選挙で落ちたK君せいだ。

 ちょっと恨めしくなって、すっかり日の落ちた道を帰っていった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人   
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・129『小さい秋と大きくなる話』

2024-09-25 09:13:17 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
129『小さい秋と大きくなる話』   




「面白そうじゃん!」


 ホンダZに機材を積みながら話していると、直美さんの心に火が点いた。

「……でもさ、一クラス分の花嫁衣裳ってたいがいの量だよぉ」

 写真館を出て線路沿いの国道を走るころには、積荷の量の心配をしてくれている。

「え、あ……そうですねえ」

 みんなで花嫁衣裳を着てみようというアイデアだけで決まってしまったので、モロモロのことまで頭が回っていなかった。

 一着分でお布団ぐらいのかさがある。クラスのみんなで取りに行くというのがスタンダードなんだろうけど、ホームルームの時間に取りに行っても放課後にかかってしまう。放課後は部活とかある子には無理っぽい。文化祭の取り組みだから、他にやることもいっぱいある。文化祭恒例の合唱コンクールの練習とか、看板の制作とか……そうそう、修学旅行も近いんだった。その説明会でも一回分ホームルーム取られてたしね。

「そうだ、布団屋のバンを借りよう!」

「え?」

 あっさり、筋向いの石川寝具店のバンを借りて直美さんが運んでくれることに決まった。

「で、提案なんだけど。撮影させてもらえないかしらねえ?」

「え、直美さんが撮ってくれるんですか!?」

「むろん交換条件がある」

「な、なんですか(^_^;)?」

「その写真をコンテストとかに出させて欲しいのよ。一クラス分の女の子使ってウェディングの写真なんてめったに撮れないからね。それも全員高校生でさ、面白い絵になるよぉ」

「あ、ぜったい面白いです!」

 それから直美さんは感じのいい鼻歌を口ずさんでハンドルを握る。鼻歌は聞き覚えがあるんだけど、思いつく前に式場の丘が見えて来た。

 
 そして、半日で式場の人たちにも話が広まって、いろいろ協力してもらえることになる。小さな思い付きが大きな話になってきた。


「ヘアメイクとかは時間がかかるからね、普段のままを整えてセットするだけでいいと思う」

 結髪さんがいい提案をしてくれる。

「メイクもさせて欲しいなあ!」

 メイクさんもその気になる。

 まあ、みなさん本業もあるので、実際のことは、それぞれの助手さんとかバイトがやってくれる。

 式場の本番は一世一代のことなので、冒険的とか試験的な、ましてアシさんとかバイトに任せたりはできないので、いい機会なんだそうだ。


「じゃあ、うちの子も頼もうかなあ」

 
 ベテラン巫女の采女さん(じつはスセリヒメ)も名乗り出る。

「え、ひょっとして神さま?」

 声を潜めて聞くと、めずらしく憂いのある顔で答える采女さん。

「まあ、縁のある子でね、キマタって言うんだ。まだ性別もはっきりしない子なんだ」

「え、LGBTQですか?」

「エルジービーティー……?」

 あ、この時代には、まだこの概念はないんだ(^_^;)

「ええと……」

 軽く説明すると「あ、まあ、そんな感じ(^_^;)」と頷いて「いいですよ」と引き受けた。

 なんだか話が膨らんで――だいじょうぶかなあ?――と不安も湧いてきたけど――面白いことになるかも!――とも思う。

 バイトを終えて令和の時代に戻る。

 戻り橋を渡ると、目の前をトンボが過って行った。

 ほんのこないだまではツクツクボウシが鳴いていたのに。

 風も優しい涼しさになって、ようやく令和にも秋が訪れた。

 思い出した、直美さんの鼻歌は『小さい秋見つけた』だった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・128『大谷の快挙と巡の粋狂』

2024-09-22 10:18:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
128『大谷の快挙と巡の粋狂』   




 50-50(フィフティーフィフティー)というのはお相子、勝負無し、お互いさま、可もなく不可もなく、五分五分、半々……そんな意味だと思う。

 だからピンとこなかった。

 お祖母ちゃんが時計代わりに点けているテレビが『大谷翔平の50-50』を盛大に褒め称えている。

 野球に興味のないわたしは――そんな大騒ぎするようなことなの?――だ。

「昨日の夕刊に載ってただろ?」

 お婆ちゃんは言う。

「新聞なんて……あ、読んだっけ」

 夕べ「巡(めぐり)、こんなコラムが出てるよ」と、お祖母ちゃんは夕刊を見せた。

「……ああ、これは意義深いねえ」

 内容はこうだ。

 コラム氏が友人から転居のお知らせ葉書を受け取った。

 読んだコラム氏はビックリした。その友人は念願の引っ越をしたんだけど、それが鹿児島の離島。特に定年後の一念発起というのじゃないらしい。葉書は印刷じゃなくてキッチリと肉筆で書かれていて思いのたけが偲ばれる。なんだか、ぶっ飛んだ人、粋狂な人だ。

 うちの家系は、こういう粋狂が好きだ。

 定年後も、いろいろ魔法少女のコボレ仕事を引き受けているらしいお祖母ちゃん。火星に行くんだとNASAで訓練中のお母さん。制服が気に入らないからという理由で、毎日昭和の高校に通っているわたし。

 そういう粋狂のアンテナは、世間的にも、限りなく相似形のお婆ちゃんと比較しても微妙な違いがあるみたい。

 あらためて見た夕刊一面のトップニュースに、この大谷選手の50-50達成のことが載っている。扱いは、どこかの県議会で知事の不信任だったか辞職勧告だったかの決議を満場一致でしたのよりも大きかった。

 でも、その大谷選手の50-50は、わたしの脳みそにインプットされていなかった。

 ま、女子高生の興味や関心はこんなもんだ。

 盗塁50、まあ、一軍の野球選手ならあるだろ。ホームラン50、これもあるだろう。よう知らんけど、イチローとか松井とかは、もっとすごかったと思うよ。 まあ、一回の試合で両方達成したというのがすごいのかもしれないけどさ。

 わたしなんか、一学期末の英数国はそろって50点。大谷のダブル50どころかトリプル50達成だよ。


 戻り橋を渡りながら、わたしの脳みそは大谷選手の快挙は起きる寸前に見てた夢みたいに儚くなって、懸案事項でいっぱいになっていた。


 実は、アルバイトでしょっちゅう行く結婚式場。そこの貸衣裳の花嫁衣裳が大量に放出されることになってるんだよ。

 一着500円とか1000円とか!

 貸衣装っていうのは、ちょっとくたびれただけでダメになる。微妙な黄ばみとかシミとかあるだけでアウト。
 むろん、手入れで取れるものは取って使っているんだけど、ほとんどおニューと変わらないものでないと、ユーザーからは敬遠される。

 1970年代というのはそういう時代なんだ。戦後四半世紀、住はともかく、衣食は足りてきて、花嫁衣裳ぐらいはピシッと決めたい時代なんだ。

 わたしはね、まあ、お遊びですよ。粋狂物のお遊び。

 気に入った一着を着てさ、メイクとかは仲良くなった式場のスタッフにやってもらえるし、撮るのは須之内写真館のスタジオでさ。

 たぶん1000円ぐらいでできるよ。

 令和だったら、ラーメンいっぱい食べられるかどうかって金額で、ちょっとした夢が叶うわけ。

 問題は、その後の花嫁衣裳。

 貸衣装の放出品だから500円とか1000円。

 いま現役で使ってるのはレンタルしたら昭和の時代でも複数の聖徳太子が要る。それが500円とか1000円。

 引き取るにしてもねぇ、花嫁衣裳って一着だけでもかさ張るんだよ。普通の古着なら普段着に使えるけど。うちの家にクロ-ゼットなんちゅうハイカラな収納は無い。ジュニア用の洋服ダンスと押し入れだよ。ウェディングドレスなんか入れたら、それだけで一杯!

 で、大谷君のことなんか1000%飛んで、悶々として学校に着いた。

 で、少しすっ飛ばして、その日のロングホームルーム。

 二年生になると、どこかズボラになって、本番まで一か月を切ろうかというこの日に文化祭の取り組みが議題に上った。

「なにか、取り組みとか出し物のアイデアないですかぁ……」

 副委員長のたみ子が――今日締め切りなんだけど――という想いを籠めて三度目に言った時、わたしは閃いた!

「ねえ、ウエディングのファッションショーとかやってみない!」

 閃いた勢いのまま提案して、あっさり決まってしまった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・127『MITAKA特別講演会』

2024-09-14 13:49:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
127『MITAKA特別講演会』   




 久しぶりのMITAKAを階段教室でやってる。


 先日の世界史の授業、ツクツクボウシが鳴きやんだことから吉村先生が脱線。

 兵隊時代の話をしてくれて、みんな印象深かったので急きょMITAKAで講演してもらうことになったのだ。

「いやあ、階段教室いうのは大学以来ですなあ。むろん、学生でそっち側で、前に立って話すのは初めてです」

 事前に「どんな話をしてもらえますか?」と真知子が聞いたんだけど「まあ、思いつくままに(^_^)」ということで、黒板には十円男が『戦争を知らない子どもたちへ』とタイトルを書いて、ロコがお花を描いて、それらしい雰囲気。

「ええとぉ……戦時中の空襲いうと原爆とか東京大空襲ですが、この宮之森や大浜市にも空襲がありましたが、当時は大阪におりましたんで、大阪大空襲の話をします」

 そう言うと、先生は、黒板にサラサラと大阪の地図を描いた。

「当時は大阪城に第四師団が置かれて、外堀の南には第八連隊がありました」

 サラサラと天守閣の南東に師団司令部。内堀と外堀を跨いで連隊本部を書き入れた。

「僕は気象班やったんで、司令部の建物に居りました。司令部は天守閣を再建するときに……当時は城の中は陸軍の用地で、天守閣を再建するときに交換条件で師団司令部を作ったんですねぇ……あ、これです」

 先生が示してくれたのは、三階建ての異世界アニメに出てきそうな西洋のお城風。

「あ、『ゴジラの逆襲』に出て来た……」

 高峰君が呟いた。

 ゴジラと言えば『シン ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』しか知らないわたしには、アニメの2クール目みたいで新鮮な響きがある。

「そうそう『ゴジラ』の二作目ですなあ、大阪城でナンチャラいう怪獣と大暴れする奴。あれにも出てましたなあ。あそこはGHQが居らんようになって、一時は警視庁が置かれましてなあ……」

「え、大阪に警視庁があったんですか?」

 四組の男子が声を上げる。

「うん、すぐに大阪府警と改めるんですがね、あのころは自治体警察いいましてねぇ……あ、いまでも言うか。けど中身は全然違って、アメリカの警察と同じでした。大阪で犯罪が起きてパトカーで追いかけますなあ、県境を超えて京都とか兵庫に行かれると捕まえられません」

 ビックリする声と笑い声が起こる。

「『青い山脈』いう古い小説が、映画にもなってますが、吉永小百合、浜田光男なんかの青春映画の走りですな。主人公を寺沢新子いう女子高生なんですが、ラストでリンゴの密輸、終戦直後は自治体やら国の許可なしに食料を県外に移送することは違法やったんです。家のためやったか友だちの家のためやったか、新子はリンゴをトラック一杯に積んで値段の高い県外に輸送するんです。密輸の女親分ですなあ。新子は警察に見つかってパトカーに追われるんですが、県境を越えると追うてこんようになります」

 アハハハ

 笑いが起こって、わたしは『ラピュタ』でシータと空賊の女親分を思い出した。

「それで、警察の予算も自治体から出るもんやから、小さな町では警察官の給料も払えません。当然、自治体によって給料も違いますしねえ」

「なんか、アメリカの保安官みたいですねえ」

 久々に出て来た佳奈子が面白がる。

「元々、GHQの指導でできた警察ですからね、モデルはアメリカです。あ、そうそう、大阪の大空襲は5月13日やったんですが、月の初めに東京の大本営から参謀飾緒付けたエライさんが来て『五月に大空襲がある模様だから対策するように』て注意しよったんです」

「事前に分かってたんですか!? あ、すみません(;'∀')」

 たみ子が、ちょっと大きな声を出して、自分で謝る。

「そらぁ、日本の軍隊もアホやないから知ってます。重要書類やら燃料やら大事なものは避難させんとあきませんからね。兵隊は、来たるべき本土決戦のために、空襲で死なすわけにはいきませんからね」

 ええぇ……

「それで、第四師団のエライサンは『大阪府民に伝えるべき!』やと言うたんですが、大本営は『軍機に属することだから一般には伝えてはならん!』と言うんですなあ。その言い争う声が廊下まで聞こえてきましてなあ、外の車寄せから大本営が帰りよるまで殺気だってました」

 大本営の秘密主義にもビックリしたけど、大阪の第四師団も意外に府民の事を思っているのでビックリした。

「それで、第四師団はどうしたんですか?」

「いや、軍機ですからね、府民に言うわけにもいかず、防空についての指導やら教練に力を入れました。まあ、これで悟ってくれいう感じでしょうなあ」

「それで、大阪大空襲はどれほどの被害が出たんですか?」

「ううん……4000人ぐらい死者がでましたかねえ……」

 4000……という数字に二種類の反応。

 多いというのと、逆に少ないという反応。

「東京大空襲は七万人死んだと聞いてます、空襲の規模が違ったんですか?」

 10円男が数字を挙げて質問する。学園紛争やってる時に少しは勉強したのかもしれない。

「規模は同じくらいです。B29は300機前後来ましたし、爆弾やら焼夷弾は2000トンぐらい落としていきました。あ、それと東京大空襲の七万いうのはあくる日に警察が把握した数なんで、その後に分かった分を合わせたら10万はいくでしょうねえ」

 10万……広島や長崎より多いよ、たぶん……。

「まあ、ただの伍長でしたからね、細かいところはわかりませんが、そんなもんです。そうそう、僕は気象班でしたんで、毎日司令部の屋上で、風向きやら気温やら日照を調べて上の方に報告するんです。まあ、日に三回ほど、あとは大学で気象学やってた班長、大尉なんですが、この人を中心に喋ってばっかりですわ。まあ、ヒマやったんですなあ。終戦の前の年ぐらいまでですが、暑くなってくると『吉村さん、ビール買うてきてくれませんか』と頼まれる。班長は会社で言う管理職なんで、公用の外出許可を出せるんです。それで、公用の腕章つけて、堂々とビールを買いに行ったこともありました」

「戦時中にビールがあったんですか?」

「あるとこにはあります。まあ、大空襲のまえぐらいまでは」

 じっさい現場にいた人の話だから面白く、下校時間いっぱいまで先生のMITAKA特別講演は続いた。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』

2024-09-10 11:19:08 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』   





 ついさっきまで鳴いていたツクツクボウシピタリと鳴きやんだ。


 出席簿を閉じて――さあ、これから授業――という吉村先生の手が停まってしまった。

「ああ、ちょうど、こんな朝でしたなあ……」

 品のいい関西訛で先生は遠い目になって窓の外に目をやって言葉を繋いだ。

「班長が家までやってきましてなあ『吉村、このままやと脱柵になるでぇ』と言いよりました」

 ダッサク?

 聞き慣れないダッサクという言葉と班長という学校でも日常的な言葉が混ざって、教室は――なんだろそれ?――という気持ちと――これは先生のフリートーキングになって授業が無くなるという期待に溢れた。

 まだまだ残暑厳しい九月の初め、エアコンも無い教室は短縮が終わって、生徒も先生もげんなりの空気。

「脱柵とは脱走のことですなあ……僕は当時は大阪に住んでましてね、十八年に召集されましてなあ、兵隊やっとったんですけども、二十年の七月に病気になって帰郷治療になったんです。まあ、当時は陸軍病院も焼けてしもて、ロクな治療が受けられませんからね、実家が大阪市内やし、そういうことになったんですなあ。もう半月も前に戦争が終わって軍隊も無条件降伏したんで、顔出すことも無いやろと思てたんですなあ……」

 そこまで話すと、先生はポケットから煙草を出しかけ――おっと――という顔になってしまい直す。

 ふふふ あはは

 ついうっかりの先生に自然な笑いが教室に起こる。

「無条件降伏しても組織は生きてるんですねえ、原隊復帰した上で兵役解除してもらうんです。そうすると現役で復員したことになって軍人恩給ももらえるというわけです……それが、ちょうどこんなツクツクボウシの声が途絶えた日ぃでしたなあ」

「階級はなんだったんですか?」

 高峰君が質問する。

「ああ、伍長」

 そう答えて、先生は黒板にきれいな字で書いた。

「下士官の下、兵隊の上いうとこですなあ。高峰君のお父さんは軍隊行ってはったのかなあ」

「はい、海軍の主計科でした」

「主計科かぁ、数学が出来る人がいくとこやなあ」

 あ、そういや、高峰君は数学が強かったっけ。

「海軍の主計いうと、外地で補給するときに活躍する部署でね、レートの計算なんか上手かった言われてます。あ、そういや、先月アメリカが固定相場制止めて変動相場制にしましたなあ」

 え、なんかむつかしい……と思ったら、高峰君とか何人かが身を乗り出して……10円男まで伏せていた顔を上げた。

「長いこと、一ドル360円でしたけど、320円……いや、もう300円ぐらいまでいきましたかねえ」

 わたしは、こういう話は弱い。

 令和では、一ドル150円くらいだったかなあ。

 360円と150円だったら360円の方が高いと感覚的に思うし、中学まではそう思ってた。

 だけど違うんだよね(^_^;)。

 一ドルのものを買うのに360円要る昭和。一ドルのものを買うのに150円ですむ令和という違いなんだ。つまり、令和じゃ360円で一ドルのキャンディーが二個も買えてお釣りがくる。それを昭和じゃ一個しか買えないということなんだ。

「きみらは、なんで、一ドルが360円だったと思う?」

「ええと、戦後ドッジという経済顧問がやってきて、インフレを収束するときに決めたんだと思います」

「アメリカ帝国主義の陰謀!」

 高峰君と10円男が答えて、当然のことながら10円男は笑われる。

 アハハハハ((´∀`*))ウフフ( *´艸`)

「うん、高峰君のも正解やけど、加藤君も正解というか大事な感覚やと思う」

 え? 

 ちょっと空気が変わった。

「360というと……」

 先生は黒板にきれいな円を描いた。

「円の角度は?」

 あ!?

「そう、円の角度は360度。公式な記録は残ってないと思うけど、ドッジは『What does yen mean? 』と聞いたやろねえ。すると日本の役人は『yen is a circle』と答えて『A circle is 360 degrees 』とドッジは返す。で、日本人は『ナイスギャグ!』と手を叩いて決まった」

 笑い声と、微妙にムッとした空気が同じくらいに起こった。

「まあ、この通りやったかどうかは分かりませんが、そういう空気が日米の間にはあります。まあ、このギャグが通じんようになって、ドッジは悔しいかもしれませんが」

 アハハハ((´∀`*))

 先生も笑いながら辞書を引いている。

「ああ、三年前に亡くなってますなあ……生きていたら『ざまあ見ろ』ぐらいカマせたかもしれないねえ。惜しいことをしたね加藤君」

「先生、いまの英文、黒板に書いてもらえませんか」

「ああ、いいよ」

 先生はサラサラと三つの英文を書いて、もう一度発音。

 みんなも書き写して「リピートアフターミー」とも言われないのにそれぞれに繰り返している。

 
 久々に生きた授業を受けた気がした。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・125『エアコンはないんだけども』

2024-09-05 10:58:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
125『エアコンはないんだけども』   




 令和の学校は8月の25日ぐらいから学校が始まっている。

 冷房の効いた家の窓から、まだまだ真夏の学校に通う令和の子たちを見ているのは、ちょっと気持ちよかった。

 でもね、令和の学校にはエアコンがある!

 昭和の学校にはエアコンどころか扇風機も無い!


 ニチャ……


 これが終わったら三時間目の終りで、短縮授業期間だから学校そのものがおしまいという現国の時間。課題のプリントを書き終えて顔を上げると、いっしょに上げた腕が机に貼り付いて、不潔な音がする。

 これがパリっていう乾いた音ならそれほどじゃないんだろうけど、ニチャ……はいけない。汗と空気中の水分と机と腕の間に繁殖した細菌とかばい菌がスクラム組んでいるようで、めちゃくちゃ不潔で不快な音だ。

 机の上には腕の形に汗が付いていて、乾くと塩が吹いていたりする。

 気を付けていたけど、腕の端っこがプリントを踏んでいて、踏んだところがビチャビチャ。

 ペタペタペタ

 この人特有の軽いサンダルの音をさせて杉野先生が戻って来る。

「じゃあ、これで終わるから、後ろから集めて」

 七列ある席の後ろの子がプリントを回収して教卓に持っていく。

 ほんの十秒ほどで回収し終えると、そのまま先生は教室から出て行っておしまい。

 二時間目の数学もプリントで、ちゃんと授業があったのは一時間目の物理だけ。

「杉野が前に立ったらひんやりしてたよ」

 教卓の前に座っているたみ子が汗を拭きながら言う。

「ああ、ずっと職員室のクーラーの前に居たんだよ、先生」

「いいですよねえ先生は、教室にもクーラーを付けるべきです」

 真知子やロコからもグチが出る。

「図書室にでも行こうか」

 たみ子が下敷きをパタパタ言わせながら提案。

「そうね、お喋りはできないけど」

 フローラルな香りの扇子をヒラヒラさせて真知子が決定。

 
 本日休館


「「「「ええ……」」」」

 図書室のドアには無常の張り紙がしてあった。

「昨日も休館だった」

「短縮中は開かないんですかねえ」

 校内で唯一生徒が利用できるエアコンスペースである図書室の前、しばらくは立ち去れない四人組。


「よかったら、ウチくる?」


 振り返ると演劇部の牧内千秋さんが体操服で立っている。

「うちの部室は一階だしね、秘密兵器があるんだよ~」

 去年のクリスマス以来の部室。

 あ、正式には倉庫。

 生徒会と交渉して別に部室を獲得したんだけど、それは階段の下、ハリーポッターのねぐらみたいなとこ。それで、普段の部活はやっぱり倉庫なんだそうだ。

「ええ、なんですか、これ!?」

 ロコが発見したのは、ちょっと変わった扇風機。

 扇風機の後ろに水彩絵の具用のバケツが固定してあって、バケツの中には掃除機の狭いところ用のノズルが立ててある。

「ちょっとした発明でねぇ……」

 ヤカンの水をバケツに注いでスイッチを入れる牧内さん。

 ブィ~~~ン

 中の勢いで扇風機が首を振りはじめる。

 ……え!?

「めちゃくちゃ涼しい」「なんで?」

 たみ子と真知子が扇子と下敷きを停め、ロコが扇風機の後ろに周る。

「あ、これはスゴイです!」

 ええ? なになに?

「気化熱を利用して冷風にしてるんですよ!」

「え、あ……」

「なるほどぉ!」

「エアコンと同じ原理だ……」

「アハハ、苦肉の策なんだけどねぇ(^_^;)」

「いえいえ、立派なもんですよ!」

「そうねえ、クリスマスのかがり火といい、この扇風機といい……」

「牧内さん、天才だ!」

「へへ、そんないいもんじゃないわよ。正式な部活は短縮が終わってからだしね」

 うん、少しは分かるよ。

 牧内さんが工夫してるのは部活のためなんだ。

 わたしたちがお邪魔してるってことは、他の部員は来ないんだ。

 やっぱり短縮授業中、マイナーな部活はね、テンションやらモチベーションの維持が難しい。短縮中に部活をしてはいけないなんて決まりはない。部員が付いてこないだけなんだ。連盟の副会長まで引き受けている牧内さんだけど、自分の部活は楽じゃないんだね。

 いーちにーいちにさんし イチ!(ソーレ) ニ!(ソーレ) サン!(ソーレ)……

 開け放した窓から元気な掛け声、佳奈子が後輩たちを追い上げてランニングをやっている。

 空にはまだまだ夏の入道雲、思い出したように蝉が鳴く。

 ツクツクボーシ、ツクツクボーシ… 

 やっぱり、微妙に季節は移ろっていっているようだ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
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  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・124『今日から二学期!』

2024-09-01 10:35:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
124『今日から二学期!』   




 シャッコウって読むんだよ。


 いつも教えられてばかりのロコに教えてやるのは、ちょっぴり気持ちいい。

 始業式の今朝。いつものようにロコといっしょになって商店街を抜けて学校に向かっている。
 和菓子屋さんの表に今月のカレンダーが貼ってあって、九月一日のところに赤口とある。

 あかぐち?

 情報通のロコでも、さすがにスカタンを言うので正してやる。

「グッチ、物知りですねえ!」

「結婚式場で写真のバイトやってるからねえ、こういうのだけは詳しい」

「仏滅とか友引は知ってましたけど、赤口は知らなかったです(^_^;)」

「赤口神っていうのが居てね、そいつが悪さをする日で仏滅と並んで敬遠されるんだよ」

「なるほどぉ、シャッコウシン……」

 さっそくメモ帳を出してメモる親友。「で、どんな神さまなんですか!?」と聞かれて「あ、縁起悪いしか知らないんだけどねぇ(^○^;)」と白状して、始業式の朝が始まった。


 ヨントーゴラク!


 始業式の冒頭、赤口の効き目なのか、校長先生の話が長い。

 そもそも始業式が屋外のグラウンド。

 なんの我慢会!?

 話の中で、ヨントーゴラクが四当五落だと分かってくる。受験を控えた三年生への励ましというか激励なんだと分かる。

 一日に5時間も寝る奴は落ちる! 睡眠時間は4時間にして頑張れ!

 という意味なんだ。

 進学校としては、ひいき目に見ても一流半の宮之森。東京帝国大学を優秀な成績で卒業した。でも、大蔵省とか一流企業とかには行かずに一介の田舎高校の校長に甘んじている校長先生としては忸怩たるものがあるんだろうね。

 後の話しは上の空で、続く若杉先生(生活指導)倉田先生(生徒会)と保健部の(名前忘れた)先生の話は完全にぶっとんで、ようやく解放される。

 みんなが真っ直ぐに向かうのは校内に10台ほど備えられているウォータークーラー。足元のペダルを踏むと「グアァアアア」とポンコツな音がして放物線を描いた冷水が飛び出す。
 ミネラルウォーターとかじゃなくて、ただ水道水を冷やしただけなんだけどね。昭和のこの時代、ペットボトルも無いし、家から水筒ぶら下げてくる習慣も無い。
 10台のウォータークーラーからあぶれた者は、水道の蛇口をひっくり返して、そのまま飲んでいる。

「おお、新学期の水道は血の味がするぜぇ」

 10円男の加藤高明がドラキュラみたいなことを言って、したたる顎の水を拭っている。いっしょにいるのは三年の男子たち。留年して足かけ二年なのに、まだ引きずってんのかなあ。

 ちょ、なに気にしてるんだ(-△-;)?

 あいつとは運命の転がり方次第では身内になる可能性もある(072『大晦日の奇跡』とかね)。むろん不本意だから、あまり意識しないようにしよう。意識しなければ未来は変わるんだからね。

 ウォータークーラーで喉を潤して振り返ると、たみ子と満智子が並んでる。

「いやあ、銀座以来だねえ」

「あ、元気してた二人ともぉ!」

「元気元気ぃ!」

 サッサと水を飲んで真知子が抱き付いてくる。

「あ、ごめん、暑かったよね(^_^;)」

「ううん、どうしてたのよ二人ともぉ!」

「あ、うしろつかえてるよ」

「あ、ごめんなさい」

 ウォータークーラーの列を離れて教室へ向かう。

 ゾロゾロと教室への階段に向かう。

 ひしめく同級生たちからは、洗濯したての制服の匂いがして、わたしの二学期が始まった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・123『軍艦突堤もしくは防波堤』

2024-08-28 14:56:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
123『軍艦突堤もしくは防波堤』   




「待ってたわ、すぐに案内するから(^▽^)/」


 車が停まると同時に奥さんの恵さんが飛び出してきた。

「いいの、直で?」

「うん、ぜんぜん!」

 直美さんに元気に返事すると、クルンと振り返り手のひらを庇にして空を見上げる。

「ヘクチ! アハハ、朝の光の方がだんぜんいいから。じゃ、ちょっと行ってきまーす!」

 奥さんの恵さんが声をかけると空の手前で旦那さんの勲さんが手を振る。

 勲さんは灯台のライトハウスっていうんだろうか、そこのガラスを元気に拭いている。Tシャツ姿だけどちゃんと制帽を被って、首に双眼鏡、手にはウエスを持ってガラスを拭いて、いかにも灯台守。

「毎日拭かないと塩がついちゃうの。でもね、灯台のことは自分の仕事だって手伝わせてくれないのよ」

「フフ、いい旦那だ」

 てっきり灯台か灯台下の磯や岩場を撮るんだと思ったら、わたしは後部座席、恵さんが助手席に収まって、大浜港の方に向かった。


 ザップーーーン!


「土用の波だねぇ」

 カシャカシャカシャ

「え?」

 ちょっと混乱、今日は火曜日だし。

「立秋の頃に寄せてくる。不規則に大きな波が来るから要注意」

「波を撮るんですか?」

「波も撮るけど、も少し大きい景色をね。あの突堤をね……」

 突堤なんか撮ってどうするんだろう。

「トッテイモいいんだぞぉ」

 ( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

 直美さんがヘタな洒落をカマシて移動。

「漁協に話はしてあるから」

「助かるぅ!」

 わたしが機材を担いで、直美さんはカメラ二つを持ち、恵さんの案内で漁協の建物に向かう。「お世話になります」と受付で声だけかけて、そのまま屋上へ……と思ったら給水塔の上まで上がるしい(^_^;)。

「うん、ちょうどいい。望遠と広角用意しといて」

「はい」

「それと、これ!」

 ビュン

 恵さんが命綱を放り上げてくれる。

「え、こんなのするんですか?」

「撮りだすと夢中になるからね、グッチも付けといて」

「あ、はい(^_^;)」

 腰に命綱を付けて、端っこの金具を給水塔のフックにかける。

「……まあ、ギリいけるかなあ」

 パシャパシャパシャ

「望遠300!」

「はい」

「いや、広角、光が変わりそうだ」

「は、はい」

 レンズをケースから出して渡す。

 パシャパシャパシャ パシャパシャパシャ

「やっぱり高いところはいいわねぇ」

 気が付いたら恵さんんも上がって来た。

「直美さん、どこを撮ってるんですかねえ……」

「突堤を右に据えて、港を撮ってるんだと思うわ……突堤の上、よぉく見て」

「突堤の上ぇ……あ」

「分かった?」

「あれって……船……ですか?」

 注意して見ると、突堤の上面にうっすらと船の形が見える。

「うん、軍艦が埋まってるの」

「軍艦!?」

 パシャパシャパシャ

「うん、あそこにね旧海軍の駆逐艦を沈めて臨時の突堤にしたんだ。コンクリートで固めちゃったから、もう船の縁が見えてるだけなんだけどね……あ、フィルムお願い」

「あ、はい」

 我ながら慣れた手つきでフィルムを装填すると恵さんが横に来る。

「葉月って駆逐艦。お父さんが乗ってたんだ」

「え、そうなんですか」

「戦後しばらく引揚船に使われてたんだけど、二年で引退して、あとはあそこで防波堤になった。わたしもね、ついこないだ知ったんだけどね」

「上の方は無いんですね、大砲とか煙突とか」

「必要なのは胴体だけだから鉄くずにしたんでしょうねえ」

「葉月って八月の和名でしょ、突堤になったのが二十二年の秋だから、なんかピッタリで、それで直美さんに話したら、ぜひ撮りたいって」

「よし、次は突堤そのものを撮るよ!」


 三人で漁協を出て突堤に向かう。


「うん、横から光が来ればクリアーになるね。レフ板!」

「はい!」

 レフ板で頭上の日光を横向きに変換。僅かに残った縁と微妙な高低差が際立ってくる。

「ブリッジはこのへんかなあ……」

 給水塔から見下ろして大よその形は分かっている。葉月は舳先を海に向けている。

「最後の引揚船の時にお母さんが乗ってて、その縁で結婚したんだって」

「え、そうだったんですか!?」

「ブリッジの前の方、左舷て言ってたから、このへんかなあ……ここで、お父さんプロポーズしたんだって」

「ええ、そうなんですか(^▽^)!?」

「昔の話しなんてちっともしない人だったんだけどね、こないだ、たまたま話してくれて」

「それを聞いた直美さんが閃いたってわけですね」

「ねえ、ちょっと走ってみようか!」

「走るんですか!?」

「うん、舳先からお尻までちょうど百メートルほどだから。ねえ、直美も!」

「ええ?」

 渋る直美さんもいっしょに突堤を走る。

 現役女子高生だから楽勝……と思ったら、ゴール近くでラストスパートをかけてきた恵さんにあっさり抜かされる。むろん、直美さんはドンケツだったけどね。


 帰り道、直美さんが教えてくれた。


 恵さんは、夏の初めに流産していた。

 ちょっとこじらせたらしくて、しばらく入院していて、心配したご両親がこっちにこられて、その時に突堤の話を聞いたそうだ。

 令和に戻って改めて突堤を見に行く。

 
 ああ……


 突堤は近辺の海といっしょに埋め立てられて跡形も無かった。ググって見ると『軍艦防波堤』というくくりで出ていた。防波堤と突堤というのは厳密には違うらしいけど、一般には軍艦防波堤と呼ばれて、全国に数カ所残っている。

 名残惜しくてウロウロしていると『軍艦防波堤跡』という説明書きが残っていた。地元では軍艦突堤とも呼ばれていたけど、記念碑を残す時に全国的な軍艦防波堤という名称にしたと書いてある。

 その説明書きも半ば赤さびて、もうネットの中でしか知ることは出来なくなるのかもしれない。


 わたしの夏休みが終わった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・122『再び岬の灯台へ』

2024-08-24 11:28:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
122『再び岬の灯台へ』   



 小指を突っ込んで左に半回転……カチャっとカセットを戻し、パカンとふたを閉め、ガチャンと再生ボタンを押す。


 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪


 ドンピシャで頭から再生が始まる。

 頭から繰り返して聞き直すだけで四つ、再生を停めてカセットを取り出す作業まで含めると六つ、カチャっとかパカンとかガチャンとかのアナログ操作。

「高石ともやって知ってます?」

 写真館に着いて直美さんに聞くと「あ、テープあるよ」とラジカセとテープを貸してくれた。

「特定の曲をリプレイするときはね……」

 そう言って教えてくれたのが今の操作。

 スマホだっら「高石ともや、受験生ブルース」と囁くだけでやってくれる。電車の中だったりしたら曲名を出してリピートに触れるだけ。

 小指を突っ込んで半回転なんて、めちゃくちゃアナログなんだけどね。それで、きちんと頭から音が出るのは感動。

 なんだか、蒸気機関車の熟練運転手になったみたいで嬉しくなってくる。

「肩に力が入り過ぎてないのがいいよね」

 一式の機材を並べ終わって一息つく直美さん。

 この時代ではフォークソングというんだ。去年クリスマスイブに学校の中庭で歌った歌はそういうジャンルになるらしい。

「プロテストソングとか反戦歌になるとね、ちょっとついていけない。あ、こんなのもあるよ」

 別のテープを入れると、早回しの変な曲が流れて来た。

 おらは死んじまった おらは死んじまった 天国に行っただぁ♪

 プ( ´艸`)

「アハハ、いつ聞いても笑っちゃうよね。でも、これがリムジン川とかになると、メロディーはいいけど政治的メッセージが強すぎてねぇ……ウイシャルオーバーカムはモロ公民権運動のプロテストだしぃ、そうそう、これなんか……」

 次にかかったのは『自衛隊に入ろう』と勧誘してるみたいなんだけど『男の中の男はみんな自衛隊に入って花と散る!』と締めくくって、完全にコケにしている。

「おもしろいけど、わたしは評価しないなあ……他にも『死んだ女の子』とか『戦争を知らない子供たち』とか……まあ、好き好きはあるんだろうけどね……そうそう、今回のテーマはね」

 いまは もう秋 だれもいない海ぃ~♪

「あ、いい曲ですね(^^♪」

「でしょ、このイメージで撮りたいわけですよ。さ、機材もそろえたし、そろそろ出るかぁ」

「はい!」

 ホンダZの後部座席に必要な機材を載せると、とりあえずは、十カ月ぶりの岬の灯台を目指した。

 カーエアコンなんて付いていない車だけど、八月も下旬、窓から吹きこんでくる風は、もう、秋の気配を感じさせた。


 あ、生きてる。


 『し』の字の宮之森線の脇ををなぞるように南に下ると『し』の字の底を曲がったあたりから灯台の先っぽが見えてくる。

 令和に戻ってから見に行った灯台は完全に無人化されて、敷地ぐるみ立ち入り禁止。広大な敷地に立っている灯台は歴史上の有名人物の墓標のようだった。

 それが、ゲートは開きっぱなしで、入り口から灯台までの小道には雑草も無くて、令和の時代にも変わらず灯台に寄り添っている官舎。その網戸の窓が開いているだけで生きているという感じがする。

 ブチブチブチ……

 タイヤが陽気に砂を噛む音を響かせると、奥さんが窓から顔を出した。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』

2024-08-20 12:11:01 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』   




 お祖母ちゃんは時々お香をたく。


 お香は、線香とかもぐさみたいに焚くものから、アロマっていうんだろうか、香水っていうか油っていうかみたいな時もある。

 それが、今朝はお線香だよ。

「いい男が二人も逝っちゃったんでねぇ……」

 そう言って、ソファーに浅く座ってお線香の煙を見ている。

「え、だれが亡くなったの?」

 お祖母ちゃんの視線を追うと、線香の煙が『アランドロン』と『高石ともや』という名前を描いた。

「えと……だれ?」

「ええ、知らないのぉ……」

「あいにく……」

 そう言うと、お祖母ちゃんはめんどくさそうに指を動かす。

 すると、ラックから朝刊が浮き上がり、テーブルの上でパサリと三面を開いた。

 たしかに、アランドロンという人と高石ともやという人の訃報が大きく載っている。

「ええと……映画俳優とシンガーソングライター?」

 ハーー

 ため息をつくと、もう一度指を動かすお祖母ちゃん。

 すると、映画の一コマなんだろうか、すごいヤサオトコが胸の大きなオネエサンと恋人の距離で見つめ合ってる映像が出てくる。背景は海で、ちょっとやるせないギターの曲が流れてる。

 太陽がおっぱい……いや、太陽がいっぱいか(^_^;)。

 もう一度切り替わると、高石ともやっていう人の若いころの映像が出て、陽気な歌を唄ってる。

 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪

「ああ……」

 そういえば、クリスマスイブの集いとかで歌ってた曲っぽい。


 深入りするとお互いギャップにため息つきそうなので戻り橋を渡って写真館に行く。


 ボスの直美さんが晩夏をテーマに写真を撮りたいというのだ。

 いつもは家業の記念写真のために結婚式場とかだったりするんだけど、直美さんはプロの写真家でもあるんだ。

 それで、気心の知れた助手を連れて秋に応募する写真を撮りまくりたい。

 それを企画を練る段階からわたしを参加させ、テンションを上げたいという目論見。

 まあ、もう半分は、こんなわたしでも慰労してやろうという気持ちでもあるんだと思う。

 あ……ああ(-_-;)ゞ

 橋を渡った1971年は、令和と変わらない暑さ。

 でも、やってきた電車はめったに出くわさない冷房車。冷房の設定温度は令和より5度くらいは低くてラッキーだった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・120『妖退治・6・京橋空襲』

2024-08-16 11:42:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
120『妖退治・6・京橋空襲』   




 ああ、抜かっていたぁ……(-_-;)


 アキラのことを報告すると、晴天は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 頭を抱えても晴天にはすごいオーラがあるようで、眼下の工事現場に隠れていた妖が五六匹ビックリしたように顔を出し、晴天は指先をちょっと動かしただけで電磁波みたいなのを出してやっつけてしまう。猫や犬が微かな音にも反応するようなもので、本人には――やっつけた――という自覚も無い。

「そんなにショックなことなの?」

「グッチは知らない方がいい。いやあ、安倍晴天としたことがぁ……」

「で、アキラがやっつけたのは何だったの?」

「それも知らない方がいい」

「あ、そうなんだ……」

 わたしもお祖母ちゃんの孫、正体や名前を知ってしまったら厄介なことになることがあるのを知っている。ほら、西遊記の話で名前を呼んで、返事をしたら壺の中に吸い込んでしまう魔物の話があったよ。

「これを見てごらん」

 五六匹の妖をやっつけたばかりの指を動かすと、B5くらいのチラシが浮かんだ。

 わたしの方が、もうちょっと上手いぞという字で――私たちは本日、爆弾を投下しに来たのではありません。日本國民のみなさん、我々の敵は日本国の軍隊と日本政府です。連合国は日本政府と戦争終結についての交渉をしているところです……――ということが書かれている。要は、戦争の終結が近いから、むやみに爆撃して日本人を殺すことは控えるという内容だ。

「終戦の二日前に米軍が撒いていったビラだよ。日付は8月13日」

「ああ、終戦の二日前?」

「お、えらい、終戦の日を知ってるんだ」

「失礼ねえ、それくらいは知ってるわよ」

「怒ると応(こたえ)さんに似てるなあ」

「あんまり誉め言葉にはならないんですけど」

「明日は京橋に行ってみよう」

「京橋ぃ?」

「うん、うまい焼き鳥屋とかがあるしね」

 アキラがやっつけてくれたからいいようなものだけど、留守中に攻められたのに大丈夫という気持ちはあったけど、暑さしのぎは大賛成。


 こないだの玉造からは駅三つ北にあるのが京橋。例の砲兵工廠の南口が玉造、北口が京橋になるらしい。

 環状線と学研都市線、それに京阪電車も乗り入れていて、大阪市東部の一大ターミナル。

「あれぇ、終戦記念日は明日でしょ?」

 例のトンネルを出て着いたのが京橋駅の南口。高架の下に二張り白いテントが張られ、大勢の人たちが黙祷している。
 人々の前にはお地蔵さんが仰ぎ見るように立てられ、横には『南無阿弥陀仏』の石碑と少年少女がハトが停まった花輪を掲げてるブロンズ像。

 これは宮之森でも終戦の日にやっている慰霊祭といっしょだよ。

「終戦の前の日に大空襲があったんだ」

「え?」

「主目標は砲兵工廠だったんだけどね、ターミナルの京橋駅も狙われて、環状線と学研都市線の交差するこの場所に一トン爆弾が落とされたんだ」

「ええ……( ゚Д゚)」

 見上げると真上とその上に交差して線路が走っている。

「ちょうど、通勤ラッシュの時間帯で、千人近い人が犠牲になった。半分以上の人たちは身元も分からないまま火葬にされた」

「あ、ああ、真夏だもんね……」

 万博の建設現場でも、時どきハトやコウモリが死んでいて、半日もしないうちにカラカラになってる。人間は大きいから……その、すぐに腐っちゃうしね。

「それもあるけど、身元確認ができないくらいにバラバラになってるからなあ」

 あ、そういう意味か(;'∀')。

「でも、13日の宣伝ビラには……」

「ボクもがんばって爆弾を、ほら、そこの寝屋川やら大阪城の堀なんかに誘導したんだけどね……」

 そうだ、晴天は日之出通商店街の大正屋を爆撃から救ったんだ。

「なんせ、145機も来たからね、それに陰陽師や魔法少女は、あくる日はポツダム宣言受け入れて無条件降伏するって分かってたからね。油断もしていたしね……」

「そうなんだ……」

 
 それから、みんなと一緒に黙祷して、並んでお焼香。


 爆撃の話を聞いた後で、焼き鳥や焼き肉は無理……と思ったけど、駅近のいい匂いを嗅ぐと、一瞬で食欲の方が勝って、しっかりゴチになった(^_^;)。

 一日休みにするのかと思ったら、昼過ぎには戻って警備にあたった。

 そして、残りは「やっぱり自分でやる」と晴天が覚悟を新たにして、半月ぶりに宮之森の自分の家に戻った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』

2024-08-13 11:39:44 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』   




「ええと……だあれ?」

 質問に質問で返してしまう。ネックファンで余裕ができたのか、結界を張るだけとはいえ警備をやっている自負心からなのかは分からない。

 白の少女は、それにこだわることもなく応えてくれる。

「ええと……アキラ」

「かっこいい名前ね」

 見かけは小柄な女の子なんだけど、白のワンピースにペタンコのサンダル、それに少しワイルドなシルバーのロン毛は「アキラ」っていう、ちょっとボーイッシュな名前が似合ってるので正直な感想になってしまう。

「あなたは?」

「あ、メグリ、時司巡……こんな字」

 空中に大きく『巡』の字を書く。

「ああ、巡洋艦の巡だね」

「ジュンヨウカン?」

 なんだか羊羹の二級品みたいなのを想像してしまう。

「軍艦の巡洋艦、戦艦の次に大きいの。で、メグリは魔女なの?」

「ちがうちがう……魔法少女」

 相手が人間だったらうかつに魔法少女なんて明かさないんだけど、このアキラは工事関係者とかの人間じゃないし、近づいても平気そうだから、悪意のある妖や魔物でもなさそう。

「魔法少女かあ……久しぶりに見たぁ」

「あ、見たことはあるんだ」

「うん、海没処分になるとき見送りに来てくれた」

「カイボツ?」

「うん、海軍の艦だったからね」

「え、アキラは軍艦だったの?」

「軍艦じゃないよ、潜水艦」

「潜水艦も軍艦でしょ?」

「フフ、軍艦と呼べるのは戦艦、巡洋艦、航空母艦とかだよ。それ以外の小さいのは艦艇っていうんだ」

 その時、風が吹いてアキラのロン毛が戦いで首筋の赤いあざが目に留まってギクッとした。

「ああ、ほかにもあるよ、こことかね」

 ワンピをめくった太ももにも大きなあざ。

「裸になると、他にもある。沈められた時に撃たれた痕だよ」

「撃たれて沈んだの?」

「うん、魚雷とかで撃ってくれたら一発で済んだんだけどね、5インチ砲……こんくらい(手で丸を作ってお茶碗の直径ぐらいの示した)ので撃たれたから、合計8発もぶち込まれたよ」

「8発も」

「うん、魚雷は高いし、5インチの弾なんて腐るほどあったしね……あ、終戦の時は、あっちの神戸港に居て、そこで捕まって。このすぐ前の海を通って和歌山の沖で沈められたんだ。ここに居ると両方が見えるんだ、それで、ちょっとお邪魔してる。メグリは?」

 小柄だから膝を抱えて見上げるようにわたしを見るアキラはめちゃくちゃ可愛い。

「あ、安倍晴天ていう陰陽師の手伝いで結界を張ってるの。この大屋根の中にはいっぱい妖とか魔物がいるんだよ」

「ああ、あんたたちだったのか。ここの悪者たちやっつけてたのは」

「あはは、やっつけてるのは晴天ていうボスだけどね。アキラ……」

「なに?」

 ちょっと失礼かもと思ったけど、思い切って聞いてみた。

「アキラって、日本の潜水艦なのに、そのぉ外人さんぽいね」

「あ、ああ。生まれはイタリアだからね」

「え、イタリア人!?」

「アハハ、人じゃないけどね。最初の名前は『コマンダンテ・カッペリーニ』って言うんだ」

「え、男みたい」

「イタリアの提督の名前だよ。イタリアが負けたらドイツに接収されて『UIT24』になって、ドイツが負けて日本に接収されて『イ号503』になった」

「え、じゃあ、アキラっていうのは?」

「途中、臨時にアキラ3号って呼ばれてた時期があってね、それがいちばん気に入ってる」

「そうだね、いちばん似合ってる」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」

 なんだか、昔からの友だちみたいになってきた(^_^;)。

「ねえ、その首にかけているのはなに?」

「あ、ネックファン。暑さは妖気を張って防いでるんだけど、これを掛けるといっそう涼しくなるんで、ボスの晴天がくれたんだ」

「へえ」

「かけてみる?」

「うん」

「どうぞ……」

「うわあ、なにこれ! 気持ちのいい林の中にいるみたい!」

「でしょでしょ、尾瀬っていうところのイメージなんだよ」

「うんうん、いいところだねえ」

 夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪

「なに、その歌? この雰囲気にピッタリなんだけどぉ!」

「『夏の思い出』っていうんだよ」

「いいタイトルだねぇ……あ、やってきた!」

 ネックファンを付けたまま叫ぶアキラ! 

 顔は、最初のように南の空を見つめ、すぐに両手をその方向に伸ばした。

「アキラ?」

「静かに!……距離5000、方位角20……両舷魚雷戦ヨーイ! 距離4000……3000……2000……テーー!」

 アキラの両の手から8本の泡の槍が伸びて、数秒後に関空の上空辺りで大爆発!

 え、大丈夫!?

 ビックリしたけど、ちょうど着陸態勢に入っていた旅客機は何事も無かったように車輪を出して着陸していった。

「ねえ、いまの……」

 振り返った時には、もうアキラの姿は無かった。


 あ、ネックファン貸したままだった!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・118『妖退治・白の少女』

2024-08-12 10:48:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
118『妖退治・4・白の少女』   




 妖退治も二週間目に突入。

 こないだは、あまりの暑さに晴天自身が言い出して玉造(たまつくり)の日之出通商店街までカキ氷を食べに行って、ちょっと息抜き。

 でも、あくる日からは引き続き妖退治。

「お盆に入ったんで、ちょっとあちこち出張するんで、ここは頼むよ」

「あ、見てるだけでいいんなら」

「それでいいよ、グッチは居るだけで結界だからね。閉じ込めておいてくれさえすれば、帰ってからまとめてやっつけるからね」

「早く帰って来てね、わたしに手出しするのは居ないけど、ザワザワ言ってうるさいから」

「じゃ、これを貸してあげよう」

「え、ネックファン?」

 ありがたいけど、晴天が首につけていたやつかと思うと腰が引ける。

「新品だよ。AMATONに注文したのが届いた新製品」

「またAMAZON」

「便利だからね、じゃ、頼んだよ」

 それだけ言うと、あっという間に目の前から消える晴天。

 妖気の膜を張っているんで、ネックファンを付けることもないんだけど……おお!

 単に体感温度が下がるだけじゃなくて、めちゃくちゃ爽やか。ファンから噴き上がって来る風は森林浴をしてるみたいに爽やかで、魔力が二割ほど上がったような気がする。

 ボタンを押すとインタフェイスが現われる。シンプルに弱・中・強・自動の切り替え、と、可視化の選択肢。

 可視化ってなんだろう?

 ポチ……ゲ(''◇'')!

 切り替えると大屋根に囲まれた建設現場にウジャウジャと妖たちが蠢いているのが見える。裸眼でも、その気になれば少しは見えるんだけど、見え方というかグレードが全然違う。画質で言えば昔のアナログと今どきの8Kぐらいに違う。見えてる数も、裸眼で見るのと天文台の望遠鏡で見るくらいに違う。

 なるほど、晴天は、こういうのをやっつけてるんだ。こいつらを閉じ込めているんだから、わたしの力もなかなかのものだと思うよ。

 まあ、やっつけるのは晴天。わたしは結界専門。

 そう割り切って可視化をオフにする。

 そして森林浴みたいな気分で大屋根を周る。集成材とは言え、この大屋根は木で出来ている。妖気の膜で暑さを遮っているので、瞬間目をつぶるといい雰囲気。

――森林浴モードにしますか?――

 オフにしたはずのインタフェイスが現われて問いかけてくる。

「え、あ、おねがい」

 そう言うと、自分を中心に半径5メートルほどが木漏れ日になる。

 木漏れ日にも選択肢がある。広さが半径1メートルから無限大まで、漏れる光の具合も無段階で選べる。

 なるほどぉ、晴天が掛けていたのよりもグレードが高いかもしれない。

 いろいろ操作して、尾瀬の白樺林(行ったことないけど)のイメージにする。

 夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪

 学期末に音楽で習った『夏の思い出』を口ずさんでいると、自動でいい雰囲気にしてくれる。


 あれ?


 調子よく半分ほど周ったところ、少しむこうに白いワンピースの女の子が体育座りしているのが目に留まった。髪はロングのシルバーで肌は抜けるように白く、横顔をこちらに向けて、ジッと南の空を見上げている。

 こないだも男の子の姿が見えたけど、あれは昔の残留思念がメタンガスと結びついて可視化したもので、近づくと消えてしまった。

 あれ、消えない……

 五メートルくらい、ちょうど視力検査の距離ぐらいになっても、その子は消えないで目が合ってしまった。

 白い横顔がこちらを向く。

「……あなた、魔女?」

 こっちから声をかけようとしたところなので、ちょっとビビってしまった。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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