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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・177『ひょっとして、なにか覚醒した?』

2025-02-02 11:09:29 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
177『ひょっとして、なにか覚醒した?』   




――くそ、くそ、くそ……妹尾死ね! 妹尾のクソ! 死んじまえ妹尾! おまえに関係ないだろ! 自宅謹慎だぞ! 追って連絡あるまで謹慎! 懲戒! 懲戒処分だぞ! 戒告か? 訓告か? 停職? まさか解雇? くそ! クソクソ!――

 十円男の予測通り、杉野先生の心には妹尾先生への憎しみと懲戒処分が下ることへの恐怖心が渦巻いてる。

 校長先生から、処分内容が決まるまでは自宅謹慎してろと申し渡されたんだ。

――金が要るんだ! 優子は専業主婦になることを条件に結婚したんだからな……お袋も体弱いし……学校の給料だけじゃ足りないんだ! 仕方がないんだ! 給料安いから! 外で働かなきゃしかたないんだ! それを……それなのに……――

 ああぁ、どす黒い憎しみと不満が渦巻いて、近づいたらスターウォーズだったかの暗黒面に取り込まれそうで……でも、蛇に睨まれた蛙みたいで、蛇に睨まれたら身動き取れないんだろうけど。違うんだ、この距離とペースを崩したら、先生が振り返って「覗いたなあ(◣д◢) 」って牙を剥きそうで、ペースを崩せない。

 けっきょく、駅の通路で先生が向かう上りを避けて下りのホームに向かうまで後ろについてしまった。

 ホームに上がると、ちょうど電車が入って来て乗ってしまう。

 家に帰るには、先生と同じ上りに乗らなきゃいけないんだけどね。

 不可抗力で大宮市駅まで来てしまう。


 電車を降りて上りのホームに戻ろうと階段を下りる。


――夕刊は無理だけど、朝刊には十分間に合う――

 先生のではない想念が伝わってきた!

――二回も自殺者を出して、今度は教師の不祥事だぁ、まったく宮之森はクソだ。徹底的に叩いてやらなきゃな……くたばれ、日教組!――

 ゲゲ!

 こいつ毎朝新聞の記者だ!

 学校の周辺で取材して、これから教育委員会でウラを取って三面記事のトップに載せる気なんだ。

 杉野先生は自業自得だ。だけど、学校が新聞に書かれるのはイヤだ!

 これ以上、学校のみんなの心を掻き乱されるのはごめんだ!!

 ピシャーーン!

 なにかが弾けた……わたしの中でなにかが弾けた……クラっときて、思わず階段の手すりを掴む。

 胸がドキドキ、視野の端っこが白く光って……立ち眩み?
 
 いや、立ち眩みでドキドキはしないし、あれは目の前が暗くなる……なんだか、自分の中のエネルギーが鋭く放出されて、その余韻みたい。

 え……記者のオッサンも階段降りたところで立ちすくんでいる。

――え……オレ、なにをしようとしていたんだ?――

 あれ……記者の頭の中から杉野先生に関する情報が消え去っている。とうぜん、新聞社に戻って記事にしようという気持ちも消え去っている……。

 わたしがやった?

 湧き上がった疑問を咀嚼する間もなかった。

 イメージが湧いてきた。

 O新聞とK新聞……それにY新聞……その三社も杉野先生のことを記事にする気でいる。

 Y新聞は駅の近くだ!

 階段を一段飛ばしで降りて、改札もダッシュで抜けてロータリーの向こう側にあるY新聞に向かった。

 社会部の前に立つと、女性記者とデスクの姿が際立った。

 そうか、記事は書き上げられてデスクのところまで回っているんだ。

 ピッシャーーン!

 再び弾けて、二人の頭の中から杉野先生のことが消える。

 よし……エレベーターの前まで行って、まだ記事原稿が残っていることに気づいてイメージが湧く。

 念じると手の中に原稿、少し怒りがこみあげて――消去――と念ずる。

 ボ!

 一瞬の炎になって原稿は灰も残さずに消えてしまう。廊下をこっちに歩いて来ていた女性職員がビックリしている。ニッコリ笑っておくと、女性職員も少しぎこちないけど笑顔を返してくれて、まあ、なにかの錯覚だろうと思い直してくれる。

 次はK新聞! いや、近ければO新聞! 両方とも場所が曖昧。

 駅前に戻って『駅前付近の地図』で確認。

 K新聞が近い。

 ダッシュで二ブロック先のK新聞に向かって、さっきと同じように記者とデスクの記憶を消して記事原稿も……こんどは書かれた字だけ消す。

 さあ、残るはO新聞!

 グ……地方紙のO新聞は駅一つ向こうの谷口(やとぐち)だ。

 間に合わない!

 O新聞の社屋が頭に浮かぶ、続いて、社屋が爆発してボウボウ燃えるイメージ!

 だめだ、念じたらほんとうになってしまう!

 どうしよう……迷っていると、O新聞の正面玄関のイメージ。

 すると、念じたわけでもないのにO新聞の玄関前に移動している。

 テレポテーション?

 考えている暇はない、すぐに社会部に飛んで、それまでと同じように記憶と記事原稿を消去した。

 終わったぁ……(-_-;)

 谷口の駅に向かう、二つ向こうの通りに伊勢半配送センターが見える。

 ほんのひと月前なんだけど、なんか懐かしい。

 首を駅に向け直す……視野の端に人影。

 あ

 どこか見覚えのある外人女性……たぶんソ連人。

 ブル

 いっしゅん怖気を振るって、そいつは消えた。

 蒸発したわけじゃなく、たぶんテレポーテーションだ。


 時司巡    


 ひょっとして、なにか覚醒した?

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・176『熱は下がったけど……』

2025-01-30 11:59:30 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

176『熱は下がったけど……』  




「ありがとうございました、教室に戻ります」

 熱も下がったので、お礼を言って保健室を出ようとした。

「ちょっと待って」

 机で書類仕事をしていた長瀬先生が呼び止める。妹尾先生は用件を済ませてすでに姿がない。

「ハヒ(;'∀')」

 あんな話を聞いた後なので変な声が出てしまう。

「つぎの時間は体育でしょ、5時間目だし、今日は、もう早退しなさい」

「え、あ……」

 先生は返事も待たずに早退許可書を書いてくれる。


 キンコーンカンコーン……

 
 教室への階段を踊り場まで上がったところでチャイムが鳴って、学食に向かう生徒たちが結構な勢いで降りてくる。

 おっと(;'∀')

 思わず隅に身を避けたところで、ちょうど駆け下りて来た十円男と目が合ってしまう。

「大丈夫か?」

 残り二段ぐらいのところから声をかけられ、その勢いで踊り場の隅へ。

「あ、うん」

「ほんとか?」

 あんな話を聞いた後なので、あまり大丈夫じゃない返事になる。

 人の流れを避けながらなので、ますます隅っこ。20センチくらいの近さになる。

――あ、伊勢半の時の顔だ――

 年末のバイトで見せた人を気遣う顔だ。

「実は……」

 その気遣いに甘えるように、さっきの話をした。

「懲戒処分……よくて戒告、下手すりゃ停職、首もありうる」

「ええ……!?」

「講師登録して講義までやってちゃなあ。それに妹尾は予備校まで踏み込んでるんだろ……下手すりゃ新聞とかに書かれるかもな」

「あ、ああ……」

 学生運動をやって留年しただけあって、こいうことには詳しそう。

「去年、書かれてるだろ」

 そうだ、去年は栗原さん金原さんの件で新聞に書かれたんだ! 同じ宮之森で不祥事があったら絶好のネタに違いない。

「まあ、杉野は授業もサボりまくりだったからなぁ、自業自得。おまえも、あんまり関わるな」

「あ、うん」

「早退すんのか?」

 手にした許可証を見られてしまった。

「うん、家で寝てる」

「ああ、そうしろ。一人で大丈夫か?」

 気遣う彼の後ろを続々と学食に向かう生徒たち……同級生たちも混じって、ちょっと誤解っぽい顔つきで通り過ぎていく。

「だ、だいじょうぶ、じゃね!」

 自分でも分かるくらいの赤い顔になって階段を駆け上がって教室に向かった。


 準備を整えて昇降口を出ると、バツの悪いことにちょっと前を杉野先生が歩いている。

 コートにポケットを突っ込み、トボトボうな垂れて歩く姿は正視に堪えない。

 何かあったんだ――おまえも、あんまり関わるな――十円男の言葉が蘇り、横道に入る。

 商店街の手前で戻る。

 え!?

 さっきの半分の近さに先生の後姿。

――#$%&@?+ωΛ%&#=##!――

 ああ……読む気も無いのに、先生の想念が飛びこんでくるよお!




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・175『聞いてしまった(;'∀')』

2025-01-28 08:48:53 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

175『聞いてしまった(;'∀')』  




 少しまどろみかけてきた時、ドアの開く音がして誰かが入ってきた。


『長瀬さん、少しいいかなあ』

 あ、グラマーの妹尾先生だ。

『生徒が寝てるから、静かにね……』

 長瀬先生も予測していたようで、奥のデスクでヒソヒソ話し始めた。

『実は……』

 先生同士の内緒話……聞いちゃいけないと思うけど、聞いてしまう……聞こえてしまう。

――こんな葉書が来たよ――

――え……なに、これぇ!?――

 長瀬先生の声には驚きと軽蔑の響きがあった。

――差出人の住所も名前も無いけど、これは杉野のやつだ――

 え、杉野……杉野って、現国の杉野先生?

 え…………ええ!?

 葉書の文面が見えて息を呑んでしまった!

 病院のそれのようにベッドはカーテンで仕切られていて、葉書が見えるはずも無いんだけど、それはハッキリイメージとして浮かんできた。

〔教師と言えど勤務時間外に人が何をしようと自由のはず、それに干渉するのは、一個の独立した人格への謂れなき攻撃であり、厳に慎まなければならない行為であって……〕

 え?

――実は、現場を押えた――

――とうとうやったんだね――


 イメージが浮かんできた。


 大浜市の予備校が入っている雑居ビル、その向かいの喫茶店で妹尾先生は冷めたコーヒーを飲み干すと、レシートと料金を置いて表に飛び出した。

 予備校は、講義が終わって生徒たちが出てくるところだ。

 待つこと数分、ビルの自動ドアから生徒と談笑しながら出てきたのは杉野先生だ。

「杉野、貴様、やっぱり予備校で働いていたんじゃないか(-ˇ_ˇ-) !」

「ゲ( ꒪⌓꒪)!?」

 目を剥く杉野先生。 キョロキョロと目が泳ぎながらも怒りに顔が赤黒くなっていく。

「明らかな服務規程違反だ! これまで、さんざん指摘され注意されてきて、ずっとシラを切ってきたが、さっき、事務所で講師登録していることも確認したぞ!」

「…………」

「武士の情け、学校には黙っておいてやる、これを機に本務に専念しろ……いいな」

「お、おう……(-_-;)」

 それだけ言うと、妹尾先生はクルリと踵を返し、夜の駅前通りを駅に向かって歩いていった。


――それで、妹尾先生、どうするつもり?――

――本人に突きつけた――

「貴様が出したんだな!」「知らん!」

 ああ……このやり取りで妹尾先生はブチギレたんだ。


 えらいことを聞いてしまった。

 むろん、長瀬先生も妹尾先生もチョーヒソヒソ声で、並の人間には聞こえない。

 でも、魔法少女の血を引くわたしには聞こえてしまう。

 それに……具体的な待ち伏せの話しは妹尾先生してないよ。

――実は、現場を押えた――とうとうやったんだね――

 そのやりとりを聞いただけで分かってしまったんだ……(;'∀')

 
 ちょっと、自分の能力が恐ろしくなってきた……。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』

2025-01-25 09:07:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』  




 教室のストーブは円筒形と箱型の二種類がある。

 両方とも腰ぐらいの高さで、鳥かごみたいなボディーの中にスケルトンという穴だらけの素焼きの筒が入っていて、筒の中にガスバーナーがある。箱型は外からは様子が分からない。

 両方とも、職員室入ったところの壁に全クラス分の連結ホースがぶら下げてあって、連結ホースは50センチほど青いゴムホースで、両端にカチット栓が付いている。

 朝一番に来たものは職員室まで、このゴムホースを取りに行って、ストーブと元栓を連結して自分で点ける。

 カチカチカチカチカチカチカチカチ……

 気ぜわしく点火プラグが明滅して、数秒から数十秒後、ボッと音がしてガスに火が点く。日によってはガスの巡が悪くって、何度もカチカチカチを繰り返さなければならない。

 やっと安定して燃え始めると、ストーブのパーツが熱膨張してチンチンチンと音がする。やがて、スケルトンがオレンジ色に焼けて、やっとストーブは暖房力を発揮する。箱型も同じだと思うんだけど、こいつは外からは様子がうかがえない。カチカチカチカチとボッは同じなので似たような作りなんだろうね。

 そうそう、ゴム管には(2-3)とかクラスの札が付いている。職員室のホース掛けを見れば、どのクラスが使用中か一発で分かる仕掛けになっている。

 ゴム管の取り忘れは放っておかれるけど、昼休を過ぎてもゴム管を返しに来ないと『2年3組、連結ホースが返却されていません、至急職員室まで返却しなさい』と名指しで放送される。

 それで、ここからが本題なんだけど、ストーブの使用は4時間目まで。

 規定では――4時間目を過ぎても室温が18度を下回る時は連続して使用を認める――ということにはなっている。

 でもね、この18度っていうのは教室で計った温度じゃない。

「あれはな、事務室と校長室の間が両方からイケイケの給湯室兼倉庫になっていて、そこの温度計で判断してるんだ」

 十円男がこっそり教えてくれる。

 さすがは留年生、並みの二年生ではうかがい知れないことまで知っている。

「でも、それって事務室と校長室の間なんでしょ!?」

「おお」

「ハア……」

 短くも非難がましい会話になる。

 十円男の話では、事務室・校長室・保健室というのは、地球規模で言うと亜熱帯。ガンガンに暖房効いてるからね。その亜熱帯に挟まれた給湯室は広さが教室の1/3しかないし、境目のドアは開けっ放しのことが多く、その亜熱帯からの気流で、あの給湯室は温帯なんだ。

 でも、給湯室独自には暖房設備が無いので、そこで学校全体の室温にしているわけなんだと。

 前にも言ったけど、教室は窓側も廊下側も隙間だらけ。校舎は鉄筋コンクリートだけどもドアは木製。窓は鉄製だけどもパッキングされてないんで、キッチリ閉めても風が侵入してくる。

 なにが言いたいかと言うと、給湯室で18度を超えていても、教室はそうじゃない場合が多いってこと! 特に窓側の後ろの席は全然違う!

 ヘーックチ!

 五時間目の樫山文男の授業で盛大にクシャミが出てしまう。ヘーックチ!のチ!は、なんとか我慢したんでマックスのヘーックション!にはならなかったことの現れなんだけど、盛大に鼻水と涎を噴出してしまってグチャグチャ。

「顔赤いですよぉ」

 ロコが心配してオデコに手を当ててくれて、直後に叫んだ。

「先生、時司さん、すごい熱です!」

「ああっ……保健室に行って来なさい(-_-;)」

 樫山文男は、授業を中断させられた不快感をもろにため息に載せて、それでも指示だけはする。

 十円男でさえ、心配そうな顔をする中、わたしは保健室に。

 廊下を歩いていると悪寒がし始め、保健室で計ったら8度2分も熱があった。

「しばらく寝てなさい」

 ちょうど居合わせた長瀬先生にベッドで寝ているように指示され、毛布を顎の下まで被って目をつぶった……。

 

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・173『化学の講師はガタピシ男』

2025-01-22 15:00:49 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

173『化学の講師はガタピシ男』  




 化学の富永先生が休職された。


 去年の秋ぐらいから具合が悪かったらしく、お医者さんからは――仕事をお休みになって治療に専念された方がいいですよ――と言われていた……と担任のハナちゃんが朝礼の時、固い表情で告げて、クセのある前の引き戸を器用に開け閉めして出て行った。

 窓や戸をキッチリ閉めても冷気が忍び寄るポンコツ校舎なので、キチンと開け閉めするのは、先生も生徒も必須のスキルなんだ。

「花園先生のお父さんも北支からの引揚者ですからねえ」

「ホクシ?」

「え、ああ、中国ですよ、中国の北の方」

「あ、ああ」

 入学以来の親友も、やっぱり昭和人。同じ17歳だけど、生まれはゴジラと同じ昭和29年。たまにだけど、今みたく、とっさに言葉が分からないことがある。

「実験室を温めていたのも、自分の健康のためだったんだなぁ……」

 アンパンを頬ばりながら十円男。

 アルバイトでは、ちょっとだけ見直してやったけど、今の一言はいただけない。

「不謹慎だぞ」

「え、ああ……すまん」

 以前なら鼻で笑うか、批判的シカト面になった奴だけど「すまん」の三文字が言えただけ進歩と許してやる。

「今日の化学は教室、代わりの先生が来るからな」

 さっそく調べて来たんだ。委員長の高峰君が教卓で簡潔に説明。むろん引き戸はキチンと閉めてる。


 かくして、二時間目の化学はひざ掛けを下半身に巻き付けて代わりの先生を待つ。


 ガタ ガタピシ ガタガタ

 
 前の引き戸をガタピシ言わせながら代わりの先生が入って来る。大学を出たばかりという感じのニイチャンだ。

「起立」

「あ、そういうのはいいから」

 高峰君の礼節を手をヒラヒラさせていなすと、そいつは出席をとることも無く、黒板に名前を書いた。

 樫山文男

 意外という感じの「え?」と、主に女子のクスクス笑い( ´艸`)が起こる。

 なんでクスクス?

「一字違いだけど『おはなはん』とは関係ない。学年末テストまで一か月だけど、富永先生に代わって君たちの化学を受け持ちます。むろん、学年末テストも僕が作るから、そのつもりで」

 それだけ言うと、とっとと授業を開始する樫山文男。

 一時間、仏頂面で授業をやると「今日はここまで」と宣言して同時に二時間目終了のチャイムが鳴る。

 キンコーンカンコーン……

 終わりの起立・礼も、むろん省略して、ガタ! ピシ! 力技で戸を開けて出て行ってしまった。

 なんかムカつく若造だ。

 あとでググると『おはなはん』は4年前に爆発的にヒットした朝ドラと分かる。主演は樫山文枝さんというメチャクチャ可愛い女優さんだった。

 午後からは室内温度が18度を超えているとかでストーブは無し!

 このムカつく話題は次回!

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 


 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・172『近ごろ化学の授業は化学実験室』

2025-01-18 09:35:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

172『近ごろ化学の授業は化学実験室』  




 二学期の終り頃から化学の授業は化学実験室。

 と言っても、とくに実験をするわけじゃなくて、ずっと座学なんだけどね。


 なぜかというと寒さしのぎのためなんだ……聞いたわけじゃないんだけどね。

 先生は、あと一年で定年という富永先生。

 終戦までは満州の中学で教えていたというんだから寒さには強いはずなんだけどね。

 化学実験室にはストーブが二つある、実験室の前と後ろ。実験室だから、ガス栓は実験テーブルに一つずつあるしね。

 窓のカーテンは閉められていて、カーテンをめくるとすき間のできる『横滑り窓』にはゴムのパッキングがしてある。隅っこではスタンド付きの扇風機が首を振って空気をかき回してくれて部屋が均一に暖まるように工夫がされている。

「精神論言わないところがいいですね(^▽^)」

 ロコがストーブにあたりながら先生を褒める。部屋の暖かさに文句は無いんだけど、ストーブが点いてると、とりあえず集まってしまう(^_^;)。

「だよね、小学校の頃さ『体中顔だと思えば寒くない!』とか言われなかった?」

 たみ子が言うと「うんうん」とか「そうそう」とかの合いの手が入って、「顔が寒いんだからしょうがないよねえ」とか言って笑う。

「ほんとうに寒いところに居た人は、精神論じゃなくて、きちんと対策してるものなんだね」

 富永先生は半年かけて満洲から引上げてきたらしい。笑顔がそのまま顔のしわになったような人だけども、抑留もされずに引き上げられたのは相当な工夫と苦労があったと思う。

「独身だったからなんでしょうね」

 真知子がポツリと言って、「「ああ……」」とみんなが納得。

 親はみんな戦争を体験している。それも学童疎開とかじゃなくて、リアルに兵隊だったり女子挺身隊だったり。中には引揚者の親も居て、そういう機微は21世紀生まれのわたしには想像つかないところで理解してるんだ。

「春になったら、一年のときみたいに花見にいきたいわね」

 加奈子が水を向けてきて思い出した。

 おたふくでパンとか買って、みんなで宮之森城址公園に行ったんだ。

「そうですね、こんどはちゃんとしたお弁当持っていきましょう!」

 ガチャ

 ロコが小学生みたいに手を挙げた時、準備室との境目のドアが開いた。

 富永先生かと思ったら、実習助手のAさん(名前憶えてない)がぶっきらぼうな顔で宣言する。

「先生のご都合で自習。ここは閉めるから、教室に戻って。いいわね」

 そういうと、前のストーブを切って、こっちにやってくる。なんか、消されるのヤなんで、自分たちで消して廊下に出る。

 背中を丸めたり、ポケットに手を突っ込んで廊下を行く。

 化学準備室から教室へは三年の廊下を通る。

「半分もいないわねえ……」

 加奈子が微妙に棘のある言い方をする。

「ああ、もうすぐ卒業ですからねえ」

 そうなんだ。去年もそうだったけど、三学期になると三年生は半分も来ない。授業もほとんど自習みたいだし。

 ルーズというかファジーというか。

 図書室か学食という選択肢もあったけど、それは、なんだかいけないような気がして、みんな真面目に教室に戻った。

 


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・171『ちょっとコラージュ』

2025-01-14 14:36:54 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

171『ちょっとコラージュ』  




「ああ、これじゃダメだ」

 そう言うと直美さんは焼き付けたばかりの印画紙を左のトレーに入れた。

 左はボツ、右が合格品を収めるトレー。左には四枚入っていて、右は空のまま。

「一息つこう」

 直美さんは、わたしを促して現像室を出た。



 二年生も三学期、高校生活も2/3が終わってしまって、あれこれがルーチンというか慣れてしまった。それは前回も言ったよね。

 じつは写真館のバイトもそう。

 事実上の館主である直美さんの助手をやってるんだけど、仕事の八割以上は結婚式場の記念写真。

 だから、人から「なんのバイトやってるの?」と聞かれたら「結婚式場です」と答えてしまう。

 慣れてしまうと、特別に語ることも無くなってきて、改まってお話することもないんだけど、成人式の前日に特別な結婚式があった。

 新郎は25歳のサラリーマン、新婦は短大を出たばかりの20歳。

 新婦は光子さんといって、ほんとは高校卒業と同時に結婚して、新郎の鈴木さんといっしょに新郎の赴任先であるアメリカに行くところだった。

 しかし、高三の夏に脳腫瘍であることが分かって、結婚は延期。

 光子さんは健気な人で、短大に通いながら病気の治療に励んだんだ。

 なにもしないで病気の治療をするんじゃなくて、人生、なにごとも前向きで田中さんの横を歩いて行きたかったんだ。

 短大で保育の勉強をして、結婚したら自分も保母さんとして働く。ただ、漫然と病院に通って、いつかは入院。そして、ずっとベッドの上で病人として過ごすのは嫌だったんだね。たとえ、週に三日とか四日しか通えない短大でも目的のある生活を送りたかったんだ。

 田中さんは、会社に頼んで光子さんが治るまでアメリカ行きを伸ばしてもらった。

 でも、光子さん、去年の6月には入院せざるを得なくなった。

「June bride じゃなくってjune patient(六月の病人)だね」

「なに言ってるんだ、前向きに行くんだろ。予定通り成人式に合わせて結婚しよう、式場も予約しよう」

「……うん、そうね」

 でも、光子さんは結婚式に間に合わず、クリスマスの前の日に神に召されてしまった。


 でもね、田中さんは結婚式を挙げることにしたんだ。


 披露宴は無し、神前のお式と写真撮影だけの結婚式。

「ねえ、なんとかならないのかしら?」

 なんだか胸に迫って来て、須世理姫である采女さんに声をかけた。大晦日の埼玉では、あれだけの奇跡を見せてくれたんだ。ひょっとしたらと思ったんだ。

「無茶いわないでよ、伊邪那岐命(イザナギノミコト)だって、奥さんの伊邪那美(イザナミノミコト)を生き返らせることはできなかったのよ」

「やっぱし……」

 光子さんは顔なしのマネキンに花嫁衣裳を着せて、式と写真撮影を行った。

 顔のところは、光子さんの別の写真から切り取ってはめ込んだもの。

「でも、アングルとか光の当たり具合とかに不自然さは無いですよ」

「うん、プロだからね、あたし」

「だったら」

 直美さんは春のコンテストに出す作品も手掛けている。そんなに時間をかけているわけにもいかない。

「空気感が全然違う」

「ああ……」

「でも、納期は迫ってるし……安請け合いしちゃったかなぁ」

「あのう、ちょっと借りていいですか?」

「え?」

 知り合いにアマチュアの写真家が居る……ということで、式場でのネガとコラージュ用の写真を借りた。


 家に持って帰って、AIのツールを使って創ってみた。


 あっという間に十枚ほど出来あがった。

 直美さんは「すごいすごい!」を連発して、そのうちの二枚を表装して田中さんに送ってあげた。

 ほんとうは十秒の動画も作ったんだけど、さすがに21世紀のAI技術を晒すわけにもいかない。

 花嫁衣装で旦那様と向き合って一言二言喋って、こちらを向いてニッコリ。

 上出来なんだけど、ファイルにしまって、そっ閉じにした。


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・170『年度末と防寒対策』

2025-01-14 14:24:36 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

170『年度末と防寒対策』  




 三学期が始まって三日目の朝、いつものようにロコと駅を出たところでいっしょになって学校を目指す。

 ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

 交番の前を通って商店街に入ったところで、盛大に道路工事をやっている。

 さすがに塞がっているのは道幅の半分なんだけど、通勤通学の邪魔。

「迂回しますか」

 二年の三学期ともなると近隣の地理に明るくなって、相談しなくてもう回路に足が向く。

「年度末が近いから、駆け込み工事が増えるんですよね」

「駆け込み?」

「市とか県の予算ですよ。使い切らないと来年度の予算減らされますからね」

「そうなん……ウワ!」

 ちょっとした舗装の段差に引っかかって、ロコが咄嗟に手を引いてくれて助かる。

「あ、ありがとう(;'∀')」

「ここはクリスマス前に工事したとこですねえ、舗装工事は向こうと合わせて来年度予算といったところですね」

「アハハハ……来年度予算ねぇ(^_^;)」

 これだけの工事なのにガードマンも付いていないし、案内板すらない。

 だいたい通学時間帯の通学路の道路工事なんて反則だと思う。まあ、片側封鎖だし、昭和的ファジーさと嘆きの虫を押し殺して学校へ急ぐ。

 ロコはいつも通りにカバン一つ。わたしはカバンを右手に、左手で紙袋を抱えている。この紙袋で足元が視界不良になってるんだ。

「ああ、窓際になったんですねぇ……」

 ロコも思い当たって、今さらながら同情してくれる。


 実は、昨日の席替えで入学以来初めて窓際になったんだ。


 宮之森はいちおう鉄筋校舎だけど、中身はポンコツ。

 教室のドアは鍵も掛からない木製で、教室は年に二回は油びきが必要な板張り。

 むろんエアコンなんてあるはずもなく、冬の暖房は教壇横のガスストーブで間に合わせている。

 間に合わせているというのは、他にも改善しなきゃならないところがあるからなのよ。

 それが、南側の窓。

 窓枠は、さすがに木製じゃないけど、令和じゃ常識のアルミサッシでもない。

 なんと鉄製!

 それも左右に開く引き違い式じゃなくて、まるで車のハッチバック!

 下の方に真鍮のクランクというか掛け金があって、それを横にクイっと倒して外側に押す!

 すると窓は0度~45度くらいに傾斜して、傾斜した窓の上と下から空気が出入りするというシロモノ。

 密かにググると『横滑り窓』というらしい。気密性が高いのが売りらしいけど、ゴムとかシリコンとかのパッキングが無いものだから隙間風がハンパない。

 横滑り窓の上にはスライド式の窓もあるんだけど、こいつも隙間風を遮断するようにはできていない。

 この隙間風と、一重の窓から容赦なく忍び寄る寒気防止のための防寒具が必要なわけ。

 毛糸のひざ掛けと座布団。

「もうちょっと魔法が使えたら、妖気の膜を張って寒さなんて一発で克服できんのにね」

 お祖母ちゃんは、わたしを本物の魔法少女にしたくて余計なことを言うけど、その手にはのらない。

 それに、ストーブなんだけど。暖気は全部教室の上1/3ぐらいのところに溜まって降りてこない。

 埼玉の茶畑にあった防霜扇を付けて欲しいと思った。

 一時間目が終わって、わたしの後ろになった加奈子が質問してきた。

「ねえ、ずっと指を回してたけど、なんなのあれ?」

「え、ああ……寒さで指が凍えそうで……アハハハ(^_^;)」

「え、ああ、そうなんだ……」

 不得要領な顔の加奈子。

 実は、魔法で教室の空気を循環させようと無駄な努力をしていた。

 壁の向こうの覗き見魔法しか使えないわたしには無理な魔法なんだけどね、溺れる者は~的な悪あがき。

 まあ、手首だけは、ちょっとだけ暖かくなったかも。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・169『二回目の三学期が始まった』

2025-01-08 11:01:20 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

169『二回目の三学期が始まった』  




 ああ……雪だぁ…………


 戻り橋を渡ったわたしは盛大にため息をつく。

 吐いた溜息は即自動車の排気みたく白く目の前にわだかまる。

 今年は寒さひとしおの令和だけども、昭和の一月は、その上を行く。

 地球温暖化なんてウソだと思ってるけど、今朝の温度差を実感すると、感覚的に「そうなんだ」と思ってしまう。

 橋の向こうの令和は例年よりは寒いというだけだけど、昭和の方は夕べ降った雪が氷になって、うっかりしているとグリップの無いローファーでは簡単に滑ってしまう。

 ウワッ!  ムシシシ(((*`艸´)))

 言ってる尻から滑って、集団登校の小学生が遠慮なく笑いやがる。

 ウオ! キャ! ウワ!

 ププ( ´艸`)

 言った尻からガキどもも滑って笑ってしまう。

 やつらもわたしも今日から三学期。

 心を引き締めて学校に向かう。


「教室でのホームルームの前に生徒全員で大掃除をします。暮れの掃除が行き届いていないところもけっこうあります。気を引き締めて掃除に掛かるように。出席番号の奇数は教室、偶数は特別清掃区域。時間は20分。終了は放送で伝えます。かかれ!」

 保健部長の長瀬先生が朝礼台で号令かけて開始。

 ほとんどの先生たちは、そのまま職員室や教官室に戻ってしまう。

 この寒空、屋外で始業式というのも常識外れだけど、そのまま大掃除をさせるのもどうかと思う。

 先生はヌクヌクとストーブにあたってお茶とか飲んでるし、ろくに付き添いもしないし。

 10円男たちがやってた学園紛争はアホかと思うけど、今朝みたいに生徒を使ってると、奴らの言い分にも理はあると思うよ。

「雑巾がけどうする((((;゚Д゚))))?」

 体を揺すりながらたみ子が聞く。両方のポケットに手を突っ込んで言うから――やりたくない――という気分が漏れまくり。大晦日に麗しく巫女舞やってた人とは思えない。

「男子、サボってるしねぇ」

 そうそう、男子で真面目に掃除してるのは、ほんの二三人。

「お湯を確保してくるよ」

 ほんの二三人の中には10円男も居て、それだけでビックリなのに、雑巾がけの為にお湯を確保すると、どこかに行ってしまった。

「お湯無くても、雑巾ぐらいかけるけど……」

 日ごろ部活でやってる佳奈子は気軽なもんで、すでに人数分の雑巾を確保している。雑巾は、四月の配給から八カ月を経過して、定数分揃ってるクラスは多くない。10円男の気の周りようは、やっぱり伊勢半でバイトしたことが実ってるんだろうね。

「あ、戻ってきました」

 ロコが窓の外を指さす。10円男は技能員室でお湯を確保したみたいだ。

 なんだかバイトの延長みたいな感じで掃除を終えて五分余った。

「先生呼んできて、さっさとホームルーム終わらせよう」

 真知子が提案して二人で花園先生を呼びに行く。


 ワハハハハ ヒャヒャヒャヒャ クスクスクス


 職員室では三つのストーブに群がって先生たちが盛り上がっている。聞くつもりも無いんだけど、話題は株と土地の話し。まあ、冷静に見れば、自分の机で黙々と仕事の先生もいるんだけどね。

「先生……」

 小さく声をかけただけで花園先生は小さく頷いて、ホームルームのあれこれを持って立ち上がる。

 まあ、宮之森の標準よりはよくできた担任、よくできた生徒たち。

 
 二回目の三学期が始まった。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・168『スセリヒメの生姜湯』

2025-01-04 15:20:07 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

168『スセリヒメの生姜湯』  





「ここの神さまは古い友だちなのよ」


 チマチマとミカンの皮をむきながらスセリヒメ。

「え、友だちだったんですか? って、ここの神さまは……」

 やばい、巫女の助勤しながら神さまの名前も憶えてなかった(^_^;)

「いやだぁ、御祭神の名前も知らずに巫女やってたのぉ(¬д¬)!?」

「ド、度忘れよ(>〇<)」

「『なにごとの おわしますとは知らねども かたじけなさに なみだこぼるる~』かなあ」

「なにそれ?」

「西行法師がね、とある神社に立ち寄ったんだけど、なんの神さまか分からないけど、ありがたさに涙が出てきたって詠んだ和歌よ」

「え、あ、ああ、それですよ、それ!」

 よう知らんけど西行と言えばえらい歌詠みの坊主。西行も同じなら、わたしもノープロブレム!

「ここの神さまはね秩父谷戸姫(チチブヤトヒメ)って言うの」

「あ、女神さまなんだ」

「え、女神さまってことも忘れてたぁ?」

「え、ああ……」

 思い返すと、頼政さんの車を降りて拝殿の前で一礼して、巫女の練習で玉ぐしを捧げたりとかの練習はしたけど、御祭神については教えてもらってない?

 シューージジジーーー

 火鉢に掛けたヤカンが湯気を噴く。怒っているようにも笑っているようにも思えた。

「わたしの亭主知ってるでしょ……」

 コポコポコポ……

 ヤカンのお湯を湯呑に注ぐスセリヒメ。

「あ、オオクニヌシさん」

「うん。いちおう大国主の奥さんはわたしなんだけどね、大国主は、あちこち出かけては女に手を出してねぇ……まあ、あれでも出雲の大神だから、多少のことはね」

「ああ、福井とか新潟あたりまで出かけたんですよね」

「うん、でも、まさか埼玉まで足を延ばしていたとは……」

「え、知らなかったんですか?」

「いや、まあ、最後には分かったんだけどね。大国主はウソ下手だから……」

「そうなんだ」

「で、まあ、一度はヤマタノオロチの息子どもを連れて出張ったんだけど」

 ボ!

 かき回した火鉢の炭が小さな爆炎を上げた。

「でもね……じっさい会ってみたら、けっこういい娘でねえ。ヤマタの息子どもも『こんなに美しい谷川は見たことも無い』って言うしね。それで、気が付いたら友だちになっちゃった」

「え、そうなんだ」

「それに、グッチが写真館のバイトで来るようになってから調子も良くってさ」

「あ、文化祭じゃお世話になりましたぁ(^_^;)」

「そうよ、あの後、特に調子よくてさ。やっぱり神さまって言うのは、みんなが喜んでくれると力が出るわけですよ。ウエディングパラダイス、またやろうね!」

「え、ああ……」

 ウエディングパラダイスは大成功だったけど、佐伯さんが自殺未遂をやっちゃって、このスセリヒメが大汗かいて黄泉平坂から連れ戻してくれたんだ。

「一時は植物人間とか言われてたんだけど、なんとか元に戻りそうなんだ」

「え、そうなんだ!」

「まあ、あれだけ噂になったから復学はしないだろうけど、新しい学校で頑張ってくれたらと思う」

「よかったあ」

「それでね、グッチたちがこっちに来るのを知って、ヤトヒメとも久しぶりだったし、ちょっとテンション上がっちゃったわけよ……ハイ、生姜湯。これ飲んで三が日がんばってね」

「わあ、ありがとう」

「他の子の分は置いておくから、お湯に溶かして飲ませてあげて」

「はい」

 一口すすると、生姜の少し刺激のある甘さが口に広がり、スイッチが入ったみたいに体が温まる。

 ウワァ~~~~~

 その心地よさに思わず目をつぶってしまう。

 再び目を開けるとスセリヒメの姿は消えていた。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・167『昭和の巫女はきつい』

2025-01-04 15:10:44 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

167『昭和の巫女はきつい』  





 ジョキンと聞いて、あの忌まわしいコロナを思い出すのは令和のJKだ。

 中学の時は学校がまるまる半年も休みだったし、除菌、殺菌、消毒とかうるさく言われたよ。


 でもね、昭和47年のジョキンは助勤のことなんだ。

 巫女バイトが決まった時にお祖母ちゃんに言ったら、こんな話をした。

「ああ、助勤と言えば新選組だねえ」

 想像の斜め上を行く感想なんで、こっちがビックリしてしまう。

「なに、ナントカ太郎とかがやってる政党?」

「ちがうちがう、近藤勇の新選組。局長の次に偉いのが助勤て言って、沖田総司が一番隊の助勤をやってたんだよ。新選組じゃ一番若いのにさ、永倉新八とかのオッサンと並んで立派にやっていたんだよぉ」

「え、お祖母ちゃん、新選組の時代から魔法少女やってたの(ㅎ.ㅎ)?」

「ん、んなわけないだろ(''◇'')!」

「だよね、今度巫女のバイトやるんだけど、正確には助勤て言うんだよ」

「え、そうなの? 昔は巫女は巫女だったんだけどねえ」

 ウプ!

 そんな数日前のスカタンを思い出して、お茶を噴き出しそうになる。

「だいじょうぶですかぁ?」

 同じ休憩組のロコがコタツに潜ったままおざなりな返事。ロコの隣で横になってる真知子は返事もしない。

「ううん、ちょっとむせかえっただけ」

 慣れない助勤の仕事と寒さでグロッキー、そっとしといてあげよう。この律義者は話しかけられたら必ず返事を返してくる。休憩時間はそっとしておいてやるに限る。真知子はほんとに寝てるみたいだし。

 ロコほどじゃないけど、たしかに、この助勤の仕事はきつい。

 とにかく寒い。

 巫女服、いや巫女装束ってのは白衣に緋袴。むろん下にはババシャツに厚手のタイツ、足袋は重ね履き。ほんとは使い捨てカイロを背中とかに貼りまくりたかったけど、使い捨てカイロは、もう5年しないと発明されない。

 授与所には電気カーペット、後ろにはストーブ焚いてもらってるんだけど、なんせ初詣。

 授与所の窓は開けっ放し。宮司の頼政さんが工夫してくれて、工事用のライトを四つ吊るしてくれてる。ケンタとかマックとか、商品が冷めないようにライトあててるでしょ。授与所のためだけに発電機も回してもらってるんだけど、それでも寒い。

 それにね、授与所と言えばお御籤なんだけど、令和みたく自動販売機じゃない。

 お客さん、いや参拝客の人が「お御籤お願いします」と言ったら、巫女がお御籤をひくんだよ。ほら、でっかい木製のシェーカみたいなの。あれをガシャガシャやって「○○番です」と参拝客に示してから、100の小引き出しからお御籤を出して渡す仕掛け。

 自分で引けよって思うんだけど、これがA町のしきたり。自分で引いたらありがたみがないんだとか。

 JC巫女たちは、ほとんど、このお御籤要員と言っても過言じゃない。参拝客も巫女の正体が、近所のA子ちゃんとかY子ちゃんだとか分かってるんだけど、巫女の姿をしていたら神さまのお使いになるわけですよ。

 とにかく元気だしね。

 令和じゃ、映画や芝居の子役だって午後9時以降は働かせちゃいけないことになってる。

 21世紀になったらどうするんだろうね、と余計な心配をしてしまう。

 わたしも、まあ、なんとか務まってる。たぶん、直美さんとこのバイトと、年末のバイトで慣れてるんだ。

 たみ子は、拝殿で高峰君といっしょに頼政さんのお手伝い。ガラス窓の外では、そういう新年早々の神社の営みが静かに進行している……夕べ扉が開いて神さまみたいなのが光になって現れて、あの時のどよめきが嘘みたいに静か……静かすぎる……と思ったら、二重のガラス窓だった。

 ガラスに、コタツにも入らずの巫女姿が映っている。

 え?

「やぁ、わたしも昨日から来てるの」

 場所がら、全然違和感はないんだけど、この場に居るはずのない、御神楽采女さん。

 巫女服姿だけども、この人は宮之森と大浜限定の巫女さん。

「アハハ、いちおうは神さまなんだよ(^_^;)」

 そうだ、この人の本性はスセリヒメ。

 だけど、なんで埼玉に?


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・166『昭和47年の幕が上がった!』

2025-01-01 08:46:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
166『昭和47年の幕が上がった!』   




 大晦日のお昼前に三人がやってきた。


 宮司の頼政さんは忙しいので総代さんの息子さんが駅まで迎えに行ってくれて「息子さんかっこよかったねえ!」というのが到着しての第一声だった。

「高峰君も世間の水準で言えば長身のナイスガイですよ」「そうねえ、たみ子も、そうだし」「二人ともバレー部に入ればよかったのに」

 感想は、ロコ、真知子、加奈子の順。

 三人とも、人のミテクレについてはあまり口にしない。それが小学生みたくあれこれ言うのは、大晦日の旅行だということと、秩父山麓の令和の言葉で言うと異世界めいた町と神社の雰囲気にあてられているせいかもしれない。

 社務所に入る前に、拝殿にお参りするのは偉いなあと思ったら「え、ちゃんとお参りしてから入ったよ」とたみ子に指摘される。アハハ、わたしも微妙にテンパってるかも(^_^;)。

 挨拶もそこそこに、世話役さんや氏子有志の人たちと慌ただしくお昼ご飯を頂いて、昨日のわたし同様に巫女服の着付けと共姫の所作や動きの練習。

 それが終わると、正月三が日の授与品(破魔矢やお守り)の説明を受けて、受け渡しの練習。

「世話役さんが八ミリ見せてくださるよ」

 水色袴の神職姿で高峰君が案内してくれて、参集殿で八ミリを見せてもらう。

 スクリーンを立てて、カーテンを閉めて、映写機がカラカラカラと起動すると、なんとも昭和の趣き……って、リアル昭和なんだけど。わずか十分程度の映像を見るだけで、これだけの手間と秘密結社めいた作業があるのは雰囲気だ。

 昭和に通い始めてほぼ二年、移動したり情報を取ったり音楽を聴いたり、令和じゃスマホをひと撫でするだけで済むことが、ひどく手間がかかったり不可能だったり。でも、だからこそ、大げさに言うと「生きてる」って感じがする……なんて思うのは、やっぱり、この町と神社の特別感なのかもしれない。

 え、音が出てない……と思ったら八ミリはサウンドトラックじゃあないんだ。

 でもね、一メートル四方ぐらいの映像は神秘的だ。いまと同じ神社の舞殿。そこに共姫を引き連れて、シズシズと招き姫が現れ、たみ子と同じ衣装、同じ舞を舞う。

 違うのは、四隅で控えていた共姫たちが吸い寄せられるように招き姫の周囲に寄って来ていっしょに舞っているところ。

 そんなに難しい舞には見えなかったけど、交差したり鈴を振ったり足を踏み鳴らしたり、そのタイミングを合わせるのが難しそう。これは合わせるのが大変だ、だから昭和46年では招き姫の一人舞になってるんだ。

「でも、共姫が控えているだけで、ぜんぜん違うよ」

 高峰君がフォローする。やっぱり、彼は人格者だ。10円男とはちがう。

 そういや、あいつどうしてるんだろ、伊勢半でお給料もらって以来姿を見てない。いやいや、去年は冬休み期間中ぜんぜん姿見てなかったし。

 ぼんやりバカのことが思い浮かんでるうちに八ミリは、クライマックスの扉開けになった。

 神職が襷がけで扉の前に立ち、歌舞伎みたいな仕草で大げさにゆっくりと扉を開ける。音はぜんぜんしないんだけども、観衆の人たちが湧きたっているのが分かる。背後で焚火に映し出されてる笛や太鼓もアップテンポになった感じ。
 扉が開いて、そこから何かが出てくるという演出も感じも無いんだけど、雰囲気なんだろうね。みんな「ウォーー」って感じで沸き立ってるのが分かる。

 これ、レーザーとかプロジェクションマッピングとかやったら映えるだろうなあと思った。


 そして、紅白歌合戦も最終組の対決の11時過ぎ、いよいよ本番!


 わたしは、ダメもとで、ちょっとだけ魔法をかけた。

 わたしの魔法って、壁一枚向こうの声が聞こえる程度。調子がいいと映像として見えることもある。小さなものを動かした……あれは、安倍晴天とかのおせっかいが入ってると思う。まあ、自分に対する景気づけみたいなものさ。

 招き姫のたみ子が蹲踞の姿勢から立ち上がって、神楽鈴をひと振り。

 シャラン

 え?

 自分も他の三人の共姫も立ち上がって、扇を構え鈴を鳴らして床を踏み鳴らす。

 トオオオオン

 思いのほか音が大きく、初詣の人たちが息を呑んで、共姫四人の舞が招き姫のそれに絡んでいく。

 え、なんで?

 思ったのは一瞬で、あとは気分が高揚して、それは招き姫にも伝染して、どんどんビビットになっていく!

 クルクルクルクル ヒラリヒラヒラ トトントン ドドンドン

 お囃子もそれに重なって大きく豊かになっていく、なんちゅうかエキセントリック!

 そして、神主服にタスキ掛けの高峰君が弁慶みたく現れて扉に手をかける。

 ドドンドン ドガラドンドンドン! ピーーヒャ! ピピピヒャ! ドンガラドンドンドン! 

 ダンダダン!!

 太鼓がダメ押しのフォルテシモになると同時に扉が開く!

 ピッシャーーーン ……☆☆☆☆!!

 音がしたわけじゃないんだけど、そんな感じで山から光が降りてきて、拝殿と舞殿の扉を突き抜けて、大晦日の夜に蟠って、一瞬女神の姿になって、次には幾千万、幾億、幾十億の光の欠片となって町に降り注いだ。

 オオオオオオオオオオオ…………

 鳥居の下までいっぱいになった参詣の人たちからどよめきの声が上がって、町の反対側にあるお寺から除夜の鐘も鳴り始めた!


 昭和47年の幕が上がった!

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・165『JC巫女たちと舞のお稽古』

2024-12-31 14:49:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
165『JC巫女たちと舞のお稽古』   




 あれから挨拶もそこそこに衣装合わせ。


 令和で言うところの巫女服。

 もの知らずのわたしでも、昭和の時代では巫女装束と呼んだだろうぐらいは分かる。巫女服というのはコスプレ用語だからね。

 式場のアルバイトで御神楽さんの巫女姿で見慣れてるけど、自分が着るのは別だ。

「このコハゼを帯に挟んでね……」

 頼政さんの奥さんが教えてくださる。

「あ、なるほどぉ、これで着崩れないんだ」

 袴の後ろの腰当にコハゼ付いていて、それを帯に引っかけてずり落ちないようになってるんだ。

 それから、立ち居振る舞いを習っていると、後ろで歓声がおこる。

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」

 お、わたしの巫女姿に見惚れてる奴がいる……と思ったら、姿見の向こうにプリマドンナかっちゅうくらいのゴージャスな巫女服のたみ子。歓声をあげているのは、お手伝い巫女をやる地元のJC(女子中学生)たち。わたしのことは自分たちの同類ぐらいにしか思ってないみたい。

「いやあ、たみちゃんも立派だわぁ!」

 奥さんもお世辞ではない賞賛の声。

「招き姫をやるのは初めてなのよ(^▭^;)」

 招き姫っていうのは、年越祭の主役らしい。

 わたしらは、スタンダードな巫女服の上に千早っていう一重の上を羽織るだけ。でも、たみ子のはほとんどお雛さま!

 十二単っぽくって、裳裾っていうのかなあ、長い御引きずりが付いていて、手にはごっつい房付きの扇、頭にはキンキラキンの冠。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ……きれい……たまげたぁ……お招きさまだぁ……美幸ちゃんに負けないねえ……うん、本物だあ……いいなあ……

 JCたちは、たみ子を取り巻いて、なんだか白雪姫と七人の小人かっちゅう感じ。たみ子は令和でもあまり見かけない175センチの長身で美人ときてる。その上、このゴージャス巫女服。太刀打ちできるとしたら大谷翔平の奥さんぐらいだ。

「さあ、あんたたちも準備して!」

「「「「「ハーイ」」」」」

 奥さんが手をメガホンにして言うと、元気のいい返事をして、クルクルと巫女服に着替える。意外に薄着なんでビックリ。わたしなんか巫女服の下は七分袖のババシャツだっちゅうのに(^_^;)。

「はい、では、みんなに紹介します」

 全員正座して招き姫のたみ子と奥さんに向き合う。わたしはたみ子の横。

「今年から、招き姫をやってもらうたみちゃんです。去年までは総代さんとこの美幸ちゃんがやってたけども、お嫁に行っちゃったからね。で、そちらに控えているのが共姫をやっていただく時司巡さんです。最初は兼子ちゃんたちにやってもらうつもりだったけど、インフルエンザだから、急きょ湘南の宮之森から来てもらいました。今日と三が日いっしょにやってもらいます。他にも明日、三人来てもらいますので、よろしくね」

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

「よ、よろしく(^_^;)」

 お互いに挨拶して、簡単に巫女の所作を確認。初めてのわたしは失敗ばかりで恥ずかしかった。

 それから、参集殿という板敷の広いところに行って、たみ子の招き姫を中心に本番の稽古。ええと、お囃子っていうのかなあ、雅楽の楽団まで付いてる……って、本番は明日なんだ!

 JCの平巫女が控えてる前を共姫のわたしが付き従って中央に進む、正面の神さまに一礼して前に置かれた神楽鈴と扇を手に、招き姫が招き舞を舞う。

 小学五年から巫女舞をやってきたというたみ子の舞は見事だった。

 本番は拝殿の前の舞殿(まいどの)で舞って、御祭神である山の神様をお招きする。

 ちなみに、この神社には神さまを祀る本殿が無い。拝殿の奥には扉があって、その扉の向こうは山がそびえている。つまりは山全体が御祭神ということになっていてスケールが大きい。

 日ごろは山にお籠りになっている神さまを大晦日から元旦に掛けてお出ましいただく。お出ましいただくについては招き姫が共姫を引き具してお迎えの舞を舞うという寸法。舞殿の奥には特設の扉が置かれて、神職がそれを開けると同時に拝殿の扉もリンクして開けられるという分かりやすい演出もされるそうだ。

「昔はね、共姫もいっしょに舞ったんだそうよ」「あ、うちのお婆ちゃん娘時代にやったって」「ああ、舞殿、一人舞やるには広すぎるもんねぇ」「シ、聞こえるよ」「あ、気にしないでくださいねただの昔話だから(^_^;)」

 お稽古の後、豚汁とおむすびを振舞ってもらっていると、JCたちがお喋り。悪気はないんだろうけど、微妙に凹む。

「ねえ、明日来てくださる共姫さんたちは、どんな人なんですか?」

 のりちゃんというJCが目を輝かせて聞いてくる。

「あ、ええとね……」

 三人のイメージをかいつまんで話すと目を輝かせるJCたち。スマホの中に三人の写真が入ってるんだけど、スマホを見せるわけにはいかない。そのかわり、修学旅行や万博の話をするとメチャクチャ羨ましがってくれる。

「万博行きたかったねえ」「うんうん」「でも中学生で大阪はねえ」「東京だったらねえ」「横浜でも行けた」「高校は修学旅行関西方面だよ」「うん、でもぉ」「万博やってないしぃ」「万博以外でいいとこありますか?」

「ああ、それならねえ……」

 こないだ行ったばかりの修学旅行の話をすると、目を輝かせて聞いてくれるJCたち。総代さんたちへの挨拶に行っていたたみ子が戻って来ると、湘南の海の話になる。

「東京には行ったことあるんですけど、海は見たことないんですよねぇ」

「湘南の浜辺って、加山雄三が歩いてたりするんですよね?」

「ああ、加山雄三には会ったこと無いけど、小三のころに吉田茂に出くわしたことがあるよ」

「え、あの国葬になった!?」

「うん、和服で袴もちゃんとしてて、こーんな葉巻をね……」

 たみ子はリアル吉田茂を知ってるんだ、吉田茂って麻生さんのお祖父さんだよぉ~。

 いろいろ盛り上がってきて、のりちゃんがすごいことを言った。

「じつはね、もともとの共姫さん、インフルエンザじゃない人がいるんです」

「「え?」」

「じつは、男性経験を持ってしまった人が居てぇ……」「招き姫も共姫も男を知っていてはいけないんです」「みんな仲良しだから、みんなインフルエンザってことに」「あ、これは内緒でお願いします」

 この話題は奥さんがやってきて、それっきりになった。

 なんだけども……お二人は大丈夫ですよねって目で見るのは止めて欲しい(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・164『A町の神社に向かう』

2024-12-30 14:51:55 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
164『A町の神社に向かう』   




「埼玉と言うのは、東京の上に設えられた大屋根みたいなものでねえ」

 ハンドルを握りながら頼政さんが話す。たみ子と同じ埼玉が屋根っぽいという話みたい。

「それも、昔のかやぶき屋根、ほら、飛騨地方に合掌造りってあるでしょ」

 ああ、令和では世界的に有名になって、たしか世界遺産。オーバーツーリズムとかで、ちょっとパンクぎみだけど。

「合掌造りに限らず昔の茅葺屋根というのは養蚕をやったり、倉庫だったり作業場だったり、重要な役割が合ってね。埼玉もそうなんだ。国府こそは東京の府中市だけど、武蔵の国の中心は埼玉だった」

「フフ、伯父さんの埼玉王国論が始まった」

「王国というわけじゃないけど、東京は家康の開拓が始まるまでは海沿いの湿地帯だったからね。歴史も農業も埼玉の方が古い。その根っこにあるのが秩父の山や谷。武蔵の国の神々が坐す神社」

「言葉がむつかしいよ伯父さん」

「ああ、すまんすまん」

 文句を言うたみ子だけど、不満とかいうわけでは無くて、親しみの現れという感じ。甥っ子の高峰君は、微笑みながら静かに助手席に収まっている。親類付き合いがほとんどないわたしには、ちょっと羨ましい光景。

「まあ、わたしだけが言うんじゃなくて、町の人たちは、みんな同じように思っているんだ。だから、お祭りとか年末年始の行事は楽しみにしているし、大事に思ってくださってる」

「はいはい、だから、親友たちにも頼んで来てもらったんじゃない」

「ハハ、そうだな。ま、そう言うことだから時司さんよろしくね」

「あ、はい。わたしのことはメグリとか、グッチでいいです」

「ええ、そんな風に呼んでるのか? 秀夫は?」

「僕は時司さんだよ」

「そうだろそうだろ」

「あ、どっちでもいいですから(^_^;)」

「まあ、神主でもあるし、まあ、こんな感じでお願いするよ、時司さん」

「あ、はい」

「秩父の山に降った雨はね、幾つもの流れになって谷を削って扇状地を作って利根川を太らせる。その流れの一つが山を出たところに、うちのA町があるんだ。水は清いし、山が屏風になって風を防いでくれるし……」

「ああ、それを昔の人たちは神さまの恵と思ったんですね(^▽^)」

「うん。だけど、思ったんじゃなくて、神さまはほんとうにいらっしゃるんだよ」

「あ、あ、そうですよね(^_^;)」

 頼政さんは神主さんでもあるんだ「神さまと思った」は失礼だ。

「時司さんは、苗字から察すると、ちょっと由々し気な……」

「そうよ。伯父さん、グッチの家は昔々は朝廷の時間を管理するお役人だったんだよ」

「アハハ、ただの家系伝説ですよ」

「いやいや、時司は延喜式にも書かれている由緒正しい家系だ。いやあ、たみ子はいい友達を持っているなあ」

「そうだよぉ」

「いやあ、止してよ、伝説なんだからあ(^_^;)」

 まあ、魔法少女の家系だとまでは分かってない様子だから、いいとしよう。

「ああ……」

 高峰君が小さく感嘆の声を漏らす。

 小さな林を抜けると、秩父の山々を背負って一面の茶畑。茶畑には防霜扇の電柱が林立していて、その向こうには、それ自体が山々から流れ出て芽を吹いたような町が扇の形に広がっている。

 町が山に向かって窄まったところに大きな鳥居、あれが、たみ子の里の神社に違いない。

 なんか、華やかじゃないけども、雛壇のような床しさを感じさせる風景だ。

 道路が神社への一本道に入ると、ちょうど夕陽が谷の間から差して、町を茜に染めて、いかにも神さまの祝福を受けた町と神社に見える。

「朝は、真っ先に神社の鳥居が日に照らされてね、それもなかなかのもんだよ」

「あ、日の出を拝めっていうのは勘弁してね」

「ああ、今回はやらないよ。風邪でもひかれたら元も子もないからな」

 あ、そうだった。わたしらはインフルエンザで倒れた巫女さんたちのピンチヒッターだったんだ(^_^;)。

「のど飴あるけど、どう?」

 高峰君がのど飴を差し出してくれ、ありがたくいただくと、車は鳥居の前で左に曲がって神社の駐車場に向かうのだった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・163『今度は巫女のアルバイト』

2024-12-29 14:49:05 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
163『今度は巫女のアルバイト』   




 こういう巡り合わせってあるんだ。


 年末もいよいよ押し詰まった28日、たみ子から電話があった。

『ごめん、良かったらでいいんだけど、バイト頼めないかなあ』

「え、バイト?」

『うん、実はね……うちの身内のことなんだけど……』

「……うん……うん……うん、わかった」

『助かる、ありがとう!』


 というわけで、明くる29日、わたしはたみ子と共に相模線に乗り、二度乗り継いで、埼玉県のA駅に降り立った。


「やっぱり早く着いちゃった。ごめん、迎えがくるまで、30分ある」

「いいよいいよ、初めての土地だし、景色見てたらあっという間だよ」

「五年前にやっと市になったばかりの田舎なんだけど、空気だけはいいからね」

 地元の人が聞いたら気を悪くしそうなことを言う。でも、駅の待合は二人だけだし、わたしに気を使ってのことだから、あいまいに「そうなの?」と「そうなんだ」を返しておく。

 たみ子のお母さんは、これから向かう埼玉の小さな町の生まれ。

「埼玉県って、家の屋根みたいな形しててね、右半分が大宮とか川越とかが市街地で、西の左半分は山いうか田舎」

 なるほど、改札を通して見える東側は田んぼもあるけど、その向こうには街が背景のように見える。

「電柱に扇風機みたいなのが付いてるけど」

「ああ、茶畑。冬にね霜が降りたら茶畑壊滅しちゃうから、霜の降りる朝方に畑の空気かき回して霜が降りないようにしてるの。防霜扇て言うんだよ」

「ボウソウセン……暴走する船を想像した」

「ハハ、わたしも子供のころに聞いて、そう思った(^_^;)」

「お母さんの里は、こっちの山の方なんだよね」

「あ、うん……」

 ちょっと申し訳なさそうに言う。

 埼玉県の西半分は山が連なっている。そういうことには疎いわたしでも知ってる身延山とか秩父山とか。たみ子の話しじゃ、百を超える峰々や山々にはそれぞれ神さまが居て、その多くは神社によって祀られ、社家と呼ばれる神職の家系が守ってきた。

 たみ子のお母さんは、そういう社家の娘で、娘時代には巫女を務めていたそうだ。
 たみ子も、その血を受け継いでいるので、例大祭や年末年始に巫女が足りない時には手伝っているらしい。

「インフルエンザが流行っちゃって、巫女をする子が足りなくてね……」

 そう、それで急きょわたしに電話をかけて来たんだ。

「わたしは、巫女の衣装来て座ってりゃいいんだよね?」

「あ、少しだけ立ったり座ったり。でも、大したこと無いから(^_^;)」

「そうか、それくらいならどんと来いよ!」

 こないだのバイトじゃ、関西弁のオッサンとか、目の回りそうなベルトコンベアに苦労したけど、今度は巫女さんのコスプレだ。三食付いてギャラも出る。ちょっと寒いかもだけど、まあ、何とかなるさ。

 プップー

 駅の外でクラクションがして、たみ子も立ち上がって駆けていく。

「早く着いちゃってぇ、電話しようかと思ったんだけど、もう出てるだろうと思って」

「ああ、秋にダイヤ改正になったからね」

「あ、こちら、手伝ってくれる時司巡」

「時司巡です、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。たみ子の伯父の武藤頼政です。今回は無理なお願いして申し訳ない」

「いえいえ、こちらこそ、貴重な経験をさせていただいて喜んでます」

「そう言ってもらえると、少し、こっちも気が楽になるなあ。あ、外は寒いから車の中で待ってて」

「え、伯父さんは?」

「ああ、あ、来た来たぁ」

 ちょうど次の下りの列車が入ってきていて、チラホラとお客が降りてくる。

「おーーい、こっちこっち!」

 頼政さんが手を振って、大股で駅舎を出てきたのは、委員長の高峰君だった!

 そうか、思い出した……たみ子と高峰君は従兄妹同士だったんだ(^_^;)!

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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