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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・192『サモワールに蛇口が付いて……』

2025-03-20 12:05:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
192『サモワールに蛇口が付いて……』   




「おお、ピッタリだ!」

「「「おお!」」」

 春分の日、手に入れた蛇口を持ってナースチャと灯台にお邪魔している。ロコにも声をかけたんだけど、なにかの資格を取るために東京に行くということでパス。

 さっそく勲さんがとりつけてみるとピッタリ! 思わずみんなで拍手!

 パチパチパチパチパチパチ

「じゃあ、さっそくお湯を沸かしてお茶にしましょう!」

 奥さんの恵さんが宣言、わたしたちはおやつを待つ幼稚園児みたいに行儀よくテーブルに着く。

「じゃあ、ボクは灯台に上がってるから、お茶ができたら呼んでくれ」

 勲さんは、制服の帽子をかぶると灯台の方に行ってしまう。勲さんが開けたわずかの間に春風がキッチンに忍び寄る。

 ここに来るまでも春風に吹かれまくってはいる。すでに『し』の字の底を曲がった時に潮の香りと共に圧倒的な海と春を感じている。
 だけど、官舎に入って、それが遮断され、少し暖房された室内の空気に馴染んでしまうと、ドアの開け閉めで侵入してくる空気に改めて驚く。

 それは、なんだか思いがけず闖入してきた春の妖精たちみたいで、ナースチャと二人、思わずドアのガラス窓に目をやってしまう。

 あ、石見さんだ。

 二人が気づくと、ビシッと敬礼する石見さん。

 ひょっとして……と思うと恵さんはサモワールにケトルの水を灌ぐ姿勢で停まっている。

 時間が停まったんだ。

――お湯が沸くまで海に出て見ませんか、サモワールは時間がかかりますから――

 時間が停まったキッチンに居ても仕方が無いので、勧められるまま海岸に降りて、こないだの内火艇に乗り込む。

「あ、でもアリヨール、時間が停まってるんなら、お湯は永遠に沸かないんじゃないの?」

「大丈夫です、ゆっくりですが時間は動いています。完全に停まってしまうと、海の水が固まって船が動かなくなります」

「あ、そうなんだ」

 仕組みは分からないけど問題は無さそう。ナースチャは苦労の末にロシアを脱出してきたのでいろいろ気に掛けるんだ。

「少し揺れるわねえ」

 こないだは、横須賀から大浜まで三浦半島を回り込むだけだったけど、このまま太平洋に進んでいくんだと思うと、少し辛いかも。

「大丈夫です。今日は石見に乗っていただきます」

「「え?」」

 言われて振り返ると、いつのまにか灯台は小さくなって、距離的には石見が浮かんできたあたりまで来ている。

 ええと……ナースチャといっしょにキョロキョロしていると、三時の方向っていうのかなあ、右の方にボンヤリシルエットが浮かんだと思ったら、見る見る姿がハッキリして来て、小山のような二本煙突の戦艦石見が迫ってきた。

「「おおお……」」

 内火艇は石見のお尻の方でグリっと曲がって舳先を石見に揃えて、ゆっくりと速度を落として、石見の横っ腹に下ろされたタラップに付けて行く。

 ナースチャに続いて甲板に上がるとペコさんが水兵のセーラー服で立っている。

「アハハ、いちおうガードなんで(^_^;)」

 少し照れて敬礼。ほかにも水兵たちが立ち働いているんだけど、レトロゲームのNPCみたいに半透明のシルエットになっている。

「慣れるまではあまり横を見ない方がいいです。酔ってしまいますから……と、石見さんが言っていました」

 わたしたちを艦首と自分の間に置いて話すペコさん。たぶん、ペコさんも船には弱いんだろうね。

 内火艇ではうねりを感じた海も、石見の甲板に立ってみると普通の海だ。

「立つ場所によって感じ方が変わってくるものなのねえ……」

 ナースチャが哲学的な感想を漏らし、ペコさんが小さく頷く。

 船の横っちょをイルカか何かがいっしょに泳ぐ気配……でも、酔っちゃいけないので、じっと前の海を見る。

 あれ?

 相模湾を西に向かって進んでいるんだから見えるはずの……伊豆半島が見えてこない。

『今から時間を凝縮してスペクタルをごらんにいれます。上の方に上空からのホログラムも出しますので、合わせてご覧ください』

 舳先の旗竿の上に相模湾と駿河湾を中心とする地図が現れる。

「え、伊豆半島が薄い……」

 地理が苦手なわたしでも分かる。相模湾と駿河湾がくっついて地図に締まりがない……いや、箱根山も富士山も無い。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!

 すごい音がしたかと思うと、左の方から巨大な島がやってきて石見の前を横切っていく。

「ねえ、地図を見て!」

 肩を叩かれてビックリした。巨大な島はズンズン進んでいき、ついには陸に衝突。衝突してもしばらくは陸地をグリグリ押して、陸地にしわが寄って火山が二つ噴き出した。

 え、ひょっとして箱根山と富士山!?

 衝突のショックは大波となって石見に襲い掛かるが、USJかなにかのアトラクションみたいに船の揺れは小さい。。

『伊豆半島は、元々はフィリピンのあたりにあった島なんです。それが、数百万年の時間をかけて北上して日本に衝突して、今の伊豆半島に成りました。その時の圧力で持ち上がり火を噴いたのが箱根山と富士山というわけです』

 正面を見ると、伊豆半島の付け根の向こうで噴火のエフェクト。波は小刻みになって静まり、船はゆっくり伊豆半島に沿うように曲がって灯台のある岬に戻っていった。

 官舎に戻ると、キッチンにはわたしとナースチャのホログラムが座っていてビックリしたけど――重なるように座ってください――と文字が浮かび、その通りに座ると元通りに時間が流れだした。

「はい、お湯も沸いたことだし、みんなでお茶にしましょう! 勲さ~~ん!」

 ドアを開けてご主人を呼ばわる恵さんの声が空気を潤わせて、いよいよ春も本番の春分の日だった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ  戦艦石見(アリヨール)     
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・191『どぶ板通りで蛇口をゲット』

2025-03-17 16:16:39 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
191『どぶ板通りで蛇口をゲット』   




「それならどぶ板通りにあるかもしれません」


 ロコの一言で電車に乗って、三人で横須賀の街にやってきた。

「ええと……左手が臨海公園だから、この前の16号線を600mほど行って右側、どぶ板通りに出るはずです」

「活気のある街ね、ワクワクするわ(^▽^)」

 ロシアのお姫さまは遠足に来た小学生みたいにときめいている。

 日本で言えば中学三年生の15歳の年に革命が起こって、17歳でこっちに来るまで家族ともども幽閉生活。社交界デビューもしていなかったナースチャはサンクトペテルブルクの宮殿とその周辺のことしか知らない。まして、ここは1972年の日本、見るもの聞くもの全てが面白いんだ。

「水兵さんが居るわねぇ、軍港とかが近いの?」

「アメリカの第七艦隊の基地と司令部がありますからねえ、臨海公園の向こう側です。手前の方は海上自衛隊の横須賀基地でぇ……」

「カイジョウジエイタイ?」

「あ、えと……ジャパニーズ・ネイバルディフェンスホース」

「Что это такое? (シュトーエタタコエ?)」

「え?」

「あ、ごめん、なにそれ?」

「……ああ……ジャパンネイビー!」

「ああ、日本の海軍ね。でも、なんで日本とアメリカの海軍が同居してるの?」

「ええと、日米安全保障条約というのがあって、アメリカは日本を護ることになっていてぇ……」

「条約があるからって、外国の基地があるっておかしくない?」

 確かに、公園の向こうに見えるのは横須賀港。手前が自衛隊、横須賀湾を挟んでアメリカ第七艦隊。自衛隊は小さな護衛艦がチラホラ、第七艦隊は航空母艦(ミッドウェーというらしい)と、それ以外にも大きな軍艦がいっぱいいて女子高生の目から見ても、道を挟んで大きなファミレスとキッチンカーの屋台が向き合っているみたいに見えてしまう。

「ロシアとドイツは仲がよかったけど、それでもドイツの海軍がクロンシュタットに基地を持つなんてあり得ないわ」

「クロンシュ……?」

 ロコは分かったみたいだけど、地理のダメなわたしは意味不。

「ペテルブルグの軍港ですよ。位置的には東京と横須賀の関係ですねえ」

 さすがはロコ。

 もし10円男が一緒に居たら、この問題に関しては息が合っただろうね。

 水兵たちの視線が気になる。やっぱ、ロシア美人のナースチャは目立つからね。「目を合わせちゃダメよ」と注意すると「あ、グッチの方こそ」と返される。「ええ、なんで?」「え、グッチ自覚ないのぉ?」。二人で言い合ってると、道の向こうの水兵がシャッターを切ってるし。

 カシャカシャカシャ

 ロコもシャッターを切って、数秒間道の向こうとこっちで写真を撮り合って……水兵たちは全員、こっちはロコが代表して笑顔。で、友好的にすれ違う。まあ、やっと午前10時を回ったところ。こんな時間から酔っぱらっている水兵も居ないだろう。

 すれ違いながらも笑顔でサムズアップできるのはロコの才能だろうね。これで、仲間内の話になると微妙に無口になるから人というのは面白い。

「あ、こっちがどぶ板ですよ!」

 EMクラブという米軍水兵たちの娯楽施設が目印だったみたいで、建物を回り込むようにして商店街に進む。

「横文字ばっかりねえ」

 米軍の街とは思っていたけど、これほど横文字だらけとは思わなかった。値札も円表記とドル表記、円以外にもドルが使えるんだろうね。

 ショットバーって言うんだろうか、小さな飲み屋さんやらハンバーガーやらホットドッグ、そういうお店からいい匂い。三人ともヨダレが出そうになるんだけど、目的を果たすまで道草は出来ない。

「ジーパンやらスタジャンの店が多いね」

「ですね。でも、スタジャンじゃないですよ」

「え、スタジアムジャンパーだからスタジャンじゃないの?」

「これはね、ヨコスカジャンパーの略だからスカジャンなんです」

「なるほどぉ」

「どうちがうの?」

 ナースチャは簡単に納得しないで理由まで究明する。

「無地のスタジャンを仕入れて、背中とかに和風の刺繡をするんです。ね、竜とか浮世絵風の刺繍がしてあるでしょ。米兵のお土産用なんですけど、このごろは日本人にも人気なんですよ」

「「なるほどぉ」」

 MITAKAの仲間でオソロのスカジャン……派手すぎる、却下(^_^;)。

 米軍の払い下げ品のお店は日本人のお客も居るみたいで日本語の値札やポップが付いている。でも、店先やレジとかに立ってる店員さんは、年齢や性別にかかわらずサンフランシスコ(行ったこと無いけど)の日系人みたいな感じがして、ちょっと海外旅行に来たみたいでおもしろい。

「あ、原子力潜水艦ですよ!」

 お店の前にデンと原潜のモニュメント、他にも飛行機のプロペラやジープのフロントグリルとかのオブジェや、インディアンが立っている店もある。

「ええと……ああ、ここです!」

『YKOSUKA ANTIQUE』と文字だけは横文字の和風看板の店に入る。

「ご無沙汰してます、オジサン(^_^)」

「おお、ロコちゃんじゃないか、二年ぶりかなあ」

「そうですね、高校に入った春以来かなあ」

「おお、まだうちで買ったカメラ使ってるんだ」

「はい、調子いいですよ。写真撮っていてもあまり目立たなくて、重宝してます」

「ちゃんと、ジャンボジェットは撮れたのかなあ?」

「はい、ちょうど合格発表の時に空を飛んでたんで、バッチリ撮れました。後で羽田空港にも行きましたし!」

「そう、それは良かった」

「あ、ところで例のものは?」

「あ、そうそう……これで間に合うと思うよ」

 店主のおじさんは、カウンターの下から真鍮製の小振りな蛇口を出した。

「19世紀後半のロシア製、たぶん合うよ。もし合わなかったら引き取るから安心して試すといいよ」

「スパシーボ! ありがとうございます!」

「ほお、ロシアの方ですかぁ」

「はい、知り合いの方のサモワール、アンティークでお買いになったんですけど蛇口が無くて、探していたんです」

「よかった、おそらく間に合いますよ(^▽^)」

 そう、灯台のサモワールの蛇口を探しに来たんだ。

 ロコが「それならどぶ板通りにあるかもしれません」と言って、三人で横須賀までやってきたんだ。まあ、間に合わなくても春休みの思い出に横須賀見物というノリでね。お代もスクラップだからと500円に負けてもらった。

 それから、さっきヨダレを垂らしかけたハンバーガー屋でお昼を食べて、ゆっくり散歩しながら駅に戻ると、ちょっと大変なことになっていた。

 逗子の手前で列車事故!

 復旧の目途が立たないと横須賀駅の時刻表に張り出しが出ている。

 振替のバスを手配しているというアナウンスだったけど、早くても夕方になるとか。

 どうしようかと焦っているとスマホのバイブ。

 ロコに見破られないようにこっそり出ると『石見です』と、いっしゅん分からない。

『アリヨールの石見です』

「あ、ああ!?」

『臨海公園まで戻ってください、お迎えに行きます』

「お迎えって、戦艦でこられたら目立っちゃうよ! ロコもいるし……」

『だいじょうぶです、では15分後に』

「え、あ、ちょ……」

 
 15分後、百年前の戦艦が現われたらどうしようかと心配していたら。やってきたのは、戦艦に積んでいる内火艇という遊覧船みたいなボート。

「ご心配なく、このまま大浜の港まで行きます」

 舳先には『大浜観光』の旗が付いていて、石見さんも上着を脱いだ白シャツだっただった。ロコにもナースチャにも怪しまれ……不思議がられずに帰ることができた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ  戦艦石見(アリヨール)     
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・190『戦艦石見として現れたアリヨール』

2025-03-14 10:09:54 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
190『戦艦石見として現れたアリヨール』   




 ――もどれ!――

 そう念じたら、浮上してきたのと同じくらいの時間でアリヨールは沈んでいった。

 ――よかったぁ(;'∀')――

 いやぁ令和でなくてよかったぁ……21世紀の令和だったらさ、ほんの何十秒でもアリヨールが浮かんでいたら絶対写真や動画に撮られてしまう。スマホか、どこかの監視カメラ。そんで、あっという間にSNSに投稿されてしまうよ。そんで、どこかのAIが『100年前に沈んだロシア戦艦アリヨールの水没海域と一致、幽霊船かも!?』といらん分析をする。

「たのもしい……」

 再び沈んでいくアリヨールを見ながらナースチャは呟いた。

 アリヨールが頼もしいのか、わたしのいらん能力を思ったのか……でも、さすがはロシアの皇女、そこは突き詰めないで灯台を下りて「素敵な海だったわ」と感想を述べるだけにしてくれた。

 
 でもね、昭和の科学技術も侮れなくて、海上保安庁やら自衛隊やら近くを通っていた船のレーダーにはバッチリ映ってしまった。

 まあ、半世紀も前のレーダーだから確実なところまでは分からなくって、波が反射したゴーストとかクジラだとかの見当はずれの分析。自衛隊はソ連の潜水艦の可能性ありと、米軍といっしょに三日経っても探してる。まあ、横須賀が目と鼻の先だからね。


 夕べ、夢に少女が現れた。


 ナースチャみたいなロシア少女なんだけど、横須賀の東郷さんみたいな詰襟の軍服で、雰囲気は日本人。それがドアのところで敬礼している。

「だれ……?」

 わたしの周囲には安倍晴天とか須世理姫とか妖やら神さまだとかがいるんで、少々のことでは驚かない。お祖母ちゃんも化けそうな魔法少女だしね。自分もそうだけど。

「自分は、大日本帝国海軍戦艦石見であります」

「え、大日本帝国……?」

「はい、前身はロシア帝国海軍のアリヨールですので、こういう顔をしておりますが、れっきとした日本の戦艦であります」

「あ、アリヨールさん!?」

「はい」

 そうか、灯台の勲さんが言ってた『日露戦争で鹵獲されて日本の海軍に編入された』って。

「その石見さんが、なにか御用なのかしら?」

「はい、取り急ぎお礼を申し上げたく参上いたしました」

「お、お礼?」

 アリヨール……石見さんは、小さく深呼吸して話を続けた。

「はい、遠目にロシア皇帝第四皇女のアナスタシア殿下が居られるのを目にいたしました。ほんの数瞬でありましたが、百余年を越してお姿を拝見し、胸に迫るものがありました」

「あ、そうなんだ」

「もとより自分は帝国海軍の戦艦でありますが、旧主の姫君をわずかでもお慰めできたことは、この石見の誉れであり慰めでありました。その機会を与えてくださった巡さんには感謝の言葉もありません」

「いえ、ごめんなさい。せっかく海の底で眠っていらっしゃったのに起こしてしまって……」

 石見は標的艦となってボコボコにされて沈んで、数秒海面に現れた姿は無残なものだった。エジプトのミイラとかだったら、きっと祟られてるよ。

「いえ、巡さんの魔力を被り石見は覚醒いたしました。この先は、巡さんを艦長と仰ぎ、アナスタシア殿下をお助けできればと存じます。取り急ぎ、その覚悟とお礼を申したく参りました。それでは失礼いたします」

 ビシ!

 音がしそうなくらいの敬礼を決めると、数秒で姿がぼやけて消えてしまった。

 あ……石見さんも緊張していたんだろうか、ドアが開けっ放し。

 閉めようと立ち上がると、おトイレに行きたくなって、用を足してベッドに潜り込むと、自分でもドアを閉め忘れる。

 もういいや……で、朝の九時まで寝てしまった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ  戦艦石見(アリヨール)     
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・189『岬の灯台でアリヨールを偲ぶ』

2025-03-11 14:24:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
189『岬の灯台でアリヨールを偲ぶ』   




『し』の字の宮之森線の脇ををなぞるように南に下ると『し』の字の底を曲がったあたりから灯台の先っぽが見えてくる。

 うわぁ……

 狙い通りにナースチャが感動の声をあげてくれる、ちょっと嬉しい。


 学年末試験も終わって、ナースチャと二人、自転車で岬の灯台を目指している。

 例の結婚式も無事に終わった。カセドラルで式を挙げ、インペリアルホテルでド派手な披露宴。写真も撮りまくったけど何事も無く済んで、もう少し行動半径を広げてもいいだろうと思ったんだ。

 チリリリリリリリリ……

 車とか電車では分からなかったけど『し』の字の角を曲がったところからは緩い下りになってペダルを漕がなくても自転車は進む。微妙に潮気を含んだ風が頬を撫でて、とっても雰囲気だ。

「アハハ、魔法少女になったみたい~~(^▽^)」

 ペダルから放した足をピンと突っ張らかし、プラチナブロンドの髪を靡かせるナースチャはもう反則ってくらい可愛い。ロコがいたら「エメロンシャンプーのCMですねえ!」とか言いそう。

 
「うわぁ……印象派の風景画だわぁ……」


 灯台のゲートで立ち止まるもんだから少し追い越してしまって、自転車ごと振り返るとアニメの主人公みたく感動の皇女殿下。

「まるでモネ……」

「モネ?」

「モネよ、光の芸術家、印象派の……」

「ああ、印象派ぁ……」

 名前は知ってるけど、なんだったっけ?

 こっそりMSスマホに聞いてみると見覚えのある絵が次々に出てくる。

 ああ、モネとかマネとかゴッホとか……うう……知らんのもいっぱい……

「あら、スマホ?」

「え( ◎Д◎)!!?」

 口から心臓が飛び出しそうになる! いつの間にかナースチャが覗いてる!  昭和にスマホなんて無いし、ナースチャはそもそも1910年代のロシア皇女だよ!

「あ、ペコさんやタキさん持ってるから……だいじょうぶ、この時代の人には言わないから(^_^;)」

「あ、ああ、よろしくお願い(;'∀')」


 ――あらあ、グッチじゃないのぉ!


 官舎の窓から恵さん(灯台守の奥さん)が手を振ってくれて、こっちも手を振って自転車を押して走る。

「お久しぶりです、あ、こちらクラスメートのアナスタシアです。灯台守の奥さんの恵さんだよ」

「アナスタシアです。ナースチャと呼んでください」

「まあ、日本語お上手、ソ連の人なの?」

「え……あ、はい。家の事情でしばらく日本でお世話になっています」

「そうなのぉ、あ、ちょうど手が空いたところだから、さ、入って、お茶でも入れるわ」

「え、あ、すみません(^_^;)」

 実は前もってタキさんに話したら『11日の午前にせえ』と言われていた。ひょっとしたら、段取りを組んでもらってたのかも。

「やあ、いらっしゃい」

 中に入ると、ちょうど灯台から下りて来た勲さんが横っちょのドアから入って来て四人でお茶。

「あら、サモワール!?」

「あ、さすがはソ連の人だ、一発で分かるんだね」

「横須賀の古道具屋さんで一目ぼれして買って来ちゃったのよ、たった二人の所帯にナンセンスだって言ったんだけどね」

「いつまでも二人じゃないかもしれないじゃないか」

 ああ……恵さんは去年流産してる……勲さんは、こんな形で恵さんを励ましてるんだ(^_^)。

「サモワールってなんですか?」

 旦那さんの気持ちは分かっても、二段重ねの優勝カップって感じのが分からない、キッチンには微妙にそぐわない気がする。

「湯沸かし器のことよ。ロシアの家にはたいていあるものなのよ」

 ナースチャが、ちょっと誇らしげに指を立てる。

「でも、蛇口がありませんねえ」

「アハハ、だから格安で。こんど、これに合う蛇口を探そうと思ってるんだ」

「規格がね日本のとは違うからねえ、要はポンコツなんだけどね」

「ポンコツはひどいよ、恵さ~ん(^▭^;)」

 アハハハハハハ

 ごっついガタイでしょげる勲さんが可愛くて、女子三人で笑ってしまう。

「ナースチャはロシアのどこなの?」

「サンクトペテ……レニングラードです」

「あ、ああ……って、どのあたり(^_^;)?」

「ああ、このあたりだよ」

 広告の裏側にちゃちゃっと地図を描く勲さん。社会科の先生よりもうまいよ(^▭^;)

 それから、学校のことや直美さんのことを喋って盛り上がって、お茶のお代わりをしながら勲さんがネタを振ってくれる。

「この南の沖にロシアの船が沈んでるんだ」

「ロシアの船がですか?」

「うん、オリヨールって戦艦。日露戦争で鹵獲されて日本の海軍に編入されたんだけど、大正時代に標的艦にされて沈められたんだ」

「オリヨール……双頭の鷲、ロシアの紋章ですね」

「房総半島が霞んで見えるから、そういうのを偲びながら眺めて見ると雰囲気かもしれないよ」

「そうね、お天気もいいし、よかったら灯台に上ってみる?」

「え!」「いいんですか!?」


 お言葉に甘えて灯台に上る。


「おお……」「うわぁ……」

 日ロそろって感嘆の声。

「ひねもすノタリノタリだねえ……」

「むつかしい表現知ってるねえ!」

 ナースチャの日本語は飛躍的に進歩してる!

「タキさんに教えてもらった、ヨサノブソン」

「そうなんだぁ……ヒネたモス……なんだろうねえ?」

 ヒネたモスラがのたくら泳いでるのが頭に浮かんだ。

「日がな一日って意味らしいわよ、オールデイロング、一日中」

「そ、そうなんだ(#^_^#)……あ、あっちに見えるのが大浜の港でね、横に伸びてるの軍艦防波堤って言って……」

 この前来た時の情報で精一杯背伸びをしてみる(123『軍艦突堤もしくは防波堤』)。

「そうなんだ……ちょっと寂しいけど、いいお話ね……旦那さんがおっしゃってたアリヨールはどのあたりかなあ……」

 ナースチャ、自分の身の上をアリヨールに重ねてるんだ……。

「うん、えと……こっちの方角!」

 ちょっと閃くものがあって、自分でも驚くほどのきっぱりした声が出た。

「こっち……」

 ふたりで、そのあたりの海を眺めていると、まるでゴジラが浮上して来たみたいに海が湧いて盛り上がってきた。

 ザザザザザ~~~~~

「「ええ!?」」

 なんと、百年も前に沈んだアリヨールが浮上してきた!

 え? ええ!?

 ひょっとして、わたし、またやっちゃった!?

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・188『大浜カセドラル』

2025-03-07 16:12:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
188『大浜カセドラル』   




 結婚式は大浜カセドラル。

 カセドラルと大浜市では呼ぶけど、ナースチャはカテドラルと発音する。

「フランス語では、そう発音するんだよ」

「え、ロシア人がなんでフランス語?」

「ロシアの宮廷はフランス語なんだよ」

「え、そうなの?」

 理由を聞こうと思ったら、ちょうどカセドラルの前に直美さんのホンダZがやってきた。Zは機材を積むと二人しか載れない。ナースチャを一人にしておくこともNGなので、ナースチャと二人電車で来たんだ。

「初めて来たけど立派だねえ……」

 機材を運び入れながら感動する直美さん。

 今日の直美さんはフォーマルなドレスだ。わたしとナースチャは制服。

 格式高い結婚式なんで、ドレスコードがきついんだって。

 制服はいいよぉ、高校生のフォーマルは制服。

 結婚式からお葬式までこれで間に合う。万が一天皇陛下の園遊会とかに呼ばれても制服で間に合う。高校生の万能兵器だ。三年前の学園紛争では制服の廃止もスローガンだったと十円男は言ってた。廃止にしなくて正解。廃止になっていたら、制服に惚れ込んだわたしは時空を超えてまで昭和の宮之森高には来なかっただろうしね。今日のこのバイトだって来れないとこだったよ。

 おお~~~!

 わたしと直美さんは遠慮なく感嘆の声を、ナースチャは軽く「わぁ」と驚く。

 外側も立派だったけど、中の荘厳さというか美しさというか立派さというかはひと際だよ。

「さすがは大浜カセドラルだねえ……」

 感動しながらも、直美さんは弟子教育をしてくれる。

「新郎のひいお爺さんが実業家でね、明治何年だかにフランスから司祭さんを呼んだんだけどね、司教の肩書だったんで、それにふさわしい教会を建てたのがこれなんだって。あんまり立派なんで、完成したのはその司教さんがフランスに帰った後なんだけどね」

「「へえ……」」

「じゃあ、なんでカテドラルと発音しないんですか?」

 ナースチャのチェックが入る。

「そのあとはアメリカの神父さんだったからね、いまは日本人の司教さん」

「「なるほどぉ……」」


 式の参列者は300人。この300人全員の記念写真を撮る。笹山さんのお弟子も来ていて、同時に三組を撮影する。

 そりゃあ、天下の笹山写真だって撮りきれるものじゃない。フォトコンテストでも良い成績を残し、本業が結婚式場とかの記念写真の真由美さんに白羽の矢が立ったというわけ。

「君たちも撮ってあげよう」

 先にノルマを撮り終えた直美さんがオイデオイデする。

 ちょっとためらった。

 だって、ナースチャはボルシェビキに付け狙われている。写真なんか撮って流出したら敵に――ここにいるぞ!――って知らせれやるようなものだから。

「いいからいいから」

 声がしたと思ったら直美さんの横でペコさんが手を振っている。

「かえって抑止効果があるんだよ」

 どうして? 

 ちょっと疑問だったけど、流れと勢いに弱いのでそのままナースチャを真ん中に三人で撮ってもらった。

 新郎新婦は結婚の誓いの後、祝福されながら退出してインペリアルホテルに行っている。公民館の結婚式でも、式場と披露宴会場は別だもんね。

 わたしたちの仕事は機材の移動とセッティングの手伝い。

 それと、カメラを一つづつ持って披露宴会場のあちこちで写真を撮ること。

 後日、参列者全員に卒アルみたいにして写真集を送るらしい。その中身がプロの写真ばかりだとつまらないので、わたしたちが撮ったスナップ写真みたいなのも散りばめるみたい。
 卒アルって、昭和のこの時代でも5千円くらいはする。それを300人分。おまけに笹山さんなんて人気の写真家まで呼んで、写真だけで並の結婚式が何回もできてしまう。さすがは地元の名士、現職大臣!

 あとで試し焼きを見せてもらってビックリした。

 ナースチャが写った写真の多くにタキさんが写り込んでいる。

 全然気づかなかった。

 ちゃんとタキシードを着て、髪もいつものチョンマゲじゃなくて、普通のオールバック。

 ひょっとしたら、ナースチャの最強のガードはタキさんなのかもしれない。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
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  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
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  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・187『タキさんがご馳走してくれる』

2025-03-04 10:06:39 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
187『タキさんがご馳走してくれる』   




 え、結婚式!?


 ナースチャの目が輝いた。

 直美さんからこの春のバイトの打診があって、手帳を見ながら予定を組んでいると、ナースチャが首を突っ込んできたんだ。
 元々は、この春休み、ナースチャを遊びに連れて行ってあげたくて、ナースチャの前でインタフェイスを見ているところ。

 あ、今日は学校が明けてから志忠屋に来ている。

 ナースチャも落ち着いてきたんで、マスターのタキさんがアイドルタイム(お店の休憩時間)にちょっとしたご馳走をしてくれているんだ。

 海幸山幸のパスタ ビーフシチュウの小 サラダ ショートケーキ

 ランチメニューにプラスαって感じで、そんなにご馳走めいてないところもいい。

 ナースチャの様子を見るのには、わたしとナースチャをいっしょがいいと思ったんだ。大人の判断だね(^_^)。

 タキさんは、カウンターの端っこで伝票の整理をして、ペコさんはカウンターで本を読んでいる。

 そうそう結婚式。

 入学以来、須之内写真館でバイトをやっている。

 主に直美さんの出張撮影の助手。その出張撮影のほとんどが希望が丘第一公民館の結婚式。

 二年近くやって、バイトのわたしでも結構慣れてきた。

 おや?

 手帳のメモからMJ(魔法少女)スマホに転記していると『結婚式撮影 大浜インペリアルホテル』というのが目についた。

「インペリアルって、皇室関係のホテル?」

「あ、名前だけだよ。日本は、ふつうにインペリアルって名乗れるからね」

「せやけど、〇〇県では一番格式がある、東京の本店はセレブ御用達やぞぉ」

 タキさんがニヤニヤしながら付け加える。

「……ちょっと直美さんに聞いてみる(^_^;)」

 ちょっとビビって直美さんに電話する。

『ああ、こんどはわたしも助手なのよ』

「ええ、直美さんが助手!?」

『うん、大臣の息子の結婚式でね、元請けは笹山写真』

「笹山写真!?」

『そう、週刊毎朝の表紙撮ってる』

 笹山写真は令和の時代でもチョー有名な大御所写真家、昭和の1972年では新進気鋭の天才写真家だ。写真という当て込んだような名前も本名だというんだからすごいよ!

『いろんな感覚で写真を写したいってことで白羽の矢が立ったんだけどね、グッチの話ししたら、直美の助手なら是非にって』

「ええ!?」

 それから二言三言話して、目の前で目をキラキラさせているナースチャもついでにと話したら、あっさりOK。むろんタキさんが首を縦に振るのを確認したけどね。

「まあ、大浜ぐらいまでやったら大丈夫やろ」

「でも、結界は学校だけでしょ?」

「かめへんやろ、ペコも付いていくやろし」

 ブーーー( ≧Σ≦)!

 ペコさんが派手にむせかえって、ナースチャが無邪気に笑う。


 アイドルタイムいっぱいゆっくりさせてもらって店を出ようとしたら――ありがとうな――タキさんはわたしにだけ聞こえる声でお礼を言った。

 
 
☆彡 主な登場人物
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・186『あさま山荘事件』

2025-03-01 15:05:23 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
186『あさま山荘事件』   




 昨日、2月28日は授業にならなかった。


 むろん、先生は教室に来て出席をとり、いつものように黒板に板書して説明し、生徒は習慣的にそれをノートに写すんだけど、ぜんぜん頭に入っていない。

 昨日は、あさま山荘事件が終結を迎えた。

 日本赤軍が長野県のあさま山荘に人質を取って立てこもって10日目。警察は決心して突撃を開始したんだ。

 朝の6時前に作戦は始まったんだけど、赤軍の防備は固いし、人質の女性に危害が加えられるのは絶対避けなきゃならない。日本の警察は辛い、こんな状況になっても犯人を撃ち殺せず、10日もたってしまったんだ。

 ウ……また撃たれた。

 十円男が小さく叫んだ、みんなの目が十円男に集まる。先生も板書の手を止めて十円男を見る。十円男の加藤高明は、トランジスタラジオで実況を聞いていたんだ。

 最初こそ先生は注意したけど、機動隊の隊長さんが撃たれた時にはしばらく授業は停まってしまった。「助からないかもしれない……」と10円男の呟きが続く。

 10円男は卒業した三年生や、その上の学年といっしょに校内で宮帝連(宮之森反戦反帝連盟)とか作って、いっちょまえにヘルメットにゲバ棒とかやっていた。留年してからは徐々にマシになって、近ごろじゃほとんど普通の生徒になっていたんだけどね。

 でも、今度のあさま山荘事件では、その消し炭に火が点いた感じ。

 令和少女のわたしには、21世紀でもたびたび起こるテロ事件といっしょなんだけど、1972年の昭和では微妙に違う――やつらの言うことも少しは分かるるかなあ――って空気がある。いや、あった。

 でも、内ゲバで仲間を殺したり、人質を取って立てこもると世間の大方は――これはあかん――に変わってきた。それでも、この十日、警察はライフルを持ち込み狙撃部隊まで動員させておきながら突撃も銃撃もためらってきた。

 おととし、よど号事件の時には『人命は地球よりも重い』と意味不なことを言ってテロリストの要求を全部のんじゃうし(013『よど号と須之内写真館』)、瀬戸内シージャック事件では命令に従って犯人を射殺した警察官をマスコミが叩いて退職にまで追い込んでしまった。

 そして、今度のあさま山荘事件でも、警察は無理な攻撃や突撃を避けて10日も待った。

 そして、人質の体力とか犯人たちの精神的限界とか世論の動向とかを考慮して、これが限界と早朝から突撃体制をとっている。

 その気が満ちてきたのが、この四時間目なんだ。

 まただ……!

 四人目が撃たれた時には、先生も板書するのを止めた。

 そのあと、昼休と放課後は演劇部の部室で中継を見た。小道具の古テレビに室内アンテナを付けたらNHKだけは映るんだ。
 職員室とかでも先生たちが観てるみたいで、いつもなら静まっているあちこちの準備室や教官室に明かりが点いている。

 6時過ぎ、やっと犯人たちは捕まってマスコミや野次馬たちが罵声を浴びせる中、機動隊のバスに乗せられていった。

 この日だけで、10人以上が撃たれ、四人亡くなり、三人が失明、四人が聴覚障害を負った。

 Япония миролюбива. ......

 ナースチャが呟いて、ちょっとドキッとした。

 だって「日本は平和なんだね……」って意味だからね。

「さっきのどういう意味?」

 昇降口で靴を履きながら聞いてみた。

「え、なに?」

「え、自覚ないの?」

「Мне очень жаль、あ、ごめん」

「日本は平和なんだね……って」

「あ、ああ、あんなのしょっちゅうだったし……ロシアだったら、人質なんて気にしないで皆殺しにしてる」

「アハハ……そうなんだ(^_^;)」

 わたしもユリアとかに命狙われてたから、少し考えればその通りだと思う。

「それと、なんだか日本中がハラハラして心配してるの……ちょっと不思議かもしれない……何といえばいいのか……日本人は善良でかわいい」

「あ、ああ」

「ヨコイサン、これで終わっちゃったね(^_^;)」

「あ?」

「グァム島の」

「ああ!」

 たしかに、あれだけ騒がれた横井軍曹の噂も報道もピタッと無くなってしまった。

 ナースチャと別れてからスマホで調べてみたら、あさま山荘事件の視聴率は90%、その日のうちの報道特別番組は51%で、令和7年現在この記録は破られていないらしい。


 
☆彡 主な登場人物
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  • 滝川                志忠屋のマスター
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・185『ロシア語で喋ってるし』

2025-02-25 09:51:02 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
185『ロシア語で喋ってるし』   




「ねえ、さっき呟いてたのって……」

 ナースチャの呟きが気になって、昇降口で聞いてみた。ナースチャのロッカーはわたしの二つ横なんだ。

「え?」

「Россия также начала с инцидента «Кровавое воскресенье»」

「ワォ」

「ん?」

「メグーリ、とてもいい発音!」

「え……Россия также начала……あれ?」

 じぶんでもビックリした、完ぺきなロシア語。でも、意味は分からない。

 はぐらかされたのかと思ったら、ちゃんと答えてくれた。

「ロシアも『血の日曜日事件』から始まった……という意味」

「ロシアでも?」

「うん、13年前……1905年に起こったひどい事件……」

「1905……日露戦争のころね」

「うん、戦争で物価が上がって、真冬だったし、食べ物とか仕事とかいろいろ苦しくてね。サンクトペテルブルクの労働者やおかみさんたちが神父様を先頭にお父さまにお願いの行進をしていて、警備に動員されていた兵隊たちが、鉄砲を撃ったの」

「え、行進してただけで?」

「うん、まだ四歳だったけど、はっきり覚えてる。宮殿の中でも銃声が聞こえて、泣き叫ぶ声もして、とても怖かった」

「そうなんだ、大勢犠牲者とか出たの?」

「うん、兵隊たちはしつこくって、何十分も銃声が鳴りやまなくて何千人も撃たれて死んだわ」

「そうなんだ……」

「お姉さんたちは、ボルシェビキに掴まった時『復讐される』って言ってて、その通りになった」

「あ、ああ……」

 わたしらには歴史だけど、ナースチャは自分の体験なんだ。

「日本では、こういうことは無いの?」

「あ、ええと……」

 乏しい知識を振り絞っていると、後ろからロコの声。

「ああ、間に合ったぁ!」

「ロコーシャ!(ナースチャはロシアチックに人を呼ぶ、わたしはメグーリだし)」

「あ、ごめん、後始末とか、まだあった?」

「いいえ、ストーブ消して会議室のカギを返しに行ったところです」

「よかったぁ、ナースチャ鈍いから、知らずにサボったのかと思いましたぁ(^_^;)」

「いいえ、職員室で、ついテレビ見てしまいまして」

「え、テレビ?」

「はい、あさま山荘で、また人が撃たれて、今度は機動隊の隊長さんです」

「あ……」

 そうだ、数日前から連合赤軍が人質を取って立てこもっているんだ。

 電気屋のショーウィンドウでチラ見する程度だったけど、よど号事件とか三島事件とか見てきたし、ちょっとスルーしてきた。

「もう、あんなやつら、もっと早く捕まえておくべきだったんですよ。銀行強盗とか銃砲店襲撃とかやってるんですから、さっさと撃ち殺しときゃよかったんです!」

「アハハ、ロコ過激だぁ(^_^;)」

「あ、ナースチャこっちだから、また明日ね」

「ああ」「また明日」

 商店街の手前でナースチャは道を曲がる。令和の時代ではタキさんが世話をしているらしいけど「メグリは知らん方がええ」と言って教えてくれない。今以上に関わってはわたしにまで危害が及ぶと心配してくれているんだろうけど、微妙に寂しい。

「ねえ、いつの間にロシア語マスターしたんですか?」

「え?」

「ナースチャとロシア語で喋ってたじゃないですか!」

「え、そうだった!?」

 うう……わたしの力は、さらに強まってきてるみたい。


 もうじき学年末テスト……そっちの能力も強まっているといいんだけど(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
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  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・184『本年度最後のMITAKA・2』

2025-02-21 11:58:05 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
184『本年度最後のMITAKA・2』   




 グァム島で発見された元日本兵の横井さんのスライドは三枚。スライドだから音は無くて、ロコがメモを見ながら解説してくれる。

「厚生大臣はじめ数百人が出迎え、数千人野次馬が押しかけて大変でしたけど『恥ずかしながら生きながらえて帰ってまいりました!』の言葉が印象的でした」

 横井さんは発見されてからテレビのニュースやワイドショーに取り上げられてるので、余計な解説は要らないんだけどロコは『恥ずかしながら生きながらえて帰ってまいりました!』に集約させた。

「戦争の犠牲者ねえ」「スター扱いはどうなんだろ」「痩せてるねえ……」「言葉が古いよねえ」「時が停まっていたんだ」「やっぱり車いすなんだなあ」「アナクロだ」「うちの親と同い年」「粛清されなかったのねぇ……」

 最後の感想はナースチャ。ロシアではこういう場合は脱走扱いで多くの場合は命がないみたい(^_^;) 

 二年後の1974年、ルバング島で発見された小野田さんは武器もちゃんと手入れしていて、身なりはボロボロだったけど一見して帝国軍人。発見されたきっかけも、現地警察との銃撃戦だった。横井さんも保護されて最初に見せたのはガタガタだったけど小銃だった。「兵器を持っている限りは帝国軍人だからねえ、持っていなきゃ脱走兵の扱いになる」とお祖母ちゃんは言っていた。

 クイーンエリザベス号は不採算でイギリスの船会社が手放し、香港の会社が洋上大学にするために買ったんだけど、火災で転覆。まさに沈みゆく大英帝国。

 札幌オリンピックは、一年生で見て来た子が居て、その子の話しで盛り上がる。やっぱり、現物を見て感激した子の話しは新鮮。

「ジャンプは昔は罪人の刑罰だったんですよ!」

 その子が付け加えると「ストック無しに斜面を滑走、たいていはそのまま滑落して死んじゃうんです(^・^;)」関根さんが付け加えて盛り上がる。

 銀座のマック一号店に食べに行った時にホコ天でカップヌードルを見かけた話をしたら、一年生の中にも行った子が居て、さっき菓子パンを食べたばかりなのに、みんな食べたそう。

「これがバングラディシュの国旗です」

 スクリーンにその国旗が映し出されて、大方の子は「え?」という顔になる。緑字に赤丸、日の丸にソックリ。

「パキスタンから独立したばかりで、日本にあやかって緑地の日の丸にして発展を願ってるらしいですよ」

 ホォーー

 大方は感心するんだけど、十円男と数名の男子はケシカランという顔をしている。

「軍隊が自国民に発砲しました」

 それは一月の末に起こったIR事件だ。公民権運動でデモをしていた北アイルランドの人たちにイギリス兵たちが無警告で発砲して大勢の犠牲者が出た。

「アイルランドって?」

 一年生が呟くと、ロコはすかさず、イギリスの地図のスライドを映した。

「ブリテン島の横でジャンプしてるモコモコの子犬みたいな島です。子犬の頭のところが北アイルランドでイギリス領なんです」

「「「へえ……そこ、イギリスじゃなかったんだ」」」

 地理に疎い一年女子は地図に驚くけど、二年の何人かは軍隊が自国民に発砲したことに眉をひそめている。

「日本も60年安保の時は自衛隊に治安出動命令が出る寸前でしたからねえ」

「ああ、樺美智子さん踏み殺されたんだよね」

「ええと……これですね」

 スライドが切り替わると60年安保の国会突入……こんなのまで入ってるんだ(^_^;) 

「アイルランドのは日曜日に起こったんでブラッディ―サンデーなんて呼ばれてます」

「Россия также начала с инцидента «Кровавое воскресенье»」

 ナースチャが呟く。ロシア語だし、ちょっとこわばった声なんで――え?――って感じなんだけど、ロコがすぐに次のスライドに切り替える。

「こないだまで360円だったんですけどねぇ……」

 1ドル308円……今朝の令和は150円だったよ。

 なんだか箇条書きっぽくなったけど、会議室は暖房も効くし、スライドもちゃんと暗幕を引いて観られて集中できたし年度内最後のMITAKAは盛り上がった。

「すみません、大したお手伝いもできなくて(-_-;)」

 関根さんは恐縮してたけど、真知子は「ううん、熱心に聞いて盛り上がってくれたし、今日一番の功労者は一年生よ」と、うまいこと返した。


 さあ、来週は卒業式やら学年末テストやら慌ただしくなってきた。

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・183『本年度最後のMITAKA・1』

2025-02-20 16:41:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
183『本年度最後のMITAKA・1』   




「どこかに盗聴器とかあるんじゃないかぁ?」

 そう言って、半ば本気で探し回る十円男。

「あはは、気持ちは分かりますねえ(^_^;)」

 ロコはバカにすることなく二つある教職員用ストーブを点けて行く。

 真知子はレギュラーメンバーの半分を指揮して、ごっつい会議用デスクを壁際にかたし、たみ子と佳奈子は残り半分と共に椅子を二重の輪に並べていく。盗聴器じゃ一瞬ギクッとしたナースチャも楽しそうに作業に参加している。


 今日のMITAKAは、なんと会議室!


 作法室の使用許可を取りに行ったら、たまたま家庭科準備室に来ていた校長先生が「よかったら会議室を使いなさい」と勧めてくれた。

 こういうイベントは変化が大事、それに会議室はその名の通りみんなが集まって話をするにはうってつけ。
 部屋がきれいだし、椅子やテーブルも高級品、窓もパッキングが施してあって隙間風が入らない。
 それにそれに、校長先生が身銭を切っておたふく(正門前のパン屋兼お好み焼き屋、学食と並ぶ生徒の憩いの場所)の菓子パンを買いきって差し入れしてくれた。いや、くださった。

 杉野先生のことが新聞に載らなくてホッとしているんだ。

 そして、我々も一歩前進。

「こんな感じでいいですか(;'∀')!?」

 緊張の面持ちで進行台本を見せる関根さん。

 関根さんは一年の女子。

 十一月、二度目の自殺事件があった後、屋上で臨時MITAKAをやって、その時参加して発言もしてくれたのが関根さん。
 あの時は幼さの残るツインテールだったけど、今日の彼女は高々とポニーテールに結って気合十分。

「あのう、いちおうスライド見ておきますか?」

 ストーブの後、後ろでなにかやってると思ったら、ロコはスライド映写機の準備をしている。

 そう、今回は会議室のスクリーンを使ってビジュアルは大進化なんだ!

 感動して正面を向くと、こないだグァム島から帰ってきた元日本兵のおじさんの緊張した顔が映し出されていた。

 カチャ カチャ カチャ

 次々にスライドは切り替わる。

 クィーンエリザベス号沈没……大然閣ホテル火災……時計仕掛けのオレンジ……1ドル308円……札幌オリンピック……IRテロ……バングラディシュ独立……ニクソン訪中……カップヌードル発売……

 よくも三日で集めたなあというくらいのスライドが流れていく。

「あはは、思いつくままに半年分のニュースをピックアップしました(^▭^;)」

 じつは、スライドのタネは須之内写真館でやってもらった。ロコ自身が持っていた写真もあるけど、おもしろがってマスターが焼いてくれたネタもある。直美さんは人物や風景とかの写真が得意なんだけど、時事ネタは大正生まれのマスターの方が守備範囲が広い。

「うん、変に時系列式に並べなくても、参加者が食いついてきたネタで広げていけばいいわよ」

 真知子が結論付けて、本年度最後のMITAKAが始まった!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長) 関根(MITAKA二代目リーダー)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・182『ナースチャが英字新聞で驚いた件』

2025-02-17 11:18:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
182『ナースチャが英字新聞で驚いた件』   





 移動教室のために廊下を歩いていると校長先生が向こうからやってくる。

 わたしも仲間も行儀のいい部類に入るので、きちんとお辞儀をする。

 年末に巫女さんの真似事をやった(163~167)こともあって、わたしらのお辞儀はキチンとしている。
 男子でお辞儀をするのはたみ子の従兄でもある高峰君ぐらい。10円男は相手がだれであろうとお辞儀なんかしない。

 ナースチャは優雅に小首をかしげるようなお辞儀。それも、きちんと相手の顔を視野に捉えて。相手の目を見つめることはないけど、視野に捉えていることで親愛感が自然に出ている。学習院で皇族の子弟がなさっているような(想像だけど)お辞儀。ま、なんたってロシア皇帝の第四皇女だからね、できがちがう。

 ちょっとビックリしたような顔で頷くようにお辞儀を返してくれる校長先生。

「校長、ビビってたぞぉ」

 10円男が下品なことを言う。無視。

「なにか屈託のある顔でしたねえ」

 ロコは少し心配が混じった好奇心。

「まあ、年度末だからね」

「いろいろあるんだろうねえ」

「…………」

 真知子とたみ子は少し大人の反応。佳奈子は、こういう細かい話には食いついてこない。

 
 わたしには分かった。


 杉野先生のこと、新聞に出ることは無いと教育委員会の知り合いから電話があったんだ。

 しょぼくれた校長先生だけど、意外と人脈は広い感じ。

 退職したら県教委のいいポジションだか県立大学の口だとかが約束されてたみたいだけど、今度の杉野先生の件ではいろいろ走り回ったみたい。

 でも、その甲斐もなく新聞社に情報を掴まれ万事休す!

 と思ったら――マスコミが興味を失った――と連絡があったんだ。

 去年の自殺騒ぎで、マスコミの車が学校を取り巻く事態にまでなって、校長先生は、これ以上学校が書き立てられる事態を防ぎたかったんだ。

 集会の度に『四当五落』とか受験のことしか言わない人だけど、ちゃんと生徒のことを一番に考えている。


 移動教室の化学実験室まで行くと実習助手のAさんが不機嫌そうな顔(この人、不機嫌以外の顔見たことないんだけど)で宣言した。

「樫山先生、この授業には間に合わないから自習……ちょ、ストーブ点けんな!」

 ストーブを付けようとした男子を𠮟りつける。

「自習は教室か図書室で、ここは閉めるからなあ」

 樫山先生は乗ってたバスが事故って間に合わないらしい、それでAさんに生徒たちに伝えて欲しいと連絡があったんだ。

 Aさんは、ちょっとしたことでもイレギュラーなことを頼まれると不機嫌になる人みたい。


 仕方が無いので図書室へ行く。


 みんな適当に教科書やノートを広げて、ボンヤリしたり小声でお喋りしたり。名目通り自習しているのは数えるほど。

 ナースチャは英字新聞を読んでいる。日本語も読めるんだけど、ストレスなしに読めるのはロシア語とフランス語、次に英語みたい。

「О, я не могу в это поверить!(おお、信じられない!)」

 時どきロシア語で呟くナースチャ。

 何事かと覗き込むと、先月、南の島で発見された元日本兵のおじさんのニュース。

「戦争終わって27年もたってるのにバカみたいよ!」

 わりと大きな声だったので、遅れて入ってきた10円男やロコたちが寄ってきた。

「軍国主義の犠牲者だな」「なんだかロビンソンクルーソー」「なんか怖い」「英字新聞は周回遅れかなぁ」

 ああ、お祖母ちゃんが言ってたなあ。

「戦後二十年も三十年も経っても発見される日本兵がいる」って。

 お祖母ちゃん、写真も見せてくれたけど、ナースチャが広げてる新聞の写真とは違う。戦闘帽もキチンと被ってビシッと敬礼している姿だったと思う。

 文学の書架をあさっていた真知子が振り返って、小さく叫んだ。

「そうだ、久々にMITAKA(みんなで楽しく語る会)やろうよ!」

 ああ、いいねえ(^▽^)/

 みんなが返事して、さすがに司書のYさんに叱られてしまった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
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  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・181『志忠屋で頼まれごと』

2025-02-14 11:03:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
181『志忠屋で頼まれごと』   




 学校の帰りに志忠屋に寄ってみようと思った。


 ナースチャのことやら魔法のことやら分からないことがいっぱいあるからね。

 それに、10円男だけじゃなくて、ナースチャに興味津々な子がいっぱいいるし。ナースチャのこと、ちゃんと分かっておかないと、さらにとんでもないことが起こりそうだし。

 そんなこんなを思いながら廊下を歩いていると、一人の女生徒が横に並んだ。

「そこの空き教室に入って」

 横顔で言われてビックリ……うちの制服を着たペコさん!

「ペコさん!?」

「話は中で」

 ドアの前に立つと、まるで自動ドアのように開いて、ペコさんに続いて入ったら……志忠屋だ!

 え、ええ!?

 振り返ると、ちゃんと志忠屋の自動ドア。もう一回振り返ると、タキさんが仕込の真っ最中で、シチューの鍋をかきまわしてる。

「……まあ座れ」

 後姿のまま命令されて、いつものカウンター席に座る。

 ピ

 パスタをゆでる時のタイマーを押すと、鍋から立ち上る湯気が停まってしまった。

「メグリも学校やろし、時間停めた」

「時間を……」

「ナースチャのこっちゃ」

「あ、ああ……」

「あいつは、違う時間軸から来た。こっちの世界ではアナスターシア皇女は家族もろとも殺されとる」

「やっぱし!」

「ロシアはエカチェリーナ二世とか、女でも皇位に就けるから、あいつが女帝になってロマノフ朝を再興する可能性がある。やりようによっては、立憲君主制が進んで、ソビエトが短期間で終了するか、帝政ロシアと並んで、こっちのソ連ほどの力を持つことなく衰退していくか」

「そんな大層なことなの……?」

「ああ、17歳のロシア少女が無残に殺されるのを黙って見てるわけにもいかんやろ……」

「う、うん……」

「メグリが覚醒したいうのも意味のあるこっちゃ、この流れは動かしがたいと、儂は思う」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「せやから、メグリ、おまえも気を引き締めてナースチャを護ってやれ」

「ええ、でも……わたしの力って知れてるしぃ」

「そんなことはない」

「ちゃんとコントロールとかできないし」

「慣れたらできる……それに、学校には結界が張られてるし、ペコとかもガードで入らせるし」

「え、ペコさんも!?」

「その制服姿はダテやない」

 タキさんが振ると、ペコさんは、こんな顔(^▭^;)して笑った。

 ペコさんて……?

「過去の世界に通ぅてるのはメグリだけやない」

「あ、それは……(๑º口º๑; ) 」

 アタフタと手を振るペコさん。

 志忠屋で普通の人間なのはペコさんだけだと思っていた……いや、きのう戻り橋のとこで普通じゃないとは思ったけど……ああ、頭がついてこない!

「まあ、学校では日本語の上手いロシアのお友だちいう感じで付き合ってたらええ」

「う、うん……」

「せや、せっかく来たんやさかい、ほれ……」

 カウンターの下から信玄袋を二つ取り出すタキさん。

「これは?」

「弁当や、保温したある。二人で食え」

「あ、ああ、ども……」

 ピピピ ピピピ

 タイマーが鳴ると、再びシチュー鍋から湯気が立った。

 ペコさんは、まだ志忠屋に用事があるとかで「メグリ一人で学校へ戻れ」と言われ、おっかなびっくりで――学校へ――と思ったら、さっきの空き教室の前に戻っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・180『転校生』

2025-02-11 11:16:25 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
180『転校生』   




「お早うみんな。突然だけども転校生を紹介します」


 朝礼の冒頭、花園先生はイレギュラーなことを言う。

 高校で転校生というのは珍しい、この二年間で一度も無かったし、もう二月も半ば。学年末テストまで十日ほどしかない。

 みんなビックリしながらもドアの外の気配に注目している。

「じゃあ、入って来て!」

 先生が大きめの声で言うと、ドアがガタピシいって5センチほど開く。

 5センチのすき間から見えるのは女子の制服。

 ガタ ガタピシ

 ドアは癖があって、普通に引いただけでは開かない、ちょっと手前側にひいて持ち上げるようにしないと一発では開かないんだ。

 ウ ウウ(''v'')

 ちょっと焦った声に廊下側の佳奈子が先生よりも早く助けに行く。

 ガタ ガラガラガラ

 え( ゚Д゚)!?

 目の前に転校生を見て目を丸くする加奈子。

 ドアが完全に開いて、その子の姿が露わになって、今度はクラスの全員がビックリ! 

 わたしは座ったまま30センチも跳びあがってチョービックリ(◎Д◎)!

「はい、簡単に自己紹介してちょうだい」

「はい、ロシアからやってきましたアナスタシアと言います。ナースチャと呼んでください」

 ホォォォォォォ

 教室のみんなからため息が漏れる。

 カワイイ! 外人! ロシア語訛の日本語! 抜けるような白い肌! プラチナブルーの瞳! 制服を着てさえ分かるナイスボディー! 侵し難い品の良さ! 微妙な緊張感にくすぐられる保護してあげたい感!

「ナースチャはご家庭の都合で日本に来ました、日本語に不自由はないけども、慣れない日本での生活なので、みんな、協力してあげるようにね」

「先生、一つだけ質問いいですか?」

 10円男が手を挙げる。

「簡単にね。気が進まなかったら答えなくてもいいからね」 

「よかったらフルネーム教えてもらえませんか? ちなみに、ボクのフルネームは加藤高明」

 花園先生に伺うような顔をしてから、ナースチャはロシア語で黒板に名前を書いた。

 Анастаси́я Никола́евна Рома́нова, 

「アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと読みます。でも、フルネームで呼ぶと舌噛みますからね。ナースチャでいいです(^_^;)」

 アハハハ ウフフフ ハハハハ

 暖かい笑い声が起こって教室は和やかな空気に包まれる。

「もう一つだけ、ロシアっていうことはソ連ということでいいんですよね?」

 笑みを絶やさず、でも、キッパリとナースチャは言った。

「いいえ、ロシア人です」

 10円男が鼻白んで、ナースチャは付け加えた。

「日本だって言うでしょ、ボクは東京人とか、北海道は道産子とか、沖縄はウチナンチューとか……ね(^ー^)」

「あ、ああ、そういう意味ね。うん、わかるわかる(#^○^;)」

 デレた顔で頭を掻く10円男。みんなもクスクス笑って「じゃ、席は……時司さんの横ね」

「ハイ、よろしくトキツカサさん(^▽^)」

「ええ、こちらこそ(^□^)」

 笑顔で応えながら昨日のことを思った。


「時空を超えてナースチャを保護することになったの、1919年じゃ庇いきれないから、2025年でね」

 そう言いながらスマホにタッチすると、スマホの上にタキさんの首が浮かんだ。

「ナースチャを確保、敵のエージェントは追払ったけどメグリちゃんに見られてしまったわ」

『しゃあないなあ……』

「あ、それと、メグリちゃん、ちょっと覚醒したっぽくて、ファイアーボールとか撃てるようになったみたい」

『そうか、覚醒したのはペコばっかりやないちゅうこっちゃな。おい、メグリ』

「な、なによ、タキさん」

『ワケあってナースチャを預かることになった、お前にも協力してもらわならあかんさかい、そのつもりでな』

「え、あ、ちょ……」

「じゃ、よろしく。ナースチャも行くよ」

「Да (ダー)」

 そう言うと二人の姿が消えて、わたしが居るのも令和のこっち側になっていて、振り返ると我が家が見えた。

 ペコさんのなのかタキさんのなのか、それとも、その合わせ技なのか、すごい魔力だ。

 
 そして、家に帰ってググって驚いた!


 ナースチャ、皇女アナスタシアは1918年、皇帝や皇帝一家とその従者もろともボルシェビキに撃ち殺されていた!


 え、え? じゃあ、あのナースチャは? お前にも協力してもらわならあかん……とは?


 そして、今朝からナースチャはわたしの横の席でクラスメートになってしまった!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・179『ナースチャ』

2025-02-08 11:24:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
179『ナースチャ』   




 
「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」


 ロシア語だ!

 たびたびソ連のエージェントに襲われたので、この言葉の響きは一発で分かって、瞬時に日本語に変換された。

『おねがい、助けて!』

 声の主は褐色の髪にプラチナブルーの瞳の少女。万博のソ連館のコンパニオンが同じ感じ。ほら、ガガーリンバッジくれたユリアってやつ。バッジは70年代の世界には存在しないICで、それが発信機になってて、花火見物の夜に撃ち殺されそうになった!(049『宮之森城花火大会』)

 でも声の主は髪と瞳こそは同じだけど、メチャクチャ怯えて助けを求めて突進してくる。

 新聞社を四つもやっつけて高揚してるわたしは、少女を背中で庇って立ちふさがった!

「そこをどけ!」

「Het(ニェット)!」

 ユリアの日本語にロシア語で応えるわたし。

 その返事にユリアの瞳が一瞬でソ連国旗のように赤くなり、鎌とトンカチの代わりに二発の銃弾のイメージ!

 ゾワ

 髪の毛が逆立つ! 

 自分で分かる。このあとピシっと弾けたら、5メートル先のユリアは炎に包まれて弾け飛んでしまう!

 ズザ

 ユリアは一瞬でジャンプ、電柱を蹴って反動をつけたあと、戻り橋を音速ほどの速さで渡って消えた。

 ボ……シュ

 その瞬間までユリアが立っていたところにバスケットボールほどの火球が灯って消えた。キャンセルしきれなかった爆裂魔法の余韻だ。

 ユリアは瞬間で姿を消したつもりなんだろうけど、わたしは全部トレースできていた。殺そうと思えば、そのコンマ一秒足らずの間に5回は殺せた。

「ど、どうもありがとう」

 翻訳魔法なんだろうか、そういうのがかかったままなので、その子の声は普通の日本語で聞こえた。

「だいじょうぶ? ケガはない?」

「ええ、あなたのおかげで……あなたも魔法少女だったんですね。おかげで助かりましたぁ(#'∀'#)」

「あなたもって……あなたも魔法少女なの?」

「いえ、魔法少女は、さっきの女です。ボルシェビキの魔法少女なんです。探知能力に長けているので、さっき見つかって追いかけて来たんです」

 ボルシェビキ?

「あ、ロシア共産党、去年改名したところだからボルシェビキって前の名前で呼んでしまって……日本にも魔法少女は居るって聞いてましたが、さっそく助けてもらえるとは……これも神のご加護です」

 その子は、サウンドオブミュージックのマリアみたいにきれいに十字を切った。

「あ、よかったら、説明してくれる。あのユリアってのはわたしにも因縁のあるやつなんで」

「その前に、ひとつだけ確認させてください。あなたのファミリーネームはトキツカサなんですね?」

「あ、うん。時司巡」

「よかったぁ、ほんとうによかったあ! 日本に着いたら魔法少女のトキツカサに頼れと言われてきたんです!」

「そ、それはそれは……で、あなたは?」

「はい、ロシア皇帝ニコライ二世第四皇女、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと申します」

「え、ロシア皇帝第四皇女( ゚Д゚)!?」

「はい、去年ボルシェビキに命を狙われたんですけど、日本政府のお蔭で助かって、先日日本にやってくることができたんです」

「そ、そうなんだ」

 さっきまでの高揚感は微妙に冷めてきて、ちょっと面倒なことに巻き込まれたなあという気がしてきた。

「アナスターシャは微妙に長いですから、ナースチャと呼んでください」

「う、うん」

 どうしようかと思ったら、戻り橋のところで気配!

 反射的にナースチャを背中で庇う!


「ああ、間に合った!」


 その声は志忠屋のアルバイトのペコさんだった( ゚Д゚)!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』

2025-02-05 10:52:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』   




 危うく新聞に書かれるのを防いで帰路に着く。

 ジィィィィィィィィ…………

 頭の奥がしびれてるみたいで、電車に乗っても駅を出て戻り橋を目指しても、どこか頼りない……自分と周囲の景色の間に薄皮が張ったような、VRのゴーグルで仮想世界を見ているみたいによそよそしい。

 あれ?

 いつものように護岸のGの標(003『ええ! 1970年!?』)が見えて戻り橋が現れるはずなのにGの標が現れない。

 左岸のM、右岸のGを認識することで、人には見えない戻り橋が現われて、戻り橋を渡ることで令和と昭和を行き来できる。

 もう二年になるので、普通の橋を渡るように当たり前になっていた……標が無くなる、いや、見えなくなるのは初めて。

 ちょっと焦った(;゚Д゚)。

 昭和の宮之森に通っているけど、自分のリアルは令和にある。

 このまま昭和に置いてけぼりになったら帰るところが無くなってしまう。

 キョロキョロして、上流側の寿橋を渡る。寿橋は令和にも昭和にもあるリアルの橋だから、当然渡れる。

 戻り橋の下は時間が流れているんだけど、寿橋の下は普通に水が流れていて、渡った先はとうぜん昭和の町で、自分の家があるはずのところはただの空き地。

 少しだけ踏み込んで川沿いを歩いて見ると……え?

 護岸のコンクリートにMの標。

 混乱した。

 Mの標は令和側にあって、それを認識したら戻り橋が現われて昭和に行ける……で、戻り橋が現れた。

 サラサラサラ サラサラサラ サラサラサラ…………

 ゆったりと時間が流れる音がして、それは紛れもなく異界の戻り橋。

 でも、立っているのは昭和の橋のたもと。不用意に渡ったら昭和よりも古い時代に行ってしまうかもしれない。

 だって、Mの標は時を遡る標だからね。

 令和から昭和に渡って1972年。その差は53年。

 1972年の昭和から53年遡ったら……1919年。

 たぶん昭和の前の大正時代。大正は西暦から11を引くんだから……大正8年?

 ええと、こないだ関東大震災100周年とか言ってたからぁ……だめだ、大正時代の知識なんか全然ないよ。

 さっき、新聞社を周って杉田先生の記事を消しまくった勢いは消え失せて、橋のたもとに立っているのは、元々のわたし。

 とりあえず、寿川の向こう側に戻ろう。

 回れ右して、速足で寿橋に向かう。

 タタタタタタ!

 戻り橋を渡って来る足音! それも走ってるし!

 かかわりになっちゃダメだ! そう思って目を背けようとした時に、足音は橋を渡り切って叫んだ!

「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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