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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・改訂版 エピソード 二十四の瞳・3

2020-04-03 06:32:03 | 戯曲
連載戯曲
エピソード 二十四の瞳・3       
 

時   現代
所   東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生


 
瞳: 洒落が通じないんだからあ。あたし、大石瞳が二十四歳……今日までだけどね。
 その瞳と生徒の瞳が二十四個だって洒落。
由香: え……ということは、二クラスで十二人しかいないの!?
瞳: ううん、四十八人。
由香: ……それじゃ四十八の瞳じゃないの?
瞳: 生徒たちの目は、半分学校の外に向いてる。だから二十四個のお目々……わかる?
由香: ああ……なるほど。で、最初は何人いたの?
瞳: 留年生をいれて、二クラス七十一人。
由香: 二十三人も消えたの!?
瞳: うん、そいつらはお目々が二つとも学校の外に向いていた。
 それでも無事に退学にもっていくのはなかなかよ。
 信じられる、二十三人中、二十人まではあたしが始末したんだよ。
由香: たいがいなんだねぇ……。
瞳: 学年だと、卒業までに百人は消える。それが、今年の一年生は百人に迫る勢いだよ……。
由香: ということは……。
瞳: 学校の外向いてる瞳が、まだ三つ四つは消えるんだろうね。
 そのためのアリバイってゆーか、伏線ための家庭訪問……いわば営業だね。営業目標は無事な退学……。
由香: でもー、瞳は講師なんだから、そこまで責任持たなくてもさ。それに、来年の試験に受かったら、別の学校に……。
瞳: 由香はたまたまいい学校にあたったのよ、山手高校っていう……。
由香: それでも……。
瞳: それでも二人退学、生徒との距離はひらく一方……でしょ。ちょっとぉ写真忘れてるよ。
由香: え、ああいくよ。
瞳: 東京の……(ニッコリ、シャッター音)いや、多分日本中の学校が多かれ少なかれ……
 (ニッコリ、シャッター音)中味のないカラだけの卵になりつつあるんじゃないかと(ニッコリ)思う(ニッコリ)……。
由香: いくよ(シャッター音)だから色々やろうとしてるんじゃない。
 特色ある学校づくりとか、総合学習とか……ハイ(ニッコリ、シャッター音)
瞳: そんな新任研修のお題目みたいなの本気で信じてるの?
由香: だって(ニッコリ、シャッター音)何か信じることからしか始まらないじゃない。
 自分の言葉でうまく言えないから、つい都教委の看板持ち出しちゃったけど、ハイ(シャッター音)
瞳: 教育ってさ、そのカメラの三脚と同じだと思うんだ。
由香: (ファインダーから目を離して)三脚?
瞳: 学校と家庭と社会、その三つがしっかりしていないと教育なんて成り立たないと思うんだ。
 一本でも欠けたら、カメラも教育もこけちまう……それ分かってて学校ばかりいじって注文つけてくるんだ。
 立場弱いからさー学校って、文句つけやすいじゃん……学校って卵、人間を人間らしく育むためのね。
 でももう中味はとっくに無くなったカラだけ、それ分かっててポーズとってるだけ……(シャッター音)あ、今のだめ!
由香: ちょっとした憂い顔、よかったよ。
瞳: そう……あたしのアリバイの家庭訪問と五十歩百歩。
由香: だから、だからこそ、カラの中味を埋めていく努力をしなくちゃならないんじゃない。
瞳: 由香だって、ついさっきまではグチってたじゃんよう。
由香: グチはグチだよ。
 現実は前に向かって、カラの卵に白身も黄身も入れるようにしなくちゃならないし、そう信じていこうよ。
瞳: 信じられないよ……そうやって信じて中味をつめこんだ卵って、きっとヒヨコにはかえらない無精卵だと思う。
由香: 瞳……たそがれちゃってるぞ。
瞳: ハハ、由香の前だから油断しちゃったな。オーシ、営業用の空元気!
由香: よーし、じゃ、その空元気が出たところでもう一枚!
瞳: ヘーイ!(とびきりのニッコリ、シャッター音)ありがと、それぐらいでいいや。そろそろ三脚あぶなそうだし。
由香: (カメラのモニターを見ながら)おー、けっこういけてんじゃん。
瞳: ほんとだ、いっそこの写真でどっかのオーディションでも受けに行こうか。歳ごまかして!
由香: 案外いけるかもね。
瞳: ビジュアル系のモデルさんみたいね。
由香: お笑い系のモグラさん!
瞳: なに!?
由香: アハハ……。
瞳: この!……あ!?

 瞳は公園の外を歩く人物に気づき、下手に駆け去る。

由香: 瞳……!?。


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連載戯曲・エピソード 二十四の瞳・2

2020-04-02 06:43:03 | 戯曲
連載戯曲
改訂版 エピソード 二十四の瞳・2  


 
 
 
時  現代
所  東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生


 
 
由香: それでは、大石瞳の一日早い二十五歳の誕生日を祝って……(クラッカーを取り出す)
瞳: ちょ、写真撮るから(カメラと三脚を取り出す)
由香: え、カメラ用意してんの?
瞳: これ用意するのに時間かかったんよ。
由香: おお! プロ用のデジカメじゃん!
瞳: 理科の先生にマニアがいてね……よし、いくよ。
 五、四、三、二、チーズ(クラッカーの音とシャッターの音が同時にする。
 クラッカーの中身といっしょに枯葉がチラホラと舞う。間)
瞳: ……なんか一抹の淋しさを感じるね。
由香: なにぜいたく言ってんのよ。世の中には誰にも祝ってもらえないで誕生日迎える女が山ほどいるんだぞ。
瞳: わかっておりますわよ、友だちのありがたみは。
由香: んなら、もっとありがたがりなさいよ!
瞳: ヘヘ~!……(袋を開ける)うっわあ……手編みのセーターじゃん!
由香: たっぷり一ヶ月はかけさせてもらいました。
瞳: いやあ、ありがとーーーーーー手間暇かかっちゃったでしょ。いやーーーーー襟とか袖まわりとか難しいんでしょ、よく編めてる(セーターを着る)
由香: でしょ!
瞳: ちょっと複雑な気持ちだなあ……。
由香: え?
瞳: これ、ほんとうは自分のために編んだんじゃない?
由香: え……。
瞳: 丈が、微妙に長い……。
由香: 今年は、そういう微妙にザクッとしたのが流行なのよ。
 指先がチョコッとだけ出るようなのが萌えーっちゅう感じで男心をくすぐるんよ!
瞳: いまさら萌えーっちゅう齢でもないでしょ、あたしたち。
由香: 嫌だったら返してよ。
瞳: ありがたいと思ってるわよ。ほんとはペアルックで、色違いのを編んで彼にあげようと思って。
 思うだけであげられなかったせつない女心……その宙に浮いたペアルックの自分の分をあたしに……。
由香: 瞳いいいいい!
瞳: かまわないわよ、たとえ流用にしろ由香の情熱のこもったセーター。
 ありがたく着せてもらう、この編み目一つ一つに由香の想いを感じながら……。
由香: あのねーーーーー手芸はわたしの趣味とストレスの解消なの!
瞳: それはそれは……じゃ、ついでにあたしの写真撮ってくれる?
由香: え、一人だけで?
瞳: うん、写りがよかったら見合い写真とかにしようかなって、こういう萌え系もいいんじゃない?(ささっとセーターを着る)
由香: そういう齢じゃないって言っといて。
瞳: はいはい、チーズ。
由香: オ……や、やっぱ……い、意外に萌~じゃ~ん(^▽^)/
瞳: 本気で萌言うなあ~!
由香: いいよいいよ、プチギャップって感じ! 本気で見合い写真に使えるかも。あ、やっぱ、セーター脱いで一枚……(シャッターを切る。三脚の脚が一本縮んでカックンとなる)……なんか、本気の見合い写真は拒絶しとるぜ。
瞳: んなこと……ちょっとコツがね、よし、これでいいと思うよ。
由香: じゃ、いくよ。こっちも仕事でストレスたまってんだからね(シャッターを切る)
瞳: 仕事のストレスってあんの、山手みたいないい学校で?
由香: あるわよ。そりゃ、担任やってるといろいろと。
瞳: たとえば?
由香: 教師同士の人間関係とか、生徒の無気力さとか、縮まらない距離とか……。
瞳: ふうん……。
由香: こんなこと言っちゃあなんだけど、瞳は常勤講師で、担任もないから気楽なもんなんでしょうねえ(シャッターを切る)
瞳: それがねえ……。
由香: なんかあるの?
瞳: あたしが副担やってるクラスの担任、倒れちゃって、あたしが担任の代行やってんのよ。
 隣の担任も休みがちで、ほとんど二クラスの担任代行。
由香: ええ! それって、瞳は常勤講師でしょ?
瞳: ウ、そーなんだけどね……。
由香: 学年主任とかいるんでしょ?
瞳: それが、頼りないオッサンたちで。
 たてまえは学年主任と主席が代行っていうことになってんだけど、現実は日々の指導から、先月は懇談まで。
 今も、家庭訪問にいくついでに……。
由香: え、この自動車大好き女が自転車で通勤してんの?
瞳: ちゃんと自動車で通ってるわよ。これ、セコの折りたたみ。車に積んでんの。
由香: え、自動車通勤ってヤバいんじゃないの?
瞳: 三年もやってりゃ開き直り。車は知り合いの駐車場に預けてっから。
由香: んじゃ……。
瞳: 家庭訪問は自転車。小回りが効くし、駐車する場所気にしなくていいでしょ。
 それに汗水たらして自転車で行くと、いかにも先生が苦労してますって感じで、演出効果もばっちり。
由香: だけど、そんな担任みたいな仕事、常勤講師なんだから、
 学校もいつまでもほうっておかないっしょ、常勤講師は常勤講師なんだから。
瞳: 常勤講師常勤講師言うな!
由香: ごめん。
瞳: 現役一発で通った由香と違って、三回も試験に落ちてる身だよ。好きこのんで常勤でいるわけじゃないもん。
由香: そんなつもりで言ったんじゃないわよ。
 わたしだって、初めての担任で、クラスは苦しいし、もう二人も退学させてんだぞ。
 そのたんびに親には泣きつかれるし、子供は拗ねるし……。
瞳: ウーーーーあたしなんか二十四の瞳なんだぞ。
由香: え?
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連載戯曲・エピソード 二十四の瞳・1

2020-04-01 06:48:02 | 戯曲
連載戯曲
改訂版 エピソード 二十四の瞳・1   



 時   現代
 所   東京の西郊

 登場人物

 瞳   松山高校常勤講師
 由香  山手高校教諭
 美保  松山高校一年生




 東京、郊外の公園。枯葉がチラホラ舞い落ちるベンチの傍らに、由香がプレゼントの包みを抱えて所在なげに佇んでいる。ややあって、下手から瞳が折りたたみ自転車のブレーキの音をきしませながら飛び込んできて、上手の端で、ようやく停まる。

瞳:  キャー!(きしむブレーキ音)
由香: うわっ!
瞳: …………ごめん、待った?
由香: びっくりするじゃないよ! 待つのも待ったけど……。
瞳: ブレーキの効きが悪くってさ~、やっぱ中古のパチもんはだめだわ。
 今日も明日も忙しいのなんのって……あ、それ、あたしへのバースデイプレゼント!?
由香: うん、一日早いけど。
 残念ねえ、半日でも空いてりゃ、バースディパーティーしてあげるんだけど、
 お互いスケジュール合わないから、恒例の忘年会と兼ねるということで。
瞳: ということは、忘年会はおごってもらえるんだ!
由香: 何言ってんのよ。忘年会の会費は平等にって決まりでしょ。
瞳: えーーー
由香: 気持ちよ気持ち。
瞳: なるほど、気持ちで済ませようって腹か。
由香: 何言ってんの、遅刻した上に自転車で轢き殺しかけといて!
瞳: だから、ごめんて、めんごめんごぉ……。
由香: ま、ケーキの一つぐらいは用意させてもらうつもりだから。
瞳: イチゴとかデコレーションいっぱいのバースデイケーキ!?
由香: そんなの食べたら、お料理食べられなくなっちゃうでしょ。プチケーキよプチケーキ。
瞳: プチケーキ……。
由香: なに不満そうな顔してんのよ。
 だいたい二十五にもなろうって女がさ、女友達から、バースデイパーティーやらプレゼント期待する方が、みっとも……。
瞳: ん……?
由香: ……(アセアセ)
瞳: いま、「みっともない」って言いかけたよね……それが親友の言葉あ(泣き崩れる真似)
 どうせ、あたしなんか、あたしなんか……ヨヨヨ……。
由香: 拗ねた女に明日なんてこないぞ。
瞳: 何言ってんのよ。あたしだって、ボーイフレンドの一人や二人目の前にして、バースデイパーティーくらい……。
由香: 見栄はらなくていい。
瞳: あったらいいなって……き、希望を持つのは青年の特権だぞ!
由香:言う割には腰ひけてんじゃん。
瞳:ひけてねーよ。
由香:ムキになんなよ、皴増えるよ。
瞳:皴なんかねー!(言いながらホッペの皴を伸ばす)
由香:お、こーやると高校時代の瞳だ!(瞳のこめかみをリフトアップする)
瞳:なにをーーー! あんただって、こうやらなきゃ昔に戻らないじゃん!(由香の胸をリフトアップ)
由香:じゃ、今度はヒップアップだ!
瞳:キャーー! お嫁に行けなくなるうううう!(ふざけ合う二人)
由香: やっと、学生時代のノリになってきたね。
瞳: じゃあ、そのノリで忘年会の費用ジャンケンで決めよう!
由香: おーし!
瞳: 最初はグー、ジャンケンポン!(瞳チョキ、由香パーで勝負)やりー!
由香: アチャー……しくじった。
瞳: 焼きが回ったわね。チョキの法則忘れるなんて。
由香: チョキの法則!?
瞳: そう、最初はグーで出したら、次はチョキかパーしか無い。
 チョキを出しておけば、勝つか、あいこ。だから勝つ確率が一番高い。心理学で習ったじゃんよ。
由香: そういうことは覚えがいいのよね。
瞳: なにさ、どうせ採用試験には関係ないわよさ。
由香: ひがまないでよね。でもさ、明日スケジュールが詰まっているって言うのは?
瞳: 文化祭の居残り当番。
 本番二日前、生徒たちもやっと熱が入って、完全下校は八時はまわりそうね。
由香: なるほどね。
瞳: 彼氏がいたら、たとえ十時でも十二時でも、バースデイパーティーやってもらうわよ。
由香: 勝負パンツ穿いて?
瞳: アハハハ……て、ほんとだね。ま、ありがたく頂戴いたします(相撲の力士のように手刀を切る)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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戯曲:シャボン玉創立記念日・4

2020-03-31 06:43:07 | 戯曲
シャボン玉創立記念日・4         
                   大橋むつお
 
 
 
 
 
時・ 現代ある年の秋
所・ 町野中学校
人物・
岸本夏子   中三
水本あき   中三
池島令    町野中の卒業生歌手
池島泉    令の娘、十七、八歳
 
 
泉: お母さんが言いたかったのは、ここ。いつまでもそれじゃだめだってこと! 補習いやさにジャズ始めたら、楽しくってたまんなくなっちゃうって映画あったよね、スウイング……なんとか……彼といっしょにいたい、そこからでいいんだよ。それで歌が好きなら……あたしの母さんね、ほんとは役者になりたかったの。
夏子: でも、時々ドラマとか出てるでしょ?
泉: それは副業。本業はあくまでジャズシンガー。
夏子: その役者志望がどうして……
泉: 彼が役者だったの。ある時、デートしてて、会話が途切れちゃってさ。そう、横浜の山下公園、そこで彼が、不慣れな歌の話をしたの。男ってカッコつけたいときって、あるじゃん。「かもめの水兵さん」て知ってる?
あき: 知ってます(歌う)かもめの水兵さん、ならんだ水兵さん(ここから泉も和して)白い帽子、白いシャツ、波にチャプチャプ浮かんでる。
二人: アハハハ……
泉: お互い古い歌知ってるね。
あき: 泉さんも……
泉: お母さんとは、ちょっと趣味ちがうけどね。 
夏子: あたし、それ知らない。
泉: ちょうどいい、今の歌、どんなふうに聞こえた?
夏子: えと、カモメがチャプチャプ。無邪気に子供が水遊びしてるみたいな……
泉: 楽しい歌でしょ?
夏子: はい、保育所の生活発表会みたいな。
泉: あたしも、いい童謡だと思う。この歌に関してはお母さんと趣味一致。それがね、その彼は反戦歌だって言うの。
二人: ハンセンカ?
泉: 戦争に反対する暗い歌。軍歌と同じくらいあたしは嫌い。
夏子: どうして、そんな風に聞こえるんですか?
泉: この歌、ゆっくり歌うとね、特に最後のとこ(歌う)波にチャプチャプうかんでる……
夏子: 変なの……
泉: でしょ。母さんの彼は、戦争で死んだ水兵さんの死体が浮いている姿を歌い込んだもんだって、知ったかぶりするわけよ。
夏子: 嘘でしょ、この歌は絶対そんな歌じゃない
泉: そう、お母さんもそう言った。昔、そういうひねくれた感覚で芝居すんのが流行ったんだって。彼も、ちょっと気の利いた話しをするつもりで、ついホラふいたんでしょうね。
あき: それは歌を侮辱しています!
泉: そう怒るのは、あんたが歌を愛してるからよ! 広く言えば、お母さんや、あたしたちと同じ仲間だってこと。むろん、杉村君もね。
あき: で、お母さんは、どうしたんですか? わたし、そっちの方も興味津々!?
泉: 若かったのね、彼氏と別れたのはもちろんのこと、お芝居までやめちゃった。……若い頃って、許せないとか悪いとか思っちゃうと、ハサミでものをちょん切るように切っちゃう……と、うちのお母さんは言うわけ。でもこの彼氏って、けっきょくあたしのお父さんになるんだよ。
二人: ……え!?
泉: それから、切れた二人は方やジャズ、方やお芝居をグルグルっと遠回りして、三年後に出会ってくっつき直したってわけよ、おかげで娘のあたしは……どう、あき、ちっとは気が変わった?
あき: はい、自信がわいてきました! 上原先生に、きちんと話してきます。
夏子: むろん、杉の森だろ!?
あき: もちろん! あ、泉さん、これからも手紙とか出していいですか?
泉: メールでいいよ、手紙書くの大変だろ?
あき: わたしって、そういうとこ古風なんです。
泉: あたし筆不精だから三度に一回くらいしか出せない……電話でもいい?
あき: もちろん!
夏子: 住所とか電話は、わたしが伝えておくから、早く行かないと職会はじまって、杉の森ら外されちゃうよ。今日は進路調整のための職会だから。
あき: じゃ、また手紙書きます、ありがとうございました! じゃ夏子また明日!
夏子: え、ほんとに急いでたの?
あき: うん、明日婆ちゃんの法事だから、ごめん、じゃ、失礼します!(下手に退場)
 
   しばらく見送ったあと泉は上手正面方向に、両手で大きな○を示す。
 
夏子: 何してるんですか?
泉: 杉村君に成果を報告してんのよ。(大声で)グッドラック!!
夏子: 杉村君、知ってたんですかこのこと?
泉: 彼も、あきに負けないくらい好きなのよあきのこと。青い顔して上原先生に……夏子君と同じこと言われてた「人の問題に首を突っ込むな」それで、一肌脱いじゃったのよ。
夏子: じゃ、お母さんに頼まれたってのは?
泉: 本当だよ、「正しく伝わるように話といて」そう言った。でも、お母さんは一枚上手……のつもり。
夏子: え? 
泉: これ、あたしの名刺、あきに渡しといて。
夏子: はい。これ、あきのアドレスとか住所とか……
泉: はいはい……はい。(素早く自分の携帯にうちこむ)
夏子: あの、泉さん?
泉: え?
夏子: この肩書きに書いてあるニートってなんですか? ニート・池島泉……
泉: へへ、すねっかじりをキザに書いただけさ……わからない?これといった仕事もしないでブラブラしてる奴のこと。
夏子: だって、泉さんは、お母さんのアシスタントやスタッフのお仕事を……   
泉: 何もしないで食わしてもらうわけにもいかないしさ……わたしに合うようなシャボン玉がまだ見つからないの。あたし高一で中退したから、資格は中卒……ほらほら、そういう珍しい動物を見るような目で人を見ちゃいけません。               
夏子: ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……
泉: お母さんは何かさせたいことがあるみたいだけど、ぜったい言わない。
夏子: 自分のしたいことは自分で見つけるしかないから。自分もそうやって生きてきたからね、今さら娘にはいえないでしょ。だから、こうやって自分の仕事にひきまわしていろいろパシリをさせるわけ。その中からなにかをつかむだろうって……
夏子: わたしみたいに、なんとなく高校いっちゃうのは軽蔑します?
泉: しないしない、遅い早いの違いだけだから。ただ、こういうあたしを軽蔑する奴をあたしは軽蔑蔑する。
夏子: あ……
泉: どうかした?
夏子: この名刺、手描きじゃないですか?!
泉: え、うそ……ほんとだ、原版だ。
夏子: 原版?
泉: うん、半年くらいで新しい名刺に替えてるの。原版は、ここ一番大切な時とか人用に……
夏子: 返しましょうか……?
泉: いいよ、無意識だったけど、今日は、とっても大切な出会いの日だったのかもしれない……だからひょいと手描きの原版を……ハハハ、今日は創立記念日だ、ひょっとして。
夏子: はい?
泉: 新しいいろんなもの、目標とか、友情とか、勇気とか、愛情とか……ま、とにかく諸々の創立記念日(インカムから声がする)わかった今いく。撤収の準備ができたみたい。夏子、家はどこだ?
夏子: 駅前東の団地です。
泉: よし、途中までのっけてやろう。ただし、トラックの荷台だけどな。
夏子: ほんと? 嬉しい!
泉: じゃ、あたしは荷物とってくるから、裏門のトラックのところで落ちあおう、じゃあな!(元気よく上手に去る)
夏子: はーい!……こうやって、創立記念日の陽は西の山並の中、穏やかにやすらごうとしております。東の空には気の早い星々が、この記念日を言祝ぐように煌めきはじめております。そう、わたしにも、この岸本夏子にも、ほんとうは胸に秘めた夢があります。今日は、それが宵の明星のように、かすかに、でも、くっきりと輝いたような気がします。今日は、そんなわたしたちの目出たいシャボン玉創立記念日の良き一日でした(裏門とおぼしきあたりからトラックのクラクション)はーい、今行きます!
 
 
 夏子のこの独白の最初あたりから、エンディングのテーマFIし。最後、夏子が今一度惜しむように、まぶしく西空をあおぎ、上手にゆるゆると駆け出したところで、急速にFUし、幕が降りる。     
 
 
 
※ 作者メモ
 ボーイズ、ビー、アンビシャスというような、五十を過ぎたおじさんからの、言うのも恥ずかしいピュアなメッセージです。令と泉の二役をやる人、きりかえを大切に……でもこの親子、似た者同志です。夏子はキリっと、あきは、思いつめてはいても、けっして弱々しくハ演じないでください。説教くさい芝居にもならぬよう、明るく演じてください。
 
 ※ 上演される時は下記までご連絡ください 
🏣 581-0866
 大阪府八尾市東山本新町 6-5-2   大橋 むつお
 
 上演料は、文化祭、コンクールだけでなく、自主公演でも入場料を取らない無料公演の場合は頂きませんが上演許可はとるようにしてください。有料公演の場合は一万円以上になります。 
 
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戯曲:シャボン玉創立記念日・3

2020-03-30 06:41:53 | 戯曲

シャボン玉創立記念日・3     

                   大橋むつお

 

 

 時・ 現代ある年の秋

所・ 町野中学校

人物・

岸本夏子   中三

水本あき   中三

池島令    町野中の卒業生歌手

池島泉    令の娘、十七、八歳

 

 

 

泉: すみません。

二人: は、はい?

泉: (あきに)あなた、さっき校長室の横の部屋から出てきた人ね?

夏子: あ、令さんの娘さんだ!

あき: え?!

夏子: バカ、なにボサっとしてんの。

あき: あ、さっきは、すみません、頭がボーっとして、ぶつかったことも憶えてないんです。ほんとうにごめんなさい。

泉: いいのよ、そんなことは。(夏子に)あなた、司会をしてくれてた……夏子さんね。

夏子: は、はい、放送部の岸本夏子です。

泉: とても上手な司会だってお母さんが誉めてたわ。

夏子: ありがとうございます。校長室で令さんからもそう言われて、ボーっとしてたところです。たとえお世辞でも嬉しいです。

泉: あたしたちにも言うくらいだから、けしてお世辞じゃないわよ、あなた彼女の友だち?

夏子: はい、小学校からの友だちで、水本あきって言います。

泉: あきさん、ちょっと話していい?

あき: は、はい……

泉: よかったら夏子さんも、いいかな?

二人: は、はい……

泉: 実は、お母さんに頼まれたんだけど、彼女忙しくって。そいで代わりに話しといてくれって……いいかな?

あき: はい。

泉: 時間がおしてたんで、一曲はしょっちゃったし、話も中途ハンパでさ、お母さん気にしてんの、歌ってる時からすごい引力を感じる視線があって……

あき: そりゃ、プロ歌手なんて初めて見ちゃったから、おまけに先輩で、美人で……

夏子: そういうことじゃなくってでしょ、泉さん。

泉: うん、なんか思いつめたような……前列のほうだから、よくわかったって。歌っているときに感動してもらうのは歌手としてとっても嬉しいことだけど……話しているときに、こう……引力が強くなってきてさ、目線が合ったの憶えてる?

あき: はい。それで決心したんですから……

泉: やっぱし……校長室にいても聞こえてくるんだって……上原先生って声おっきいのね。

夏子: その分、耳が遠いんです。

泉: とぎれとぎれに話しの中味が聞こえて……お母さん、そういう耳と勘は鋭いの「あ、あたしのメッセージが間違って伝わってる」……決定的なのは部屋を出たとき、先生が大声で「考えなおせよ!」そして、あきちゃんが泣きそうな顔で、あたしにドシン!

あき: すみません。 

泉: あきちゃん、コーラス部だよね? 歌うことそのものは好きでしょ?

あき: はい……

泉: で、誰だかわかんないけど、同じコーラス部の男の子好きになって同じ学校へ行こうって決めていたんだよね。

あき: ……(顔を赤くしてうつむいている)            

泉: 「友だちがやってるからいっしょに……」は、だめなんだぞってとこらへんでドキッとしちゃったんでしょ?

夏子: すごい、そのとおりです。

泉: へへ、一応親子だからね。

あき: わたし杉村君ほど上手くもないし、杉村君ほど大きな夢はないんです、ただ杉村君のそばにいて、好きな歌が一緒に歌えたら……

泉: それでいいんだよ。あきちゃんが歌と杉村君の両方が好きで。

あき: でも……

泉: お母さんが言いたかったのは、ナンパや遊びや友達とつるみたいだけの集まりは駄目だって……ううん、それだってかまわない、補習うけたくないからジャズやってもいいし、男の子目的でクラブに入ってもいいの。

あき: そんな……

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戯曲:シャボン玉創立記念日・2

2020-03-29 06:50:59 | 戯曲
シャボン玉創立記念日・2     
                   大橋むつお
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回のところに連絡先を記しておきますので、上演許可はとるようにしてください。
 
 
時・ 現代ある年の秋
所・ 町野中学校
人物・
岸本夏子   中三
水本あき   中三
池島令    町野中の卒業生歌手
池島泉    令の娘、十七、八歳
 
 
 手を振る令、拍手。フェードアウトして拍手はチャイムに置き換わって、放課後の学校の環境音が加わり明るくなる。あきが硬い表情、早足で花道(客席通路)を通って学校を出ようとしている。夏子が、それを追い、舞台上で追いつく。
 
 
夏子: あき、あき、ちょっと待ってよ、待ってったらあき!
あき: なに? 悪いけど、わたし急いでるから。
夏子: 待ってよ、大事な話なんだから。
あき: じゃ手短に……
夏子: あき、進路変えるんだろ!?
あき: 誰に?
夏子: 誰に……?
あき: 誰に聞いたの? 担任の上原……生徒の秘密しゃべるなんて最低だ!
夏子: 違うよ。わたしの勘。あき、むつかしい顔して相談室、先生といっしょに入ったろ。出てきたら上原先生までむつかしい顔してて、一言「考えなおせよ」、それ無視して行ったよね。
あき: 立ち聞きしてたの?
夏子: 違うよ、式典の司会やったから、令さんがお帰りになる前に挨拶しとこうと思って校長室へ……三分も居なかった。令さんを車まで送ろうと思って校長室を出たら、ちょうどあきと上原先生とが出てくるところで……あき、廊下で令さんの娘さんとぶつかったのも憶えてないだろ? むっとしてたよ。
あき: え、令さんが?!
夏子: バカ、娘さんの方だよ。わたしがかわりに謝っといた。
あき: ありがとう……でも……
夏子: わたし、その場で上原先生に聞いたの。「あき、進路変えるんですか?」って。
あき: 聞く方も聞く方だけど、しゃべる方もしゃべる方だ!
夏子: バカ、「人の問題に首をつっこむな!」上原先生は、そう言って職員室へ行ったよ。それだけでわかったよ。そしてわたしが追いかけてきたってわけよ。
あき: わたし、もう決めちゃったから。
夏子: 杉の森やめて明野に変えるんだろ?
あき: ……
夏子: 公立で音楽科もってるのは杉の森しかないんだろ? 競争率高いけど、そのために十分勉強したし、準備もしたじゃないか。わたしなんか、将来わかんないから地元の明野だけど、あきは声楽目指すって一年の時から決めてたじゃないか。
あき: だって……
夏子: だってもあさってもない!
あき: 夏子……
夏子: こんな言い方したら失礼だけど、音大とか芸大とか……個人レッスンうけなきゃムリだろ、うちもあきんとこもそれほどブルジョワじゃないし……公立の杉の森の音楽科でしぼってもらうのが一番の安上がり……なんだろ?
あき: 令さんの「シャボン玉」を聞いたろ?
夏子: う、うん……
あき: 圧倒されちゃった……
夏子: あ、アハハハハ……
あき: 何よ?
夏子: あれ聞いてやめようと思ったわけ? ハハ、当然といやあ当然だけど。令さんプロだよ、童顔に見えてるけど、あの道二十年のベテラン。それが、余裕のヨッチャンで歌った童謡だよ、びっくりするほど上手くてあたりまえ。
あき: 違うよ。たしかに、ジャズシンガーで鳴らした池島令が、「シャボン玉」だもん、ズッコケちゃって、驚いて、最後しびれた……
夏子: それ、学校の陰謀。池島令って言やあうちの卒業生で一番有名じゃん。でも中村正太って卒業生の県会議員たてなきゃならないんだって、県の文教委員とかやっててソリャクにはあつかえないって、だから割当時間が二十五分、それも五分オーバー。それで令さん急きょ一曲減らして、「シャボン玉」だけにしたんだって。でも聴かせるよねえ……歌もいいし、話もいいし。シャボン玉が、夢とか希望とか……考えたらそうだよね、毎日、いろんなものに興味持ってさ。好きになった男の子……へへ一日に三人くらいは、いいなって思ったりするもんね。
あき: そんなに?!
夏子: 素敵って思うだけだよ。ウインドショッピングみたいなもんよ。次のお店のショーウインド見たら、もう前のお店のことなんか忘れてる、そういうこと、うまく表現してるって思った。
あき: 令さん、こうも言ったんだよ。「楽そう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ!」
夏子: だからなによ?
あき: わたし……動機が不純だから……
夏子: 何が不純よ?
あき: だって……杉村君が……
夏子: え……杉村とけんかでもしたの?
あき: しないよ、けんかなんかするわけないでしょ!
夏子: 怒ることないでしょ、可能性として聞いただけなんだから。
あき: わたし、杉村君が受けるから杉の森うける気になってたの。そうでしょ、令さん言ってた、友だちもやってるからっていうのはダメだって、ガーンて空が落ちてきた感じ、今まできれいな星や虹だと思ってたものが、落ちてきた空に書いてあったペンキ絵みたいなもんだって言われた感じ。
夏子: 考えすぎだよそれ。
あき: ううん違う。前から感じてたの、同じコーラス部で、いっしょに歌えるのが好きだった……
夏子: そこは告白する前に何度も聞いた。とばして言って。
あき: ビデオじゃないから早まわしなんかできないよ。
夏子: じれったいって意味なの。
あき: ごめん……
夏子: 謝る暇あったらしゃべる!
あき: だから、二年の冬に彼が杉の森受けるって言ったとき、わたしも受けるって……三年の二学期には受験のため、クラブも引退、時々話はするけど。あいつ夢でいっぱいなんだ、大学の声楽部はどこそこがいいとか、将来はオペラのなんとかでかんとかしてみたいとか、わたしはただ杉村君と同じところに居たいから。そういうことが令さんの話聞いてたら、そういうことがいっぺんに頭の中をグルグル回っちゃって友だちがやってるから……って令さん言ったとき、わたし、令さんと目が合っちゃって、まるで心を読まれて、わたしに言われたみたいな気がして……
夏子: それで、まっすぐ上原先生のとこへ行ったんだ……わたし、最初保健室へ行ったんだよ、気分が悪いのかなあって思って。居なかったから、安心して校長室に挨拶に行ったら、ちょうど出入りのタイミングが適っちゃったってことよ……
あき: そうなんだ、ありがとう……でも、もう決めちゃったことだから(立ち去ろうとする)
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戯曲:シャボン玉創立記念日・1

2020-03-28 06:18:48 | 戯曲
シャボン玉創立記念日・1     
                   大橋むつお
 
 
 
 
 
時 ・ 現代ある年の秋
所 ・ 町野中学校
 
人物・
 
岸本夏子   中三
水本あき   中三
池島令    町野中の卒業生歌手
池島泉    令の娘、十七、八歳
 
 
 満場の拍手の中、下手司会者席の夏子にライトがあたる。今、挨拶が終わって退場しつつある(という設定)校長を、客席の人々といっしょに拍手で送り返している。町野中学校創立五十周年記念式典のクライマックスが迫っている。
 
 
 
夏子: 校長先生の、おまとめのお言葉でした。ありがとうございました林信彦校長先生。それではみなさん、お待たせいたしました、式典のおひらき、フィナーレを飾っていただくため、スペシャルゲストをお招きいたしております。本校をン十年前に御卒業になり、現在、テレビ、ラジオ、そしてライブでご活躍中の、我町野中学の大先輩、シンガーソングライターの池島令さんにご登場願います。
 
 校長の時以上の拍手で、中央又は上手から令があらわれる、式典らしく、長目のロングドレス。
 
令: みなさん、今日は、池島令です。知らない人も多いかも(拍手)ありがとう、普段大人相手の歌ばかり歌ってるから、どうかなと思ったんですけど、知ってくれていてありがとう……あたし、本名は池島令子っていいます。子があるかないかだけなんだけど、歌手デビューする時に、「もう子供じゃないんだ!」そんな思いで「子」の字をとりました……それと「令」という呼ばれ方には中学時代の思い出が……今日は式典なんでこんな似あわないドレス着てるけど普段はパンツルック。中学生の時も、学校以外でスカートなんて穿いたことなかったの。悪いことばっかしてて……たとえばこの講堂の上、あがれるんだよ、そこでタバコ吸ったり、下級生いじめてる男子にケリ入れて、いきおいあまって玄関の大きなガラス割ったり、そんなあたしを、先生方も友だちも令子とは呼んでくれない「コラ、令!」「しばき倒すぞ令!」……「令子」って呼んでもらったのは卒業証書をもらう時だけ……そんなあたし、池島令がみなさんに送る歌、さぞや、ジャズやソウルとかレゲーとか、知ってる?ドガチャカにぎやかなやつ……違うんだぞー。実は、池島令にまだ「子」がついていたころ一番好きだった歌……笑っちゃやだよ。アハハハ……って自分で笑ってどーすんのっつうの、ね。その大好きな歌唄わせてもらいます。野口雨情作詞、中山晋平作曲「シャボン玉」……
 
 
 令、「シャボン玉」を、叙情的に、しかし明るく歌いきる。技術的には、CDの歌にあわせた口パクか、音楽の先生とか、コーラス部あたりの上手な人の声をとって口パク。自分で歌っても良いが、ここ、相当上手にやらないと、芝居をこわしてしまうので注意。
 
 
令: どうだった? 意外に素直、でしょ。知ってたこの歌? この歌はシャボン玉を赤ちゃんや子供の命にたとえてあるんだって。昔は、生まれて一才までに死んじゃう子が多いから、その命の儚さとか悲しさを、そうは感じさせないように明るく歌った……というのは大人になってから知ったことで。君らぐらいの時は、あたし、このシャボン玉って、少年時代の夢とか、あこがれのことかと思ってた。毎日いろんな新しいことに気をとられたり興味を持ったりして、なかなか自分に、本当に自分にあった夢やしたいことが見つからない、あれおもしろい! と思ったら次の日にはそれがおもしろくなって、そしてまた別のおもしろいことが見つかって、シャボン玉のように消えていく楽しい歌だと思った。だからあたしは、そういうふうに歌ってます。でもシャボン玉ってすぐ消えちゃうから、これだって思ったら、両手でパチンとつかまえて、自分の体や頭にしみこませるの、シャボン玉を体に憶えさせるの。そうすると、いつか自分自身がけして割れないシャボン玉になれる。いい、余計なことを考えちゃダメなんだ。楽できそう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ! 直感で、これだって思えるシャボン玉、どうぞ、君たちも見つけてください、ヘヘ、ちょっと長い令のお話はこれでおしまい。それじゃ、五十周年おめでとう! 六十年七十年、いや百年めざしてがんばってくださーい!
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 5

2019-08-29 05:57:56 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 5
栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
携帯電話を奪って、もどってくるユキ。その後を血相を変えたルブランが追ってくる。

ルブラン: この泥棒犬。今度邪魔をしたら、許さないって言ったでしょ!
ユキ: 血相変えて追いかけてきたわね。
ルブラン: 誰でも、大事なものをかっぱらわれたら、頭に血がのぼるわよ。さあ、返しなさい、わたしの携帯電話……
ユキ: よほど大事な携帯ね。でも、いまどき携帯をわざわざケースにしまってる人なんているかしら……
ルブラン: 出すな、ケースから!
麻衣: スンゲー! 見たこともない高級品!
ルブラン: いじくるんじゃない!
ユキ: ルブラン……あなた、幸子さんを携帯に変えたわね?
麻衣: え、その携帯が幸子!?
ユキ: そしてこのケースは、携帯にされた幸子さんが逃げ出さないためのイマシメ。
麻衣:そうか、万一ポロリと落っことして、人が拾っちゃったら……幸子って、携帯になっても、お嬢様なんだ……
ユキ: 考えたものよね、携帯に変えれば、肌身離さず持っていても怪しまれないし。そして、思う存分ネチネチ、ビシバシ言葉のパンチをあびせても自然だものね……ケースにもどしては……かわいそう、必要以上にしめあげたのね、皮ひものあとがこんなに……
ルブラン なにを他愛もないことを……

麻衣、なにかひらめいたらしく、力いっぱい携帯電話に水をかける。携帯といっしょに、ビショビショになるユキ。

ユキ: 麻衣ちゃん……そういうことはヒトコト言ってからしてくれる。
麻衣: ごめん、携帯に薬かけたら、幸子にもどるかなって……だって化代にかけたらもどるって……
ユキ: わたしも、そう思ったんだけど……ハックション!
ルブラン: ハハハ……まるで水に落ちた犬だね。さあ返しな。それは高級品だけど、ただの携帯電話。化代なんかじゃないんだよ!
麻衣: くそ!
ルブラン: 知っているかい、こんな言葉……水に落ちた犬はたたけってね!

しばし、みつどもえの立回り。おされ気味のユキと麻衣(戦いを表す歌と、ダンスになってもいい)

麻衣: ユキ、もうだめだ。こいつにはかなわないよ。
ユキ: あきらめないで。ルブランのこの真剣さ、この携帯、化代に違いない!
麻衣: だって、いくらやっても効き目がないよ……(片隅に追い詰められる二人)
ルブラン: フフフ、バカの知恵もそこまでさ。覚悟をおし……
ユキ: この携帯、高級品……ひょっとして……(携帯の裏側をさわる)
ルブラン: やめろ、さわるな!
ユキ: この携帯は……高級品のウォータープルーフ。つまり防水仕様になっている。
麻衣: さすが、ゼネコン社長のお嬢様!
ユキ: でも、防水仕様は外側だけ、電池ボックスを開けて、内側に、その水鉄砲を……どうやら図星ね……麻衣ちゃん、もう一度この携帯を撃って!
麻衣: よっしゃ!
ルブラン: させるか!

ユキが素早く電池ボックスを開けた携帯に、あやまたず麻衣の水鉄砲が命中!

ルブラン: ギャー!
麻衣: やった!
ユキ: どうやら、正解だったようね。わたしの手の中で、幸子さんが、自分の鼓動をうちはじめている。
ルブラン ……なんてこと……せっかく、せっかく、ルブランの夢がかなうところだったのに……(断末魔のBG、ルブラン倒れる)

暗転。明るくなる。幸子を囲んで麻衣とユキ、「幸子さん」「幸子」と声をかけている。

幸子: わたし……わたし、もとにもどれた……もとの姿にもどれたんだ!
ユキ: 幸子さん、もどれたんですね!
麻衣: ルブランも、もとの猫にもどって逃げていったわ。
幸子: ありがとう、麻衣ちゃん、ユキちゃん。
ユキ ユキでいいです。そう呼ばれなれてるから。
幸子: ううん、ユキちゃんが気づいてくれなかったら、わたし死ぬまで携帯電話のままだった。
麻衣: 水鉄砲撃ったのは、あたしだからね。
幸子: ありがとう。
麻衣: でも、防水仕様には気づかなかった。これは、ユキのお手柄。しかし、ルブランてのは相当の悪だったわね。
幸子: ルブランがこうなったのも、わたしのせいだと思う。甘やかしたり、いじめたり。わたし自身、思いあがって、わがままのしほうだい。そんなわたしを、ルブランはじっと見ていたんだわ……
麻衣: あたしと、ねねこも……
幸子: わたし、ルブランを探しに行く。
麻衣: あたしも、ねねこを……
ユキ: それはよした方がいいわ。
幸子: え……?
麻衣: どうして?
ユキ: 今はまだ、あやまりに気づいたばかり。気づいただけだもん。もう少し時間と努力が必要だと思う。ちゃんとしたパートナーとしてつきあうために二人と二匹には……もう少し、もう少し、人と自分を見つめる時間と努力が……
幸子: そうよね……ユキちゃん、えらい!
麻衣: さすが、まどか御自慢の愛犬ユキだ!……ごめん、まどかはまだ見つかってないんだ……
ユキ: ううん、大丈夫。いずれは……(ユキの骨形の携帯電話が鳴る)もしもし……え、まどか!?
二人: え……!?

ストップモーション。ユキだけが動く。

ユキ: 電話は、わがあるじ犬塚まどかからでした。運よく犬の国へは行けたらしいのですが、見ると聞くとは大違い! たった半日で嫌になり、人間の世界にもどってくると言いました。わたしが、うっかりまどかの前で犬の友だちとなつかしそうにしゃべっていたことが災したようです。この点は、わたしも反省。そして、これで、わが栄町の犬猫騒動は終わりをつげました。どうです、この二人。まどかからの知らせがあった、その瞬間の表情です。麻衣ちゃんなんか、少し間が抜けて見えますが、二人とも、友の無事を知った、その一瞬の驚きと喜びがよくあらわれています……われわれペットは、こういう人間の表情を、実によく見ているものです……今のあなたたちと同じように……犬や猫が、天使になるか悪魔になるか。それはあなたたち次第。わたしは、明日まどかがもどってきたら、またもとの犬の姿にもどります。一歳ちょっとにしては小柄な、しっぽをキリリと巻き上げた、白い、一見紀州犬……もし、町で見かけたら、気軽に声をかけてください。もちろん人間の言葉で。そしてもちろんわたしは犬の言葉でお返しします。ワンワンワン、ワン! わかりました?「今日は、お元気?」ってな意味です。そのうちわかるようになりますよ、バウリンガルとかなしででも。それじゃあみなさん、ワォーン……これ、さよならって意味ね。ワォーン、ワンワンワン……
  
これに和するように、大勢の犬の「ワォーン」重なる。キャスト、スタッフ、出られる者は全員舞台に出て、イヌとネコと人の歌とダンスになる。  
 
みんな(唄う) 桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。
新しいことが始まるような。
新しいものが来るような。
何かが、わたしを待っている。
誰かが、わたしを待っている。
そして、他の、何かを、誰かを忘れてしまう。
どこだ、どこだ、だこだ!?
忘れちゃならない、大切なこと。
忘れちゃならない、大切なひと。
新しきものに、心うつろう、その前に、覚えておこう。

桜の花が、舞い散るころは、心はそぞろ。気もそぞろ。
新しいことが始まる前に。
新しいものが来る前に。
わたしは、立ち止まってみる。
わたしは、耳を澄ましてみる。
そうして、わたしは、何かを、あなたを覚えておこう。
そこだ、そこだ、そこだ!
忘れちゃならない、大切なこと。
忘れちゃならない、大切なあなた。
新しきものに、心うつろう、その時に、覚えておこう。
新しきところ、心ひらける、その時に、忘れぬように。     
   

 
 
 
 
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 4

2019-08-27 06:01:25 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 4

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
上手から、ユキを呼ばわる声がして、麻衣があらわれる。
 
麻衣: ユキ……ユキ……!
ユキ: ねねこ!?
麻衣: ちがう、ねねこじゃないよ。麻衣だよ麻衣!
ユキ: ……庭の木の下で骨になってるんじゃあ……
麻衣: それは、ねねこのハッタリよ。わたし、ねねこにブタの人形に変えられていたの。ほら、ねねこが首からぶら下げていた。
ユキ: あのブタの人形?
麻衣: ねこばけは、生きた人間を物に変えてそれを肌身離さず持っていることで、その人間になりかわれるの。化代(ばけしろ)っていうんだって。
ユキ: そうだったんだ……でも、よかった、生きていてよかった! 生きていてほんとうによかった!(抱きつく)犬の姿だったら、ちぎれるほど尻尾をふってるとこ!
麻衣: ハハハ、顔をペロペロなめたりすんのもカンベンね。
ユキ: うん、ほんとはペロペロしたいんだけどね。(今にもペロペロしそう)
麻衣: アハハ、あたしもちょっとハメをはずして、いいかげんな生活していたから……ねねこ、それを見て、うらやましくなったんだろうね。ねねこが、ねねこだけが悪いんじゃないんだ。
ユキ: でも、相当性格悪いよ、あの猫。
麻衣: うん、でも、子猫の時からいっしょだったからね。
ユキ: じゃ、一人と一匹で、いっしょに反省だ!
麻衣: はーい……で、そっちの方、まどかはまだ見つからないんだよね?
ユキ: うん……犬の国へ行っちゃったかな……
麻衣: あたしもいっしょに探すよ。まどか、方向オンチだから、きっとまだそのへんをウロウロしてるよ。
ユキ: ありがとう。
麻衣: あ、ルブラン!?(遠くに着替え終わったルブランを発見する)
ユキ: もう着替えたんだ……あいつ、全部知ってたよ。わたしたちがここにいることも、水鉄砲で撃っていたことも……あいつには、この水鉄砲の薬、効かないんだ……
麻衣: 当たってなかったんじゃないの?
ユキ: 当たってた。ここへ来て、自分でもそう言ってた。だから、服も着がえに行ったんだ。
麻衣: けたちがいの化け物なんだ……
ユキ: 遊んでるように見えてるけど、ああやって、猫たちの訓練してるんだ。
麻衣: 猫好きの女の子が遊んでいるようにしか見えないもんね……
ユキ: ねこばけを増やして、何かとんでもないことを企んでいるんだ……
麻衣: 革命とか、世界征服とかね……
ユキ: うん。 
麻衣: アハハ、あたし冗談で……
ユキ: ルブランならありえる。
麻衣: ……幸子はどこだろう……化代にして身につけてるはずだけど。その薬、ルブランには効かなくても、化代には効くって。男爵がそう言ってた。化代を幸子にもどせば、ルブランも化けていられなくなる。
ユキ: 持ち物もみんな薬でびしょぬれ、もう何も身につけていないよ。
麻衣: でも、なんかあるでしょ、ポケットの中とか……
ユキ: それはないよ。全身ビチョビチョだったから、隠して持っていても水びたしだよ。
麻衣: 携帯で、誰かとしゃべってる……
ユキ: 誰としゃべってるだろう?
麻衣: 意地悪な顔して笑ってる。あれは人をいたぶって喜んでる顔だよ。何をしゃべってるんだろう?……ねえユキ……ユキ……
ユキ: (目を開けたまま固まってる)
麻衣: ユキ、ちょっと……どうしちゃったのよ、ユキ! やだ、固まっちゃた……
ユキ: (麻衣が叩くと、金属音がする)
麻衣: ちょっと、ユキ! ユキ!
ユキ: ……大丈夫、ちょっと手ごろな奴に魂とばして、話を聞いてたの。
麻衣: そういうことは、ヒトコト言ってからやってくれる。びっくりするでしょ。で、誰とどんなことしゃべってたの?
ユキ: 幸子さんと話してたみたい……「あんたのふりしてんのも飽きてきた。そろそろ消えてもらおうか」とか言ってた。
麻衣: あいつは並のねこばけじゃない。RPGで言えば、ラストの大ボス! 特別に魔力が強いんだ……薬も効かないし、化代も身につけなくていいくらいに……幸子は、きっと、どこかに閉じ込められているんだ。
ユキ: 閉じ込めるって、どこへ?
麻衣: とりあえず、幸子の家。行ってみよう。
ユキ: 待って、何かがひっかかるの……
麻衣: ひっかかるって、何が?
ユキ: 何かが……
麻衣: 何かじゃしょうがないでしょ。早くしないと、幸子は消されちゃうよ!
ユキ: ……ねねこが言ってた、猫は携帯電話なんか持たないって……そうだよね?
麻衣: だから、あいつは並のねこばけじゃないって! 携帯使って世界の支配をたくらんでるんだ!
ユキ: ちょっと待ってて(水鉄砲を麻衣に渡し、下手に去る)
麻衣: ユキ……! ったく、何を考えてんだ……あ、携帯とった!
 
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 3

2019-08-26 06:11:51 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 3

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
ユキ: ……子供が寄ってきた。
ねねこ: ちっ……子供は猫好きだからな。急いだ方がいいか……
ユキ: 子供たちがあぶないの?
ねねこ: いいや、子供に危害を加えることはないと思う……ただ、仕事がしにくくなる……
ユキ: 仕事?
ねねこ: お願いというのは(背中の水鉄砲をはずす)こいつで、あのルブランを撃ってほしいんだ。
ユキ: え……?
ねねこ: 見てのとおりの水鉄砲。ただし、中に薬が入ってる。
ユキ: 薬?
ねねこ: 猫の事務所からもらってきた「化猫を猫にもどす薬」
ユキ: え?
ねねこ: 天誅さ、天にかわって幸子の仇をうつ。同じ猫仲間として許せない。あたしは正義の味方猫ねねこ!(決めポーズ)
ユキ: ほんと?
ねねこ: ほんと。ね、お願いお願い、お願―い!
ユキ: でもでも、ルブランがもとの猫にもどって急に幸子さんがいなくなったら、幸子さんのお父さんやお母さん、きっと悲しむわよ。
ねねこ: 心配ない。今度は、あたしが幸子に化けるんだから。
ユキ: え、え……じゃあ、麻衣ちゃんの方は?
ねねこ: あたしの体は一つっきゃないのよ。
ユキ: じゃあ……
ねねこ: 二ヶ月もやったんだから、もうたくさんでしょ。
ユキ: でも、麻衣ちゃんのパパやママが……
ねねこ: まどかの魂は、探せばもどってくる。でも死んだ麻衣の魂がもどってくることはありえない、あたしが化け続けるのは、人の道にも、猫の道にもそむくことになる……むろん神様にも……(胸に十字を切る)家出したってことにする。ね、見かけもケバイねえちゃんになったから、家出くらいしたって、ちーっとも不思議じゃないでしょ。
ユキ: それって……
ねねこ: 死体を掘りおこして見せるよりましじゃん、でしょ……家出なら生きてるかもって……希望も持てるし……あたしの体は一つっきり! いろんな人をたすけようと思ったら、わりきらなきゃしょうがないでしょうが!
ユキ: あなたって人は……(ねねこの本心を見抜いている)
ねねこ: フフフ……思ったほどバカじゃないみたいね……そうよ。あたしは、なにも人だすけのためだけに化けてるんじゃない。楽がしたいの。おもしろおかしく生きていきたいの。それには、不自由な猫の体でいるよりも猫よりずっと気ままに生きてける人間の女の子になった方が……でしょ? そして、中産階級の三田村麻衣よりも、ブルジヨアの貴井幸子になった方が、何万倍もぜいたくできるじゃん! でしょ? だから鞍替えすんのよ鞍替え……待ちな……! どこへ行こうってのさ。ここまで聞いたら逃げらんないよ。もう、あんたはあたしの奴隷。妙な真似したら、あんたが犬だってバラすよ。体はまどかでも、頭はワンコ。さっき、電柱の横で思わず足が上がりかけたでしょ? 悲しむでしょうねえ……まどかのお父さんお母さん、娘が犬畜生だって知ったら……さ、早くこの水鉄砲を持って!
ユキ: 自分でやればいいでしょ!
ねねこ: できるくらいなら頼みはしないわよ。この薬は、猫が打ったんじゃ効き目がないの。さ、早く!(水鉄砲を渡す)
ユキ: だめよ、距離があるし、子供たちや他の猫たちもいるし……あ、鬼ごっこ。
ねねこ: ち……鬼ごっこなんかすんなよ、こんなところで……
ユキ: 無理だよ。
ねねこ: 悲しませる気か……自分を拾ってくれたお父さんやお母さんをををををを……よーくねらえ……今だ! どこをねらってる、左! いや、右!
ユキ: えい! はずれた……
ねねこ: 伏せろ! こっちを見てる……チャンス、今度はルブランが鬼だ!
ユキ: えい!
ねねこ: バカ、距離を見こんで撃たないか。銃口を上げて……上げすぎ!……右、左、遠すぎ! ちがう、そっちそっち、前だ! 前!(興奮しすぎたねねこが、ついユキの前に出てしまう)動いた、右、左、今だ! 
ユキ: えい!(あやまって、前に出すぎたねねこを撃ってしまう)
ねねこ: う……どこをねらってる……!?
ユキ: わざとじゃないよ、ねねこが前に出ちゃうから……
ねねこ: う……く、苦しい……猫の姿にもどってしまう……ユ、ユキのバカヤロー!(もがきつつ上手に去る)
ユキ: ごめん、だってねねこが……ねねこ……あ、猫にもどっちゃった……動かない……死んじゃったのかなあ……
 
いつの間にかルブランがラクロスのスティックを手にあらわれている。
 
ルブラン: 気絶しているだけよ。ほっとけばいい、あんな未熟者。そのうち目が覚めてどこかへ行くでしょう。
ユキ: ……
ルブラン: ルブランでいいわよ。知ってるんでしょ、わたしのこと? あなたの射撃、ねねこが言うほどには下手じゃなかったわよ。犬にしておくにはもったいないくらい。おかげで服も持ち物もびっしょびしょ。
ユキ: ……!?
ルブラン: 効かないのよ、わたしには。
ユキ: だって、ねねこは……
ルブラン: あんな下等な化猫といっしょにしないで。あいつは、ただ人に化けて、いい思いがしたいだけ……わたしは違うのよ。猫のエリートを育て、その子たちを人間に化けさせて……そこから先は、ヒ、ミ、ツ……ホホホ……じゃ、また町内の猫たちの訓練をしようっと。あなたたちには、ただの鬼ごっこにしか見えないでしょうけどね……おっと、その前に、濡れた服を着替えなくっちゃね。バキューン(ラクロスのスティックでライフルを撃つ真似をする)今度邪魔したら、許さないからね(去る)
ユキ: ……あいつ、全部知ってんだ……
 
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 2

2019-08-25 06:07:48 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 2

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
ねねこ: それにしても、うまく化け……(ぐるっと、ユキのまわりを一まわりして、おぞけをふるう)……その体はまどかそのもの……ユキ、おまえ、まどかに憑いたね……!?
ユキ: ちがう、それはちがう!
ねねこ: なにがちがう。人間の目はごまかせても、あたしの目はごまかせないよ。
ユキ: ……だれ、あなた……そういうあなたこそ、三田村麻衣じゃないわね?
ねねこ: フフフ……にぶい犬だ、まだ気がつかないのかい?
ユキ: ……!?
ねねこ: ねねこよ、あたし。
ユキ: ねねこ……!
ねねこ: そんなバイ菌を見るような目で見ないでくれる。あたしは、コソドロみたいに人の体をのっとったりはしないわ。これは、わたしの磨き上げたテクニックで変化(へんげ)した、芸術品ののような三田村麻衣の姿よ。
ユキ: ねこばけ……
ねねこ: ありがとう。名誉ある称号をおぼえていてくれて。犬は間抜面して尻尾ふるしか能がないけど、あたしたち猫は、たとえ飼主であろうと媚をうらず、独立自尊の風を失わず。その化学(ばけがく)は、時に、狸や狐をもしのぎ、その変化(へんげ)の術は、人で申さば人間国宝、匠のきわみ。なかんずく、このねねこは遠く鍋島猫騒動のねこばけの嫡流。エスタブリッシュの頂点……なんて、むつかしい言葉を並べても、犬の頭じゃ理解できないわね。
ユキ: どうして、麻衣ちゃんに化けているのよ?
ねねこ: 言ったでしょ、バイ菌見るような目で見ないでって。ねこばけの値打のわからない下等動物とは口もききたくない……と他の犬なら、そう言って後足で砂をかけておしまいだけど。ほかならぬ、今は亡き主の親友の飼犬ちゃん……
ユキ: 今なんて言った……今は亡き……?
ねねこ: そう、今は亡き……麻衣ちゃん、死んじゃったのよ。
ユキ: うそ……
ねねこ: ふた月ほど前の夕暮れ時、コンビニに行こうと、急に家の前にとび出した麻衣ちゃんを、トラックが……即死だった……おり悪しく、ちょうどたばこ屋の角を曲がって、お母さんが帰ってくるのと同時……とっさに、あたしは麻衣ちゃんの亡骸を隠し、大あわてで麻衣ちゃんに化けたの……それからふた月、お父さんやお母さんの悲しみを思うと、もとのねねこの姿にもどることもできず、悲しい変化(へんげ)を続けているの……
ユキ: 麻衣ちゃんは……?
ねねこ: 庭の桜の木の下。猫の魔法で瞬間移動させて……今、静かに土に還りはじめている……
ユキ: そんな……麻衣ちゃんが……
ねねこ: 麻衣ちゃんが死んだって知ったら、麻衣ちゃんのパパとママは、どんなに悲しむことか……それを思うと夜も眠れず、変化のストレスも重なって……あたし、近ごろナーバスなの……
ユキ: なんてこと……ふた月も前から……だから、まどか、あんたのこと敬遠してたんだ……一番の親友だったのに……どうせ化けるんだったら、もう少し……性格とか、もっと麻衣ちゃんらしく……
ねねこ: 姿形はともかく性格まではね……ところで、ユキはどうして、まどかの体にとりついたりしてんのさ?
ユキ: ……
ねねこ: 言っちゃいなよ。あたしは全部ゲロしちゃったんだから、今度はユキの番だよ。
ユキ: 今朝……目が覚めたら、入れ替わっていたんだ……
ねねこ: 今朝?
ユキ: まどかって、時々、心ここにあらずって顔してる時があるでしょ。
ねねこ: うん、よくボーっとしてるよね。
ユキ: あれって、ほんとに心がないんだよ。
ねねこ: え?
ユキ: 体から、魂が抜けて、フワフワしてんの。そういう時、わたしも時々、まどかの体の中に入ったりしていたの。
ねねこ: え、ユキって、そんなことができるんだ!?
ユキ: うん、子犬のころから、「あ、この人って何考えてるんだろう……」そう思うと、ふうっと相手の中に入れたりしたんだ。
ねねこ: そうなんだ。
ユキ: もっとも、ほかの犬や人には嫌がられることが多くて……それで、犬の国を出てきちゃったんだけど……
ねねこ: え……ユキって、犬の国出身なんだ。
ユキ: うん、そうだよ。この妙な癖がなかったら、とっても住みやすいところ……でも他の犬には内緒だよ。この町の犬は、犬の国の出身てだけで白い目で見るんだから……
ねねこ: うん、わかった……そいで、どう。まどかの体に入って、どんな具合?
ユキ: うん、表面はいい子ぶってるけど、実際は不安と不満だらけの子なんだ。そのひずみが、体のあちこちに出ていて……今も、肩と腰にエレキバンはってんの……
ねねこ: ハハハ……
ユキ: 入試のことも気になってるみたいで……胃にもきてんの……ゲップ……ごめん。
ねねこ: で、まどかは、犬のユキの姿で町をうろついてるんだ……
ユキ: ひょっとして、犬の国へ行ってしまったのかも……昨日、携帯で犬の国の友だちとしゃべっていて……とてもなつかしくって……それを聞いて、行っちゃったのかも……まどかって、すぐに人のことうらやましく思っちゃうから……
ねねこ: 犬が携帯もってんのか!?
ユキ: もってるよ。犬は淋しがり屋で仲間意識が強いから。人間にはわからないように、骨の形とかしてるんだ(見せる)
ねねこ: ふーん……ほんとに骨にしか見えないね……
ユキ: 猫は携帯とか持たないの?
ねねこ: もたない。趣味じゃないのよ、そういう携帯とかでベタベタした関係……
ユキ: 猫って……
ねねこ: 性にあわないんだ。嫌いって言ってもいいよ。べつに好かれようなんて思ってないから。でも、ユキのことは友だちって思っているよ。だから、こんなにいろいろ話をするんだ。
ユキ: 友だち? わたしは思ってないけど。
ねねこ: でも、あたしは思ってんの!
ユキ: 猫って、勝手……きっと(下心が)……
ねねこ: で、友だちとして、一つお願いがあるんだけど……
ユキ: ほらきた。
ねねこ: ほら、あそこ。茂みのむこうのベンチに、幸子がいるでしょ、貴井幸子。
ユキ: え……うん。
ねねこ: 二年B組のタカビーちゃん。制服姿は、わたし達平民といっしょだけども、彼女、貴井建設の社長のお嬢さん。
ユキ: え、貴井建設って、テレビでコマーシャルとかやってるゼネコンの!?
ねねこ: そう、高速道路とか、空港とか、バンバンつくって儲けてる。
ユキ: でも、幸子さんの家って、普通の家だよ。失礼だけど、社長さんて感じじゃあ……
ねねこ: 本宅は、田園調布にあるんだよ。去年、親子げんかして、とび出してきたんだ。ほら、一年の秋ごろ転校してきたでしょ。
ユキ: ……でも、そんな高ビーのお嬢さんがこんな公園で日向ぼっこする?
ねねこ: 庶民をヘイゲイしてんのよヘイゲイ。わかる? 人を見下して喜んでんのよ。
ユキ: まさか……おだやかに半分目をつむって……まるで猫のお昼寝という感じだよ。
ねねこ: そう、猫のお昼寝なんだよ、猫の……
ユキ: ……!?
ねねこ: わかった?
ユキ: まさか……
ねねこ: そう、あいつも猫。幸子が飼ってたルブランて猫。卒業まぎわに、また転校するって噂。それでピンときて調べてみたら……ルブランに入れ替わっていたってわけ。あいつ、田園調布にもどって、あらんかぎりのぜいたくをしようって腹よ。
ユキ: ……悪い猫……で、本物の幸子さんは?
ねねこ: 殺されたか、食われたか……
ユキ: ええ!?
ねねこ: ……猫が寄ってきた……二匹……五匹……どんどん増える。
ユキ: みんな町内の飼猫だ……
ねねこ: 手なずけてんのよ。きっと田園調布まで連れてって、手下にするつもりでしょ……
 
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 1

2019-08-24 06:06:30 | 戯曲
ユキとねねことルブランと……
栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
 
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
闇の中、猫たちの無秩序で無統制な声々しばらく続く。「おだまり!」とルブランの凛とした一声で、水を打ったように静かになる。同時に、舞台明るくなる。舞台は栄町の公園。中央に、この町の高校二年生、貴井幸子の姿をしたルブランが、舞い散る桜吹雪の中、猫達(姿は見えない)を睥睨している。
 
 
 
ルブラン: おまえたち、いいかげんにしないと三味線の皮にしちゃうよ!(猫達のしょげた声)
 
ルブランの携帯が鳴る。手にしたラクロスのスティックを持ちかえ、腰につけた大そう立派なケースから、美しい携帯を出す。同時に猫達に「あっちにおいき」とあごでしゃくる。猫達の気配ほとんどなくなる。
 
ルブラン: ……いいこと、あなたはわがままだったのよ。どうしようもなくね。因果応報、むくいよ……だめ! 今ごろ泣きごと言ったって。恨むんだったら、自分を恨みな。人のことをちっとも考えない。自分の気持ち、欲望だけ。最低だったわよ!! そんなあなたに、終止符を打ってあげたの。エンドマークを出してあげたの。反省……? しても遅いわよ。もう人間として生きていく資格なんかなし! 世界のためにも、これしかないの! これからは、わたしがやるわ。あなたに代わって……そう、泣けばいい、わめけばいい。もう誰にも聞こえやしない。そうやって、自分の愚かさとみじめさを思い知るがいい! ホホホ……じゃ、またお話しましょ。これからは何度でもいたぶってあげる。もう少しあなたの心をえぐってやりたいけど(人の気配を感じて)じゃ、またね……。
 
携帯のスイッチを切り、上手方向に目線を残しながら下手に去る。二三匹居残った猫が「ニャー」と後を追う。いれかわりに、同じ高校二年生の犬塚まどかの姿をしたユキが、声をひそめ、まどかを探しながらあらわれる。
 
ユキ: まどか……まどか…………まどかったら……どこ行っちゃったのよ。まどか……たまんないよ、ほんとに……まどか! たのむよまどか……どうすんのよ、こんなになっちゃって……まどか! 冗談じゃないわよ……お願いまどか。出てきてまどか……出てきてちょうだい、まどかあ……
 
同様に、同じ高校二年生の三田村麻衣の姿をしたねねこがあらわれる。背中に大きな水鉄砲を背負い、腰にチャラチャラとひかりもの、鞄を手に、首にブタの人形を下げている。
 
ユキ: まどか……まどか……(ねねこに気づき)ユキ、ユキ……どこにいるの、犬塚さんちのユキ……
ねねこ: なにやってんの?
ユキ: あ、麻衣……いつからそこに?
ねねこ: ついさっき。公園の前を通ったら、まどかの姿が見えて……何か探してんの? ひょっとして……
ユキ: ユキ、ユキ探してるの。目が覚めたらいないの。庭の柵が開いていたから、一人で散歩に出かけちゃったんじゃないかと思うの。
ねねこ: それは心配ね。まだ子犬なんでしょ?
ユキ: うん、一才ちょっと……人間でいえば、わたしたちくらいかな。
ねねこ: へえ、もう一才過ぎたんだ。
ユキ: 小柄な子だから……でも、雑種のノラ犬、賢い子だからそう心配はないと思うんだけど……。
ねねこ: へえ、ユキってノラだったんだ。
ユキ: お母さん、動物嫌いのくせに見栄っ張りだから、紀州犬だって言ってるけど。ほんとは、お父さんが酔った勢いで、この公園で拾ってきたの。
ねねこ: そうなんだ。
ユキ: で、けっきょく、わたしがユキの世話係ちゅうわけよ……おーい、ユキいいいい……
ねねこ: まどか、今日は、ちょっと久しぶりだよね?
ユキ: そう……?
ねねこ: このふた月ほどは、ろくに顔もあわせてないよ。
ユキ: そう? だったらごめん。
ねねこ: ひょっとして、麻衣のこと敬遠とかしてる?
ユキ: ううん……たまたま。
ねねこ: たまたま?……はっきり言いなさいよ。そういうずるい言い方嫌いだし、あたし。ほら、また目線が逃げる。何か思ってる証拠。かまわないから、はっきり言って。
ユキ: えと……じゃ、このごろ麻衣、変わっちゃったりしてない?
ねねこ: あたしが?
ユキ: うん……派手になったつうか、お化粧とかもしてるし、ジャラジャラひかりもんとかぶら下げてるし……それはいいんだけど、学校でも、よく居眠りとか、ちょっと気むつかしくなった感じ……?
ねねこ: ふーん……
ユキ: はっきり言えっていうから……気ィ悪くしたらごめんね。
ねねこ: ううんいいよ、気にしてないから。あたしもいっしょに探してあげようか?
ユキ: いいよ、そんな……
ねねこ: いいよ、探してあげるよ、行方不明のまどかのこと……
ユキ: え……!?
ねねこ: 実は、ずっとさっきから、あんたのことはわかっていたのさ。あんたの探しているのは、犬のユキなんかじゃない。人間のまどかだ! どうだい、違うかい? 犬塚まどかさんちの飼犬のユキさんよう……
ユキ: キャイーン……!
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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・3

2019-08-23 06:16:51 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・3
 
  大橋むつお
 
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  下段に連絡先を記します
 
 
 
 
時 ある日ある時
所 桜梅公園
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
 ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
 咲江           百江           リポーター
 ルミ           純子           カメラ
 春奈           ねね           音声
 千恵           やや
 その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
 
 
 
 カメラ、ゆきとさくらの鍔のアップからひいて、舞台を上手から下手へ、ゆっくりなめる。(平行移動しながら撮る)、舞台が狭い時は、カメラ、音声共に舞台下に降りて撮っても良い。しかし、ここ一番撮ってますっていうカメラマンの気迫は示してほしい。カメラ下手までまわりきったところで、リポーターのOKサイン。
 
リポーター: オッケー!
カメラ: よかった、バッテリーちょうどいっぱいでした。
やや: 一分無かったよ……
カメラ: アップとロングくりかえすと、早くあがっちゃうのよバッテリー。
やや: そうなんだ。
さくら: みんなありがとう。
ゆき: ギャラは出ないけど……
リポーター: テレホンカードあげるわ、人数分、カメラさん、くばってあげて、
一同: ワーイ!
 
   テレホンカードが配られている間、レポーター、爪をかんで考えていたが……
 
 
リポーター: 音声さんはまだバッテリーいけたわよね。
音声: はい、まだ大丈夫です。
リポーター: みんなね、絵は撮れないけど、音声が生きてるの、あの婆ちゃん(なるべく古く、でも観客のみんながのりそうな歌、例「青い山脈」「上を向いて歩こう」等々)の歌が好きだから、どうだろ、大先輩のために、アカペラだけど歌ってもらえるかな番組のBGMに使いたいの、お婆ちゃん、きっとよろこぶよ。
 
   「わたし知ってる!」「賛成賛成!」「やろうやろう!」「全部は知らない」「知ってるところだけでいいよ」「アアアアアー(発声練習)」などなどあって……
 
レポーター: じゃいきます……オオ?!(カラオケが鳴り出す、文化祭などなら、カラオケという設定でピアノなどの生演奏の方がいい)
音声: ちょうどカラオケテープがあったんで……
リポーター: さすがITV(田舎テレビの略)の音声さん! さあ、観客のみなさんもごいっしょに! せえの!……
 
 
   舞台全員、そして観客席もまきこんだ大合唱になり、のり方により曲の途中でワンコーラスで、ツーコーラスで、幕。
 
 
【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866大阪府八尾市東山本新町6-5-2
 
 上演される時はご連絡ください。上演料は入場料を取らない無料公演(文化祭・コンクールなど)の場合必要ありません。入場料を取る公演では一回上演につき5000円の上演料をいただきます。 
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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・2

2019-08-22 06:09:32 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・2
 
  大橋むつお
 
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
 
 
 
時 ある日ある時
所 桜梅公園
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
 ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
 咲江           百江           リポーター
 ルミ           純子           カメラ
 春奈           ねね           音声
 千恵           やや
 その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
リポーター: おつかれさまあ。
ゆき: なんだ、そんなところから撮っていたんですか?
リポーター: いい絵がとれたわよ。
さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、とりまきをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……
 
   カメラが舞台に上がると、そろりそろりと、双方の生き残り数名が、ある者は、はにかみ、ある者はニコニコとカメラを意識して舞台に上がってくる
 
リポーター: 大丈夫、クライマックスはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。
咲江: ローアングルって、下から撮ること?
ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。
ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。
リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。
百江: さくらってペチャパイだからね。
純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃない?
さくら: うっさいよ、あんたたち!
リポーター: バストアップって、胸から上しか撮ってないってこと、ほんとはカメラ二台使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。
ゆき: ちょっと後からギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!
さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!
ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。
やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。
リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。
カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。
春奈: ええ?! じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。
リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。
春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。
千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。
百江: 放送局のケチ!
音声: 音声は生きてるんだけど……
百江: え! 音声さん美人よ! ねえ!
純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。
咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……
ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。
ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。
音声: いま切った。
さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。
春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ
さくら: その他多勢、エキストラって意味だよ!
一同: だって……!
やや: ねえ……
ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。
千恵: こっちも似たようなものよ、
ゆき: ちゃんと説明したろ。
さくら: 聞いてないんだろ。
百江: やっぱマニュアルとかさ……
リポーター: これはね、老人ホームに入ってる婆ちゃんたちが、取材に行ったらね。旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校でよく果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。
ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……
春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。
純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながら話してた。
さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!
ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……
咲江: だって……
リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!
 
 
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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・1

2019-08-21 05:37:28 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・1
          
 
 
大橋むつお
 
 
時 ある日ある時
 
所 桜梅公園
 
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや
その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
 荒野の決闘を思わせるような曲が流れるうちに幕があがる。そろいのセーラー服に、それぞれ寸をつめたり、スカートの丈をかえたり、リボンの結び方が違ったり、それぞれ制服でありながら個性を主張するいでたちの十数名の集団が、スケバンのゆきを中心に、ドスをきかせながら(本物のワルになりきれない可愛さを残すこと)客席奥を睨んでいる。睨んだその先には(客席後方)違う制服の集団が似たような人数、いでたちで、舞台上の集団を睨んでいる。こちらのスケバンはさくらという。双方手に、百均のビニールの刀、ビニールのバット、水鉄砲など、いかにもチープな得物(武器)を構えている。
 前者を白梅学園女子中等部やさぐれ白梅隊と言い、後者を八重桜女学院中等部はみだし八重桜隊と言い、戦前の女学校時代からの宿敵同志である。この年、とある理由から何十年ぶりに、両校の中ほどに位置する桜梅ケ原と昔は言った、桜梅公園の東西にわかれ、果し合いの寸前である。
 
ゆき: おう、八重桜女学院中等部の諸君! 本日は白梅学園中等部の我々が、高等部のお姉様連になりかわり、宿怨のうらみを果たしにこの桜梅ケ原、現桜梅公園に打ちそろった。すぐる大正三年の創立以来の雌雄をここに決する覚悟、かく言うあたしは白梅学園中等部三年一組、出席番号四番、やさぐれ白梅隊隊長園城寺ゆき! 尋常に勝負しろい! それとも、このゆき姉さんの啖呵に恐れ入ってしっぽを巻いて逃げ出してもいいんだぜ……
さくら: なにぬかしゃあがる。昔の夏休みみてえに長げえ御託並べやがって、こちとら気が短えんだ。おめえたちみてえに高えところに登らなきゃあ、威勢の出ねえ弱虫は一人もいねえんだ。負ける前にこれだけは覚えておきな。あたいたちは八重桜女学院中等部、はみ出し八重桜隊! そしてこのあたいが総長の長船さくらだ! 逃げたい奴は、今のうちだ、こちとら気が短え、三つ読む間にそこを降りなきゃ、引き摺り下ろして、三つにたたんでやらあ!……ひとおっつ……ふたあっつ……みっつ……ほう……いい根性だ。女郎ども、たたんじまえ! 
   
 この掛け声をきっかけに、大昔のチャンバラのBGМ、客席で黄色い声をあげながら、双方二十秒ばかり戦う。数組が舞台で戦っていたが、それも三十秒も立つ間に、ゆきとさくらだけになってしまう。二人つばぜり合いをしながら……
 
ゆき: ちょ、ちょっと、あたしたちだけになっちまってるよ。
さくら: え、ええ!?
ゆき: どうする?
さくら: だってカメラまわってんだろ、どっかで!?
ゆき: 声が大きい、マイクに入っちゃうよ。
さくら: だって……
ゆき: 一応、決めたとおりに……
さくら: 相打ちってことで……
ゆき: 山形三回(上段の構えで三回打ち合うこと)
さくら: ぐるっとまわって、場所入れ替わって天地(上段と下段の打ち合い)三回、さっと離れて、あたしが胴を。
ゆき: 胴抜きはあたし、さくらは面打ち!
さくら: 声が大きい!
ゆき: あんたに言われたかないわよ。
さくら: じゃ、いくよ!
 
 チャンバラのBGM、急速にフェードアップ、クライマックスを暗示する。テキストどおり山形と天地を打ち合った後、気合とともに相打ちとなり、二人とも、あらかじめ仕込んでおいた血の紙ふぶきを派手に撒きあげて、見栄をきる。大向こう(客席後方)から「よっ、ゆきっちゃん!」「ゆっきー、かっくいい!」「ゆっきちゃーん!」「さくらや!」「千両桜!」などと掛け声がかかる。上手寄りの客席からカメラとリポーターが上がってくる。
 
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