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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!18『知井子の悩み・8』

2024-10-02 08:25:57 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
18『知井子の悩み・8』 




 浅野さんはうつむきやがったが、マユはたたみかけたぜ。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」

「それは他のだれかが間違えているのよ。スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」

「ん……ああ、やっぱり」

 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だった。


 エアコンの音だけが静かに際だったぜ。


「……これは、ただの白紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えてるんだ」

「だ、だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」

「拓美、あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えてないの。無いものだってあるように見えているだけ……」

「そんな……ありえない……(◎_◎;)」
 
 浅野拓美の目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきやがったんだ。

 ゴオオオオオオ! ガチャガチャガチャ!!

 部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「ああ、こんなにしちまってぇ……」

「……わたしじゃない、わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」

「かなり重症だな。とりあえず片づけよ」

 マユが指を動かすと、部屋はあっと言う間に元の姿に戻った。

「あ、あなたって……やっぱり魔法少女?」

「悪魔だ! 小悪魔だけどな。もう一度、落ち着いて書類を見ろ」

「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」

「何もしてねえ、おめえにも、本当のことが見えてきたんだ」

 ガタ ガタガタガタ……

 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で拓美の霊力を封じたぜ。

「拓美に自覚はねえんだろうけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたんだ。だから、最初にスッタッフのおっさんが注意していただろ」

「わ、わたしは……」

「そう、そんなつもりも、自覚もねえ。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちにやっちまったんだ」

 それでも飲み込むこめねえで、頭を抱えてやがる。

「仕方ねえな……」

 ガラガラ!

 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、拓美にオイデオイデをした。

「外に……?」

 窓ぎわに来た、マユは拓美の脚をヒョイとひっかけ、背中を押した。

「キャー!」

 悲鳴を残して、拓美は、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。


「……わたし、いったい?」


 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いてやがる。

「見てろぉ!」

 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってき驚く拓美。

 そして、その直後、マユは頭を下にして、真っ逆さまに落ちてやった。地面につく直前に一回転して、体操の選手みてえな決めポーズで着地したぜ。

「す、すごい……すごい、超能力!」

「おめえだって、今やったじゃねえか。マユは悪魔だから、おめえは幽霊だから怪我一つしねえんだ。周りのやつらを見てみろ。だれも、マユ達に無関心だろ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのによ」

「どうして……」

「ほら、今、男がおめえの体をすり抜けていくぞ……」

 拓美は、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男は彼女の体をすり抜けていった。

「あ、あの人って、幽霊?」

「幽霊はおめえだ!」

「で、でも……」

「まだ、分からねえ? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃねえ。戻ると思えば、それでいい」

「え、あ……」

「さっさと思え!」

「は、はい!」

 一瞬で部屋に戻った。

「わたし、やっぱり……」

「やっと分かったかぁ(-_-;)」

 もとの部屋に戻って、拓美は萎れた朝顔みてえになっちまった。

「……一次選考のあと交通事故があった。わたしはすんでのところで……」

「助かったんじゃねえ、死んだんだ。可愛そうだけど、それが真実だ」

「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」

「そうやって、おめえが居れば、おめえは無意識のうちに、人に怪我を……いいや、今日は殺してしまうかもしれねえ。それだけ、おめえは危険な存在なんだ」

「……じゃ、どうすれば」

「もう、あっちの世界に行っちまえ」

「あっちって……?」

「死者の世界だ」


 拓美は目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリしやがった。

「マユが、送ってやるよ」

「うん。仕方……ないのよね」

「じゃ、いくぞ。目を閉じろ」

「うん……」

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念してひとまわり小さくなる拓美。その姿は、ハンパな小悪魔には、ちょっと心の痛む姿だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!17『知井子の悩み・7』

2024-10-01 08:39:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
17『知井子の悩み・7』 




 選考会場のHIKARIシアターに全員が集められたぜ。


 会場は、いかにもプロダクションのスタッフってやつらで一杯だ……偉そうなおっさんがマイクを持って舞台に現れやがったぞ。

「簡単に、注意事項を言っておきます。携帯やスマホは持ち込み禁止。持ってる人がいたら直ぐに控え室のロッカーに入れにいくこと。全員の選考が終わるまでは、ここは出られません。選考委員はこの会場のどこかにいますが、受験生の君たちには秘密です。ここにいる関係者全てを選考委員、いや、観客のつもりでやってください。それから……」

 マユには分かったぜ。スタッフのみんなが審査用のファイルを持ってやがるけど、大半はフェイク。

 サーチの感度を上げると五人が本物だと分かった。黒羽Dはメガネにキャップ、腰にはがち袋を下げて道具のスタッフに化けてやがる。

 そして、驚いたことに選考委員長は、あの会場整理のしょぼくれたおっさん……いや、よく見るとジジイ。なんか、仕事に生きがい感じまくりで、実年齢よりも若く見えやがる。

「それから、もう一点。二次選考で、演技中に怪我をする人が四人もいました。気合いが入ることは結構だけども、くれぐれも怪我のないように注意するように」

 受験生たちから、密かなどよめきが起こった。半分以上のやつが、その事故を目にしてるみてえだ。

「知井子、あがり性だから気を付けろよ」

「う、うん(;'∀')」

 もう、あがってやがる(^_^;)。


「じゃあ、一番の人から」


 プツン……


 一番のやつが舞台に上がったとき、照明と音響が落ちて非常灯だけになって。スタッフが慌てて駆け回りやがる。

 照明と音響のチーフが、お手上げのサイン。

 しばらくは復旧しねえ。マユが、魔法で照明と音響の電源を落としてやったんだからな。

 消えかけの炎みてえな非常灯だけになった会場はいい雰囲気だぜ。受験者のやつらを微妙に不安にさせてよ。なんだか地獄の入り口で審問を待ってる亡者どもみてえで、ちょっと懐かしい。地獄の番犬ケルベロスがいつもニヤニヤしてやがったのはこういう感じなのかもしれねえと思ったぞ。

「ちょっとトラブルのようなので、しばらく、そのまま……いや、控え室で待機して。復旧しだい再開します」

 偉そうなおっさんが、本来の小心さに戻ってうろたえてやがる。

 言っとくけどな、マユは意地悪でやったんじゃねえ。微妙に邪悪な気配を感じたんで電源を落としてやったんだぜ。


 控え室に向かう受験者の一人に声をかける。

「浅野さん、ちょっと」

 ヒ

 優しくやったんだけどびっくりさせちまう。

 マユも慣れてねえのかもな。

 優しく言うとかやるとかはな、猫が二本足で立つようなもんでよ、ちょっと不自然でしんどいんだ。けどな、いっちょまえの悪魔なら、これくらいはやれなくちゃならねえ。

――わたしに付いてこ……きて――

 マユは前を向いたまま唇も動かさず優しく言ったぜ。

「マユ、どこにいくのよ?」

「ちょっと用足し。すぐに戻るから控え室で待ってて」

 知井子は、一人にされて不安そうだったけど、大人しく控え室に向かった。

 そして……知井子には一人で、廊下を歩いていくマユしか見えていなかった……。


「さ、ここがよろしげだわ」


 マユが、ヒョイと指を動かすと、施錠された小会議室のドアが、カチャリと開いた。

「どうやって……( ゚Д゚)?」

 浅野という子は、目を点にして驚きやがった。

「早く入って、ドアを閉めてちょうだいませください」

 ああ、優しくってのは慣れねえぜ(-_-;)

 浅野という子は驚いた。部屋の椅子や机が勝手に動き、ちょうど二人が向き合って話しをするのに都合いい配置になったからで、むろんマユの魔法だ。

 驚く方に気がいって、マユのへんてこ丁寧語は気にならねえみてえで助かる。

「あ、あなたって……魔法少女だったりして?」

 浅野という子は、洒落っぽく言うことで怯えを隠した。

「座ってませください……ウウ……わたしはマユ。でもって悪魔、小悪魔だけどね。だから、おまえの、貴様の、あなたのことが見えるんじゃ、です」

「あ、悪魔……」

「で、浅野さん。あなたは、もう死んでるのよ」

 やっと、短いけど丁寧語で通せると、浅野という子の顔は、困惑に満ちてきた……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野さん     オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!16『知井子の悩み・6』

2024-09-30 07:31:03 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
16『知井子の悩み・6』 


 

 オーディションはHIKARIシアターで行われたぜ。


 HIKARIプロの常設劇場なんだけどよ、午後は、そのアイドルユニットの公演がおこなわれるんで、午前八時という異例に早い開始時間なんだぜ。

 歌うにしろ踊るにしろ、きちんと体調、声の調子を合わせにくい時間帯だ。

 マユは思った。わざと、そういう時間帯を選び、オーディション受けるやつらの本当の適性とやる気を見定めるつもりなんだ。黒羽ディレクターの意地悪にも見える本気度がよくわかったぜ。
 
 知井子と駅で待ち合わせして、会場へ行ったぜ。

 そこで、また驚くことがあった。

 会場には三十分前に着いたんだけどよ。もう、ほとんどの奴が来てやがる。

――あと、一人だな――

 会場整理のおっさんが、そう思ったことでわかったぜ。

 そして、このおっさんが、ただの会場整理でないこともな……。

 二三分して最後のやつがやってきて、全員がそろったんだけどよ、時間までは会場には入れねえみてえだ。

 そうやって外で待たせている間にも、おっさんやスタッフ、そして監視カメラなんかが、みんなの様子を観察してやがる。

 もう、すでにオーディションは始まっていることをマユは理解したぜ。

「さあ、時間です。受付を済ませた人は、指示された控え室に入って」

 偉そうなスタッフが、ハンドマイクで穏やかに誘導しやがる。

 受付もなにも、ここに着いた時に胸に付けるように配られたバッジにチップが組み込まれていて、カメラや、スタッフの特殊なメガネを通して個人は特定できるようにしてあるんだけどな。


 受付をすませて、マユは驚いたぞ。


「これって、最終選考だぜ……新ユニットの」

「マユ、気がついていなかったの?」

 知井子が不思議そうな顔をする。

 マユは、やっぱり自分をオチコボレの小悪魔だと思い知った。人間が目につかないことばかり見て、会場の正面に貼り出されていた看板を見落としていたんだぜ。

――HIKARI新ユニット最終選考会――

 受付から先は本人しか入れねえ。母親といっしょに来ているやつも半分近くいてよ、まるで、長期留学の見送りみてえだ。

 試しに心を読んでみると、その親子は、はるばる北海道から来てやがる。他にも、九州や四国から来てるのもいやがる!

 そして、すごいことを読み取っちまった。

「なあ、知井子。このオーディション2400人も受けてたんだぞ!」

「そうだよ、一次で400、二次で、46人まで絞られてたんだよ」

 平然と言う知井子に驚いたぜ。そして、そんなオーディションの最終選考に二人を横滑りのように入れた黒羽のおっさんにもな。


 準備室に入って、また驚いたぜ!


 みんな真剣に、でも静かに着替えてやがる。着替え終わると声も出さずに歌ってるやつ、壁に背中をあずけて姿勢をを整えるやつ、ストレッチをやるやつ。マユみてえにキョロキョロしてるやつは居ねえ(^_^;)

「なあ、知井子……え?」

 横を向くと、知井子も、他のみんなと同じような闘志をみなぎらせ、口パクしながら振りの確認に余念がなかったぜ。

 こっちに補習に来させられてよ、学校や街で若いやつらを見たり混じったりして分かったつもりでいたけどよ、ちょっと認識を改めたかもな。

 そんで、そのエモーションみてえなのにあてられて……いつもなら見落とさねえ気配に気づかねえマユだったぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!15『知井子の悩み・5』

2024-09-29 08:36:11 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

15『知井子の悩み・5』 




「いつまで、親を待たせるつもりなんだ(`Д´)!」
 

 黒羽Dは三十分遅れて応接室に入ってきやがった。

「怒鳴っちゃいけませんよぉ。また心臓がぁ……キャ」

 知井子が心配そうにジイサンの腕をひくけど、ジイサンは意外に力があって、瞬間、知井子をぶら下げる感じになって笑いそうになったぜ。

「なんだよ、この子たちは?」

 事情を呑み込んでねえ黒羽Dは機嫌が悪い。仕事を中断してきたせいか、ジイサンにムカついてんのか、元々そういう親子関係なのか。

 ククク、こういう棘を孕んだ関係ってのは、ちょっと好きだぜ( ´艸`)。

「おまえからも礼を言え。俺が地下鉄の駅で発作をおこして、死にかけているところを助けてくれたんだぞ」

「え、大丈夫かよ、オヤジ( ゚Д゚)!?」

 瞬間でマジな顔になりやがる。ちょっと波乱を予感したのに、つまらん。

「礼を言うのが先だ」

「あ、そうだな、どうもありがとう。ボクも地下鉄の入り口でオヤジのこと待っていたんだけどね、急用で呼び戻されて。ほんとうに迷惑をかけたね、ありがとう」

「呼び戻されたなんて、白々しいことを。下手な言い訳をするんじゃない」

「ほんとうだよ、オヤジ……」

 黒羽は、言い淀んでしまった。ウソをついてやがるからじゃねえ、親父の発作に間に合わなかったことが後ろめたいんだ。マユは、ジイサンが思いこんでいるほど悪いジジイじゃねえと感じたぞ。

「あ、ほんとうです。地下鉄の入り口でずっとお爺さん待ってらっしゃいました!」

「ほんとうかね……」

「は、はい(#'∀'#)」

 自分のことではなんにも言えねえ知井子が真剣に弁明する。並の人間が言うとムカつくんだけどよ、知井子のは微笑ましくて、ついほっぺたが緩んじまうぜ。

「……あ、思い出した。店の前で、シャメ撮ってたよね。そのゴスロリに見覚えがある!」

「この子たちはな、駅の階段で苦しんでいる俺を……そっちの子は、階段の下まで行って、腹這いになって転んだ薬瓶を探してくれて、こっちの子は、薬を口移しで飲ませてくれたんだぞ」

「口移しで!?」

「あ、とっさのことだったのでぇ(#^○^#)」

 マユも思わず猫を被っちまったぜ。

「そ、そうか済まなかった。あ、その服は、買ったばかりだろう」

「あ……いえ」

「ロ-ザンヌって店が、今朝、店先に出していたのを知っているよ。すまん、汚しちまったね」

「なんとかしてやれ( ㆆ△ㆆ) 」

 おじいさんが、息子を睨んだ。

「あ、そうだな」

 黒羽Dは、すぐに部屋の電話をとった。

「あ、マダム。HIKARIの黒羽です。今朝店先に出してたブリティッシュのゴスロリ、まだある……そう、よかった。ええと……7号サイズ。だよね?」

「え、ええ……いえ、でも、うちに帰ったら洗濯しますし……」

「いや、そうはいかないよ」

「そうじゃそうじゃ」

「親父は言うな!」

「口ごたえするな!」

「ムグ……あ、そうそう7号、よろしく」

 知井子がうつむきながら遠慮するのを制してテキパキ対処する黒羽D。そんな黒羽父子のやりとりも爽やかで、マユは微笑んでしまったぞ。


「ははは……というぐあいに、オヤジには叱られっぱなしだったよ」


 あれから、ローザンヌのマダムがきて、知井子は新品に着替えた。そして、近所の肩の張らない洋食屋さんで、お昼をごちそうになった。

「五年も、お家に帰ってらっしゃらないんですか?」

「ボクも、オヤジに言われて、初めて気がついたんだけどね。つい仕事が忙しくて……」

「楽しくて……なんじゃないですか?」

「し、失礼だよマユ」

「はは、マユちゃんの言うとおりだよ。夢を創る仕事だからね、楽しい夢からは、なかなか覚めない」

「で、お父さんが持ってこられたお見合いは……するんですか」

「それは、この業界の秘密。うちの所属の子たちも、恋愛禁止にしてるしね」

「そう、なんですか」

「で、お父さんは?」

「病院、念のためにね。ローザンヌのマダムが口説いてくれた。どうだい、よかったらカラオケでも」

「よろこんで!」


 知井子がのってしまったので、カラオケになってしまった(^_^;)。


 場所も最高級。なんとHIKARIプロのスタジオだぞ!

 まるで、普段のおとなしさを取り返すかのように知井子ははじけやがった。

 しまいには、研究生の子たちまで、いっしょになって、歌って踊り始めた。マユは、あぶない展開だと思ったが、こんなに楽しげな知井子は初めてなので、魔法で邪魔することもはばかられ、ヤケクソで知井子といっしょにはじけてやったぞ。

 ミキサーのブースで、黒羽Dがスタッフとなにやら話していることも気づいていたが、なんだか、このままの自然の流れでいいような気になった。

 これは、悪魔も神さまも、むろんコニクッタラシイおちこぼれ天使の雅部利恵も関わってはいない。これが運命。自然な流れなんだと思ってな。


 案の定、二日後には、知井子のところにHIKARIプロからオーディションのお誘いがきた。これはマユには想定内だ。


 ただし、家に帰ってみると、自分にも学校で見せられたのと同じお誘いが来ていたのは、想定外だった(;'∀')。


 
☆彡 主な登場人物
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!14『知井子の悩み・4』

2024-09-28 07:05:27 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

14『知井子の悩み・4』 




「マユ、あった!」


 知井子が群衆の中から、這うようにして薬の小瓶を探して持ってきた。

「あ、ありがと (;≡д≡;) 」

 おきて破りの蘇生魔法をやったマユは、戒めのカチューシャに頭を締め上げられ、気絶寸前だったぜぇ。

「おじいさん、このスポーツドリンクで……」

「…………」

 しかし、発作が3分近く続いているジジイは薬を飲む力もねえ。

「寄こして!」

 マユは、知井子からスポーツドリンクを取り上げると、口に錠剤を含んで口移しでスポーツドリンクごと飲ませてやったぜ。

 オオ……((;"°;〇°;)) ! 

 野次馬どもは、感動の唸り声をあげやがるけど、手伝おうなんてやつは居ねえ。感動しながらも、どこか気持ち悪がっていやがる。ま、こんなもんだけどな。


 おじいさんは、しばらくすると息も整って元気になってきやがった。


「だ、だいじょうぶですか、なんなら救急車よびますけど」

 今頃になって、駅員さんがやってきた。

「それには及ばん、この子達のお陰で助かった」

「でも……」

「いいと言ったら、いい!」

 おじいさんが睨みつけると、駅員さんはスゴスゴと行ってしまった。

「すまんな、こんなジジイに、口移しで飲ませてくれたんだね……キミもせっかくの洋服を汚させてしまったなあ」

「あ、いいんです……こ、これ、オバアチャンのお古ですから(^_^;)」

「お古に、タグが付いているのかなあ」

 知井子のゴスロリにタグが付いたままだということに、マユは初めて気が付いた。


「じゃ、わたしたち、ここで……」


 マユと知井子は、息子さんが勤めているというビルの前までやってきていた。おじいさんもピンシャンしてやがるんで、もういいだろうと思ったんだ。

「それじゃわたしの気が済まん。息子にも君たちに礼を言わせたい」

 というわけで、マユと知井子は、そのビルの三階まで付いていくことになった。


 エレベーターのドアが開いて驚いたぜ!


 目の前が、HIKARIプロの受付になっていやがる。

 HIKARIプロと言えば、東京、大阪、名古屋などにアイドルユニットを持って、急成長のプロダクションだぜ。

「黒羽を呼んでくださらんか」

 タバコでも買うような気楽さで、受付のおねえさんに言うジジイ。

「クロハと申しますと……」

「チーフプロデューサーとかをやっとる黒羽だ」

「あの、失礼ですが。アポは……」

「わしは、黒羽英二の父親だ!」


 え( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)!?


 黒羽英二と言えば、HIKARIプロの大黒柱、今売り出し中のアイドルユニット生みの親。そして、マユには分かった。さっきまで、地下鉄の入り口で人待ち顔で立っていたプロデユーサーであることにな……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
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  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!13『知井子の悩み・3』

2024-09-27 07:24:41 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

13『知井子の悩み・3』 





 マユはホッとした。


 この近くで眉をひそめてるオーラを感じたんだ。

 地下鉄の入り口あたりで人待ちをしているオッサンだ。小悪魔のマユには、そのオッサンがHIKARIプロの偉い奴であることも分かっていたぞ。

 マユの魔法が、もうちょっと遅ければ……「きみ、ちょっとしつこいよ」と、オッサンが声をかけてイケメンくずれをいなすことになる。そして、知井子の可愛さと才能を一発で見抜いてプロダクションの名刺を渡しやがってよ、「よかったら、一度電話ください」ということになりやがる。

 知井子はオッサンの人柄の良さに心を許して電話しちまって、あっと言う間にシンデレラストーリー、アイドルの階段を上ることになりやがる。

 このベタな展開は、おそらく利恵のしわざだ!
 
 オッサンは、ひとまずイケメンくずれの口がチャックをかけたように静かになったんで、安心してマユたちから興味を失った。

――よしよし――

 マユは、落第天使の利恵が開いた運命の道を閉ざせたと思えたぞ。

 気楽になったマユは、知井子の注文通り、シャメをバシバシ撮ってやった。

「これくらいで、いいんじゃね?」

「うん、でも、この街角ステキだから、あと、もうちょっと」

「へいへい」

――おっと、またオッサンが見てやがる。ちょっちヤバイ――
 
 そのときオッサンは、コールがあったらしくスマホに出た。

「……分かった、すぐに戻る」

 どうやら、事務所からの電話のようで、オッサンは地下鉄の入り口をちょっと覗いて、数十メートル先、プロダクションの入っているビルに、足早に戻っていった。

――やりー! これで運命の扉は完全に閉じられたぜ!――

 安直なシンデレラストーリーなんて、ロクな展開にならねえからな。

「よし、じゃ次は原宿にいこうか!」

「おお!」

 スキップしながら地下鉄へ。入り口から入って、階段の踊り場で、ちょっと人だかりがしてやがる。

 たいていのやつは、ちょっと見るだけで通り過ぎていく。

「なんだろ?」

 踊り場を曲がったとこなんで、すぐ側に降りてみるまで分からなかったぞ。

「「……あ!」」

 知井子とマユは、同時に声を上げちまった。

 踊り場の壁を背にして、ジジイが荒い息してうずくまってやがった!

 階段を上り下りするやつらは、気には留めやがるけど、群集心理「誰かが助けるだろう」と思って通り過ぎていきやがる。

「おじいさん、どうしたんですか!?」

 知井子が駆け寄った。

 重度の心臓発作だ。マユには、すぐに分かったぜ。

「……鞄に薬が……」

「わ、分かった、これですね!?」

 知井子は素早くカバンを開けて薬の小瓶をとりだした。

「そ、それ、二錠……」

 知井子は、素早く小瓶を開けようとしたけど、パニくって蓋を逆に回してやがる。

「うーん、開かないよ……!」

「こっち寄こせ!」

 マユが手を伸ばして、小瓶を受け取ろうとしたとき、ちょうど階段を駆け下りてきた女の足が当たっちまった。

「あ、ごめ~ん」

 女は、言葉だけ残して駆け下りていきやがった。

「「薬ぃ!」」

 マユと知井子は同時に叫んだ。

 小瓶はプラスチックなので、割れることはなかったけど、コロンコロンと階段を落ちていき、たちまち人混みの中に見えなくなっちまった。

「あ、ああ……」

 ジジイが、絶望の声をあげやがる!

 マユは、通り過ぎるやつらが、できそこないの天使のように思えたぞ。

「探してくる!」

 知井子が階段を駆け下りた。

 ジジイの唇から血の気が失せていきやがる。

 グヌヌ……(-_-;)

 マユは、静かに呪文を唱えたぜ。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」

 マユは小悪魔には許されていない蘇生魔法(レイズ)の呪文を唱えた!

 むろん初めて。おまけに修行中。戒めのカチューシャがキリキリと頭を締め付けてきやがった……!!


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
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  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
 


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!12『知井子の悩み・2』

2024-09-26 07:01:48 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

12『知井子の悩み・2』 




 知井子が決心をしやがった。

 たいそうな決心じゃねえ。

 じつはな。この半年近くで、身長が五センチも伸びたんで、新しい服を買いに行く決心をしやがったんだ(^_^;)。

 それがなぁ、縦には成長したんだけどよ、横には、それほどに成長してねえんで、服はずっとそのままでいたんだ。
 しかし、さすがにミニスカートがマイクロミニになりかけて、階段の上り下りに気を遣うようになっちまってよ。で、思い切って服を買い換えることにしやがったんだ。


 まずは制服だ。毎日着る物なんで、これが最初になった。


「入学の時、少し大きめのを買ったのにね」

 知井子のお母さんは、そう言いながらも制服を買い直してくれた。不足そうな言い方だったけどよ、娘の成長は嬉しい。単に身長が伸びたことだけじゃなくて、何事にも自信を持ち始めたことが嬉しいんだな。

「他の服も買い直さなくっちゃなあ(^▽^)」

 お父さんが、嬉しそうにお小遣いをくれた。


 マユは知っていたぜ。


 落第天使の利恵がかけやがった白魔法が効いてきたんだ。片岡先生の事件の前に、利恵が知井子のコンプレックスを知って、お気楽にかけた白魔法だ。

 マユはな、知井子が魔法で身長を伸ばして得る自信はにせものだと思った。

 知井子の身長が伸びると、知井子は思いもかけない苦労をしょいこむって分かってた。だからよ、対抗して知井子の身長が伸びない黒魔法をかけたんだ。伸びる魔法は苦手だけどよ、伸びない魔法は使えるんだ。

 でも、結果は、半年で5センチも背が伸びるという、育ち盛りの小学生並の成長になっちまった。

 利恵は10センチ伸ばす気でいやがったから、思ったほどに知井子の背が伸びないことに不満。マユは自分の黒魔法が利恵に勝てなかったことに不満だったぜ。

 実際のとこは、オチコボレ天使と小悪魔の魔法は相殺されてよ、知井子の背が伸びたのは、あくまでも自然な成長だったんだけどな。

 影響があったとすれば、英語の片岡先生が、メリッサ先生と恋人同士になるドラマチックな展開を目の当たりにしたことだと思うぜ。ウブなJKなら、あんな恋をしてみてえとか憧れるよな。

 マユには見えていたぜ。街に服を買いに行ったら、どういう展開になるか(3『知井子の悩み』に書いてある)。

「なあ、知井子、明日いっしょに街に出ねえか?」

 マユの方から声をかけてやった。知井子は沙耶や里依紗もいっしょ行きたかったけど、あいにく二人は検定試験で出かけられない。むろんマユはそれを見越して、声をかけたんだけどな。未熟小悪魔のマユは、人数が多いと、これから起こる問題をさばききれねえと思った。


「ねえ、キミお茶しない?」


 イケメンくずれのお笑いタレントみてえなオニイサンが声をかけてきやがった。

 多少くずれていてもイケメン。知井子は人生で初めて男の人に声をかけられたんだ。中学生のとき、ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外としてな。

 予想通り、知井子はゴスロリの店で服を買った。あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリじゃなくてよ、シックな二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんて感じのワンピ。

 で、イケメン崩れには「いいえ、けっこうです」とは言えなかった。

 なんせ、人生で初めてオトコから声をかけられたんだ。で、ディズニーランドのスタッフのオニイサンとかじゃねえしな。

「え……あの、あの……」

 後の言葉が続かねえ。このままではイケメンくずれの軽いナンパに引っかかっちまう。

 マユは、知井子自身に断って欲しかったぜ。でも、予想通り、知井子は声も出せないでやがる。

「だからさぁ、気楽にさぁ、そっちの子もいっしょにどう?」

 あきらかに、ついでに言われていることにむかついて、マユは、ヒョイと指を横に振ったぜ。


 とたんに、イケメンの口は閉じたチャックになっちまいやがったぜ(`ー´)。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!11『ダークサイドストーリー・7』

2024-09-24 08:29:07 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

11『ダークサイドストーリー・7』 




 こめかみの汗が頬をつたって制服の襟に達するまで、マユは何もできなかったぜ。

 片岡先生の心は閉じてやがる。

 いや、心を閉ざした自分の側にマユが座ったことに不快感さえ感じていやがる。

 こんなやつに、下手に声をかけやら逆効果だ。

 一時的に魔法をかけて、先生の自殺を止めることは簡単だ。たとえば、先生をベンチから立てなくするとか、電車を停めちまうとか……。

 でもよ、それは一時しのぎにしかならねえ。不思議な出来事で、先生を余計に混乱させるだけだ(-_-;)。

 シンディーの記憶を消しちまえば、先生の心は楽にはなる。

 でも、有ったことを無かったことにするのは、悪魔の良心が許さねえ。
 
 有ったことを無かったことにしたり、悪いことを良いことと思いこませることは神さまや天使のオハコだ。

 恋のキューピットなんかもっての他だ。天使の中には、これをゲーム感覚でやっているものもいやがる。天使のイタズラ(天使は、適切なカップリングと言うけどよ)による恋は冷めるのも早くてよ、結果は、離婚率と非婚率の増加というカタチで現れてる……日本とかの先進国で合計特殊出生率てのが低いのは、そういう天使どものせいなんだ。

 なんで、先進国だって?

 決まってるじゃねえか、天使は不便な発展途上国とかは行きたがらねえからだ。ウォシュレットとか憶えちまったら、よそには行けねえ。

 天使がトイレに行くのかって?

 そりゃ、人間界に来るにあたっては人化してるからよ。ま、アバターってやつなんだけど。飯も食えばウンコもするんだ。

 それで、人間は、結婚に対して臆病になっちまった。

 そんな中、片岡先生のシンディーへの気持ちは本物だ。馴れ初めと、シンディーがくたばった別れまでを小説にしたら、海の底に沈んだ宝石みてえにきれいで悲しい物語になるぜ。


『一番線、急行が通過いたします……』


 駅のアナウンスが、急行の間もない通過を告げた。

 レールがカタコト鳴って、列車の通過が間近に迫っていることを感じさせた……。

 先生の心は揺れている。この特急に飛び込んでしまおうか……でも、横の女生徒は何かを察している。下手に止められたら、この子まで巻き添えにしてしまいかねない。

 片岡先生は、優しく気配りのできる人なんだ。先生の思念が伝わってきやがる……。

 急行の気配は、もうすぐそこまで来てやがる……でも、マユはどうしていいか、まるで考えが浮かんでこねえ。

 ゴオオオオオオ!

 急行の先頭車両がホームにさしかかった!

 クソ!

 マユは、自分でも思わない行動に出たぜ。

 ダダ!

 マユ自身が、急行に飛び込んじまった!

 悪魔の勘というか、あとで思い出しても、その時は、ただの衝動だったぜ。

「危ない!」「NO!」

 二つの声が重なったぜ!

 日本語のは片岡先生。瞬間身体を抱きかかえられ、ホームの端を二人で転がった。

 プァアアアアアアン! キキキキーーーーーーーー!

 急行は警笛とブレーキを軋ませて、転がった二人の横五ミリほどのところをかすめて、ホームを二百メートルほど通り過ぎて停止したぜ。

 英語の方は、駆け寄ってきて、マユの頭を抱え、英語でいっぱい罵声を浴びせかけてきやがった。

 そのほとんどが日本語なら放送禁止になるようなスラングで、とても声の主とは思えなかった……声の主はメリッサ先生だ。

 マユは小悪魔なんで、英語でまくし立てられても、しっかり意味は解る。

 「dud! hell! idiot! jerk! knucklehead! nerd! punk! shit! sissy! sly! spaz! turd! wimp! wuss!」と盛りだくさん。

「poor girl……」

 そう結んだあとで、メリッサ先生は泣きながらハグしてくれやがった。

 急行は、この影響で五分停車して、その日K電鉄のダイヤは一時間乱れた。

 かつらをやめた校長と担任が、電鉄会社に謝りにいった。むろん、マユの父親(になっている人間。この人の事情は、この話の後で出てくるかもな)も。

 マユは、痛いふりをして、救急車で病院に連れていかれ、いろいろ検査をされちまった。片岡先生とメリッサ先生は、ずっと付き添ってくれやがったぜ。

 そして、マユは、電車に飛び込むほど心に傷を負った生徒ってことで、スクールカウンセリングを受けることになった。マユは、しばらく傷心の女子高生を演ずるハメになっちまった。

 意外に、担当の悪魔からのおとがめは無かったぜ。

 片岡先生とメリッサ先生は仲の良い……とりあえず、友だちになっていやがった。学校は、一時この話しで持ちきりになってよ。知井子なんか、大感動して、日記帳に、このことを短いエッセーにして書き残しやがった。


 で、片岡先生の授業は……


「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」

 一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。

 マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやってやがるぜ。

 片岡先生の授業下手は、どうやら天然だ。

 ただな、心は閉ざされてなかった。日ごとメリッサ先生の姿が大きくなってきてやがる。

――どんな手を使ったのさ!?――

 利恵が、心で聞いてきた。

――なにもぉ、ちょっとした事故だ、事故――

――なんで、あそこで飛びこむのぉ、二人そろってミンチになるとこだったでしょ?――

――うっせえ――

――あ、そうか( ´艸`)――

――なんだ、うぜえなあ――

――二人の血と肉をグチャグチャにして悪魔らしい終わりにしたかった。そうすりゃ、そのブスなアバターもリセットできるしぃ。地獄って貧乏だから、簡単にアバターは替えてもらえないんでしょ。残念ねえ――

――そう思ってりゃいいだろ。結果オーライなんだしよ――

――まさか……狙って?――

「フフフ」

「あんなアナログな、魔法も使わないやりかたで!?」

「きみたち、まだ授業中だぞ」

「さーせん(''○'')」「すみません、先生(^_^;)」


 節電のため冷房を切った窓から、初夏の青空が見えた。


 青空の中を一羽のカラスがよぎり、瞬間カラスと目が合った。

 アホー……と、カラスは一声残して飛んでいった。

 それは、どこに打っていいか分からずに、さまよっている片岡先生の板書のピリオドに似ていたぜ。
 

☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!10『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-23 08:09:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

10『ダークサイドストーリー・6』 




 え……各駅停車……?


 片岡先生は、先週からダイヤが変わっていることを忘れてやがる。先週までは、この時間は特急の通過だったんだぜ。

 各駅停車でも目的を果たせねえわけじゃねえけど、ホームに着く寸前なんで速度が遅い。

 片岡先生は、特急列車で景気よく跳ね飛ばしてもらい、きれいに即死したかったんだ。


 それほど、メリッサ先生を見た衝撃は大きかったんだぜ。


 片岡先生は気づかなかったけど、メリッサ先生とシンディーは双子の姉妹なんだ。それも、幼い頃、母親が亡くなって、別々の里親に育てられ、双子の姉妹がいることを二人とも知らなかったんだ。

 だからよ、メリッサ先生が片岡先生を初めて見たときは――変なやつ――と思っただけだったぜ。

 片岡先生も、中庭の池の鯉を見ているうちに、よく似た他人なんだろう……と理解したぜ。

 ネトゲでキャラクリして、オキニのアバター作ったやつがバトルで負けて、アバターを売るとか取られるやつがいるだろ。ログインして、そいつに声かけたらまるっきりの別人でよ。よく見たらIDが違って、ガックリしたとか、そんな感じ。他のプレイヤーに聞いたら「あ、元の持ち主はリアルの事故で亡くなったってよ」と言われた感じ。

 しかし、理解と納得は違う。

 それまで封印していたシンディーへの思い出が、血を流しながら蘇ってきやがった。

 シンディーに会いたい……切なく、理不尽な願望で心が一杯になって、それは心の表面張力の限界を超えて、ドバドバ溢れてきちまった。

 そんで、理不尽な願望は、飛躍した行動を先生に思いつかせやがった。

――死ねば、心乱されることもなくシンディーに会える!――

 で、片岡先生は、ホームのベンチで特急列車を待っていやがるんだ。

 マユはよ、改札に入ったとこで先生の思念に気づいたんだ。

――なんとかしなくっちゃ(''◇'')――

 ビビッちまった! デーモン先生に「おまえ、落第な」って宣告された時みたいにワタワタしたぜ!

 悪魔の立場から言えば、人間の不幸は願ってもないことのように思えるかもしれねえけど、実際は違う。

 悪魔の役割は人を不幸にすることじゃねえ。人が正しい選択をするために、試練を与えるのが役目なんだ。

 たとえば、敵に追われて川辺にたどり着いた人間がいるとする。天使とか神はよ、その時の人間の心の清らかさや信仰心次第で、橋を架けたり川を割って道を造って、ダイレクトに人間を助けてやる。調子に乗った時は海を真っ二つにするなんて反則技を使ったこともあった。

 悪魔は違うぞ!

 ひとまず隠れる場所を与え、あとはホッタラカシにする。人間が苦しみ悩んだ末に自分で結論を出し、行動をおこすのを待つんだ。

 ときにヒントとして、川の側に小さな木を植えたり、ゴロゴロの岩を用意しておく。人がそれに気づき、木を大きく育て橋を造ったり、岩を川に投げ入れ足場を作って、自分の力で解決するのを待つんだ。時に、それは人間の時間で何世代もかかることもあるんだぜ。

 この試練と救済をめぐって、大昔、サタンという天使は神と争った。そして天界を追われ、悪魔の烙印を押されちまった。オチコボレ小悪魔のマユはよ、そのへんの機微が分かってないらしいんで、人間界に落とされて修行中の身なんだ。

 オチコボレ天使の雅部利恵(みやびりえ 天使名・ガブリエ)も、救済のなんたるかや、タイミングが分かっていねえんで、この人間界に落とされ、偶然……実は、神さまと悪魔、それぞれの名誉をかけて同じ学校の女子高生として送られてきたってわけよ。

 で、無気力教師の片岡先生の閉ざされた心の奥を、互いに覗き込んじまって、利恵の早とちりで、今回の不幸が起こっちまった。

 なんとかしなきゃ……このままでは、片岡先生は次の電車に飛び込んじまう!

「先生、横に座っていい?」

 マユは、なんの思惑もなく、声をかけちまったぜ。

「あ、ああ……」

 片岡先生は、力無く答えた。取りあえず先生の飛び込みは阻止……けどよ、後が続かねえ(-_-;)。

――先生の記憶を無くしちゃえばいいのよ――

 閉まった各停のドアから、利恵の思念が、お気楽に飛び込んできやがった。

――んなの解決にならねえ(◎▢◎)!――

 思い切りガンと思念をとばしてやった!

 ……と言って、簡単に道は見つからねえ。
 
 堪えねえ落ちこぼれ天使の薄ら笑いとともに各停は出発し、マユのこめかみから、一筋の汗が流れ落ちてきやがったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!9『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-22 07:03:59 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

9『ダークサイドストーリー・5』 




 片岡先生は、中庭の池を泳ぐ鯉を見ている。

 池は、五十坪ほどの中ノ島を取り巻いてドーナツ状になっている。鯉たちは前に泳いでいるつもりかもしれねえが、実際は、ドーナツ状の池をグルグル回っているだけなんだぜ。

 鯉が回遊しやすいように、ポンプで、適当な水流を作り出してあるんだ。

 鯉のやつらは上流に向かってのんびり遡っているような気になっていやがる。

 バカみてえだけど、これを作った人間に悪意はねえ。鯉が運動不足にならないようにとの気配りなんだ。

 じっさい、この学校の鯉は長生きで体格も良く元気に育ってやがる。視察にきた知事が「ぜひ一匹譲って欲しい」と申し出たぐらいだ。

 だけどよ、一匹だけ、回遊のアホらしさに気づいたのか、一カ所くぼんだとこに停まって動かない鯉がいたぜ。

「オレに似てるなあ、お前は……」

 片岡先生は、その鯉に親近感を感じていた。

 でもよ、回遊している鯉も、わだかまっている鯉も、どこへも行けないという点では同じなんだけどよ。


 パシャ


 その鯉が、何に驚いたのか、水音をたてて跳ねた。

 よく見ると、新顔の錦鯉が泳いでいる。どうやら、その新顔に驚いたみてえだ。

「知事さんが、気に入った鯉が欲しいっていうんで、交換に持ってきた新顔ですよ。ただ貰っただけじゃ、どこかの知事みたいに追及されますからね、前のより値の張るベッピンですよ」

 庭木の手入れをしていた技能員のおっちゃんが、問わず語りに解説する。

「若い雌でしてね、そのスネた鯉は、あまりのベッピンぶりにタマゲタのかもしれませんねぇ」

 片岡先生は、自分のことを言われたような気がしたぜ。

――しかし、オレは違う……だって、シンディーは、とっくに死んでしまったんだから――

 片岡先生の思念を感じて、利恵のやつは混乱し、マユは一つの結論に達したぜ。

「利恵、おまえ、頭の中スクランブルエッグだろ」

「そ、そんなこと無いわよ!」

 渡り廊下の窓から、中庭の片岡先生を見ながら、二人のオチコボレは声を交わしたぜ。

 こっちは悪魔語り、利絵は天使のささやきで、志向した相手にしか聞こえねえ喋り方なんだけどな。思念よりも気持ちが通じる。

「アミダラ女王から、メリッサ先生を検索したのは大したものだったよ。さすがガブリエルの姪っこだぜ」

「だって、片岡先生の心には、メリッサ先生が住んでいた。だから二人が出会えるようにしたのに……」

 パチャン

 また鯉が跳ねた。

「片岡先生は、メリッサ先生を見て、シンディーって呼んだんだ……ほら、今でも心の中でシンディーを呼んでるぞ」

「だって、DNAまで調べたんだよ」

「天国のスパコン使ってなぁ」

「うるさい! 悪魔みたいにアナログじゃないのよ。たえずイノベーションしてんのよ!」

 中庭に面した、英語科の準備室からメリッサ先生が、当惑したような顔で中庭の片岡先生を見てやがる。

「メリッサ先生もとまどってるぞ」

「おかしいなあ……」

 そのとき、知井子が声をかけにきやがった。

「ねえ、マユ、お昼いこうよ。みんな待ってるよ」

「あ、ごめん。すぐに行くから。ランチの食券買っといて」

 マユは、財布から五百円玉を出しながら、利恵に言った。

「一卵性の双子は、DNAがいっしょなんだよ」

「え……双子!?」

 思わず声になってしまい、近くにいた生徒たちが驚いた。


 そう、利恵とマユは、渡り廊下の二階と三階にいて、話し合っていたんだ。


――天使の親切、大きなお世話ってな――

――そんな――

――片岡先生は、シンディーの名前さえ封印して、記憶の底に鍵をかけていたんだよ。もう、片岡先生、立ち直れないぞ。おめえが撒いた種だから、もう一度検索しなおしたらぁ。いっぱいコンピューター使って。じゃ、よろしくな――

 プツン

 マユは、利恵との思念のチャンネルも切って、食堂に向かったぜ。

 利恵は、混乱しながらも、天国のスパコンにアクセスしてメリッサの情報を検索しなおしやがった。

 答えが出てこない……。

 天国のスパコンでは間に合わないので、人間界の何十億ものパソコンにアクセスするように命じた。天国のスパコンはプライドが高いので、最初は拒否したが、バグの報告をすると言うと、しぶしぶアクセスした。

 それは、数年前のフェイスブックから出てきた。

〈ジョンソン・オブライエン:娘のシンディー・オブライエンは、交通事故で、今日、神に召されました。でもシンディーにはシロ-・カタオカという恋人がいて、神に召されるまで彼女を見守ってくれました。シンディーは幸せに旅立っていきました。そちらのメリッサにはご内密に〉

 シンディーとメリッサは、双子の姉妹で、赤ん坊のころにシングルマザーが亡くなったので、それぞれ違う里親に預けられたんだ。里親同士は、SNSで知り合い、情報を交換していた。

 それを利恵は気づかなかった。

――くそ、憶えてろぉ……落第小悪魔め!――

 利恵は、見当違いの憎まれ口をたたきやがった。たとえ小悪魔相手とは言え、天使が憎まれ口をたたいちゃいけねえんだけどな。

 こういう利絵は、ちょっと可愛くてよ、悪くねえと思うぜ。

 さあ、ご飯食べに行こ!


☆彡 主な登場人物
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!8『ダークサイドストーリー・3』

2024-09-20 09:45:32 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

8『ダークサイドストーリー・4』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




 雅部利恵(みやべりえ)はヤキモキしてやがった。


 利恵は、片岡先生がメリッサ先生と出会うのを心待ちにしてやがったんだ。

 マユといっしょに時間を止めたときに、利恵は確信しやがった。片岡先生は留学中のアメリカでメリッサ先生に出会って、好きになったんだとな。

 片岡先生が、その女を好きだという気持ち、それを押し殺していること。そして、片岡先生の心に浮かんだブルネット女のDNAを読み取り、天国のスパコンで検索して、シアトルにいるメリッサを見つけた。そして、前任のスミス先生に宝くじが当たるように仕掛けをして、英会話の先生の席を空席にしやがった。

 で、ネットで英語講師の募集が、メリッサの目に止まるように白魔法をかけて、たった一週間でメリッサを、この学校の英会話の先生にしちまいやがった。

 こんな離れ業ができるのは、利恵が大天使ガブリエルの姪だからだ。伯母のガブリエルは自分自身、一度天界を追放されたことがあってよ、姪で落第天使の利恵に目をかけていたんだ。

 ドジャーズの『踊るグランド・キーパー』っていうチアガールをやっていたメリッサが契約切れになったことは偶然なんだけど、彼女が日本アニメの大ファンでよ、彼女の気持ちを日本に傾斜させることは簡単みてえだった。
 そして、契約切れになった日に、ネットで、日本の学校が英会話の講師を探していることに気づかせるのは、もっと簡単だった。伯母のガブリエルは通信を司る大天使だしな。

 むろん、魔界でこんな公私混同は、ぜったいできねえ。ほんとに天界てのはアマチャンにできてるぜ。

 けども、メリッサ先生が、片岡先生に出会うのは一週間もかかちまった。メリッサ先生の勤務日が、週に三日しかないことや、いっしょになった日も、なにかと二人はすれ違って、なかなか会うことができなかったからだ。

利恵:――マユ、あなた、わたしの邪魔しないでくれる!――

 二度目もすれ違いで終わってしまったとき、利恵は、マユのせいだと思いやがった。

マユ:――知らねえよ!――

 マユはプンスカして答えたぜ。

 ちょうどルリ子が沙耶の宿題をこっそり写しているところを邪魔していたところだった。

ルリ子:――そうだ、ポキポキ折れるシャーペンで写さなくても、携帯で写して、あとで書けばいいんだ!――

 マユのシャ-ペンの芯折りの魔法がお留守になった瞬間に、ルリ子は小悪魔顔負けの悪知恵をはたらかせやがった。

利恵:――だって、こんなに二人の出会いが遅れるのは、悪魔の仕業としか思えないじゃない!――

マユ:――だから、知らねえって!――

利恵:――とにかく、邪魔はしないで。わたしの単位がかかってるんだから――

マユ:――邪魔なんてしてねえよ。人には、持って生まれた運命があんだ。下手にイジルと混乱して不幸を招くぞぉ――

利恵:――なにさ、悪魔のクセして、混乱やら不幸は、そちらの専門でしょうがあ――

マユ:――それって天使の偏見だ! 悪魔ってのはなあ……!――


 キンコンカンコ~ン  キンコンカンコ~ン


 その時、始業のチャイムが鳴って、講師のメリッサ先生がやってきた。


「ハロー、エブリワン。スタンダップ」

 みんなが行儀よく起立した。マユは、この学校の生徒の上っ面の行儀良さは気に入らない。

利恵:――え、この時間って、片岡先生じゃなかったっけ?――

マユ:――朝、時間割変更があるって、副担が言ってたじゃねえか――

利恵:――あ、そうだっけ――

マユ:――だから落第すんだよ、おめえは――

利恵:――落第小悪魔に言われたかないわね――

 起立してからの会話は、心でやったんで、人間たちには聞こえねえ。


「シッダウン、プリーズ」


 メリッサ先生が、皆のお行儀のいい挨拶をうけて、着席をうながしたとき、それは起こったぜ。

 コソリと、力無くドアを開けて入ってきたのは片岡先生だ!

「し、失礼、教室を間違え……(''◇'')ゞ」

 アハハハハハ

 先生の間抜けた慌てようにみんなが笑った。
 
 ガラ!
 
 いったん教室を出て、片岡先生は、人が変わったような乱暴さで閉めたばかりのドアを開けてフリーズしちまった。

 先生は、怒ったような顔をして口を開いていた。初めて見る先生の表情にみんな驚いたぜ。

 二人を除いて……。

 人間というのは、非常な驚きに出会うと怒ったような顔になる。たとえ小は付いても落第の冠が付いても、天使と悪魔には、それがよーく分かったぜ。

利恵:――やったー!!!!――

 利恵は、単純に喜んだ。この一つの善行で、落第はチャラになったと感じやがったんだ。

マユ:――ちょっと変だぞ――

 マユは、違和感を感じたぞ。

 そして、その違和感は、先生の次の言葉で確定的になった。

「シンディー……どうして( ゚Д゚)!?」

 先生の心には混乱しかなかった。

 そして、混乱した心からはドクドクと目に見えない血が流れ出していたぜ……。


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!7『ダークサイドストーリー・3』

2024-02-13 16:40:16 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

7『ダークサイドストーリー・3』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




 サタン爺ちゃんとミカエルの戦いをべつにして、有史以来初めての「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」から一ヶ月。

 知井子の身長が一センチ伸びた。

 本人はビックリしていたけど一センチなんで、誰にも言わないし誰も気づかなかった。
 落第小天使利恵は、自分の白魔法のなせる技だと思っていけど、ただの自然な成長だった。利恵の思いこみのいきさつについては『3 知井子の悩み』を見てくれよ。

 本題は知井子のことじゃねえ。

 ルリ子たちワルのアミダラ女王パンツに、ことの発端がある。

 マユのイタズラで、ルリ子の仲間の一人のスカートがめくれ上がり、アミダラ女王のパンツが丸見えになったのは言ったろ。

 心を閉ざし、無気力な授業をやっていた片岡先生の心は読めなかったけど、その瞬間、密かに片岡先生がドキリとしたのは分かったぜ。

 しかし、並の男が、こういう状況で感じるドキリとは違ったんだ。

 アミダラ女王に似たブルネット女の顔が一瞬浮かんだんだ。

 ドキッとしたのは、JKのオケツじゃなくて、そのアミダラ女王似の女に対してだったんだぜ!

 そのことが気になって、マユは、階段の踊り場で片岡先生が手にしていた商売道具を滑らせた。さすがに片岡先生も「あ!」と声を上げて、閉ざされた心が、ちょっとだけ開いた。

 そこで時間を止めて、先生の心の闇を覗いてみようとしたんだけどよぉ、落第天使の利恵も同時に時間を止めちまいやがった。その差0.01秒。世界はダブって止まってしまった。これがよ、後に天界でも魔界でも「時間よ止まれ、ダブルブッキング」て呼ばれる事件なわけよ。

『またお前らか!?』『やってられんなあ!』

 また担当の悪魔と天使が下りてきて、呆れかえって文句を言いやがる。

「さーせんさーせん」「めんごめんご」

 謝り方が悪かったのかもしれねえ。

『『二人で手を繋いで修復しろ!』』

 担当二人の声も揃った。

「「ええ! こんなやつとぉ!?」」

『そうだ!』

『そして、同時に再起動を!』

『『念じなさい!』』

「「ウゥゥ(-_-;)」」

『『早く!』』

 仕方なく、落第ということで共通している小悪魔と小天使は手を繋いだ。

「「再起動!!」」

 ピッシャァァァァン!!

 ほとんどヤケでやったせいか、すっげー音と光がして無事に世界は再起動した。


 それから、一ヶ月。また知井子の身長が一センチ伸びた……だけじゃなかったぜ。


「今日から、スミス先生の代わりとして赴任された、メリッサ・フランクリン先生です」

 英語科主任の山田先生が紹介した。片岡先生は、月に一度の通院で休んでいる。

「こんにちは。キョウから、みなさんの英会話のベンキョウのオテツダイをするメリッサです。どうぞよろしく」

 前任のスミス先生は、本国の友だちに頼んで買ってもらった宝くじが当たって。日本円で五億円手に入れていたんだ。

 なんでも、宝くじを買うのに並んでいたら、自分の前に宝くじマニアで何度も賞金を獲得しているキンバリーというオッサンがいることに気づいたんだそうだ。

 キンバリーというオッサンは、宝くじマニアの中ではカリスマと言われている人物。面が割れないように帽子を深々と被って、付けひげを付け、口には含み綿を入れ顔を変えていたので誰にも分からなかったんだ。

 気づくのには理由があった。

 宝くじの行列の脇を、プラダを着込み、濃いめのグラサンをした女性が身を隠すように歩いていた。そして、ヒールを歩道のブロックに引っかけて倒れ込んじまった。

 で、倒れ込んだ先にキンバリーのオッサンがいて、彼女を抱き留めた。

 女性のグラサンが外れて、その顔を見て、オッサンは驚いた。

 女性はオッサンが若い頃からファンであった、名女優のオリビア・ヤッセーだった。

「あ、あなたは!?」

 びっくりした、キンバリーのオッサンの帽子も付けひげも外れて、含み綿も吹き飛んだ。そして、勢いで、二人揃って列から外れて、はみ出してしまった。
 オリビアは、つい二ヶ月前に三番目の夫と別れたばかりでよ。当然パパラッチたちに付け狙われて、このときも三人のパパラッチがカメラを構えた。そして気づいた。

「あ、宝くじのカリスマのキンバリーだ!」

「わたしの車に!」

 キンバリーのオッサンは騎士道精神を発揮して、路肩のパーキングに停めていたTOYOTAにオリビアを乗せて、幹線から外れた裏通りを通り、名女優を逃がしてやった。

 なんで、辣腕のパパラッチをかわせたかというと、キンバリーは、若い頃、映画のカースタントのドライバーをやっていた。一度、オリビアを乗せた車でスタントをやったことがあって、その時から、ほのかな恋心をオリビアに持っていやがったんだ。むろんパパラッチのバイクを撒くなんて屁でもねえ。そんて、TOYOTAが小型で、性能が良かったことも幸いした。やはり、イザというときは日本製!

 ここまでハデにやれば、スミス先生の友だちも気づくわけよ。

 で、スミス先生の友だちはキンバリーが外れた順番に立つことになって、本来なら、キンバリーが手に入れるはずであった宝くじを手に入れ、一等の五億円をゲットしやがった。
 それで、スミス先生は、安月給な日本の英語の講師をアッサリと辞め、本国に帰ってしまったというわけさ。

 キンバリーのオッサンは、これが縁で、めでたくオリビアの四番目の夫になった。

 しかし、パパラッチの一人は、キンバリーがスピンをかけて方向転換をしたときに、ハンドル操作を誤っちまった!
 車線を外れ、対向車線のヒュンダイに激突した。パパラッチは、命は取り留めたものの、腕や脚を骨折。仕事ができなくなり、半年前に買った家のロ-ンが払えなくなり、身重の妻といっしょに夜逃げをするハメになった。

 天使の幸せづくりというのは、どこかにしわ寄せがくるものなんだ、利恵は、そこまでは知らないし責任を持つつもりもねえ。

「似てるわ……」

 メリッサ先生が、やる気になって、髪をまとめてオダンゴにしたとき、ルリ子が呟いた。

 メリッサ先生は、アミダラ女王に似ていたぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!6『ダークサイドストーリー・2』

2024-01-26 14:06:19 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

6『ダークサイドストーリー・2』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです





 突然時間が止まった( ゚Д゚)。


 チョークを拾い集めている片岡先生も、それを手伝っていた生徒のやつらも、中腰や屈み込んだ姿勢のまま停まってしまった。窓から見える飛行機も空中で止まってやがるし。

「これ、あんたが……?」

「おめえじゃねえのか……?」

「あんたのほうが、一瞬早かったようだけど」

「……良く見ろ、あの飛行機!」

 マユは、窓から見える飛行機を指差したぞ。

「え……ああ」

 利恵も分かったようだ。飛行機は少しブレた写真みたく、かすかに二重になってやがる。

「どうやら、同時に時間を止めてしまったみてえだ。0.01秒マユの方が早かったみたいだけどな」

「みたいね、飛行機のブレてる頭は、ダークサイド色してるもの」

「戻すの大変だなぁ……タイミング合わせねぇと、ブレたままの飛行機がブレたままの飛行場に着陸することになんぞ」

「それって、きっと大事故になる(;'∀')」

「海の向こうじゃ、自由の女神とかが双子になってるかも(;'△')」

「やばいよ……」

「やばいぜ……」
 
 ちょっと説明がいる。

 時間を止める力は天使にも悪魔にもある。複数の天使や悪魔が時間を止めた場合、力の強い方の効果が出るんで、普通はブレるようなことはねえ。

 だけどな、ごくごく、ご~~っく希に、力が同等であった場合、そして時間を止めたタイミングが0.01秒以下であった場合、時間がダブって止まってしまう。それは距離に比例して地球の裏側では、200メートルぐらいのブレになっちまう。
 大昔、若かったころのサタン爺ちゃんとミカエルが戦ったとき、これをやらかしやがった。その時は太陽がダブってしまったらしい。世界各地の神話や言い伝えに「太陽が二つになった」というのがあるのがそれだってよ。

 つまり、落第悪魔のマユと、落第天使の利恵は天地創造以来初の事故をやらかしてしまったみてえだぜ。

「早く修正しないと、またエライサンに大目玉だわよ……」

「ウ……こないだ、校長先生の髪の毛事件やらかしたとこだもんな……」


 二人は、イヤイヤながら手を繋いだぞ。そうしなければ、同時に時間を再起動できねえからだ。


「好きで、手を繋ぐわけじゃないんだからね……」

「あったりまえじゃん!」

「じゃ、いくよ……」

「おお……」

「「3、2、1……GO!!!!」」

 二人の落第生は、目をつぶって互いの神経をシンクロさせて気合いをかけたぜ。


「あんたたちぃ……なにしてんの?」


 階段を降りてきた知井子が不思議そうに聞いた。

 気がつくと、片岡先生も、チョークを拾い集めていた生徒達も、とっくにいなくなっていたぜ。

「な、なんでもないわよ!」

「そ、そう、なんでもねえから!」

 二人は、慌てて手を放したぜ。

 次の便だろうか、空を行く飛行機は無事にダブってはいなかったぜ。


 水道で手を洗いながら、マユは思った。


――あいつの心、意外なほどあたしに似てたかもな――


 手洗いの鏡に写る自分の顔が、落第天使のそれとダブって見えた。

「……あ、あり得ねえ!」

 ピシャリ!!

 自分の頬を叩いて、マユは手洗いをすませたぞ。

 同じ頃、もう一階上の手洗いで、雅部利恵もゴシゴシ手を洗ってやがった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生 





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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!5『ダークサイドストーリー・1』

2024-01-19 15:12:58 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

5『ダークサイドストーリー・1』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




 この時間は、いつもこうだ。


 誰も授業を聞いてねえ。


 英語の片岡先生の授業だ。


「……というわけで、接続詞の用法はわかったかなぁ」


 ほんの一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。

 マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話す奴。スマホを教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけどな、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやってやがる。
 
 聖城学院は、そこそこの私学で校則も厳しくて授業もちゃんとしている……数人の先生の授業以外はな……その数人の先生の中でも、片岡先生は無視を超えて蔑ろにされて、ワルプルギスの夜のように無秩序だ。

 無秩序というのは小悪魔にとっては望ましい状況なんで、マユは好きだ。

 マユも、この時間は、魔法とも言えないイタズラをして楽しんでるぞ。

 ラノベに熱中すると膝が開いてくるルリ子の取り巻きの一人に、ちょいと指を動かす。足許から風が巻き上がり、スカートがひるがえる。アミダラ女王のパンツが丸見えになる。 

 ルリ子の仲間は、みんなアミダラ女王のパンツらしい。『スターウォーズ』の3Dを見てファンになり、わざわざ輸入雑貨専門のネットショッピングでアメリカから取り寄せたそうだ。その子のアミダラ女王と目が合って、片岡先生は一瞬ドキリとしたが、並の男が感じるドキリとは違った。

 え?

 マユは、少し意外だったぞ。

 メールをやりとりしていた美紀とルリ子のスマホの画面にはいきなりダースベーダーのドアップを3Dで出してやった。

『おまえは、すでに暗黒面に取り込まれた!』

 ダースベーダーが一喝。

「キャーー!」「キャハハ、うっけるぅ!」

 美紀は悲鳴をあげた。が、ルリ子は喜んで嬌声をあげた。

 スカートめくりよりも教室は賑やかになったけど、片岡先生は我関せずと、気のない授業を続ける。

 片岡先生のあまりな無気力さが面白くて、マユは先生の心を覗いてみたぞ。
 
――え……読めねえ――

 マユに見えた先生の心は具体性のない闇だ。闇と言ってもダースベーダーのような力はねえ。

 普通の人間の心を覗くと、散文的な不満や、不安や、欲望が見えてくる。それが、先生の心からは見えてはこねえ。

 ちょうど四時間目の授業だったんで、授業が終わったあと、マユは先生の後をつけていった。

「マユ、食堂……フグッ(;'×')」

 呼びかける知井子の口にチャックをした。知井子は友だちとして親切で言ってくれてるんだけどな、お楽しみの邪魔になったら容赦はねえ。

 廊下を歩く片岡先生の心は空虚だ……闇じゃねえけど、濃い雨雲の中みてえに気持ちの悪い空虚さ。

 階段の踊り場で、ちょっと魔法をかけたぞ。

 ガチャガチャガチャ……

 片岡先生の手からチョーク箱やえんま帳やらが滑り落ちて、階段を下の階まで落ちていった。

「あ、ああ……」

 さすがに、片岡先生は声をあげ、オデコに手をやってため息ついて階段を下り、ノロノロと商売道具を拾い集めようとした。階段の下にいた生徒たちがそれを手伝いやがった。

 一瞬、片岡先生の心にイメージが浮かんだ。

 それは、一人のブルネットの若い女性……スッピンのアミダラ女王に似てる。

「はい、先生」

 最後のチョークを拾い上げたのは、落第天使の雅部利恵だったぞ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生 

 


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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!4『ライバル登場』

2024-01-03 07:01:28 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

4『ライバル登場』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




「あ~あ、こんなになちまった……」

 里依沙がぼやいた。

「どうして、こうなるのかしらぁ……」

 沙耶もぼやいた。



 ただ、二人のボヤキは原因が正反対。



 横で知井子が笑っている。無邪気に笑うと知井子は意外と可愛い。だけど両手で顔の下半分を隠して笑うので、この可愛さは本人も含め知っているものは、あんまりいない。

 その知井子が、顔の下半分隠さずに笑ったのだから、里依沙と沙耶のコントラストのおかしさは、かなりのもんだぜ。


 いやなぁ、昼休み四人で校舎裏の学年菜園を見にきたんだ。


 以前は学級菜園だった。でもよ、ちゃんと管理できる、つまり根気よく面倒が見られる生徒が減ってきちまったもんで、里依沙たちが入学した年から学年菜園になってよ、希望したら誰でも自由に栽培していいことになった。


 で、里依沙と沙耶の二人は、去年の秋に栽培を始めた。知井子は、土や虫が嫌いなんで、参加しなかった。

 沙耶は手堅く、ソラマメとエンドウ。里依沙は無謀にもイチゴにチャレンジした。

 里依沙の方が、ちょっち面倒見はよかったんだけどよ。この差は、その「ちょっち面倒見がよかった」をかなり超えてるわけよ。

 里依沙のイチゴはたわわに実っているのに、沙耶のソラマメとエンドウはさっぱりの草ぼうぼう。

 マユも、こういうことには疎い。悪魔は栽培なんてめんどくせえことはしねえ。
 それに学期途中(みんなは知らねえけど)から、この聖城女学院に来たんで、それまでのいきさつも分からねえから「こんなもんかいな」と思った。


「ほんとうは朝早く摘まなきゃなんないんだよね」

 知井子が知ったかぶりを言う。

「朝早くなんて来れないじゃん。それに、ほっとくと虫がすぐに付いちゃうからな」

「げ、虫( ゚Д゚)!?」

「今は、奇跡的に付いてないから。今のうちにやるぞ!」

 里依沙の鼻息で方針は決定した。 四人で、イチゴを収穫して家庭科の冷蔵庫で保管してもらうことになった。

 収穫し終えて、校舎裏を回って正門近くのアプローチまで来ると、マユはオーラを感じたぜ。門衛の田中さんだけど、なんだかいつもと違う。

「先行ってて」

 マユは、そう言うと小さい交番みてえな門衛詰所に向かったぜ。

 田中さんは、パソコンのモニターを見ながら考え込んでいた。

「どうかしたぁ、田中さん?」

 マユが尋ねると、田中さんはすぐにエスケープキーを押し、門衛のモードに戻って、笑顔を向けてきた。

「いやぁ、まずいところを見られてしまったね。気候のせいだろうか、少しボンヤリしてしまった」

 田中さんは頭を掻いたけど、その残留思念が今まで点いていたパソコンの画面の残像といっしょにマユの頭に焼き付いたぞ。


 マユは並のJKじゃねえ、「小」は付いても悪魔だからなぁ。


「うん。なんだか心配ごとがあるように見えた」

「ハハ、自衛隊じゃボンヤリするときはムツカシイ顔をする。こんなふうにね……」

 田中さんは実演して見せた。マユは女子高生らしく笑っておいた。

「いかん、いかん防衛機密だからね、今のは」

「ハ、田中陸曹長どの!」

 マユは、おどけて敬礼した。

 田中さんは、生徒の一覧表を見ていた。雅部利恵(みやべりえ)という生徒の……で、違和感を感じていたんだ。


 田中さんは職務熱心で、全職員と全生徒の名前と顔を覚えている。

 そう、顔と名前は……。


 しかし、この雅部利恵という生徒については、クラスや学籍番号、そして住所や緊急連絡先、本人のメアド、さらに左胸に小さなハート形のホクロがあることまで分かっている。

 門衛は、職務柄、マル秘の職員や生徒の情報をパソコンで見ることができる。
 しかし田中さんは、たった今まで、それを見たことがねえ。生活指導部から回ってきたクラス毎の顔写真を見て覚えたんだ。むろんパソコンの個人情報には、胸のホクロまでは載ってねえ。もちろん田中さんは、生徒の更衣室を覗くようなことはしねえしな。


 マユは、田中さんの残留思念で利恵の教室を見にいくことにしたぜ。


 利恵は、活発そうなポニテ。沙耶も似たようなポニテなんだけど、ちょっと違う。ポニテの結び目が高くて、襟足の生え際から結び目のとこがキリっとしてて緩みがねえ。前髪もきれいにパッツンしててフワフワ。

 窓ぎわの席で片ひじついてボンヤリ空を見てて、微妙にアンニュイでエモい。

 マユは、そっと意識を集中して利恵の心を読んだぜ……が……なにも読めねえ!?

 そのとき、先生に呼び出されて、遅れてきた子が席に着いてお弁当を広げた。

 慌ててたんだろう、タコウィンナーが箸から滑って飛んだ。

 ツルン

 そして、前の席で首を伸ばしてお喋りしていた子の襟から背中に入りそうになった。小悪魔の悲しさ、マユは、そのささやかな不幸にビビっと快感を感じたぜ。

 ところが、タコウィンナーは命あるもののようにUターンして、我が身の不運に口を開け、絶望の淵に九十九パーセント落ちかけていたその子の口にスッポリ入ってしまった。

 ゴクンと、思いのほか大きな音をさせて、その子はタコウィンナーを飲み込んでしまった。まわりの子たちが気づいて、彼女を見つめ、その子は、いま飲み込んだタコウィンナーのように赤くなった。

――いかが、出昼マユさん――

 雅部利恵は言った。唇も動かさずマユだけに聞こえる声で……。


 六時間目は、避難訓練だった。


 大半の子たちは、まじめに避難訓練していたけど、ルリ子たちは、小声で喋りながらチンタラチンタラ。後ろを歩いていたマユたちはいい迷惑。
 で、マユは指一本動かして、ゴミ箱の中にあったバナナの皮をルリ子の足許に転移させた。

「ヒエー!」

 見事にルリ子はひっくり返り、そのルリ子を受け止めたルリ子の取り巻きたちも犠牲になった。ルリ子はアミダラ女王のパンツを穿いていることが判明。ルリ子の感覚が古いのか新しいのか分からなくなる。
 あのアミダラ女王がスリーディーとかで見えたら新しいんだろうけど、もう一度確認しようとは思わねえ。
 ま、とりあえず趣味が悪いことは確か。そして、少し可愛げがあるところが憎たらしかった。

 全生徒の避難は五分ちょっとで終わって優秀な成績であると消防署の人から誉められた……ところまでは、よかった。

 気をよくした校長先生が、延々と喋るのには閉口した。先生というのは偉くなればなるほど話がヘタ。マユは、ついイタズラ心で校長のカツラを吹き飛ばしてみたぜ。

 シュ

 みな一瞬アゼン( ゚Д゚)。

――ざまあみろ!

 そう思った瞬間、校長の頭の髪は復活。

 ホワ

――え、そんな……。

 そう思って、もう一度吹き飛ばそうとしたけど、校長の髪は風になびくだけだ。

 雅部利恵のオーラを感じた。

――ち、あいつか!?

 で、マユは、木枯らしの魔法をかけた。校長の髪は軽々と風に吹き飛ばされる……すると、すぐに校長の髪は元通りのフサフサに。

――こいつめ!

 マユは、再び校長の髪を吹き飛ばす。するとすぐにフサフサに……そんなことをくり返しているうちに、校庭のみんながざわつき始めた。しかし、もう意地の張り合いになったマユと利恵は汗をかきながら白と黒の魔法の掛け合いになっちまった!

 シュ ホワ シュ ホワ シュッホッ シュホシュシュホシュシュホシュシュホシュシュホシュシュホシュシュホシュシュホシュホ!

 あまりの早さに、人間たちには、校長の髪が半透明のように見えちまって、ある種の納得をした。

 校長先生の髪は薄くなりはじめてきたんだ……長い付き合いの教頭先生でさえ、そう思った。

「マユ、なに汗かいてんの?」「マユ、指がケイレンしてるわよ」

 知井子と沙耶が心配げに言った。

 同じようなことを利恵もクラスの仲間から言われている。

――くそ、これで勝負っ!――

 マユと利恵は同時に念じてしまった!


 ボン! 


 何かが爆発したような音がして、それは起こった。

 校庭や校舎がイチゴ畑とハゲ頭の地肌のマダラという異様な光景となり、育毛剤とイチゴの混ざった表現しがたいニオイに満ちてしまった!


 結果的には集団幻覚ということになった。マユのお目付役である悪魔と、利恵のお目付役である天使が降臨して来て同時に魔法の修正をやったからな。

 そんで二人とも説教されて、二人の成績をEマイナスからFに落としやがった。

 そして、これからは互いに干渉しないように約束をさせられちまったぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使  
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