ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

シューマン 「謝肉祭」op.9(その2:アンダ,内田光子ほか)

2008-08-08 | CDの試聴記
シューマンの「謝肉祭」の続きです。

まず、内田光子さん(1994年)のディスク。
一聴して感じるのが、絶妙の呼吸感。それはもう、ため息が出るほど・・・。
そんな呼吸感の素晴らしさは、例の「再会」でも際立っていますが、中間部のレガートな箇所との対比の妙も相まって、ひときわ印象に残ります。
内田さんの「謝肉祭」は個々の曲をとっても文句のつけようがないくらいの出来栄えですが、常に全体の流れを意識して演奏していることに改めて感銘を受けます。
とくに終曲に向けての設計は見事の一言。
ただ、あまりに、そのデッサン力が表に出すぎているような気がしないでもないのですが・・・。
私の考えすぎかなぁ。
あっ、それからこのディスクには、さらりと「スフィンクス」も収録されていますよ。

次に、ゲザ・アンダ(1955年)の演奏。
結論から言います。
これは、私にとって、デムスの演奏と並んでかけがえのない演奏です。
「聴き手は冒頭から忽ちにしてアンダの世界に引き込まれ、緊張と弛緩を繰り返しつつ展開される迫真のドラマに手に汗にぎり、ふと我に帰るとエンディングを迎えている」、まさにそんなイメージなのです。
聴き終えた後の感動と言う点では、ベストかもしれません。
ただこのディスク、裏表紙には1955年録音としか書かれていません。
もう少し細かな情報を知りたいのになぁ。
因みにこのディスクに収録されている曲目(謝肉祭、交響的練習曲、クライスレリアーナ)は、1956年のザルツブルク・ライヴ(オルフェオ)とまったく同じなので、ひょっとすると同じ演奏かもしれませんね。

その他にも、「謝肉祭」には素敵なディスクが数多く存在します。
例えばガブリーロフ(1987年)。
圧倒的なテクニックを駆使して、これほど豪快に弾ききった演奏は稀でしょう。
聴き手に四の五の言わさないだけの力強さと色彩感が、彼の演奏にはあります。
まさに直球勝負のピッチャーを観ているようで、ある種の爽快感が何とも言えず魅力的。
また、内田さんと同様に「スフィンクス」が弾かれていますが、こちらはまるで巨大なピラミッドの中に足を踏み入れたかのような、ひんやりとした空気感が感じられ、そのあたりも興味深いところです。

それからミケランジェリ。
1975年にEMIに再録音していますが、私は旧盤である1957年に録音したDG盤のほうが好きです。
きらきら輝くようなミケランジェリ特有の感性の閃きは、旧盤のほうにより強く感じられるからです。

落ち着いた中に気品を感じさせてくれるのは、ルビンシュタイン。
私が聴いたのは1963年にステレオ録音されたディスクですが、この不思議な安心感は、いつ聴いても貴重です。
彼はモノラル時代にもこの曲を録音しているようですが、そちらのほうは残念ながら未聴です。

また、コンサート終演後にサインをもらったエリック・ル・サージュ(1996年)や伊藤恵さん(1990年)の「謝肉祭」も、それぞれに魅力を持った演奏でした。

最後に、叶うことなら何としても聴きたかったのがホロヴィッツ。
「クライスレリアーナ」や「花の歌」の名演奏から想像しても、きっと素晴らしい「謝肉祭」を聴かせてくれたはずです。
残念ながら正式には録音しなかったようですが、あの日本公演でも弾いた大切なレパートリーだったはずなので、きっといつかライブ録音がリリースされると信じています。

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4 コメント

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Unknown (リベラ33)
2008-08-09 07:49:55
僕も謝肉祭好きです。伊藤恵さんの謝肉祭は聴いたことがありませんが、以前FMで聴いた伊藤恵さんのリサイタルは大変良かったですねぇ。NHKから出ている伊藤さんの「亡き王女のパヴァーヌ」もすごくいいですよ。
>リベラ33さま (romani)
2008-08-10 16:41:04
こんにちは。

いつもありがとうございます。
伊藤恵さんの演奏を聴いていると、小手先の話ではなく、本当にピアノが好きだ、そして何よりも音楽が好きだという真摯な気持ちがストレートに伝わってきます。
伊藤さんというと、シューマン、ショパン、ブラームスといったイメージが強いのですが、ラヴェルもきっと素晴らしいだろうなぁ。
どこかレパートリー的にはグリモーと共通するところがあるように思います。
機会があれば、是非彼女のラヴェルを聴いてみたいと思います。
内田光子さん (emi)
2008-08-13 22:22:18
暑い毎日ですがお元気ですか?
ご無沙汰しております。

内田さんの演奏はどれも文句なしに素晴らしいですね。
あまりに文句なくて、それが鼻白んでしまうほど・・・。
あまりにも そつがないので脅威となってしまう・・・。

・・・しかし素晴らしい。
という感想を持っています。同じ空気をこのブログで嗅ぎ取って・・・(当たっていないかも・・)ついコメントさせていただきました。

>emiさま (romani)
2008-08-16 23:20:50
こんばんは。

お返事が遅くなり申し訳ありません。
お変わりございませんか?
この夏、無性にシューマンが聴きたくなって、室内楽・ピアノ・歌曲まで、とにかくよく聴いています。
内田さんの演奏は、いい意味で「日本的な演奏」ですよね。

>あまりに文句なくて、それが鼻白んでしまうほど・・・。
あまりにも そつがないので脅威となってしまう・・・。
・・・しかし素晴らしい。

ほんとそうですよね。
ただ、サントリーホールのモーツァルトプロのライヴ録音や、ザルツブルクでのライヴ映像なんかを観ると、実演では強い集中力が加わるので、全然作り物の匂いがしないんです。
その意味で、内田さんのライヴ録音がもっとリリースされないかなぁ。そんな風に願っています。

嬉しいコメント、ありがとうございました。


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