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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

七〇歳を過ぎてから絵筆を握った丸木スマの作品を観た

2017-08-05 11:57:29 | アート
 実現可能かどうかはまだ分からないが、あまりあちこち行けなくなったら、絵を書いて過ごしたいと思っている。絵心みたいなものはあるが、それを表現する才能だとかバックグラウンドの基礎的技法などはまったくない。だいたいデッサンの経験もなく、いまからそれにチャレンジしようとは思わない。
 とりあえず、描くということ、というか、描くという行為自体を始めてみることだろうか。

             

 そんな折、若い友人、大野左紀子さんのブログに触発されて、七〇歳過ぎてから絵を描き出した丸木スマの絵画展を観に行った(一宮市三岸節子記念美術館 8月13日まで)。
 丸木スマは、「原爆の図」などの丸木位里、俊夫妻の母ではあるが、七〇歳を過ぎるまでは、普通の働く女性で、ふとしたはずみで絵筆を持ち始めたという。

          
 
 初期のものについては、なるほど、はじめて絵を描く老人はこのように描くのか、といった感じであるが、観てゆくうちに、それが彼女の個性として昇華され、さらに色彩の多様性やバックの独得な処理へと進化し、誰も彼女のようには描けない領域を生み出してゆくのがわかる。
 彼女の描きたいという力が、絵画という領域のなかで、あるいはその周辺で、確実に彼女のテリトリーを、しかも発展途上のそれを築き上げてゆくのだ。

              

          

 観てゆくに従い、私はこういう絵を「描かない」から「描けない」に変わってゆくのがわかる。彼女に比べ、私には余分な制約、既成概念の蓄積が多すぎるのだ。そういうものを振り払って、私が描きたいもの、描きたいという衝動そのものに向き合うことは不可能なのだろうと思う。

           
           

 第三者の視線を多かれ少なかれ内面化してしまっていて、その基準による計算づくを振り払うことは至難のことである。とくに私のような小心者の自意識過剰人間にとっては。
 極めて平凡な言い方になるが、スマの「ノビヤカサ」は私の対極にあるのかもしれない。それだけに、私を魅了するものがある。

 こんな絵は私には描けない。それでもいつの日か絵筆を握るかもしれない。
 そんな折など、これらスマの絵を想起して、自分の小賢しさを恥じることになるかもしれない。それでも描くという衝動があるようなら、描いてみたい。

              
               美術館正面の三岸節子の立像

*三岸節子記念美術館 三岸のかつての実家、織物工場の跡地に建てられたもので、ノコギリ型の工場が散見できたりするなど、周辺にその雰囲気が残っている。
 一階は三岸の常設展示場だが、年に何回か展示内容が変更されるという。
 そして二階が、今回のような特別展の会場になっている。
 なお三岸節子は一宮の名誉市民になっているが、ほかに、戦中戦後、女性の参政権や普選運動など女性の権利のために活躍したい市川房枝もこの地の名誉市民である。

           
             帰り道、岐阜羽島の近くで見かけた蓮田

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (大野左紀子)
2017-08-05 12:49:04
こんにちは。
私の名前の後に「山」がついてます。
大野左紀子山。力士のようです(笑)。
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失礼! (六文銭)
2017-08-05 14:44:29
 私から見たら、見上げるような人だから・・・ということでお許しのほどを。
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素晴らしい (さんこ)
2017-08-05 16:00:13
色彩も、描かれているものも、素敵ですね。

邪心がないからでしょうか。

今が一番、といって、絵筆を握っていたと、歳の離れた友人で亡くなったKさんが、よく話題にしていました。

彼女も、その当時、70に近かったから、なにかはじめたかったのかもしれません。
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Unknown (六文銭)
2017-08-07 11:31:34
 いくら画家の夫妻が身近にいて、若干のアドヴァイスがあったとしても、その色づかいや形の捉え方、それに構図もまさに独得の領域を生み出しています。
 基本的な技法やセオリーなどの素地がないところへ、「描きたい」という衝動がダイレクトに迫っていったことによって生み出された作品は、面白いオーラを放つものばかりでした。
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