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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

風営店への警官の立ち入りに反対します。

2020-07-20 15:54:08 | よしなしごと

 各紙が伝えるところによると、新型コロナウイルスの感染拡大防止策に関連し、菅義偉官房長官は、キャバクラやホストクラブについて「風営法(風俗営業法)で立ち入りができる。そういうことを思い切ってやっていく必要がある」と述べ、警察官による立ち入り調査に合わせて感染症対策を徹底するよう店側に促していく考えを示したそうである。

 久々に「風営法」という言葉に接した。
 現在の風営法は正式には「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」といって、1984年に制定されたものだが、この法にはその前身があって、それは1948年に制定された「風俗営業取締法」というものであった。

        

 この、「取締法」に注目していただきたい。そして、取締法という名前の法が他にあるかどうかを検索してみてほしい。確かにある。「覚醒剤取締法」「大麻取締法」などがそれだ。それらはすべて、この国では予め犯罪とみなされているものを対象にした法である(大麻については異論があるだろう)。
 ということは、この風営取締法は、風俗営業店を予めあってはならないものとして、それを取り締まることを目的としたものであった。

 では、風俗営業とは何であるか。一般的なバー、キャバレー(当時のグランドキャバレー)、クラブ、料亭などなどがそれである。その他にも、「喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を10ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く)。店員による接待の無い低照度飲食店。 - 低照度のライブハウスやクラブなどもこれに該当する」とある。
 それらに対応したのが風営法対象外の一般飲食店で、ようするに、夜の街は、風俗営業と飲食店とで成り立っているわけである。

        

 しかし、風俗営業を予めあってはならないものとしてその取り締まりを行う旧風営法は、営業店にとっては厳しいものがあった。
 一番厳しかったのは営業時間で、0時をすぎると違反として検挙された。他には従業員と顧客との距離、照明のルクス、などなど細やかな規定があり、違反が重なると営業免許が取り消されることもあった。

 70年代初頭、私は飲食店をもったが、当時は午前2時まで営業していた。れっきとした飲食店であったが、それでもしばしば、無知な警官のパトロールがやってきて、「もう0時過ぎなのにいつまで営業しているんだ」などといってきた。
 「うちは飲食店ですから、署へ帰って六法全書でもご覧になったら」と追い返したりもした。

 しかし、たまらないのは常に取り締まり対象にされていた風営店の方だ。彼らは「社交事業協会」という業界団体を介して、その法の撤廃ないしは改正を求め続けた。
 一方、60年代後半から現実的な対応として登場したのがいわゆるスナックバーである。このおそらく日本独自のよくわからない業態は、風営法の網から逃れるために考え出されたものである。

        

 スナックは文字通り軽食を意味する。スナックバーのコンセプトは、われわれは軽食を提供する店だから風俗営業店ではないということで、バーなどとの差異化を謳い、営業時間の規制などから逃れようとするものだった。これは全国津々浦々に広がった動きで、既存のバーもその看板に「スナック」と付け加えるほどであった。
 それでも、スナックと当局の取り締まりとの攻防戦は続いたが、そのあまりの多さに実質的に風営法は機能不全になった。

 そうした趨勢と、業界の運動が相まって、新しく改正されたのが1984年の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」であり、「取り締まり」の文字は消えた。
 私は当時、この改正を喜んだ。風営店は広い意味で私の店のお隣さんであり、客の行き来もしょっちゅうで、いわばともに夜の街を支えてきた仲間たちであった。

 今回、図らずも風営法の登場を目の当たりにしたのだが、驚き、自分の不勉強を恥じたのは、警官による立入検査がなおも生きていたことだ。私たちが想定しうる一般的な営業において、警官がいきなり立ち入るようなものが他にあるだろうか。
 ようするに、初代の「風営取締」の「取り締まり」の部分は今なお、立派に生きていたわけだ。

 コロナ予防の重要性はよく分かる。だが、なぜ警官の立ち入りなのか。保健衛生当局の援助ではなぜだめなのか。
 ここには旧風営法同様の、取り締まり対象として一段見下ろすような風俗営業観がある。風俗営業に対して強権をもってあたる以外に方法はないのか。それは、風俗営業、あるいは夜の商売に対するある種の差別意識ではないのか。

        

 圧倒的に多くのスナックやバーは、市民生活にしっかりと根を下ろした存在であり、飲食店と変わるところはない。

 確かに夜の街は都会の暗部をなしている面もある。だから真昼の都市を絶対的な基準にすれば、そうした夜の街は、ある種怪しげな匂いもするかもしれない。
 しかし、無色透明、機能本位の都市なんて、まるで影のない風景のように、かえって怪しげで気味が悪いではないか。
 また、そこへ流れ着くことによって生きている人たち、そこでこそ自己を肯定できる人たちもたくさんいて、それらの人たちとの交流も随分してきた。
 だから、彼らを単に「取り締まり」の対象にすることを肯定するわけにはいかないのだ。

 何がいいたいかというと、コロナ対策に名を借りた風営店への警官の立ち入りなどという乱暴で無粋な方針には反対だということだ。保健衛生当局による適切な指導とアドヴァイスこそが必要なのだ。

 

 

 


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