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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

『最愛の子』(原題「親愛的 Dearest」)を観る

2016-02-20 01:09:33 | 映画評論
 中国では誘拐が多いとは聞いていた。しかも日本でたまに起きる身代金目当てのえいる誘拐とは違って、子どもそのものの売買、ないしは自分の子として育てるというものだとということも知っていた。 
 しかし、それが年間20万人(人民放送が公式に認めたもので、それも控えめな数字だという)にも及ぶことは知らなかった。そして、それが社会現象になっているがゆえに、「誘拐被害者を励ます会」のような組織が、日本での「犯罪被害者の会」や航空機の大規模事故の「被害者の会」のように組織されていることは知らなかった。

              

 しかもその組織のあり方も面白い。まるで「断酒会」のように、被害者家族が各自の体験談や現在の心境を語り、相互に励まし合う。励ますための手拍子もあるし、歌もある。一般の協力を求めるための街頭活動などもともに行う。

 なぜこれほどまでに誘拐が多いのかは、中国で続いた「一人っ子政策」などの背景があるのだろうが、ここではそれについては深入りしない。

            

 舞台は深圳。離婚した夫妻の一人息子(親権は父親、今は別の男性と結婚している元妻は時々逢いに来る)が誘拐された。
 男は懸命に息子を探す。元妻もそれに協力する。前半はその執念あふれる物語だ。13億分の1を見つけるという気が遠くなるような話だ。それが、「励ます会」やネットなどあらゆる情報網を使って展開される。

 その過程には、ガセネタで金をせしめようとする奴や、力ずくで金を奪おうとするような怪しげな連中との壮絶なやりとりや闘いがある。
 そして、3年の努力が実り、ついにその子が見つかるのだ!
 3歳で誘拐された子はすでにして6歳になっていた。
 ここまでで、もうじゅうぶん壮大な話の集積でゆうに一篇の物語をなす。
 しかし、これはこの映画にとっては単に前編をなすにすぎない。

            

 後半は、誘拐されてきた子とうすうす知りながらわが子として育ててきた母親の方に焦点が移る(ヴィッキー・チャオ=趙薇が熱演)。誘拐してきた彼女の夫は一年前に他界している。

 男の子はもちろん、元の親のところへ連れ去られるのだが、彼女はさらにもう一人、幼い女の子を育てていた。しかし、この子も誘拐されてきたものとみなされ、遠い都会(深圳)の施設へ収容されてしまう。
 彼女は一挙に二人の子供を失うのだ。

            
 
 そこから彼女の闘いが始まる。
 下の女の子が「誘拐された」のではなく「捨て子」を拾ったのだということを立証し、改めて養子として引き取ろうという闘いである。まさに体を張ったこの壮絶な戦いに、大手弁護士事務所に辞表を叩きつけた人権派の若い弁護士が援助の手を差し伸べる。

 この過程は二転三転するが、私達観客がこれならと思えるような解決点が見え隠れし、そこへと着地しそうになるのだが、それがまさに意外ともいえる、しかし観客にとっては「なるほどあれが」と思われる事情によって、すべてが覆ってしまう。
 ここはまさに謎解きのクライマックスのような箇所だから敢えて書かないでおこう。しかしこの結末は、とても残酷で切なく、気が滅入るものであるかもしれない。

 しかし、私があえていうならば、彼女を絶望の淵に落としたものが、彼女にとっての新しい希望の萌芽たりうる可能性も残されてはいる。

 この映画は、中国で実際に起こった事件をなぞったものであるという。そのディティールがどこまで再現されているかは分からないが、とてもリアルな人間模様を映像として表現しえていると思う。

  
  

 私事ではあるが、私はこの種の映画には結構弱い。
 それは私自身、実父・実母から離れて、養父・養母のもとで成長しているからだ。断っておくが、別に誘拐されたわけではない。

 人類というのは、おそらく、子が自立できるまでの期間がもっとも長い生物だ。その間、子どもたちは、遺伝子を介在した本能の伝授よりも、親からの訓育、教育に依拠しながら自己形成をしてゆく。
 この過程は親→子という一方向のみならず、子→親という方向にも作用し、子が親を慕うと同時に、親が子を生きがいとする過程が生まれる。

 親子関係にはさまざまな外部の影響もあって、激しく変動しているが、家庭という単位が存続する限り、親子の葛藤と依存関係は続くだろう。
 そして、それ自身がある種の哀しさを内包しているともいえる。


 


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