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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

「ほんとうの生わかめ」とウンチクと詩歌

2023-02-17 17:41:55 | グルメ

 私が常備している食材にわかめがある。わが家の味噌汁は、豆腐、わかめに小口切りのネギを散らすというシンプルなものが多いため、乾燥したカットわかめは必需品で、業務店用のかなり容量の多いものを在庫している。

 その他に、いわゆる生わかめが出回った際にはそれを購入する。細かくカットした乾燥わかめは、味噌汁以外の用途には小さすぎるからだ。
 酢の物やヌタ、麺類などその他の料理の添え物としては生わかめがうってつけだ。

 まあ、ざっくりいえばわかめ好きなのだろうが、中でもとりわけこの時期のわかめは絶対に外せない。なぜなら、「ほんとうの生わかめ」が出る時期だからだ。
 年中、生わかめは出回るが、それらは貯蔵したものを加工(たとえば、葉の部分と茎の部分を別の商品としたり)したものである。そしてその色合いはというと、乾燥したものは黒く、その他のものは緑色である。なかには若葉のように明るい緑もあり、これぞ「生」わかめと思わせたりする。

 それらに対して、この時期は「ほんとうの生わかめ」が出回る。「ほんとうの」というのは上記のように貯蔵されていたものを加工したりしたものではなく、まさに海から穫ったそのままがでてくるのだ。というのは、この時期がまさにわかめの旬であることを示している。
 そしてその色彩はというと、黒くもなく、緑でもない。最初の写真のように褐色をしている(この写真のみ図鑑から拝借)。

       

 スーパーなどではそれを折りたたんで二枚目の写真のようにして売っている。ちなみに、これは160円で手に入れたが、普通200円前後で手に入る。
 すぐ隣にある緑色の従来の生わかめは、この分量だと数百円はする。

 これの処理はかんたんである。ややたっぷりめの湯を沸かし、沸騰したなかにそれを入れる。その途端に、鮮やかな緑に変わるのは楽しい。
 しかし、あまりグラグラ煮るのはよくない。わかめの旨味が出汁になって出てしまう。

       

 全体に色が変わり、次に沸騰しそうになったら(多少は加熱しないと日持ちの問題がある)さっと冷水にとる。それを食べやすい大きさにカットし、タッパーなどに入れて冷蔵庫で保管する。
 先にも述べたが、他の時期の生わかめは葉の部分のみで、茎の部分は茎わかめとして別に売っているが、この時期、自分で湯がいたものは茎も一緒だ。
 調理をする折、茎だけでなにかをつくってもよいし、一緒に調理しても構わない。

       

 こうして保存しておくと、いろいろなものに使える。
 酢の物はもちろんだし、イカやわけぎ、ホタルイカなどとヌタにするのも良い。
 刺身類の付け合せにもなるし、サラダにも使える。
 私がけっこう多用するのは、麺類の具としてだ。うどん、ソバ、ラーメンとなんにでも使える。

       

 この間、こうした「ほんとうの」生わかめを見かけ次第、買うようにしている。
 ちなみにここでうんちくを一つ。
 わかめは実に見慣れた食材であるが、これが穫れるのは、日本の近海と朝鮮半島の南の方に限られるというからわかめ好きの私にはありがたい話だ。

       

 若布は昆布と並んで普遍的な海藻なので、昔から詩歌に詠まれてきた。
 そのうち、万葉集に東海地方に関連したものがあるというので載せておく。

 打ち麻を麻続の王海人なれや伊良虞の島の玉藻刈ります
 うつせみの命を惜しみ波に濡れ伊良虞の島の玉藻刈り食む

 この玉藻はわかめのことで、この二首ともに、麻続の王(おみのおおきみ)が流刑先の伊良虞=伊良湖でわかめを穫って食しているのを哀れんだ歌だという。
 一種目は、「麻続の王は海人なのだろうか 伊良湖の島で若布を穫ってる」で二首目はその続き。

 麻続の王は生没年不詳、七世紀末の皇族。675年、天武天皇によって流刑にされたというがなんの咎かはよくわからない。
 また流刑地も諸説あるが、万葉集は伊良湖をとっているようだ。

       

 なお、俳句にも多くの作品があるが
  若布刈るやかなしきまでに汐碧く   鈴木真砂女
 が目についた。
 この鈴木真砂女(1906~2003)は、波乱の生涯を歩んだ人のようで、丹羽文雄や瀬戸内寂聴の小説のモデルになっているという。

 例によって、蛇足が長くなった。

コメント (2)
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