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めんそーれタンカン! 南の果物がやってきた!

2021-02-02 00:11:25 | フォトエッセイ

 食用にされる果実の内、柑橘類は実に多種にわたる。
 それ自身を食すものから、レモン、スダチ、カボス、ユズなど調味料や香辛料のように使用されるものなどそれらの種類は多い。
 田舎で育った子供の頃は、キンカン、ミカン、夏ミカン、ユズぐらいしか知らなかった。
 今でも、ミカンより大きい柑橘類の名前はどれがどれなのかさっぱりわからない。

         

 そんな私に、沖縄の友人から、「タンカンを送るぞよ」と連絡があった。
 タンカン? よくニュースで、「日銀発表のタンカンによれば」などといっているが、これは各企業が景気をどう実感しているかを集めた経済指標のメルクマールで、「短観」と表記する。
 もちろんそんなものを送ってくるはずがないから、柑橘類だと当たりをつけて下調べをする。この果実とはまったくの初対面なのだが、そうであればこそ、相手の素性のあらかたを承知の上でお出迎えするのが最低限の礼儀ではなかろうか。

 そのリサーチの結果、それは台湾を原産地とする暖かいところ特有の柑橘類で、日本では鹿児島県以西の南西諸島を産地にするとある。なるほど、これはやはり初対面のはずだと納得する。

          
 で、それがやってきた。
 梱包を開けると、柑橘類特有の馥郁たる香りが鼻孔を襲う。
 しかし、その器量はいいとはいえない。ミカンなどに比べると、あばたヅラなのだ。
 「惚れてしまえばアバタもエクボ」という慣用句もあるが、これは、惚れた相手のアバタをあえてないものにした上での幻想的な愛であり、そんな愛は覚めたときの反動を予感させるものでしかない。「惚れていれどもアバタはアバタ」が真実の愛にほかならない。

         

 すでに述べたように柑橘類の知識が希薄な私は、これを読んで下さる方々にどのようにお伝えしていいかよくわからない。そこで手っ取り早くミカンとの比較で述べてみよう。
 ミカンに比べると一回り、ないしは二回り大きく、ミカンはやや扁平なのに対しタンカンは円形に近い。

             

 剥いてみる。外皮はやや固く、ミカンのように果実との間に隙がないからするっとは剥けないが、かといって剥きにくいというほどではない。香りはミカンよりいくぶん鋭角的かもしれない。そこから連想されるのは酸味なのだが、口に含むとミカンよりややしっかりした歯ごたえのその果肉はけっして酸っぱくはない。
 最近のミカンは品種改良によって甘味が強くなっているが、それらと比べても、酸味より甘味が勝り、そのバランスはいい。

          

 多くの果物は今日、品種改良などによってさまざまな特徴を持ちブランド化されているが、それによってもともともっていた産地によるローカルな風貌が失われているものが多い。しかしこれは、南国の柑橘類という身分証明書をちゃんと携えた果物だといえる。
 ミカンが日本ですっかり飼いならされた完成品であるとしたら(それ自身すごいことなのだが)、このタンカンは、南国のローカルな気配を失わないまま、メジャーな果実に伍してその存在感を主張している。

         

 口に含みながら、一昨年秋、満を持して沖縄を訪れた折のことをこもごも思い出している。その折の三日間、私のわがままな希望を叶えてご案内いただいたのが今回のタンカンの送り主だ。
 彼女は、オールラウンダーな存在で、海に潜ればサンゴ礁の生物たちと美ら海語で対話し、ヤンバルの森ではハブを蹴散らして絶滅危惧種を保護し、視界をよぎる鳥影をバーダーとしてけっして逃しはしない。

         

 また、ひとたび筆を執らせれば、俳句やエッセイで沖縄文学賞を受賞し、マイクを握らせれば、その歌声は全国規模の歌謡大会でグランドチャンピオンに輝く実力をもつ。
 そのくせ、気取ったところは一切ないから、分野を問わず冒険好きの少女がそのまま眼前にいるかのようである。

         

 一昨年の沖縄への旅は、彼女の案内で良かった。また、三重から同行してくださったS夫妻が一緒でよかったとしみじみ思ってる。そのおかげで、私の観光と同時に鎮魂という願いが果たされたのだから。
 沖縄へ持参し、平和祈念公園と、チビチリガマで灯したあの蝋燭は、2011年、中国は山西省の日本軍による住民の集団虐殺の現場で灯したものと同じものだった。

         
 
 送っていただいたタンカンを味わいながら、その折の沖縄の旅を思い起こしている。
 文中の写真はそれをアトランダムに配したもの。

         

 Oさん、ありがとう。
 タンカンの爽やかさを味わいながら、ご案内いいただいた辺野古の美ら海を思い起こしています。
 「にふぇーでーびる」Oさん!
 「めんそーれ」1,300キロ彼方からやってきたタンカン!

         
         

コメント
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