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あなたは国歌や国旗のもとで忠誠を誓えますか?豪国歌の変更を巡って

2021-02-19 00:55:13 | よしなしごと
 10日ぐらい前だったろうか、オーストラリアが国歌の一部を1月1日でもって変更したということを題材にしたコラムを新聞で見つけ、「え、あのゴッド・セイブ・ザ・クイーンを部分的にいじるなんてことができるの」と思った。

         

 しかし、これは私自身の無知であった。オーストラリアは建国以来、英連邦の習いとして「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」が国歌であり、子供の頃からそれを聞き慣れて来たので、いまもそうだと思っていたのだが、実は1984年に、今の「アドバンス・オーストラリア・フェア(進め!麗しのオーストラリア)」に変更されたのだという。
 その方法も、国民投票で、「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」も含めた複数候補の中から、半数近い得票で決められたのだそうだ。

 だから、この1月1日に変更されたのは「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」ではなく、この「アドバンス・オーストラリア・フェア」の方である。
 では、この歌のどこがどのように変更されたのかというと、一番の二行目、「We are young and free」(私たちは若くて自由だ)の部分が、「We are one and free」(私たちはひとつで自由だ)に変えられたというのだ。

         

 なぜこの変更がなされたのかというと、「young」の部分が、オーストラリアは「若い国」を意味しているからだという。たしかに、西洋中心主義的な視点からは20世紀初頭にできたこの国はyoungな国ということになるだろう。
 しかし、この国が経験し、払拭しなければならない先住民との歴史的軋轢の視点から見たらどうだろう。あとからドカドカやってきて「若い国」も何もなかろうということになるだろう。そこで採用されたのが「私たちはひとつ」なのだ。

 もうひとつ、私の目からウロコは、この国歌が先住民のマオリ語でも歌われるという事実だった。先に五輪組織委員会会長を退いた人がかつて言ったように、日本は神の国で単一民族単一言語の国だという閉塞した国家観ではおそらく考えもつかないことであり、私もその影響下にあったのか、国歌が多言語で歌われるということには思いつかなかった。

         

 確かにこの変更は合理的であるといえる。しかし、私は、ぶっちゃけた話、国歌というものにどうも馴染めないのだ。アナクロニズムの歌詞と、暗~い旋律のあの「君が代」も嫌いだし、その他の国歌も国旗の端なぞ持って、手を胸において、そのもとに忠誠を誓うかのように歌われたりすると、思わず、退いてしまう。
 そこにある、露骨な同一性への忠誠の強要が嫌いなのだ。

 だから。高校生以来、国歌は歌ったことがない。
 20代の終わり頃、フランスの国営劇団、コメディ・フランセーズが来るというので、背伸びをしてチケットを求め、いまはなき連れ合いとともに、名古屋まで観に行ったことがある。
 その冒頭、フランス国歌が歌われ、まあ、これは遠来の客への挨拶としてやむを得ないだろうと起立した。

 その次が最悪だった。続いて、君が代斉唱! なんで? フランスの芝居を見るのになぜ君が代? 私も、連れ合いも立たなかった。周囲の人びとは立ち上がり、唱いはじめた。ぽっこり穴が空いたような私たちの頭上から、あの陰気な歌が雪崩込んでくるのを防ぐことはできなかった。
 まるで拷問に耐えるかのような時間だった。

         

 人びとは着席し、芝居が始まった。しかし、落ち着いてそれに没頭することはできなかった。私たちの不起立を、少なくとも周辺の人は知っていた。だから、まるで異物を見るようにチラッと送られる視線もあった。それを察知した私たちはなんとなく自分の存在がおじゃま虫であるかのように最後の緞帳が降りるまでの時間を耐えたのであった。

 オーストラリアの国歌の変更から、いろんな思いが湧くのは否めない。
 ただし、曲げられないのはある価値観のものに忠誠を迫るような縛りは、旗であれ、歌であれ、受け入れられないということだ。
 あの君が代を国歌としていただくことは今後ともにできそうにない。
 
 どこかで「日本から出てゆけ!」という声が聞こえるような気がする。
 
上の文章中、オーストリアの先住民、アボリジニがマオリ語で国歌を歌うかのように書いてしまったところがありますが、これはニュージーランドでの話との混合でした。オーストラリアでも先住民の言葉で国家を歌いますが、マオリ語ではなくアボリジニの言葉でです。
 ただし、このアボリジニの言語は単一ではないようで、そのうちの多数を占めるもので歌われているのだろうと思われます。
コメント
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