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【わが読書】 禁断の書?『わが闘争』読み始め

2016-02-15 02:31:46 | 書評
 今月初め、左腕骨折治療のための手術で一週間の入院を余儀なくされた。その折持ち込んだ書は2種類であった。
 そのうちの一つは、前々から少しずつ読み進んでいたドストエフスキーの『悪霊』で、岩波文庫4分冊の4冊目の後半を読み、ダラダラとした読書にピリオドを打った(それについての感想文は2月7日の日記に掲載した)。
 
 その後、やはり病院で読み始めたのが、ヒトラーの『わが闘争』(角川文庫版)であった。文庫本とはいえ、細かい活字で改行の少ない文章がびっしり、上下合わせて約1,000ページというなかなかの大著である。
 まだ読み終えたわけではない。上巻の半分、全体の4分の1ぐらいであろうか。複数の書を並行して読む私の読書法ではまだまだこの先、掛かりそうだ。
 全部読了した段階でまたなにか書くつもりだが、ここまでで書いておきたいことがある。

        

 ひとつは私のこの読み始めが極めてタイムリーであったということである。『悪霊』のあとの『わが闘争』という意味ではない。
 実はこの書、本国ドイツでは、その版権をもっていたバイエルン州とドイツ連邦共和国がその再版を許可しなかったため、事実上の禁書となっていたのであった。
 それが、ヒトラー死去70年を迎え、著作権切れのため、戦後はじめて、ドイツで出版されたのがこの1月末なのであった。したがって私は、それと足並みを揃えるようにこの書にとりかかったことになる。

 ドイツにおける再版は、遠慮がちに4,000部であったがたちまち売り切れ、ネットではその10倍位以上で取引されているという。もちろん直ちに増版が企画されている。

             

 この出版にあたっては、ドイツ系ユダヤ人を始め、少なからぬ人びとの反対があった。その影響力を恐れてのことである。
 それに対し出版社は、従来のものと違って、あからさまな虚偽や事実との相違には適切な「注」をつけてそれをただしているとする。例えば、ユダヤ人のすべてが資産家だというくだりや、ヨーロッパの宗教革命はユダヤ人の陰謀によって起こったとするような史的事実と異なる事柄についてである。
 事実、映像で見る限り、それらの「注」は本文を凌駕するほどだ。しかし、反対側は納得しない。そんな「注」などすっ飛ばして読まれるだろうと言うのだ。
 たしかに私なども、すべての「注」を参照したりはしない。

 一方ではこれを「負の遺産」として学校教育の中に取り組み、教師の「適切な」解説付きで教材化しようという動きもあるようだ。しかし、その教師がネオナチの支持者だったりしたらややこしい関係になることもあるだろう。

 時期もまた、確かに微妙である。
 中東からの難民をめぐってヨーロッパは揺れている。アメリカ共和党の大統領候補者・トランプは、イスラム教徒の排斥を訴えていて、かなりの支持を得ている。ヨーロッパ諸国でも難民排斥運動が勢いを増しつつある。

             
 
 また、トルコでの同書の発刊については、瞬く間にベストセラーになったという情報もある。これは、イスラム世界にある反イスラエルの感情が、反ユダヤ人という人種問題に転化しかねない危険性をはらんでいる。

 わが国についてもヤバイ問題を共有している。
 ヒトラーは、政党の腐敗、議会の腐敗、多数決原理が時の権力者の独裁を招いているのではないかと指摘し、民主主義を否定し、そうではない独裁を対置するに至るのだが、その意味では、この国の現状も、民主主義は寡頭制支配のシステムに堕しているのではないかという見解は十分説得力を持つ。
 私も実は、この国の「民主主義」は単に寡頭制支配の道具に堕しているのではないかと思っている。ここまではヒトラーと同じだ。

             

 だがそれを超えるには、他者の到来、民主主義から遠ざけられていた者たちの公への参加だと私が思うのに反し、ヒトラーは民主主義を投げ捨て、新たな独裁を希求する。この辺は、政治思想の機微に関し、極めて危うく、しかも困難な地点でもある。
 新たな独裁は、何がしか期待をもたせるかもしれない。しかしそれは、その独裁原理への単一的な支配への服従を強いるものであり、ここで失われるものは、端的にいって人びとの複数性・多様性である。私たち個々の単独性の喪失でもある。

 おっと、読む前から深入りしそうになってしまった。これらは読了した後に改めて述べることにしよう。
 ただし、そのころには、私自身、すっかりヒトラーの虜になって、「ハイル!」と敬礼しているかもしれない。
 さあ、私とヒトラーの真剣勝負だ。




 
コメント (2)
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