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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

とべ とべ とんび 空高く

2016-01-25 14:18:20 | 書評
 「BIRDER」という鳥好きの人にはたまらない雑誌の最新号(2月号)が私の机上にある。
 なぜこんな雑誌が、鳥影を見かけると、「おや、なんだろう」とは思うものの、それが何かがわかるとホッとし、わからないと多少のもやもやが残るといったぐらいの、Birderとはとてもいえないような私のもとにあるかというと、この号には、私の友人の娘さんが記事を書いているからである。

             

 彼女は、アマチュアのBirderではなく、鳥好きがこうじてプロの鳥類調査員になった人である。
 例えば、何かの施設ができるとした場合、その近辺にはどのような鳥類が棲息していてどのような影響を被るのかを調査するような仕事をしているらしい。だから、彼女の仕事場は自然の山野であり、ほとんどがフィールドワークなのだという。
 そんな彼女が、とくに好みとしている対象は、ワシやタカなどの猛禽類だといいうから面白い。

 彼女が記事を書いたという雑誌の表紙写真を見てほしい。今月はまさにドンピシャリ、彼女の専門の猛禽類なのだ。
 彼女がこの号で書いているのは、そのうちでトビについてである。「え?トビが猛禽類?」と思われる方もいるかもしれない。むしろ、田舎育ちの方ほどそう思われるかもしれない。私も長い間そうだった。私の田舎にはトビはいなかった。いたのはトンビだ。トビというのは彼らに対してのどこかよそよそしい呼び名だ。それほど身近な鳥だったから、猛禽類と認定するのにかえって時間を要したのかもしれない。

 私たち田舎の少年は、トンビと遊んだ。夕方など、トンビが頭上で輪を描いていると、それにむかって紐にむすびつけた石などをできるだけ高く投げ上げるのだ。するとトンビは、それを餌と誤認してスーッと降下してくる。しかし、目のいい彼らはけっして最後まで騙されはしない。「オット、違った」とまた上空に舞い戻るのである。

 大人たちもトンビとの相性はまあまあ良かったようで、農繁期に畦に広げていた弁当をさらわれても、「やあ、これはやられてしまった」と笑いのうちに許容していたようだった。
 そうしたトンビについて書いているのがわが友人の娘さん、山下桐子さんである。

           

 猛禽類が専門で、しかもフィールドワーク専門ということから彼女を理系のお固い研究者だとするのは誤解である。それは彼女の文章を読むとよく分かる。「文系女子」という言葉があるそうで、彼女がそれに相当するかどうかは分からないが、少なくとも、古典や伝承、そして絵画作品などを援用してその対象の鳥に迫る彼女の文章は、とかく実証的な記述の多いこの雜誌のなかでは、異色でとても面白い。

 今号に関していえば、「へえ~、トビ…ではなくて…トンビにそんな話がねぇ」と、トンビファンのこの年寄りが思わず頷くような内容なのだ。
 子供もころにあんなに馴染んだトンビ、この頃では私の住む都市郊外でもめっきり見る機会が減ったこの鳥への、郷愁のような思いを新たにした次第である。

 なお、この雑誌は、いつもながら写真やイラストが精密で美しい。
 それらを眺めながら、鳥と人間との太古からの関わりに思いを巡らすのも楽しいものだ。

おまけ これ改めて聴くと、のびやかでいい歌だなぁ。
  https://www.youtube.com/watch?v=dMXzb--_QZw
 
コメント
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