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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

秋は哀しい? どうしてですか?

2010-10-06 03:34:18 | よしなしごと
     

 秋が哀しいというのは机上のインテリのたわごとで、農耕民族や山の民にとっては実りの時であり、自然の恵みの時なのです。


 しかし、インテリは詠います。

  奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき(猿丸太夫)

 山中で聴く(彼らが本当に聴いたかどうかは疑問ですが)鹿の鳴き声は哀しく聞こえるかも知れません。しかし、この時期の鹿の鳴き声は繁殖期のそれであり、恋の発露なのです。愛すべき相手を求めて鳴く鹿、それに呼応して鳴く鹿、これぞまさに生の謳歌なのです。
 ここには悲哀はありません。自身の生の喜び、次代へとそれを繋ぐ喜び、それが満ち満ちているのです。

 農家の主産物である米の収穫においても同然です。
 私が少年期を過ごした村でも、秋祭りはまさに歓喜の祭りでした。
 当時の田舎では家父長支配が強かったのですが、秋祭りには無礼公的な色彩が強かったように思います。
 ですから、日常では酒に親しめなかったひとたちが、まさにバッカスの恵みを享受していたのです。

 山の民も同様です。
 栗やクルミ、栃の実を収穫し、蕎麦を刈り、渓の雑魚を獲って熟れ鮨をこしらえ、とても忙しくかつ、実り豊かなこの時期を、哀しんでなどいられないのです。

 少年時代を過ごした田舎での、ろくすっぽ電灯もない下での部落総出のあの秋祭りを懐かしく思い出します。
 秋は豊穣の季節なのです。
 

           

コメント
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