イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

タルを知る

2010-06-03 18:49:30 | ニュース

今週の『ゲゲゲの女房』では週アタマ、間借り人の中森さん(中村靖日さん)が去って行ってしまいました。“貸本漫画界どん詰まりの時代”を身をもって体現するのみで、目立った活躍と言えるような活躍場面もありませんでしたが、なんか、ときどき顔を出してくれるだけで“ほそぼそでも、途切れ途切れでも、家賃収入はあるだろう”と、消極的な安心感をもたらしてくれるような、“無作為の守り神”みたいな、あれはあれで心強いキャラだったと思うのです。

1日(火)放送回のアバン、大阪の妻子のもとへ旅立つ玄関先、アレ思うに、布美枝ちゃん(松下奈緒さん)からおにぎりを差し出されるまで、溜めた家賃のそのまた半分、渡して行くべきかすっとぼけるか、彼なりに迷っていたのではないでしょうか。

3人もの子供と妻と、妻の病気の親まで待っているとの話。発つ鳥あとを濁さずと一生懸命工面はしたけれど、上履きひとつ買ってやれない子供らに、1円でも余分に持ち帰ってやりたい。前日、帰阪やむなしに至った惨めな事情を物語ったら、つつましくも温かい壮行夕食会までもうけてくれた村井さん夫婦が、いまさら家賃請求して来ないだろうことはわかっている。ならばすっとぼけ勝ちか。でも男のけじめ。うーーーーん………とひそかにもやもやしているところへ、奥さんが「汽車の中で食べてください」と、自分たちも食費ギリギリなのにおにぎりを作ってにっこり手渡してくれた。これに報いずして、何ぞ男の誉れかな。

「…あ、」といま思い出した様な素振りではありましたが、ズボンのポッケに押し込んであったあの茶封筒のクシャクシャぶりが、払うべきか持ち帰るべきかの長い逡巡を物語っていたような。最初から払うつもりなら、もう少し封筒がピッとしているうちに出すでしょうに。

もともとは大阪で貸本漫画家をやっていたけれど、中央より先に貸本出版界が惨状となり、妻子を実家に帰して活路を求め上京。しかしまるで追いかけるように東京の同業界も不況の波にのまれ、新しく台頭した大手漫画雑誌から声がかかることもなく、漫画家の道をあきらめ都落ち。聞くも涙の下り坂人生ではあるけれど、終始諦観と悟りの微笑をたたえた、闇の中のちっこい灯明のような、不思議にほわんと明るい人でした。

ほわんと明るいと言えば、キャストの中でも、松坂慶子さんの次ぐらいに色白でもあった。そういう問題じゃないか。

「水木漫画にはきっと日が当たるときが来ますよ」「苦労もいつか報われます」と言い置いてくれましたが、この予言がものの見事に的中することを、視聴者はすでに知っています。中森さんの漫画もこれくらい当たればよかったのに。

そう言えば「景気のいいときには、原稿料でステレオが買えた」という中森さんの漫画作品、どんな絵柄で作風だったのか、劇中一度も映らなかったのが残念。水木漫画とバッティングする戦記や怪奇ものではなさそうなので、屋根裏に出没する忍者モノとかかしら。それとも透明人間や液体人間が活躍するSF系とか。

去っていく背中の背嚢からぶら下げたヤカンが歩くたびにお尻に当たって痛そうだった。あれでお湯を沸かして暖をとっていたコンロや、お茶ガラを炒っていた鍋は汽車賃捻出のために一六銀行で二束三文化したのだろうなあ。

中森さんフォーエヴァー。大阪で襖張り職人として遅咲きの花を咲かせ、水木漫画ブレイクで村井家が潤ったアカツキには、調布のいまのボロ家を改装増築する折りぜひ勇躍出張して腕をふるって下さい。

思えば中森さんだけでなく、紙芝居の音松親方(上條恒彦さん)、少女漫画のはるこちゃん(南明奈さん)をはじめ、初回訪問ではショック受けてた源兵衛お父さん(大杉漣さん)、ちょこちょこ顔出してはタダ飯食ってかき混ぜて行く浦木(杉浦太陽さん)に至るまで、村井家を訪れた人は、来たときよりも去っていくときのほうが、必ず笑顔になっていますよね。こんな狭くて貧しい家なのに、これはしげるさん(向井理さん)と布美枝さんの人徳というか、2人が周りに放つプラスの磁場のなせるワザ以外の何ものでもないでしょう。

ゆるーくささやかーでもしぶとかった中森さんの守護がなくなって、入れ違うように今日(3日)は貧乏神(ラーメンズ片桐仁さん)がしげる身辺に出没し出しましたが、夜明けはそう遠くないはずです。

…そう言えば、降ってわいたような民主党党首選挙、にわかに注目されるようになった樽床(たるとこ)伸二さんって、水木漫画のキャラっぽくないですか。いや、名前が。響きが。「タルトコ」。「ヌリカベ」の親戚のよう。

「タルトコさん、先へお越し」なんてね。期せずして島根県出身らしいですが。安来のある出雲国かな。石見のほうかな。

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