イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

その日付、言ってませんよ

2007-03-11 16:48:42 | テレビ番組

『わるいやつら』最終章終了。ふぅー。週一の連ドラを1話も欠かさず最終回まで観たの久しぶりですよ。大長編小説を読むようなもので、最終的にはキャラの善悪、好悪を超えて、物語世界自体に愛着が湧いちゃうものなんですね。ED曲入り前、刑務所の塀の前を歩く豊美と戸谷の姿がすーっと消えて行くときには、思わず「行かないで!」って叫びたくなりました。

やはり最後まで豊美が色鮮やかな服を着ることはありませんでした。前回第7章の終わり、ホテルロビーで戸谷と鉢合わせしかけたときに履いていた真赤なハイヒール。彼女が自分で選んで身につけた“色物”は後にも先にもこれだけ。

1章で豊美が戸谷に苺をクチに詰め込まれた瞬間、画面が苺を除いてぜんぶモノクロになった、あの名場面を思い出します。

家族も友人も、気を晴らす趣味もなく、心を閉ざし、自分でも気づかない孤独感を報い少ない激務へのモティヴェーションに振り替えて、夢はある、患者に感謝され頼りにされて十分達成感もあると自分に言い聞かせて生きてきた女の、心の空隙に、意表をついて入り込んできた香気馥郁たる邪悪。

豊美にとって、戸谷はそういう唯一無二の存在だったのでしょう。

改めて第1章の重要さを思います

「私が何故看護師を選んだかというと、一生続けられる仕事がしたかったからです。私は昔からあまり結婚願望がありませんでした。結婚というものが、なんだか打算的に思えて」

という豊美声の独白ナレーションに、豊美という女性の人となり、価値観の大半が表れていました。

たぶん早くに病気で亡くなった(それが看護師を志す主動機になった)というご両親も、愛に満ちた円満な夫婦生活ではなかったのでしょう。事件発生時点で豊美31歳、看護学生時代も含めて、あのスタイルと美貌に、言い寄る男、交際した男が一人もいなかったはずはありません。付き合って結婚を意識した恋人の「身よりも実家の後ろ盾もない女だから、看護師辞めて専業主婦させてもオレの両親の介護はバッチリだろ」という打算が見えて嫌気がさしたり、逆に「この男と一緒になれば資産あるし、舅姑はいないし、将来安泰かも」という自分の中の打算を自覚して、白けて別れたこともあるかもしれない。同僚看護師の、エリート出世コース医師や金持ち患者の妻の座ゲットで鼻高々な姿を見て嫌悪感を抱いたことも一度ならずあったのでしょう。現役のまじめな志高い看護師さんたちに失礼な見方かもしれませんが、他人に奉仕して俸給を得る仕事には、、白衣の天使だなんだと持ち上げられそこそこ好待遇であったとしても、ともすればこういう湿った翳がつきものです。

そんな日常の中、戸谷のような、危険の匂い芬々、女を金づるとしか見ない、関わっても何の利得にもならないのが明らかな男にどうしようもなく惹かれ、一度は不実さに呆れて振ったつもりなのに忘れ難くなっている自分の気持ちに豊美は驚き、舵が取れなくなった。しかし持ち前の意気地とプライドからみずから堕ち壊れていくことを潔しとはせず、自分の中の悪、手を汚した悪を足下に踏みしだいて、強く、ふてぶてしく生まれ変わる人生を選んだのです。

自分の証言で刑期を短くしてやった戸谷を、出所の日に待ち構えて「お帰りなさい。待ってたのよ、行きましょ」と嫣然と微笑む豊美は、同じ松本清張さん作品の『鉢植を買う女』の楢江(ならえ)のような、粘着して粘着して負けないことで最後に勝つ怖い女のイメージを思い出させるところがありました。楢江は不器量で男に好かれないことから開き直って犯罪に走る女でしたが、白のトレンチにシルバーフォックスの襟巻き、道を歩くだけで男も女も振り向くような米倉涼子さんが豊美を演じたから、輪をかけた怖さがありました。

刑務所前からふたりが消え、ED曲を挟んで、あの山林を幽鬼のような表情でひとり歩く豊美の姿までの間に、何が起き、ふたりはどうなったのか。いろいろな説があります。「豊美は例の場所に戸谷を連れて行き殺して埋めて、これから自分も死のうとしていたのだ」「自分は死なずに自首しに行くところだろう」「いや豊美はもう死んでいて、あれは亡霊だ」「戸谷が今度は豊美に殺してくれと嘱託したんじゃないか」……以下無数。

視聴者の想像力に委ねられた結末ですから、観た人の数だけ終わり方があっていいと思いますが、月河は豊美も戸谷も、衆目からフェードしただけで死んではいないと思います。7章のナレーションで豊美はきっぱり「人間、死んだら負けなのだ」と言い切っているし、1章でも3章でも「死んでしまおうか、ふたりで」「豊美となら死ねるのになぁ」と、再三自分の破滅願望の道連れに豊美の手を借りようとしていた戸谷の思惑を、この期に及んで豊美が従順に受諾するはずはない。それでは生まれ変わって、戸谷を丸裸にするためにチセにひと芝居打った意味が無くなります。

わるいやつらは自分たちの中の“わるさ”を飼い慣らし、眠らせ、ときに餌を与えながら、偽善に塗り固めた平穏なこの世の何処かでいまもひっそり生きている…そう考えたほうが怖さも味わいも増すような気がします。

むしろ気になるのはエンドマークの手前に積み残されたマイナーな謎の数々。

でもご心配めさるな。たとえどんなにぼかした描写で終わろうと、割愛されまくった叙述に委ねられようと、“わけのわからない”ドラマなんてものは存在しません。大切なのはドラマへの愛であり、愛するドラマをなんとしても解釈しよう、眼光が液晶(ウチはいまだブラウン管だが)を貫く勢いで読み解こうという、揺るぎのない意志です。意志さえあれば、必ず道は開けます。

豊美がひとり死の森の彼方に消えて行った後、残った数々の疑問を、お任せください(爆)!月河が岩をも砕く意志の力で解き明かして進ぜましょう。

1.廃工場の縊死体は誰で、事務長はなぜ豊美と断言したのか:「顔はひどく傷んでいて見分けがつかない」し、ようするに事務長、豊美の外見を採用時の履歴書写真程度でしか認識してないまま、とにかく確認オッケー出して早く一件落着させたかったんじゃないですかね。髪型が間違いないウンヌンってほど、事務長がたくさんいる看護師のひとりにすぎない豊美の外見を強く記憶していたとは思えない(豊美と対面して会話するシーンひとつもなかった)。「ウチの職員だし何かある前に万全の備えを」と強調、「なんだか嬉しそうですね」と戸谷に皮肉られるくらい率先して捜索願を出していたことからして、恐らく事務長は警察とコンタクトを持って、自分の経理上の小ワザ(たぶん薬屋の支払い関係)から注意をそらしておきたかったのでしょう。伊武雅刀さんが演じたこと自体が視聴者への壮大なミスリードだったとも言えますが、絶えず匂わせていた胡散臭さは“経理面のひそかな悪事”を暗示していたと考えるべきでしょう。「今月も赤字ですワ」、薬屋への払い2400万、「(薬屋の)社長、今日のところはひとつ(合掌)」、「大変です、訴えると言ってきました」、根抵当をつけた…たぶんこれぜんぶ事務長の画策ないしヤラセで、言ってる額の相当な分が彼のフトコロに入ってたはずです。下見沢を信頼して密にコンタクトとっていた様子なので、ドサクサに紛れて自分の所業は糊塗、槇村デザイナー学園の事務長におさまっているかもしれません。

2.山林にコートを埋め替えたり、マネキンの脚埋めたりは誰がどうやって?:マネキンと言えば洋装店。たぶん出どころは隆子の店の裏の倉庫でしょう。たぶん人知れず一体足りなくなってるはず。伏線として、3章で豊美が隆子の店をたずね当て、颯爽と指示を出す隆子の姿をガラス越しに茫然と見つめる場面もありました。運ぶのに手を貸したのは豊美に好意を寄せていた葉山医師。ナーステのマグカップ珈琲も、豊美に頼まれて彼が仕込んだか、彼のオリジナル発案である可能性もあります。シフト間に彼女と一緒にお茶ぐらい飲みたい気満々でしたから、カップに触れてるだけで萌え~だったかも。

3.院内や窓の外から目撃された豊美の姿は?:廊下で戸谷が見たのは別人の後ろ姿で、妄想。チセ宅にいきなり逆毛アップのフルメイクで現われて以降の豊美は一度死んで生まれ変わってますから、地味看護師のいでたちで潜入は、コスプレのつもりでも心理的にもうできないと思います。駐車場から自傷癖の老婦人(大森暁美さん)が窓越しに見かけ手を振り返したのは、いつも他の看護師たちに迷惑がられ粗略に応対されている彼女の「あの優しい看護師さん最近居なくて淋しいわ、会えないかしら」の思いが見せた幻影とも考えられますが、月河ここはズバリ、葉山医師の女装と見たい(爆)。夜半の駐車場から見上げた2階の窓、ブラインド越し、老人の視力と重なれば、識別要素は“背が高い”のみ。これも豊美にムリヤリやらされたと言うより、葉山クン自分で思いついて「寺島タンの白衣~帽子~カーディガン~♪」とルンルンイソイソやってたと思うな。7章でバーカウンタで「前の寺島さんのほうが絶対良かったなー」「戸谷信一が医師でなかったら、犯罪なんて…」とも言っていた。あのバーまでの時間に、豊美は戸谷がしたことを相当、葉山に話して協力させていると思います。

でも葉山、裁判では戸谷の心証を悪くする証言をすれば豊美のためになると思ったようですが、逆目に出て気の毒でしたね。豊美の本質をわかっていなかった、と言うかアプローチするのがワンタイミング遅かった。このドラマのような“悪い男を恋する話”には、「ヒロイン、こっちの男と付き合ったほうが幸せになれるのに」と視聴者をやきもきさせるべき清廉堅実男が必ず当て馬に登場しますが、葉山医師もそのポジションになりそうでいて、ならないうちに終了してしまいました。演じる平山広行さんの力量云々より、脚本家プロデューサーが葉山というキャラをさほど愛してなかったんでしょう。

4.隆子が下見沢と最初から組んでいたとしても、鎌倉の豪邸にどうしてすんなり入って行った?:2章で戸谷が隆子を送り届ける場面で初登場のあの豪邸、よく見ると玄関と門灯以外室内に火の気がありません。7章では訪問客を割烹着の家政婦さんが取り次ぐような家なのに、お嬢さまのはずの隆子を出迎える使用人の姿もありませんでした。見上げる戸谷の表情に、隆子“バレたらどうしよ”と落ち着かなげ。いま見ればニセモノフラグびゅーびゅー立ちまくり。下見沢が留守宅の鍵を借り受けて流用したんでしょう。5章の隆子両親も下見沢の仕込みか、逆にコレクション準備と言いながらやたら中華街にいた隆子のほうの人脈かもしれません。

5.龍子の夫から検出された毒は誰が?:1章での狼狽ぶりから見て、警察の事情聴取に怯えた龍子の錯覚とも思えましたが、最終章では井上警部補(大杉漣さん)が砒素検出を認めました。戸谷が渡した整腸剤を毒と信じきっていた龍子が別調達で砒素を併用するとは思えないので、2章で龍子に死んでほしいオーラ出しまくりだった黒眼鏡のいかがわしい義弟(でんでんさん)が一枚噛んでいたとみるべき。豊美がいやいや参列した葬儀でもそこかしこに噂話が渦巻いていたし、かねてから心臓を患っていた横武氏にも、遺産相続権のある龍子(たぶん横武氏が周囲の反対を押し切って色ボケ再婚した後妻でしょう)にも早く死んでもらいたい親族がぞろぞろ居たということでしょう。最終章で龍子・藤島氏殺害が立件できなかったこともそうですが、清張さんの作品には警察捜査の限界や無能さを皮肉った描写がよく見られます。

…あと、何かあったかな?欲を言えば、大杉漣さんにもっと早く参入して不穏な空気を撒き散らしてほしかったですね。取調室での「何やってる?(←戸谷を見たまま)…先生にお茶を!…ありがと(←同じく戸谷を見たまま)」の不気味さ、「しん、きん、こう、そく」のイラッとさせる感も最高だったし、「心筋梗塞で死ぬ人って多いんですねぇ、突然ウッ!ウゥァ~!となって」の形態模写は、戸谷ならずとも一瞬ギョッとしました。

井上警部補、告発した豊美が裁判で証言を変え、殺人未遂容疑が嘱託殺人未遂に変わってしまったことで、「事情聴取が甘い」と上から責任問われたりしたのかなぁ。積み残し分の謎解きも含めて、警察を辞した(辞させちゃうのかい!)井上が世間から消えた戸谷と豊美のその後を突き止めるような内容のSPを作ってもらえたら嬉しいですね。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イッツ・ザ・タイム | トップ | 校内ではなるべく死なない »

コメントを投稿

テレビ番組」カテゴリの最新記事