イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

あなたはひどいです三たび ~だからしつこいです~

2018-11-28 20:22:16 | 海外ドラマ

 昨年夏に新調したパソコンが通算三度めの本格的な挫折で、正味二週間以上の完全アナログ生活へ。

 その間に、BSの韓国ドラマ2本が終了。パソコンが無くネットも無いと、やはりテレビ放送やDVDソフトはかえって真剣に見ますね。

 『あなたはひどいです』(BS11、11月22日終了)全68話、全体的に、スタートで張りめぐらした人間関係を活かしきれずに、結末への求心力が薄く平均ペースで終わった感です。

 白黒微妙な財閥会長役チョン・グァンリョルさんを筆頭にキャスティングは要所で豪華で、期待を持たせたんですが。

 大物スター歌手vsそのモノマネで稼ぐキャバレー歌手の恋と名声を巡るバトル、そのスター歌手が無名時代にひっそり生んで捨てた子との再会をめぐる葛藤がまず芸能界側にあり、一方、かねてこの歌手に執心の財閥会長の夫人が不審な自殺を遂げたことから、会長と不仲の長男が疑惑を抱いて歌手に接近、さらには夫人が生前チャリティ後援していた盲目の若手ピアニストがひそかに夫人の遺言を託されていて・・

 ・・と、二つの世界を跨ぐ欲と愛憎の物語を繰り広げるのには申し分ない設定での船出でしたが、皮切りの“スターvsモノマネ歌手”の緊張感は「本家のスターの人気と知名度に便乗して仕事を得て家族の生計を支えている」という言わば“本質”を、冒頭の恋人を譲る譲らないの綱引きでカードとして使ってしまってからは、特段の展開もなく尻すぼみになりました。

 もともとこのラインは、下層のモノマネ歌手・ヘダンが、圧倒的なスター歌手・ジナに勝るとも劣らない芸能スペックと上昇志向を持っていなければ成立しません。ヘダンが、ジナを引きずりおろしてスターダムに上がりたがるでもなく、「テレビ出演なんて無理無理」「家族(=父親と三人の妹たち)の幸せが第一」と、むしろ家族に依存されて羽ばたけない状況に自分が依存しているような塩梅に落ち着いてしまったので、早い段階で物語の推進力を失いました。

 いまとなっては憶測しかできませんが、最初のヘダン役女優ク・ヘソンさんが病気で序盤降板、より線が細く淡白なというか、セクシー度の薄いチャン・ヒジンさんに交代したことも展開に影響したのかもしれない。交代後、劇中のヘダンがヒョンジュンの推薦でキー局のオーディションを恐る恐る受けるくだりがありましたが、彼女のモノマネ歌唱の技量は、一度はキー局Pに認められるも、ジナが圧力かけるとあっさり反故にされるレベルでした。

 そうなるとどうしても比重は財閥会長家のお家騒動にかかってきます。グァンリョルさん扮するパク・ソンファン会長はもともと一介の平社員で、財閥創業家の一人娘ギョンエの入り婿におさまったことで後継会長となった身。二人の息子をもうけたものの早々に愛も信頼もなくなり、岳父には疎まれ香港支社に飛ばされたこともありますが、息子とともに財閥家に乗り込んできた母親ギョンジャが猛烈に息子を押して逆に岳父を追い出し、嫁であるギョンエにも辛く当たって、ついには病に倒れさせてしまいました。

 パク会長の絶え間ない女遊びと、とりわけ歌手ジナへの傾倒に心を痛めたギョンエ夫人は、側近の悪知恵袋だった役員から、パク会長がのし上がるために手を染めた詐欺横領など違法の証拠を入手し失脚させようと企てますが果たせず、余命が僅かとなる中、最終的に自分の命と引き換えに会長を犯罪者にする計画を立て、証拠映像を残して、その隠し場所を記した手紙を、かつて施設で世話した盲目のピアニストに、自分の死後長男に渡すようにと託しました。

 もともと父会長と折り合いが悪く、溺愛してくれた母ギョンエから夫への恨みをたっぷり吹き込まれて成長した長男ヒョンジュンは、母の不審な自殺の報を受け留学先のアメリカから急遽帰国、父と不適切な関係にあるジナに邪な興味を抱き芸能事務所を立ち上げて契約をオファー、接近しますが、前の恋人との三角関係でヘダンに借りがあると思っているジナは二人ダブル契約を要求。ヒョンジュンは面接に呼んだヘダンの、モノマネのセクシーイメージとはかけ離れた雑草のようなたくましさと健気さにいつの間にか惹かれていきます。

 ・・ここまで舞台装置ができればもう結末は見えたも同然です。母ラブな息子は、浮気で母を苦しめる父を敵視し、父が男として愛した若い愛人を、自分が男として誘惑し本気にさせて寝取る事で“母さんの仇を討った”と自分を納得させ父に誇る。これは古来何度も西欧の文学作品で手を変え品を変えお話の外枠に使われてきたエディプス・コンプレックスの変奏曲です。

 このドラマではヒョンジュンがジナに深入りする前に、ジナと因縁を持つヘダンのほうに恋愛感情を抱いていくので、ヒョンジュンとジナの男女関係成立をもって会長への復讐とはなりません。

 さらに会長に最大の致命傷となるはずの証拠の在り処を握るのがジナの実子であり、そこに輪をかけてヘダンがそのピアニストと両思いになるので、変奏し過ぎの入り組んだ相関図となりますが、詰まるところは「長男と会長のどちらかがもう一方を転落させるか滅ぼすか、さもなければ刺し違えるか、まさかの和解か」という興味しか、途中早い段階から無くなりました。

 視聴者が回を追いながらどんな結末を望むか、恐れるかは会長の悪辣度、長男の一途度、ジナやヘダン、ギョンジャら女性陣との関係の熟し度などから微妙に振れていくはずですが、このサイドの部分が今作は如何せん弱かった。いつまでたっても「ギョンエの手紙の行方、証拠の在り処がどうだこうだ」の話から一歩も動かない時間が長すぎました。

 むしろ、サブストーリーのさらにサブみたいな扱いだった、ヘダン実家の父と妹たち及び次妹の夫と幼稚園の息子と姑と小姑(=夫の妹、バツイチ出戻り)の、一つ屋根ワイワイ同居すったもんだエピソードの集積のほうが“先が気になる、決着どうなる”吸引力がありました。

 ヘダンがキャバレーと地方回りで必死に稼いでいるわりに、家族は食っていく切実感はあんまりなく、のん気な小市民然としていて、コップの中で小さいプライドや家計権、家事を誰がやるやらないの綱引き合いに明け暮れ、ヘダンを通じて飛び込んでくる芸能界や財閥家の派手な話題に井戸端コメンテーターを決め込んでいます。こういう絵にかいたようなセコい家族に、ヘダンへの恋心から何かと構うようになった財閥長男ヒョンジュンが「家庭の温もりを初めて知った」「ここで一緒に暮らしたい」とベタ惚れになるさまはおかしなリアリティがありました。

 ともあれ、キャストも込みで韓国ドラマの野太いしたたかさを再認識できるドラマではありました。

 スターと無名下積みの下克上バトル~スターの暗い過去と隠し子の悲しい絆~財閥一族の骨肉のエディプスバトル~盲目ピアニストと家族を背負ったアラサー女子の年の差恋愛~と来て、さらに小市民一家の嫁姑&小姑バトルも加わるとなると、日本のドラマ界では全68話(韓国の本放送では全50話)一作の企画では到底通らないでしょう。「スターとモノマネ歌手」「スターの過去と隠し子再会」「財閥会長の疑惑」・・と4~5テーマに切り分けて、それぞれ全8話くらいのヴォリュームで、重ならないクールで深夜23時以降に放送がいいとこ。ここまで、いい意味でもツラの皮の厚いドラマの作り方はまずいまの日本ではできない。

 グァンリョルさんに会長母ギョンジャ役チョン・ヘソンさん、運命の女ジナ役オム・ジョンファさんたち大物ベテランに伍して、ガチに対峙するピアニスト役でKポップ出身の若いカン・テオさんが頑張ったなという印象もあります。

 長男と違って父会長に従順な次男役のイルさんも本業が歌手というわりには手堅い芝居で、最後のほうは微笑ましい味すら出していました。

 同じところを行ったり来たりしている展開のあいだは「もういい加減にせい」と一再ならず思うのですが、最終回まで来るとなんだか終わるのが惜しい気がするし、終わって一週間ぐらい経つと「またああいうしつこいのやらないかな」と番組表を渉猟したりする。この手の韓国ドラマは、特にアナログ人間には結構捨てがたい娯楽ジャンルだと思います。

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