イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ゼッサン(したかった)

2015-03-24 16:47:17 | 朝ドラマ

 ウイスキー党、かつ水やソーダやらで割らないストレートをこよなく愛する"非割り派"の月河としては、『マッサン』には放送前から並々ならぬ期待を寄せていました。

 残り一週を切って、概ね好評裡に終わりそうです。朝ドラ史上初の試みとして注目され一抹の危惧もされた外国人ヒロイン"エリーさん"が、海を渡ってチャレンジに来たイギリス系アメリカ人女優の演者=シャーロット‐ケイト・フォックスさんともども、朝ドラウォッチャーにすんなり受け入れられたことが大きいか。放送前~序盤から番宣のはしばしで、日本語指導のスタッフとともにあれだけ寝食惜しんで頑張っている姿を見せられたら、ドラマに文句があってもそれを"エリーさん"もしくはシャーロットさんのせいとは考えたくなくなる。

 NHKも初の試みに期するところはあったようで、『嵐が丘』風なケルト系の草いきれの情熱より、"大人の妖精さん"的透明感と、日本人好みの慎みや控えめさが漂うシャーロットさんをオーディションでつかまえることができた時点で、ほぼ勝利は見えていました。

  ただ残念ながら、月河が放送前、こういう人物をモデルにこういう時代背景でこういう業績、人生を描く・・という情報を聞いて「それなら、こんなドラマになったらいいな」と想像を膨らませていたような展開、空気感には一度も、一話もなりませんでした。

  月河は"奇矯な人"のお話、もしくは奇矯な人が凡庸な善男善女の中にひとり存在することで巻き起こす磁場の変化のお話が大好物です。『百獣戦隊ガオレンジャー』のガオシルバー大神月麿後も"ちょっと浮いてるやつ"を得意としている玉山鉄二さんが国産ウイスキーのパイオニア役と聞いたので、『TAROの塔』と、『神様の女房』と、『芙蓉の人 ~富士山頂の妻』とを足して、何も割らないでステアして一話ずつ注ぎ分けたような、濃くて、エグ味があって、匂いも鮮烈、飲み下すのに引っ掛かりがあるけどでも「・・もう一杯!」となる、ユニークで、光っていて、光ってるがゆえに困りものの、でも愛すべき"早く生まれて来過ぎたフラグシップ夫婦"モノドラマを期待していました。 

 しかし『マッサン』のマッサン=亀山政春坊っちゃまは、ウイスキーへのこだわりと集中力は人一倍だけれども基本的には気だての優しい、見通しスイートな”ええとこのボンボン”に描かれている。こだわりが強いため勤め先を替えざるをえなかったり、作った製品が顧客に受け入れられなかったり、折れさえすればしないで済む苦労はしますが、目上の人からはほぼ例外なく可愛がられ、周囲からは愛をもってツッコまれいじられで、いよいよどん詰まりに困り果てたら必ずどこからか助け舟がやってくるという、根がポジティヴな”人気運の人”です。 

  夫であり物語の原動力であるマッサンがこういったふうだと、妻であるヒロイン=エリーさんも、”奇矯””浮いてる”がゆえの逆境感、孤高感とは縁遠くなります。夫を愛し信頼し、夫の国を愛して知ろうと努め、夫の国の人々を尊敬して親しもうとする、人と人をつなぎ和らげなごませる天使さん。マッサンをめぐる人間関係の中でも特に家族、特に親子関係の緩和懐柔調停がエリーさんの専任になり、ウイスキー作りとしてのマッサンが万難乗り越えて目標の幾許かを達成すれば、「これもエリーさんの内助の功あったればこそ」「みんなエリーのおかげじゃ」で〆る以外、ヒロインのユニーク性を立たせる場面も方法もありませんでした。 

 序盤の帰国→大阪住吉酒造篇で、マッサンのウイスキー志向に否定的な矢口専務(白井晃さん)が「あの胡麻すり大臣が」とマッサンの陰口を言い、初対面の鴨居商店大将(堤真一さん)がマッサンをひと目見るなり「辛気臭いツラしとんのお」と一蹴、留学先で青い目の嫁さんを娶って連れ帰ってきたと聞いて「厚かましいやっちゃなあ」と慨嘆していた辺り、企画当初はマッサンのキャラはもう少し月河好みの”奇矯”寄り、個性の強い寄り、好悪がはっきり分かれる寄りに想定されていたような気配もしないではない。 

 とにかく今作は「朝ドラ史上初の外国人ヒロインを、日本での芸能活動歴真っ白な外国人女優起用で」という試みにドラマ制作エネルギーの大半を費やし、ドラマ”本体”部分はその余剰でちょろちょろ賄った、といったところ。そのチャレンジ精神を真っ向否定はしないし、シャーロットさんの頑張りやキャラとしての”エリーさん”の支持され度を見る限り、チャレンジしただけの価値はあったと思いたいですが、”大正~昭和の激動期に国産ウイスキー製造に人生を賭けたパイオニア夫婦”のドラマとしては”マイルドな期待外れ”に終わったと、現時点ではっきり申し上げておきましょう。

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