イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

太にして濃だが短ではない

2011-09-25 13:48:53 | 海外ドラマ

NHKBSプレミアム『赤と黒』94日(日)から2週間にわたった連続放送、どうにかこうにか録画視聴しました。

17話。ふぅー。韓国製連ドラ(一応“日韓共同制作”のカンムリはついているけれど、日本ロケシーンが若干と、日本人俳優さんが23人出演しているだけ)現代ものの通し視聴は初体験ですが、50話超の作が普通にある史劇と比べるとコンパクトなのに、はどうしてこう、焼肉の後チーズケーキみたいに腹にこたえるのか。

OP・次回予告込みだとフル59分、NHKなのでCMも無しのぶっ通したたみかけヴォリューム感もさることながら、韓国製ドラマの場合、サブストーリー、サイドストーリーらしいものがほとんどないことも原因かと思います。

とにかく主役主役、ひたすら主役押しで、主役の考えていること、欲すること、主役が出会う人、憎む人、愛する人、主役が求めて、あるいは遭遇して紡ぎ出すメインストーリー1本かぶり59分なら59分が終始する。単純、シンプルと言えばそれはもう単純でシンプルなのですけれど、いささか息が詰まるし、一方向しか見ていない状態が続くわけだから、心理的に“首が凝る”感じもある。

んで、ストーリーがひとつっきりですから当然、劇中もネタがなくなって、主役の目指すところが恋愛であれ、犯罪であれ、立身出世であれ、大きくは建国や王位継承、戦勝による領土拡張であれ、頓挫したりまったりしたり、観るほうも疲れてきたりするときが何回かあるわけで、特に何の伏線というわけでもなければ、当然前の伏線の回収というわけでもなく漠然と主役が街を歩いたり、空を見上げたり川面を見つめたりするシーンが何回かはさまって、そういう時間も含めて尺をもたせるのがあちらの流儀らしい。

日本で連続ドラマがこれ式だったら、速攻「かったるい」「間延びする」とチャンネルをかえられてしまうのではないかと要らない心配をしてしまいますが、思い出すのはこの5月にNHKで放送された『イ・ビョンフン監督の世界』で同監督がインタヴューに答えて言った「韓国人はドラマに“取り憑かれた”国民」という言葉です。

曰く、韓国は昔から周辺の諸強大国に圧迫を受け続け、植民地支配や朝鮮戦争で苦痛に耐えて来た歴史があるので国民にとってドラマは辛い実生活をひととき忘れさせてくれる“夢”であり“無しでは生きていけないもの”…というような意味のことを監督は語っておられました。

そうだ、人はパンのみにて生くるに非ず。バターをつけて食べるべきである。んなバカな。それはさておき、TVドラマ監督として20有余年のキャリアを持ち『ホジュン』『チャングム』など数々のヒット作を手がけてきたビョンフン監督の診立ては重みがある。「無しでは生きていけない!」というなみなみならぬ食いつき欲が視聴者側にあるなら、ドラマのほうも“食いつかれ負けしない”コシの強さが無ければならないのです。王位につくと決めたら絶対つくし、最高尚宮になると決心したら、花も嵐も踏み越えて何が何でもなる。恋のため復讐のため、誰某を殺ると誓ったら、最終話まで誰某を殺ることしか考えないし、誰某を殺るための行動と思考以外何もしない。国民の熱っつい、前のめり受信体温に呼応して、制作=発信サイドもとことん野太く、プリミティヴなまでに熱血剛球一直線で、いったん客のハナヅラをつかんだら、一方向にぐいぐいチカラワザで引っ張って行き、途中で放してラクにさせて、サブストーリーなんぞに目移りなど死んでもさせない勢い。

今般の『赤と黒』も、ストーリーはきわめて単純で、主人公シム・ゴヌクの、財閥ヘシングループ一族への復讐企図と実行、それが両者の過去及び現在に呼び起こす波紋と顛末、これあるのみほかにドラマらしきお話は、ところどころに気配だけちらつきはするもののほとんど皆無に等しい。

日本のTV局で日本人Pや脚本家が日本人視聴者向けに作るドラマなら、『赤と黒』の場合たとえばジェインの美術展ディレクターとしての成長覚醒物語とか、東部署の叩き上げオヤジ刑事とモバゲー好き新人刑事との相棒コンビ熟成とか、わがまま女優に仕えるダサい付き人少女がゴヌクの諌言を支えにリベンジとか、いっそジェイン妹ウォニンのイケメン男子高生逆ナン泣き笑い顛末とか、17話あれば(当初20話予定が大人の事情で短縮されたらしいが)、主人公のメインストーリーと対比させたり絡み合わせたりしたくなる物語要素がごまんとあるのに、ちらつかせるのみでまったく掘り下げず、主人公の周りに配置して接点を持たせ反応させた程度です。

ドラマのストーリーは一本かぶりに限る。韓国製ドラマ現代もの初視聴で、何やら同国の制作哲学というか、信条というか、そんなものもおぼろげながら見えたような気がしました。

そう言えば前出のビョンフン監督特番に、インタヴュー時(=2009年)快調撮影・本放送中だった『同伊(トンイ)』が、初めて時間帯視聴率首位を陥落…というくだりがありました。そんな状況で監督が編集作業の傍ら言ったのが「調査や推理が長く続く展開だと、視聴者は離れてしまう」

…字幕でこう表現されていたので、韓国語でどういうニュアンスだったのかいまひとつ鮮明でないのですが、あながち「韓国人は謎解きモノが苦手」というだけの意味ではない様に思います。「(韓国のドラマ視聴者は)わかりにくいのが嫌い」「主人公が何を思いどう考えているのか表現されないまま、設定上の事情や事実が順列提示されていくだけでは、つまらないと思われる」と、同監督は言いたかったのではないでしょうか。

主人公ゴヌク役キム・ナムギルさんをはじめ、仮想ライバル?ホン・テソン役のキム・ジェウクさん、ホン一族長女テラ役オ・ヨンスさん、次女モネ役チョン・ソミンさんら、OPに主題歌つきで顔出し紹介される主役陣は揃って小顔でスレンダーで、衣装もヘアも、あくまで韓国視聴者基準ながらスタイリッシュそのもの。役柄的に“庶民代表”で丈夫そうに見えるジェイン役のハン・ガインさんも、脚などモデルさんのようです。しかし一見華奢でオシャレな絵ヅラに反して、内容、作りはあくまで“太”“濃”“直”

そして“情”どこまでも“情”。

ともすれば“淡”“軽”“散”に、そしてなんちゃらかんちゃら“理”や“知”に逃げようとしがちな、昨今の日本製ドラマに不満な客の一部がそっくり韓国製のそれに流れていってしまっているのも、あながち、例の日本人俳優さんのツイッターで非難された一部TV局の偏向のせいだけではないかもしれません。

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