イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

赤心腹黒

2011-09-07 00:43:26 | 昼ドラマ

23年ほど前まで、フジテレビ系昼帯ドラマの番組公式掲示板は、何かしら書き込むとアンケートページが出て、「ドラマ化してほしい小説、漫画、映画などはありますか?」という質問がトップにあったものです。

月河がここを訪れて書き込みをするたびにこの質問に対し挙げていたのがスタンダールの『赤と黒』とモーパッサンの『ベラミ』

その時々、放送されている作品への体温によって、掲示板訪問の頻度は違うのですが、通算すると都合5回か6回はこの2タイトルを書き込んだと思います。

要するに、オスのフェロモンを武器に女をたらす男が主人公の話を考えていたのです。

この枠のドラマは概ねほとんどの作が女性主人公で、男性人物の筆頭はその相手役です。白馬の王子さま役であったり心広く温かいサポート役であったり、頼れる兄貴風であったり、時にはツンデレ好敵手役であったり、“ヒロインとくっつけばいいのに、早くくっつけ、がんばれ”と視聴者がつい応援したくなるような立ち位置と人物像に設定されていることが多い。つまり、どこまでもヒロインあっての相手役です。

とは言え観客は大半女性ですから、“相手役のカッコよさがいきなり目当て”で視聴する客だって多いわけです。だったら“戦略的に異性に向かってカッコよくする男”を主人公にしたっていいじゃないか。

普通の作品の“ヒロインがひたすら全方向キラキラ→男性人物は全員ヒロインにくらくら”構図を逆矢印にして、なおかつ全体像をネガポジ反転させる。男主人公がただ直球キラキラしているのではなく、“ブラックキラキラ”、つまり善意や純粋さ誠実さで、自然と、無意識に異性を魅了するのではなく、とことん意識的に、打算腹芸二枚舌上等でたらし込んで行く。“カッコよさ”と“許せない”の狭間の男キャラを、普通ならヒロインを翻弄する側に配置するところ、“主語”側、人物相関図の中心にドカンと据えて台風の目にしてしまってはどうかと考えたわけです。なんと斬新なアイディアだろう(どこがっ)。

…まぁ典型的昼帯の、ウザ薄幸でイライラさせるめんどくさいヒロインと、誠実バカのどんずべり王子との話を34本も付き合ったら、シロウトでも思いつき一度は待望します『赤と黒』と『ベラミ』。

読まないので知らないけど、きっと現代の日本の小説やコミックにも似た系がごまんとあるはず。月河と同じようなことを考えて似た系をアンケートに書いた昼帯ウォッチャーは、多いとは言えないまでも結構いたのではないかと思うのですが、そういう(たぶん)一部の声を取り入れてめでたく……………にぎやかホスト集団癒しモノ『インディゴの夜』2010年)に結実したかと思うと非常に脱力、その後アンケートページも出なくなって、昼帯に関しては完全に“小粒化・薄味化・やっつけ化の急坂を転がり落ちるに任せる”状態が続いて今日に至っています。

月河のそんな昨今の意気消沈(てほどでもないが)を励ますかのように、あるいは嘲笑うかのように、タイトルそのものずばり『赤と黒』というドラマが今週からNHKBSプレミアムで始まりました。

11時間フル枠で全17話。おぉ豪快。食べ応えありげ。

聴覚障害の父を持つ貧しい家庭から、財閥グループ会長の血を継ぐ庶子として迎えられながら、DNA鑑定による本物庶子が見つかって要らない子になりあっさり放逐された少年。育ての両親は放逐された彼を迎えに行く雨の夜道で自動車事故死。成長した少年は映画界の影武者=スタントマンとなり、自分を奈落の底に突き落とした財閥一家に復讐を誓って接近。誘惑の標的はうぶな女子大生の妹娘、そして人妻となった姉娘。一方本物庶子にセレブ婚狙いで近づこうとする成り上がりのキャリアガール、そして本物庶子の別れた恋人は謎の転落死……

……あれれ、本家スタンダールの影もカタチもないような設定と展開になってるような気もしますが、とりあえず“カッコいい”と“許せない”の狭間に危うく浮遊するブラックヒーロー、という、積年の待望フォーマット実現。

…しかしちょっと待った。この『赤と黒』、実は韓国製ドラマなのでした。一応ロケ協力もあって、日韓共同制作というカンムリはついているけれど、ストーリーも韓国舞台なら、キャストも一部を除き全員韓国俳優の皆さん。

「こんな連続ドラマを作ってほしい」と長年思っていた設定案を掬いとってくれるのは、もはや韓流しかないのか。それがいちばんショック。

ブラックなヒーロー役はどこかで見た…と思ったら、『善徳女王』でミシル璽主さまの“要らなくなった子”ピダムを熱演した俳優さんです。女系ドラマ『善徳』で全体的に影が薄かった男性キャラ陣の中でも、ピダムだけは“最初っから最後まで萌やしに行ってる”“萌やすだけが使命”という感じで奥行きも深読みのし甲斐もなく、個人的にまったく、全話通じて一度も、琴線にふれることなく終わった人物でした。せっかく待望の脳内企画実写化なのに、よりにもよって主役がこの人とは、嬉しさも中ぐらいなり。

他にも、既視聴の史劇で見覚えのある俳優さんの顔が準主役級でちらほら。皆さん、時代ヅラなし現代メイクだとだいぶお顔が違いますね。一応今週放送分の前半9話までは録画して挑戦してみますが、どうかな、月河もいよいよ韓国製の現代モノデビューとなるかどうか。第1話を観た限りでは、“堕天使”という主調イメージをスカイダイビングや折鶴や、千切った映画台本の紙吹雪などでリフレイン変奏して、少なくとも絵づくりだけはなかなか洗練されています。よしっ来週からの後半も録画継続決定!とどこかでなればデビュー完了ですが、ピダム役のあの俳優さんに興味が持てない観客には苦しい作りになっているようで、どうなることか。

……蛇足ですが、前述の昼帯掲示板アンケート、上記のフランス文学古典2作のほか、「90年代後半にチャートを席捲したアノ音楽プロデューサーさんの半生をドラマ化しては」と書いたことが一度あります。もちろん実現していないことは言うまでもありません。

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