イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

韓国TV小説 その女の海 再び ~お前の中に母がゐる~

2018-11-29 22:19:55 | 海外ドラマ

 ―そして 母よ 仏蘭西(ふらんす)人の言葉では あなたの中に海がある

 ・・・なんとなく、国語の教科書にあった三好達治の詩を思い出させるタイトルでした『その女の海』(BS日テレ月~金16:00~)も、BS11の『あなたはひどいです』に続いて22日が最終回。

 全60話、もともと韓国では全120話で放送されていたのを半分の話数に圧縮したので、韓国ドラマとしては普通な変転幅だったストーリーも「あれよあれよ」と、気がついたら終わってしまっていたような感じでした。

 『あなひど』に比べれば設定もそんなに派手さはなく突飛でもありません。前にこのドラマに触れたエントリで書いたように、本妻とその娘たち+愛人とその息子が一つ家で同居し、二人の母が放埓で怠けがちな夫(←財閥でも何でもない落ちぶれ小商人)をカバーしつつ互いの子らを守り合う不思議な家族、という構図以外は、ごくごく普通の韓ドラ設定でした。

 若いヒロインが心変わりした恋人を思い切り家族にも告げずに故郷を離れシングルマザーとして働く展開も、コンサバなストーリーの多いTV小説としては斬新なほうでしたが、転職先の社長との格差恋愛や出生の秘密、結ばれない関係の新恋人と再会した元恋人との三角関係など、いかにもありそうな設定の範囲。

 ただその枠組みの中で、話の焦点=何が難題なのか、何がつらいのか悲しいのか?のフォーカスが次から次へと移り、それだけなら同じところを低回ループしているより展開に勢いが出るから結構な事なのですが、移ると、前に焦点だったことがあっさり放置されたり忘れられたりしがちで、そのために全体的に、ストーリーがかなり劇的なわりには要所での感動や胸迫る切なさの薄いドラマになったような気がします。

 本放送での2話を1話にカット圧縮して流したからいやが上にもこうなったのかもしれませんが、たとえば、序盤のヒロインの小学生時代のエピソード。

 ヒロインのスインは貧しいが成績優秀で、地元大手の社長の娘セヨンとクラス首位をいつも争っています。演劇発表会で負けず嫌いで目立ちたがりのセヨンが志願して主役の王女役、スインは主役の次に大役の魔法使いの役を振られますが、主役はセリフが多いのでセヨンは覚えきれず、リハーサルではスインに助けられてばかり。見かねた担任教師が主役はスインにと交代を命じます。

 発表会には王女役にふさわしい豪華な衣装を母が用意してくれた。孫娘の主役を楽しみに祖父母も来訪することになっている。でもライバルのスインに「主役を降りて」と頼むのはプライドが許さない。セヨンは悩んだ挙句スインの幼い異母弟ミンジェを連れ出して「スインが監督不行き届きで叱られればいい」と海辺に置き去りにしようと企てますが、これが思いがけず大事故につながり・・

 ・・んで、じゃ結局演劇の主役はどうなったのか、の描写がまるでないままなのです。この大事故のために、スインだけでなく家族も苦境に立ち状況は動いていきますが、これらは結果です。セヨンをそんな非道な企てに追い込んだ動機、原因のほうはどんな顛末を迎えたのか。主役に抜擢されたスインが、家族をゆるがす大事故の後でも持ち前のセリフ覚えを発揮しやりとげたのか、セヨンが目論み通り主役を取り返して祖父母らの前で鼻高々となったのか。

 別に大人数エキストラが必要な発表会シーンを実写で入れなくても、たとえば虚栄心の強いセヨンの母が発表会後の夕食の食卓で「やっぱり主役はセヨンがふさわしかったわね、ドレスが似合っていたしセリフも2回しかつかえなかったわ」「スインは大丈夫かしらね、弟が行方不明の上に父親も逮捕されては学校に来られないのは当然よね」・・うわの空で聞きながらセヨン沈んだ顔、ぐらいの描写でもよかった。

 このドラマは万事こういった調子で、人物が考えに考えて、悩んで、あるいはヤケくそで、何かの決断や行動を起こすと、その結果もしくは副産物として出来した状況は描写されるのですが、考えたり悩んだり彼らを追い詰める原因になった事象が結局どうなったかフォローされないので、結果のほうも、なんか軽い感じになる。これは月河の勘ですが、ノーカット本放送版を視聴して比べても大して変わらないような気がします。

 本妻スノクの実母、スインの初恋の相手で結婚を約束していたジョンウクの母と弟妹、身重のスインを自分の職場に紹介した女友達など、一時的ながら物語に重要な影響を与えた人物たちもあっさり途中から消息すら語られなくなりました。長尺のドラマではしばしばあることで、俳優さんたちのスケ縛り等大人の事情もからみますから一概に責められませんが、あの人物もこの人物もとなると、えらく建付けが雑な後味で終わるのは否めません。

 想像ですが、演出がこのドラマの4年前に放送された同局同枠の『ウンヒの涙』と同じ人なので、前作で後半~終盤“悪の張本人を暴く追及と、隠蔽偽装工作の蟻地獄”の繰り返しばっかりになった反省が、強く働き過ぎ、「とにかく話の焦点を動かそう動かそう」と、いささか腰の落ち着かない姿勢につながってしまったのではないでしょうか。

 “一つの話題のループを避ける”ことと、“顛末を置き去りにする”ことは全然違うのですけれどね。今作も終盤、スインたちがチョン社長の重ねた悪事の動かぬ証拠や証人をつかんでは、奪われたり拉致されたり始末されたりで空振りになる“繰り返し”はどうにかならないのかと思いました。

 個別のキャストを言えば、金の力に搦め取られてヒロインをうっちゃり、チョン社長の片棒を担ぐ悪となっていく、振幅の大きいジョンウク役を最終話まで出ずっぱりで演じたキム・ジュヨンさんが特に頑張っていたと思います。

 以前も書いたように『ウンヒの涙』組の俳優さんが大挙して出演、それも前作とは対照的なキャラを演じている人も多いので、“ドラマ仕立ての同窓会”のようでもありました。とりわけ前作で諸悪の根源なまま“壊れ勝ち”で逃げ切ったような役だった大御所パク・チャンファンさんは、今作でようやく役者として溜飲が下がったのではないでしょうか。

 ガタついたり隙間が多かったり不安定な建付けではありましたが、全100話超を半年近く平日オビで放送する図太さ、ある種の鈍感力な製作姿勢も日本ドラマにはない韓ドラならでは。今作の反省(してるよね)を糧に、懲りずにまた挑戦して放送してほしいと思います。

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あなたはひどいです三たび ~だからしつこいです~

2018-11-28 20:22:16 | 海外ドラマ

 昨年夏に新調したパソコンが通算三度めの本格的な挫折で、正味二週間以上の完全アナログ生活へ。

 その間に、BSの韓国ドラマ2本が終了。パソコンが無くネットも無いと、やはりテレビ放送やDVDソフトはかえって真剣に見ますね。

 『あなたはひどいです』(BS11、11月22日終了)全68話、全体的に、スタートで張りめぐらした人間関係を活かしきれずに、結末への求心力が薄く平均ペースで終わった感です。

 白黒微妙な財閥会長役チョン・グァンリョルさんを筆頭にキャスティングは要所で豪華で、期待を持たせたんですが。

 大物スター歌手vsそのモノマネで稼ぐキャバレー歌手の恋と名声を巡るバトル、そのスター歌手が無名時代にひっそり生んで捨てた子との再会をめぐる葛藤がまず芸能界側にあり、一方、かねてこの歌手に執心の財閥会長の夫人が不審な自殺を遂げたことから、会長と不仲の長男が疑惑を抱いて歌手に接近、さらには夫人が生前チャリティ後援していた盲目の若手ピアニストがひそかに夫人の遺言を託されていて・・

 ・・と、二つの世界を跨ぐ欲と愛憎の物語を繰り広げるのには申し分ない設定での船出でしたが、皮切りの“スターvsモノマネ歌手”の緊張感は「本家のスターの人気と知名度に便乗して仕事を得て家族の生計を支えている」という言わば“本質”を、冒頭の恋人を譲る譲らないの綱引きでカードとして使ってしまってからは、特段の展開もなく尻すぼみになりました。

 もともとこのラインは、下層のモノマネ歌手・ヘダンが、圧倒的なスター歌手・ジナに勝るとも劣らない芸能スペックと上昇志向を持っていなければ成立しません。ヘダンが、ジナを引きずりおろしてスターダムに上がりたがるでもなく、「テレビ出演なんて無理無理」「家族(=父親と三人の妹たち)の幸せが第一」と、むしろ家族に依存されて羽ばたけない状況に自分が依存しているような塩梅に落ち着いてしまったので、早い段階で物語の推進力を失いました。

 いまとなっては憶測しかできませんが、最初のヘダン役女優ク・ヘソンさんが病気で序盤降板、より線が細く淡白なというか、セクシー度の薄いチャン・ヒジンさんに交代したことも展開に影響したのかもしれない。交代後、劇中のヘダンがヒョンジュンの推薦でキー局のオーディションを恐る恐る受けるくだりがありましたが、彼女のモノマネ歌唱の技量は、一度はキー局Pに認められるも、ジナが圧力かけるとあっさり反故にされるレベルでした。

 そうなるとどうしても比重は財閥会長家のお家騒動にかかってきます。グァンリョルさん扮するパク・ソンファン会長はもともと一介の平社員で、財閥創業家の一人娘ギョンエの入り婿におさまったことで後継会長となった身。二人の息子をもうけたものの早々に愛も信頼もなくなり、岳父には疎まれ香港支社に飛ばされたこともありますが、息子とともに財閥家に乗り込んできた母親ギョンジャが猛烈に息子を押して逆に岳父を追い出し、嫁であるギョンエにも辛く当たって、ついには病に倒れさせてしまいました。

 パク会長の絶え間ない女遊びと、とりわけ歌手ジナへの傾倒に心を痛めたギョンエ夫人は、側近の悪知恵袋だった役員から、パク会長がのし上がるために手を染めた詐欺横領など違法の証拠を入手し失脚させようと企てますが果たせず、余命が僅かとなる中、最終的に自分の命と引き換えに会長を犯罪者にする計画を立て、証拠映像を残して、その隠し場所を記した手紙を、かつて施設で世話した盲目のピアニストに、自分の死後長男に渡すようにと託しました。

 もともと父会長と折り合いが悪く、溺愛してくれた母ギョンエから夫への恨みをたっぷり吹き込まれて成長した長男ヒョンジュンは、母の不審な自殺の報を受け留学先のアメリカから急遽帰国、父と不適切な関係にあるジナに邪な興味を抱き芸能事務所を立ち上げて契約をオファー、接近しますが、前の恋人との三角関係でヘダンに借りがあると思っているジナは二人ダブル契約を要求。ヒョンジュンは面接に呼んだヘダンの、モノマネのセクシーイメージとはかけ離れた雑草のようなたくましさと健気さにいつの間にか惹かれていきます。

 ・・ここまで舞台装置ができればもう結末は見えたも同然です。母ラブな息子は、浮気で母を苦しめる父を敵視し、父が男として愛した若い愛人を、自分が男として誘惑し本気にさせて寝取る事で“母さんの仇を討った”と自分を納得させ父に誇る。これは古来何度も西欧の文学作品で手を変え品を変えお話の外枠に使われてきたエディプス・コンプレックスの変奏曲です。

 このドラマではヒョンジュンがジナに深入りする前に、ジナと因縁を持つヘダンのほうに恋愛感情を抱いていくので、ヒョンジュンとジナの男女関係成立をもって会長への復讐とはなりません。

 さらに会長に最大の致命傷となるはずの証拠の在り処を握るのがジナの実子であり、そこに輪をかけてヘダンがそのピアニストと両思いになるので、変奏し過ぎの入り組んだ相関図となりますが、詰まるところは「長男と会長のどちらかがもう一方を転落させるか滅ぼすか、さもなければ刺し違えるか、まさかの和解か」という興味しか、途中早い段階から無くなりました。

 視聴者が回を追いながらどんな結末を望むか、恐れるかは会長の悪辣度、長男の一途度、ジナやヘダン、ギョンジャら女性陣との関係の熟し度などから微妙に振れていくはずですが、このサイドの部分が今作は如何せん弱かった。いつまでたっても「ギョンエの手紙の行方、証拠の在り処がどうだこうだ」の話から一歩も動かない時間が長すぎました。

 むしろ、サブストーリーのさらにサブみたいな扱いだった、ヘダン実家の父と妹たち及び次妹の夫と幼稚園の息子と姑と小姑(=夫の妹、バツイチ出戻り)の、一つ屋根ワイワイ同居すったもんだエピソードの集積のほうが“先が気になる、決着どうなる”吸引力がありました。

 ヘダンがキャバレーと地方回りで必死に稼いでいるわりに、家族は食っていく切実感はあんまりなく、のん気な小市民然としていて、コップの中で小さいプライドや家計権、家事を誰がやるやらないの綱引き合いに明け暮れ、ヘダンを通じて飛び込んでくる芸能界や財閥家の派手な話題に井戸端コメンテーターを決め込んでいます。こういう絵にかいたようなセコい家族に、ヘダンへの恋心から何かと構うようになった財閥長男ヒョンジュンが「家庭の温もりを初めて知った」「ここで一緒に暮らしたい」とベタ惚れになるさまはおかしなリアリティがありました。

 ともあれ、キャストも込みで韓国ドラマの野太いしたたかさを再認識できるドラマではありました。

 スターと無名下積みの下克上バトル~スターの暗い過去と隠し子の悲しい絆~財閥一族の骨肉のエディプスバトル~盲目ピアニストと家族を背負ったアラサー女子の年の差恋愛~と来て、さらに小市民一家の嫁姑&小姑バトルも加わるとなると、日本のドラマ界では全68話(韓国の本放送では全50話)一作の企画では到底通らないでしょう。「スターとモノマネ歌手」「スターの過去と隠し子再会」「財閥会長の疑惑」・・と4~5テーマに切り分けて、それぞれ全8話くらいのヴォリュームで、重ならないクールで深夜23時以降に放送がいいとこ。ここまで、いい意味でもツラの皮の厚いドラマの作り方はまずいまの日本ではできない。

 グァンリョルさんに会長母ギョンジャ役チョン・ヘソンさん、運命の女ジナ役オム・ジョンファさんたち大物ベテランに伍して、ガチに対峙するピアニスト役でKポップ出身の若いカン・テオさんが頑張ったなという印象もあります。

 長男と違って父会長に従順な次男役のイルさんも本業が歌手というわりには手堅い芝居で、最後のほうは微笑ましい味すら出していました。

 同じところを行ったり来たりしている展開のあいだは「もういい加減にせい」と一再ならず思うのですが、最終回まで来るとなんだか終わるのが惜しい気がするし、終わって一週間ぐらい経つと「またああいうしつこいのやらないかな」と番組表を渉猟したりする。この手の韓国ドラマは、特にアナログ人間には結構捨てがたい娯楽ジャンルだと思います。

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あなたはひどいです再び ~遺憾への道~

2018-11-04 22:32:07 | 海外ドラマ

 ・・この作品に限らないのですが、“オープニング映像と曲の雰囲気が、ドラマの内容と真逆”という例が韓国ドラマに非常に多いのは不思議で面白いですね。

 『あなひど』(←この略し方もひどいです)なんか、本編の第1話を視聴するまでもなく、番組サイトの内容紹介の時点で真逆ですからね。

 「この物語にタブーなどない・・!」と、怪談噺ばりにヴォイスの重なったナレつきスポットも、放送前、8月中旬にはBS11で結構流れていました。あのイメージを念頭においてこのOPをいきなり見たら、アレレ?チャンネルか放送時間か、どっちか間違えたかなと思うに違いない。

 日本の70年代のバラエティ番組みたいなテケテケペナペナしたBGMともども、このOPから始まるとしたら“芸能界”と“結婚”を主題にした“2家族老若入れ替わり立ち代わりワイワイにぎやかコメディ”しか考えられないでしょう。

 このOPに続いて、あの悪意と嫉妬と腹芸・偽装に満ちた本編が始まることに、本放送時韓国の視聴者は何の違和感もおぼえなかったのでしょうか。

 8月に同じBS11で放送終了した『愛の香り ~憎しみの果てに~』も、『輝け、ウンス!』も(前者は途中下りたり乗り直したりしながら、後者は後半録画溜めっぱなし)、内容は悪意の人物が結構やりたい放題にグッチャラグッチャラさせていくたぐいなのにもかかわらず、OPはその悪役憎まれ役も混じって、お父さんもお母さんも爺ちゃんもバアちゃんも、彼氏も彼女もどこぞのオバサンも、みんなサワヤカ笑顔で和気藹々、青空にお日さま燦燦、といったふう。現行放送中の『いつも春の日』(月~金PM1:00~)などもこれ系ですね。OP終わりに全員集合で記念撮影風。こんなに仲良しこよしなら本編中で罠仕掛けたり告げ口したり、濡れ衣着せたりすることはなかろうにと思うんですが、そのギャップが逆に面白いのかな。

 “ニコニコ和気藹々に見えても、その場面の後、もしくは裏側は、実は真逆である”と言うことをあらわしているのかもしれません。・・・どうも、先週の大法院判決報道以降、韓ドラを考えるときバイアスがかかってしまうな。“ウラオモテ陰ひなた有り、面従腹背”が性に合うお国柄だからかしらん?とか。

 ・・ドラマが面白ければ何でもいいんですけどね。ちなみに、最近BSで視聴した中では、『ルビーの指輪』や『カッコウの巣』、『漆黒の四重奏(カルテット)』は中身とOPが相応のギラ・ドロ感満載でわかりやすかった。『あなひど』みたいなウラオモテギャップ系OPのドラマも、もう一パターン、純粋なギラ・ドロヴァージョンのOPを作って交互に流したらどんなもんでしょうね。そういう始まり方も見てみたい気がします。

 ・・・んで、放送のほうは終盤にさしかかっていますが、ますます“チョン・グァンリョルさんを堪能するドラマ”になりつつあります。本当に、この人プラス『ホジュン ~宮廷医官への道』と同じグァンリョルさん母役チョン・ヘソンさんのコンビでもってる世界。見終わったら、このお二人しか記憶に残らないかもしれない。これはちょっと制作側も誤算だったかもしれませんが。

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あなたはひどいです ~編集もひどいです~

2018-10-31 15:18:21 | 海外ドラマ

 まぁいまさらながらお国柄と言うか、まるごと人品を疑いたくなるような“かの国”のニュースが一面に採り上げられているわけですが、持ち前の“臆面の無さ”が良い意味“でも”活かされているのは、やっぱり韓国ドラマなのではあります。

 前の前のエントリで触れた『その女の海』とともに8月下旬、夏の終わりから、途中下車したりまた追いかけてタラップにつかまったりしながらなんだかんだで秋深まる今日まで追尾しているのが『あなたはひどいです』(BS11月~金13:59~)。

 ・・・もうね、タイトルの身も蓋も無さが大半を語ってるでしょう。あなたはひどいです。本放送時の英語タイトルは『You are too much』だったらしいですが、これを、たとえば、えーと『あなただけは許さない』とか『魔女の欲望』とか『憎むほど愛して』とか(思いつきなのでご容赦を)、たとえばですよ、さもなきゃ『ヒドい女 ~虚栄の煌(きら)めき~』とかでなく、こう訳したのは日本側のセンスなわけで、“乗っかっていってやる”ほうもすでにかなりなレベルまで来てんなと思わざるを得ない。

 初っ端から飛ばしますよー。国民的大スター歌手と、そのモノマネを売り物にする無名キャバレー歌手とがふとしたことから知り合い最初はほのぼの交流を持つが、無名歌手の彼氏がスターに気に入られて禁断の両思いになり三角関係に・・あたりまで内容紹介を読んで、月河の大好物=華やか虚飾業界のバックステージものかと思って食いついたら、斜め上、いや斜め下かな?とにかくオーバードライブして出るわ出るわ。

 いきなりの交通事故から財閥の跡目争い、会長夫人の謎の自殺か殺人か?そして隠された遺言の行方、出生の秘密に生き別れの親子、嫁姑バトルに嫁同士の確執、さらには年齢差・格差恋愛と、「韓ドラならこういうの来るよね」と思われている要素が「ご期待ですかそうですか!しからば!」とばかり惜しげなく、これでもかとばかりぶちまけられます。

 “お約束”踏襲にいささかもためらいがない、この臆面のなさ、ベタでやると決めたら手加減しないでベタのみで貫くのがかの国ドラマの真骨頂。

 大スター歌手役で本業の歌唱を披露してくれるオム・ジョンファさんの貫禄な悪女ぶりもさることながら、物語の核心である財閥の叩き上げ会長役チョン・グァンリョルさんがやっぱりすごいし頼りになります。韓ドラに付き物の、怒鳴ったり号泣したりのパッショネートな演技より、“何を考えてるのかわからない”思案顔や、劣勢なのか勝算ありなのかどっちともとれる当惑顔が、この人、抜群にうまいのです。静の演技が濃いから、一気に動に転じたときの怖さや悲惨さがいや増しにすさまじい。

 『ホジュン ~宮廷医官への道~』が初見で、『朱蒙(チュモン)』の徐々に壊れていく先代王役で改めて見直した人ですが、今作のように「いねーよそんなヤツ!」「有り得ねーよこんな状況!」の連続が、「・・いや、居るかも」「有るかも」に点滅して、結局次回が見逃せなくなる。

 ダブルヒロインのもう一方、家族の生活を背負って毎晩モノマネパフォのステージに立つ下積み歌手役は、当初のキャストが序盤で病気降板交代となったせいか、どちらかというと巻き込まれヒロイン的立ち位置になり、物語を突き動かしていく驀進力は早々になくなったので、今作はかなりの比重でグァンリョルさんと、オム・ジョンファさん、そして『ホジュン』でもグァンリョルさんの厄介な母親役だったチョン・ヘソンさん扮する“最強のおばあ様”=会長母次第となりました。

 本国での本放送土・日全50話を、日本の月~金一時間枠におさめるのにどう切って貼ったものか、シーンとシーンとの間の繋ぎがえらく不自然かつ乱暴で、CM明けのシーンの冒頭に、切った前のシーンのBGMの最後のほうがチラッと聞こえたりするので、毎度微妙にストレスのたまる視聴なのですが、こういう、お世辞にもココロザシが高いとは言えないドラマに、人の鼻づらつかんで先へ先へと引きずって行くような野太いパワーがあるんですよねぇ。とんでもない最高裁判決も下りるわけだわ(それ納得してどうする)。

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韓国TV小説 その女の海 ~海を出し切る~

2018-09-30 14:37:43 | 海外ドラマ

 引っかかっても外れてもわりとあっさり終わってしまう我が国製のドラマに比べて、一度幕が開くと粘っこいのが韓国ドラマでして、いま食いついている一本が『その女の海』(BS日テレ月~金PM4:00~)。

 8月の最終週から、まるで日本ドラマの相次ぐ9月終わりを見越して「淋しくなるからいまのうちにこっちおいでホレホレ」と救済の手を差し伸べるかのようにスタートしました。

 これ、昨年から今春まで続けて見た『私の心は花の雨』『ウンヒの涙』と同じ、韓国KBS朝のイルイル(日々)ドラマ=TV小説シリーズで、『ウンヒ』が2013年、4作はさんで『花の雨』が2016年、1作はさんで本作『女の海』は2017年に、韓国では月~金の朝9:00~の枠で放送されたものです。

 やはりお国柄は違っても、朝のオビとなると“伝統芸”“様式美”の世界になる傾向は変わらないのでしょうかね。特に『ウンヒ』とは脇の俳優さんたちが大幅にかぶっているため、序盤だけでも、また仁川か!またクッパ店か!また殺人の濡れ衣か!また目撃者探しか!また食品工場の経理か!また嫉妬深社長令嬢か!と、まるで“間違い探し”のようで逆に見逃せなくなりました。「グウタラ叔父さんここも来た」「次は会社の金着服疑惑じゃないか」と、予想のちょっぴり斜め上行ったり下行ったりの幅をかたくななまでに堅守する、或る意味非常に見やすい作りとなっております。

 『ウンヒ』と大きく異なるポイントは、まず戦争(=朝鮮戦争)を跨ぐ設定でないこと。ヒロイン=スイン10歳でお話が始まる時点で1962年です。李承晩政権が署名しなかった無理くりの停戦協定から9年。すでに戦中戦後の混乱で家や土地を失った人、家族離散した人たちも、いま生きている場所で生き抜くことを受け入れなければならなくなっていたはずです。混乱をうまく乗り越え利して勝ち組にのしあがった者と、失地の大きさから立ち直れなくなった敗者との階層分化ももう固定化してきていたはず。

 スインの父ドンチョルも、元は大きな酒造所の跡取りだったのですが完全に潰れて(戦災のせい、という明確な描写はない)、いまでは仁川の市場でほそぼそと陶磁器店を開いています。ところがいまだに豪商の跡取り気分が抜けず、スインと二女ジョンインが誕生した後、「跡取りの男子を生めない嫁なんて」と妻スンオクを疎み、愛人ヨンソンを囲って、彼女との間の待望の男児ミンジェを溺愛してそちらで暮らしている。亡き父の周年祭祀(←韓国では“命日”とか“法要”とは言わないようです。でも仏像の鎮座するお寺にお参りはする)の日にしか妻と娘たちの待つ家には帰らず、当然、なけなしの店の売上収入も入れていません。スノクは心臓が悪いのですが、義妹ダルジャとともにクッパ店を営み、家の空き部屋の下宿収入とでなんとか娘たちを育てている。ドンチョルがたまに帰宅しても妻にも娘たちにも冷たく、スインは母を苦しめる父に許せない思いを抱いています。ちなみに今作は今のところ、まだスインに出生の秘密設定は浮上していません。

 もうひとつユニークなのは、愛人ヨンソンと本妻スノクとが、火宅の人ドンチョルを奪い合ったり互いの子供の権利を主張したりして、韓ドラ得意のビッチファイトでいがみ合うかと思いきや、気遣い合い庇い合って、義理の姉妹のような不思議な紐帯を築き上げていくことです。どちらも忍耐強く働き者で、我が子に愛情を注ぎつつも相手の子供へも分け隔てなく温かい視線を注ぐ。熱を出せばおんぶして病院にかつぎ込む。

 「そんなにキレイにいくかよ、聖人君子かマザーテレサか」とも思いますが、1962年の韓国北部、停戦ラインにも首都ソウルにもほど近い仁川という背景を思うと、“幼い子供を抱えた弱者同士、争い合ってても仕方がない”という気分に、特にメンツや体面に執着する男性より、食べて行く現実を優先できる女性ならば、自然となっていくものかもな・・とも思える。

 劇中、ドンチョルがヨンソンを見初めて不倫関係になり身ごもらせてしまう過程の描写はありませんが、ヨンソンはもとはソウルで韓服も洋服もできる腕のいい仕立屋として働いていました。市場の主婦から夫たちの服の注文を受けて出来上がりを届けた際に愛人らしいという噂が注文主の耳に入り、「愛人が仕立てた服なんか旦那に着せたら浮気する」と仕立賃をとぼけられて揉め、聞きつけたドンチョルが注文主の店先で大暴れ、警察に突き出されたところへスノクが「夫が壊したお店の物は妻の私が弁償します」と申し出て、「本妻と愛人の友情なんて、涙が出るわ」とあきれられる場面もありました。

 我が子のために一円、いや一ウォンでも多く相手の女からぶんどりたい財産がもともと無くてカラっけつに等しいのも、母親ふたりの悟りと割り切りを促した側面もありましょう。この状況だと子を持つ母親なら、とにかく子を飢えさせない、傷つけないこと以外、何も考えないし画策も打算もしなくなる。クズなドンチョルも、どちらの女にとっても“我が子の父親”には違いありませんから、貶めるより立てるところは立てて、母親同士子を守り合って一緒に日々を共闘するほうがいい。

 この辺り、女優さんたちの演技力もあずかってチカラ大です。スノク役の高橋かおりさん似パク・ヒョンスクさん、ヨンソン役伊藤蘭さん似イ・ヒョンギョンさん、韓国ドラマの女優さんにしては、激情にまかせた変顔芸の少ない抑え目演技の人で、なんとなく昭和の、まだ飛び道具とか出てこない時代の人妻昼ドラの匂いがある。

 小商売をこつこつ続ける性分のないドンチョルが一攫千金を狙ってインチキ投資話に騙され、店を借金のかたに取られて、ヨンソンとミンジェを伴いスノクと娘たちの(もともとは自分の)家に転がり込み、奇妙な二組の親子の同居が始まります。ヨンソンは表向き“スノクの義妹”“スインとジョンインの叔母”の立場で、台所を手伝ったり娘たちにも目を懸けてくれ、初めはやりきれなくも複雑な思いでいたスインも、「お姉ちゃん」となついてくれるミンジェを弟として可愛いと思うようになり、ひとまずかりそめの平穏が訪れたかに見えましたが、投資詐欺の張本人クォン社長が仁川に舞い戻ってきたところを、騙され憤懣やるかたないドンチョルが見とがめて追いかけたことから事件が起き、やはりこうなるか・・という殺人冤罪に続き、もっと痛ましいアクシデントが母違いの姉弟に起きます。・・・

 民放BS一時間枠に韓製イルイルドラマをぶっこんだ場合のつねで、一話33分超の二話分を一話正味43分に削り倒して押し込んであるので、シーンや台詞のカットが情け容赦なく、BGMが途中で切れたり、切れた尻尾がシーンのアタマにチラッと聞こえたりしてストレスが半端ないため、『ウンヒ』のときのように放送終了後結局ノーカット版を追いかけて見なおして、通算では倍近い視聴時間をとる羽目にまたまたなるかも。長くてゆるくて隙だらけなのが“逆に売り”の韓国イルイルドラマは、嵌まると本当に長患いの中毒性があるんです。

 ちなみに、伝統芸と様式美の元祖=日本のNHK朝ドラ『半分、青い。』は月河、本当に久々に“一話も見ないままで最終回のニュースだけ仄聞した”朝ドラでした。後枠『あさイチ』のメンバーと体裁がこの時期に変わったことはさほど関係がないと思う。“この人が出演するならそのエピだけでも見るか”となった俳優さんも居ないわけじゃなかったけど、実際見なかった、それがすべて。長期間多話数の放送でも、縁がないときはドラマってそういうものです。

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