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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

人間のクズキリ

2009-07-17 00:53:37 | 昼ドラマ

5月からコンビニ限定で展開されているSAPPORO限定醸造 焙煎生ビール、“限定”の2文字にかなり弱い月河としては出荷終了前に一度は行っとこうと思い先日入手。

 コンビニ限定ということで、安売りっちゅう取っ掛かりがないため、なんとなく試飲を先送りしていた気も。でも北国のビールシーズン、短いですからね(シーズンじゃなくても飲むけど)。いまという時は二度と来ない。

…でもま、せっかくの1992年初お目見えラベルの復刻版だし。90年代人間の非高齢家族、“ビールなら黒ビール”党だった高齢家族その1、全員揃ったところで開けたいと思い、試飲は先送りです。

『夏の秘密』は第34話。柏木引きこもり博士(坂田聡さん)再上京。

依頼の図面の出どころを調べれば、自殺したみのりが手を染めていた薬物横流し先や経緯がわかるかも…と目論む伊織(瀬川亮さん)、「危険よ、すぐ処分したほうがいい」とブレーキかける紀保(山田麻衣子さん)。

「あんたさえ黙ってれば誰にも知られない、俺たちは同志だって言ったよな?」と“同志解散”を先に主張したはずの伊織が念押しのためにキスしようとして紀保がぎりぎり振り切り、本が床に落ちる音で2人我に返るまでのテンパった会話、柏木がどこから小耳にし始めたかが気になります。前半の図面がらみの部分を抜いて、或るパートだけ聞くと、普通に口説き口説かれの男女の睦言にも聞こえるし、何かヤバいことの隠蔽に共謀してる会話にも聞こえるかも。純・理系人間で「人と話すのが苦手」な柏木博士、そこらのニュアンスをどう理解したかな。

 みのり遺書隠匿の件が不起訴となり、郷里で両親の家業を手伝いながら就職口を探しているがなかなか見つからないとしょげている柏木に「人と話すのが苦手なら、苦手でなくなるような努力をすればいい、ろくな努力もしないで甘ったれてるからいつまでたっても自分の居場所が見つからないんだ」「何が理工学博士だ、ふざけんな」ととげとげしく当たる伊織、柏木の臆病さのおかげでみのりの自殺が長く判明せずに引っ張られた苛立ちもいまだにあるでしょうが、彼も決して低学歴なわけではなく、国立工業高専を出て大手に就職したのに、上司とそりが合わず中途退社して町工場の工員になった前歴あり。対人能力が不器用なために“居場所”を探しあぐねる柏木の心情は痛いほどよくわかるはずですが、「よくわかるよ、オレもそういうときはね…」なんて見え透いた共感を示したりしないのが伊織クォリティ。

紀保は「伊織さんは人一倍努力してきた人だから」と柏木にとりなしていたけれど、それも一面の真実。あからさまにはせずいろんな躊躇い含みながらも、伊織と紀保が気脈を通じ合って、いい波長を醸し出しつつあるのも、柏木博士、読めたかどうか。

 前の勤務先が本当に大手企業だったとしたら、対上司とは別に“大卒でない”ことで悔しい思いもしているはずの伊織には、柏木の(いまのところムダな)高学歴も癪にさわることでしょう。同じ同年代同性でも、自分とまったく違う環境で、違う志向で生きてきた、たとえば弁護士の龍一(内浦純一さん)などに対したときとは違って、“まかり間違えば自分もあそこまで堕ちた(or昇り詰めた)かもしれない”同系統の人間には複雑な感情が湧くもので、複雑が極まって“うざい”“イラつく”“腹立たしい”と感じられることが多い。

父は海難事故?ですでに亡く、母も精神障害で息子の自分を認識できなくなっている状態の伊織にとって、“東京に居られなくなったら、真似事でも親孝行しに帰れる実家や手伝える家業があるだけ恵まれてるじゃないか”という気持ちになったかもしれません。

今日は柏木も「手に職のある人がうらやましいです」とこぼしていましたが、今作、冒頭の紀保の亡き母の言葉「泣いていないで手を動かしなさい」を皮切りに、“モノをつくる仕事”がちょっと過剰なくらいに称揚されている気がします。金谷祐子さん脚本のこの枠“背徳三部作”が、“ブラックボックスのような大企業”と“それによる何かやたらめったらな金満虚栄”を背景や目的語にしていて、この不況下、いい加減視聴者も食傷して反感を買うのではないかという読みかな。紀保の、金満環境をプラスの栄養にしかしていない“ひねくれることなくすくすく育った”感は好感もって観られますけどね。

それに対し、“モノをつくらない”稼業は、弁護士、医者、貸金業と軒並みライバル役か悪役。羽村社長(篠田三郎さん)の“羽村エンタープライズ”も昼ドラ恒例とも言えるブラックボックスだいきぎょう(←棒読み)で、ドバイ行って馬買わされそうになったとか威勢はいいものの、何産業が中核業務のえんたーぷらいず(←棒読み)なんだかさっぱりわからず、その虚業感ゆえか羽村社長もいまだ紀保たちの磐石な味方らしい温かい空気は出していません。

浮舟蔦子姐さんの飲食物販業や井口母子(山口美也子さん橋爪遼さん)の不動産業は“食うもの着るもの”“住むところ”を扱う分か、ちょっといい役。

柏木や護(谷田歩さん)といった無職の諸君が、なぜかあまり悪でないどっちつかずで、どっちかに転ぶとしたら主役カップルの味方側に転んでくれそうな感じなのもおもしろいですね。

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あなたなら同志る

2009-07-12 20:32:50 | 昼ドラマ

627日付け日本経済新聞土曜版“日経PLUS 1(プラスワン)”でのリサーチランキング“バーベキューに合うビール系飲料”で発泡酒・新ジャンル部門10位に入っていたオリオンリッチ、昨日都心に近い大手スーパーチェーンの冷えモノ酒類コーナーで見つけたので早速買い。

沖縄発、オリオンビールの製品ですが、Asahiが全国発売しているようで、日経紙面の掲載写真には無かったAsahiのロゴが、パッケージ正面の赤い三つ星の上にorionと同じブルーで入っています。

 沖縄には行ったことはありませんが、南国だし、“Rich”の名からなんとなく濃厚な味を予想して、グラスもキュンキュンに冷やしてから試してみました。

 ……いやいや、リッチよりはスムーズという感じで、結構さっぱりしています。若干甘口寄りで、同じ新ジャンルで言えばSUNTORY金麦クリアアサヒの中間ぐらいの甘さか。でもイヤみな甘さではなく、スムーズでさっぱりな中でのほど良い“甘口感”。味としては発泡酒のSUNTORY豊かを思い出します。Alc.5%100ml当たり39キロカロリーは糖質が少なめなんでしょうね。バーベキュー向きと言うより、まさに夏向き。夏期限定の全国発売は好判断だったと思います。

新ジャンルの場合、どうしても泡がクリーミーでなく、すぐ消えてしまう大粒な炭酸プチプチ感なのが残念になりがちですが、この製品はかなりしっかりもっちりした泡で、そこが“リッチ”とネーミングする所以か。

北国の消費者としては、味云々より、パッケージデザインのトロピカル感、海浜リゾート感を買いたいですね。鈍系のシルバー地に製品色をイメージしたゴールド、ロゴ三つ星の青&赤。筆記体RichRの“前髪”の先にホップの実、hの“足先”が天まで伸びて麦穂になっているという、なんともシンプルでアルカイックなくらい素朴な意匠。海の家の冷蔵ケースに並んでいたら、見た瞬間喉がガー乾いてきそうなヴィジュアルです。

ビール自体が季節商品ですし、発泡酒・新ジャンルはお値段面でも敷居の低さが魅力ですから、パッケージ外観は大切だと思う。せっかくの期間限定なら、もうちょっと田舎のコンビニ(ウチの近所とかウチの近所とかウチの近所とか)にも行き渡るだけ出荷してほしいところです。

ただ、お値段が他社の新ジャンル、SAPPORO麦とホップやクリアアサヒとまったく一緒ではさすがに厳しいかな。月河の周辺では、「クリアアサヒは甘いのとあの尿検査みたいな缶のデザインがイヤ」「麦とホップは飲みクチはいいけど後味がちょっと」という声も聞かれるので、もっと遠慮なく売り込めば食い込めそうですけどね。販売権を持つAsahiが、自社製のクリアアサヒを凌駕しないようコントロールしているのでしょうね。

『夏の秘密』6週第30話まで来ました。全12週なので、第30話前後には必ずストーリー上、大きな舵を切る転換があるはずなのですが、25話でみのりの死が自殺と判明、28話で伊織(瀬川亮さん)の実母(岡まゆみさん)が、過去のなんらかのトラウマで精神の平衡を失いながら施設で存命と提示されて以降、謎部分のさしたる解明進展はなく、紀保(山田麻衣子さん)が少しずつ龍一(内浦純一さん)に冷たくなり、気持ちの上で伊織に傾斜して行って、ちょっとじりじりするのみの第6週でした。

龍一がいつ猜疑と嫉妬の塊りとなり紀保を束縛、伊織に嫌がらせをする、昼ドラお決まりの“ブラック化”に行くかとヒヤヒヤ、そこに若干のスリルとサスペンスはあったかな。

1話でいきなり結婚式場から新郎龍一が連行されてしまい、「龍一さんは無実、私が証明して見せる」と息巻いて髪を切り偽名を使って現場の夕顔荘に乗り込んだ紀保でしたが、その動機は龍一への執着ではなく、むしろ“龍一との結婚に象徴される、満ち足り人に羨まれる安穏とした人生への訣別の辞”だったことを思い出す必要がある。

父・羽村社長(篠田三郎さん)から「見知らぬ女を妊娠させていたような人間だった、おまえを幸せにしてくれる夫ではない」と結婚を白紙に戻すよう迫られ、マスコミからは「貴女も婚約者に裏切られていた、ある意味被害者ですよね」と突っつかれたから、紀保は「泣いているだけの女にはならない」と奮い立ちもしましたが、とりわけ父が(考えにくいですが)「龍一クンを信じて待っていてあげなさい」と真逆の対応をしてでもいたら、紀保は「イヤイヤ、私に隠れて女の人を抱いて子供を作っていたなんて、想像しただけでもイヤ」と、泣く代わりに激昂して龍一に三行半をつきつけていたかもしれません。

何やら反抗期の子供みたいですが、結婚という人生の一大行事がからむと、人間、完璧に知的理性的であり続けることは非常に難しい。“マリッジブルー”という名の一過性の精神疾患に、最近は男性も多く罹るそうです。

所謂“ロマンティック・ラヴ”に基づく結婚は、女性から見て男性が“尊敬できる”存在であること、具体的には女性より男性のほうが高学歴高キャリアかつ高年収である必要がありますが、紀保の「龍一さんって素敵な人」「龍一さんと結婚できて幸せ」という自己確認には、どこか“社会的帳尻が合っている”“誰が見てもお似合いと評価してくれる”という安心感に拠っかかり過ぎなところがあり、妙齢男女の相思相愛としては基本的に低体温だった。

「龍一さんの無実を私が証明する」という紀保の自分及び周囲への宣言は、字ヅラとは違って“龍一(に代表される人生・生き方)からの卒業”宣言でした。みのりの自殺が公認され、龍一がめでたく無罪放免となったことで、紀保の龍一卒業は完了した。紀保は次のステップに踏み出そうとしているのだから、龍一から「あの日に戻ってプロポーズからやり直そう」と言われても迷惑なだけなのです。

言わば6週は“冒頭部分の初期設定のおさらい”。「紀保にとってのこの行動は、ご存知のようにこういう動機でしたから、こういう結果が出ると紀保は当然こんな言動になりましたよ」という、“AゆえにB”の検証に過ぎない。

それにしてはちょっと話数を費やし過ぎたような気もします。来週から後半戦、『エゴイスト egoist~』のようにアワ食って毎話のように敵味方入れ替えたり、役降ろしたり降ろされたりするのもどうかなと思いますが、噛んで含めるところは噛んで含めつつ、ちゃんと唐紙開けて次の間に進まないとね。何話も閉じた部屋の中ぐるぐる回って障子越しに庭を見たり、畳剥がしたり屋根裏覗いたり、また座布団に戻って座ったりしてるのもどうなのかな。

唐紙がトントンッと開いていかないことより、月河は伊織の佇まいが拒否的過ぎるのが気になります。あまりに心を閉ざして本音を隠しているため、無理してもついて行って心を開かせてあげたいという、物語上は“紀保寄り”の気持ちが、観ていて失せる局面がたまさかある。「好きにすれば」「手に負えない」とちらっと思ってしまうんですね。たとえばフキの捨て身の肉弾求愛を善意で斥ける口実に「先約がある、人を待たせてる」はないんじゃないかな。

19話で店子の自殺未遂で落ち込みヤケ酒泥酔した雄介(橋爪遼さん)を案じ介抱しようとする紀保を「安っぽい同情はするな、雄介なら乗り越えられる」と押しとどめながらも、雄介が寝入ったのを見届けると毛布をかけてやる。“根は優しく温かい、かつ義理に篤い男”というサインは随所に配置されているだけに、いま少し、異性として取りつく島がほしい。

これも、一層個人的な所感ですが、25話でみのり自殺という結末に絶望して飲んだくれ、紀保にキスで励まされる伊織が、月河は(大袈裟に言うと)プチ絶望でした。

酒、それも大量の酒が入って初めて本音を吐露するということは、酒がなければ吐露できないということ。それだけ自己制御の重石がきつい=ストイック、という魅力の裏返しでもあるのですが、月河は自分がイケるクチなので、ツンデレのデレには酒を関わらせないでほしいんだな。“安くなる”気がするんです。

23話でフキ(小橋めぐみさん)の、母の形見の鼈甲櫛紛失?盗難?の件でセリ(田野アサミさん)から聴取、「記念撮影のカメラに盗み出す現場が写っていた」とブラフかけたことを護(谷田歩さん)に「思いつきかよ、おまえもヤルなあ」と言われて苦笑する、ああいう“はしなくも垣間見えた”伊織の表情をもっと見せてほしいと思う。

誰からも羨ましがられる、物心共に満ち足りた境遇から、自分の足で急峻のリスクを取る選択をした紀保のロビン・フッドなのですから、伊織には魅力的過ぎるくらい魅力的であってもらわないとね。

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テレビrun ran run

2009-07-02 00:14:04 | 昼ドラマ

先日入手したとここで書いた『ザ・テレビ欄 19751990』(TOブックス刊)、資料として以上に、普通に読みふけってやめられなくなってしまうので、とうとう今週から職場に持ち込んで、ファイルロッカーに置きまんまにしておくことにしました。だって自宅にあったら、ついつい開いて、眠れなくなるんだもの。

前回に書いた通り、この本は表題期間の、4月と10月の各第二週、7日分ずつの新聞テレビ番組表を時系列に並べたものですが、東京地区の番組表ですから、月河にとって東京に住んでいなかった期間の番組構成はそれだけでも新鮮でしょうがありません。東京12チャンネル(現・テレビ東京)などは、80年代いっぱい当地ではネット自体が存在しませんでした。

特にゴールデンタイムに注目すると、70年代は、「とにかくドラマが多かった」の一言ですね。ドラマだらけ。

75年以降といえば月河は10代半ばにはなっていたはず(“はず”って何だ)ですが、『クイズグランプリ』や『お笑い頭の体操』、同枠の後番組『クイズダービー』などのクイズ番組か、『紅白歌のベストテン』など歌謡曲番組、あるいは洋画劇場のほうが記憶があり、あまりドラマの印象がないのです。つまり、当時のドラマは大人志向で、大人が見るものだった。

4月第2週のゴールデンというとプロ野球ナイター中継があるのでさほどでもありませんが、10月、たとえば1975年の109日(木)を見ると、夜9時台は民放5局のうち、4局が1時間枠の連続シリーズドラマです(想像がつくと思いますが残り1局は12チャンネルで、木曜洋画劇場)。NHK総合も9:40から1000は帯ドラマ。

NET(現・テレビ朝日)800『遠山の金さん』とフジテレビ900『江戸の旋風』は時代劇で1話完結ですが、前者は杉良太郎さん、後者は加山雄三さん主演のロングシリーズ。単発でお茶を濁したタイトルはひとつもありません。

特にTBS8時台も、10時台もドラマ。730からの『おそば屋ケンちゃん』も算入すると、3時間半立て続けにドラマなんです。いま“ドラマのTBS”と昔日のキャッチフレーズを引用されても、若い視聴者諸君と同じくらい月河もピンときませんが、そういうキャッチを冠せられるだけの実績は、確かにこの頃にはあったのです。

20097月のいま、ゴールデン同時間帯で4局がドラマをぶつけ合うなんてあり得ないでしょう。2局競合した段階で、3局めは避ける。75109日午後9時、競合4作のタイトル・出演者名は、スペースの都合上割愛しますが、いま思えば信じられないくらいの本格重量級の名前揃いです。旬のアイドルやお笑い芸人などを並べて、バラエティっぽく軽く逃げてたくさいタイトルはひとつもありません。どこから押しても突いてもガチの“純”ドラマです。

月河はゴールデンより、つい昼の番組表に目が行ってしまうのですが、75年のコレすごいよ。TBSとフジとで、100130145と、3枠もぶつかり合い。130200は日本テレビもドラマで、3局が取っ組み合ってたことになります。

NHK総合も10525は、夜940~のドラマの再放送をやっているので、「午後1時から2時までの間にTVつけてた人の大半は、どれかこれかドラマを見るためにつけてた」という日本だったのでしょう。

TBS040100も、所謂“ポーラテレビ小説”枠でドラマですから、ひとつずつのロットが小ぶりとはいえ、ゴールデン同様ここも4枠ぶっ通しで4作のドラマを作り、月~金、週5日放送していたことになる。

ひるがえって2009年に戻ると、“ドラマ離れ”と言われるのは、30数年前のこの時期、こんなにTVからドラマが溢れ返っていた反動なんじゃないかという気がします。

“俳優さんが演じる作り話をお茶の間TVで見る”ということに、日本人、いい加減疲れて、飽きてしまったのではないでしょうか。そんなに無尽蔵に、新鮮で魅力的な、映像化に向いた、かつ放送に耐えない(残虐や刺戟的あるいは偏向思想的な)要素のない作り話のネタが続くとも思えません。「前にもこんなお話見た」という経験が何度か続くうち、“そして誰も見なくなった”。

もうひとつ、連続シリーズというのは、1話見たら次回まで待たなければいけない。作って放送する側も、今話見てくれたお客さんに、次回も見てもらうよう持っていかなければならない。これ、気がつけば、見るほうにも作るほうにもかなり難儀なハードルだったのではないでしょうか。1977年にテレビ朝日が設けた“土曜ワイド劇場”を皮切りに、1話完結のノンシリーズ単発ドラマ枠がひとつまたひとつと増え、この頃から、かつては全13週が普通だった連続ドラマの“1クール”も、12話、11話と徐々に短縮されていったように思います。次回まで一週間続きを待つリズムが、10週、9週はもっても、13週はもたない人が増え、待ってもらうに足る話を作れる局や作り手も減ったのです。

…この話題、掘り下げると、TVの枠を超えて昭和~平成の時代論になり、日本人論にまでなりそうですが、それはまたの機会と場所に。論より証拠、TV世代だった月河も、現行、レギュラーで、「見逃すまいぞ」の気持ちを持って録画視聴続けているのは『夏の秘密』だけです。

今日(=71日)はフキ(小橋めぐみさん)の伊織(瀬川亮さん)への体当たり告白に続き、柏木(坂田聡さん)の終盤のまさかの行動であらかた吹っ飛んじゃいましたが、蔦子姐さんの放蕩弟・護(谷田歩さん)が、樋口一葉『大つごもり』みたいでちょっと見直した。ギャンブル中毒に借金癖で毎度台無しになっちゃうけど、ナツヒミワールドの天使・紅夏ちゃん(名波海紅さん)のパパだしね。極悪なだけの人のはずがない。「半端もの同士」とシンパシーありそうなセリちゃん(田野アサミさん)と、いっそ付き合っちゃえばいいのに。社会性ゼロなカップルになるか。

それにしても“紅夏(べにか)”という柑橘類みたいな役名もなかなかだけれど、演じる子役さんも“海紅(みく)”とは。しかも名字が“名波(なわ)”と、名字とファーストネームがサンズイつながりで、役名“染谷紅夏”以上に役名っぽいですな。本名かしら。こういう名前で幼い頃から、日々暮らしてると、日常がそのままドラマか小説のような気分になるのではないかしら。

……このブログの中だけで“月河たびと”な月河は、かなり……いや現実だな。現実どっぷり。

それはともかく、思うに、夏の“秘密”とタイトリングされたドラマなわけです。誰が殺したか、どんな動機で、どんな手段で殺したかという“謎”ではない。誰かが、意図を持って隠蔽し、秘匿して、その状態が維持されて、初めて“秘密”と称され得る。

”はですが、“秘密”は、意図ある継続が必要な“です。

ちょっと心配なのは、ここの3ヶ月クール枠での、金谷祐子さん作の帯ドラマ、人間関係なり人物の出自や経歴なりについて「実はこういうことが隠されていました」と劇中“秘密”が明らかにされると、その瞬間一時的に、すとんとテンションが下がることがいままで多かったんですね。

「あれは、○年前のことだった。私はその頃云々カンヌン」式に台詞が説明的になったり、モノクロの回想シーンが多くなるなど、一時的にせよ尺が集中して辻褄合わせに費やされるせいかもしれない。いい例が『危険な関係』の、美佐緒さんが矢内の実の娘で、美佐緒の母と矢内は将来を誓い合った相愛の仲だったと、DNA鑑定をきっかけに矢内のクチからカミングアウトしたくだり。“出生の秘密”“法律上の親子が血縁では他人(もしくはその逆)”は昼帯伝統のモチーフのひとつですが、昼帯にしては“伝統”“お約束ホラ来た”という要素の少ない作品だっただけに、あのくだりの取ってつけ加減は、立ち直って視聴続ける気になるまでに少し時日を要しました。

『金色の翼』では、とりわけひどかったのは玻留の身体の或る部分の或る特徴について、話のだいぶ前のほうでバスタブ溺死しかけの全裸の玻留を救助したときに、槙が気づいて記憶しており、迫田の洩らした“故・日ノ原氏の愛人”情報と符合させて「さては!」と閃くくだり。

槙が全裸玻留に蘇生措置を施しつつ何かを見て取った描写、気になって修子に由来を訊くなり他の人物に吹聴しかけてやめるなりの、糸口的描写が救助場面とその直後にほぼ皆無なため、物語のずっと後になって迫田の情報を頭の中でリプレイして「そうだったのか」という自問自答反応を槙が見せたときに、観客には「そう言えばあの救助場面で、槙、何か気がついた様子だった」と記憶をたどり思い至るヒントが何もないわけです。

観客に対しフェアであることをはなから捨てている。ドラマがドラマであるということでのみ可能な叙述トリックにここまで頼らなければならないかと、あのときもだいぶ視聴意欲が減退しました。それに比べれば、直後に修子が打ち明けた、実弟との淋しい少年少女期の禁断の関係は、「そんなことじゃないかと思ったら、やっぱりそうだった」という想定済み納得性のほうが若干上回り、その分テンション下降は軽微で済みました。

今作『夏の秘密』も、「実は誰某は○○でした」「誰某と何某はこれこれの関係でした」、あるいは「あのときのアレは、実はこういうことでした」が解明されたときに、テンション“すとん”になるのではないか。人物の性格付けや伏線張りはかなり丁寧に運ばれていると思うだけに、それだけが心配ですね。

先日は「殺されたみのりにはなんらかのジェンダーに関する悩みが?」と考察してみましたが、今日の23話を見て、一瞬、そっち方向の悩みはむしろ伊織がともふと思いました。“女を、男として愛するのが困難な(或いは、いままで困難だった)心身”の人ではないかと。簡単に紀保(山田麻衣子さん)のいる前で(衝立に入ったとは言え)着替え過ぎだし、これ以上体当たりになれないくらい体当たりなフキの求愛に困り果てた表情には、「世話になったフキさんがここまで…」という同情憐憫からくる逡巡より、もっと素の、生理的な「勘弁してよ!」という当惑が見えたようにも思います。

物語序盤、夕顔荘に越して来て間もない頃の紀保が、とっつきにくい伊織について「あの人、恋人はいるの?」など聞き出そうとすると、雄介(橋爪遼さん)が「恋人ならここにひとりいるよ」と、おネエ演技ではぐらかす場面がありましたが、あれも単なるコミカル演出ではなく、天然な雄介だから何の計算も無く偶然踏んじゃったなんらかの暗示だった気も。

思い過ごしかもしれない。ただ、伊織側にそういう障壁があったとすると、みのりが龍一(内浦純一)に薬物を盛ってまで行為と妊娠にこだわった理由もちょっとは解釈の“通路”ができる気がするのです。なぜ龍一でなければいけなかったか?に依然、謎が残りますが。

伏線張りが丁寧だなと思うのは、たとえば今日23話での、フキの宝物=鼈甲櫛紛失の張本人セリの行動などそうですね。杏子(松田沙紀さん)側について紀保をあの町にいたたまれなくする細工の動機に、快感原則の人であるセリが1話での“現場でクビ”の屈辱をいまだ少しは根に持っているというのがある。アトリエKの専属モデルに取り立ててくれたという恩義はあっても、セリが“紀保さんのためにだけ、火の中、水の中”となるタマではないことはちゃんとエピソードの布石を打ってあるわけです。

それでもセリに対して杏子に「あなたも、いつまでも私みたいな口うるさい女にガミガミ言われるのはうんざりで、早く紀保さんにこのアトリエに戻ってほしいでしょ」と言わせ、セリが基本的には紀保シンパなことをさりげなく印象付けています。セリ自身は、物語にとってものすごく重要人物というわけではないかもしれませんが、ヒロイン紀保から見て、“どいつもこいつも本性隠してそうな、敵ばかり”ではなくすることが大事。平気でウソはつくけれど、魂胆がすぐバレるセリのような人物を配しておくと、物語進行のすべりがよくなる。

昼帯によくある“誰も彼も頭のネジが何本か抜けてるような非常識人ばかり”“まともな思考で、頷ける対応をする人物が皆無かせいぜい1人”みたいな状況になる危惧は、この作品に限っては不要そう。ドラマを垢抜けたものにする、そうしたバランス感覚のようなところはまったく「ノープロブレム」ですが、“秘密”をタイトルに謳っていることだけが、前述のような理由で心配なのです。

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オヒメサマみたい

2009-06-28 17:45:29 | 昼ドラマ

『夏の秘密』4週=~第20話は、前週よりちょっと引きの弱い週末になってしまいました。殺されたみのりが手を染めていた“ヤバいこと”は、顔を変える整形資金工面のための、薬物横流しだったらしいのですが、どうにかして加賀医師(五代高之さん)からカネを強請り取りたい護(谷田歩さん)が匂わせていたように、この話自体、加賀が自分の横流しを死んだみのりの仕業にするためのウソという可能性も残されていますね。

引きがもうひとつなぁ…と思ったのは20話のラストシーン。浮舟で蔦子(姿晴香さん)が使っていたのと同じガラスペンと青色のインク、みのりが殺害される前、誰かに手紙をしたためていたらしいことを知って「なんだか怖い…」と紀保(山田麻衣子さん)が伊織(瀬川亮さん)の腕に手を載せ、伊織が自分の手を重ねて、みのりの部屋だった6畳間で2人佇んで終わりましたが、そろそろか?そろそろかっ?というボディタッチだったのに、いまいち色気が不足なんだな。

前週末、15話での着衣シャワーと腕ギプス抱擁が色っぽ過ぎた反動ということもありますが、紀保が「無実を明らかにして見せる」と主張してやまない最愛の婚約者龍一(内浦純一さん)との仲は、よしんば彼がきれいさっぱり無罪放免になったとしてももう事件前には戻れないということに、彼女自身潜在的には気がついているのです。どんな悪だくみで、どんな薬物を使って嵌められたにしても、自分以外の女性と行為をして身ごもらせ、そのことを逮捕まで沈黙していたということは、紀保の心に深い喪失感を残したはず。「龍一さんを信じているわ(でも…)」のカッコの中のいわく言い難い心理が、山田さんの紀保にいま少しにじみ出てほしい。山田さんの演技表現の成長と、演出にもうひと頑張り期待しましょう。

その点、フキ役の小橋めぐみさんが、秘めた感情の表現においてやはり一枚ウワテかな。紀保が流れでデザイン製作を頼まれた、神社祭礼の織姫彦星の衣装を伊織とお揃いで披露する場面の、恥じらいの中にも得意げな表情は、華やかに着飾ってほめそやされる機会が乏しいまま青春を終えつつある女性独特の、殺気に近い痛々しさがありました。「私キレイかしら、ドキドキ」感にしても「やったね!」感にしても、慣れてないから表出のコントロールができないのね。しかも、上等の生地でのオーダーメイドを業としている紀保が、有りもの素材で知恵絞ってどうにかこしらえたコスプレだから貧乏臭いわ田舎くさいわ。そんなん着てさえ、照れる伊織と並ぶとテンション上昇ではちきれそうになるフキの痛いこと。

フキにしてみれば、14話で紀保が「結婚を約束している人がいる」と打ち明けてくれたので、伊織を挟んでのライバル関係ではとうになくなってひと安心のはずですが、「あちらは両思いの彼氏がいるのに、私は好きな伊織さんに振り向いてもらえない」と、別角度での対抗意識に油を注がれてしまったわけです。一難去ってまた一難。同年代同性が近くにいると、誰もそんなこと強制も言及もしないのに、何がどうしても“向こうを上回らなければならない対立抗争”の思考回路になってしまう人って、女性にはいるものです。容姿、ファッション、親の職業や家柄、学歴、モテ度。既婚なら夫の地位、年収、夫婦仲、子供の容姿や学校での成績、住居、余暇の旅行先。ひとつ優越してめでたしになると、すぐ次の項目にエントリー。

働き者で堅実しまり屋で、親思い。近隣のおばちゃんたちが「ワタシが男なら迷わず嫁にもらうのに」と惜しんでやまないフキですが、彼女たちの息子世代未婚男子なら伊織ならずとも「ちょっと勘弁」と思うに違いない重さ、もっと言えば、“心に着た貧乏”が、ちらちら覗く瞬間がある。ここらの表現が小橋さん見事だと思うのです。

この週最大の具体的な謎は、加賀医師が語ってくれたみのりの、“顔を変えることへの異常な執着”でしょうね。別人と見まがうレベルまで顔を変えたがるということは、過去を捨て出自を隠したい、あるいは過去にかかわりのあった人物や状況から逃げ去りたいなんらかの事情があったと考えるのが普通でしょうが、それプラス、これまでのストーリーから、吉川みのりという女性は、ジェンダーに関する悩みを何かしら抱えていたような気がしてならないのです。性同一障害というモチーフはここ10数年で頻繁に映画やドラマに採り上げられていますから、いまさらという気もしますが、元はちゃんと資格のある看護師で、薬剤横流しが発覚する前までは加賀医師の診療所で働いていたというみのり、女性の服装やヘアメイクで女性の言葉遣いで、女性としての社会生活はじゅうぶん送って行けはするけど“本当は、心身ともに男性になりたい女の子”だったのでは。

回想シーンで「女モノは作らない」伊織から手作りシルバーリングを贈られて、抱きついて喜んでいたみのり。女性のフキから見て「目の下の泣きボクロのせいか、伊織さんより5つ年下というわりには大人っぽく見えて、どこか人を寄せ付けないような影があった」みのり。何者かに毒物で殺害されるという衝撃的な最期だったにもかかわらず、新潟の実家とは音信不通だったため「(夕顔荘の部屋にあった)遺品などはそっちで処分して」という冷たい返事しか返ってこなかったみのり。

4話で、素性を隠して夕顔荘に越してきた紀保が「同じ鍋の味噌汁は飲めても、見ず知らずの男と同じ風呂の湯はイヤ」とキレたとき、“ホテルじゃないんだから贅沢言うなよ”と憤懣をあらわにした伊織でしたが、翌5話では黙ってシャワーを取り付けてくれました。「考えてみれば、家族でも恋人でもない異性と同じ湯につかって身体を洗うのは、普通の女の子なら幾許の抵抗があって当たり前だ」「みのりは“普通”ではなかったから…」と考え直したから、伊織はあの行動に出たのかもしれない。もしみのりが、伊織とカラダの関係まで持っていたとしたら風呂一緒でひとつも構わないでしょうが、どっこい夕顔荘には“20年選手”の柏木引きこもり博士(坂田聡さん)もいてバリバリ入浴しています。みのりは柏木も含めて平気だったわけです。

紀保との同志関係が結ばれても、伊織は「幸せになってほしいと思っていた」みのりの名誉を思って、その点についてだけは沈黙を守っているのかも。

だいぶ前の記事で、“イオリ”と“ミノリ”、周囲がそこはかとなく恋人関係と思っていただけで、実はなんらかの事情で他人を装わなければならない兄妹だったのでは?と書きました。その可能性もいまだ消えたわけではありませんが、伊織が“自分をオンナとして強要しない”からこそ、みのりはフキやセリ(田野アサミさん)や雄介(橋爪遼さん)から「仲がよさそうで、よく笑い声が聞こえていた」「あの2人、デキてたんじゃない?」「みのりさんのこと好きだったんだろ」とも見られる関係になり得たのかも。

みのりにそういう性向があったとしたら、近隣のおっさんおばちゃんたちはともかく、医師である加賀ぐらいは何か“普通の妙齢女性とは違う”感じを察してもよさそうなので、月河の個人的考え過ぎかもしれませんが、紀保が“みのりさんの過去・人となり”に踏み込もうとするたび伊織がブレーキをかけるのも不思議。

あんまり“謎解き重心”なドラマになってほしくはないのですけれど、タネ蒔かれれば刈り取りたいですしね。

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ゴールデン泡ぁ

2009-06-11 00:35:26 | 昼ドラマ

今年も恐怖の健康診断が近づいてきたからというわけではありませんが、店頭でコッチを向いていたAsahi  off(オフ)を、350ml112円の目玉特価に釣られて試飲。

缶のフロントセンターに筆記体で“off”のロゴもかなり訴求力がありますが、プリン体“85%オフ、糖質“70%オフという、offの下にさらにオフを2つ並べた上塗り感、屋上屋感が何とも微妙ですな。

発泡酒・新ジャンルの中でも、健康志向を第一にうたった、機能性食品的な系列はなんとなく“いちばん大事なこと(=美味)を二の次にしている”ような気がして、新リリースの報を聞いてもあまり積極的に手が出ませんでした。いくら食品工業技術が進歩したと言っても、お酒のような“昔からあるもの”を、“昨日今日にわかに騒がれ出した価値観(=健康志向)”に基づき、“にわかに発達した技術”を使って、小細工すればするほど味がB級化、バッタもん化しそうじゃないですか。

それに、そんなに目の色変えてプリン体だ糖質だ削減しなきゃならないほど自分、メタボでも痛風予備軍でもないわい、というプライドもちょっとはあったりなんかして。

まぁ何をどれだけオフしようと、1112円は大歓迎。論より証拠で飲んでみましたが、悪くないですよ、味。「Alc.3.5%以上4.5%未満」という科捜研のレポートみたいな表示がまた微妙に気になりますが、しっかり麦の味もするし、5%のクリアアサヒに遜色ない“お酒感”もあります。

ただ、新ジャンル各社各ラベル全般に言えることですが、このAsahi  offも、泡の質がいかにも炭酸炭酸して、サイダーっぽいプチプチ感が優勢。ビールらしい、きめの細かい、こしのある泡にはならないのは致し方がないですね。第三のビールっつったって“ビールではない”んですから。

泡を鑑賞するものではなく、ひたすら飲みクチのすっきり感を楽しむものだと割り切れば合格。この次112円になったらまた買おう。筆記体“off”その他の表示部分以外はぜんぶツヤあり金色で統一したパッケージも、“リキュール(発泡性)”という分類にふさわしい、ほどのよい“敷居の低さ”(≒ゴリゴリのビール党員ではない女性やビギナーでも手に取りやすい)を表現していて、同類商品の棚の中では結構出色だと思います。

『夏の秘密』8話は、セリ(田野アサミさん)に恩を売って囮役を頼んだ紀保(山田麻衣子さん)、伊織(瀬川亮さん)の部屋の鍵の型をこっそり取り、工場に急ぎの仕事が入って伊織の手が離せない時間を狙って忍び込み、素人ガサ入れの末どうにかあの物置部屋の鍵を発見…というドキドキが眼目になりました。

あの引き出しにも、この本の間にもない、さて後はどこを探せば?と紀保が途方に暮れたとき、一瞬赤い表紙のスクラップブックがフレーム(紀保の視界)に入り、あッそれを開けて見ちゃったら、紀保、自分の正体が伊織に読まれてることを知って…と観客をドキッとさせた次の瞬間、鏡に映った銀のペンダントのほうに注意をそらす、ヒッチコックばりの見せ方の手順はなかなか堂に入っています。

昨日7話の、フキ(小橋めぐみさん)と紀保の川べりのシーンでもワンカット、鏡が効果的に使われていました。

鍵の隠し場所として、印鑑など貴重品の入っている場所、表紙のついたファイルの体裁になっているものにまず注目する紀保のごくごく真っ当な目のつけどころに対し、ペンダントトップの裏に貼り付けてそこらに吊るしておく伊織は、ポーの『盗まれた手紙』じゃないけどなんだかモノを隠し慣れてる男みたいですよ。

怖いもの知らずの強みで紀保も行動振幅広く頑張っているけれど、つい田野さん扮するセリに目が行ってしまいますな。捨てゼリフ一発でバケツ蹴っ飛ばすとか、後ろ手にドア閉めてアッカンベーとか、“ガラっぱちの最大公約数”と言うか“先の読めるアバズレ”と言うか、前クールの『エゴイスト』での宮地真緒さんのKAORIもそうだったけれど、女性が女性を見るときの“外からはっきりわかりやすい悪はそんなに悪じゃない”という物差しを象徴するよう。

対極にあるのが紀保のドレス工房の実務パートナー・杏子(松田沙紀さん)。職務に忠実な常識人で、婚約者の無実を晴らしたいあまりの紀保の暴走に懸命にブレーキかけていると思いきや、紀保から託された龍一への直筆の手紙を、さしたるためらいもなくパソコンで真逆のニュアンスに書き替えて渡し、原本はあっさり燃やしてしまいました。これは紀保が現時点で味方と信じて疑っていないだけに、観客視点ではグサグサ来る、ワル怖い女です。

ひそかな片思いだった龍一が逮捕されて、立場が変わったことで自分にも可能性が出てきたと思い込み、それでスイッチが入っちゃったのか、もともと面従腹背タイプの女で、人を見る目のないお嬢紀保が気がつかないでいただけだったのか。伊織ばかりでなく周囲の女性たちもバキバキに、あるいはじんわりやんわり、陰に陽にクセ者過ぎて、キャラとして紀保の影が相対的に薄くならないか心配なくらいです。

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