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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

東京らーめん人情

2009-06-08 22:52:49 | 昼ドラマ

昨年の今頃からのこの1年間で、TV視聴に関して大きく変わったことと言えば、“NHK朝ドラのチェック”が準レギュ化したことですね。

もちろん高齢家族のお相伴です。『瞳』で、電器店の須賀健太くんが引っ越し転校することになり、里子の友梨亜ちゃん(森迫永依さん)が瞳(榮倉奈々さん)に励まされて手作りのケーキを…という辺りから観はじめたのかな。ダンサー志願・瞳が、微妙に北海道の「~っしょ」言葉を残しながら東京は月島で洋品店を営むじいちゃんの家で里親見習いをするに至った経緯や、EXILEメンバーのMAKIDAIさん扮するカリスマダンサーとお近づきになったきっかけなどは、いまだ未知です。

公式サイトを見つけて遡ってみればわかるのかもしれませんが、そんなに必死で調べて隅々踏み固めなきゃ前に進めないほどの緊密なドラマでもない。朝ドラはそういうゆるさが魅力なんだと思います。

『だんだん』も、いま放送中『つばさ』も、それくらいの距離感で、ちょっと間があいては追いつき、また疎遠になってはヨリ戻しで今日に至っています。

個人的には『つばさ』がいちばん高体温ですね。高齢組に促されなくても、土曜の午前中や平日夜のBS2など自主的にチャンネル合わせますからね。ホームコメディや、しんみりほのぼの家族もの的なドラマは滅法苦手なんだけど、これは家族もご近所、職場の赤の他人たちをも含めた、ヒロインをめぐる“ヘンテコリンな人々図鑑”にもなってるところが魅力です。

それはともかくNHK朝ドラと言えば、劇中、家族が揃う卓袱台茶の間セットと並んで、玄関前をメインに向こう三軒両隣くらいまでの“ご近所街角セット”もつきもの。『だんだん』では松江の田島家は縁側ぐらいしか記憶がないけど、祇園の“花の家”前はしっかりセットしていました。

これに約1年慣れたから、放送中の昼帯『夏の秘密』の下町セットの苦笑ものな箱庭作為感にも、さほど苦笑せず、微苦笑程度ですんなり騙されてあげられるということがあります。

常ならば“富豪セレブ邸宅”“会社・事務所”“庶民の日本家屋”“独り者のマンション・アパート”のほかは“登場人物全員行きつけ(プラス、それ以外の客がほどんど皆無)の喫茶店・スナック・レストランetc.”ぐらいしかセットが登場せず、それぞれ3LDK2DK1 K程度の空間内で物語が終始するこの枠の昼帯。今作は和風喫茶を中心に、町工場、理髪店、ラーメン屋、クリーニング店などを含む、ちょっとした中通りの往来ひとつをまるまる作りました。

60話ほどの中で数えるほどしかない屋外ロケシーン以外は、誰と誰の、何のどんなニュアンスのシーンでも、ドアから一歩外に出ると玄関先で空間が途絶えるのが当たり前だった世界で、今作に限って、手間暇かけて“街角”を作ったということは、この街角に物語の鍵があるのだろうなと想像がつきます。

思えば、“今日の続きが明日観られる”という平日帯ドラマ1300~のTBS系の2枠がなくなってしまったので、このフジテレビ系東海テレビ制作枠のほかは、テレビ東京のLドラ枠(『ママはニューハーフ』放送中)と、NHK朝ドラしか現存していないんですね。

しかも、NHK朝ドラ、『瞳』以降の3本限定で言えば、1話完結ならぬ“1週間6話完結”をほぼ繰り返し、1週でひとつの問題を解決しては最終週への階段を上って行くような構成になっていて、いきなり古い例ですが83年の『おしん』のような、次から次へとヒロインに出来事がふりかかって有為転変する、本当の意味での連続ドラマとは、かなり本質的なところで異なっています。

言わば“切れてるチーズ”みたいな、食べやすくこなれのいい仕立てになりました。

月河のように、昼帯を全話数中99パーセント留守録で、夜や週末に見てるような視聴者はウルトラレアで、これだけTV録画機器が普及した時代でも、依然、全視聴者中に占める“在宅でリアルタイムで見ている”率がいちばん高いドラマ枠がこの昼帯だと思います(NHK朝のそれはBSも含めると1話当たり4回の保険的再放送枠があり特殊)。

リアルタイム視聴で脱落せず追尾し続けるのは、“暇なとき回し”ができる録画視聴の何倍もの“ドラマ体力”“フィクション耐性・順応性”が必要なはず。そういう視聴者の比率が高い枠で、あえて塊りのエダムチーズみたいな、重たく粘っこいガチの連続ものを作り続けるこの枠のスタッフは逞しいし、勇気があると思う。不況に沈むTV界でこの姿勢は貴重です。

良くも悪しくも在京キー局のニッチを行くテレ東のLドラは、週完結の扱い易さと、連続ものの濃さとのちょうど中間をとった感じでしょうか。“濃くしても軽い”のが身上かな。『ママはニューハーフ』では原千晶さんがいいですね。金子昇さんは役柄上、減量と間断ない剃毛疲れ?でいまいち芝居がおとなしいように見えます。もう少しギラギラ暑くるしいほうが金子さんは好きだけどな。

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繋がれたeveryday

2009-06-04 23:04:17 | 昼ドラマ

『夏の秘密』でもうひとつ疑問なのは、“どこまでサスペンスにする気があるのか”ということです。

サスペンスと言うと狭くなりますから、“ハラハラ心理の共有”と言ってもいい。下町女性殺人事件の真犯人探し以外にも、究明のために身分を隠し偽名を使って、殺人現場の部屋のあるアパート夕顔荘に引っ越し情報収集しようとする紀保(山田麻衣子さん)の正体が、ネイティブ下町住民たちにいつバレるか/バレないかという点も、やりようによってはじゅうぶんハラハラの盛り込み場所になりそうなのですが、そこはお嬢さまの紀保、“バレないための武装”がまるっきりユルユル。

夕顔荘に部屋を借りる下見の際も、部屋代月4万円を「一泊で?」とか、「バスルームはどこかしら」とか、金銭感覚も生活感も全然下町古アパートに住むような人品じゃないのがまるわかりで、「冗談きついよ」と怪しまないのは宅建浪人の雄介(橋爪遼さん)が無類のお人よしだからでしかない。

今日4話で、伊織に朝食のおかずを届けに来たフキ(小橋めぐみさん)や、和風喫茶浮舟の女主人(姿晴香さん)ら近隣住民に手土産を配って挨拶かたがた、事件の情報を聞き出そうとする場面にしても、“礼儀正しくするのには慣れているけど、下手(したて)に出るという発想がはなからない”令嬢育ちが面白いように漏れ出ています。

これだけガードが薄いと、少なくともこの部分に関しては、観客が「そんなものの言い方したら、バレるぞ、バレるぞ、よしよし、その調子…あっと危ない!」の綱渡りハラハラを、ヒロインと共有できるようには作られていないということです。

そもそも、ひたすら“婚約者が犯人ではないという証明につながる情報を、現場近隣から得たい”と思うのであれば、身分を隠して現場に潜入などせず、親の資金力をバックに、住民たちに札束積んで「私は容疑者のフィアンセです、無実を信じているんです、どんな小さな情報でも提供して下さい、おカネはいくらでも出します」とネジ巻けば、金欲しさと可憐な悲劇のヒロイン見たさに「こんな人影を見た、物音を聞いた」「殺された女にはこんな背景や噂があった」と不況にあえぐ商店主や店員工員たちが尻尾を振ってたれ込むはずです(もちろん伊織のようなタイプ・立場の住民なら「カネで何でもどうにかなると思うなよ、あんたは世間知らずだから人間のウラオモテがわからなかったんだ、その弁護士に騙されたんだよ」と食ってかかって、別の展開があるかも)。

2話で潜入を決心した紀保が髪を切っていましたが、潜入先の下町には髪の長い紀保を知る人はいないのだし、紀保自身マスコミのカメラを避けていたので、面が割れるのを防ぐために短髪になる必要はまったくない。

あの髪切りは紀保にとって“婚約者逮捕に打ちひしがれ(幼い日に亡き母がいましめたように)嘆くだけの自分からの訣別”の象徴であるとともに、潜在的には“信頼できると思っていたのに裏切っていた(出張先で見ず知らずの女の誘惑に屈し孕ませ金で黙らせようとした)婚約者への、内なる最後通牒”なのです。

どんなに紀保が「この先龍一さん(内浦純一さん)と一緒に生きて行くと誓ったの、だから無実を信じる」と繰り返し自答しても、たとえ無実が立証されたところで、龍一は紀保にとってこの一件以前の、非の打ちどころなく優しく誠実でどこに出しても恥ずかしくない婚約者ではなくなり、永遠にそこへは戻れなくなりました。

紀保の髪切りは“何不自由なく育ち社会的地位も教養もあり、親や世間に祝福される結婚をする、リスペクタブルなワタシとの訣別”でもあり、武家社会の既婚婦人が夫の没後髪を下ろし仏門に入る(=女であることをやめ、他の男との間に子をなさない)感覚にも近い。「生物としては生きているけれど、社会的には一度死にました」宣言です。

大企業社長の父に庇護され、持てる才能と趣味嗜好を活かした事業を営み、そんな自分を愛し尊重してくれる、学歴地位あるエリート男と、海の見えるチャペルで友人知人の前で誇らかに挙式して幸福になる。そういう人生を、紀保はここで降りたのです。実態はどうあれ、降りるわという宣言を、鏡の自分に向かって発したのです。

『夏の秘密』は、純愛ドラマとかロマンチックラブストーリーとか、殺人事件をめぐるサスペンスとかいろんな側面でアピールしていても、結局はお嬢さまの自分探しアドヴェンチャーなのです。

過去の自分と訣別し、一度死んだ気で新しい人生の冒険に踏み出すヒロインといえば『美しい罠』の類子がいますが、あちらは名もなく貧しく強者に踏みつけにされ、日々の身過ぎ世過ぎに追われる殺伐たる人生から、輝かしく尊崇を受けちやほやされて胸を張り生きる、持てる者・勝者の人生への渇望とハングリーさがあり、その点で観客に支持されました。

今回のヒロイン紀保は、仕事も、事件への巻き込まれも背水の陣ではなく“戻って行ける裕福なバックグラウンド”をキープした上での“いままでとは違うワタシになる自己実現”の冒険。その点で観客のホットな共感や応援を集めにくいかもしれません。

潜入先での、被害女性の恋人で犯人を恨んでいると目される工員・伊織(瀬川亮さん)との衝突や打ち解け合いにしても、少女漫画に数多見られるおてんばドジっ子ヒロインとツンデレ男のラブコメ”と、構造的にはきわめて相似しています。笑いを取るように作られているかいないかだけの違い。

古き皮袋に新しき酒。使い古され、評価され尽くし、消費もされ尽くした枠組みを使って、どれだけ斬新感のある物語にできるか、挑戦はまだ始まったばかりです。

それよりいまちょっと困っているのは、伊織役を好演中の瀬川亮さんが、話数進んでアップの場面が増えるにつれ、かねて思っていたとは言え、思っていたより深刻に、いや深刻ってこたぁないか、強硬に…いや痛切に…じゃなくて、そう、かなり鮮明にハイキングウォーキング松田に似ているのね。

おかげで、3話の納豆チュルリ戴き場面での山田麻衣子さんが次の瞬間「スーパー・イリュージョン!」って言い出しそうに見えて参りました。TVの中の誰かが、別の誰かに似ていることはあまり気にならない月河ですが、今作は、イメージ払拭が若干難しそうだなあ。

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過っ去つけすぎ

2009-06-03 23:09:46 | 昼ドラマ

『夏の秘密』は第3話、いまだ潜在力は感じるんだけど、真っ芯に当たってないという助走が続きます。

やりたいことはわかっている。現代を舞台にすると、こと恋愛に関してはまったく障害がなく、誰が誰を好きになっても携帯さえあればメール・ムービー写メール・テレビ電話、いくらでもコミュニケーションはとれるし密会デートもできる時代、社会や世間が許さない恋や、逢えずにつのる思いなどはいっさいリアリティがなくなっています。

『夏の秘密』も、紀保(山田麻衣子さん)は大企業社長令嬢で、お嬢さま教養の延長みたいなウェディングドレス工房を経営しているご身分、伊織(瀬川亮さん)は下町のしがない旋盤工ですが、これから盛り上がってくっつこうってんなら、紀保父(篠田三郎さん)の反対や逆玉婚のそしりは免れないでしょうが、くっついて悪い致命的な障害はどこにもありません。基本的には娘ラブな篠田さん演じるパパなら、伊織を婿にして鉄工場のひとつやふたつ建てるか買収するかして持たせてくれそうな勢いです。

致命的に恋愛が許されない障害の王道として、かつては、“好き合った男女が異父(母)姉弟・兄妹だった”が三日にあげず登場していましたが、少子化の昨今これも難しくなってきた。そこで、この枠の最近の現代もの作品が好んで使うのが、男女間における“利害・立場の対立”。つまり、くっつきたいカップルを敵味方に分かつ構図です。

思う相手が亡き親の仇であったり(『愛讐のロメラ』)、財産目当て謀略の正犯と共犯であったり(『美しい罠』)、金を狙う俄か色悪と狙われる富豪であったり(『金色の翼』)、普通に祝福される結婚をしたい向きと、自分の主義信条を貫きたい者であったり(『契約結婚』)、こういった、身分でも制度でも出自血縁でもない、言わば内的障壁で主役カップルがくっつけない設定の例では、ドラマ冒頭から最終盤まで一貫して相思相愛なのに、ツラ当てとプライドだけで対立・挑発を繰り返した『危険な関係』の柊子&律が最右翼にして最高峰かもしれませんが、今作『夏の秘密』も、婚約者の殺人容疑を晴らしたい令嬢と、殺された元・看護師の恋人?で真犯人を突き止めたい工員。

令嬢の、逮捕された婚約者がシロなら工員には苛立たしいことですが、元・看護師が令嬢の婚約者の子を身篭って殺されたとあれば、真犯人が誰であれそこに至る事情を知りたいでしょう。斯くして協働と互いへの猜疑・不信、両輪に跨る危うい関係が今後恋愛含みに変化していくわけです。

こういう、犯罪や悪事を間にはさんだ対立構図で“くっつけない恋”をアレしようという制作企図には月河、まったく反対しません。このモチーフを採り入れて傑作・佳作になった小説や映像作品も数多あるし、スーパーヒーロータイムの戦隊や仮面ライダーは、男性キャラ同士で普通にこの手の感情の衝突交流を毎週繰り広げます。目標が恋愛成就でなく、凌駕と屈服、リーダーシップと協調の確認を目指すというだけの違い。

ただ、『夏の秘密』、ここで惹きつけよう、ここで萌えさせようと仕組んだ場面や絵が、いちいちスイートスポットに来てない。1話の、放送前予告でも使われた、龍一(内浦純一さん)拘束のパトカーを追う紀保のウェディングドレス疾走→靴が脱げ転倒の痛そうカワイソ場面を筆頭に、第一発見者かつ参考人として伊織連行、動揺するフキ(小橋めぐみさん)、2話の面会紀保&取り乱す龍一の拘置所ガラス越し、紀保髪ジョキジョキ、アパート下見時の、お嬢ぶりが速攻ばれそうでバレない不動産屋息子(橋爪遼さん)との会話、半裸の伊織と湯上がり紀保の共同浴室ガッチャンコ、3話の紀保の納豆頂戴糸ヒキヒキなど、観客の胸がキュンと痛むように、あるいはハッとしワクワクし、微妙にむらむらするように狙って作られているのはわかるんだけど、作っているほうが狙うほど胸も痛まないし、ワクワクもむらむらも来ないのはなぜでしょう。

月河はずばり、物語が“過去がかり”に過ぎるからだと申し上げたい。人物の行動や情念の動機・源泉が、物語開始以前の、映像化すると回想シーンにしかならない“過去に何が起こったか、何が真実なのか”に拠りかかり過ぎで、この人がこういう言動をするのも、あの人がこんな表情を見せ、こんな台詞を発するのも、ぜんぶ“過去を知るため”。そのために、現在時制のドレス疾走や、半裸ガッチャンコの影が薄くなるのです。

06年の『美しい罠』以後、この枠のこのクールはなぜかサスペンスに重心をおくようになり、それだけならまったく問題ないのですが、とりわけ“謎解き”“フーダニット”の要素を過分に取り入れがちになって、結果『金色の翼』などは、修子の夫の事故死も謎、修子が異国の富豪夫人におさまった経歴も謎、槙の兄の殺人容疑逃亡・生死も謎、宿泊客絹子の素性も謎なら、修子&玻留姉弟の幼時も謎、謎また謎の周りを撫で回したり突っついたり、一歩前進二歩後退しているだけで、全65話のかなりの部分を費やしてしまい、現在時制で起きている謀略・駆け引きや、愛欲もしくは純愛のストーリーが相対的に軽くなった弊が否めません。

観てるほうとしては「そんなことより、結局修子は手を汚してたのかしてないのか」「槙兄は恋人を殺めたのか無実なのか」のほうが気になって仕方がなく、甘美な抱擁や、緊張感ある抗争劇を見せられても「だからさ、どうでもいいよ、そんなことは」と常に微量イラついてしまう(以前ここで、現放送中の『夜光の階段』について“もっと成功したかもしれない『金翼』”と書いたときに、『金翼』を「小さくない欠点を抱えたドラマ」と表現したのは、以上のようなことをも含みます)。

ドラマでは、過去に起きたことは如何ようにもマスキングできるし、回想や推理シーンで真犯人の正面顔を撮らない、決定的な物証をフレームに入れないなどして、物語が適当な段階まで進んだところで顔を映し物を映し「実はこれこれこうでした」と明らかにすることもできる。さらに進んだ段階で「これこれは誰某のウソで、真相はこうでした」とくつがえすことも自由自在です。言わばドラマ自体が壮大な叙述トリックになり得るわけで、現在時制の人物の言動動機が大半“過去の究明”に領されている状態は、物語として“ずるい”し、作品として狭小だし、エンタメとして不親切だと思います。

ちゃんと観客の目の前で出来事を起こし、提示して、その出来事によって人物の感情が惹起され、人物同士・感情同士が衝突し摩擦し合うさまに合理性納得性をつけていただきたい。謎解きを軸にするならするでいいから、物語開始前、観客の見ていないところで起きた謎のどうこうより、解かんとする人物たちの現在の情動のほうに、より観客の気持ちが添うように描いていただきたい。観客はどうしてもこうしても美しい女優さんのお似合いな衣装や、男優さんの筋肉美やブランケットの下での絡み合いを見たいわけではなく(見たい人もいるでしょうし、見られたら見られたでそりゃいいものですが)、気持ちを乗せて行ける“物語”を欲して、毎日録画して昼帯を観ているのですから。

岩本正樹さんの音楽が今年は一段と抑制的に使われていていい感じ。何より要所要所での音量が適切で役者さんの微妙な芝居を邪魔しません。今日3話の、杏子(松田沙紀さん)が偽杏子=紀保の身元照会電話にクチ裏合わせる場面に流れていた神秘的な曲がひときわイマジナティヴでした。この次この曲が劇中流れるときは、かなりお話が核心に踏み込んでいそうですね。

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フーテンのたびびとさん

2009-05-31 00:49:32 | 昼ドラマ

『エゴイスト egoist~』の久保田邦夫さんによるサウンドトラックCD、未だ購入検討中です。放送開始後ほどなく音楽通販サイトに挙がって予約を受け付けていたので、むしろ楽しみにしていたのですが、内容がアップされると、OP主題曲『誰カノタメニ』と挿入曲『ワスレナグサ』のインストヴァージョン込み16曲、演奏時間42分少々のヴォリュームで税込2,625円。今クールはドラマ本体が全40話でしたから、曲数が少ないのは当然とは言え、ちょっと食い足りません。

試聴できるサイトを探してみると、概ね“甘美に切ない曲”と“切迫感サスペンス風味”と、あとは芸能界というかショービズ的な雰囲気を意識したスケルツォ風のユーモラスな曲、この3種類に尽き、意外性や奥行きもこのお値段ならばもうひとつ。

 全体的に、“音で再現するドラマ”としてのサウンドトラックというより、“BGM集”といった感じの軽い仕上がり。1曲めに入っている“エゴイストのテーマ”の、お洒落な中にも、明里たちが最終話まで住んでいた古い日本家屋を思い出させる湿り気ある情緒など、好感持てる曲も多いのですけれどね。

←←左柱←←にもあげてある『愛の迷宮』のように、放送終了後1年以上経ってからそういえばあのドラマの、あんなシーンに流れていたあの曲、あの音色が…とむらむらと購買意欲がUターンして、買ってしまったタイトルもあるので、『エゴイスト』に関してもいずれそんな経路をたどるかも。当面、次クール『夏の秘密』の、岩本正樹さんによるサウンドトラックが、30曲収録で812日に発売予定との事で、そちらに資金を確保しておきたい気持ちのほうが勝っちゃってますね。『エゴイスト』音楽スタッフの皆さん、どうもすみません。今度は3ヶ月60話クラスのヴォリューム作でお会いできれば。

NHK『つばさ』、今日(30日)放送の、優花ちゃんママ千波さん原作・つばさ補作オリジナル童話『おはなしの木』はよかったですね。まさかNHK朝ドラで泣く日が自分にも来るとは思ってもみなかった。

真瀬(宅間孝行さん)と優花ちゃん(畠山彩奈さん)父子の絆回復劇より何より、急遽変更したつばさの読み聞かせ作品のために、ロナウ二郎(脇知弘さん)「いまから新しい効果音仕込むワケ?」とか不満そうにしながら、いざ本番始まるとソロバン丸山(松本明子さん)・隼人くん(下山葵さん)親子も浪岡(ROLLYさん)も、総出で手作り音効。この場面で“来て”しまいました。

「物語は、ベタでもハッピーエンドがいい。」とラジオマン(イッセー尾形さん)のナレーションがあったけれど、境遇や履歴や年齢性別や、シロウト玄人の力量差や、“ラジオぽてと体温”の微妙な差も一瞬越えた、ああいう戦隊的チームワークが、家族愛やらほのかな恋愛話なんかより、月河が好きなベタなんだよなぁ。

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松子デラックス

2009-05-29 23:56:54 | 昼ドラマ

『エゴイスト egoist~』を最後にまとめておかないと、次の作品に進めませんね。全8週の第4週からは、体当たり新人スタイリストだったはずの明里(吉井怜さん)が、実母で落日大女優の玲子(川島なお美さん)の引きでまさかの女優デビュー、物語の地合いが一変しました。

スタイリスト時代から滑舌もっちゃり加減が気になった吉井さん演じる明里が、人気ナンバーワン若手女優としてもてはやされる展開には、さすがに違和感を覚えた視聴者が多かったのではないでしょうか。世界的名声を誇る朝倉監督(森次晃嗣さん)からの劇場映画主演指名を受け、レストランで食事かたがた面接オーディションを受けた辺りから「ワタシは女優よ」スイッチが入っていったのはなんとなくわかりましたが、まぁ、地味に暮らしていたそこらへんのポッと出の若い娘が、何かで俄かに有名になって、行く先々でちやほやされるようになったら、多かれ少なかれ年中テンパって様子様子して、あんな感じになっちゃうかもと想像できなくもない。

芸能界ではない一般人の世界でも、物心つくころからずっと「美人」「可愛い」と言われ慣れて育った女の子は、いい年になればちやほやに対処するすべを身につけていますから、逆に物腰もファッションもさっぱりと自然体なことが多いですが、ずっと地味で来て、進学・転校や就職転職、あるいは人為的なお直し、ダイエットなどを機に突然“モテデビュー”してしまった子だと、“可愛くしていることに目的があって、それが露呈している”ため、明里ほどではなくても何かにつけスタックアップして、年中鎧兜まとって痛々しいもの。明里のキャラクターはそこらへんをカリカチュアライズしていたのかもしれません。

ただ、明里が振りかざす“女優のプライド”は、女優としての名声と引き替えに、実娘の自分を乳飲み子のうちに捨てた玲子への面当てにほかならず、演技のプロとしての自負や誇りではないので、大きな声を出してツンケン高飛車に振る舞えば振る舞うほど虚勢が透けて見えなければなりませんが、そこらへんの描写がちょっと物足りなかった。とにかく明里と玲子と香里改めKAORI(宮地真緒さん)、あとイノセントスフィア出身のトモ美(一青妙さん)以外女優がいないような芸能界ですからね。

 多少難があってもこのドラマを視聴続けようと決めた最大の動機は、2ヶ月クールに短縮したことの是非を見届けたいと思ったからですが、この点、残念ながらもろ手を挙げて是と言える出来ではなかったように思います。46ぐらいで非が上回った気がする。

ひとつは放送期間中にも書いた通り、テンポ感や見逃せなさを追求するあまり、短い期間、少ない話数にエピソードやイベントや見せ場を隙間なく詰め配置し過ぎ、たとえば前述のように明里が“女優たること”に異常に執着し出した動機や過程など、人物の重要な心理のあやが駆け足になってしまったこと。

特に、スペシャルドラマ大ヒット以降の明里の“女優の現場”での階段の上がり方、成長と図に乗り方のプロセスを、劇中劇や共演者たちとの衝突などで描き込めなかったのは、予算の関係(劇中劇用のセットやロケ現場を構成する手間と費用)もあるでしょうが、やはり話数、時間の少なさの弊と言わざるを得ない。序盤の西条玲子主演『シングルウーマン』やスペシャルドラマ『絆』にはちゃんと劇中劇シーンがあったのに。

これに付随してもうひとつ、昼帯ドラマに無くてはならない“障害の多い恋愛”要素がきわめて希薄になってしまった。玲子亡夫の連れ子・俊介(林剛史さん)と明里が、TVのこっち側から見て“結ばれてほしいお似合いのカップル”になかなか見えなかったのです。俊介が、禁断の関係が続いた継母玲子と明里、どちらをより切実に愛しているのか、ドラマ的に長いことはっきりしなかった上、玲子の俊介に向ける気持ちも“継母としての親心”を原点に、社会的にはタブーであっても決して醜悪に否定的に描かれていたわけではないので、一層明里⇔俊介のベクトルは薄くなった。

「自分が玲子の娘」と偽って玲子のもとに入り込んだ香里の「兄ちゃんじゃヤだ、恋人になりたい」というストレートな求愛のほうが、見ていて「感心しないけど、このコ一生懸命だよな」と気持ちを沿わせられました。最初はワイドショー野次馬的好奇心、そのうち“セレブ御曹司”という合コン的リスペクト、やがて「明里のことが好きなのね、私負けない、奪ってやる」と競争心にも火がついて、気がつけばマジ惚れ…という過程は、香里と俊介じゃファッションセンスや立ち居からしてお似合いとは到底言えない、ひとり相撲な分、一層説得力のある片思いぶりだったと思う。

明里の場合、俊介との一夜きりで終盤は妊娠してしまったので、気持ちが俊介よりお腹の子に行ってしまったこともあります。“子を捨てない”は実母玲子を越えるために、明里としてはどうしても譲れない項目。よって男としての俊介のほうも蚊帳の外気味になった。

明里に先んじて、玲子のほうが先に俊介の子を身ごもり、産む決心をした矢先に、俊介の身を案じるあまりの事故で流産の悲しみに耐えていることも、明里の影を薄くしました。全体的に、玲子が“ヒロインの親世代”扱いでおさめるにはあまりにヒロイン性を持ちすぎている(公式トップや宣材写真でも明里・香里との3ショット)ためにぼやけた箇所が多い。2世代にまたがる3人ヒロインをコントロールし切るについても、840話では容量不足だったかもしれない。

俊介役・林剛史さんについては、月河は本当にほとんど『デカレンジャー』のホージーだけの印象だったので、大企業御曹司で大半スーツ姿になってみると、こんなに身体の線の細い人だったとは思わなかった。身体だけではなく、顔もホージー時代より細くコケてませんか。『デカレン』ボーイズ写真集での個別インタビューで、子供の頃はお腹が弱くP(ピー)ちゃんと呼ばれていた…との話も読んだ記憶があり、2ヶ月放映とは言え昼帯の過密収録もこたえたのではないかと思いますが、ヒロインを救い幸せにしてあげてほしい王子さまというより、“強いエゴイスト女性たちの被害者”なイメージのほうが終始強い役になってしまいました。関西人の林さん、ホージー的な“スカしすぎて可笑しい”味がもう少し出て、ユニークな相手役になるかと思っていたのに、昼帯のプロデューサー陣は、ヒーロー俳優さんをキャスティングしても、当のヒーロー作品を観て演技や持ち味のチェックなどしないのかな。

 もうひとつは、話数ゆえに“物語世界を広げられなかった”ことがあります。女優が3人か4人しかいないような昼ドラサイズのフィクション芸能界でも、“芸能界と縁のない世界”の存在や呼吸を合い間に入れ込むことで、ドラマ世界にパースペクティヴが生まれ、立体感ができる。

同じ小森名津さんメイン脚本の『女優・杏子』01年)では、杏子が活躍したり干されたりする芸能界の対極として、杏子の俄か付き人となった介護ヘルパー受験勉強中の智子と、マル暴刑事のその兄、という世界を提示しました。

杏子が暴力団関係の店にイベント出演していたことで事情聴取される際、智子の頼みで兄が助言を与えたり、智子のヘルプ先の老夫婦が往年の人気女優と駆け落ちしたカメラマンだったり…と、智子世界絡みのエピは、杏子さんの活躍浮き沈みに比べれば概して地味で退屈なくらいだったたけれど、この世界が描出されたおかげで、杏子とライバルの神崎かすみ以外ドラマ主役級の女優いないみたいな昼ドラサイズの芸能界でも、それなりのリアリティを持ち得た。現実味のあるフィクションのためには、冴えないエピも退屈も、中だるみも必要なのです。

今作『エゴイスト』は、出てくる人物が全員芸能人か、芸能界関係者・経験者。ひとりでも智子兄妹のような“過去も未来も芸能界と関わったことも、関わるつもりもない”人物を配し、生息させ、主要人物に接触させ、“一般人が垣間見た芸能界・芸能人”という視点を入れると、物語世界の奥行きがずいぶん違ったはず。840話ではそういう世界構築が無理だった。

しかし非ばかりではなく、是ももちろんあります。裏方役・Zプロの善場社長(藤堂新二さん)、Zプロ所属の社員マネージャーで、玲子担当から袂を分かって明里につく近松寿美子マネ(蘭香レアさん)がともに、世話する女優たちに忠実で、世間知をわきまえた常識人であり、ときに苦言を呈したり泣きを入れたりしながらも、テメエひとりの欲のために寝返ったり裏切ったりはしない“アンチエゴイスト”で一貫していたことが、物語をどれだけ観やすくしたかわからない。

この2人がこれだけ魅力のあるキャラになったのは、藤堂さん蘭香さんの演技力の貢献も大でしょう。善場社長は玲子の独立話でいったんは事務所をたたむ気だったのですが、たぶん近松の尽力でオフィスZ&Cとして社長に残留。最終話、近松が電話で「社長お久しぶりです!…えッ結婚するんですか!」との台詞があったのは、ここまで人物として血肉を持ち得た社長を、消息不明でフェードアウトさせるわけにはいかなくなったのでしょう。フィクションの人物というのは、こんなふうに予想外の膨らみを持つことがあるものです。

過去の罪と挫折に悶々として、暗くくたびれていた主婦から、いろいろあってすっかり働く女性の顔になって、マネージャーとして居場所を見つけた綾女(山本みどりさん)がクチパクで「だ・れ・と?」と近松に訊いたところでカット。惜しい。知りたい。たぶん脚本家さんも、書き進むうち、「この社長、きっと視聴者に愛されるはず」との手応えがあったのではないでしょうか。

 今日放送された最終話、出生にかかわる積年の疑問と謝罪を、自伝ドラマのアドリブ台詞でとり交わし、OK出ても「台詞の切り返しが弱い」「あそこは言葉より、一粒の涙のほうが視聴者の胸を打つ」とダメ出しし合う女優母娘…という可笑し皮肉さはなかなかよかったと思います。「あなたはなるわ、女優に」と明里に断言した玲子の目は、産みの実母ゆえか大女優の職業的勘か、結局慧眼だったことになりました。

 終盤になって全員なぜか“いい人”化、さんざんやりあってきた恩讐をあっさり越えちゃう、というのはよくあるパターンですが、今作は、最終回前までに、“恩讐・愛憎、越えてもおかしくない”きっかけが、まあまあちゃんと描かれていたほうでしょう。

 挙げたコブシの下ろしどころ、下ろしどきがわからない女性軍に代わって、香里実父でもあった世界の朝倉が、「他人を妬んだり恨んだり、陥れようとしたりせず、まず自分を磨き、自分を輝かせることだ」と、“エゴイスト”の対極の人生訓を垂れてかっこよく逝きました。森次さん、『仮面ライダー剣(ブレイド)』でも、終盤彗星のように登場して、みるみる役柄的重要度を増し、美味しいところを掻っさらって逝った記憶が。こういうポジションの俳優さんになっていたのだなぁ。

 劇団をたたんで明里の座付き脚本家になった榊(西森英行さん)もディレクターデビューしてるし、もういっそ俊介坊ちゃま命の、郷田家家政婦松子さん(川口節子さん)も、家政婦紹介所の所長ぐらいになってそうな勢い。あの女性軍なら、今度は明里と俊介の愛娘・愛ちゃんの奪い合いを始めそうな気もしますが、それはまた別の話、ということなんでしょうね。 

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