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天気の子 【感想】

2019-07-21 12:51:34 | 映画


二度目の奇跡を描こうとする新海監督のチャレンジ。世界中の期待を背負うプレッシャーを、驚愕のアニメーションで跳ね返す。ホンの一瞬のシーンですら、どこまでも緻密に描きこまれ、アニメのフィルターを通してみる世界はひたすら美しい。ジブリの後継に相応しい風格を湛えながら、”時間”をを描いた前作から、今回は”天気”というテーマに強い独創性を感じる。まさに”世界を一変させる”スケールで繰り広げられる小さな男女のロマンスに、新海監督の作家性を再認識する。奇しくも、梅雨の長雨が続く現実世界とシンクロする状況と、多くのアニメーターの命が奪われた残忍な事件が起きた直後の公開。特別な想いをもって鑑賞した。

2016年に(ほぼ)無名のアニメ監督が起こした歴史的快挙。前作を観たとき、まだ口コミが出回っていない段階だったが、広い劇場は満席で、エンドロール中も立ち上がる人はおらず、その周りの熱気から大ヒットを予感した。その後、世界でも公開され、ジブリしか知らなかったであろう、映画ファンの間にも「SHINKAI」ブランドは浸透。その次作となる本作だ。映画業界、映画ファンの期待が高まるのは必至。自身が描きたいことの実現と、興行的成功の両立は、ほんの一握りの映画監督にしか成しえない偉業だ。そして、監督は本作でも間違いなく実現させてしまうだろう。

映画館で映画を見る人たちの最大公約数のモチベーションは、夢を見て、美しいものに魅了されることだと思う。いかに嫌みなく、感動を湧き立たせることができるか。その点で本作は特筆した出来栄えになっている。

予告編を見て思ったのは、「君の名は。」とアプローチが同じということ。誰がみても好感度が高く、癖のないキャラクターデザイン(これってかなり重要)。美しい映像。ファンタジーを軸に展開する若いロマンス。感情に突き動かされ、涙ながらに動く主人公。エモーションをさらなる高みに昇華させる歌曲の使い方。。。
で、実際、本編を見ても、そのままだった。

「天気」というテーマを中心に配置する、そこから、監督が描きたい”絵”を実現させるために、脚本をあとから肉付けする。本当は全く違うプロセスを経て脚本が描かれたと思うのだけど、本作を見て自分はそう感じた。時々感じる展開の違和感や、ツッコミどころが多いのは、そのせいだろう。苦笑するシーンも多いけど、イチイチ引っかかっては映画は楽しめない。

特別な能力をもった少女(「天気の子」)が背負いし運命が、クライマックスの鍵となる。その展開はとてもシンプルで捻りもなく予想通りに進む。ここは前作との大きな違いかもしれない。その少女に対して責任を感じて、涙ながらに駆け出す主人公には全く共感できないけれど、とりあえず「感動」へと続く絵を見せるために必要な過程なのだと静観する。

MVと揶揄されても、美しいものは美しい。キャラクターの言動がよくわからなくても、映像と歌曲の融合があまりにもキマっていて見入ってしまう。ここに、成功パターンを掴んだ新海ワールドの醍醐味がありそうだ。前作にように、劇場でススリなく声は聞こえなかったけど、多くの観客のハートを鷲掴みにしたことだろう。

クライマックスだけでなく、全編に渡って緻密な風景描写が激しく印象に残る。監督の世界を実現させるために、大変な労力と情熱を注いだ制作スタッフたちに思いを馳せる。その全てが美しいように描かれている。水滴の一滴一滴に虹色がかかっていたり、曇天に光が差したときの透明感だったりと、汚いものは見せず、観客の目を楽しませることに徹している。これでヒットしないのはおかしい。

劇中感じる既視感は、日本のアニメーションの歴史が豊かな証拠。ジブリ映画や細田映画に似ているシーンやキャラクターが沢山でてくる。無意識にカブってしまった結果か。気になるのは、キャラクターの配置や、主人公の取り巻く環境について「こうしておけば間違いない」既成のものが多く使われていること。主人公に冷たい都会、童貞丸出しの主人公、ウインクが似合う女の子、主人公をサポートする兄貴、小生意気で憎めない男子、不寛容な大人たち。。。ありがち過ぎて稚拙に見える。

俯瞰すると、地球規模で甚大な被害が出てくるのに、呑気に2人のロマンスで片づけてんなよ、とノレない部分も多々あるが、良くも悪くも新海監督の作家性が貫かれた結果と思える。

それにしても、映画の内容とは関係なく「富める者は富める」の資本主義の原理を強く感じる。プロモーションと劇中での他企業とのタイアップがえげつない(笑)。これほど確実にヒットが見込めるコンテンツも希少だ、そりゃ群がるって。東宝を株を買っておけばよかったと今回も後悔。シンプルに映画単体を楽しみたい映画ファンとしては雑音になるシーンもある。本作も前作並みにヒットするだろう。もはや、背負うものが自身の想定を超えて肥大してしまった新海監督。その状況下で次はどんな映画を生み出すのだろう。また、同じ方程式の映画で、置きにいったらつまらないな。

【65点】

君の名は。 【感想】

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