情報社会の"今"を切り取ったサスペンススリラーの秀作。個人のあらゆる情報はオンライン上に集約され、世界中に共有される時代。起こり得る可能性と危険性が網羅され、物語の展開に機能して見事。観客を翻弄する脚本は、スリリングで隙がなく最後の最後まで引き込まれる。普遍的な家族のドラマがベースにあり、娘を想う主人公の心情に強く共感。交錯する2つの父性と母性が本作の隠れた旨味。素晴らしく面白かった。
16歳になる娘の謎の失踪を、父親がネットを駆使して追いかける話。
一部のシーンを除き、ほぼ全編、PCの画面上で展開される。斬新さを狙ったというより、すべての生活がオンラインで完結してしまう現代性を表しているように思えた。画面上の限られた空間で描かれるドラマにも関わらず、見ていて不自由さを感じさせない演出に驚かされる。冒頭に訪れる家族の悲劇をアプリの記録を介して描き、早々に涙腺を刺激する。
主人公はアジア系アメリカ人の中年男子で、1人娘と2人暮らし。仲の良い親子だ。どんな家族にも秘密はあるもので、本作の親子にも該当し、失踪事件をきっかけに父親は娘の知られざる一面を知ることになる。こうした光景は今に始まった話ではない。ただ、今と昔の違いは、様々なアプリによって真実を隠し、溜め込むことが容易になっているということ。
SNSというのはつくづく厄介なものと思う。共有と承認欲求は、もう1人の別人格を作らせる。ときに、その別人格が本性だったりする場合も。顔の見えない大衆は好き勝手に振る舞い、他人を持ち上げ、他人を攻撃する。バズの波にのって、偽りの自分を演じ、ひとときの愉悦に浸る人間の愚かさが痛い。
一方、ありとあらゆる情報のデータベースであるネットやアプリは、難航する主人公の捜索に関門突破の鍵を与える。情報漏洩は日常生活における大きな脅威だが、非常事態時には恩恵に化けたりする。元をたどれば、あのアプリがすべての始まりだったけど。情報社会は現代人の味方か敵か、突きつける視点が鋭い。
事件の解明につながる様々な情報が提示される。その度に予想が浮上し、確信に迫ったと思えば、すり抜けていく。深まる謎。ミステリーを堪能する一方、オチでコケるパターンを心配する。ところが、本作においては見事な着地。全く想像し得なかったが、主人公の父性と重なり、必然性をもって受け止められた。ネット社会で生きる人間たちだが、根っこは今も昔も変わらない。
【75点】
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