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実在した興行師、P・T・バーナムの設定を借りたゴージャスでライトなミュージカル。キャスト陣の芸達者ぶりと、眼福感たっぷりのミュージカルシーンに見入る。一方、映画は「実話」モノではなく、万人ウケを狙ったファンタジーだ。嫌悪感を排除し、綺麗に気持ちよく魅せることに終始する。ユニークな体型をもった人たちも、多様性の言葉だけでくくり「団結」「家族」といった話にまとめる。彼らを演じるのは、仮装した一流のシンガーやダンサーたちだ。加速の一途を辿る美化に途中からついていけなくなる。レベッカ・ファーガソンの堂々たる吹き替え歌唱パファーマンスなど、偽物が透けるシーンには高揚しない。ザック・エフロンの久々のミュージカルが見られたのは良かった。
「フリークス」という映画がある。見たことはないが、今から80年近く前に製作された映画で、身体的な奇形や障害をもって生まれてきた人たちが多く出演している。人権上の問題から公開禁止となっている映画らしい。その映画の存在を知って、調べていくうちに当たったのが、本作の主人公のモデルとなっているP・T・バーナムだ。
日本のマーケットはミュージカルと相性がいい。「レ・ミゼラブル」「アナ雪」、そして、去年の興行収入1位となった「美女と野獣」。配給会社が鼻息が荒くなるのも当然で、異例ともいえる大量のプロモーションをメディアに投下していた。ずいぶんと前から劇場での予告編も流れていたし。「ラ・ラ・ランドの製作陣が贈る!」と声高に言うが、作曲家が同じというだけで全く関係ないし、映画のレベルも比較できるものではない。
予告編で流れているとおり、本作は良くも悪くも夢物語だ。P・T・バーナムがサーカスの興業で成功を収めた背景にあるのは、身体的に奇形のある人たちを起用したことだ。ストレートな言い方をすると「見世物」であり、笑われ、怖がられてもお金をもらえればよい。その人たちの当時の写真をみると、昨今何かと叫ばれる「多様性」なんて言葉では括れないほどのインパクトを受ける。今よりももっと不寛容だった時代のこと、表舞台に立つことの怖さは計り知れなったと思う。
自分が思うよりも彼らは逞しかったかもしれないし、バーナムや観客からも敬意や親しみをもって接せられていたもかもしれない。働き口のない彼らにとっては救われる仕事だったのかもしれない。。。それにしても本作には違和感を覚える。リクルートしてすぐに採用され、舞台に登場すると最初は観客が戸惑うも、すぐに喝采を浴びる。心ない観客から「フリークス!」と排斥の暴力を浴びるが、屈せず、バーナム「家族」として一致団結する。。。美談。
娯楽ミュージカルに仕立てる以上、醜いものを捨てなければならないのはわかる。バーナムを8頭身イケメンのヒュー・ジャックマンが演じる。「バーナム効果」という言葉にあるとおり「騙し屋」として側面は削がれ、誠実な善人としてしか描かないのも仕方ないか。サーカスのメンバーは、身体のハンデをモノともせず華麗に踊り、歌う。美しい絵を描くためには、「ネバー♪ネバー♪」と歌声を別人のものに入れ替えてもOKとする。P・T・バーナムはもはや関係ない。その時代に実在した負の価値観が無視されて勿体なさを感じる。
ヒュー・ジャックマンはやはり本作のような歌って踊るミュージカルが良く似合う。長い手足から繰り出されるキレのあるダンスと抜群の歌唱力。まさにブロードウェイ仕込み。久々のミュージカル出演となったザック・エフロンとの競演シーンが最大の見所だった。酒場の空間を活かし踊り、あらゆる小道具で音楽を奏で、2人が気持ちよく歌い上げる。ヒュー・ジャックマンにはもう1回、アカデミー賞のホストを務めてもらって華麗なパフォーマンスを披露してほしい。伝説の歌手を演じたレベッカ・ファーガソンは見事な口パク演技を披露(彼女は悪くない)。彼女のなんちゃって熱唱シーンを見るにつけ、痩せて筋張った首回りがずっと気になる。ローグネーションで初めて見たときは、もっと肉感的でカッコよかったのに。
ミュージカルは一流だが、ドラマに共感することはない。良さげな音楽で、映画自体が素晴らしいと思えてしまう可能性あり。これもある種のバーナム効果か。
【60点】