から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

犬猿 【感想】

2018-02-24 13:58:50 | 映画


予想以上。素晴らしい。兄弟ゲンカで思いつく展開を余裕で超えてきた。主な登場人物はたったの4人だけで、これほどの脚本をオリジナルで描いた吉田監督に拍手。一番身近な家族のなかで微妙に力関係が異なる「兄弟」の特異性を掘り下げ、エモーショナルで共感性の高いドラマに仕立てる。笑いとシリアス、緊張と緩和の波が途切れない。描かれる兄弟の愛憎劇から浮上するのは、血と時間で繋がれた宿命みたいなもの。本作の場合、対極にある個性を兄弟に配したことで持たざる者の人生の悲哀にまで言及する。正直、全く期待していなかったキャスティングだったが、4人がそれぞれの持ち味を見事に発揮。役者を活かすも殺すも監督次第であることがよくわかる。クライマックスにはまんまと泣かされてしまった。

外見も内面も全く異なる、2組の兄弟と姉妹の間で起きる騒動を描く。

最初から面白い。
映画の本編が始まったと思いきや、引き続き、新作映画の予告編が流れている。それも昨今アリがちな少女漫画系の恋愛映画である。登場するキャストは無名だが、あまりの完成度の高さに新作映画の予告編とすっかり信じ込む。その後、映画を見た観客の絶賛リアクションが流れる。ここで筧美和子が登場し、本編のワンシーンであることに気づかされる。一般の鑑賞客に扮した彼女は興奮気味にカメラの前でこう発する。「共感、共感、共感の嵐です!!」(って普通言わないからw)。昨今の映画の流行りを完全にイジっている。感動する観客の反応を予告編で流す映画って、面白かった試しはない。冒頭から一泡吹かされる。オープニングで観客を驚かせる仕掛けは前作の「ヒメアノ〜ル」に通じる。

2組の兄弟姉妹は仕事上で付き合いがある。中堅企業と思われる印刷(あるいは広告代理店)に勤める兄弟の弟が主人公。彼が何かと頼りにする下請けの小さな印刷会社があって、その会社を切り盛りするのが姉妹の姉だ。下請会社の事務員として手伝っているのが、冒頭の予告編で顔を出した姉妹の妹。弟はクライアントから無理を押し付けられ、それを姉妹の下請会社側の努力でカバーしてもらう。本作でよく見る発注側と下請会社の構図は、自身にも身に覚えがあって何とも生々しかった。「~さんにはいつもお世話になっているから」と引き受けてくれる下請会社には、仕事を切られることへの危機感があるのだが、本作の場合、その間に個人的な色恋が挟まれる。

仕事もヒト対ヒトの関係だ。下請会社の姉は、弟に恋をしている。恋する人に少しでも気に入られたいと思い、弟からの仕事に普段以上のエネルギーで取り組む。但しその恋が成就することは難しい。弟はイケメンだが、恋する姉は5頭身くらいのドラム缶体型で、顔立ちも不細工。傍から見て明らかに釣り合わないし、弟が彼女を好きになるとは思えない。姉の不幸はもう1つある。同じ職場で働く妹の存在だ。同じ血を引いているとは思えないほど、スタイル抜群で可愛い顔立ちであり、出会う男たちはみんな彼女を気に留める。既に顔なじみの関係だが、妹が弟にアプローチをすれば簡単に落ちる可能性大だ。

弟にも姉妹と同様に、似ても似つかない兄がいる。地味で真面目な弟に対して、暴力的でワルとして地元で恐れられる存在だ。そんな兄が強盗で捕まり、出所して戻ってきたことから物語が大きく動き出す。弟は兄を「お兄ちゃん」と呼ぶ。おそらく子どもの頃からの関係性が変わっていないと思われる。弟は兄へは親しみよりも、厄介者として距離を置きたいようだ。何かとトラブルを持ち込み、口答えすれば暴力で封じ込めるパターンがいつまでも変わらない。一見、不協和な兄弟関係と思われたが、そうでもなくて、兄は弟を大切な存在として想っているし、弟も奥底で兄に依存している部分がある。兄が弟に絡んだチンピラに報復で出た場面で「白々しい。俺に言えばどうなるか、わかってただろ?」と言い放つ。吉田監督の隙のない視線にゾクっとする。

2組の兄弟姉妹は個性が異なるだけでなく、互いが持っていないものを持っている。地道に仕事に励む弟、その働きぶりを馬鹿にして大きなビジネスにかける兄。結果、薄い昇給に甘んじる弟と、成功する兄。目立たぬように平穏に生きる弟と、地元で顔が知れ渡り多くの敵を作っている兄。仕事が抜群にできる姉と、何をやってもできない妹。容姿に恵まれず男たちにスルーされる姉と、男にモテて夢を追うことができる妹。仲の良い兄弟として素直に相手を支持することはできず、双方が羨み、嫉妬する。その嫉妬がついに攻撃に変わる。「同じ兄弟なのに」という焦燥感が事態をさらに悪化させるように見える。本作ではとりわけ、姉妹側の戦いが鮮烈だ。ヤラれたらヤリ返すのマウントの取り合いがスリリング。

姉妹を演じた、ニッチェ江上と筧美和子のキャスティングの妙が光る。江上はブサイクでダサくて何をやってもキマらない姉をナチュラルに演じる。遊園地での悪意たっぷりな「ブヒブヒ」や、恋に浮かれたヘンテコダンスなどのユーモア描写が最高にキマっている。そうしたコミカルな一面だけでなく、恋に破れ、妹への嫉妬に狂い、自身の人生を呪う姿が切なく残酷にも映る。妹役の筧美和子はまるでセルフパロディのようだ。男を虜にするグラマラスボディに「胸だけの女」とイジられがちなタレントだ。演じる妹は芸能界で目が出ず、枕営業を欠かさず、グラビアから着エロというルートを辿っていく。本来の筧美和子をそんなことはないと思うが、彼女への偏見みたいなものが、役柄に説得力をもたせているのは確かだ。

兄弟の兄を演じた新井浩文は予想通りの巧さだったが、本作の主人公である窪田正孝は「こんな芝居ができる人だったんだ」と僭越ながら本作で見直した。パッと見、スタイルも良くて普通にイケメンなんだけれど、泳ぎ気味な視線からは小市民感が滲む。彼が仕事で奔走する様子は、どこにでもいるサラリーマンそのものだ。クライマックスでは難しい感情の変化をとらえ、エモーションが爆発する兄への秘められた告白シーンに胸を掴まされてしまった。この間、DVDで見たばかりの「東京喰種」ではただ叫ぶばかりだったのだが、演出をする人が変わるとこんなに輝く逸材だったのだなと感心した。

自分にも兄弟がいて、本作をみると今の関係をつい振り返ってしまう。兄弟は物心ついた頃から知っていて、昔は普通に仲が良かったはず。それが大人になるにつれ、多くのモノが身につき、多くのモノが失われていくなかで、変わらずにいられなくなったりする。ただ、本作は兄弟を悲観的に描いている映画ではなく、兄弟の絆を描いた映画といえ、兄弟がいる人もそうだが、いない人にとっても刺さる人間ドラマだと感じた。

「グレイテスト・ショーマン」を見終わった直後に立て続けに見たが、期待ハズレによる消化不良を一気に本作が解消した。吉田恵輔監督映画のなかでも最も好きな映画となった。

【75点】
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