から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

プリデスティネーション 【感想】

2015-03-18 02:10:31 | 映画


劇場の空気が一変したのがわかった。退屈で淀み切った空気が、中盤からスクリーンの中に吸い込まれていくような感じだ。
2010年の「デイブレイカー」ですっかりハマったスピエリッグ兄弟の新作。その期待を裏切らない面白さだった。

過去と未来を行き来することだできる時空警察の男が、その時代で多くの命を奪う連続爆弾犯を追い詰めていくという話だ。予告編で見た、「バンバン」と早いテンポで姿を消し、未来、過去を自由に行き来する登場キャラのアクションから、スピード感をもった展開を勝手に想像していた。しかし、序盤を過ぎたあたりから、流れが一気にスローダウンする。過去の時代にタイムスリップした主人公が捜査のために、バーテンになりすますのだが、そこで知り合った客と酒を片手にグダグダと話を始める。その話は、話し合い相手である客の身の上話だ。「捜査に無関係ではない」と信じながらも、まったくゴールの見えない長時間に及ぶ思い出話に、観ているこっちの集中力が切れてくる。「こんなルーズな映画を見に来たわけじゃない」と自分を含め、周りの人たちが思ったはずだ。劇場ではスマホをいじり出す人たちもチラホラ出てくる始末。そんな退屈な空気が、バーテンに扮した捜査官の意外な一言から急展開する。その一言に端を発した行動も、捜査とどう繋がっていくのか全く見えないのだが、先の読めないその展開がいつしかスリルに転化し、観る者を引きつけていく。

「すべての任務は終点への道標」という劇中セリフが示すとおりだ。バラバラに散りばめられ、無関係と思われたイベントが、時空を超えてことごとく意外なところで繋がりを見せ始める。そして、最後のラストの1カットにそれらが見事に集約されてしまう。まさに圧巻。見届けた瞬間、思わず絶句した。劇場全体に「ハッ」と息を飲み込んだ音が一瞬聞こえた気がした。タネ明かしの見せ方だけではない。おそらく、序盤のルーズな展開による観客のリアクションは織り込み済みであり、結末まで観客たちを支配するために必要なタームであったと判断したのだと思う。しかし、それは同時に勇気がいることでもあり、序盤の展開で完全に気持ちが離れてしまう観客を生み出すリスクも伴う。実際にエンディング早々に余韻に浸ることなく、席を立つ人も多かった。自分は完全にハマった口だけど。

また、前作の「デイブレイカー」同様、浮き世放れしたSFの世界であるにも関わらず、ドラマを十分に感じさせてくれる。今回はかなりの変化球で、結末を迎えないと主人公の生き様を実感することができない。それを踏まえ、振り返ってみると無駄に思えたバーテンでのグダグダな会話劇も、もう一度見返したら味わい深いシーンだったのかもしれない。少なくとも一度目と二度目では、作品の色はまるで違ったものに映るだろう。DVDで見返すのが楽しみになってきた。

主人公演じるのはイーサン・ホーク。すっかり皺が目立つおじさんになったけれども、「ガタカ」といい「デイブレイカー」といい、SFとすこぶる相性が良いのは何でだろう?1つ言えるのは端正な顔立ちと、いつまでも変わらぬ体型の賜物かもしれない。

主要キャラは他2名という、かなりの小品ながら、そのスケールの窮屈さをまるで感じさせない映画だ。スピエリッグ兄弟、引き続き要チェックである。

【70点】