から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

シェフ 三ツ星フードトラック始めました 【感想】

2015-03-08 08:00:00 | 映画


主人公のシェフは誰からも慕われている。職場の部下、関係をもった同僚、別れた妻、1人息子。それは彼が作るすべての料理が人を魅了し、彼自身もその料理が人を幸せにすると実直に信じているからだ。この映画は反則である。美味しい料理を目の前にしては降参するしかないのだ。

「フォックスキャッチャー」に続いて、今年の私的ホームラン2号はこの映画だ。
「大好き!」と声を張って言いたくなるほど好きだ。
監督ジョン・ファブローの良心と情熱にあっぱれ。

オーナーと料理の方向性で喧嘩をしてレストランをクビなった男(カール)が、心機一転、フードトラックを始め、アメリカを横断するという話だ。料理人は表現者である。自分の 持てる思想と技量を駆使して、食材を調理し、一皿の上に料理という形で表現する。芸術家と呼ばれる人たちと違う点は、食べる人を選ばず、感動を与えるという使命を帯びているところか。本作の主人公もそうだ。オーナーとの喧嘩の火種となった「新しい料理を提供したい」という想いは、自身への評価もあっただろうが、結局のところ、食べる人に新しい感動を与えたいという信念に基づくものだ。但し、本作はその彼の信念を無条件に肯定はしない。「定番料理」もまた人に感動を与えるものだとする。カールが1人息子を市場の買い出しに連れていくシーン、ジャンクなお菓子(ポップコーン?)を食べたいとねだる子どもに対して「あんな添加物てんこ盛りな食べ物よりフルーツを食べろ」と言いながらも 、次のシーンでは、間髪入れずにカールも美味しそうにそのお菓子を頬張っているではないか(笑)。そう、美味しい食べ物には理屈なんてなく、「美味しいものは美味しい!」それだけなのだ。

広く開かれた食への扉。差別なき食への愛。そこに出現する美味なる料理の数々。そのシズル感がハンパない。「カシューーーっ」と、鉄板でカリカリに焼いたホットサンドの心地よい歯触りに、パンの香ばしさが香る。そして、パンに挟まれ溢れ出したチーズが「ビヨーン」と伸びるのを見て、濃厚なチーズの味わいが口の中に広がる。こっちの涎があふれ出す。本作はこうした料理たちの映像描写に留まらず、それを食らった登場キャラたちのリアクションが実に素晴らしく、それらの料理たちを 歓迎する。日本のテレビ番組の食レポには味の感想コメントが必須になっているが、あれはあくまで情報を伝えるという役目ありき。本作では美味しいものを食べた時の、真の人間のリアクションを堪能できる。料理を口に含んだ瞬間、思わず目を閉じ、その喜びに浸る、そして発せずに入られない一言が口からこぼれてしまう。「あぁ、超ウマ」と。あれは演技か、マジで旨い料理が出されたのか、自分は後者を信じたい。

食をテーマにした映画は数多くあれど、本作の特異な点はそこに時代性を強く取り入れたことか。カールは息子の手ほどきもあって、twitterを使うようになる。SNSは個人と多くの人を簡易に結びつけることができるツールだ。その危険性と有用性の両面を取り入れ、物語 の脚本に巧く活かしている。フードトラックによる快進撃とともに、食べた人の評判が拡散する様子を、twitterのアイコンである青い小鳥が一斉に羽ばたく描写で表す。とてもユニークで爽快だ。
また、本作は主人公カールと息子の親子愛を描いたドラマでもある。というか、これが一番大きなテーマかもしれない。普段、別れた元妻と一緒に暮らす息子が、夏休み(?)の期間、父であるカールとフードトラックに乗って、たくさんの人に料理を提供しながら、アメリカを横断する。カメラはその親子の関係を主人公のカールの視点だけではなく、息子の視点からも映し出す。その様子を俯瞰してみると、こんなサブストーリーが頭に浮かんだ。この映画の主人公は実は息子の方で、この旅は大人になった息 子の回想録であり、彼が父と同様に一流シェフにまで成長する、その原点になった思い出だった。。。みたいな。父からの教え、父からの愛によって、息子はシェフを目指した、そんなクダリを思い浮かべるほど、親子の関係が丁寧に描きこまれている。おかげで、クライマックスで用意される「プレゼント」に、いろんな想いがこみ上げてしまった。

監督のジョン・ファブローは本作で製作、監督、脚本、主演の4役を担う。「アイアンマン」をはじめ、大作映画のイメージが強いが、彼が選んだのは誰にも口出しをされないインディーズ系映画(本作)。自分の好きな脚本、演出、キャスティングがそのまま実現するギリギリの予算で製作されたとのこと。低予算ながらキャスト陣は豪華で、 その多くが友情出演によるものだと思う。ジョン・ファブローの人徳があってのこと。スカーレット・ヨハンソン(肩の★のタトゥーがセクシー!)とソフィア・ベルガラという夢のようなセクシー美女に囲まれながらも、無駄なラブシーンを一切排除し、女性の包容力を強く押し出すあたりとかも彼の人間性がみてとれる。カールの部下を演じたジョン・レグイザモのリズムとテンポも最高。アドリブも許容し、気のおけない仲間たちとワイワイ楽しく作った、そんな現場の明るい雰囲気が伝わってくる。

ジョン・ファブローの本作に懸けた想い。それは、劇中で彼自身が演じた主人公の「フードトラックで勝負する」という選択にそのまま重なる。そんな映画人としての情熱が、本作の完成度 に結実した。その達成に拍手を贈りたい。

【85点】

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